異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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102 妹

 夕食が終われば、お風呂である。

 洗い物を終えた後は竈の炭の始末をシャオクにお願いして、アコルトには着替えとタオルを用意してもらう。

 

 自分は浴室にミーラスカを案内して、脱衣籠やすのこの説明をしつつ、湯船を紹介した。

 

 

「これがお風呂ね。

 あの角の所で魔法でお湯を作って、この大桶……湯船って呼んでるんだけど、ここに移して体ごと浸かれるようにしてるんだ。

 入る前に、こっちで体を洗って綺麗にしてからね」

 

 

 他の人の目がないので、さすがのミーラスカも落ち着かない様子でキョロキョロしている。

 あ、そういえば給湯が途中のままだった……。

 

 湯船の中のお湯もぬるくなってきていたので、今足していくか。

 

 

「えーっと、スキルについていろいろと説明するけど、今分かりやすいのがあるから見せるね。

 移動魔法の時もそうだったけど、自分は呪文を唱えずにスキルを使うことができるんだ。

 例えば……部屋の角を見ててね」

 

 

 水受けの板を差し込んでせき止め、少し離れてウォーターウォールを発動した。

 前触れなく湧き上がる水の壁と、それが静まった途端に次いで立ち昇るファイヤーウォールには、流石のミーラスカにも衝撃だったようだ。

 

 炎が掻き消えた後は、板を抜いて湯船に熱い湯を流し込んで温度を調整する。

 人数が多いのでお湯も多く作ったほうがいいのか?

 一緒に入れば湯船の湯量は少なくてもいいかもしれないが、もともとこの大桶の大きさ自体を少人数用にしたために4人では、というかミーラスカが一緒だとギチギチになる気がする。

 とりあえず残りの2人がくるまでは、パーティライゼーションも使いつつ給湯作業か。

 

 

 アコルトたちが合流したので、入浴に移ることにする。

 シャオクには2つほどファルフのタワシを持ってきてもらった。

 

 ミーラスカのローブは着古しているのだろう、さすがに洗っても落ちそうにない汚れや擦り切れが多かった。

 取っておくという選択肢も与えた上でどうしたいかという意志を何度も確認し、ミツキの奴隷となって一新するつもりで処分する決断をしたようだ。

 

 それにしても。

 

 ローブを脱ぎ、露わになったミーラスカのハリのある素肌に、一同釘付けになる。

 ごくり、と唾を飲んでまじまじと見てしまった。

 

 

「な、なにかございましたか……?」

「う、ううん、いや、ほら、アコとシャオ。

 ミラに髪から洗い方を教えてあげて」

 

 

 返事をして、2人がミーラスカの手を引いて石鹸や椅子のある場所へ連れて行く。

 ……並ぶと対比がすごいことになっているな。

 

 椅子に座らせたミーラスカの髪を何度も洗い流している間に、自分はファルフを試してみよう。

 泡立つのは洗い物で十分にわかっていたが、肌に使うとなるとその硬さがどうなるかだ。

 

 桶にとった湯にタワシをつけてみると、温度のおかげか繊維自体も水を吸ったときより柔らかくなった。

 泡もつけていれば肌を傷つけることはなさそうだし、体洗い用のスポンジとしても問題なく使用できるだろう。

 色が赤いのが目に付きすぎるが、転がって床に落ちているのに気づきやすいと考えれば、これはこれでアリか。

 

 ミーラスカの髪を流した湯が濁らなくなったので、続いて体を洗う。

 泡立てたスポンジで、アコルトとシャオクの両名から全身を擦られるミーラスカ。

 

 くすぐったさなのか、妙に艶めかしい声を漏らしながら耐える様子は、なんだか見ちゃいけないものを目の当たりにしている気がしてくる。

 その間に自分は先に洗って流し終わったので、湯船の中からそれを見学だ。

 今日はアコルトに不意をつかれることもないぞ、ははは。

 

 十分に体も流し終わったミーラスカを湯船へと手招く。

 キミもお風呂の魅力に堕ちてしまえ。

 

 先輩奴隷たちがまだ体を洗っているので遠慮しているが、先に入ってもらったほうが体積的にも水量の調節が楽なのだと伝えると、恐る恐る足先から湯船に浸かっていく。

 水位の上がり方が違う。

 

 

「……は……ぁん……!」

 

 

 肩まで浸かるように湯に体を落とせと先に伝えておいたら、とんでもない声が漏れ出てきた。

 動揺してザバッと振り向くと顔を押さえて真っ赤にしたミーラスカと、水面に浮かぶ双丘が目に映り、慌てて反対を向いた。

 脱いだ際に見えてはいたが、盛り上がると迫力が違───

 

 

「お嬢様、お邪魔いたしますね」

「入ります!」

 

 

 実際邪魔をする意図はないのだろうが、自分がミーラスカから距離を取ったことで、両隣にアコルトシャオクが入ってきた。

 半分は小柄といえど、やはり4人ではかなりギュウギュウだ。

 湯船からお湯も溢れて零れ落ちる。

 

 他のものも零れ落ちそうになるので、最初に入らせてもらっていた自分は先に上がるとするか。

 

 

「人数も増えたし、次からは全員一緒じゃなくて2人ずつで順番に入ろうか。

 その方が足を伸ばして浸かれるし、ゆっくりできると思うし。

 先に入る方がすのことか入る準備をして、後の方が流して掃除をする感じで」

「そうすると、普段はミツキ様とアコさんがお先になりますかね?」

 

 

 シャオクの質問だが、主人と一番奴隷だし先になるのが当然っちゃ当然か?

 交代制でも構わないが、自分が先のほうが湯の温度を調整しやすいし、あがった後も後続組のために追加で給湯をしやすくはある。

 

 

「そうなっちゃうことが多いかも?

 今日は皆でやるけど、ミラもやり方覚えておいてね」

「承知致しました」

 

 

 前に買った掃除用のブラシで擦りつつ、風呂場を綺麗に流し終えるところまでやった。

 

 

 バスタオルで体を拭いて寝衣を身につける。

 ミーラスカは高級な下着の着用感に感激している。

 

 そうだろう、そうだろう。

 野暮ったいゴワゴワのカボチャパンツなんて、今後暑くなっていく夏場に着ていられるか。

 

 洗濯物は、明日の日中するということで後回しだ。

 帰省の分も溜まっているが、すぐに出かける用事もないしいいだろう。

 

 ハーブティーの残りをそれぞれのコップに注いで2階の寝室に上がり、蝋燭を灯してベッドに腰掛ける。

 ミーラスカは椅子に座ってもらった。

 

 

「昼間にちょっと話したけど、自分の()()()()()()()()()()について説明するね。

 疑問があったらその都度質問を挟んでくれていいよ」

「はい、よろしくお願い致します」

 

 

 姿勢を正してこちらにまっすぐ体を向けた。

 その様子に頷き、アコルトとシャオクとも顔を見合わせてから口を開く。

 

 

「まずはこの家に移動してきた魔法だね。

 ワープと言って実際に行ったことがある、近くで目視できた場所の壁に移動することができるんだ」

「冒険者様のフィールドウォークとは、違うものなのでしょうか?」

 

「うん、大きな違いは遮蔽セメントとかフィールドウォークで制限される場所でも繋ぐことができることだね。

 この家も遮蔽セメントは使ってあるそうだけど関係なく使えるし、一番は迷宮内部にも使えることかな」

 

 

 戦闘中にも使用できて緊急離脱にも使えることを伝えると、驚愕とともに不安が一つ解消されたようだった。

 自らが行くなんて考えたこともない2桁階層へと連れて行くかもしれないなんて言われたら、心配になるのも当たり前だろうしな。

 

 

 そして、自身に複数のジョブが設定できることも伝えた。

 奴隷商人と薬草採取士をセットし、インテリジェンスカードを表示させながらアイテムボックスから遠志を取り出して、それを強壮丸へと変えてみせた。

 カードには魔法使いのミツキだと表示されたままだ。

 

 今回は詠唱短縮に留めたことで、スキル名を発しながら行ったので分かりやすいだろう。

 

 当然ミーラスカは混乱した。

 分かりやすいわけがあるか。

 

 結局、アコルトとシャオクが『主人はこういう方ということだけ理解して、他人には黙っていればいい』と伝えたので、多少は落ち着いてくれた。

 

 

 息を整えたミーラスカに腕を伸ばすように指示し、今度は彼女のインテリジェンスカードを取り出す。

 

 

「パーティーメンバーのジョブも、その人がなれるジョブに1つだけなら変更することができるんだ」

 

 

 そう言いながらパーティージョブ設定からミーラスカのジョブを探索者へと変更する。

 ミーラスカが見ていたカードに記載されていた文字が、僧侶から探索者へと書き換わった。

 

 

 

「な、な、な、な…………」

「今、ミーラスカは探索者になったから、手当ては使えない。

 代わりに『アイテムボックス操作』って言ってみて」

 

 

 これも理解不能だろうから、スキル名を思い浮かべるより口に出したほうが確実だろう。

 おずおずとスキル名を口に出したミーラスカは、いつかのアコルトのように目の前に表示された詠唱呪文に驚いているはずだ。

 

 インテリジェンスカードとこちらの顔を交互に見比べながら、恐る恐る口を開く。

 

 

「主様、わたくしはもう僧侶には戻れないのでしょうか……」

「いや?

 戻せるから待ってね」

 

 

 先程と同じように再びジョブを僧侶へと変更する。

 書き換わったインテリジェンスカードを確認したのであろう、ミーラスカは大きく息を吐いて一先ず安堵してくれた。

 

 

「今みたいにミラのジョブを変更できるんだけど、将来的にどうしようかと思ってね。

 迷宮に一緒に潜ってくれるなら、巫女のジョブがいいかと思うんだ。

 ミラはすでに修行をしなくても巫女になれる素質を持っているんだけど、迷宮に入りたくないなら別のジョブがいいかなって考えてたんだ」

「……迷宮に入れとはお命じにならないのですか?」

 

「2人とも相談したんだけど、やっぱり入りたくないのに嫌々連れていける階層じゃなくなってくるからさ。

 いくら装備を良くしてダメージを受けなくても、身を守るのも無理な人に背中は預けられないよ。

 ミラは迷宮に行かなくても、家にいて家事をしてくれるだけでも十分助かるから、最後は本人がどうしたいかだよね」

「そう、なのですか……」

 

 

 命令ばかりで意見を求められたことはほとんどなかったのだろう。

 しばらく思案中なのか葛藤なのか言葉は出ないまま沈黙が流れた。

 

 

「まぁ今すぐ答えを出して、明日から連れて行くって訳じゃないから悩んでも大丈夫だよ。

 どっちにしたって、もうしばらくはアコとシャオを連れて迷宮に行っている間に、日中の掃除とか洗濯とかしてもらえればいいから」

「ご迷惑をお掛けいたします」

 

 

 アコルトにもシャオクにも、相談に乗ってあげてほしいと伝えてこの件はおしまいにする。

 

 他には鑑定のことも伝える。

 装備に馴染みがないのであまりピンときていないようだが、武器防具商人を兼ね備えたようなものだとシャオクが伝えるので、なんとなくすごいと思われた感じか。

 スキルスロットについては、直接関係あるかはわからないし、次回の融合の際に教えるくらいでいいか。

 

 

 えーっと、あと伝えるべきは……?

 

 

「交友関係でしょうか?」

 

 

 困って見つめたので察してくれたか、アコルトが提案してくれる。

 

 

「あー、そうだね。

 だいたいは会ったときに伝えるけど、自分たちが不在の間に来そうな人は伝えておくね。

 あ、メモいる?」

「いえ、数人程度であれば必要ありません」

 

 

 物覚えもいいらしい。

 なんか何でも卒なくできるの羨ましいんだが?

 

 

「わかった、じゃあまずは、この家の貸主のヤトロクさん。

 不動産をしているエマーロ族で……声が大きいからすぐ分かると思う。

 ミトラグさんっていう弟さんもいるけど、宿屋をやっているからここまでは来ないと思う」

 

 

 ミーラスカは小さく復唱して、記憶に留めようとしているようだ。

 

 

「次に大工の親方のニカドーさん。

 ドワーフの人で、この家の改修をやってもらったんだ。

 今は特に頼んでいるものないけど、工事が終わってすぐだし、もしかしたらお弟子さんあたりがお使いで様子見にくるかもしれない」

「はい」

 

「あとは隣街のルテドーナの商人ギルドのカルムっていうエルフの仲買人。

 こっちも本人は来ないと思うけど、オークションで依頼している関係で使いの人が手紙を届けに来るかもしれない」

 

 

 なんかナチュラルに呼び捨てにしてしまった。

 仲間内だからまあいいかと思ったが、そういえばアレは貴族だった。

 

 

「えっと、さっきのカルム殿は厳しくはないけど、一応クラストンって家の貴族なので気をつけてね」

「しょ、承知しました……」

 

 

 あとは……。

 

 

「一番気をつけてほしいのが、ロングヘアの美人のエルフの人」

「その方がなにか……?」

 

「フェルス様……フェルス・ナルクヴェル・シームラウ様っていう、このシームの街の領主家の第二令嬢様」

「そ、そのような方が直接ご訪問されるのですか!

 主様はご貴族ではないと仰っておりませんでしたか!?」

 

 

 うーん、そうなんだけどね……。

 

 

「貴族がどうとかじゃなくて、フェルス様()そういう方なんだ……。

 身分や種族別け隔てなくっていうか、気に入ったらなんでもっていうか……」

「以前フェルス様にお会いする機会があった際に、お嬢様をいたく気に入られたようで、妹君のように交友されたいと話しておられました」

 

「……というわけだから、近衛兵とか連れて急にこられる可能性がなくはないんだよね」

「はぁ……」

 

「ちなみにさっきのカルム殿は、そのフェルス様の婚約者だから、基本的にカルム殿側から連絡がくることにはなってる。

 なってはいるものの、急に行動されたらもしかしたら……ってことで覚えておいて」

「か、かしこまりました」

 

 

 シャオクも乾いた笑いで目を逸らした。

 アコルトが小さな声で『最初に姉と言われたのは私の方なのに』とぼそっと呟いたのが聞こえた。

 

 え、そんなこと言ったっけ……?

 アコルトについては出来のいい妹のつもりで思ってたけど……。

 

 

~ ~ ~ ~ ~

 

 「必要だと思ったら許可を取らなくても行動しても良いし、自分のことを考えての行動なら多少間違っていても咎めたりしない。

  そうだな、家族……姉だと思って接する感じでいいよ」

 「姉と思って、ですか」

 

 「なんなら余りにもおかしいことをしたら、アコルトが注意して窘めてほしいくらい。

  いけません!って」

 「はあ……」

 

~ ~ ~ ~ ~

 

 

 もしかしてアレか!?

 アレは自分のことを姉で、アコルトが妹で家族だと言ったつもりだったのに。

 

 ……よく考えたらアコルトには元々年の離れた兄と弟と妹しかいないから自身の姉は想像できないし、普通、行動を窘めるのは姉が妹にする行為だ。

 妹が甲斐甲斐しく姉の世話をするなんて一般的には考えないだろう。

 

 自分だけ元の年齢込みで当然こちらが年長者気分で考えていたが、向こうから見たら年齢が少し上なだけで、見た目もアコルトより小柄だし、文字も書けない常識も知らないお世話対象なんて妹にしか思えないはずだ。

 

 あー……初手から関係構築を間違えていた。

 

 背丈だけこちらが勝っているシャオクにも、同様の理由でもしかして主人系妹と思われているのか!?

 ミーラスカはもう、いろんな意味で勝てる気がしない。

 

 うーむ、と悩んだが、別に今の関係性も悪くはないし問題なさそうか。

 結局お世話されるのは変わりないし、親身に思ってくれるならそれに越したことはない。

 

 アコルトの母のノティーさんに言われたあれは、もしかしてもっと甘えろってことなのか?

 年下の美少女に甘えに行くのって精神的にだいぶキツいのですが……。

 

 ……気づかなかったことにしよう。

 なにか違う方向で報いることを考えないとな。

 

 

 

 ミーラスカに伝えるべきはこんなもんかな?

 

 アコルトたちにも確認すると、自分は遠いところの出身で常識に疎い部分があるので、不思議がらずに人前では皆でカバーするようにとのお達しが出た。

 手間のかかる妹ですみません……。

 

 あとは質問があればその都度説明すると伝えて、今日はもう寝ることにした。

 コップを下げてもらい、自分も明日の朝のために洗面用の桶に水を出しておく。

 

 

 生地に触れただけで高級品と分かるそれに対してミーラスカが遠慮したが、すでに身につけている下着と寝間着で布団の値段なんて超えているんだぞ。

 諦めて一緒に寝たまえ。

 

 ベッドが無駄に大きいおかげで、ミーラスカが増えても十分に足を伸ばせる広さだ。

 掛け布団は全体の広さ分は一応あるが、枕は買い足さなきゃな。

 

 

 ともあれ、これでサラトタへの帰省は完了だ。

 一般的には十分な寝床を貸してもらっていたが、やはりこの柔らかい布団のベッドには替えられない。

 明日明後日は適当に過ごし、その次の日にでも商人ギルドへと行くか。

 

 脱力して瞼を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv29
魔法使いLv29/英雄Lv24/探索者Lv29/薬草採取士Lv30/奴隷商人Lv1
(村人5 農夫1 戦士17 剣士9 僧侶27 巫女7 商人30 錬金術師1 細工師1 森林保護官23 盗賊1)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv20

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 僧侶Lv7



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次回は4/14更新の予定です。

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