異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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011 会話

 太陽もまだまだ昇る途中なので、今日はこれからレベルを上げていきたい。 

 迷宮の前へワープすると、例の肉串屋の匂いに捕まった。

 朝食を食べてからそれほど経っていないと思うのに、ついつい3本ほど購入してしまう。

 

 食べながら入口に近づくと、周囲に立っている探索者の中に、小柄な女の子がいた。

 

 

シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11

 

 

 探索者のレベルが10を超えてしまっているので、鍛冶師にはなれないのだろうか。

 ドワーフの女性は髭ではなく毛量がすごいらしいが、この子は首までくらいでスッキリしている。

 その代わり、切りそろえているというよりは毛先がまばらでザクザクになっているが。

 

 

「何階までですか?」

 

 

 じっと見つめてしまっていたからか、声をかけられた。

 階層案内の依頼と思われてしまったようだ。

 この子はドワーフでも、エルフには普通に対応してくれるらしい。

 

 

「いや、必要は……」

 

 

 断ろうとしたが、せっかくなので各階に出現する魔物を聞くことにする。

 ソロで行けるとしたらせいぜい3階層までだが、それ以降の魔物の情報を得ておくに越したことはない。

 

 

「行ったことのある階でいいですか?」

「3階層から上でお願いします」

「ええっと……3階層からだとニードルウッド、グリーンキャタピラー、スパイスパイダーです。

 6階層はニートアント、7階層はナイーブオリーブ。

 8階層がチープシープで、9階層はエスケープゴートですね」

 

 

 4階層が芋虫だとやはりソロはきついな。

 いくらデュランダルでも、刃の届かない後列から糸を吐かれたら止めようがない。

 

 

「10階層からスローラビット、11階層がミノで、12階層がフライトラップ……」

「ちょ、ちょっと。

 何階まで進んでるの?」

 

 

 この子レベル以上にものすごく強いのか?

 いや、お世辞にもそこまで良い装備には見えない。

 

 

「15階層までです。

 あ、荷運び(ポーター)としてついて行ったので、ボク自身はほとんど戦闘していないです」

 

 

 なるほど、ボクっ娘か。

 いや荷運びか。

 たしかに探索者のドワーフなら、ダンジョンウォークもアイテムボックスもあるし、力も強いから運び屋としては有用か。

 

 魔物情報の料金を聞くと、ギルド員ならギルドで調べれば分かることだからもらえないと言われた。

 ただその目は肉串を捉えていたので、まだ手を付けていない2本を食べきれないからあげることにした。

 真面目なボクっ娘は大切にしないとな。

 

 

「い、いいんですか?」

 

 

 ペコペコと頭を下げて礼を言ってきたので、手を振って別れた。

 

 迷宮の入口を進み、1階層を選択して奥へ進んだ。

 よく考えたら迷宮前ではなく1階層の小部屋に直接ワープすれば、余計な出費もしなかったのではないか。

 階層の情報も得られたからプラスということにしよう。

 

 通路を進んだ先で、コラーゲンコーラルを見つける。

 慢心の指輪を装備してフラガラッハで2回ほど斬りつけると、煙に変わった。

 Lv1のコラーゲンコーラル相手に1回攻撃すれば、HPが半分以下になるということだ。

 

 僧侶のジョブ取得条件は素手で魔物を倒すことなので、もう1体探すことにする。

 ボス部屋と反対方向に伸びた通路を進むと、角を曲がった先でコラーゲンコーラルと鉢合った。

 

 フラガラッハで一度切りつけた後、キャラクター再設定とパラレルジョブ、指輪以外のボーナスポイントを全て腕力に振り切る。

 跳ねて近づいてくる岩頭と自分の拳とを見比べ、意を決して殴りつけた。

 

 思っていたほど痛くなく、先ほどと同じように煙になって消えた。

 装備の防御力や腕力のお陰だろうか、確かに硬いモノを殴ったような感覚だったが反動ダメージとしてはほとんど無いらしい。

 

 周りを確認してからジョブ設定をつけて見てみると、僧侶のジョブが取得できていた。

 

 

僧侶

 効果 精神小上昇 MP微上昇

 スキル 手当て

 

 

 回復スキルを使えるのは嬉しいし、なにより貴重なMPの補正もありがたい。

 コーラルゼラチンを拾ってボーナスポイントを調整すると、2階層入口へとダンジョンウォークで移動した。

 

 昨日と同様、コラーゲンコーラルに注意しつつ、コボルトを切り捨てる作業に移る。

 別の行き止まりの通路を引く頃には探索者のレベルが上っていた。

 

 ふと思ったが、もう一段階下のボーナス武器・四の長剣であるアローケンにも攻撃2倍がついているので、さらにポイントを節約できるのでないか。

 ただし、デュランダルの防御無視やフラガラッハの防御低減のような相手に直接作用する効果はついていない。

 1体のみのコボルトが出たタイミングで、試しにアローケンに変更してみる。

 

 

アローケン(攻撃力2倍 詠唱遅延)

 

 

 切りつけたコボルトは一撃では倒れなかった。

 2回目の切りつけで、青い体は煙に変わった。

 同じ攻撃力2倍で差があるとなると、武器自体の攻撃力の違いが大きいのだろう。

 

 そのままコラーゲンコーラルにも挑んでみたが、フラガラッハの3撃からアローケンでは5撃もなってしまった。

 コラーゲンコーラル自体の防御力が高くて、フラガラッハの防御低減の効果割合が高いのかもしれない。

 

 流石にこれだと合流された時に囲まれるので、大人しくフラガラッハでの戦闘に戻る。

 パラレルジョブを増やすにも、微妙にポイントが足りず非常に悩ましい。

 付けないよりはマシということで結晶化促進でも取得するか。

 

 戦士のレベルが上ったところで僧侶に付け替えることにする。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv9

探索者Lv9/英雄Lv6/僧侶Lv1

 キャラクター再設定    1 鑑定         1

 ワープ          1 詠唱省略       3

 3rdジョブ        3 武器・五      31

 アクセサリ・一      1 獲得経験値10倍  31

 必要経験値1/10   31 結晶化促進4倍    3

                     (残1/107pt)

 

 

 何度目かの小部屋を抜けた先で、扉のある部屋へ出た。

 1階層の待機部屋に似た雰囲気があるので、ここが2階層のボスの待機部屋だろうか。

 

 待っている人は誰もいないのですぐに入れるようだ。

 念の為経験値効率を一段階ずつ落として、そのポイントでデュランダルへと持ち替えた。

 

 奥へ進み、扉が閉まると周囲から現れた煙が部屋の1点に集まり出した。

 その煙が晴れる頃、大剣を持ったコボルトが現れる。

 

 

コボルトケンプファー Lv2

 

 

 喚いている割に大剣が重たいのかゆっくりした動きで近づいてくる。

 振り回すのも持ち上げるのもゆっくりで、危なっかしいという意味で危険である。

 

 普通のコボルトのほうが小回りが利いて、ナイフを投げてきそうで危険な気がする。

 実際は頑なにナイフを離さず切りつけようとしてくるだけなのだが。

 

 コボルトケンプファーが大剣を持ち上げる間に後ろに回り、デュランダルで斬りつける。

 ラッシュを念じると一連の動作が敵に打ち込まれるが、流石に一振りでは倒せない。

 

 剣の重量で叩き切る攻撃に注意すれば、予備動作が大きくゆったりとしてるので一撃離脱で問題なさそうだ。

 2度目のラッシュで斬りつけると、コボルトスクロースが残った。

 2階層で取れるなら砂糖は貴重ではないだろう。

 高く売れるならこんなに2階層がガラガラじゃないはずだ。

 

 ともあれボスがデュランダルでも2撃となると、フラガラッハでは4回以上は攻撃しないといけない。

 いくらゆっくりな攻撃だろうと、戦闘時間が倍になるのは集中力が持たないかもしれない。

 竜革装備が軽減してくれるとはいえ痛いものは痛いはずだ。

 

 緊急時に回復をしてくれる仲間がいないので、試しに攻撃を受けてみるというのは危険すぎる。

 何よりわざわざ血を流したくはない。

 

 

 部屋の奥に現れた出口から、3階層へと足を進めることにする。

 3階層の出現モンスターはニードルウッドだとあのドワーフは言っていた。

 他人の証言なので、自分で確認するまでは警戒するに越したことはない。

 

 3階層の入口小部屋からのびる通路を進むと、頭だけ緑色をした茶色の魔物が動いている。

 

 

ニードルウッド Lv3

 

 

 人型だが細く小さいので、残念な低木、という感じだ。

 証言通りのモンスターが現れたので、ひとまず安心した。

 

 駆け出して近づき、デュランダルで斬り込む。

 幹は大きく傷ついたが、倒せていない。

 

 振り下ろした刃をそのまま斬り上げると今度は煙になった。

 3階層の通常モンスターでデュランダルで2撃なのはレベル不足なのだろうか。

 

 その辺の枝にしか見えないブランチを拾い上げて、リュックに詰め込みつつ小部屋に戻る。

 確かに作中の彼は4階層を前にLv20を超えていたので、迷宮に入っている時間がそもそも違うのだろう。

 

 この迷宮の4階層の魔物はグリーンキャタピラーだというし、最大3体のグループになる。

 一撃で倒せない上に複数から拘束スキルを使われるのは不味いので、3階層まででレベルを上げつつ共に戦える奴隷を見つけなくてはならない。

 

 安全性と効率を考えて、2階層に戻ってコボルト狩りを続けることにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 コボルトが出たら斬り付ける。

 コラーゲンコーラルが出たら振り下ろしからの斬り上げをして、一度正面から移動して一突きする。

 どちらも動作が遅いので、この手順で動いていれば攻撃を受けることはない。

 

 あとは索敵さえできれば無駄に歩き回る必要もなくなるのだが、自分にできるのは鑑定だけだ。

 視界に入ればよいのだが、通路の折れた先にいる場合は直接見えていないので鑑定表示がされない。

 逆にそれさえ気を付けていれば、この階層では不意打ちで接近されることはないのが救いだ。

 

 僧侶がLv5になったところで、アイテムボックスがいっぱいになってしまった。

 11個✕11列のボックスには、レイピアに金貨と銀貨、ドロップアイテムが詰まっている。

 

 軽くなったとは言え巾着袋にはまだ硬貨がジャラジャラあるし、リュックにはジャックナイフだらけだ。

 昼食も兼ねて一度冒険者ギルドに戻ることにする。

 

 買い取りカウンターは空いていたので、買取額3割アップをつけてアイテムを売却する。

 リュックに入っているドロップアイテムを出しつつ、アイテムボックスからも大きなトレーにじゃんじゃん乗せていく。

 積みきったところでお願いすると、ギルド員がトレーを持って奥へ引っ込んだ。

 

 待ち時間に周囲を見渡すと、反対側のカウンター奥にいた男と目があった。

 有能おじさんだ。

 眼力のバルナクトとでも二つ名を授けよう。

 相変わらず圧があるので、会釈してそのまま販売カウンターへと顔を戻し、あちらはもう見ないようにした。

 

 少し待つと、硬貨が積まれた小さいトレーを持ってギルド員が帰ってくる。

 昨日の夕方からと今日の朝から昼前までの働きが378ナールらしい。

 ボーナス武器に物を言わせて倒すスピードが早いとは言え、3割アップを付けても宿代程度の稼ぎのようだ。

 

 売却額アップも結晶化促進も持たない普通の人が迷宮のみを稼業にするには、深層へ向かわなければ厳しい。

 その深層は向かうには装備を買わなくてはならないし、買うために魔物を倒さなくてはならず、魔物を倒すためには装備が必要だ。

 

 ボーナスポイントとキャラクター再設定がなければ、軟弱な自分はすぐ迷宮の養分になっていたと思うと恐ろしい。

 

 冒険者ギルドから出ると、いい匂いをさせた露店が出ていた。

 25ナールだと呼び込みしている狼人族の男に近づいてみると、椀に盛られた団子スープのようなものを売っていた。

 1杯お願いしますと声を掛けると驚かれた。

 

 

「あれ、お嬢さん。

 狼人族の言葉が分かるのか」

「え?

 ……ああ、バーナ語は分かります」

 

 

 そういえばこの世界に来てから直接話したのは商人や旅亭のような、日常的に他種族相手にブラヒム語を遣う人たちだったので忘れていたが、全ては謎の力で自動翻訳されて聞こえているのだった。

 

 このケモ耳男性のブラヒム語が拙いのかどうかは知らないが、こちらから話しかけたので相手の分かるバーナ語での会話になったらしい。

 初期設定で選んだ残りのサリニク語とドリード語はどの種族の言語だろう。

 

 

「助かるな。

 1杯25ナールで、椀を返してくれれば5ナール戻ってくるぜ」

「じゃあここでいただきます」

 

 

 銅貨を25枚を渡してスープの入った椀を受け取り、店の脇に避ける。

 細かい野菜と黄色い団子が、少し混濁したスープの中で踊っている。

 コンソメに似た香りがするが、やたら黄色い団子が気になる。

 

 噛んでみるともちもちとしていて弾力があり、イモのような味もする。

 ニョッキのようなものだろうか。

 野菜は端切れみたいなものだが、団子は結構食べた気になれるので腹持ちも良さそうだ。

 スープの味は少し薄いが、軽食くらいにはちょうどいい。

 

 飲みきった椀と引き換えに、銅貨を5枚受け取った。

 明日以降の昼もこのように迷宮から離脱するか、弁当を買って魔物の現れない小部屋で食べたほうがいいか。

 攻略が差し迫っているわけではないなら、昼休憩として離脱したほうが精神的にも休まると思う。

 

 気を紛らわすために木陰に座り、人の流れを観察しながらしばらく過ごした。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv11
探索者Lv11/英雄Lv7/僧侶Lv5
(村人5 戦士7 剣士1 商人1)



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24/07/22
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