慈愛の怪盗、清澄アキラは困惑していた。
全く予報にない大雨、そして雷。
(これは……困りましたね)
今回のターゲットの美術品は絵画。
こうも雨が降っていては質が落ちてしまう。
(しかし……妙ですね)
いつもの雨とは匂いが違う。
何処となく化学薬品のような。
(……どうしましょうか)
このまま雨宿りを続ける訳にもいかない。
時計を確認する。
とっくに美術品を乗せたトラックがこの辺りを通過するはずなのだが……。
(……発信機は郊外のまま。動いていない)
潜伏しているのがバレたか。
しかし、どの道このあたりを通らなければトリニティへ抜ける事は出来ない。
(ふむ……)
――――――――――
「何でこんな所にアインヘルヤル八闘士が……」
『オメガの反応が無い……ということはデカグラマトンも近くに居ない……?コイツだけ単体の行動か』
「何か意図があるのか……?」
『分からん……警戒してくれ』
カイザーセキュリティには事情を話し待機してもらっている。
イロハとフブキにも同じく説明したが……。
『イブキも行く!』
『駄目です。この話が本当ならば人体には有害なはず……私達が行っても足手まといになります』
『うう……』
着いて来たがっていたが、流石に置いていかざるを得なかった。
バイクで雷雲の下へ突入する。
エックスのボディは酸性雨に打たれても対して影響は無い……が。
(長時間影響下に入ればどうなるか、流石に予測が付かないな)
これだけ科学的に強化された酸性雨だ。
エックスはともかく周囲……特に自然へのダメージは甚大だろう。
『元々これはDr.バイルの自然破壊作戦で運用された代物ですからね……』
「厄介だな……スピード勝負という訳か」
郊外の環境がめちゃくちゃになってしまう。
誰かに手入れをされている訳では無いが……気分は良くない。
そもそも、エックスの世界では自然と言うのは少なくなって久しい。
機械でも役割が代替できてしまい……再生するという考えはなくなってしまっている。
(だからこそ、今あるものをなくしてはいけないんだ)
しかし……、
「……どうやって、空に攻撃を届かせれば良いんだ……?」
イレギュラー本体は見当たらない。
そして、酸性雨発生装置もここからは視認出来ない。
『原作だと舞台になった空中庭園に直接転送したからなぁ……』
「原作?」
『あ、あー!何でもないです!とにかく……イレギュラーの反応を追ってください!』
「……?わかったよ」
ふと、誰かに見られている気配を感じた。
「……誰か居るのか?」
人が居ない、廃墟のはず。
バイクを停め、視線を感じたビルに入る。
『なるほど、屋上に向かって探すんだな!』
「え?あ、いや……誰か居た気がして」
右腕をバスターに変形させ、油断なく構えつつ中を進む。
エレベーターは死んでいる。
階段を使って上まで上がるしかないか。
……いや、幸い吹き抜け構造になっている。
壁を蹴って上に向かった。
最上階へ到達。
この上は、屋上だ。
「……いい加減、出てきたらどうだ」
誰もいないはずの空間に、投げかける。
「……流石ですね、イレギュラーハンター」
柱の影から、誰か出てくる。
オペラマスクに隠された感情は、読み取れない。
「慈愛の怪盗……!」
「お久しぶりです。まさかこんなに早く再会できるとは思ってもみませんでした」
「出来れば……こんな形で再会したくなかった」
「私は、嬉しく思っていますよ」
「……何が」
「また貴方と戦えると思うと、胸が高鳴るというもの」
「戦う……?」
「ええ。貴方は美術品を守り抜く。私は貴方を上回り、美術品を手に入れる……これが、私と貴方の戦い」
「……引き下がってはくれないのか」
「何をご冗談を」
お互いに睨み合う。
……エックスが、ふっと笑う。
「この酸性雨のせいで身動きが取れないのだろう?」
「なっ……何を言い出すかと思えば」
「こちらの行動は読まれている前提で考えると、この廃墟は潜伏に最も向いている。そしてトラックを襲うのに最適なポジションは……ここだ。だが、トラックには廃墟を迂回させた。お前の負けだ」
「迂回……!?この近辺にそんな場所……」
「俺は今からこの雨の原因に対象する。それまで大人しくしていてくれれば身の安全は保証する」
「原因……?やはり、この雨は人為的なものだと……?」
「ああ……空に、これを降らせている原因が居るはずだ」
……雨の音に混ざって、落雷の音がする。
「落雷まで発生するのか……!」
『エックスさん!大変です!イレギュラー反応、トラックの方へ殺到しています!』
「なんだと……!?」
『間もなく接敵します……!』
「早いな……!相手は飛べるのか?!」
『飛行タイプのレプリロイドだ!』
「拙い……!イブキ達が!」
エックスは窓にバスターを数発打ち込み、そのまま走り出した。
「………………」
その様子を、アキラは黙って見ていた。
バリン!とエックスが窓ガラスを蹴破って外に出る。
バイクの近くに着地、走り出した。
「こうもやることなすこと後手に回るというのは……腹が立つな!」
ひとり愚痴るが、聞いているのはオペレーターの二人だけだった。
ゲヘナ、イブキにちなんだアーマーを忘れないうちに使いたいところ……。