Fate/Black Camelot -Hexennacht am Schwarzen Hakenkreuz-   作:グレンデル先生

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未来観測/反転の██

 人間は未来を見通せない。

 望んだ未来を、望んだ通りに手にする事はできない。できる事は最善の選択をし、比較的近しく、好ましい未来を手繰り寄せるのみである。

 もしも人間が未来を覗き込める……そんな都合の良い力があるとすれば、それは全知全能故に全てを知っている、生まれた時から人の理から外れている者か、あるいは一定の確率で生まれ落ちる“異能(バグ)”を有した者だけであろう。

 前者は魔術界隈にて根源接続者と呼ばれる、生まれながらの全能。

 後者は先天的に千里眼────未来を見通す眼を持つスターゲイザー。

 どちらも人知の及ばない神秘を内包する、表社会においては異端者であり、魔術世界においても特異とされている。

 一方は魔術師の悲願である根源に接続しているからであり、もう一方は根源へ至る為の道筋を有しているからだ。

 自由に未来を選択し、その道程を辿って結果を獲得する。それは何とも羨ましく────そして、何ともつまらないものなのだろう。

 

「未来を知れば明日に意味はなくなり、未来を識れば先に意味を見出せなくなる。千里眼、根源、人の身に余る神秘なぞ破滅を招くだけなのに、けれども諸人は“それでも”と手を伸ばす」

「────随分と詩的だな。貴様らしくもない」

 

 カール・エルンスト・クラフトの賦詠のような呟きに、キャスターはそう反応した。

 

「偶には自分らしかぬ自分を演じたくなるものさ。愚者であったり、道化であったりとね」

「……此度の聖杯戦争は、貴様にとっては予定調和。要するに決定していた結果に対して不満が募っているというところか」

「おや、さすがはサーヴァント。僕の機微に気付き、尚且つ心情まで言い当てるなんて、敬服する他ない」

 

 戯けたように賞賛をおくるカール。

 そのふざけた態度の通り、彼の言葉には微塵も敬意なぞ込められておらず、召喚されてからこのようなやり取りに飽き飽きしたせいか、キャスターは無反応で返す。

 カール自身も最初から反応は期待していなかったので、一連のやり取りをやった後、スンと表情を無にする。

 

「事実、つまらないんだよね。ここに至るまでの道筋は既に()()し、これから先に待ち受ける闘争も断片的ではあるが()()()しまっている。あーあ、安易に占いなんて引き受けるんじゃなかった」

 

 思い返すのは、聖杯戦争が始まる数日前。

 どこで話を耳にしたのかは知らないが、カールの占星術の精度を聞きつけたカール・マリア・ヴィリグートに請われ、仕方なく占星術で未来を────というのは見せかけで、自身の持つ未来を観測する眼である千里眼を用いて未来を覗き込んだ。

 それが全ての始まり。カールが見たのは、聖杯戦争にまつわる事物と、自身がその儀式に身を投じている未来の映像。

 そこで彼は確信してしまった。ヴィリグートと接触した時点で聖杯戦争への参加は確定であり、大規模な神秘の闘争に携わらなければならないと。

 

「ふん、そこまで嘆くのであれば貴様の観た道筋から外れればよかろう」

「うーん、余り意味がないから変える必要性を感じないな。キャスターも分かってるでしょう? 多少の道筋を変えたところで未来は一つの大幹を辿る。編纂事象はそういうものだと」

 

 故にカールは道筋を変えたがらない。意味がないのだから、無意味な行動は起こしたくない。

 千里眼を持つ者としての感性、価値観、見方。他の千里眼保有者であれば、また別の意見を言ったであろうが、おおよそカールと同じく未来を変える立ち回りはしたがらないのが大半だ。

 

「だったら文句を垂れるな。さすがに鬱陶しさを感じずにはいられない」

「あ、じゃあさっきの意地悪で言ったんだ! 相変わらず(ワル)だなぁ、君は」

 

 冗談交じりにキャスターを罵る。それに対し、先ほどの賞賛冗句の時に見せた無反応とは異なる……愉しげな微笑をキャスターは浮かべた。

 魔術師のサーヴァント────真名『クリングゾール』は自らを悪と、邪悪であると謗る言葉の方が喜ばしく感じる。

 何故ならば己を“聖”に相反する“魔”であると定義しているから。

 祝福よりも呪詛を。栄光より破滅を。繁栄より堕落を。そちらの方が性に合っている。

 かつて聖槍による祝福を、栄光を願った事もあったが、全てに反発され、聖槍は微塵も輝かなかった。

 この時から悟った。この手に聖は馴染まず、魔こそが己の根源なのだと。

 

「して、貴様はこの聖杯戦争をどう見る? 他マスター、そしてサーヴァントを」

「個人的に興味がある人物なら、あの獣の冷酷さを想起させる金色の君だね。儀式に参加するまで魔術と縁のない軍人だったにも関わらず、僅か数日で恐ろしい程に化けて見せたんだから」

 

 末恐ろしい男だと、カールは人生において初めてそのような感想を抱いた。

 ただの人間。神秘と繋がりを持てない凡夫であったら良かったのに、ラインハルトという男は容易くそれを踏破した。

 そして僅か数日────魔術の家系の人間であっても幾多もの研鑽が必要になる魔術という神秘を、たった数日で自らのものとし、そして最適化してみせた。

 これが恐ろしいと言わずして何と言えよう。天は二物を与えずという言葉があるが、ラインハルトにはそれが適応されない。

 数多の才能。そしてそれを使い熟し、唯我独尊を体現する。

 未来で見るのと、実物を目の当たりにするのでは全く異なる。それ程までに、ラインハルトには人間の極致の一端を感じた。

 

「ラインハルト・ハイドリヒか。あの男もだが、背後に仕えているサーヴァント……俺の直感だが、厄介極まりないぞ」

「へえ、魔術師の君が直感をアテにするなんて」

「俺の霊核が震え、訴えてくるのだ────そこに聖槍があると」

 

 聖槍がある……キャスターだからこそ感じる気配なのだろう。

 となれば、ラインハルトのサーヴァントは聖槍を所有する何れかの英雄。

 

 ────聖槍が待ち構えている。キャスターの持つそれとは異なる聖槍が、黄金の獣の下に。

 

「本当に、末恐ろしい男だよ。君の予感が正しければ、聖槍を引き当てたとなれば順当に聖杯戦争を勝ち上がるだろう。嗚呼、だけど────」

 

 カールもまた、キャスター同様に一つ予感していた。

 この聖杯戦争は、単なる強者が勝ち上がるだけの単調な闘争にはならないのだと。

 千里眼で目視した訳じゃない。だが、未来を見通す眼球がズキズキと訴えてくるのだ────思いもよらない弱者が、この戦いをひっくり返す“ジョーカー”になると。

 

「盤上を覆す存在か。俺は聖槍にしか興味が湧かないが、貴様の言葉をしかと脳に刻み、その時が来るのを愉しみにしておこう」

「うん。きっと愉快な有り様になると思うよ。この聖杯戦争を仕掛けた側の魔術師、儀式に上乗したナチス……どれも強者の側にいる彼らは、対極にいるであろう敵に引っ掻き回されて、儘ならない状況に下唇を噛むだろう」

 

 ただ、黄金の獣は想定外を面白がるだろうが────。

 カールはこれ以上の事は口にしなかった。

 言の葉を紡いで、無闇に未来を固定してしまうのはナンセンスだ。不確定要素を未体験のまま堪能するには、生きとし生けるもののように流れに身を任せなければならない。

 ────はたして、未来視に蓋をし、只人となった僕はどこへ向かい、どのような結末を迎えるのだろうか。

 凶弾に撃たれるか、奸計に貶められるか、狂気に身を滅ぼすか、破壊に身を焼かれるか、聖槍に貫かれるか、相方に嗤われて逝くか、それとも────弱者の下剋上によって果てるか。

 

「そうだ。開戦前に一つ、占星術で未来を占ってみよう」

「……貴様、未来視を封じたのではなかったのか?」

「あんな不正占星術じゃなくて、本当の占星術の方だよ。これでも本職だからね、本来の方もできない事はないのさ」

「先天的な未来視とは別の、貴様本来の占星による未来視か。フッフッフ、どの程度の制度か見ものだな」

「随分と上からな物言いだね」

「上からで当然。俺はサーヴァント、人理に刻まれた英霊の記録帯だぞ? あり方からして貴様の格上の存在だ」

 

 物言いは尊大だが、並べられた言葉は歴然とした事実である。

 英霊が人間以上の存在など今更なので、カールは特に反論せず「それじゃ、ひと勝負しないか?」と挑発的な言葉を投げかける。

 

「キャスターと僕で未来を占おう。君だって占星術で未来視の真似事ができるだろう? なら、ここで互いに星見の占いで如何なる未来を予言し、その後に迎える結末で賭けをしようじゃないか」

「何だそれは。貴様の情けない占星術と同じ結果が出ると思っているのか?」

「情けないとは失敬だね。占い師らしく、僕の占星術も一流だってのを見せてあげよう」

「ふん、酔狂なマスターだ」

 

 そう言いながら、キャスターも星見を始める。

 今宵は一点の雲もない満天の星空だ。これが都心であれば、靄がかかって星を眺めるなどできなかっただろうが、彼らがいる場所はドイツの片田舎の町。星見をするのには最適の環境だろう。

 占星術師であれば、未来を占うのに時間は要さない。故に、二人の星占いの結果は刹那の瞬きのように終了する。

 

「────へぇ」

「────ほう」

 

 そんな呟きが漏れたのは同時だった。後に続く言葉も「これは中々」「愉快かな」と、吟味した結果に興味関心を寄せている。

 

「星見で予見した未来……俺には、貴様の言う弱者が愉快な立ち回りをしているように見えたぞ?」

「奇遇だね。僕もだよ」

 

 奇しくもか、それとも必然からか、占いの結果は両者とも同じものが出たようだった。

 星々を観測し、その先で垣間見た未来の一片……そこには、この時代、このドイツにおいて陋劣の烙印を押され、消耗品として使い潰されそうになっている“弱者”の姿があった。

 けれども弱者は抗い、足掻き、無力であっても諦めず、そうして希望を掴み────我々と同じ土俵へと立った。

 

(いずれ)のナチも予期しなかった……己らが蔑んできた人間に噛みつかれるか。喜劇的な未来だな」

「吟遊詩人がいれば主役として抜擢されただろうね。しかしまぁ……サーヴァントを拝見できなかったのは残念だったね」

 

 占星術が僅かに見せたのは、抗う者が奇蹟を呼び出した場面のみ。如何なる存在が降臨したかは、カールとキャスターにも分からなかった。

 

「さて、占いも未来予知もここまでにしようか。既定路線のように参加した聖杯戦争だが、参加した以上は楽しまないと」

「貴様と同意見なのは誠に遺憾だが、然りだ。確定事象の先読みなぞ興醒めにも程がある。未来は不明瞭だからこそ面白い」

「君が白鳥の騎士に奇跡の大逆転を受けたようにかい?」

「……黙れ」

 

 未来の話柄はそこまで。後の結末は観測者のみが観賞できる……が、その資格を持つカールは後のお楽しみとして只人でいる事を選択した。

 未来を見通して全能を気取り、分かりきった道筋をただ歩くだけなどつまらない。

 聖杯戦争に参加する動機は、マスターとサーヴァントで異なれど、未来視に関する意見だけは同じ見解を持つ二人は、動乱が巻き起こるであろう未来に胸を馳せる。

 

 未来は、星々は、宇宙は、巡る────。

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