""で喋っているのはロシア語という事でお願いします。
「"…さてリーザ、目隠し取っていいぞ。"」
「"……はい"」
あれから数日。
空の旅を経て日本へ渡来、そして空港から車で揺られること数時間。
ようやく目的地に到着し、機密の問題でリーザにずっと付けていた目隠しを外させる。
「"この先に居るのがウチのボスだ、一応粗相のないようにな。"」
「"はい、承知しました。"」
俺がボスの部屋の前で、最後に注意を促すと、リーザは頷いた。
俺はその反応を見て、目の前の重厚な扉を開く。
「失礼します。俺です。」
『あぁ、入れ。』
ノックして声を掛ければ、室内から聞き慣れた声が返ってくる。
その声を聞き届けて扉を潜り抜け、俺はリーザを連れてボスの前まで行く。
「朧、ただいまロシア支部への任務を終了し、本部へ帰投しました。」
「おぉ、久しぶりやな朧、硬っ苦しい報告は書類だけでええ。そんなことよりロシアの女はどうやった?性格キツそうなんがええ言うけど……どや、下の方も
「……ボス、そういう話はまた後ほど。今はこちらの用事を済ませたいです。」
海外出張から帰ってきた部下に対して、真っ先に女と下の話を振ってきたこのオッサンが、この『CLOVER』のボスだ。
まぁ普段からこんな感じで俗世にまみれたオッサンだが……これでも俺より強え殺し屋なんだよな。
普通に下劣極まりない会話をするボスに呆れつつ、俺は本題に入る事にした。
「ボス、本日はこちらの少女を新たな部下として迎え入れたく思いまして……」
「……ほー?」
俺がそう言うと、ボスはリーザへと視線を向ける。
さ
「……っ!」
その視線にリーザは怯えたように一歩後ずさるが、俺は即座に手を掴んで引き止める。
「"はいストップ、逃げない逃げない……取り敢えず大人しくしとけ。"」
「"すいません主様……少し、怖気が……"」
俺の言葉に素直に謝るリーザだが、その体は微かに震えていた。
まぁ無理もないだろう。このオッサンは人を殺す事に関してはプロ中のプロだからな。いや俺も一応プロだけど。
そんな奴の目の前に立って恐怖しない方がおかしいってもんだろうよ。
…もしかしたら別の意味で危機を感じたのかもしれんけど。
「……朧、お前も隅に置けんやんけ。
こないな別嬪さんどこで見つけたんや?しかもなんやえらい優秀そうな……期待できそうやんけ!」
「お目に適ったようで幸いです。」
「おぉ、ほんま朧もやるようになったなぁ………んで、嬢ちゃん名前は?」
「"あ……えっと……?"」
ボスのその言葉に、リーザは困ったように俺を見てくる。
『何を訊かれているか分からない』、そう言いたいんだろう。
「あ、ボス、コイツ多分ロシア語じゃないと喋れません。」
「まぁそりゃそか、ロシア出身やけんな。日本語わからんわな。おけ、もっかい聴くわ。……"嬢ちゃん、名前は?"」
「"あ……私の、名前ですか?私はエリザヴェータと申します。宜しくお願い致します"。」
今度はしっかりとロシア語で聴きかれたリーザは、質問の意図を理解し、俺から与えられた名を名乗った。
「"エリザヴェータ……ええ名前やな、誰に付けてもらったんや?お袋さんか?"」
「"……いえ、両親は2年前に死にました。この名前は主様に…朧様に付けていただきました。"」
「"おぉ……そかそか、まあここには君と似たような境遇の子が沢山おる。皆と一緒に、仲良うしようや。"」
「"はい、これから宜しくお願い致します"。」
リーザはそう言うと、ボスに深深と頭を下げた。
「…ほんで朧、実際この子はどないするんや?同い年の班に混ぜて教育するんか?それともお前が個人的に教育すんのか?」
「そうですね……正直、コイツは俺から見ても相当な才能がありますし、俺の部隊に実習生扱いで入れて"アイツら"に教育させます。
実戦投入は俺がいいと判断した時で構わないかと。」
「ほー、朧がそこまで言うとるんやったらかなりのもんやろなぁ……よっしゃ、その子の教育任せたわ。」
「任されました。"……ということでリーザ、お前は今日から俺の班で鍛える事になった。いいか?"」
「"……主様のご命令であれば、なんであれ私はそれに従います。"」
そう言うとリーザは俺を真っ直ぐに見つめてそう答えてきた。
…リーザの後ろに尻尾が全力でブンブン振ってるように見えるのは俺の幻覚か?疲れてんのかな俺。
「…朧ぉ、お前そのうち刺されて死にそうやなぁ…まぁええわ。
それじゃ朧、この子の教育はお前に一任する。せいぜい優秀な殺し屋に育てぇよ?」
「勿論です。……それでは失礼しますよ」
そう言って俺は扉に手を掛けるが……そこでボスの声がかかった。
「……朧、言う必要あらへんとは思うけど……もし、その子が脱走したり、その子から機密の流出なんかが合った時は……分かっとるな?」
「勿論、そんなヘマはしませんしさせませんよ。……ボスが1番よく知ってるでしょ?貴方が一番最初に育てた部下のは俺ですよ。」
「そやったなぁ……あん時のちっこいガキが、世界最大規模の暗殺組織であるウチの大幹部にまでなるとは俺も思わんかったわ。」
「そりゃどうも。では今度こそ失礼しますよ」
「おう、ほなまたな。」
そう言って俺はボスの部屋を後にし、その足でリーザを連れて訓練場へと向かう。
(今日のこの時間なら確か……)
俺はそう思いながら訓練場の扉を開き、中へと入る。
そこには俺の想定していた通りの奴らが、様々な銃器をぶっぱなしながら訓練に耽っていた。
拳銃、サブマシンガン、アサルトライフル、機関銃、ショットガン、マークスマンライフル、果てはロケットランチャーまで。
無論全て実弾である。
今は実弾演習の時間……丁度いいな。
「整列!」
そんな光景を見て、俺はそう声を上げた。
すると銃声がピタリと止み、訓練していた十数人が集まってくる。
そして、班内の序列順に整列し、気をつけの姿勢でこちらに視線を向ける。
「……よし、全員いるな。…コイツは今日からウチの班で教育する新人だ。あと二ヶ月ぶりだなお前ら、元気してたか?」
「「
「おう。"…リーザ、自己紹介。"」
「"……はい。私はエリザヴェータと申します。
まだまだ未熟な身ではありますが、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。"」
そう言ってリーザは深々とお辞儀をする。
「よし、顔合わせはすんだ。各自訓練に戻れ」
俺がそう言うと、整列していた隊員達はそれぞれの訓練に戻るためにバラバラに散っていった。
「"……リーザ、率直に聞くぞ。あいつらを見てどう思った。"」
「"……本当に素直な意見を言ってよろしいですか?"」
「"勿論だ、何でもいいから率直な意見を聞かせてくれ。"」
俺がそう促すと、リーザはポツリと呟いた。
「"……正直、死ぬかと思いました。足は勝手に震えてましたし、手も震えていました。"」
「"だろうな、あいつらは俺が文字通り一騎当千と言えるほどに育てた逸材共だ。"」
「"……主様もそうですが、何ですかあの方達は。本当に同じ人間ですか?"」
そして、今になって手足をガクガクと震えさせ始めたリーザは、そう聞いてきた。
「"当たり前だろ、お前にはアイツらがゴリラにでも見えるのか?"」
「"正直、主様含めて全員ヒューマンジーとでも言われた方が信憑性があります。"」
「"誰がチンパンジーとのハーフだコラ"」
アホな事言うリーザに軽くデコピンを食らわせ、俺は訓練場を見渡す。
……確かにリーザは優秀だ。かなりの殺しの才能がある。
だが、たとえどれだけ才能があろうと、場数が伴わなければこの世界では生きていけない。
搦手1つを知っているかどうかで生き残れるかが決まる世界だからな。
そして、才能、場数、搦手。この3つが揃っているのがアイツらだ。
先程見たように、銃器の扱いが優れているだけでなく、軍隊格闘術をベースとしたCQCやCQBなどの近接戦にも対応できる。
「"……そう言えばなのですが、主様。何故殺し屋が軍隊の様な訓練や、軍隊に似た組織運用を?"」
リーザは、俺の視線を追って訓練場を見渡した後、俺にそう聞いてきた。
「"あぁそれな……先代のボスまでは、教えることと言えば基本ナイフと拳銃の格闘術、後は人体構造や人体急所を仕込むだけ……まぁ、ザ・殺し屋の教育って感じだった。"」
「"では何故……"」
「"それはな……今のボス―――神轟さんが"暗殺"と言う業態に限界を感じたからだ。"」
「"……と言うと?"」
「"まぁ考えなくてもわかる話だが、暗殺ってのは基本相手に存在を認知されてはいけない。そしてそれはつまり……相手との殺し合いに発展する事がまずないって事だ。"」
「"……そりゃ存在バレてドンパチやってたら、もうそれ暗殺じゃありませんしね。"」
「"そうだ。しかも暗殺されそうになるお偉いさんは、正規兵並みの装備の私兵が10人や20人いるなんてザラにある。
……タイマン程度ならいざ知らず、ユニット単位で動く対軍人用の訓練を積んできたプロに、コソコソ隠れて不意打ちで殺すしか能のない暗殺者……一体どこに勝ち目があんだよって話だろ? 見つかった瞬間に蜂の巣にされて終わりだ。"」
「"それで軍隊式の訓練を?"」
「"ああ、当たり前だが軍隊は殺しのプロ集団だ。単純な銃器の腕は勿論、軍隊格闘術、銃器を用いた近接戦闘、隠密技術など……ほぼすべての分野に一定のレベルで精通している。そんな奴が何万何十万と所属し、それを育てる為の教育環境。運用する為の正しい戦術、戦略。そして統制の為の組織運用。それら全てが整ってる。"」
「"……確かに、改めて聞くと、軍隊とは人を殺す組織において最も模範的かつ効率的と言えますね。
…であるなら同じ殺しの組織として、それらの教育を取り入れると言う考えも、何ら不思議ではありませんね。"」
「"ん〜……軍隊式の教育はその為だけじゃねぇんだが……まぁ、今は取り敢えずその認識でいい。"」
「"……?承知しました。"」
俺の煮え切らない言い方に、首傾げつつもリーザは納得の言葉を見せる。
「"で、教育に関してだが……お前の教育担当は俺じゃねぇんだわ"」
「"え?"」
リーザは俺のその言葉に若干驚いたような表情を浮かべる。
「"単純に俺めちゃくちゃ忙しいし、お前に付きっきりは無理。
何よりお前を教育するのに俺よりうってつけの奴がいる。"」
「"……なるほどでございます。"」
「"俺が言うよりその目で見た方が早い。だから今から会いに行くぞ。"」
「"わかりました。"」
そう言って、俺達は訓練場を出てその人物の下へと向かった。
そして数分後、俺とリーザはそいつが居るであろう訓練場の射撃場へと到着する。
『照準から撃つまでが遅せぇよ!テメェここがアフガンなら3回は死んでるぞ!』
『テメェはリロード時間なげぇよ!マガジン交換にどんだけ時間割いてんだ!』
『十発中3発外すとかテメェどこ見て撃ってんだ!好みの女のケツでも見つけたのか!?』
『テメェはもっと体幹鍛えろ!そんなんでまともに銃構えられんのかよ!ナヨナヨすんな殺すぞ!』
……相変わらずこの訓練場は罵声と怒号が飛び交う、地獄みたいな場所だ。
そしてそんな罵声と怒号の嵐の中……目的の人物に声を掛ける。
「よう後輩、相変わらずキレキレの罵声だな。」
俺のその声に応じてそいつは振り返り……同時に俺へと視線を向けた。
「先輩!?……お前ら、今から腕立て腹筋スクワット百回ずつやっとけ!赤と青は監督しとけよ!」
そう命令された瞬間、先程まで訓練していた隊員達は『イエッサー!!』と返事をするとテキパキとそれぞれ別れて指示されたメニューをやり始める。
そんな光景を眺めながら俺は口を開く。
「よぉ後輩、久しぶり。」
「お久しぶりです先輩!そう言えば帰ってくるの今日だって言ってたっすね!」
「ああ、ついさっきな。」
「…ところでそっちの子供は?先輩の娘……とかじゃないですよね?」
「おう、こいつはロシアで拾ってきたガキだ。……今日ここに来た理由は1つ、コイツを3ヶ月で実戦投入出来るレベルまで育てろ。、お前も教え方は上手ぇからな。」
そう言って俺はリーザの背中を押して前に出す。
「"…エリザヴェータと申します。これからご指導の程宜しくお願い致します。
…あなたのことは何とお呼びすればよろしいでしょうか?"」
「ロシア語か……"俺は水無月、呼び方は……まぁ好きにしろ。"」
「"では教官と。"」
「"お、おう……ま、覚悟しろよ、俺は先輩から預かったガキだろうが、そこで筋トレしてる連中と扱いを変えるつもりはねぇ。途中でへばるようならケツ蹴っ飛ばすからな。"」
「"はい、委細承知しております。"」
「"よし"。……じゃあ先輩、コイツは俺が責任もって育てますんで。今度一緒に飯でも。」
「ああ。じゃ、そろそろ俺は行くわ。」
そう言って俺は水無月の元を後にした。
用語解説?
水無月が言ってた赤と青ってのは、江田島の赤鬼と青鬼的なヤツらの事です。
あと世界的な組織なので、構成員は基本英語喋れるし、ロシア語とかフランス語、日本語とかも日常会話レベルなら喋れるよ!(まあ支部にその土地の言語喋れる奴が当然所属してるのでそこまでのレベルの言語の習得は求められないけど。)
リーザは成長――
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する(クーデレロシア美女)
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しない(合法ロリ)