異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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序章
001 プロローグ


 

 鈴城(すずしろ)光希(みつき)は趣味があった。

 小説を読むことである。

 

 中でも異世界ファンタジーモノが好きで、剣や魔法で魔物を倒し、成長していくストーリーを探しては読み漁っていた。

 似たようなオンラインゲームがあるとプレイしてみては、やはり空想の余地の大きい小説へと戻っていく、というのを繰り返していた。

 

 

 いつものようにブックマークしたWeb小説の更新分を読んだり、キャラクターメイキング目的で適当に見つけたオンラインゲームを始めたところ、突然表示された広告にうんざりした。

 

 

自殺の決意をする前に

 

 

 最近の広告はゲーム中にも出てくるのか。

 幕間じゃなくて操作中はおかしいだろう。

 消すためのボタンが見当たらないので、クリックして移動した先で閉じるタイプだろうか。

 違ったら、このゲームはやめてまた別の物を探そう。

 

 改めて画面を見ると、表示されている文面に既視感があることに気付いた。

 

 

 

「……まさか、これって」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 大学に入って親元を離れ2年生になる頃、夫婦旅行に行った両親が事故死した。

 突然の出来事にショックで1年ほど休学したが、僅かな親戚も遠方にしかおらず、自分だけでも生きていかなければと自覚して、復学してからは学業と並行してアルバイトにも勤しんだ。

 

 少ない隙間時間で読み進められるWeb小説にハマったのが、この頃である。

 卒業後、なんとかそこそこの企業に就職し、趣味を広げようと様々な娯楽に手を出してみたが、結局戻ってくる先は変わらなかった。

 

 とりわけ気に入って繰り返し読んでいたのが、「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」という異世界ファンタジー小説である。

 世界観も光希の好みであったが、なにより「キャラクター再設定」と「ボーナスポイント」を駆使してジョブを切り替え、スキルを駆使して迷宮を攻略していく様は手に汗握るようで、幾度となく心躍らせていた。

 

 自分も異世界に行ってみたい、同じ世界観でジョブの検証やスローライフをしてみたい。

 自分ならこんな仲間たちと過ごしたい、と妄想が尽きることなく休暇を消化し、また労働へと向かっては週末を恋しがった。

 

 

 その小説で主人公を異世界へと誘ったとされる広告らしきモノが、今自分のPC画面上に表示されている。

 

 

自殺の決意をする前に

 

 

 『ありきたりな自殺抑止広告をクリックすると、ゲームのような世界観設定をさせられた後、出てきた警告を勢いで了承したところ、気がつくとその異世界へ移動していた』というのが冒頭のシーンであった。

 

 作中では自殺サイトと呼ばれるアングラなページを開いていた際に広告が出てきていたが、そもそも異世界へ繋がるなんて眉唾なものが特定の場所にあるとは思えない。

 自分の前に現れるタイミングが今だったということではないか。

 

 何度も読み返したあの文面と同じものが映し出されていることに動揺しながらも、光希は吸い込まれるように広告をクリックしていた。

 

 遷移したページには、あなたが生きるのにふさわしい異世界、として選択肢が並んでいる。

 

 

科学技術が発達した世界、海賊が跋扈する世界、古代世界、剣と魔法の世界……

 

 

 動悸が止まらないままに読み進めると、どれも小説に書かれていた通りの設定項目に思われた。

 

 本当によくできている。

 忠実に再現されたファンサイトとしてなら喝采を送りたいが、関係のないゲームのキャラメイク中に表示されるなど、さすがに設置場所がおかしすぎる。

 

 焦りに震える手でマウスを動かし「剣と魔法の世界」を選択すると、人種の選択に進んだ。

 

 

人間だけがいる世界、人間とエルフとドワーフのいる世界、人間と亜人と獣人のいる世界……

 

 

 やはり、小説の通りの選択肢が並んでいる。

 その中でも「人間と亜人と獣人」を選択する。

 冗談でも行けるとしたら、なるべくあの通りに選んで、近い世界に行きたい。

 

 次は文化の数と、国の数か。

 小説では、いろいろあった方が面白いとか、飽きたら他の国に行く、とあったはずだ。

 文化と国、どちらを指して言っているのかは不明であった。

 

 5段階のうち、とりあえず文化を「普通」に、国は「多い」で進める。

 料理の創意工夫に乏しい描写があったので、文化に関しては「多い」ではないはずだ。

 

 戦争の頻度についての項目は、「やや友好的な世界」を選んだ記述を思い出して次へ移る。

 ダンジョン型かフィールド型かでは、小説通り「両方」を順当に選ぶ。

 ページを進むにつれて、逸る気持ちを抑えきれなくなってきた。

 

 

 ここまで来て、使用言語の設定に入る。

 ブラヒム語、サリニク語、バーナ語、レポル語、スラク語、バルド語、ドリード語と並んでいる。

 ブラヒム語は作中で共通語とされていて、スキルの詠唱にも使われる聖なる言語とも描写されていたので必須だろう。

 

 それぞれの言語にチェックを入れてみると、最大4つまで選択できるようだ。

 原典ではデフォルト選択のブラヒム語だけで決定していた。

 

 作中にも出てきたバーナ語は獣人語であったが、他に表示されている言語はどの人種の言語に当たるのだろうか。

 

 人間なのだから人間語が話せないのは怪しまれる。

 実際、作中でもブラヒム語のみしか扱えない主人公は珍しいと言われていた描写もあった。 

 選んだ言語も会話のみ対応であって、識字には反映されていなかったのもなかなかに苦しい。

 

 彼と選択は違えようとも、可能な限り選択した方が生存確率が上がるだろう。

 ブラヒム語も通じない場所に飛ばされて、交渉する術なく捕まったりしたくない。

 

 獣人語と断定できるバーナ語を入れておけば、ブラヒム語が話せない相手でも、獣人なら通じるという安心マージンが取れる。

 ブラヒム語を選び、仮に残りをバーナ語を除いた5種の内から3種を選んで、人間語が選べなかったら辛すぎる。

 

 けっこうな確率で、ブラヒム語以外に3言語も話せるのに、人間のくせに人間語が話せないものすごく珍しい存在になってしまう。

 しかも話せるのがどの種族の言葉かもわからない。

 

 小説の中では人間、狼人族、猫人族、ドワーフ、エルフ、竜人族、エマーロ族などが登場していた。

 知っている種族の言語がここになかったり、それ以外の種族の言語が含まれていた日には目も当てられない。

 そもそもブラヒム語とバーナ語があるだけで全く違う異世界、という可能性も大いにある。

 

 ここは臆病風に吹かれたと言われようとも、「ブラヒム語」と「バーナ語」を選択するべきだ。

 あと二つは、ブラヒム語とバーナ語を除いて一番上に並んだ「サリニク語」と一番下の「ドリード語」にしておこう。

 「人間と亜人と獣人」の世界というのだから、最初か最後に人間語を置いておいてほしいという希望的観測も含まれている。

 

 

 言語の設定を終えると、ついにボーナスポイントの振り分けである。

 カウンターのやり直しをクリックする度に、二桁の数字がランダムに切り替わる。

 このポイントが99になるまで回すのだ。

 

 様々なゲームの序盤だけ試しているだけあって、こういう無心でやり直す作業は嫌いではない。

 所謂、リセットマラソンというやつだ。

 頑張って希少なキャラクターやアイテムを手に入れたところで、最後まで続けてやるゲームは殆どなかったが。

 

 しかし、これには今後の人生がかかっている……かもしれない。

 最大値を引くまで粘るしかない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 2時間くらい経っただろうか、金色に輝く99の数字がアピールしてきた。

 思っていたよりあっけなく最大値を引けたことで、我に返ってしまう。

 

 何やっているんだ自分は。

 貴重な週末の夜の時間をこんな形で消費するとは。

 

 冷静に戻った頭も、再度設定ページを隅々まで何度も見直しているうちに、本当に異世界へ行けるのではないかと思えて再び熱くなってくる。

 あとはボーナスポイントを振り分けて、キャラクター設定を終えるのみとなった。

 

 仮に詐欺サイトだとしても住所やクレジットカード番号を入力していないので、実害はないだろう。

 後は、異世界に持って行けそうな荷物を見繕ってみるか。

 行けずとも防災用具を整えただけの笑い話にはなるだろうしな。

 幸い、明日は休みだ。

 

 

 荷造りの内容を考えつつ、ベッドへ寝転がる。

 モニターの電源を落とすと今日のことが無かったことになる気がして、そのままにしておいた。

 

 何が必要になるだろうか、と考え始めるとあれもこれもと考えが止まらない。

 じんわりと光り続けるモニターを横目に、いつの間にか光希は意識を手放していた。

 

 

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