『スカーレット。何をしておる』
通信回線に老人の声が割り込む。
『……トラブルが。少し時間が掛かります』
『フン……貴様、何度ワシに言い訳するつもりだ。もう良い、戦力をそちらに送る。それに乗じてさっさと離脱せんか』
『戦力……?ゲンブレム以外にですか?』
『じき着くじゃろう。急げよ』
一方的に通信は切られる。
元々、スカーレットはあの老人に従うつもりは毛頭無かったか。
だが、頭に取り付けられてしまった洗脳装置によって無理矢理従わされている。
意識はハッキリしているのに手足と思考は老人に従ってしまう。
屈辱だ。
今までゲヘナで用心棒を生業にしていた自分達が、ただのチンピラに成り下がるなどと。
だが、助けは無い。
ここはそういう場所だ。
力なき者に、明日は無い。
それが、自分達に回ってきただけ。
ゲヘナに現れたあの青いロボット。
奴が……賊に成り下がった自分達を終わらせてくれる。
「万魔殿まで出ばってくるとは……穏やかじゃないな」
「ええ、そうですね」
だが、口は、手は意識とは違う行動を取る。
老人の言った通り時間を稼ぐ。
増援の到着を持つために。
――――――――――
『クーックック……久しぶりだな、エックス!』
白い多脚戦車から響くのは、しわがれた老人の声。
「Dr.バイル!」
『またワシの邪魔をするか!忌々しい奴め!』
「生徒を攫うとは、何が狙いだ!」
『なんじゃ、そこまで把握していたのか……フン!貴様には関係あるまい!』
「そうだ!貴様も!俺にも関係ない!ここは彼女たちの世界だ!」
エックスは躊躇わず多脚戦車へバスターを放つ。
しかし、それは戦車の装甲に弾かれてしまった。
「くっ……!」
『無駄だ!このケテルの装甲は貴様の攻撃に調整してある!』
「またか……!」
多脚戦車……ケテルが、頭部と思わしき部位の両側に備え付けられたガトリングを掃射してくる。
『エックスさん!万魔殿と風紀委員会がスカーレットアラートと交戦しました!』
ヒマリからの連絡が来る。
最悪の事態だ。
いや、ゲンブレムを失った今スカーレットを捕縛すればまだ事態は解決できるはず。
後は……こいつ、ケテルを片付ければ。
「お前を倒せば、終わるんだ……!」
エックスは再びゼットセイバーを振り抜く。
『なっ……!その剣!?何故貴様がそれを持っている!?』
「うおおおおお!!」
如何にバスターが通じなくとも。
親友の剣の前に敵はない。
『エックスさん!解析結果が出ました!多脚戦車ケテルは上下部の接合部が交換を前提の作りになっています!』
『つまり、そこは脆いってことだ!やっちまえ!』
ガトリングが火を吹き、ケテルの後部からミサイルが発射される。
エックスは全てを避け、切り払う。
……しかし、
「ぐ、あっ……!?」
背中に一撃が入る。
どこから……!?
エックスは吹き飛び、ケテルから離れた瓦礫の山に突っ込んだ。
『エックスさん!?』
『あっ、部長。スカーレット』
『なんですって!?』
「へっ……あの野郎やられたか……」
ケテルの攻撃がエックスの封鎖した通路を吹き飛ばしスカーレットアラートと合流されてしまった。
「やってくれたなエックス!てめえのせいでこっちは部下が全滅だ!」
「後はお前だけだ!大人しく投降しろ!」
「何を見てそれを言ってやがる!」
ケテルがまたミサイルを放つ。
目標はエックスでなく……。
「しまった!イブキ!イロハ!」
「えっ……わっ……!?」
エックスの声に気付く前にイブキが短い悲鳴を上げる。
風紀委員会や万魔殿の生徒たちは散り散りに退避するが、虎丸が離脱する時間はない。
「間に合えっ……!」
エックスはマッハダッシュで翔ける。
一瞬でミサイルの雨を追い抜き虎丸の前に出る。
「おにーさん!?」
「反撃、頼んだ!」
『座標を送信します。煙が晴れる前に射撃を』
エックスとヒマリからの指示にイロハが頷く。
「ボルトトルネード!!」
エックスの周囲に竜巻が巻き起こる。
この量のミサイルを受け止めてもダメージは逃しきれない。
ならば、逸らせば良い。
元々対ゲンブレム用に使おうと思っていた特殊武器だったが、思わぬ所で使い道が出てきた。
竜巻が前進し、ミサイルを飲み込み明後日の方へ放り投げ爆破。
全て誘爆しあたり一面が爆炎に飲まれた。
『今です!』
「発射ーっ!」
「発射用意。撃て」
イロハの号令で、虎丸が火を吹く。
轟音と共に舞い上がった煙を切り裂き砲弾が目標へ向けて飛ぶ。
「何っ……!?」
スカーレットが慌ててその場を離脱し、ケテルの胴体に命中する。
「やった!」
「行くぞっ……!」
エックスはすぐさまケテルへ肉薄。
ゼットセイバーを接合部めがけて振る。
「させるかよ!」
「くっ、スカーレット……!」
その刃を、スカーレットが手にしていた鎌型のセイバーで阻んだ。
空中で切り合いの体勢になった後、弾かれるようにお互い反対側へ着地する。
奇しくも、お互いが背に戦車を配置する立ち位置で向き合う。
「第2ラウンドだ、イレギュラーハンター!」
「スカーレット……!」
ふと、違和感を感じる。
スカーレットの表情は敵意を顕にしている。
だが、先ほどと言い……彼の攻撃のテンポが数瞬ズレている様な気がするのだ。
(なんだ……?)
違和感を拭えないまま、エックスはスカーレットに向けて走る。
「てめぇは、何がしたいんだ!」
スカーレットの振り下ろす大鎌をゼットセイバーでいなす。
こちらが斬りつけようとする様を見せればすぐに一歩引く。
銃社会であるキヴォトスでこれほどまでに剣での戦いに精通しているのは驚嘆を禁じ得ない。
そして、ケテルも黙って立っている訳では無い。
エックス目掛けて攻撃を仕掛けてくるが、虎丸に妨害している。
エックスとスカーレットの頭上を砲弾やミサイルが飛び交っていた。
「虎丸に続けー!!」
「風紀委員会も行くぞ!」
「あのデカブツをお願いします!」
わらわらと風紀委員会と万魔殿の生徒たちが戦闘に参加してくる。
その様を、エックスは頼もしいと感じていた。
「ヒマリ!キミは生徒たちのオペレートを頼む!」
『分かりました。エイミ、通信をゲヘナ風紀委員会と万魔殿へ繋いでください』
『風紀委員会へは繋がらないけど』
『イロハさん?申し訳ありません。指示を貴女に伝えますので、それを皆さんと共有してください』
『了解しました』
『おにーさん、頑張って!』
「ああ!」
イブキの声援を背に受け、エックスはスカーレットへ肉薄する。
『エックス、殺すなよ?やつは洗脳装置で操られている……それを破壊すれば良いんだ』
「分かってる!」
「戦ってる最中にお喋りとは、余裕だな!」
「スカーレット!お前は、何がしたい!」
「破壊さ!風紀委員も、万魔殿もどうだって良い!ただぶっ壊したいんだよ!」
「なんだと!?」
「
「Dr.バイルに屈し支配下に置かれた男が言うことか!!」
エックスの斬撃がスカーレットの鎌を弾き飛ばす。
チャンスとばかりに距離を詰めようとした瞬間、ミサイルが両者の間に着弾する。
「くっ……!」
攻めきれない。
スカーレットを破壊出来ないため、攻撃に転じきれない。
エックスの躊躇いを嘲笑うかのごとくケテルが妨害をしてくる。
(何か……何かチャンスは……!)
八方塞がりだ。
ケテルと相対する生徒たちも無制限ではないしヘタしたら死傷者がでるかも知れない。
エックスが時間をかければかけるほど、彼女達を危険に晒してしまう。
(方法は……!)
「スカーレット!」
「えっ……!?」
突如鳴り響く銃声。
そして、少女の声。
誰もが動きを止め、静寂が一瞬訪れた。
声の方を向くと……そこには、エックスにスカーレットの事を話した少女が居た。
「君は……」
「か……カヨコ……!?」
スカーレットの声が、震えていた。
エックスはその声を聞いた瞬間跳ねるようにスカーレットへ肉薄する。
「なっ……あっ!?」
そして、困惑し動きの鈍ったスカーレットへゼットセイバーを突き出した。
緑に光る刃はスカーレットの頭……いや、左側頭部に備え付けられた洗脳装置だけをえぐり飛ばした。
『しまった!洗脳装置が!ええい!何をしておるケテル!動け!』
ケテルまでもが動きを止めていた。
スカーレットが倒れる。
それをカヨコと呼ばれた少女が受け止める。
「早く離脱しろ!」
「分かった……ありがとう」
短く言葉を交わす。
最後の戦いだ。
エックスは動きを止めたケテルにゼットセイバーを向ける。
「行くぞ、皆……!」
虎丸が再度轟音を放ちながらケテルへ砲撃する。
ゲヘナの生徒たちが手にした銃火器を撃つ。
『ぐ、ぬ……!エックス!このままでは終わらんぞ……!』
「いや……終わりだ!!」
ゼットセイバーの刃に炎が灯る。
虎丸の砲撃が遂にケテルの右前脚を砕く。
大きくバランスを崩し、巨体が倒れ込む。
「今だよ!おにーさん!」
「うおおおおっ!!」
再度マッハダッシュでケテルに肉薄する。
そして、轟々と燃えるゼットセイバーを一気に振り抜いた。
「マグマブレード!!」
ゼットセイバーを用いた特殊武器。
紅蓮の刃が、ケテルの身体を切り裂いた。
「やった!」
『お……覚えおれ……!!』
そんな捨て台詞と共に、ケテルは爆散したのだった。