「モンスターカードのお取引は本日されていかれますか?」
「ええと、合計がいくらになるでしょうか」
行きがけの冒険者ギルドで売却した分で、相場通りならギリギリだったはずだ。
カルムがメモを取り出し、落札額を述べていく。
「───以上10枚で、5万1500ナールの合計となりますね」
手持ちは5万3000ナール弱。
あっぶねー、何とか払い切れる。
昼からはまた3万ナール近く稼げるし、昼食代も大丈夫だろう。
「銀貨が多くなってしまいますが、よろしいですか?」
「もちろん、構いません」
普段の買い物や外食では銅貨を優先的に使うようにしているが、こう大きな額となると流石に出せない。
よって数枚の銀貨と大量の銅貨が手元に残ることとなった。
依頼済みのやり取りはこれで終わりだが、今後スムーズに行うために追加の願いだけは話しておこう。
「カルム殿。
もし杖の取引が上手く行えたら……」
「更なるモンスターカードの落札依頼、でしょうか?」
当然読まれるよな。
本来作る予定のなかったダブルスキルの武器が
「ええ。
資金が潤沢となるからこそ挑戦できるので、交渉が整わなければ白紙にしていただきたいですが……」
交渉成立を前提としての依頼という形で、カルムにも了承をもらって話を進める。
今はシャオクの鋼鉄の篭手に毒耐性がついているだけだ。
手元のカードで耐毒が2箇所、耐痺が3個所、そしてコボルトが1枚余る。
一応はこれで3人分の毒と麻痺への備えはできる。
ミーラスカの分で1セット、今後も考えるともう1セットは確保しておきたい。
白銀武器が手に入った際につける知力のための山羊、予備の身代わりのために芋虫も数枚あってもいいだろう。
前衛にはダメージ軽減もほしいか。
物理ダメージ軽減がスライムで、物理ということは魔法防御のモンスターカードもあるはずだろう。
カルムに確認してみると、
コイ……恋……?
いや、自動翻訳されたイントネーションは同じだが、それらしい魔物といえばケープカープの
魔法が多彩だなんて記述だったと思うし。
あと付けたほうがよさそうなのは、回避力とか移動力とかか。
上の階層に登るなら、少しずつでも前衛に攻撃も入れてもらったほうがいいはずだ。
詠唱中断の武器を当てる際にも、多少なりともダメージが乗ったほうがいい。
そうしたら攻撃力の上がるカードも必要になる。
……欲張りすぎか?
依頼する分の資金はミスリルスタッフの取引で得ているにしても、ちょっと異常すぎるか。
獲得金を全部ギャンブルに突っ込むヤバい人、と思われそうだ。
すでに思われている節もなくもないが。
一旦はずっと必要になりそうな毒麻痺耐性と身代わり、コボルトと山羊だけに留めておくとしよう。
オークションに出てくる大盾がスロットなしだとこのプランすら瓦解しそうだし。
「───それでは蟻と潅木が2枚ずつ、芋虫と山羊が1枚ずつにコボルトが5枚でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「お取引の結果次第というお話でしたので、依頼料の方はその際にいただく形にいたしましょう」
「ありがとうございます、助かります」
でもカルムの自信あり気な様子からすると、取引の日にはカードを取り揃えていそうな気がするんだよな。
その時は資金はあるだろうからいいけどさ。
カルムはこれから鑑定証明を持って、シームラウ家に向かうそうだ。
交渉をよろしくお願いして、こちらも昼食を取ることにした。
商人ギルド周りは小綺麗な飲食店が立ち並んでいる。
今日は全員ちゃんとした服を着ているので、入ってもよさそうだろう。
朝から迷宮に行ったわけでもないので汗もかいていないし。
適当な1軒へと入り、それぞれ料理と飲物を注文する。
自分は煮込み料理でアコルトは厚い焼き料理、シャオクはパンに具材を挟んだ料理。
ミーラスカは決めかねていたようだが、自分と同じものを頼んだようだ。
遠慮なんてしなくていいんだぞ、なんか言わなくても2皿頼んでいる先輩もいるしな。
食べながら、昼以降の予定を話す。
「この後は、昨日と同じく迷宮かな。
ミラは家事をしつつお家で過ごしてもらう感じだけど、いいかな?
買い物とか出掛けてもらってもいいよ」
その言葉に食事の手を止め、スプーンを置いたミーラスカがこちらを見つめてきた。
「主様……。
その……、皆様の戦われるご様子をお見せいただくことは可能でしょうか?」
見学か。
家でずっと悩んでいるよりも、現状を見て判断した方がいいと思ったのだろうか。
戦闘のイメージが沸かないまま決めるよりも、間違いなくいい選択ができるとは思う。
だが。
「見たほうがいいとは思うんだけど、付けてもらう装備がまだ用意できないんだよね」
どこかの馬鹿が後先考えずに使うから、お金がないんです。
盾で魔物を止めてくれているシャオクも、鞭での攻撃も増えてきたアコルトも、被弾を考えると装備の融通は出来ない。
見学で前線に立たせるつもりはないが、囲まれたりすればマズい。
今日明日の分の稼ぎを回せば一揃いくらいはできるだろうが、間に合わせで買っても大金が来た後には買い直しが必要になる。
「なるべく他の群れと離れて、合流しないのであれば大丈夫じゃないですか?」
「それに戦闘中であっても、お嬢様はあのスキルをご使用になられるのではないでしょうか」
あ、ワープか。
もしもの際は緊急退避として壁にゲートを開いて、自宅へ繋いでしまえばいい。
ファイヤーストームのクールタイムの間なら自分も比較的自由に動けるし。
シャオクの方の意見もわかるっちゃわかる。
ミノさえ避ければ、魔物が接触するのは盾持ちで先頭にいるシャオクだけだ。
あとは通路の幅的に3体以上が一度に向かってはこられない。
実際、自分が植物共から被弾したことはないしな。
後ろからの別の群れの合流さえ気をつければ、一応は問題ないということ……か。
しかし装備が皮の靴だけでは……。
うーん、見学の間は自分の帽子とミトンを渡すか。
こちらはジャケットとブーツを身に着けているし、ミーラスカも2部位が竜革装備なら両方それなりの防御補正だろう。
万が一消化液に触れても、一発で瀕死になることもはあるまい。
それに最初から最後までずっと見学させる必要はない。
最初の数戦だけ見てもらって、あとは家に帰せばいい。
ミーラスカも確認だけのつもりのはずだ。
「わかった、最初の何戦かだけね。
迷宮では2人の指示にも従うこと」
「ありがとうございます」
アコルトとシャオクの方が、危機察知能力も対処も自分なんかよりずっと優れている。
どちらかが危ないと思えば一旦全員で引いたほうがいいだろう。
相談も進めつつ食事を終えると、冒険者ギルドに戻って自宅へとワープした。
先程の話を踏まえて防具を身に着けつつ、ミーラスカにも手渡して装備するように指示する。
主人の装備から分配することに遠慮していたが、相談の中で三者から言われているのでこの場になっては素直に竜革の帽子とミトンをつけてくれた。
振るう必要はないが、何も持たないよりはということで銅の槍も持たせておく。
そういえば迷宮に潜ってくれるようになるなら、ミーラスカのジョブは探索者より巫女がいいだろうか。
3倍程度の獲得経験値上昇なら、レベルを1つ上げるのも難しそうな探索者Lv10よりも、Lv1の巫女の方が恩恵が大きいはずだ。
……ちょっと待て、レベル補正なんてものがあった気がする。
万が一を考えればこそ、見学の最中は探索者のままがいいだろう。
シャオクは鍛冶師へとチェンジしたが、ミーラスカのジョブチェンジは後にしよう。
水筒の水を補充した後、何度も確認を繰り返してからカルメリガの迷宮へと移動する。
***
「こちらが……」
「さっき言ったカルメリガの迷宮の13階層だね。
アコ、なるべく孤立してる群れへ案内お願い」
「かしこまりました」
すました顔で指示を出すが、先程パーティライゼーションで強壮丸を使用するまでは青い顔をしていた。
やっぱり長距離移動で1人増えるのは大変だよ。
キョロキョロと周りを見回しながらピッタリと自分の横についてきているミーラスカ。
不安なのは分かるが、そんなに心配にならなくても大丈夫だ。
「いました」
先頭のアコルトが立ち止まり、シャオクが前に出て盾を持ち替える。
フライトラップ Lv13
サラセニア Lv13
サラセニア Lv13
報告に反応して通路の奥に鑑定を飛ばすと、魔物の存在を表すようにウインドウが表示された。
「じゃあ、ミラ。
うちの戦闘はこれだからね」
声だけかけておいて、通路の奥の魔物たちを指定してファイヤーストームを発動する。
詠唱なしで突然発火した様子にビクッとしたミーラスカだが、風呂場で同じものを見ているからか2発目、3発目と近づいてきた魔物が発火を繰り返してもそこまで驚かなくなったようだ。
アコルトの鞭がフライトラップの魔法陣を消失させ、シャオクの盾がサラセニアの突進を止める。
魔物の勢いはこちらに届く前に押さえられ、4発目の魔法で仲良く煙へと変わった。
残された附子と遠志をアコルトが回収し、自分が受け取ってアイテムボックスへと収納した。
「壺みたいなサラセニアも、挟んできそうなフライトラップも、火属性に弱いからだいたいこんな感じ」
細い目がぱちくりとしたので本当に驚いているようだ。
本来は死を覚悟するような場所であるのに、あまりに淡々と終わらせすぎたか。
「お嬢様、ミノがいる群れも近くにございますか……」
一応見せておいたほうがいい、という提案だろう。
確かに先程のあっさりすぎる戦闘が基本だと思われても困る。
あくまで連続階層の魔物の弱点属性が揃っていてラッキーだっただけだ。
「うん、案内お願い。
ミラ、魔法で弱点をつけないとどうなるかってのを見ておいてね」
「しょ、承知しました!」
移動からすぐに目的の魔物たちは見つかった。
発見から3度目のファイヤーストームを浴びせると、サラセニアの隙間を縫ってミノが突進してくる。
シャオクが盾の角度をミノの頭に合わせ、衝突音とともに横に流し弾いた。
そのままの勢いで通路の壁にミノがぶつかったところで4回目のファイヤーストームが発動する。
奥にいたサラセニアは煙へと変わるも、ミノは多少ダメージを受けた様子だがまだ健在だ。
アコルトが鞭を入れつつ、シャオクは盾で押さえつけて腰のカトラスを抜いて足を斬りつける。
その間にも、今度はウォーターストームで攻撃だ。
引きが悪く麻痺も石化もしないまま、8度目の魔法でやっとミノが煙へと変わり、ドロップ品の皮を残して消えた。
シャオクが拾ってアイテムボックスへと仕舞い、こちらを向いて頷いた。
見学はこれでいいだろう。
何度も見せたって同じだろうし、そもそもこの階層は3人で何とかなっている。
家へのワープゲートを開いて、順番に潜り抜けた。
***
「あの階層ではさっきみたいに戦ってるんだ。
今後もっと階層を上っていくと、さっきのミノのように弱点をうまく突けない魔物も増えてくると思う」
ミーラスカを椅子に座らせ、帽子とミトンを返してもらった。
合わせて、ジョブを巫女へと変更しておく。
小休止ということでアコルトには果物を剥いてもらっている。
「ミラにお願いするとしたら、シャオみたいに盾で敵を小さく往なすんじゃなくて、大盾の重量と力で大きく防いでもらう感じかな。
装備も全身ガッチリと鋼鉄とかダマスカス鋼とかで固めてスキルも付けて、敵の進路を塞いでもらうって方が近いかもしれない」
「はい……」
「まぁ装備は揃えるのにもうちょっと時間がかかるから、まだゆっくり考えてもらっていいよ」
「ありがとうございます」
見学をしたいと申し出たくらいなのだから、戦闘への参加は前向きなのだろうか。
それかスッパリと選択肢をなくすための確認をした、とも捉えられる。
あ。
「そうそう、ミラの契約遺言は死後解放にしておいたから、そのあたりは考えなくていいからね」
「そ、そうなのでございますか?」
「はい。
お嬢様の御慈悲で、私たちも同様にしていただいております」
「だってほら、事故で巻き添えって辛いでしょ」
主人が迷宮で死ぬと巻き添えでどこに居ようが死ぬのが困るから、嫌々迷宮についていくなんて考えでは困るので、伝えておいたほうがいいだろう。
風呂上がり待ちに奴隷商人のスキルで弄っていたら、インテリジェンスカード上でちゃんと2人と同じ表記になったので大丈夫なはずだ。
なんだか今日はミーラスカを驚かせてばかりだな。
規格外のスキルを使用しているというのもあるが、情報公開の順番を気にしてやればもうちょっと落ち着いて説明を聞いてくれたかもしれない。
銅貨の袋を手渡して、買い物もお願いしておくか。
今朝はパンを買っていないので夕食分が足りないだろうし。
自分は浴室へと向かい、洗濯用のお湯も作っておいた。
改めてミーラスカに留守を頼み、再び3人で迷宮へと戻った。
慎重に魔物の群れを見極めてもらっていた先程とは違い、ミノだけを避けて戦闘を続けていく。
今日も2つは緑魔結晶を作りたい。
討伐した群れが2桁を超えたあたりで、昨日の続きからの魔結晶の色が変わった。
やはり想定のペースで狩れているようだ。
給水も兼ねて魔物の出ない小部屋へと移り、アイテムボックスの黒魔結晶に取り替える。
すぐに売却できる金貨1枚以上の資産にとりあえず安堵しつつも、討伐を再開した。
「ミツキ様!」
「ん?」
夕方に近づいた頃、ドロップ品を回収したシャオクから声がかかる。
「こちらが落ちたようです」
差し出してきたのはモンスターカードだ。
シャオクの手に握られたそれを対象に、鑑定を念じながら受け取った。
モンスターカード:壷式食虫植物
壷式はサラセニアのカードで、挾式のMP吸収と違ってこちらはHP吸収に使える方か。
「壷式食虫植物のカードだね。
相当狩ってたからいつかはと思ってたけど」
資金は欲しいが流石にモンスターカードは売らない。
前衛の武器か大盾につけるのがいいだろうか?
これも耐性装備と同じく取引後に要検討だな。
それからすぐ緑魔結晶へと変化したので、キリもよくここで引き上げることにした。
今日はさすがに換金してから帰りたいしな。
連日シームで魔結晶を売却するのも不審かと思い、今回はクラザで売却する。
1万ナールが2つもあれば、ドロップ品も足して今回も3割増で3万ナールをギリギリ超えることが出来た。
一先ず資金難は脱出か。
念の為明日一日も同じように結晶化促進で稼いでおこうか。
戦士をさっさと上げたいのも山々だが、資金不安ではしょうがない。
家に戻ると、ミーラスカが出迎えてくれる。
ハーブティーとスープを作ってくれているのは変わらないが、昼過ぎに向かったせいか固いパンしか残っていなかったそうだ。
スープにつけて食べるというのもありだが、今後のためにも簡単にアレンジしてしまおうか。
野菜を細かく刻み、ラム肉も一口の半分くらいの大きさにカットする。
大きいフライパンにオリーブオイルをひいて肉を転がしながら焼き、ある程度火が通ったところで野菜も投入して、塩コショウとハーブを加えて炒め続けた。
野菜の水分が少し出てきたあたりで、切れ目を入れたパンをちぎって散らしていった。
うちには力持ちが2人もいるので問題なさそうだ。
バターを加えて混ぜるように炒め、パンがしんなりとしてきたところで火から外す。
ボウルに卵を溶いて、フライパンの中の具材に回しかけて蓋をし、遠火に置いて焦がさないようにと指示をした。
卵がしっかり固まるまで、自分はお風呂の給湯へ行こう。
3割ほどの湯量が溜まった頃、アコルトが呼びに来たので浴室を出る。
言いつけどおりに、大皿をフライパンに当ててひっくり返して取り出すことに成功したようだ。
竈の火なのでやや焼色が濃いが、焦げるというところまではいっていないのでキッシュもどきとしては合格だろう。
バターと卵の香りが食欲をそそる。
切り分けてもらって、食べ始める。
バターの塩分がつよそうだったので加える前に薄味にしておいたのがよかったようだ。
具材がぎっしりと詰まっていて食べごたえもあるし、食材が余ったときにはとりあえず何でも卵でとじればおいしくなる。
本来は小麦粉なんかを使って土台を作らなきゃいけないが、パイシートがあるわけでもないし時間がかかって面倒だ。
似たような具材を炒めて混ぜて卵で固めるだけなので圧倒的に楽だし、固くなったパンの有効活用ができる。
バターや野菜の水分を吸って旨味も凝縮されているし、肉との食感の違いも楽しい。
ケチャップとかもほしくなるが、まあそれは追々でいいだろう。
入浴も片付けも手早く済ませ、明日へ向けて就寝だ。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv29
魔法使いLv29/英雄Lv25/探索者Lv30/僧侶Lv28/森林保護官Lv24/巫女Lv9
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv23
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv20
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv4
所持モンスターカード
・蟻 1→2
・潅木 0→3
・コボルト 0→6
・壷式食虫植物 0→1
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次回は5/5更新の予定です。