やぁ、私だ。緑人間だ。更新が一ヶ月以上遅れてすまない。お詫びに私のセクシースク水姿とビキニ姿を見せよう....なに?いらない?まあいい。
という訳で、今日は私の世間話を聞いて欲しい。
先日、秋葉原に行って慧音先生フィギアを買ったんだ.....二つ。合計二万円いかなかったよ。お得だね。
そしたら、そこの店員さんに『慧音好きなんですか?』って聞かれたんだ。恥ずかしかった。
後、この間とらのあなで変な宗教家の方々に話しかけられたよ。丁度東方コーナーで原作見るのに夢中だったから驚いたよ。
何か変な数珠を進められたから怖くなってスタスクみたいに逃げて来たよ。これで流石の宗教家達も永遠にgood☆nightだぜ!!hahahahahaha!!!!
後はハロウィンとか、ポッキーの日とかあったけど全部寝ました。それに、昨夜の例大祭にもバイトのせいで行けなかったんだ。
これも全部乾巧って奴の仕業なんだ.....
いつもの茶番は置いておいて、今回もいつものクオリティですね。でも、時間がかかった分いつもより長いです。はい。
そういえば、UAがいつのまにか千を超えていました。読んでくださった方々、ありがとうございます。嬉しいです!!!
お気に入り件数もまたもや増えていました。こちらもありがとうございます。嬉しいわ!!!
まあ、今回も消えずに生き残った作品をどうぞ。気楽に読んでくれると嬉しいです。
目を開くと、木製の壁が見えた。畳の感覚が心地良いか、身体は気持ち悪い。
身体に異常は無い。服も穴あきジャージのままだ。だか、異常なまでに汗をかいている。なんなんだ、全く。そんなに暑かったか?
タンスに預けた身体を起こす。横には直ぐに取れる様にと置いておいた、武器がある。動かされた様子は無い。
しかし、一体どれ程の時間を寝たのか。ここには窓が無い以上、外の様子は分からない。
引き戸を叩く音なんてしなかった。それなら、まだ引き戸が開かない事に気がつかれていないか?........いや、俺が疲れ過ぎで熟睡していたかもしれない。
引き戸が開かない様に移動させた、タンスに手をかけ、力を入れる。少し重いが、問題無い。持ち上げ、動かす。
一週間寝込んでいた割には身体はなまっていない。良かった。
タンスを元の場所に戻すと、引き戸に手をかける。外から閉じ込められては無いようだ。開き始めると、夕焼けの光がこちらに差し込んで来る。
hmmm........どうやら、自分でも気がつかない程疲れていたらしい。かなりの時間を寝ていたようだ。
引き戸を完全に開けて、部屋の外に出る。音の無い、静かな家の中に自分の足音が響く。上白沢はいないのか?それとも寝ている?
すぐそこの居間に目線を向ける。テーブルの上には布製のドーム状の虫よけを掛けられた食事が置いてある。随分と古いやつだ。虫よけのせいで中身は見えないが、俺への食事だろうか?食べる訳にはいかないな。
しかし、食事はあれど上白沢の姿は、室内には姿が見えない。
居間の中に入り、台所の方へ向かうも誰も居ない。奴の部屋か?
更に家の奥へと向かう。かなり遠いな。
しかし、こんな広い家に一人で住んでいるのは不便では無いのか?理解出来ないな。
奴の部屋の前に来た。扉にノックをする。が、反応は無い。
「おい。」
声を交えてもう一度、今度はもう少し強めに叩く。だが、反応はまた無い。自分の部屋にも居ないのか。
まあいい。少し外に出て、この不快な気分をリフレッシュさせよう。上白沢をわざわざ探す必要も無いだろう。
玄関へと向かい、ブーツを履き始める。ああ、クソ。汗で身体が気持ち悪い。
引き戸を開ける。鍵は掛かって無い。やはり家にあの女はいるのか?それとも鍵を閉め忘れて出かけたか....不用心な奴だな。
外に出ると、やはり夕暮れ時だ。夕焼けが見える。後は周りの家と若干の通行人。少し先には昨夜見た店がある。店先には中年の男が椅子に座って何かを作っている。........どうやら草履を作っているようだ。成る程、そういう店だったのか。
涼しい空気が身体に心地良い。散々ストレスまみれの一週間を癒してくれる。きちんと眠れたのも効果があったのだろう........汗で気分が最悪なのを除いばたが。
辺りを見回しても上白沢の姿は見えない。やはり家にいるのか?それとも何処かに出かけたかのか。
まあいい。汗が乾くまで周りを散歩でもしよう。水をどこから持ってきているのか知らない以上、水浴びも顔を洗う事も歯磨きも出来ない。不便だ。
とりあえず、上白沢宅の周りを回るか。何しろ広い。
「おい、ちょっと。」
男の声で呼び止められた。振り返ると、さっき草履を作っていた男がいつのまにかすぐ後ろに立っていた。
俺よりも高い背、170はあるだろうか。若干肥満体系の体。それに反して細い指は手先を使う仕事をしているだからだろうか。そして、頭髪は薄い。
一体何の用なのか。俺はこいつとは初対面の筈だ。俺が覚えていないだけか?
「お前、上白沢さんの所に泊まってる外来人か?」
しかし、どうしようか。昨日は疲れすぎであまり頭が回らなかったが、良く考えたら今からでも俺の本性を隠すのは無理ではない。上白沢とあの医者に対してはもう無理だが。
しかし、何故俺がここに泊まっているのがバレたんだ?....ああ、俺がここに居るのを知っているのは、近いから見られたのか。
人が良さそうな作り笑いを顔に浮かべながら、対応する。
「え?あ、はい。そうですよ。何か用ですか?」
「ああ、上白沢さんから伝言だ。」
奴から伝言か。やはりどこかに行っているのか?仕事か何かか?
それにしてもあの女は皆から、さん付けだな。普通俺と同年代の奴に敬称なんて付けるか?いや、付けない。
見た目以上に年を取っているのだろうか?やはり、年を取らない人間か?それとも年を取りにくい人間か?....手の隙間から爪が伸びるのか?
それとも何か重要な立場なのか?.....これが妥当だな。
「仕事に行ってくるから、家からあまり離れるなと。後、毒なんて入って無いからある物をきちんと食べろだってよ。」
こいつは嘘を言っているか?こいつがあの女とグルならば毒の件も頷けるし、家から離れるなというのも俺を監視するためと納得出来る。
しかし、あの女とこいつがグルでは無いなら、こいつ単体で俺を騙そうとしている事になる。
ならばなぜだ?家から離れないようにというのは、監視する為ならこちらも納得出来る。だが、飯の事は嘘をつく意味が無い。そもそも何故俺の為の飯と決めつけられる。鎌をかけたのか?それとも中に入って見たのか........警戒だな。
だが、仕事は嘘をつく意味が無い。グルでもグルじゃなくても。ならば、奴は仕事をしているのか。やはり、何か重要な職業に就いている?いや、それ以前に仕事に就いているという事は、あの女は見た目以上の年齢なのか。
しかし、あの食事は俺の為の物だったのか。食わなくてよかった。
「これだけだ。」
「そうですか、わざわざすいません。」
「いや、いいんだ。どうせ、仕事で外に出ていたんだし。それにしても.....」
まだ何かあるのか。用事は済んだだろ、さっさと失せろ。
「いや、とてもじゃないが暴力沙汰を起こしたような奴には見えないと思ってな。」
ああそうかよ、お前がどう思おうが俺は俺なんだよ。お前の意見なんざ聞いていない。
「あの時は少し頭に血が上ってしまっていて.....」
「まあ、大人になれよ。それに今回の事で自警団の連中が何か騒いでるようだしな。」
これも本当だろう。これも嘘をつく意味が無い。
自警団があるのか........厄介だな。素人がやっている以上、個人的私刑があるかもしれないというのに。警察は無いのか?
しかし、自警団が騒いでいるのか。どいつもこいつも俺の平凡の邪魔をしようとしやがって........まともな奴は居ないのか。
「とにかく。上白沢さんが帰って来るまで大人しくしているんだぞ。」
「はい。いろいろとすいません。」
感謝の言葉と共に頭を下げて、上げる。
男が、後ろを向いて店に戻って行くのを目で確認する。
よし、もう少しだけ散歩しよう。
「あ!ちょっと待て!」
後ろから男の声が聞こえる。何だ、まだ何かあるのか。
「上白沢さんの家の後ろに井戸がある。汗が気持ち悪いなら顔くらい洗えよ。」
成る程、水はそこから持って来ていたのか。情報提供感謝する。
「わざわざすいません。」
「いやいや。本当に汗が酷いし、心配でな。」
そこまで酷いか。まあいい。散歩がてら井戸も探そう。
今度こそ店へと戻って行く男の後ろ姿を見送りながら、上白沢宅の周りに向かう。とりあえず、顔を洗おう。散歩はそれからだ。
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昨日から家に新たな同居人が増えた。....が....無理やり連れて来たのがいけなかったのか、それとも元々の性格なのか、かなりやさぐれている。一体過去に何があったらこんな性格になるんだ.....
初めて見た時は怒りをあらわにしていたが、それ以降は全くの無表情だった。そして無愛想。
今、私の家の前で立っている青年.....後藤明はまだこちらに気が付いていないようで、通りの方を見つめている。......もっとも、短い期間で分かった彼の性格から考えると気が付いていてもこちらを無視しているのかもしれない。
まだまだ若い筈だが、慣れない環境に身を置いている割にはかなり冷静な男だ。その雰囲気は大人びているというよりは年を取った大人その物に見える........昨夜の彼の様子を見なければだが。
熊か何かを想像するような厳つい顔つきに、かなり鍛えられた体。案外生きて人里まで来れたのも鍛えていたからなのかもしれない。
そういえば彼はきちんとご飯を食べただろうか。外に出ている所を見ると伝言は伝わっていると思うが、昨日の様子を見ると多分食べていないだろうなぁ.....
彼に近ずいて行くと、こちらに気が付いた様でこちらに目線を向ける。
「やぁ。」
予想に反して、彼から声を掛けてきた........相変わらずの無表情で根暗な雰囲気の顔でだが。
しかし、その顔は何故だか、少し濡れている。顔でも洗ったのか?
「仕事に出かけていたようだが、なんで俺を起こさなかったんだ?」
「いきなり慣れない環境に来て疲れているだろうと思ってな。調子はどうだ?」
「最高。」
相変わらずの無表情かつ感情を感じさせない話し方は、かなり不気味な印象を覚える。正直な話、彼は実は妖怪なんじゃないかと思うほどに。
自分も半獣としてそれなりに長く生きてきたが、彼の様な人間にあったのは初めてだ。非常に特徴的な性格をしている。『お前の過去には一体何があったんだ?』と思わず問いかけてしまうほどには......まあ、聞いた所で彼は答えないだろう。
「そういえば、ご飯食べたか?」
「食べてる訳無いだろう。」
「.....そうか。」
やっぱりか........相変わらず人の事を信用しない。彼は初めて見た外来人だが、外来人がみなこうなら外の世界はそうとう荒れているのだろう。....彼が特別なだけだと信じたい。
「ご飯はまた毒味すればいいのか?」
「ああ。」
「味噌汁だけでも温めるか?」
「いや、いい。」
「........そうか。立って話を続けるのも疲れるだろう。中に入ろう。」
本当に毒味を彼は続けるつもりらしい。『何故私の事が信頼出来ないんだ。』と言いたい所だが、帰ってくれのはろくな回答では無いだろう。意味が無い。
彼との距離感を縮めるにはどうすればいいものか............こちらから歩み寄っても向こうが逃げてしまっては意味が無い。
引き戸を開け、家の中に入る。彼も黙ってついて来る。
靴を脱ぎ、廊下に上がる。........何故か、水の入った家の桶が玄関近くに置いてある。
「ああ、勝手に使って悪かった。」
彼は桶を指差しながら一言。私が桶の方を見たのが目に入ったのか。
「いや、別に問題無い。」
「ならいい。」
そう答えると、彼は桶に手を突っ込み、手を洗い始めた。これの為にわざわざ用意していたのか。土でも触ったのか?
先に居間へと向かう。ご飯がいたんで無いか心配だ。今日はそこまで熱く無かったし時間もそう経って無いから問題無いと思うが........
居間へと来ると昼時と変わらず、虫除けを被ったままの食事がある。
後ろから、彼が入って来た。ああ、座布団を出さないと。
「所で上白沢、少し聞きたい事があるんだが。」
「何だ。」
座ろうと座布団を引っ張ってくると、彼から話しかけて来た。どうしたんだろうか。
「自警団があると聞いたんだが。警察は無いのか?」
「ん?ああ、警察は無い。だから自警団があるんだ。それがどうかしたのか?」
「いや、俺の事で騒いでるそうだ。」
「ああ、最近はただでさえ治安が悪いんだ。私も自警団の一人なんだが、妖怪より人間の方が大変でな。ただの喧嘩でも大事だ。」
「ニューヨークと変わらないんだな。」
にゅーよーくの意味は分からないが、そう言ったきり黙り、私の出した座布団に座る後藤君。
まあ、彼の事は今はいい。ご飯の様子を見ないと。
お椀状の虫除けを外すと、乾燥した白米が乗った茶碗と味噌が下の方に溜まった味噌汁の入った汁椀が現れる。腐っているような匂いはしない。大丈夫だろう。
「ご飯食べるか?」
「お前が毒味したらな。」
「........相変わらずの奴だ。」
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冷えてパサパサになった米と味噌が下に溜まった味噌汁をちょうど飲み終えた所を上白沢が話かけてきた。なんでも、居候するに当たってのルールを決めたいらしかった。
「とりあえず日用品は必要だな。明日にでも買いに行こう。」
「そうか.....ところで少し汚ない話になるんだが。」
「なんだ?」
「下着は外の世界の物があるのか?」
「........外の世界の物を真似た物ならあるらしい。」
「それを聞いて安心した。」
大体明治程の文化が残っている所だ。下着があるか心配だったが、気鬱だったようだ。
「ああ、後、満月の夜は私の部屋に入らないでくれ。」
「何故?」
「満月の日に家に持って帰ってきた仕事を纏めてやるようにしているんだ。集中してやりたいからな。」
かなり力強い言い方をする上白沢。そこまで重要か。まあ、わざわざ覗き見る必要も無いだろう。部屋で何をしようと、俺に害は無いだろう....というか、仕事を溜めるなよ....
しかし、満月の夜か。いかにもオカルトくさい日時を選択したものだ........まあ、単純に分かり易さを優先しただけかもしれない。
「じゃあ、満月の時何かあったらどうすればいい。」
「よっぽどの事が無い限りは自分でなんとかしてくれ。」
「....分かった。」
まあ。何があろうと生き残る自信はあるが、ここでは俺の常識は通用しない。こいつは偽善者っぽいし、何かあった時に適当に時間稼ぎにはなるかもしれない。こいつの部屋はきちんと覚えておこう。
「ああ、後ご飯はしっかり食べるんだぞ。今日はそこまで熱く無かったから良かった物を........腐ってしまったらもったいないだろ?」
「お前が毒味したら食べる。」
「じゃあ、もっと早く起きろ。」
「善処する。」
「全く....」
まあ、身体の疲れは無くなっている。明日は普段通りに起きる事が出来るな。
後は身体を鍛えなければ、少し散歩に行こう。この女に見られたく無い。
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完全に上がりきって無い太陽が空に見える。まだ、朝早い為か少し肌寒い。だが、かなりの人数が大通りを歩いている。都会の朝も早いが、田舎の朝も早いらしい。
しかし、人が多いのは不愉快だ。世界中では多くの人間が死んでいる筈だが、それ以上にボコボコ産んでいるからこういう事になるんだ。
人間は考える葦だ。というのはブレース=パスカルの言葉だか、あれには『人間は弱いが考える生き物だ。』という意味がある。
....だが、奴らは生殖器と排泄器に足が生えただけだ。考える機能なんて無い。人間ですら無い。
いっその事、大洪水でも起こってクズ共が流されればスッキリするのに........まあ、ここには大洪水は起こりそうに無い。何故なら海が無いからな。川と湖しか無い。
しかし、ここは本当におかしな所だ。昨日は気がつかなかったが、所々に昔の日本と現代の物が奇妙に混ざり込んでいる。まるで、コーヒーと牛乳を混ぜ込んだ所に塩とタバスコに素敵な物をいっぱい混ぜ込んだ様な違和感がある。この幻想郷とやらを作った奴は、相当の変人かカオスな物が好きなのだろう。
もっとも、誰かが単体が作った訳では無いんだろうが。
「何か足りない物は無いか?」
「とりあえず、言っていた物は全部買った筈だ。」
「そうか。ならいい。」
昨日とはまた別の白地の和服に例のあのコスプレ帽子を被った上白沢との会話だ。相手は比較的表情豊かだが、俺はいつも通りのしかめ面か、無表情なのだろう。
上白沢との会話はそれっきり沈黙が続く。よし、これが続いてくれ............いや、駄目だ。俺としてはこれで全く問題無いが、今はこの女と二人きりでは無い。変に静かにしていれば、逆に目立つ。
それに昨日の事も踏まえれば、俺がこの女の家に居候している情報も既に広まっているだろう。居候している時点で充分に目立っている。そこに変に不仲な印象を与えたくは無い。
だが、話す話題が無い。俺はこいつの事を全く知らないし、相変わらず頭に被っているあのダサい帽子のセンスを理解出来ない。首が疲れないのだろうか?あんな直ぐに落ちそうな帽子を被ってて........そうだ、この帽子を話のネタにするのもいいかもしれ無い。何度も被っている所を見ると、お気に入りなのかもしれ無い。
「ところで後藤君。」
「なんだ。」
「今晩は何か食べたい物はあるか?」
「つい一時間程前に朝飯を食べたばかりなのに、昼飯飛ばして晩飯か?」
「じゃあ、お昼に何か食べたい物はあるのか?」
「特に無い。」
「無いのか。」
「ああ、無い。聞いて損したな。」
「........そうだな。」
やけに優しいな。こいつ。俺の警戒心を削ぐ為か......
しかし、話すネタが無い。他には何か無いか?話すネタは............ああ、そういえばこいつの仕事の話を聞いていなかった。家に持って帰れる仕事なのだから、文系の仕事なのだろう。
だが、逆に力仕事が出来そうな見た目をしてないが、あの怪力だ。意外にそういう関係なのかもしれない。
いや。空を飛べるんだし、案外がこいつも妖怪退治に請け負っているのかもしれない。現実に居る妖怪がどんな物かは想像もできないが、空を飛べるなら圧倒的なアドバンテージになるだろう.......もっとも、相手も空を飛べれば意味が無いんだろうが。
というか、俺から見れば目の前の上白沢も十分化け物だな。空も飛べ、鍛えた男を軽く持ち上げる怪力に、色素を全力で無視した髪と目の色。良く考えたらとてもじゃ無いが人間とは思えない所ばかりだ。案外満月の夜に部屋に入るなというのも、それに関係しているのかもしれない。例えば狼人間のように変身するとか。
.......まあいい。奴は入るなと言っているんだ。余計な事して、家を追い出されたくは無い。満月の晩だけ特に警戒すればいいんだ。話に戻らないと。
「お前は仕事をやっていると聞いたが、どんな仕事なんだ?」
「稗田家という所から資料を借りて、歴史編算をやっているんだ。」
「そうか。」
歴史編算か....マスコミの報道しない自由同じようなもんだな。さて、こいつはいったいどれだけの都合の悪い歴史を無かった事にしているのか。
........しかし、稗田家か。また重要そうな単語が出て来たな。
近々重要なことをノートに纏めておくか。
「....と言っても毎日仕事があるわけでは無いからな。昨夜も出来上がった仕事を持って行っただけなんだ。」
「楽か?」
「楽かどうかと聞かれれば........まあ、楽だな。」
そんな仕事で大丈夫なのだろうか?一人ならともかく、今は俺という居候がいるというのに........まあ、それなりに稼げるのだろう。それに俺を連れて来たのはこいつなんだ。心配する必要は無い。........まさか金の事を考えずに他人を居候させる程の考え無しでは無いだろう。頭は悪そうでは無いしな。
しかし、ここの歴史か.........少し気になるな。
ある程度の法律や規則はあるんだろうが、それに違反した奴を罰するのが警察では無く自警団であるところを見ると、少なくとも執政者や政府といった物は無い様だ。
その他にも一体どれだけの科学技術があるのか。電気は確認出来たが、車等は確認出来ない。エンジンは無いのだろうか?
............まだまだ情報が必要だな。
「まあ楽であっても、私はこれを大事な仕事だと思っているんだ。」
「何故?」
急に上白沢の顔がさっきまでとはうって変わり、真面目その物に変わる。昨夜俺に対して話をした時と同じ雰囲気だ。
「ここには妖怪がいるのは知っているだろう?」
「ああ。だがそれがどうしたんだ?」
「妖怪は人よりも遥かに長生きするんだ。だから、自分の知らない程昔の事というのはあまりない。」
「そうなのか。」
「そうだ。だが、人間の寿命は妖怪に比べればとても短い。だから歴史の知識の大半は書物に頼ざるおえない。」
「なるほど。」
「そこでだ、その書物が間違った知識だったらどうなると思う?」
「それはまあ........間違った知識を真実だと信じるだろうな。」
「そうだ。もしそれが原因で人間同士で争ったり、妖怪と人間が争ったりしたら損をするのは人間だ。」
「まあ、そうだな。」
「だからこそ、正しい歴史を後の世代に残す為にも、私はこの仕事がとても大事な仕事だと思っているんだ。」
なるほど。正しい歴史を残すか.........これを本当にやる気なら尊敬に値する行為だな。少しだが、好感を持てそうだ。
........もっとも死ぬまで妥協しなければの話だが。絶対に妥協しない男には勝てないだろう。
「いずれは子供達にも正しい歴史を教える為に寺小屋を開きたいと思っているんだ。」
家も広いしな。と付け加える上白沢。なるほど、あのクソ広い家はその為か。
しかし、寺小屋か.........学校なんて物は分かりやすい洗脳施設だと思うがね。
それこそ、学校という場所で教えられなければそこで学んだ子供達にとっては無かった事になる。
学校という物に対する世の中にはこびるクズ共の信頼感は恐ろしい物で、学校で習った事が全てだと信じ込んでいやがる。後で調べようともしないし、そこに事実が隠されているという事に気がつきもしない。このままなら、いずれはナチスやらなんやらといった政治家共に都合の悪い事は無かった事にされるかもしれない........とまで思ったが、言う必要も無いだろう。
だが、一つ疑問に思った事がある
「子供が好きなのか?」
「ん?....いや、確かに私は子供が好きだが....それがどうかしたのか?」
「いや、それだけ聞ければ十分だ。」
どちらにせよ、俺は半年もこの”幻想郷”とやらにいる事になり、そして恐らくはこの少女の家に居候する事になる。ここにいる間に寺小屋なんて開かれた日には最悪の気分だ。子供は嫌いだ。
「そうか、ならいいんだ。」
上白沢宅は近い、彼女の家に着くのにはそう時間はかからないだろう。
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上白沢宅に戻り買った生活必需品を広げてからかなり時間がたった。外は既に少し夕焼けに染まっているが、未だに子供の無邪気な声が時折聞こえてくる。まだ遊んでいるのか....まあ、そんな事はどうでもいい。
先ほどからずっと上白沢の声と来客の若い男の声が聞こえる。話の内容は良く聞こえないが声の様子からして上白沢は困っているようだ。痴情のもつれか何かか?
どちらにせよ、自分が関わって何か変わる訳でも無いし、解決する訳でも無いだろう。余計な事をしてここを追い出されたくは無い。
それに自分にはまだやることがある。そうだ、今自分の目の前に開けられている日記帳の裏にに重要な事を纏める事だ。だれも信用出来なない中で味方は俺自身だけだ。こんな状況で勝つ為には情報の整理が必要だ。敵は世界その物だ。
まず、書くべき事はこの”幻想郷”という土地に関してだな。
『法律はあるのか?』
『執政者や政府といった物がきちんとあるのか?』
『何故何のメリットも無い人間達が妖怪と同居している?』
『妖怪は人を襲うのに何故この人里だけが襲われないようになっているのか?』等々。
疑問を日記帳に書き入れていく。と同時にそれに対する自分の考えも記入していく。
『法律は無さそうだが、ある程度の規則は恐らくある。(妖怪が人里を襲わないにも関係?)』
『政府も執政者も恐らくはいない。だが、自警団はある。』
『始めは物好き連中が住んでいるだけかと思ったがどうやら様子が違うようだ。(幻想郷を覆う結界で閉じ込められてる?........素直に俺を外に返してくれるのだろうか?随時調査必要。)』
『妖怪は一部を除けば人間から恐れられなければならないらしい。ならば、必然的に妖怪は人間に居てもらわなければならない。妖怪は人間を襲うそうだが、人間が減り過ぎない為にまたは増え過ぎ無い為にもこのルールを作った?ならば、妖怪と人間が手を組んでいるのか?だが、自分達を襲う相手と手を組むか?そう考えるとここは人間牧場。人間繁殖場と考えてもいいかもしれない。末恐ろしく吐き気がするが、外でも妖怪が権力を持った屑に変わっただけであまり変わりは無い。だが、法律や警察が無い分、外より危険だ。味方は俺一人だ。』
後は重要な単語とその詳細だ。考えつくだけでも幾つかある。
『幻想郷』『魔法の森』『無縁塚』『妖怪の山』『稗田家』『博麗の巫女』『冥界』........ああやばい。まだまだ書く事あるがトイレに行きたくなってきた。
確か汲み取り式のやつが奥の方にあった筈だ。すぐに行かなければならない程じゃないが、行かない訳にはいかない。
物置部屋から外に出ると、丁度上白沢と来客の男....いや、男と言うには若いが子供と言うには歳をとっている。青年と言うべきだな。この二人に鉢合わせした....しかし、まだ話してたのかこいつら。痴情のもつれだかなんだかは知らないが、さっさと帰ってくれ。
だが、俺の思考とは裏腹に目の前の短髪の青年は嬉しそうな笑みを浮かべる。みなりがかなり綺麗な所を見ると良い所のお坊ちゃんなのかもしれない。
「やあ!君がここに居候している外来人?」
「え?まあ....そうですけど。」
なんなんだこいつ。いきなり親しげに話しかけやがって。赤の他人にこんなに親しげに話して来るのは気味が悪いな。一体何の企みがあるのか........
最も、本当にお坊ちゃんで常識知らずなのかもしれない。
「君は腕がたつんだよね。僕と一戦交えないかい?」
「宮本さん。彼はまだ慣れているわけでも無いし、戦えるような人間じゃないんですよ。」
「上白沢さんは黙っていて下さい。僕には彼の実力を知る義務がある。」
どうやら痴情のもつれでは無く、俺に関係する事だったらしい。しかも、俺の実力を知る為か。暴力沙汰が原因だろうな。
「僕の一族は貴女が生まれる前からここを守ってきたんだ。ここの平和を守る事に誇りを持っているんです!だからこそ彼の実力を見極める必要が僕にはあるんです!」
なるほど。こいつらの一族がこの土地が結界で閉じ込められる前にいた退治屋一族なのか。どんな爺さんなのかと思ったが、なよなよして弱そうだ........最も、退治屋なんて言うんだから何かオカルト的な何かを使うんだろうが。ついでに自警団の一人か?立場は上白沢よりも上の。
しかし、『一戦交えよう』か。何の為だ?単純に俺を倒して、俺より強い事を証明出来れば多少は他の連中に安全を与えられるだろう。
だが、問題はその後だ。こいつは恐らくここを守っている一族なんだろうが強そうには見えない。無論上白沢の様に見た目が弱そうだからと言って何も出来ない訳では無いだろう。しかし、なにぶん見た目はなよなよして弱そうだ。舐められるだろう。
だからこそ、それなりの問題を起こした俺を倒せばこいつの株は上がるという訳だ........だいたいシナリオはこんな所だろう。または、こいつも未だに目的が不明の上白沢とグルで、決闘も何かしら他の目的があるのか........上白沢の目的が分からない以上(偽善者なだけかもしれないが。)グルな時の目的も分からんな。
「ですが!」
「まあいいじゃないですか上白沢さん。」
「え?お前.....」
相手に良い印象を与える為にも親しげな笑みを浮かべ、敬語を忘れずに........だが、それによって上白沢の顔が驚きの表情をみせる。なんだ、そんなに俺が敬語を使ったのが驚きか。それとも笑った事に関してか?
まあ、そんな事はどうでもいい。重要なのは俺の平凡だ。これは問題だぞ。
この決闘を断るには今の俺は目立ち過ぎている。ここに来ても暴力沙汰が後を引いている。クソめ、暴力沙汰が無ければ自分は弱いからという理由で断れたが、後の祭りだ。ならば、ここであえて決闘を受けた方が目立ちにくい。余計な抵抗をせずにだ。
だが、勝つ訳にはいかない。目の前のこの青年は間違い無く人里では有名だ。しかも自警団をやっているんなら他よりは強いんだろう。そんな奴に勝ってしまえば当然目立つ筈だ。負けなければ。それも自然な形で........俺の演技力の見せ所だな。最も、この男が俺よりはるかに強いなら手加減する必要も演技する必要も無いのだが。
「それで時間はどうするんです?」
「お、おい!」
「だから大丈夫ですって上白沢さん。それでどうするんです?」
「君は話が分かる様で助かったよ。明日の正午程でいいかい?」
「特に用事は無いですよね?上白沢さん。」
「え?あ、ああ。特に無いと思うが....」
「じゃあ決まりですね。よろしいですか、宮本さん?」
「ええ、もちろん!それじゃあまた明日。待ってるよ!」
そう言い残すと宮本と呼ばれた青年は別れの挨拶と共に玄関から出て行った。やっと愛想笑いをやめれる。最悪の気分からやっと解放だ。
「すまない....私がちゃんと説得出来ていれば....」
「何故謝る?別にお前が悪い訳では無い。」
「だか.....」
「めんどくさい奴だな....」
まあいい。俺はさっさとトイレに行かねばならない。思わぬ時間を食ってしまった。
「あ。おい!」
「なんだ。」
トイレへ行こうとすると呼び止められた。
早くしろ。
「なんで決闘を受けた?」
下らない事聞きやがって。どうでもいいだろ、そんな事。
........まあいい答えてやろう。まだ尿意は大丈夫だし。
「俺は目立ちたく無いからだ。」
「....どういう事だ?」
「俺が望むのは平凡な生活だ。決して目立たず、周りに注目され無い。そんな生活だ。」
「なら余計に普通に断れば良かったじゃ無いか!怪我をするかもしれないだろ!」
「反抗的な態度が周りに流れれば余計に目立つ。だから受けた。」
というか怪我をしようがしまいが、お前には関係無いだろ。思わず言っているのか、故意に言っているのか........
「しかし.....」
「俺は演技が上手いんだ。適切にやって怪我をした振りをして負ける。わざわざ診療所の世話になる必要も無い。」
「負けるつもりなのか⁉︎」
「ああ。勝てば目立つ。奴が俺より強いなら、演技をして怪我した振り。奴が俺より弱いなら、演技をして怪我した振り。どちらにせよ変わらない。」
「だがしかし.....」
「どちらも怪我をしない平和的な解決方法じゃないか。何か問題があるか?」
若干の沈黙。考えるのか?
「........そうだな、確かにそうだ。」
「納得してもらえて良かった。」
暫くの沈黙の後の回答。
今度こそトイレに行ける。余計な事で時間を使ってしまった。無駄な事だ。
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昨夜から一晩明けて朝。普段どうりに上白沢慧音は台所に立ち、朝食を作っていた........ただ一つだけ普段と違うのは二人分の食事を作っている事だろう。
彼女が作っている二人分の食事。一つは自分の分、もう一つは少し前から彼女の家に居候している青年、後藤明の分である。
味噌汁からは味噌の香りが程よく香り、彼女の気分を高揚させる。少し味噌汁を掬い、小皿に移して飲むと程よい味噌の味が口に広がり、今日の料理も成功である事を彼女に伝える。
彼女は料理を作る事が好きだ。特に作った料理を食べてもらい、美味しかったと、喜んでもらえれば、更に嬉しい........だが、今彼女が料理を作っている相手に限っては恐らくそれは無い。
彼女の頭の中に少し前から居候している青年の事が浮かぶ。まだ彼女は彼に出会って間もないが、ある意味分かりやすい性格をしている彼の行動は、頭の良い上白沢 慧音でなくとも容易に想像出来る。
後藤明という青年には上白沢慧音が知る所問題しか無かった。一見社交的な好青年に見える彼だが、だが、その本性は非常に性格が悪く、人間が嫌いであり(ここは人間の好きな彼女とは正反対である。)、特に女性が嫌いであり、何に対しても毒付き、人間不信な上に何かとバイオレンスな男である。彼女はまだこの程度しか知らないが彼にはまだまだ問題がある。
という風に上白沢 慧音はまだまだ後藤 明という青年の事を一部しか知らない。無論他人の事を....ましては半年もすれば二度と会わなくなる相手の事をわざわざきちんと話をするために知る必要など彼女には全く無いのだが、どうしようもない程にお人好しでお節介焼きな彼女には彼を放っておけなかった........最も、彼を放っておけばどんな事を引き起こすか分からないというのもあったのだが。
「そういえば私は彼の事を全く知らないな.....」
「聞かれて無いからな。まあ、聞かれても答えないが。」
「起きたのなら挨拶ぐらいして欲しいのだか....」
「やなこった。」
料理を作る上白沢 慧音の後ろに音も無く現れた青年、後藤 明。
相変わらず不気味な男だ。と慧音は思った。当たり前だ、いきなり音も無く気配も無く現れれば誰だってそう思うだろう。
彼は相変わらずの無表情で彼女の作る料理を見ている........いや、彼からすれば監視しているのだろう。
「はぁ...まあいい。お前に挨拶の大切さを説いても意味が無いだろうしな。」
「そうだな。俺も説教が嫌いだ。」
「何故私の話が説教になる....」
「お前が説教くさいからだ。」
「まあそうだが........」
後藤 明の言葉に少しムッとして返した慧音ではあったが、実際自分が説教くさい事はある程度彼女にも自覚があるので少し静かにすることにした。
台所の大きなテーブルの上には漬けて置かれた樽から取り出された白菜の漬物が小さな皿に乗せられている。
「なあ...」
「なんだ?」
不意に慧音は後藤 明に声をかけた。その声色は何処か不安げだ。
「今日の決闘、本当に大丈夫か?」
「そう思うなら何か奴について教えてくれ。」
こんな無愛想で態度の悪い男が対しても彼女....上白沢慧音は心配していたのだ。相手の態度は相変わらず変わらないが。
「いや、私も少し顔見知り程度だからなぁ........確か、幻想郷が出来る前からいる退治屋一族の跡継ぎって事ぐらいしか........」
「...それだけあれば十分だな。」
「ああ!思い出した。剣の腕はたつらしいぞ!」
「....そうか。」
『剣の腕がたつ』なんて重要な事を忘れられる程の実力なのか?....と彼は考えたが、こいつとあの男がグルなら油断させる為の演技なのかもしれない。とも考えた。が、まあ、どちらにせよ油断しなければ良い。と彼は完結した。
「まあ、何かやったら私が止めるからな。」
「....なんで俺が何かする前提なんだ。」
「あ、いや、気分を害したなら謝るが........」
「....いや、あながち間違ってない。」
後藤明自身も自身の性格については分かっているつもりだ。だからこそ言い返さない。
「というか、お前も見に来るのか?」
相変わらずの無表情で彼は聞いた。
「当たり前だ。お前を放って置いたら一体何をしでかすか分からない。」
厳しい口調でその言葉に返す慧音。
「負けるつもりなんだから、物騒な事はしない。」
「ついこの間の事を見た私としては信用出来ないな。」
彼女の言う、この間の事とはゴロツキに対して一方的に行った暴力沙汰な事を差している。
人の良い彼女が後藤 明の言葉を信用出来ないのも当たり前と言える程酷かったのだ。
「........まあ、お前に信じてもらえなかろうが、お前が見に来ようが俺にとってはどうでもいい事だ。」
彼にとっての問題は目の前に直面した決闘なのだ。上白沢慧音にどう思われようと、今の彼にはどうでもよかったのだ。
彼は、いかにして、どう上手くやって目立たずに、怪我をせずに決闘に負けるかを考えなければならないのだ。ただでさえ、幻想郷という未知の世界に対応するためにいっぱいいっぱいなのだ。彼の精神には既に余裕が無い。その証拠が先日の暴力沙汰なのだ。
「それに俺が奴より強いとは限らない。」
ヒートアップしたら止めてくれ。と彼は言おうとしたが、彼女の事がまだ信用出来ない事を直前で思い出し、口を閉じる。
外の世界にいた時の彼なら信頼出来ない相手に対して間違っても何かを、しかも自分の生き死にに関係するような事を頼む事なんてありえなかった。が、今の彼は思わずそれしてしまおうとする程、追い詰められている。当然、もとよりこの幻想郷に住まう慧音にはそんな事分かる筈が無く、心優しい彼女でもフォローする事は難しいのだろう。どうしようもない価値観の違いだ。
「....お前がそんな自信の無い言葉を言うとは思わなかったよ。」
「お前の中で俺がどんな人間なのかは知らないが、別に自信が無いから言っている訳じゃない。あらゆる可能性を考えているだけだ。」
「そうか.....」
相変わらずの彼に若干呆れながらも目の前にある釜で炊かれた米の様子を見守る慧音。
決闘まではそう時間は無い。
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太陽が真上に上がる正午前。昨晩の後藤明と青年の約束の決闘までは残り数分も無い。
後藤明はもちろん全力で負けるつもりで挑むのだ。目立たない為に。
だが、実際は剣の腕がたつなんて重要な情報を忘れられているのだからある程度の演技があればあまり問題が無いだろう。
しかし、それでも慧音はまだ心配であったらしく(半分は彼が暴走しないかだが。)後藤明に思い出した事を話していた。
一応相手は高名な退治屋一族の跡継ぎらしく、一般人に比べればそれなりに強いらしい。だが、どうしても上白沢慧音や博麗の巫女と言った特殊な人間にはかなわないらしく、どうしても影が薄くなってしまうらしい。
だがらこそ、突然現れて暴力沙汰を起こした俺というイレギュラーを倒せば自らの株が上がり、一族の繁栄でもなんでもというわけか。と後藤明は思考する。だが、実際はそんな事は全く無く、宮本青年は彼自身の言葉どうり人里の不安を取り除こうとしているだけの”良い人間”であった。しかも、彼は出来れば後藤明に自警団に入ってもらい更に人里を平和に向かわせようとしていた。まぁ、こんな事を言っても宮本青年の性格にも問題はあったのだが........
どちらにせよ、後藤明は目立たない為にも逃げる訳にもいかなかった。ボロ負けでも無く、ギリギリ負けるのでも駄目だ。出来る限り印象に残らない負け方をしなければならない。勝つなんて論外だった。
「なぁ...本当に大丈夫か?」
「........問題は無い....今の所はな。」
上白沢慧音が後藤明に話しかける。やはり、ここまで来ても上白沢慧音は善人だった。無論彼女は純粋な人間では無く元人間の現半獣だが、そこらの人間以上に人間くさい性格をしている。
「何かあったら止めるんだろ?」
「ああ.....だが、何かあっても直ぐには止められそうに無いな。」
後藤明と宮本青年の決闘は彼等が想像していた以上に人気だったらしい。
彼女達の目の前には多人数の人だかりがある。ここからは人だかりの中心の様子がよく見えない。これでは何かあったとしてもすぐには止められ無いだろうし、そもそも何が起こっているかも分からないかもしれない。何しろ決闘なのだから多少の罵詈雑言や悲鳴は上がるかもしれないのだから。
「....今更だが、かなり心配になって来た。」
「俺が問題を起こす事がか?」
「....それもそうだが、もし怪我でもしたらどうする?」
「何の為に医者がいるんだ。それに怪我でもさせられたら相手に慰謝料を払わせてやる。」
模擬戦で怪我と言ってもせいぜい骨折程度だろう。と彼は考えていた。相手は剣を使うのだろうし、木刀あたりを使って。とも。
彼自身は骨折程度はそこまで怖くは無い。どうせすぐに治るだろうし、それより酷い目にあった事もある。今更どうということは無い。
無論、怖くは無いからと言って骨折したい訳では無い。彼はマゾヒストではないのだ。いかにして、怪我をせずに負ける事も今の彼には必要な事だった。
「なぁ.....本当に大丈夫か?」
「あんたもしつこいな。別に俺は自分の実力を過信している訳じゃ無いが、この程度どうという事は無い。」
「彼も腕がたつんだぞ.....」
「どうせ、自分の株を上げるためのお遊びだ。こんなに人が集まっている状況で血は流させない。忌々しい偽善者め....お前と同じだ。」
ここで話していても意味の無い後藤明は特に意味も無く慧音に根拠の無い暴言を吐くと、彼女の静止の言葉を聞かずに人だかりの中に入って行く。
人と人の間の暑い空気が彼を不快な気分にさせるが今は気にする余裕は無い。
「すいません、待たせてしまったみたいで。」
「あ、いや、大丈夫だよ。時間には遅れてないし。」
人だかりを抜けた後藤明は申し訳なさそうな表情を浮かべ(当然演技だが。)宮本青年に話しかける。対する宮本青年め人の良さそうな笑みを浮かべて言葉を返す。
後藤明が来たことにより周りの人間が騒ぎ始める。
「ヒューッ!見ろ、あいつの筋肉を...まるでハガネか鉄だぜ。こいつは宮本さんもやばいかもな..」
「馬鹿言え、宮本さんがあんなゴロツキに負けるわけないだろ。」
宮本青年は紺色の剣道着と剣道袴。腰には木刀を差し、手にも一本持っている。恐らくは後藤明に貸すためだろう。
それを見た後藤明は、俺が剣を使うかどうかも分からないのに気の早い奴だ。とだけ思った。
そして、対する後藤明は動きやすさを優先したのか彼が幻想郷に来た当初に着ていた黒のジャージを着ている。
今だに狼に襲われた時に出来た穴は空いている。上白沢慧音は親切にもこの穴を縫おうとしたが、彼は当たり前のごとく拒んだ。『何を仕込まれるか分からない。』という理由で。
「木刀は使えるかい?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
宮本青年から後藤明に木刀が手渡され、互いに構える。当然、後藤明は剣術なんてやった事など無い。だが、棒を振り回して相手を倒すのは慣れている。
彼にとっては何か特別な必殺技を覚えなくてもいいのだ。いかにして相手の攻撃を避けて、受け止めて、自分の攻撃を相手に当てるかが重要なのだ。そう言ってしまえば彼の攻撃は全て全力。必殺技なのだ。
だから、彼は漫画や何かの様な修行をする前に動体視力を鍛え、腕を鍛え、脚を鍛え、ついでに腹筋も鍛える。
........まぁ、この決闘において負けるつもりの後藤明には全く意味が無いのだが。
「頭、腕、胴の何処かに3回先に当てるか、降参するまでって事で良いかい?」
「はいっ!分かりました。」
「防具は要らないかい?あった方がいいと思うし....必要なら持って来るけど。」
「いやぁ、大丈夫ですよ。」
宮本青年の提案した剣道に似たルールを、後藤明は爽やかな作り笑みを浮かべ、了解する。
「そうかい........じゃあ、始めようか。」
「はいッ!」
宮本青年はその言葉と共に踏み込み、気合いの声を上げながら木刀を振り上げる。
上げられ、振り下ろされる木刀を後藤明の目は確実に捉えた。無論身体も動けたが、敢えて木刀で攻撃を防ぐ。と、同時に顔には焦った表情を見せる。当然演技だが、全力を出していないのを悟らせない為である。
組み合わされた木刀は宮本青年の方から離し、後藤明から距離を置く。
今度は後藤明から踏み込み、腕を狙った一撃を食らわせようとする。当然、手を抜いている攻撃だが。それも悟らせないように表情に力を入れる。
手を抜かれた一撃を宮本青年は難なく避ける。と、同時に後藤明も距離を置く。
またもや、宮本青年からの一撃が踏み込みと共に繰り出される。当然、後藤明には余裕で避けられる一撃だったが、負ける為に敢えてここで攻撃を受けた。
腕と木刀の当たる音が響き、周りの群衆から悲鳴とも歓声とも言える声が少し上がり、同時に後藤明にも痛みが走る。この程度の痛みは彼にとっては我慢出来る。だが、それでは意味が無いので、呻き声と共に顔も顰める。
「まずは一本!」
「つ、強いですね....」
攻撃が当たった事で一時的に戦いが止まり、彼等に話す余裕が出来る。
後藤明は余裕の無さそうな顔をしているが、内心では展開が上手く行き始めて非常に気分が良かった。
この幻想郷に来てから彼は自分の思いどうりに事が運ばずイライラする事が多かったが、自分がここの環境に慣れ始めたからこそ上手く行き始めたのだろう。と、彼は思った。
当然、この上手く行き始めた状況に乗る為に妥協する訳には行かなかった彼はもう一度構え直した、宮本青年に向かって行く。
今度、彼が狙うのは頭。当然のごとく加減された後藤明の一撃が振り下ろされるも、宮本青年はその一撃を右側に弾き飛ばす。
続けて、後藤明は弾かれた木刀を”わざと”そのまま胴に向かって振り払う。
よって、まだ右側にあった宮本青年の木刀は後藤明の攻撃を難なく防ぐ。そのまま、また木刀を弾き、返す刃で体勢が崩れた......振りをした後藤明の胴に打ち込む。
またもや腹部に痛みを覚えた後藤明はまた、わざと顔を顰める。
そして、またもや同じような悲鳴とも歓声とも受け取れる声が周りから響く。後藤明は二度この声を聞いたが、二度とも不快な気分にされるだけであった。賭け事でもやっているのかと思い、やはりもう一度不快な気分になるが、今はそんな事を気にしている場合では無い。
心の中で悪態を一言つくと目の前の宮本青年を見つめる。
「.....ねえ?本気を出しているのかい?」
「当たり前でしょう!いやはや、凄いですねぇ。手も足も出ませんよ。でも、まだ勝負は終わってませんよ!」
「.....うん...そうだね!」
二本目が決まった所で宮本青年の顔がさっきまでの明るい表情から疑いに溢れた顔に変わっていた。後藤明は一瞬本気を出していない事が悟られたのか警戒し焦ったが、こちらが明るい表情で話しかけると元の明るい表情に戻ったので内心汗を拭く。
どうやら、まだ演技をしている事は悟られていない様だ。
決闘自体はかなりのスピードで進んでいる。だが、ここは漫画やアニメの世界では無いのだ。実際には決着をつけるのにはそう時間はかからない。その上、後藤明も模擬戦を長引かせるつもりは無かった。だが適当にやって、ボロ負けはしないが、僅差で負けるような事が合ってはならないのだ。その微妙な加減工合が彼にとってはとても難しい。
構え直された木刀を互いに向け合う。が、今度は互いに動かない。後藤明は自分にはもう後が無いからこそ、最後は全力を出そうとしている........演技をしている為に一度、動きを止めた。そして、宮本青年は動かない彼に合わせて動きを止める。彼等は一種の均衡状況に陥っているのだ。
互いに向かい合った木刀は距離を置いて重なっている。
だが、動きを止め始めた後藤明としてはどのタイミングで動いてもあまり問題は無い。数秒止まれれば、彼はそれで良かった。
だから、動いた。
真っ直ぐ踏み込み、またもや頭部を狙った一撃は今までの攻撃よりは少しだけ早く動いたが、それも所詮は手加減された一撃だった。やはり、この攻撃も難なく防がれ、今度は木刀その物が後藤明の手から離され中を舞う。そして、そのまま頭に一撃当たる。
非常に簡潔かつ短時間で勝負が決まり、周りからは歓声が上がる。勝負は後藤明の負けだ。そして、宮本青年の株が上がり、後藤明も影の薄い負け方でそのままフェードアウトする”予定”だった。そう、このまま後藤明の思惑通りに行けばそんな”予定”であった。
勝負に勝った宮本青年の様子がおかしいのに気が付いたのは後藤明は最初であった。
下を俯き、木刀を握った右手、握っていない左手共々、手が白く成る程力強く握っている。
「じいや!刀を貸してくれ‼︎持って来てるだろ!」
「何にお使うおつもりですか!」
「いいから貸せ!」
頭を上げた宮本青年の顔は憤怒に歪んでいた。そして、その表情のまま従者と思われる老人の名を呼ぶ。
呼ばれて人混みの最前列から出て来た老人の持っていた布に包まれた長い棒......恐らくは日本刀と思われるものを奪い取る。
「貴様ッ!戦いを愚弄するんじゃ無い‼︎」
「な....何だって言うんですか!」
宮本青年は良い人間だ。温厚でお人好し、困っている人を放っては置けなかった。代々人里を守って来た自分の一族を誇りに思っていたし、そして、そんな一族の跡取りで有ることにも誇りを持っていた。
だがしかし、彼は良い人間であると同時に一人の戦士であったのだ。彼は自分がそこまで強く無い事も理解していたし、それを克服する為に努力もしていた。だからこそ、全力で戦う事にも誇りを持っていたのだ。そして、そんな全力の戦いを愚弄する様な人間をどうしても許せなかったのだ。そして、相手が本気を出していないに気が付いた彼の怒りの沸点はいともたやすく越えた。
後藤明は自分が失敗したこの状況においても内心では冷静であった。次にどうすれは、この青年の怒りを収めさせる事が出来るかを考えていた。
だが、本気を出してまた戦うのは論外だ。彼はまだ、宮本青年を騙そうと考えていたのだ。
「お前が本気を出していない事など分かっている。さぁ!本気を出せ‼︎」
そう言いつつ刀を抜く宮本青年。顔は憤怒に歪み、目はギラギラとしている。片手で抜かれた日本刀は怒りで小刻みに震えている。
たが、それでもまだ、後藤明は冷静であった。彼は日本刀を向けられた事は無かったが、今の様な殺意を向けた脅しを受けた事は幾らでもあった。今更どうということ無い。
しかし、冷静であったからこそ、周囲の異常性に気が付いていた。
すぐそばで刃物を持った....しかも、威圧感が凄まじい日本刀という刃物を持っていりのにも関わらず誰も悲鳴すらあげないのだ。それどころか、何処か期待した様な目線が生まれ、人だかりからは期待する様な声が上がり始めて騒がしくなっている。
実際はこの幻想郷では日本刀自体はあまり珍しい物では無い。更に最近の治安の悪さだ。流血すらして無いのだ。まだ、幻想郷の住人にとっては止めるべき自体では無いのだ。だからこそ、もう一度後藤明が木刀を持ち再戦するのを興奮して待っているのだ。
だが、外の世界からやって来た後藤明にはそれが理解出来ない。彼のいた外では果物ナイフを人だかりで出しただけでも警察沙汰だ。
そこには”外”と”幻想郷”の住人の圧倒的価値観の差があった。
「よ....よしてくださいよ!そんな”日本刀”を出して”脅す”だなんて!僕は本気を出しましたよ‼︎」
後藤明は片手を前に牽制する様に出しながら、敢えて日本刀と脅すの部分を強調して大声では無いが、小さくも無い声で言った。これは人だかりの外にいるであろう、上白沢慧音に助けを求める為である。
まあ、時間稼ぎか気をそらす程度は出来るだろう。最も、助けに来ればだがな。と後藤明は思考する。要するに助けを求めてはみたが、彼女を当てにしている訳では無く、保険の様な物だ。彼が最終的に頼れるのは自分だけだ。それに今の騒がしくなった人混みのせいで声はあまり人混みの外には届かないだろう。
そして、彼は宮本青年の注意を自分の言葉からそらす為に焦った様な声色と顔を作りだす。彼はまだ騙そうとしているのだ。
無論、平和的解決を彼が望んでいるわけでは無い。あくまで自分がか弱い被害者になる事で目立たなくする為だ。ここでこの男を倒す事は難しく無いかもしれないが、それでは駄目なのだ。
「ふざけるな‼︎お前が本気を出していないのは分かっているんだぞ!」
「そんな事ありません!」
怒りに歪んだ宮本青年を騙す為に必死で演技を行う後藤明だったが、彼が本気を出していない事が分かっている宮本青年には逆効果であった。
そろそろ作戦変更か。と、後藤明は思った。引き際は抑えなければならない。
あまり難しい事では無い、言葉で気を引きながら宮本青年から目を逸らさずに人混みに紛れればいいのだ。そうすれば後藤明は人間という”肉の壁”を手に入れる事が出来るのだ。流石に怒った宮本青年も無関係の人間を巻き込まないだろう。
........だが、自体は後藤明の想像以上に進んでいた。
「........あ?」
何の脈絡も無くいきなり宮本青年は刀を両手で振り抜き後藤明の胸板を切り裂く。
ばっくりと開いた傷口からは赤黒い筋肉の筋が見え、わずかにある脂肪が第二の皮膚の様に見える。だが、すぐに傷口から溢れ出た、とてつもないの量の血液で全て赤く染まる。致命傷と言っても問題無いかもしれない。
脈絡が無さ過ぎて、一瞬後藤明には何が起きているか分からなかったが、すぐに胸板から激痛が走り、呻き声を上げながら膝をつく。今度は演技でも何でも無い。
「さぁ!このまま殺されたく無かったらきちんと本気を出して、もう一度かかって来い‼︎」
「................」
宮本青年の言葉に無言で返す後藤明。呻き声はすぐに消えて、膝をついて血の吹き出す傷口を押さえているだけだ。既にかなりの量の血液が胸か流れ出ている。いつ貧血になって倒れておかしく無いレベルだ。
この時、後藤明の中にあったのは目の前の男に対する怒りと、周りの人間に対する絶望感だった。
人だかりの人間は目の前で人間がかなりの大怪我を負ったのにも関わらず互いに顔を合わして、どうするか不安げに聞き合うだけであった。悲鳴も上げないが、逃げようともしない。どうすれば分からない子供の様に立ち尽くすだけである。
別にこれは幻想郷のモラルが低下している訳では無く、社会心理学でいうところの傍観者効果という物だろう。
自分以外に傍観者が居れば自分から積極的に行動を起こさない物だ。
周りがやらないからそこまで緊急性は無い、たとえ問題があったとしても同じ事をやった奴が居る。所謂責任分散という物がこの現象に関与している。
学校での自分から手を上げて問題をやろうとする事を想像すれば、分かりやすいだろう。
どうせ誰かがやる、自分がやらなくても誰かが........人だかりに集まった人間の心情はこんなところであった。
だが、そんな他人の心情なんて、後藤明には分からなかった。問題なのは、誰も何もやらなかった事だ。
こんな状況をなんとかしようとする筈の上白沢慧音も、後ろに居すぎたせいで自体を全く把握出来ていないのだ。仕方が無い。
だが、物事を悪い方向に考える後藤明はこの状況に対して、ハメられた。と、考えた。上白沢慧音と宮本青年だけで無く、周りの人間みんなグルなのだ。やけに人が集まって居たのも、俺を囲み逃がさないつもりだったのだろう。とまで考えた。想像もここまで来ればもはや病気である。
後藤明は顔を上げた。その顔は痛みに顔を顰める訳でも無く、怒りに歪める訳でも無く、不気味なほどに無表情であった。
そして彼も何の脈絡も無く一歩踏み出し、宮本青年の足を踏み抜く。痛みに呻く彼を無視して更に頭部へと二発殴りかかる。この間は二秒も無かった。
後藤明に殴りかかられた宮本青年も負けじと応戦しようとしたが、頭を殴られたせいかふらついている。その隙を逃さずに、後藤明は彼の両腕を捻り、刀を無理やり捨てさせる。捨てられた刀は乾いた音を立てて、地面に落ちる。
そして、彼は流れ出る自らの血流を気にする事無く、宮本青年の足を引っ掛け、地面に伏せさせ馬乗りになる。
後藤明の血流が宮本青年の胴着を汚すが、そんな事はお構いなしとばかりに後藤明は宮本青年の顔を殴り始める。マウントポジションを取った形になる後藤明は何度も執拗に殴った。顔は全く無表情だが、何か彼に恨みでもあるのかと疑ってしまうほど執拗であった。
人の顔を殴る撲音と宮本青年の呻き声が、少しずつ湿った音のみに変わって行く。
鼻が折れ、歯が折れ、宮本青年の整った顔が少しづつ腫れ上がって行く。
と同時に後藤明の顔も少しずつ青白くなって行く。貧血なのだろう。だが、後藤明は殴るのを止めようともしない。
後藤明のあまりにも執拗な追い討ちの仕方に、軽い気持ちで見物に来ていた周りの人間は完全に怖気ついて、静かになっていた。今度は傍観者効果など完全に関係無い。
だが、静かになったのは宮本青年にとっては幸運であった。
「どいてくれ!どいてくれ‼︎」
周りが静かになった事でやっと自体を少し把握した上白沢慧音が人混みを押しのけ、入って来たのだ。
そして、胸から血をドクドク流しながら馬乗りになり、宮本青年をボコボコにしている後藤明の姿を見据えると、慌てて止めに入った。
彼女には状況がまだはっきりと理解出来なかったが、とにかく止めなければならなかった。
「ああもう言わんこっちゃない‼︎やめないか‼︎やめろ!」
心優しい彼女は手負いの後藤明に対して、暴力的なやり方で解決する事に戸惑いを覚えた。だが、だからと言ってこのまま放って置く訳にもいかない。
慧音は馬乗りになっている後藤明を背中から羽交い締めにする。着ていた和服が血で汚れるが、気にする余裕は無い。
「離さんか馬鹿者‼︎」
「............」
彼女は後藤明を宮本青年から離そうとするが、彼は黙ったまま踏ん張り、まだ殴ろうとする。彼が足に力を入れるたびに胸から余計に血が吹き出し、彼の顔がどんどん青白くなって行く。
これはまずい。と、慧音は思った。彼女には医療の知識がある訳では無いが、そんな素人の彼女にも分かる程後藤明の顔色は悪かった。
だが、血を失い過ぎたせいか、初めは力強かった踏ん張りもだんだん弱くなって行く。それ以前に上白沢慧音と後藤明では身体能力自体に差があり過ぎる。鍛えているとは言え、ただの人間の後藤明と半獣の上白沢慧音ではどちらが強いかなど目に見えている。
やがて、少しづつ後藤明が宮本青年から離されたが、後藤明は力無くまだ踏ん張っている。が、もう余り意味が無いだろう。
「わ、分かった....大丈夫だ。もう殴らない。」
「........本当か?」
「貧血で今にも倒れそうなんだ。少し離してくれ。」
「........分かった。」
先ほどの無表情と打って変わって、苦しそうな表情と声で拘束を止める事を望んだ後藤明。その表情に思わず、拘束を緩めてしまった......が、当然そんな後藤明の悲痛な表情も演技であった。緩くなった彼女の拘束を抜け、力なく倒れる宮本青年に蹴りを加える。慌ててまた取り押さえる慧音。が、今度は彼女にも容赦が無かった。
「一度落ち着けッ!!」
後藤明の背後から彼女は頭突きを食らわせる。当然意識をこれだけ刈り取る事は出来ないが、彼女は痛みを与えて冷静になってもらおうと頭突きを食らわせたのだ。
半獣の彼女が放つ頭突きだ。当然並みの一撃では無い。
かなりの重たい撲音が響き、激痛に流石の後藤明も呻き、ふらついて宮本青年の傍を離れる。
「ほら、肩を貸すから診療所に行くぞ。」
「...俺は妥協しない。」
「はぁ!?まだ何かするつもりか!?......ああもう!まあいい!!!どなたか宮本殿も診療所に連れて行ってください!」
弱りきった後藤明に肩を貸しながら、慧音は宮本青年の方を見据えた。倒れている事を予想していた彼女だったが、彼は以外にも力強く立ち上がっていた.....刀をナイフの様に切っ先をこちらに向けて構えていたが。
慧音はそれに驚愕し、止めさせようと声を掛けようとしたが、それより早く、後藤明はまた動いた。驚いていた事によって彼女の拘束が一瞬だが緩くなったのだ。
怒りとも悔しさ共つかない叫び声と共に、前方に繰り出される刀の突きを、体を捻り、避け。ジャージの袖口から食事用のナイフ....以前彼が盗った物が飛び出す。驚きに染まる宮本青年の顔をしり目に、捻った体をそのまま宮本青年の右横へと滑り込み、ナイフを右肩へと突き刺す。
叫び声と共に膝をつく宮本青年。肩の傷口からは後藤明には及ばない物、血がかなり流れていた。そこにトドメとばかりに後ろから回し蹴りを放つ後藤明。そして今度こそ地面に伏す宮本青年。この間わずかに五秒も無かった。
ようやく動きだせた慧音によって今度こそ後藤明は拘束された。
「いい加減にしろッ!!一体なんだって言うんだ!!!」
後藤明が手負いでなければ掴みかかり、頭突きをもう一度食らわせててもおかしくない程の剣幕で怒鳴る慧音。事情をまだ完全に把握していない彼女だったが、事情を把握していたとしても彼女は怒鳴っていただろう。やはりやり過ぎなのだ、後藤明は。
しかし、対する後藤明はと言うと.....
「....俺は絶対に妥協しない。絶対にだ。」
相変わらず同じ事しか言わない。この態度に慧音は何か言おうと思ったが、後藤明の胸の傷を思い出し、診療所へと急いだ。
_______________________________________________________________
「そうですか、彼からやった訳では無いんですね.....」
「えぇ。まさか、宮本さんがあんな人だとは....」
ところ変わって人里の診療所。少し前に後藤明と宮本青年が運びこまれ、治療が終わったところである。彼女....上白沢慧音はついさっきの”決闘”の様子を見ていた他の人間に話を聞いていた。
彼女の予想とは違い、後藤明から手を出したのでは無く、意外な事に宮本青年から手を出したのだ。彼女は宮本青年の事をあまり知らないが、目の前の男の様子を見ると、かなり意外だった事が分かる....まぁ、いきなり日本刀で切りかかったのだ。たとえ宮本青年でなくても、驚愕の対象にもなるだろう。
これを受けて慧音は少し悪い事をしてしまったな。と、思ったが。どちらにせよ、自分は多分怒鳴っていたなぁ。とも考えた。
「じゃあ、俺はこれで...あの若いのがまた暴れないように頼みましたよ。」
「えぇ....大丈夫ですよ。」
後藤明に対する若干の嫌悪感を漂わせながらも、男は帰って行った。
男の言葉に言いようの無い不快感を覚え、何か言い返そうと思った慧音であったが、否定材料が無いのでどうしようもない。
そして、彼女は考える。このままいけば確実に後藤明はこの人里で孤立する。広いようで狭いこの人里だ。噂はあっという間に広がるであろう。前回の一件で悪くなっていた後藤明の印象が、今回の件でもっと悪くなった。彼には味方など居ないのだ。自分が彼を何とかしなければならない。
当然こんな事に上白沢慧音は首を突っ込む必要が無い所か、後半年もすれば二度と会わなくなる関係だ。その上、そんな事をした所で相手方からは感謝の言葉どころか、『失せろ、売女。』でも帰ってくればいい方である。
それでもやはり彼女は放っては置けなった。ここまでくれば彼女を間抜けなお人好し。と、呼んでしまってもいいかもしれない。
という訳で、彼女は後藤明と言う青年と話さなければならないのだが、さっそく問題が起こった。
「...い、居ない...」
そうだ、後藤明が居ないのだ。彼女が引き戸を開けるとそこには、もの家の空になり、布団の乱れたベットがあるだけであった。
すぐさま慧音はベットに近ずいて調べた。
布団に手を当てると、まだ温かい。ここ離れてそう時間が経っていないのだろう。そして、この部屋には彼女が入って来た引き戸意外に出入り口が無い。まだ彼はここに居ると見ても良いだろう......と、ここまで推理した彼女の半獣としての超人的な聴覚に液体が上から落ちた様な音が聞こえる。今の一波乱さった静かな診療所であったからこそ慧音の耳にと届いた微かな音であったが、確かに彼女の耳に届いた。
音を聞いた彼女は思わず彼女は天井を見上げた。
「......何をやっているんだ?」
「お前達から逃げる準備だ。」
天井を見上げた彼女の目に入ったのは、天井のツッパリにツッパリ棒のように突っ張っていた後藤明の姿であった。
上半身が露出しているせいで、後藤明の凄まじく鍛えられた熊かゴリラを思わす身体が丸出しであるが、少し血が滲んでいる包帯のお陰で殆どが隠されていた。先ほどの音は血が垂れた音なのだろう。
後藤明は突っ張る事を止め、まるで猫か何かの様に華麗に着地する。それなりの高さがあった筈だが、着地音もまるで鳴らなかった。
「お前血が...」
「触るな。売女。」
後藤明は彼女の心配の声を無視し、心配したがために伸ばされた腕も振り払った。
「...ば、売女ってお前なぁ...言っていい事と悪い事と言うものが...っておい!何処に行くつもりだ!?」
「こんなところにはいられない。どいつもこいつもみんな狂っていやがる。クズばかりだ。」
彼女の手を振り払った後藤明はそのまま、引き戸の外へと出て行こうとする。そんな彼の腕を慧音は力技で引きずり込む。
「...離せ。」
「いや、離さないぞ。行かせる訳にはいかない。」
「.....俺は妥協するわけにはいかない。退け。」
相変わらず感情を感じさせない不気味で平坦な喋り方をしているが、『退け』の部分ばかりに力を込めて言う後藤明。
だが、とにかく今の彼を一人で外に出すわけにはいかなかった。
たが、言葉で言っても意味が無さそうな男だ。だから彼女は手負いの相手に少し迷ったが、これも彼の為と思い、多少手荒なやり方で止める事にした。
「フン.......そんなに外へ行きたいなら、力技でいけば良いだろう?」
「....良いだろう。」
物の数秒もかからずに後藤明が負けたのは言うまでも無いだろう。
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2016年 5月 3日
今日は決闘をした男に本気を出していない。という理由で胸を刀で切られた。しかし、問題なのはそれを見て、誰も止めなかった事だ。いよいよもって世界の崩壊は近いのかもしれない。核戦争なんて起こらなくともだ。
少し前からこの幻想郷という世界に滞在している。が、この世界もおかしい。狂ってる。
話に聞いた所によると、今のこの人里は治安が悪い。強盗に殺人、レイプに薬だ。妖怪やなんぞより、こちらの方がはるかに問題だ。真に怖いのは人間なんだろう。
”幻想郷”だの言っているが、幻想なんてどこにも無い。外と全く変わりはしない。違うのは常識が当てはまらないような事が出来る連中が居るだけだ。
そして、そんな常識の通用しない連中に限ってクズばかりなのが始末が悪い。問題しか無い。
例え妖怪が居ようが、妖精が居ようが、仙人が居ようが、魔法があろうが、空を飛ぶ人間が居ようが、俺のやる事は外とそう変わらない。
俺は絶対に妥協しない。そう、絶対にだ.....
今回はネタが多かった気がする~~~~~~!!あると思います!!!
でも、誰がこんなの分かるんだよ.....ってレベルですね。暇な人は探してみてください。あなたの無駄知識が増える事になります。へぇ~~。
後はオリキャラがゴミ野郎ですね。万死に値する。死ぬがよい。ってレベルです。慧音先生に売女とか....マジ死んでくれですね。まあ、話の展開上暫く死なないだなぁ。これが。
後は慧音先生の必殺技の頭突きが出ましたね。良かった。(オリキャラにダメージが通って。)