偽りの最強は今日も醜く足掻く 作:匿名の黒さん
遅筆につき次話は一年後!(楽観的観測)
何かで一番になりたい、そう思ったことは誰だってあるはずだ。
スポーツ、勉学、なんでもいい。
一番という称号は誰だって憧れる。
競争心ともいえるその憧れは人間の遺伝子に組み込まれた本能に近しい欲求だ。
それによって人類の文化は発展してきた。
だが…………頂上の景色というのは決して素晴らしいだけのものではない。
常に追い抜かれる恐怖、トップとして求められる規範の数々、周りからの嫉妬。
一番になることで失うものだってたくさんある。
ましてや、それが偽りの称号だとしたら?
分不相応の実力であるのにも関わらずその地位を押し付けられてしまったら?
考えるだけで地獄だろう。
そう、地獄なんです。
助けてください…………
……………………………
…………………
……
「もう直ぐ現場に到着します!」
「…………そう」
揺れるヘリの中、私は足を組んでできるだけ偉く見えるように座っていた。
開いた扉から暴風が吹き込み、私の着た制服をはためかせる。
そう、制服。
私は学校の登校中だったのだ。
だというのに緊急事態だと説得され、このヘリに乗せられている…………解せぬ。
窓から下の景色へと目を向ける。
眼下では街が燃えていた。
正体不明の四足歩行のデカブツが家々を踏みつけ、街を蹂躙している。
「間に合わなかった……」
思わず口から嘆き声が漏れる。
それが聞こえたのか組織のスタッフ達が悲痛そうな顔でこちらを見つめていた。
きっと彼らは、もっと早く到着すればこの災害を食い止められた……と私が嘆いているとでも思っているのだろう。
お笑いである。
違う、違うのです。
私は他のエージェントが私の到着に間に合わなかったことを嘆いているだけなのです。
私はこれからあそこまで降りてあの化け物と1人で戦わなくちゃいけないから嘆いているんですぅぅ!!!
「まだ間に合います!No.1のあなたが来たのですから」
スタッフたちが励ますように私を見てくる。
その瞳に尊敬の念が混じってるのを感じて、私はまた憂鬱になった。
自分がポーカーフェイスで本当によかったと思う。
そうでなければ今頃私は泣き出していただろうから。
私は無言で開き放たれている扉に手をかけた。
「…………ICPAエージェントNo.1、月宮來羽これより鎮圧作業を……開始します」
そう言うと共に私は外の世界へと飛び出した。
もちろんパラシュートなどという安心安全な装備は装着していない。
制服だけまとって空へと飛び出す、普段の私なら恐怖のあまりチビっていたことだろう。
だが今は組織の人間の前だ。
私はNo.1としての振る舞いを求められている、これくらいのパフォーマンスはしなければいけないのだ。
せっかくセットした髪も、クリーニングに出したばかりの制服も、落下の風圧でもみくちゃになる。
それでもしっかり目を見開き、着地地点を見極める。
目標は眼下で暴れる4つ足の化け物。
私の中にある“力”を放出し翼の形に展開する。
落下速度は極限落とさず、落下位置を微調整。
化け物の脳天、そこにGによって加速した身体で矢のように迫る。
私の能力に巨大な生物を討伐するほどの圧倒的なパワーはない。
だから自分の能力にプラスして重力という自然の力を加算して攻撃しようという算段だった。
もう落下コースは定まった。
これでどうにかなっておくれ…………
そう天にお祈りしながら、落下に備え自身の肉体を“力”で防御する。
きっと大丈夫、能力解放時の頑丈さだけは自信があるのだ。
それでも…………怖いものは怖い。
恐怖に駆られ、ぎゅっと目を閉じる。
数拍の後、とてつもない衝撃が私を襲った。
自分の中の力が急激に消費されていく感触。
鈍い音を響かせながら、私は街を破壊する化け物に衝突する。
「ぐげえぇぇぁああっっ!!」
それが怪物の叫び声だったのか、私の悲鳴だったのか、私には判別がつかなかった。
たぶんその両方だったのだろう。
怪物に衝突した私はそのまま弾かれ、ビルにぶつかり、頭から地面に落下した。
とても最強のエージェントとは思えぬ醜態だ。
それを誤魔化すように、慌てて立ち上がる。
スカートが捲れていなかっただろうか、羞恥で叫びそうになる心を必死で抑える。
済ました顔をしていれば、まだ威厳は保てている…………はず。
巨大な化物は私の捨て身アタックが効いたのか、ビクビクと痙攣していた。
そのまま倒れてくれると、助かる、非常に、非常に…………
「…………あ」
目があった。
血走った目。
怒りに溢れた殺意たっぷりな目。
ゴワッッッ!!!
とてつもない風圧と共に巨体な腕が私に向かって振り下ろされた。
砕けるアスファルト。
強化によって固くなって私の肉体の強度に負け、地面が沈む。
私の捨て身アタックなどとは比べ物にならない本物の暴力が私へと振り下ろされた。
窓ガラスのことごとくが砕け散り、地面に大きなクレーターが形成される。
「……………………ふふっ」
思わず引き攣った笑い声が漏れる。
私はクレーターの底で地面に膝まで沈み込んだ状態でどうにか耐えていた。
五体満足、ではあるが制服は泥と砂に塗れ、またクリーニングに出さなくてはならない状況だ。
おまけに今の攻撃で私の力の八割が消し飛んだ。
つまり次の攻撃は耐えられない。
もはや笑うしかない、この状況。
助けて欲しい、切実に。
いや、本当に……誰か助けてくださいよぉ!
こんなのが最強のエージェントなどお笑いである。
化け物を見上げる私の目は恐怖に震えているのだろうか。
どうしてこんな事態になったのか、私自身訳が分かっていないのだから、やはり笑うしかないのだろう。
……
…………………
……………………………
西暦2000年突如として世界に未確認生物群が出現した。
怪獣と名付けられたそれは街を破壊し、人類に災害をもたらした。
人類が遭遇した初の科学では説明のつかぬ事象であり、それが人類史の大きな転換点となった。
事象2000年、それを境として人類に変化が訪れたのだ。
それは未知の事象に対しての人類の防御機能だったのだろうか。
能力に目覚めた人間が出現しだした。
何もない空間から火や光線を出すもの、動力もなしに空を飛ぶもの、能力は人によって千差万別だったが、それらは皆既存の物理の法則を無視したものだった。
科学の事象を超えた現象、それを人類はこぞって研究した。
人類の脅威とみなされた未確認生物群も能力者達によって討伐されるようになり、能力者は人類にとって利益しかない存在に思えた。
だが2006年、能力者による初の文明崩壊クラスの能力行使が行われる。
その結果、大陸1つが壊滅的に破壊され、数えきれないほどの死傷者がでた。
それまでの研究で能力者の力には個人差があることは判明していた。
しかし上位の能力者の力がこれほどまでに強力とは誰も想像していなかった。
政治家は呑気に能力者の兵器利用などを考えていたが、それはとんでもない思い違いだった。
たった1人の人間が大陸を1つ吹き飛ばしたのだ、兵器にするのはあまりにも強大すぎる力だ。
各国の意見は一致した、上位の能力者の能力を行使させてはならない、と。
以降様々な法律が施行され、2024現在能力者たちは国際能力保護機関、通称ICPAによって管理されている。
私月宮來羽もそんな組織に雇われたエージェントの1人だ…………
「No.56くらいですね、どうしますか?」
56位…………それが初め私につけられた順位だった。
私はその数字を見てまぁ……そんなものかと落胆したことを覚えている。
能力に覚醒した時の全能感はもうどこにもなかった。
特別な人間になれるのではないかと思ってしまった。
人口の10%しかいないとされる能力者となり、舞い上がっていたのだ。
身体の中に力が溢れ、何でも出来ると思ってしまったのだ。
だが、それは結局勘違いでしかないとその順位がぞんざいに告げていた。
診断によって判明した私の能力は放出性畜エネルギーというものだった。
言葉にすると分かりづらいが、要は体内にエネルギーを溜めそれを使って自己強化や念力の真似事のようなことが出来るということだ。
能力者としてはオーソドックスな部類らしい。
能力者の大半が私と似た放出性畜エネルギー、もしくは自己強化のみの畜エネルギーなのだそうだ。
個別の名前が与えられる程のユニークさもなく、出力も特別強い訳ではない、しかし強化時の肉体強度は平均以上。
それでつけられたのが56位。
どうしますか?と尋ねられたのはエージェントの雇用についてだった。
現在能力者は2つの道がある。
エージェントになるか、それを断って能力を封じられ一般人に戻るかだ。
2006年の事件があってから能力者の能力行使及び能力者を使った実験は法律で禁止されている、例外はICPAのエージェントだけなのだ。
エージェントとは能力者のみで構成された集団であり、能力違反者や怪獣を日々取り締まっている。
彼らの特筆すべき特徴は強さによって順位付けられているということだろう。
No.とはすなわち彼らの力、地位や待遇を現し、もし一桁No.にでもなれば莫大な報酬が約束されていた。
競争、それによって皆能力を磨いているのだ。
多い時で100人前後、現在は80人ほどがエージェントとして雇用されているらしい。
その中で私は56位…………平均以下だ。
特別ではあるけど、何となく失望する気持ちも分かるだろう。
能力者の多くがエージェント契約を蹴り、一般人と混じって平和に暮らしている。
特別でないならば、わざわざ危険な任務を負う必要などないのではないだろうか。
「…………エージェント、やります」
しかし、それでも私はエージェントになった。
まだ、自分が特別な存在になれるかもしれないと思っていたのだ。
それにエージェントになると受験や就職に有利だという噂もちょっぴり後押ししていた。
何にせよ、私は学業の間にちょっとしたボランティア活動をすることにしたのだ。
そう、それは本当にボランティア活動のようなものだった。
初めのうちは………………
「順位…………落ちてる」
エージェントとして雇用されてから一ヶ月後、初の順位更新で私のNo.は56から59へと下落した。
目立った活躍がなかったからかもしれない。
もしくは新しい能力者が増えたのだろう、とにかく下がった。
その頃私が行っていた業務内容は地味なもので、頑丈な身体を活かして被災地で逃げ遅れた人々の避難を補助していたり、避難所の物資の運搬のお手伝いをしていたりした。
地味ながら感謝の声を直接聞けたりして、概ね満足はしていたのだ。
自分は必要とされる人間なのだと、自尊心を満たせていた。
事態が急変したのはそのさらに一ヶ月後のこと。
月一のナンバー更新の通知を確認した私は自分の目を疑った。
「…………………………???」
そこには信じられない数字が記載されていた。
「………………なんばー……わん?」
No.1だった。
何度目を擦っても、瞬きを繰り返しても、その数字は変わらなかった。
その一ヶ月で私が行った事といえば先月と大して変わりがなく、大変地味なものだった。
だから私は順位が落ちることはあっても上がることはないと思っていたのに。
何故か上がっていた、尋常でないくらいに異常なまでに。
きっと何かの間違えだろう。
放課後に問い合わせてみよう、そう考えていた私はまだ危機感が足りなかったのだろう。
登校しようとして開けた扉の先に黒服の大男が立っていた。
そしてその背後にはいかにもな黒塗りの高級車。
その日私は学校へ行くこともできずにICPA本部へと召集された。
ICPA本部、それは全能力者を管理する司令塔。
本部は能力者に過度な権利を持たせないよう、非能力者で構成されている。
私を呼び出したのはそのトップでもある東城六輔という男だった。
私のような木端が会うことなど烏滸がましいほどの地位と政治的発言力を持った人間だ。
そんな男が私に頭を下げた。
ビビるなと言うのが無理な話だろう。
私はビビった、それはもうビビり散らかした。
だがそれはほんの序の口でしかなく、彼の放ったお願いが私を絶句させた。
「どうか、No.1の地位を引き受けてくれないだろうか」
東城さんはそう言った。
ぱーどぅん?
今朝の通知で私のNo.がおかしくなっていたのは分かっていたし、本部に招集されたのはその件だろうと察していた。
それでも、その件の間違いを謝罪されるぐらいだろうと楽観視していたのだ。
「………………ふぇ?」
なもので、私は気のない鳴き声を発してしまった。
言い訳をさせていただきたい、誰が能力もないただの学生如きに能力者のトップを任せるというのだ。
馬鹿げている、そう馬鹿げていた。
だが東城さんはそんな私の様子など気にも止めずに話を進めた。
「君をNo.1にしなければ我々の文明は滅んでしまう」
ぱーどぅん?ほわい?ぱーどぅん?
もはや馬鹿げているを通り越して意味が分からなかった。
なぜ私の肩に文明の存続が乗っているのですか?
私はそんな重要人物になったつもりなど断じてない。
「…………ぁ、あ、あのぉ…………すみませぇん、どういう……ことです?」
私が吃りながらそう聞いたのも無理もないことだろう。
全くもって理不尽であり、前代未聞の事態だった。
ところが、そう聞くと件の代表者は困ったようにため息を吐いた。
「それが我々にもよく分からなくて」
おい。
何だそれ、巫山戯ているのか?あぁん?
そう凄まなかった私は偉いと思う。
日頃からお前は表情に乏しいとか、つまらなそうな顔とか言われてきたが、今だけは自分の動かない表情筋に感謝した。
「詳しいことは彼女に聞いてくれ」
心底参ったという顔で東城さんは背後を指差した。
参ってるのはこっちだが。
いつの間にか彼の背後には女の人が立っていた。
確かこの部屋に入ってきた時にはいなかったと思う。
いったい何処から入って来たんだろう……?
黒い……真っ黒な女だった。
光のない黒の長髪が目を覆い隠し、表情は窺い知れない。
黒いコートとスカートに黒いストッキング、首には黒光りするチョーカー、全身真っ黒だ。
肌だけが不健康そうなほど白かった。
「………………?」
髪に隠れて見えないはずの目が見開かれたのが何故か分かった。
何だろう…………何?
黒尽くめの女が覚束ない足取りで近づいてくる。
「あぁ〜!!來羽ちゃん!生來羽ちゃんだ!!可愛い!可愛いねぇ〜〜!!」
「はあ゙あ゙ぁぁーーーッッ!?」
何をするかと思えば、女は突如として急接近してくるとワシャワシャと私の頭を撫で始めた。
な、なんだこいつはああ゙ぁーー!?
私が驚愕のあまり奇声を上げて固まってしまったのは想像に難くないだろう。
そんな様子の私たちを本部代表である男は頭を抱えながら見ていた。
「彼女はエージェントNo.4、円衣千夜だ」
な、なんばーふぉー?
そんな上位能力者が一体全体私のような平凡な人間に何の用なんだ。
というか、初めましてだよね?馴れ馴れしくない?
円衣と呼ばれたそのエージェントは体温が伝わるほど私にベッタリとくっ付いてくる。
鬱陶しい、非常に。
私はスキンシップが苦手な質なのだ。
「彼女が君をNo.1に据えねばクーデターを起こすと言って聞かなくてね」
東城さんは極めて不服だという表情を崩さず、彼女を指差した。
ク、クーデター!?
それは笑い事ではない。
No.4つまり一桁台の能力者、それは現代最強の能力者の一角を意味する。
かつて文明崩壊レベルの能力行使を行い、大陸を吹き飛ばしたあの最悪の能力者と同等の能力を有していると言うことなのだ。
つまりその気になればこの島国を消し飛ばすことも容易いということ。
「うん!そうなの」
うん!じゃないよあんたぁッッ!
自分が何を人質にとっているのか分かっているのかこの女ぁ!
だんだん東城さんが可哀想に思えてきた。
彼はこの国の国民の平穏と名も知らぬNo.下位エージェント一名の平穏を天秤に掛けて前者を選んだのだ。
「あ、の………………初対面、ですよね?」
今もべたべたと触れてくる彼女に問う。
この女は何をもって面識もない私なんかを能力者のトップに伸し上げようとしているのだろう。
「………………」
私の問いに円衣さんはキョトンと首を傾ける。
あれ!
もしかしてどこかで会ったことある?
いや、でもこんな特徴的な女性会ったことがあるなら忘れるはずないと思うんだけど…………
「……來羽ちゃんにとっては、そうかも?ね」
円衣さんの口がにんまりと弧を描く。
な、なんなのそれ。
「私は思ったのです!全人類はもっと來羽ちゃんの素晴らしさを知るべきなのです!なので、私は來羽ちゃんを一番にすることにしました!!」
「えあ゙!?!?」
「はぁぁぁー………………」
円衣さんは私を抱き抱えながら、突き出した一本指で天を指差す。
私は再び奇声を上げ、東城さんは長い長いため息を吐いた。
もはや奇人としか思えなかった。
確かに能力者になったあの日、自分は特別なのだと勘違いしたことはあった。
でも最近は自分の非凡さを受け入れ、平穏に過ごしていたのに……
突然巻き起こった嵐のような展開に私はついてこれずにいた。
「人違いです」
「いえ、來羽ちゃんで間違いありません!」
「私のような人間には畏れ多いです」
「謙虚!素敵!抱いて!!」
「抱きません。私にはとても務まりません」
「來羽ちゃんにしか務まりません!一緒に平和な未来を築き上げましょう!!」
なんなんだッ!この女はぁッッッッッ!?
ぜっんぜん話が通じない。
全肯定どころか私の全てを否定して肯定してくる(大いなる矛盾)
本当に、本当に初対面だよね?
私は自分が本当に月宮來羽か疑った、月宮來羽にこのような称賛される謂れはないからだ。
「という訳だ。すまないが不慮の事故にでも巻き込まれたと思って引き受けてくれたまえ」
苦労の皺が深く刻まれた顔で東城さんがそう締め括った。
という訳だ、じゃねぇよ!!
何も納得していないし同意もしていないよぉ!
「よろしく、來羽ちゃん!」
よろしくないが!!
……………………………
…………………
……
走馬灯だろうか?
なんだか懐かしいことを思い出していた。
私はNo.1になった日、なってしまった日。
轟音と共に迫る4つ足の怪獣の攻撃を紙一重で躱す。
なんだかこの大ぶりの攻撃にも慣れてきたな。
一撃で力の八割が消し飛んだ時はビビったけど、攻撃が当たらなければどうと言うことはない。
まぁ、当たれば死ぬんだけど。
こんな風に毎回命の綱渡りしているから走馬灯なんて見るんだよ。
やっぱりどう考えても私に最強の席は荷が重すぎる。
なんて、言ってもあの女は笑顔で否定するんだろうけど。
「今、私のこと考えてたでしょ」
「はあ゙!?」
いきなり、ニヤニヤ顔が目の前に現れる。
びっくりしすぎて猫のように飛び上がってしまった。
毎度のことながら彼女の神出鬼没さには驚かされる。
能力の応用だろうか?
「も〜図星?私と來羽ちゃんが相思相愛なのは周知の事実だけど、こんな公衆の面前でそれは恥ずかしいって!」
この女は…………また訳の分からないことをほざいている。
私を過大評価するだけじゃなく彼女自身の自己肯定感も高いのが厄介だ。
「…………あの、後ろ」
そんなことより今は怪獣と交戦中なんだけど。
怪獣の大ぶりな攻撃が私と円衣さんを諸共踏み潰そうと振り下ろされる。
「あぁ、うん!」
それを円衣さんはなんて事のないように片手で受け止めた。
私が受け止めた時は地面にクレーターができたというのに、今回地面には全く衝撃が届かず無傷だ。
攻撃などそもそもなかったかのよう、衝撃を完璧に相殺した証拠だ。
何気なく持ち上げられたあの片腕には私の能力の八割以上の力が込められている。
あまりの規格外に冷や汗が背筋を伝った。
「さすが來羽ちゃん、増援が到着するまでの間怪獣の猛攻を1人受け止めてくれていたんだね!さすがナンバーワン!!」
受け止めるしかなかったとも言う。
私の能力に破壊性はない。
ただ耐えて、住民の避難が完了するまでの時間を稼ぐ、それが私のできる精一杯だ。
それが分かっているというのに、この女は…………もはや皮肉にしか聞こえない。
まぁ、彼女のことだから心の底から言ってるのだろうけど。
だんだん彼女からの好意に嘘偽りがないということが分かってきた今日この頃。
分かったというか、分からされたと言うべきか。
「じゃあ、後始末はやっとくね、ほい!」
彼女が指を振ると、私があれだけ苦戦した怪獣が真っ2つに裂けた。
決着は一瞬、これが上位能力者の力。
彼女の能力、置換転移(シャッフル)で怪獣の右半身と左半身の位置をずらしたのだろう。
置換転移、物体を好きにマーキングしその座標を置き換えできる能力。
今回のような攻撃にも、瞬間移動のような補助にも使える万能能力だ。
そして驚くべきことにそのマーキング規模と座標に制限は私の知る限り存在しない。
つまり彼女がその気になればこの島国を一瞬にして宇宙空間に放りだすことも可能なのだ。
そんな恐ろしい能力を有していながら、彼女は私と同じように放出性畜エネルギーも扱える。
強すぎる、理不尽だ、常々そう思う。
だがこれが才能の格差というものなのだ。
「今日も泥だらけになってまで人を守って、偉いね〜」
そしてそんな才能の化け物に溺愛されている私とは一体何者なのだろう?
泥に塗れた私に汚れるのも厭わず頬擦りしてくる狂人。
彼女の親愛は本物だ、少なくとも私の知る限り。
だが身に覚えはない。
謎すぎる、理不尽だ、常々そう思う。
だが、これが私の日常と化しつつあるのもまた事実なのだ。
声を大にして言いたい。
クレイジーサイコレズに執着されてますッッッ!!!
だずげでぇぇぇぇええ゙え゙え゙!!!!!
メカクレ、クレイジーサイコレズ、可哀想は可愛い、素敵なものをいっぱい!全部混ぜるとむっちゃ面白い小説ができる……はずだった。