「……ん、朝か」
気が付くと、空が明るくなっていた。
エックスは部屋に置かれていたパイプ椅子から立ち上がり、窓を開けて朝の光を浴びる。
「……空気が澄んでる」
机の上のライトを消して、インプットしていたキヴォトスの地図を畳む。
取り敢えず粗方の地理はこれで頭に叩き込んだ。
「ヒマリ達のところに顔を出してそれから……D.U.に向かおう」
――――――――――
「おはようございます、エックスさん。昨夜は休めましたか?」
「おはよう、ヒマリ。俺はレプリロイドだから眠ることは無いけど、落ち着いた場所で良かったよ」
「そうでしたか。この近辺に都合良く廃部した部活の部室があって良かったです。暫くはそこを拠点として下さい」
「分かった」
「それと、こちらが身分証です」
テーブルに置かれたカードに、エックスの顔写真が貼られていた。
「いつの間に……」
「私は全知の称号を持つ天才美少女ハッカーですよ?こんなの朝飯前です」
「え、それは大丈夫なのかい?人間の10代は食事を抜くのは身体の成長に良くないと聞くけど……」
「比喩ですよ比喩。そういった所はロボットらしいですね」
「そうかな……?そう言えばエイミは?」
「少し用事をお願いしました。エックスさん、その身分証はミレニアムを出るまでは首から提げておいてくださいね」
「分かった」
「所で……D.U.へはどの様に?」
「歩いて」
「……往復で相当かかりますよ?」
「俺はレプリロイドだから大丈夫だ」
「……わ、分かりました……公衆電話にその身分証をタッチすればここに直接電話できるよう細工しておきましたので、何かあれば連絡してください」
「わざわざ済まない。それじゃあ行ってくる」
「ええ、お気を付けて」
――――――――――エックスが出発する少し前。
何処かのオフィスにて。
「……ここまでのご協力、ありがとうございました」
黒のスーツを纏った男が、頭を下げた。
「クーックックック……いえいえ……ワシこそ有意義な実験をさせて貰ったよ……」
黒スーツの男よりも特徴的な格好をした老人だった。
まるで囚人の様な服に……液体で満たされたヘルメット。
「それは何よりです」
「それで?今回ワシを呼んだのはどういった要件で」
老人は上機嫌だった。
よほどいい研究をさせてもらったのだろうか。
それとも何かしらの支援を受けていたのか。
「このプロジェクト、今回の進捗で打ち切りたいと言うのが我々の見解です」
「……なんだと?」
老人は目を剥いた。
黒服の男は続ける。
「貴方のもたらしたレプリロイド技術は確かに我々の技術の遥か先を行く……ですが、これ以上は禁忌に触れます」
「だから何だと言うのだ!禁忌に触れる事こそ科学の真髄であろう!?」
「我々の目指す道から逸れると言うのです。貴方も、興味の無い研究、技術提供はしたくは無いでしょう?」
「それは、そうだが……」
「無名の司祭の技術とこの結果さえ得られれば我々は充分なのです」
「ぐぬぬ……」
「今、宜しいですか」
そこへ、新たな……異形の頭の男が入って来た。
こちらもまたスーツを纏った男性だが……ヒビの入ったマネキンの様な頭部が2つ存在している。
「どうされましたか?」
「これを」
「ふむ……これは……デカグラマトン……ん?」
黒服の男は双頭の男が手渡してきたタブレット受取、画像を拡大する。
「戦闘しているのは生徒と……この青いシルエット……」
「な、何!?」
突如、老人が狼狽する。
「エックスだと!?何故此奴がここに!?」
「……存じ上げているようですね……Dr.バイル」
「奴こそが……ワシをこの姿にした張本人だ!!」
――――――――――
「そこの青いの、止まりなさい!」
ミレニアムサイエンススクールの門を抜けるか抜けないかの所で、背後から声を掛けられた。
「俺のことかい?」
「貴方以外に誰が居るの!」
息を切らせながら走ってきたのは、青い髪をツーサイドアップにまとめた少女だ。
「君は?」
「私はミレニアム生徒会の会計、早瀬ユウカ」
「俺はエックスだ」
「……偽名かしら」
「ちゃんとした俺の名前だよ」
最早慣れたもので、似たようなリアクションに苦笑する。
「あっ……ごめんなさい」
「気にしないでくれ。皆似たような反応をしてるよ」
「ごほん……えーっと、貴方。何でここに居るのかしら。私の覚えてる限り、貴方の顔は初めて見るわ」
「うーん……特殊な事情と言うか」
「あら……その身分証は?」
そう言えばヒマリから言われていた身分証があった。
そう思いエックスはユウカにそれを見せた。
「ヴェリタス臨時職員イレギュラーハンター·エックス……?」
「ヴェリタス……?」
聞き慣れない単語に見せたエックスも疑問符を浮かべた。
「ああ、ヴェリタスの。そうだったんですね」
「そう言うことらしい」
あまり気は進まなかったが、そういう事にしておいた方が良いだろうとエックスは判断した。
「引き止めてしまってごめんなさい、何か用事が?」
「ああ、少し情報が欲しくてね」
「流石ヴェリタスね。勘違いで時間を取らせてしまって申し訳ないわ。今度埋め合わせさせてちょうだい」
「気にしないでくれそれじゃ」
「……あれ、本当にロボット?まるで人間じゃない」
――――――――――徒歩1時間ほど。
風景が高層ビルが立ち並ぶオフィス街へと姿を変えていた。
ミレニアムもかなりの景観だが、こうも種類が変わると面食らってしまう。
「凄い活気だな……」
摩天楼、車、人。
何もかもがひしめき合っていた。
(さて……とはいえどうしたものか)
……喧騒に紛れて、何かしらの怒号が聞こえる。
(喧嘩か?)
ここ、キヴォトスでは皆が武装している。
多少の小競り合いでさえ戦闘に発展している。
「だから!俺達はここで上を待ってるだけだ!」
「PMCが武装した状態でこんな街なかに居たら市民が萎縮するだろう」
「そうは言われても上の指示なんだ!」
「さっきからそう言ってるが1時間以上経っているではないか!」
「そうだよ!来ないんだよ!」
「何なんだ貴様ら……」
武装したPMCと、警官のような格好の少女たちが言い争っていた。
(ヴァルキューレ警察学校、だったか……確か学園の治安維持が届かない場所の代行機関だったな。この辺りも管轄なんだろう)
金髪の獣耳を生やした少女が、PMCの代表格と話している。
が、その後ろに控える兵士と少女たちは一触即発状態だ。
「何を言い争っているんだ?」
エックスは躊躇う事なく二人の間に入った。
「何だ、民間人が……」
「邪魔……あ?アンタ……」
PMCがエックスの顔をマジマジで見る。
後ろに控える兵士達も動きを止めた。
「な、何かな……」
「お前はエックス!行方不明になっていたエックスじゃないか!」
「えっ」
「うおおおおお俺達の英雄!」
「イレギュラーハンター!生きていたのか!」
「エックス!」
「「エックス!エックス!エックス!」」
「え、う、わ?!何だ何だ!?」
「俺達だよ!アビドス砂漠であんたに助けられた!」
「え、あ!あの時の!」
「よく生きててくれたぜ!」
「お前ら!俺等の英雄様の凱旋だ!」
「「「エックス!エックス!エックス!!」」」
「……何なんだこれは」
ヴァルキューレの代表格の生徒が、呆然と呟いた。
「……所で、君たちはこんな往来のど真ん中で一体何を?」
表通りから少し離れた裏路地で、エックスは彼らから事情を聞いていた。
「どうしたもこうしたもアンタを探したいから全員で休みの直談判だ」
「えっ、じゃあ今こうしてるのって……」
「仕事中」
「やめないか!俺は無事だったんだから早く戻れ!」
「今知ったんだよそんなの!」
「悪かったよ……」
「まぁ、じゃあ帰るか」
「どうせ俺等減給だしな」
「今更何も怖くねぇぜ」
「じゃあなエックス。今度飯でも行こうぜ」
「俺等の基地にも遊びに来てくれよー」
「ああ」
気楽に去っていくPMC達を手を振って見送った。
先ほどのヴァルキューレの生徒も呆れて帰っていったようだ。
……そして、暫くして。
「出てこい」
エックスは背後に向けてそう言った。
「………………」
武装した集団が現れた。
先程のカイザーPMC達と同じ様な格好だ。
「何の用だ」
「……うちのボスが、お前に会いたがっている」
「君たちのボスだって?」
「付いて来い」
いつの間にか包囲され、銃を突きつけられている。
エックスは渋々手を上げた。
「それで良い」
「穏やかじゃないな……」
今は、大人しく従うべきか。
エックスはそう判断し、着いていくことにした。
――――――――――
「入れ」
「ハッ。例のイレギュラーハンターをお連れしました」
「ご苦労。下がれ」
「失礼します」
D.U.の一角にあるビルの一室。
その執務室だろうか。
内装の豪華な部屋に連れられた。
「お前が報告にあったイレギュラーハンターとやらか」
最奥に鎮座していたのは、一際大柄なロボットだった。
それでいて、仕立ての良いスーツをまとっている……上役か、幹部か。
「そうだ」
「フン、私はカイザーコーポレーションの理事長をやっている」
「カイザーコーポレーション……?」
「何だ、知らんのか。どんな田舎から来た」
「……気分を害したのなら申し訳ない。何分此方にはここ……キヴォトスに関する知識はないもので」
「ほう……礼儀をわきまえているな。お前はキヴォトスの外から来たのか?」
キヴォトスの外。
それは、この世界の外の事なのだろうか。
「……ああ」
「ほう……?面白い」
「……それで、俺を呼んだ理由は」
「世間話は嫌いか?受け取れ」
理事長と名乗った人物が何かを投げて寄越した。
それを受け取る。
……カード、の用な物だ。
エックスは直ぐ様スキャンをかける。
ICカード内蔵のプラスチック製カードだ。
「これは……?」
「報酬だ」
「報酬……一体何の」
「貴様は先日、我が傘下のPMCの基地を襲撃した正体不明の敵を撃退したそうじゃないか」
「……アレのことか」
ヒマリ達の話を思い出す。
デカグラマトン。
「その報酬だ」
「悪いが受け取れない。俺は貴方の部下じゃない」
「私は貴様と良好な関係を築きたいと考えている」
「何……?」
「これから、私の下……カイザーで働かないかと聞いている」
「なんだって……!?」
「私は貴様の能力を買っている……悪い話ではないと思うが」
「………………」
エックスは考える。
一見、平等な交渉に見えるが……ドアの向かうには武装した兵士が控えており、何なら理事のデスクの両サイドに植えられた観葉植物は、偽装でありセントリーガンが仕込まれている。
間違いなく相手はエックスを脅している。
「どうした?何を躊躇う」
「俺は今……ミレニアムに協力している」
エックスは認識票をカイザー理事長に見せた。
「ほう?それで?」
「先約がある。反故には出来ない」
「それは残念だ」
カイザー理事長が手を上げた瞬間、観葉植物の鉢植えからセントリーガンが飛び出る。
エックスはそれにいち早く反応した。
「ローリングシールド!」
「なっ……!?」
エックスは自身の装備の一つ、ローリングシールドをチャージして放った。
エックスの周囲にバリアが展開され、セントリーガンの弾全て弾き無効化した。
「何だと……!」
流石にカイザー理事長も動揺する。
エックスはすかさずバスターを理事長に突き付けた。
「条件がある」
「な、何……!?」
「協力しないとは言っていない。ただし、協力には条件を付けさせて貰うと言うことだ」
「理事長!」
部屋の外に居た兵士達が突入してくる。
エックスはそれに対して、
「ブーメランカッター!」
ブーメラン型の弾を投擲。
兵士達の手にしていた銃を寸断する。
「う、うわっ!?」
「兵を下がらせろ」
「くっ……」
理事長に再度バスターを向ける。
苦悶の表情を浮かべながら手を振ると、兵士達は下がっていった。
「何が望みだ」
「情報だ。俺は元々この世界の存在じゃない」
エックスはバスターを下ろす。
「いつか元の世界に帰還する。だからお前の部下にはなれない」
「………………」
「だが、傭兵雇用という形態なら協力できる筈だ」
「く、はは!脅しておいて雇えと!」
「先に撃ったのはそちらだ」
「くくく……確かにな。お前のような存在を雇えるなら喜んで雇おう。それで?条件とは?」
「受ける任務は俺が選ぶ」
「というと?」
「子供たちに危害を加える仕事は受けない」
「フン……妥当だな」
「次に、俺はミレニアムを優先する」
「呑もう」
「俺の体を解析しようとするな」
「……企業秘密か」
「契約は即時解消できるようにしろ」
「元の世界に帰るから、か?」
「ああ」
「……分かった、そう手配しよう」
「最後に」
「まだあるのか?」
「アビドス基地の彼らの処罰を取り消せ」
「何……?」
理事長が不可解なものを見る目でエックスを見る。
「彼らは己の誇りのために戦った。それにあのデカグラマトン……ビナーを退けたのは彼らの力あっての事だ」
「ふ……ははは!この状況で他人の為に気を回す余裕があるのか!つくづく恐ろしいな貴様は!底抜けのお人好しめ!」
「なんとでも言え」
「くくく……良いだろう。貴様の要求、全て呑んでやる。その代わり……必ず貴様の力、使わせてもらうぞ」
……こうして、エックスは臨時でカイザーPMCの特別顧問として働く事になった。
「……という訳なんだ」
『エックスさん!?何故それを相談してくださらなかったのです!?!!?!』
受話器越しにヒマリから物凄い怒鳴られてしまった。
『そりゃそうだよ』
エイミが呆れたように言う。
『……しかし、カイザーPMCの施設、データベースの閲覧権と言うのは魅力的ね』
リオが続けてそう言う。
『デカグラマトンとの交戦経験があると言っていたのよね』
「ああ」
『恐らくビナーとの戦闘記録がある筈。上手く抜き取ってきてくれるかしら』
「分かった」
『……今更ですが、エックスさん。言いたいことは山程ありますが……』
『私達を優先してくださってありがとうございました』
「当たり前だろ。大人は……子供たちの味方なんだから」
ロックマンゼロをタグに追加した理由、登場です。
結局本編キャラとエックスの対立は個人的に書き辛いなと思い明確な敵を配置することにしました。
エックス、カイザーコーポレーションにスカウトされる。