休憩を終えて水を補充し、カルメリガの迷宮へと移動する。
結晶化促進を優先した今の方針も、緑魔結晶が5つになれば区切りの予定だ。
手元の青魔結晶はあと数十体分、新しい黒魔結晶で80体分ほど魔物を仕留めれば目標達成なので、夕方までにはなんとかなるだろう。
討伐数に鑑みても、モンスターカードのドロップ率は1%未満なんじゃないだろうか。
とくにサラセニアなんて、1000体以上は倒している気がするがやっとこの前1枚出たところだ。
自分の運が悪いのか、ドロップ率がそもそも低いのか、両方なのか。
……前者の割合が多い気がすると卑屈になったところで、戦闘後に四角いアイテムが残った。
モンスターカード:牛
そっちか~!
ほとんどは避けながらも、巻き込まれて倒さざるを得なかったミノからドロップするとは。
「えーっと、牛のモンスターカードの効果はなんだっけ?」
「移動力の強化ですね。
戦闘中のみ動作が軽くなるそうです」
シャオクが答えてくれたが、パッシブでもエンカウント中のみかぁ。
普段も有効なら全員に装備させるところだが、一時的ならアコルトかなぁ。
一番動くし、時限的な加速でも器用に使いこなしそうだし。
まあこれも資金が集まってから装備の更新を熟考してからか。
アイテムボックスにモンスターカードを仕舞い、狩りを再開する。
順調に附子と遠志を増やしながら狩り続けると、本日2回目の魔結晶の緑色への変化が起こった。
時間的にはまだ夕方の鐘には早い頃か。
薬草採取士に付け替えて消費した強壮丸を補充しつつ、今回の売却先はルテドーナに決め、壁に向かってワープを念じた。
ルテドーナの冒険者ギルドは混雑している。
鐘の鳴る17時には余裕があったと思うが、一番混む時間よりは早く、と皆考えることは一緒ということだろうか。
前回の要領で、大量の遠志と附子に5つの緑魔結晶を紛れ込ませる。
深底トレイ1つには入り切らずもう1枚必要になったが、やはりこの程度のサイズのアイテムでは大量買取の方ではなかったらしい。
カウンターのギルド員が戻ってくると、トレイには金貨が8枚に銀貨が十数枚、そして大量の銅貨が乗せられていた。
くそ、予めカルクで買取額を計算して、もう1個でも附子を足しておけばよかった。
魚の購入である程度減らせた銅貨も、また100枚近く増えてしまうとは。
でもこれで目標の所持金10万ナールは達成したし、さらに1万ナール以上余裕もできたのでよしとしよう。
帰宅して食事の準備を進める。
昼に作ってもらったパン粉がけっこう余っていたので、ラム肉のカツレツを作ることにした。
可食部しかない迷宮素材は、骨や内臓の不要部位が出ないのもありがたい。
楽に白身だの蛤だのが手に入るようになりたいものである。
お風呂も済ませ、寝る前に話をしようか。
休みは不要だと言われたが、今後伯爵家の要求を受けてシーム迷宮に入らなくてはならない可能性もあるだろう。
今メインにしているのはカルメリガであるし、資金難も落ち着いたところなので休みは取れる時に取ったほうがいい。
アコルトたちから休みにしてくれとは切り出せないだろうし、こういうのは主人が音頭を取るしかない。
「───というわけで、明日は休みにします!
お小遣いも出すし、行きたいところがあれば朝送るからね」
「お嬢様はいかがされますか?」
「うーんと、ノポモに行って作物の種類を見たり聞いたりしてこようかなぁと思ってる。
食べたい物があれば今後のためにさ」
米を探したい。
栽培が面倒そうなイメージだから存在していないかもしれないが、不思議世界なので似たような植物はあってもおかしくない。
ないならないで、新たな食材でも見つかればラッキーだ。
アコルトは同行したいそうなので許可を出し、シャオクは探索者ギルドに所属状況や脱退のことを聞いてくるそうだ。
ミーラスカは何をしていいか分からないとのことなので、一緒に行動することにする。
平均身長を上げるためにもいてもらったほうがいいだろう。
硬貨を渡す関係もあるので、全員明日は探索者かな。
自分と一緒の買い物はまとめて払うつもりだが、ミーラスカに
これまでも買い物の依頼で持たせたこともあったが、それは主人のものを預かっているという認識だろうしな。
アコルトならそのへんも察してくれるだろう。
朝食も買い食いすると伝えたし、洗濯は帰ってきてからみんなですればいい。
桶に身支度用の水を用意して、床についた。
***
のんびりで、なんて言ったところで一番の寝坊助は自分である。
本日は迷宮には行かないと決めたので、用意された服もロングスカートであった。
顔を洗って歯を磨き、アコルトに髪をまとめてもらう。
巻くように後頭部に留め上げたので、首元も涼しい。
畑への水やりと水筒への給水を終え、それぞれのジョブを探索者へと変更する。
とりあえず銀貨を10枚ずつと、銅貨を小袋に30枚程度入れて配った。
シャオクは単独行動になるので、街移動をする場合も考えて銀貨を追加で10枚ほど渡しておくか。
アコルトがシャオクに預かってもらっていた小遣いも回収し、それぞれアイテムボックスへと収納する。
ミーラスカは想定通り恐縮していたが、まあまあと誤魔化して仕舞わせた。
扉に鍵をかけて出発しよう。
まずは商店街の出店へと向かい、数店回って腹ごしらえをする。
お腹いっぱいではなくほどほどにしておいたので、各々後で好きなものをつまめばいいだろう。
ワープゲートを冒険者ギルドへと繋げ、シャオクだけ送ることにした。
シームの探索者ギルドは、迷宮に向かう際に通り過ぎたことがあるだけだ。
以後は迷宮内に直接飛んでいるので、記憶が定かではない。
現地行ったことがあって思い浮かべただけで飛べることは飛べるのだろうが、そこが実は遮蔽セメントを使っている部分でしたなんてことになっていたら困る。
少々手間でシャオクには悪いが、歩いてもらおう。
続いてノポモの門から出てくると、前回多少残っていた黄金色は刈り取りが終わったようで、景観が変わっていた。
それでも目の前の畑が耕されているだけで奥の方はまた別の作物が育っていたりと、草丈の違いで段差のある絨毯のように見えて面白い。
畑との距離に注意しつつ、搬送用道路の端を歩く。
相変わらず衛兵が立っているが、近づきすぎなければ問題はなさそうだ。
目を凝らしたり2人にも確認してみたが、大体は収穫時期をずらすために時間差で栽培されている麦類で、色や見た目が微妙に違っているようだ。
大麦とかライ麦とかオーツ麦なんだろうか。
まぁそのへんは名前だけ知っていても、図鑑でも見ないと違いを言い当てられない程度の理解度であるが。
あとはやたらオレンジ色をしたトウモロコシっぽいものも育っている区画もあった。
日本語での由来となる国はこの世界にないだろうから名前が違うだろうけど。
そう思って呼び名を皆に聞いてみると、
自動翻訳でそう聞こえているのかと考えたが、オレンジっぽい果物はタプスだし、グレープフルーツっぽいのはイシュコという呼び名だ。
それらと違って
この世界の創造主には、やはり日本語が影響しているのか?
トウキビは収穫されたものを乾燥させて粉にして、料理に振りかけたりするそうだ。
その使い方はよく分からないが、甘みがあって美味しくなるらしい。
差詰め
意味はどうかは置いておいて、通じるならそれで十分だ。
別称を覚え直す必要がないだけありがたい。
また酪が必要になるが、コーンスープが作れるのなら買わない手はないだろう。
甘みがあるというなら茹でるだけだっていいかもしれないし、バターで炒めてもいい。
夢が広がる。
その後も歩き回ってみたが、それ以上の大きな発見はなかった。
睨みを利かせてくる衛兵にも意を決して聞いてみたが、ここで作っている作物は時期による違いもあるがそんなに多くないらしい。
数種類を収穫時期をずらしつつ大量に作るのがここノポモの仕事、ということのようだ。
衛兵には自分と似たような年頃の娘がいるらしく、厳つい顔の割には色々と話してくれた。
似たようなと言っていたが、たぶん娘さんは自分より年下なんだろうな。
結局米らしき存在は掴めないままだが、トウキビだけでも十分としよう。
ノポモでは大口の取引しかやっていないため、近隣の街で探した方がいいと助言してくれた。
自分の行ったことのある場所だと、ホスリムあたりなら町の規模的にも売っているはずとのことだ。
山を越えた先のシームでは売っていなかったので、場所的にも生育に適していないのかもしれない。
衛兵に礼を述べ、門のところまで戻ってくる。
冒険者たちが消えていったり出てきたりする様相に紛れ込みつつ、そのままホスリムへのワープゲートを開いた。
***
冒険者ギルド内の絨毯に出てきて、2度目のホスリムの地を踏む。
シームよりこぢんまりとした町という初見の印象とは変わらないが、それでも隣のルテドーナより牧歌的で気安い感じがある。
おそらく、あちらは同じ領地で一番大きい領都であり、鍛冶師の街という印象が強いからだろう。
建物の無骨な装飾も、その印象を強める一因になっていると思われる。
いい時間なので、まずは食事といこうか。
ギルドを出て、より整った町並みの方へと歩みを進める。
すぐに商人ギルドが見えてきて、その先には奥に行くにつれて小綺麗な家が並んでいた。
貴族街的なものだろうか。
その区画にまでは足を踏み入れずに、庶民が食事をするなら手前までかなと適当にぶらついた。
飲食店を見つけ入ってみると、自分たちと同じような程度の服装の客が数名いたので、問題はなさそうだ。
アコルトにメニューを確認してもらうが、トウキビのスープっぽいメニューは載っていなかった。
残念ではあったが、価格は多少高めではあるので期待しつつもサラダやステーキを頼んでみた。
少々待って運ばれてきたのは、どれもこれもトウキビと思わしき粉がかかった料理だった。
かかっているといっても、鰻にのった山椒程度の量だ。
味はというと、確かに粉がかかった部分は甘みが増すというか、より料理自体の味を濃く感じられるような気がしなくも……。
料理自体はそこそこの味で、トウキビ粉の分……いや、この量にそぐわない値上げ幅だろ。
盛り付けは綺麗だが、どちらかというと量が少ないのを誤魔化すような散らし方に見える。
単純にこの店がハズレだっただけの気がした。
存在を確認できただけでもよしとしよう。
店を出た後は商店街へと回る。
といっても大きい街ではないので、住宅街にほど近いあたりに様々な店舗が小さくまとまっているだけだ。
小麦粉等を扱っている店を覗いてみるとトウキビ粉もあったが、同量の小麦粉の4倍を超える価格だ。
面積当たりの収穫量や栽培自体の手間の違いやらなんやらがかかっているんだろう。
大量に仕入れれば単価は下がると思うが、自分たちがほしいのはあくまで一般家庭で使う量でしかない。
いや、一般家庭ではトウキビ粉は使わないか。
ともかく500ナール分の袋詰の粉を買い、他にも何かないかと探索を続けた。
結論から言うと他に目新しい食材はなかった。
それでも聞いて回った店主から、個人で買うなら近隣のルテドーナ以上の品揃えは、東方のリッシュリか南方のフウルバリ以南、あとは北方にある帝都しかないだろうと聞いた。
ちなみに候補に挙がらなかったカルメリガとクラザは帝国領の中央寄りらしい。
明確な地図があるわけでもないので方角的には大まかでしかないが、山を越えて平野を越えた先にリッシュリがあるというのが商人たちの認識らしい。
シームもルテドーナから山を越えた先で、そこから飛べるブノーは海に面しているわけだから、海岸線を辿っていけばリッシュリに繋がるのだろう。
フウルバリの方面は置いておくとして、やはり帝都が気になる。
そこには皇帝がいるだろうし、栄えていないはずがない。
地名は全く異なるが作中の帝都には様々な店があり、度々買い物に向かう描写がされていたし。
行ってはみたいが、日程的にも資金的にも取引を終えてからの方がよさそうではある。
欲しくなるような物を見つけたところで、予算が足りず涙を呑むだけになるのは嫌だ。
あとは人間族が多いだろうからトラブルに見舞われるのも怖い。
なんだかんだで最初の盗賊はトラウマだ。
シームはエルフ、ルテドーナはドワーフの領主が治めているし、カルメリガは狼人族だと前に聞いた。
原典ではそうであったように、やはり数の多い人間族が皇帝の地位に就いていそうな気がする。
それぞれの領主が自種族を優遇しているかは定かではないが、他領と比べ多そうな印象はある。
実際、ルテドーナでは出先で見かけるドワーフが他より多いし。
まぁそのへんは情報を集めつつ追々かな。
お出かけは切り上げて、家で休もう。
***
ホスリムからルテドーナへと移動し、食料品店や出店の料理を買って家に戻る。
やはり大きな街のほうがニーズも多様になるからか、種類や質がいい。
夕食時には温め直すだけで十分だろう。
飲み物だけ淹れてもらってのんびりしていると、シャオクが帰ってきた。
「おかえり~、どうだった?」
「戻りました!
探索者ギルドですが、ボクは所属のままになっていました」
やはりか。
転職とギルドの所属自体は関係ないのだろう。
ギルド神殿という物体の機能で転職可能ジョブの判定、ジョブチェンジが行えるだけで、所属という関係状況なんてそのギルドが管理しているだけなのだ。
だいたい、奴隷として所有されてしまえば主人がどこのギルドで人頭税を払ってもいい時点で、所属なんてあってないようなものなんじゃないか。
まぁギルド所属なら購入が安くなるとかの恩恵はあるらしいが。
そこにギルド所属は関係ない。
だってその人のパーソナルデータを表すインテリジェンスカードに、所属の記載はないからな。
薬師ギルドに所属していなくたって、生薬生成をしても自分がペナルティを受けている様子もない。
となると所属どうこうっていうのは、アルヴナの鍛冶師ギルドが作り出した建前なんじゃないだろうか。
転職はギルドでしか行えないという事実を逆手に取り、ジョブに就いていることは即ちギルドに所属しているという認識が社会通念となっている。
原作では主人公がギルド所属か確認される描写もあったが、キャラクター再設定やパラレルジョブのない一般人は後ろめたいことがなければ、探索者ギルドに無所属で探索者ジョブに就いているのはメリットが少なすぎる気がする。
救済を謳ってあぶれた者を集めて業務に従事させ、転属という形でそこから解放されるためには納金を要求する。
いつからできたのかは知らないが、はぐれ者に新天地で関係性を再構成する権利を金で買わせるというのは、どちらにとってもありがたいのだろう。
シャオクについては鍛冶師ギルドの
あとは地元に住むにあたって、シーム所属になることで住人にも不審がられることもない。
探索者の修行で遠くの街にいた際に鍛冶師に転職できてUターンで地元に転属しました、なら一応筋は通る。
探索者Lv10の縛り条件が鍛冶師の共通認識なら、下手に街移動せずに試験を受けるのだっておかしくはないだろう。
ま、そっちはお金さえなんとかなればいい。
高額なだけに抜かりなく根回ししてくれるだろうし。
そういう商売が長年成り立っているってことは、不満が出るようなサポートではないはずだ。
所属の話を終えた後、こちらの成果としてトウキビ粉を見せた。
夕食のときにでも振りかけて食べてみるか。
あとはトルティーヤの生地でも作れればいいが、焼いて挟む具材としてひき肉ってないよな。
タコスだけでなくハンバーグやメンチカツのためにも、肉を細かく叩かなきゃいけないか。
ミンサーなんて細かい金属加工の機械はないよなぁ?
ミンチ肉のイメージ払拭のために1発目に美味しいものを作らなくてはいけないのが大変かな。
そんな事も考えつつ休憩をとり、夕食前に洗濯をすることにした。
が、早々に戦力外扱いを受けた自分はしくしくと給湯作業へと移る。
皆が浴室にいるし、お湯づくりで蒸し上がるので窓は全開だ。
パーティライゼーションで強壮丸を使用しているのでパッと見は分からないが、一定間隔で延々立ち昇る水と炎の壁に皆も慣れてきただろうか。
ど、どう?
洗濯は遅いけどご主人様は頑張ってるよ!?
時折振り返って見てみるが、黙々と洗濯に取り組んでいる様子しか確認できない。
湯船に半分ちょっと溜まる頃には、干しに行くので失礼しますと出ていってしまった。
切なさが残る中、後は入浴中だと切り上げて保温のために窓を閉めていく。
日々感謝はしてもらっているし、彼女らは仕事をしっかりしているのだ。
その後は夕食も済ませ、順番に入浴して就寝へと移った。
尚機嫌については、食事に多めにかけたトウキビ粉がおいしかったのでとっくに直っていた。
我ながら単純である。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv29
魔法使いLv29/英雄Lv25/探索者Lv30/僧侶Lv28/森林保護官Lv24/巫女Lv9
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 探索者Lv9
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 探索者Lv10
所持モンスターカード
・蟻 2
・潅木 3
・コボルト 6
・壷式食虫植物 1
・牛 0→1
---
次回は5/12更新の予定です。