異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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010 商館

 パピルスのメモを頼りに、騎士団の駐在所へと向かう。

 文字は読めないが、書き込まれた順番は覚えているのでたぶん場所は合っているだろう。

 それらしき建物の入口に、鎧を着た人が立っている。

 

 

マルク 男 21歳 騎士Lv5

 

 

 鑑定でも騎士と表示されたので、間違いなさそうだ。

 舐められまいとして、腰から下げていたレイピアをフラガラッハに替えて騎士に近づいた。

 盗賊のインテリジェンスカードを差し出して声を掛ける。

 

 

「昨日、迷宮で盗賊に襲われて返り討ちにしたのですが、懸賞金がかかっているか調べてもらえますか?」

 

 

 若い騎士は顔と装備を一瞥すると、盗賊のインテリジェンスカードを受け取った。

 

 

「確かに。

 それでは、カードのチェックを」

 

 

 カードを受け取ったはずの騎士が怪訝な顔をして見つめてくる。

 あ、自分のカードのチェックか。

 慌てて左腕を掲げると、呪文を唱えられた。

 

 

「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」

 

 

 突き出した手の甲から、さらにカードが突き出る。

 本当にどうなっているんだろう、これ。

 

 

「探索者、ご貴族の……いや、自由民……の方で……」

「紛らわしくて申し訳ないです……」

 

 

 騎士が待つように言って駐在所の奥へと引っ込んだ。

 こういったことが面倒だから、インテリジェンスカード照会が絡む小間使いは奴隷にやらせたりするべきなのだろう。

 

 しばらく待つと、小袋を持って騎士が戻ってきた。

 やはり、指名手配されていた盗賊だったらしい。

 

 

「お待たせしました。

 2枚とも懸賞金のかかった盗賊のものでしたので、こちらが賞金です」

 

 

 それなりに重さのある袋を受け取った。

 流石にここですぐ中身を確認するのも憚られたので、そのままリュックにしまい込む。

 礼を言うと、本来は盗賊の殲滅は騎士の仕事ですので、と逆に礼を言われた。

 真面目な人なのだろう。

 

 駐在所を離れた木陰で袋を開けてみると、金貨が12枚と銀貨が数枚入っていた。

 臨時収入にしては結構な額である。

 それだけの犯罪者だったというわけだし、それだけ被害者もいたわけだ。

 

 装備で結構使ったと思ったが、これで手持ちの金貨は50枚以上になった。

 3割引も考えると70万ナールを超える大金だ。

 巾着袋をリュックに戻し、次は奴隷商館へと向かう。

 

 昨日の買い物で様々な店を巡る際に、しつこい店員相手に別の施設の場所を聞いて礼をして立ち去るということを何度か繰り返すことをしていたら、必要な施設の場所はだいたい網羅できていた。

 

 

 3階建ての屋敷のような建物の前に、ガタイのいい大男が立っている。

 

 

ガストル 竜人族 ♂ 38歳 竜騎士Lv40 

 

 

 おそらく用心棒だろう。

 

 

「すみません、ミツキと申します。

 奴隷商館はこちらでしょうか?」

 

 

 大男がこちらを見てそうだと答え、その場で待つように告げると、こちらを見たまま入口の扉を後ろ手にノックする。

 扉の小窓が開き、男と中の者が会話したかと思うと、すぐに扉が開かれる。

 

 中から出てきた男が、竜人族の男の隣に立って口を開いた。

 

 

「当商館にいらっしゃいませ。

 奴隷商人のチェルド、と申します。

 ミツキ様、でよろしかったですか?」

「はい。

 女性の奴隷を探しておりまして……」

「きっとお力になれるものと存じます。

 不躾ながら、当館の規則としてインテリジェンスカードの確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

 そりゃそうだろう。

 生きた商品である奴隷がいるところに、素性のわからない者をやすやすと入れるわけがない。

 左腕を掲げつつ、カードを見られている間にこちらも調べさせてもらおう。

 

 

「構いません、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 

 奴隷商が呪文を唱えている間に鑑定と念じる。

 

 

チェルド 人間 男 30歳 奴隷商人Lv13

 

 

 若そうに見えたが、それなりの年齢だった。

 チェルドがカードを確認するなり、やはりと呟く。

 

 

「ありがとうございます。

 ……失礼ながら、ザノフ様のお店をご利用されたことは?」

 

 

 ザノフ……あ、目利きのおっさんか。

 

 

「はい、古着屋でお世話になりました。

 ……何か不味いことでも?」

「いえいえ滅相もございません!

 ザノフ様には大変お世話になっておりまして、ミツキ様が来られたらよろしく頼むと伺っております」

 

 

 なにやら色々伝わっているようだ。

 根回しが早いと言うか、なんだか怖いな。

 

 チェルドに続いていくと、客間らしき部屋に通される。

 テーブルの向かいには、恰幅の良いいかにも悪徳商人然とした男が待っていた。

 

 

ゴレード 人間 男 54歳 奴隷商人Lv36

 

 

「ようこそ当商館へ。

 館主のゴレードと申します」

「ミツキと言います。

 よろしくお願いします」

 

 

 ソファにかけるように促されると、ゴレードもうなずいて腰掛ける。

 ザノフとは違う圧に気圧されていると、ゴレードが何やら納得したように口を開く。

 

 

「ザノフとは同期でして、ミツキ殿が来られたら便宜を図ってやってほしいと言っておりました」

「そうなのですか」

「あやつとどんな取引をされたかは分かりませんが、ミツキ殿のことを気に入ったのでしょう」

 

 

 現代から持ち込んだ品で興味を引きすぎたか。

 様々な店の経営者やオーナーをしていたり、この根回し。

 監視の意味合いの方が強そうに思える。

 あのザノフの不評を買ったら、この街では生きていけなそうだ。

 

 

 

「さて、本題に入りましょう。

 どのような女奴隷をご所望でしょうか?」

「ええと、迷宮に共に潜る者を探しております」

「戦闘奴隷ですか。

 ああ、ミツキ殿も迷宮に入られるのですね」

 

 

 ゴレードの目配せを受けたチェルドが先行して退室し、準備へ向かったようだ。

 

 

「あとは、代読や代筆もしてもらえると助かります」

「なるほど。

 それにつきましては、ここに限らず大抵の商館ではブラヒム語の教育を行っていますので問題ありません」

 

 

 種族間の共通語にもなっているから、正規の奴隷ならブラヒム語の習得が基本なのだろう。

 そわそわしていると、ゴレードが自前の髭を撫でつつ口を開く。

 ザノフのことですが、と声を潜める。

 

 

「向こうが勝手によくしてくれる分には、甘んじて受けておけばよいのです。

 奴は自分の興味のあるものを見つけることと、人と人をつなげるのが趣味みたいなもので、それだけなら無害なお人好しですので」

 

 

 興味本位で勝手に紹介されてつなげられても困るんだが。

 ブーツを手切れ金代わりに渡してこれ以上関わるなというのもありかもしれない。

 

 

「気負わずに、伝手に困ったらあやつに聞いてみるというくらいに考えておけばいいのですよ」

「はぁ」

 

 

 そんなもんか。

 いざとなれば他の街にでも移れるだろうし、気にするだけ無駄かもしれない。

 

 

「さて、お待たせしました。

 そろそろ準備ができたはずなので向かいましょう」

 

 

 ゴレードの後ろについて階段を上り、一つ二つとドアを開けて進む。

 チェルドが出迎えてくれたその部屋には、何名かの女性が整列していた。

 

 

サンドロテ  人間 女 27歳 戦士Lv9

エルミク  猫人族 ♀ 18歳 探索者Lv3

メリジッド  人間 女 22歳 探索者Lv8

イミリア   人間 女 20歳 剣士Lv6

エグヴィ  狼人族 ♀ 23歳 獣戦士Lv7

 

 

 端から鑑定してみたが、たいしてレベルが高くないように見える。

 実力主義の世界で即戦力なら奴隷には堕ちにくいし、奴隷になってもすぐに仕え先が見つかるか。

 ふらっと寄ったタイミングでちょうどよくヒロインがいるはずがないだろう。

 

 できれば匂いでも何でも接敵前にある程度予見できる者はいるか、と聞いたのが良くなかったのか、そのようなことができると名乗り出る者はいなかった。

 ついでにゴレードにもチェルドにも変な目で見られたと思う。

 

 今後背中を預ける、ずっと共にすることになる一番奴隷を選ぶと思うと、なかなか踏ん切りがつかない。

 次の部屋でも女性の奴隷を見せてもらったが、やはり似たり寄ったりであった。

 

 

「男性奴隷もご覧になりますか?」

 

 

 気を利かせたのかチェルドが提案してきた。

 念の為待たせてあったので、すぐにでも見られるそうだ。

 

 通路を戻り、階段を通り過ぎて反対側へ向かう。

 どうやら男女別棟らしい。

 確かにその方が管理もしやすいのだろう。

 

 案内された部屋には、今度は男性奴隷が並んでいた。

 種族は様々だが身体を資本とする戦闘奴隷なためか皆体格が大きい。

 一人だけ小柄な者もいると思ったが、ジョブが戦士のドワーフだった。

 

 ここでも索敵についての質問をしたが、やはり名乗り出る者はいない。

 あまりジロジロと見すぎたためか、口には出さないものの例のドワーフ奴隷に睨まれてしまった。

 

 そろそろ締め時と判断されたようで、商談部屋での相談を提案をされたので大人しく従う。

 チェルドと別れ、部屋を出たところでゴレードに頭を下げられた。

 

 

「躾が行き届いておらず申し訳ありません」

「変な質問をしたこちらが悪いので……」

「いえ、そうではなく」

 

 

 商談部屋に戻りながら話を聞くと、あのドワーフの態度のことだそうだ。

 エルフに対しての偏見を持つドワーフを客前に出したことが失態らしい。

 そういえばそんな描写もあった気がする。

 

 この際、エルフ周りのことを確認したほうがよさそうか。

 山奥で細々と暮らしていたので種族間の関係や常識に疎いので、気をつけるべきことを教えてほしいとゴレードに伝える。

 最初は渋い顔をしていたが、インテリジェンスカード上には名字はあるが貴族ではなく、両親も亡くなって今は自由民であることを交えつつ頼み込むと、逡巡しつつも口を開き始めた。

 

 

 「こういった考え方の話は客前でするものではないので、私の考えではなく、あくまで一般的に言われているという程度の認識でお願いいたします」

 「それで構いません。

  もちろん、他言しません」

 「ありがとうございます。

  商売人、特に奴隷商という仕事上、偏った認識を持っているように思われるのは非常に困りますからね。

  それでは……」

 

 

 ゴレードが伝聞形式の回りくどい言い回しで説明してくれたが、つまりはこういうことらしい。

 

 エルフの中には、他種族を下に見る者もいる。

 貴族のエルフや、エルフが多数を占める集落出身だとそういう傾向が多いと思われる。

 ドワーフの中にも、自身と比べて非力な種族を蔑視する者もおり、特にエルフに対しては種族的な偏見を持ちがちである。

 

 もちろん、領主として迷宮を管理する者たちや、迷宮に潜る者たちは実力主義が多いので、種族間で偏重しない場合もある。

 エルフを相手にした人間でも、美麗な容姿を褒める者もいれば、長い耳を疎む者もいる。

 結局は、個人によってまちまちということだ。

 

 ただ、エルフの自分としてはそのような考えを理解した上で他人と接した方がよいと言われた。

 奴隷で囲うにしても、エルフ中心の種族構成で契約し、ドワーフを避けるというのも一つの方法ということだ。

 

 失態の挽回もあるだろうが、ここまで話してくれるゴレードは誠実に思う。

 初見で悪徳商人とか思ってすまない。

 

 

 その後も一通り聞かせてもらったが、やはり問題はドワーフについてだ。

 

 これから自分が迷宮に挑んでいくにはスキル付きの装備、つまりそれを作成できる鍛冶師の身内が必須となる。

 スキルスロットを鑑定で確認できる自分が装備を指定して依頼すれば、モンスターカード融合は100%成功する。

 秘密の漏洩や囲い込みを考えたら、奴隷以外の選択肢はないようなものだ。

 

 ドワーフがエルフを嫌悪するのが一般的なら、そういった偏見のない人材を探すところから始めなければならない。

 竜人族と同様に膂力が高いドワーフは、鍛冶師以外でも引く手数多だろう。

 実際、この商館には男女含めてあの睨んできた奴隷以外のドワーフはいないそうだ。

 

 

「今回は選べませんでしたが、背中を預ける仲間を探しています。

 新たな人材がいたら、次回来た際に紹介いただけるとありがたいです」

「かしこまりました。

 別の街の商館への紹介状も書きましょう」

 

 

 ありがたく紹介状も頂戴し、戻ってきたチェルドと共に見送ってくれた。

 さすがに最初に立ち寄った商館に、あの超絶回避ヒロイン級の奴隷がいきなりいるわけがないか。

 

 4階層からは魔物が3体の群れで出現するというし、仲間は早めに欲しい。

 欲しいが、ピンとくる者がいないものはしかたない。

 

 クラザという別の街の紹介状ももらえたし、仲間選びは慎重に、でも早急に進めて行こう。

 






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv7
探索者Lv7/英雄Lv5/戦士Lv6
(村人5 剣士1 商人1)



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24/07/22
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