異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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111 検証

 朝。

 広いベッドの上で、自分が最後となるいつも通りの起床だ。

 

 今日は夏の上月26日、明日がフェルスに呼び出された約束の期日となる。

 

 とはいっても、着ていくドレスも取引のミスリルスタッフも用意済みなので、あとは当日の己の受け答え次第だろう。

 休養としては昨日を充てたし、持て余すよりはということで本日は迷宮に潜ることにした。

 

 

 朝食と身支度を終え、装備を身に着ける。

 ミーラスカは残って家事兼お留守番だ。

 

 決意を固めてもらってもまだ装備はないし、その決意だって初めての魔法戦闘を見た勢いでの決定かもしれない。

 資金調達までの時間差が、そのあたりの感情を落ち着かせてくれるといいな。

 

 それぞれのジョブを狩人、鍛冶師、巫女へと変更する。

 家に居る分にはアイテムボックスのある探索者の方が有用な気がするが、自分の火力アップや今後の迷宮のためにも慣れてもらいたい。

 

 ん~、ミーラスカも迷宮に行くことになったら、それはそれでまた外出中に家事を熟してくれる者が必要か。

 今度はちゃんと家事のみのハウスキーパーだろう。

 

 それも資金調達後か。

 当てにしすぎていて不安になってくるな。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 数日ぶりの経験値効率での狩りを進めると、6thジョブの巫女のレベルの上がり方に驚く。

 

 3倍から実質100倍になれば、そりゃ階層の数字未満のジョブレベルはすぐに上がるだろう。

 普通のパーティーが一日で数十体、相当頑張って3桁に届かせるほど倒したところで、自分は1体屠ればそれに匹敵するのだから。

 

 

 巫女がLv12へと上がったところで、魔法使いのレベルも30へと到達した。

 一応確認するが……、派生ジョブは特に出ていない。

 ないだろうとは思ってはいたが、区切りになるとなんか期待しちゃうってものだ。

 

 余ったボーナスポイントを知力へと振り、そのまま何戦かしていると、時折サラセニアたちが魔法3発で煙へと変わることがあった。

 

 検証も兼ねて、おまけ程度に3ポイントだけ振っていた結晶化促進を切って、それも知力へと加算する。

 するとそれ以降の植物たちは、全てファイヤーストーム3発で沈んでいった。

 

 火力上昇が追いついたようだ。

 パラレルジョブに付けた知力補正のある巫女が成長し、魔法使いLv30がダメ押しとなったんだろう。

 あ、ミーラスカの方の補正もあるか。

 半端なタイミングからして、あちらのレベル上昇が決め手になったのだと思われる。

 

 2人にも3発での討伐となることを伝え、昼までスピードの上がった狩りを続けていった。

 

 

 

 昼休憩に自宅へ戻ってきて確認すると、ミーラスカの巫女のレベルが2つほど上がっていた。

 まだLv9ではあるが、この補正値を含めた絶妙な兼ね合いで火力が届いたに違いない。

 

 昼食の炒め物にパンにスープを流し込み、食後に果物を切ってもらって頬張りつつ考える。

 

 そろそろ再チャレンジしてみるか。

 何かといえば、メテオクラッシュのボーナス魔法のリベンジである。

 

 前回は満タンでもMPが不足していたのか、なにやら条件が足りていなくて発動が出来なかった。

 今後階層を上った際に、魔物の部屋対策として確認しておかなくてはならない。

 行き止まりや壁に触れないように巡っている今の階層とは違って、ボス部屋を探す探索には万が一の備えが必要だしな。

 

 

 

 

「ちょっと特別な魔法を試してみたいから、(はぐ)れている魔物を探せるかな?」

「…………行き止まりの通路に2体の魔物がいるようです。

 片方はミノのようですが、向かわれますか?」

 

 

 ミノか。

 メテオクラッシュがどれだけ強くとも、弱点なしで7,8発かかっている魔物を一撃というのはさすがに無理だろう。

 いや、だからこそ火力を見る指標になるか。

 

 

「そっちに案内お願い!」

「かしこまりました」

 

「あの、特別な魔法って、以前ミツキ様が言っていたものですか?」

「う、うん、そう」

 

 

 その不発だったやつです。

 

 

「あれからしばらく経ってるし、そろそろ使えるようになったかなって。

 強い魔法らしいんだけど、さすがにミノまでは一発で倒せないだろうからその後も対応してほしいんだ」

「わかりました!」

 

 

 移動中に、何度も魔法のエフェクトがすごいと念押ししておいた。

 迷宮の中で火山弾みたいなものが降ってくるなんて恐ろしいイメージしかない。

 自分だってネットで映像くらいしか見たことはないが、その想像すら頭にない2人には恐怖の光景となるだろう。

 全体魔法であるので味方にも見た目以外の影響はないと説いておく。

 

 

「あちらの奥です」

 

 

 さて、いよいよ本番である。

 通路の向こう側にサラセニアの背面が見え、迷宮の床を叩くミノの蹄の音が聞こえる。

 

 詠唱省略を外して呪文を唱えての発動してみたさはあるが、それをすると急落したMP回復が困難になる可能性があるのでやめた。

 

 右手には神籬のスチールワンドを握り、左手で強壮丸を幾つかつまんでおく。

 もちろんパーティライゼーションでも回復はするが、すぐ口に放り込めるようにだ。

 

 ボーナスポイントを操作して、メテオクラッシュが取得済みとなった。

 

 一息吐いて2人に目配せした後、手元のワンドでサラセニアの背を指しながら声を掛ける。

 

 

「他の魔法と同じように念じるだけで発動できるんだけど、今回は分かりやすいようにスキル名を声に出すね。

 あっちに向かって()()()()()()()()って」

 

 

 瞬間、頭上に出現した赤熱が自分に影を落としたかと思うと、魔物に向かって降り注ぎ始める。

 

 

「────ッ!」

「わああぁぁぁぁあああああ!!」

 

 

 ゲームや映画で飛来する隕石のイメージそのまま、燃える岩の塊が魔物もろとも迷宮の壁を、床を真っ赤に染め上げた。

 MPがゴソッと持っていかれる感覚と、やってしまったという焦燥でメンタルが急落していくのが分かる。

 

 手の内の丸薬を飲み込んでMPを回復しながら、パーティライゼーションで自分を指定した。

 これで十分なはずだ。

 

 メテオクラッシュのボーナスポイントを早々に外し、これ以上の誤射を防止する。

 

 

「ごめん、説明中に発動しちゃった!

 でもこっちには熱もダメージもこないから、ミノに備えて!」

「は、はいぃ!」

 

「サラセニアはすでに倒せたようです」

 

 

 盾を持って身構えるシャオクに、冷静に確認してくれたアコルト。

 特にアコルトの方はあんな衝撃の事態にも声を上げなかった。

 叫び声を上げないのは狩人の訓練の賜物なのだろうか。

 

 ウォーターストームを念じ、メテオクラッシュから立ち直ろうとしたミノを再転倒させる。

 見た目には相当なダメージのように見えるが、後何発だろう。

 

 よろよろと立ち上がり、助走から加速を始めたミノが近づく前に発動した追撃の水魔法で、接触することなく煙へと変わった。

 これで戦闘終了である。

 

 早い。

 

 メテオクラッシュは火属性と土属性の複合魔法のような考察がなされていたが、威力も格段に高いのだろう。

 弱点をついたとはいえサラセニアを一撃、ミノも追加の全体魔法2発で仕留めた。

 

 属性相性等倍のミノをこの速度で討伐できるのなら、戦闘の速度が一気に変わる。

 火にも土にも耐性のある、ドラゴンみたいな魔物でない限りは誰にでも有効な高火力は強すぎる。

 

 ただ、燃費が悪すぎるし、このエフェクトは他人には見せられない。

 今のような袋小路の通路なら問題はなさそうだが、使わなくてはならないような相手と数にはなかなか出会さない。

 

 やはり魔物の部屋用か。

 自ら足を運ぶのはなぁ、と思いながらドロップアイテムを拾いにきて気付いた。

 

 辺りをマグマに変えたかのような着弾の跡は残っておらず、ファイヤーボールのような焦げ跡一つない。

 視覚と聴覚にはあれだけの実感があるのに、熱も感じず味方への影響もない。

 近づくだけで熱そうだと錯覚させるだけの迫力を持った、まさに魔法といった具合だ。

 

 物思いに(ふけ)っていると、先に拾われた皮や附子をアコルトが無言でぐりぐりと押し付けてくる。

 彼女なりのアピールらしい。

 隕石なんてまず見る機会はないだろうし、実際は相当驚いたんだろう。

 

 

「魔物の部屋に巻き込まれたときとか、そ、そういう所でしか使わないから大丈夫!

 次からは使う時に伝えるから!」

「……お願いしますね」

 

 

 シャオクにも謝りつつ小部屋まで移動して休憩を取った後、通常魔法での戦闘を再開した。

 

 

 ミノを避けてさえいれば3ターンでの討伐が可能になったので、群れの配置によっては接触前に仕留められることも何度かあった。

 単純に討伐にかかる手数が減っているのだ。

 同程度の休憩を挟みつつも効率が上がっている。

 

 探索者を含め設定中のジョブは皆レベルが上がり、僧侶もLv29となっている。

 

 僧侶のジョブ効果は精神小上昇とMP微上昇なので、知力を参照するであろう魔法攻撃力には寄与していないと思われる。

 MPに関しても、小上昇の効果を持つ巫女が上がってくれば外して大丈夫だろう。

 

 となれば区切りのLv30まで上げたら、次はやっと戦士の順番だな。

 現在はLv20なのであと10レベルだ。

 そうしたら念願のジョブ、遊び人である。

 

 しかしそのあと10レベルが長い。

 やっぱり一気に上げるには魔物の部屋のような大量討伐が必要になるか。

 それでも、せいぜい数レベルが関の山だろう。

 

 あ、魔物の部屋の挙動として確かめておかないといけないものがあった。

 ファイヤーストームなどの全体魔法の適用範囲である。

 

 前にも考えたが、部屋の中の魔物が1つの群れと判定されるのか、複数の群れが集まっていると判定されるのかだ。

 前者ならば全体魔法で一網打尽にできるが、後者の場合は狙いを定めた数体のみが煙に変わるだけになり、クールタイムの関係もあって非常に危険な状況となる。

 

 この検証は重要だ。

 そしてお誂え向きに検証しやすい魔物の部屋を、自分は知っている。

 

 迷宮に入り始めて早々に巻き込まれた、このカルメリガの迷宮の2階層だ。

 すでにひと月も前となると感慨深くもなる。

 

 コボルトはもちろん、コラーゲンコーラルもLv2なら今の知力で一撃のはずだ。

 あの時はメインジョブがやっと2桁というくらいだったのでチクチクとダメージを受けていたが、今ではLv30だし、アコルトたちもLv20を超えている。

 仮に1群れずつの判定だったとしても対処に困るほどではないだろう。

 

 

 

 13階層での狩りを早めに切り上げ、2人に魔物の部屋での検証を相談する。

 確かに検めておいた方がいいということになり、2階層での検証へと移った。

 

 あの日の足取りを思い出しながら、目的の行き止まりの通路へと向かう。

 アコルトに索敵をしてもらうと、微かではあるが壁の向こうで騒ぎ立てるコボルトがいるようだと伝えられた。

 

 考えてみれば部屋の全ての魔物を倒せば道が拓けたものの、吸い込まれるように移動させられた部屋自体は密室のようになっていたはずだ。

 くぐもった物音で、その構造を想定していなければ案内できないだろう。

 造りとしてはボス部屋のそれに似ているが、システムとしてはイレギュラーでほぼ罠と言っていい。

 

 侵入した者を養分とする迷宮の中で作られる毒のようなもので、対抗策なく迷い込んだらそのまま仕留められてしまう。

 自分たちにはワープという例外的な救命措置があるが、一般の探索者たちは抵抗するだけの力量を持たなければその餌食となる。

 

 前回引き込まれた壁の前に立ち、身を寄せ合うようにして壁へと腕を伸ばした。

 

 触れたと同時に床がスライドして部屋の中へと引き込まれる。

 今回は動くと認識していたので焦りはない。

 

 ひしめき合うコボルトが突然現れた侵入者に戸惑っている。

 初めてのときはびっしりと見つめてくる大量の目という印象が強かったが、あれほどの量はいないらしい。

 

 正面の青色の小人に定めてウォーターストームを発動する。

 発生した水球が一斉に周囲のコボルトを包み、ほぼ同時に煙へと変えてアイテムを残した。

 それと時を同じくしてガッツリMPが抜け落ちる感覚に襲われる。

 

 た、対象の数だけ消費が増加するんだったっけ……。

 パーティライゼーションパーティライゼーションパーティライゼーション………。

 

 ……ふぅ。

 

 急に頭を押さえたように見えてから、突然納得気な表情を浮かべた自分を不思議そうに見つめる2人に向かい、声を掛ける。

 

 

「普通の全体魔法でも、部屋の中の魔物は1つの群れとして作動してくれたみたいだね」

「なら、あの恐ろしい魔法は使わなくてもよさそうですか?」

 

「おそろ……、まぁこの階層ではいらないだろうけど、もっと上なら使った方が早く終わると思えば使うかも?」

「そうですか……」

 

 

 シャオクはよほど怖かったらしい。

 初めて見る恐怖映像だったし仕方あるまい。

 

 

「じゃあ、アイテムを拾って帰ろうか」

「かしこまりました」

 

 

 今日は魔法の一撃で全ての魔物を仕留めたので、ドロップアイテムが攻撃や踏まれたりして潰れていることはなかった。

 大量のコボルトソルトにジャックナイフ、コーラルゼラチンをアイテムボックスへと回収し、隈無く鑑定を試みるもモンスターカードは落ちていない。

 あればラッキー程度だったので、大人しくシームの冒険者ギルドへと帰還した。

 

 戻る前にそれぞれの回復薬を1列分になるように生成し、遠志は2列分残しておいたので、それ以外の取得物は全て売却する。

 あ、コボルトソルトは料理用に幾つか残しておこうかな。

 

 

 

 帰宅するとミーラスカが出迎えてくれた。

 庭のハーブが使えそうなくらい育ってきたので収穫したらしい。

 一部だけ切り取ったハーブは、世話をしていればまた違う芽が伸びて採れるようになるそうだ。

 

 せっかくなのでたくさん使った料理でも作ってみるか。

 

 ボウルにオリーブオイルと少量のワインを入れてイシュコの実を絞り、塩コショウと刻んだハーブを混ぜる。

 少し大きめに切ったラム肉を漬けておき、その間にイモをカットする。

 真っ黄色と紫の2種類のイモだが、どちらもじゃがいものような食感と味なので、だいぶ慣れた。

 

 本来はオーブンで焼くのがオイル焼きなのだが、生憎そんな設備はない。

 外に煉瓦(れんが)造りの焼き窯でも作ってもらおうかなぁ……。

 

 漬け込んでいる間にスープを作ってもらったり、自分はお風呂の湯を作りにいった。

 

 半分ほどの湯量が溜まった頃、漬け込みも十分だとしてフライパンで焼いていく。

 ハーブは店売りのものより香りが強い気がするし、葉も大きい気がする。

 

 転がすように焼いて、しっかり火が通れば完成だ。

 

 色合いが凄いことになっているが、イモもホクホクとして美味しそうである。

 パンにすごく合うし、スープも飲めばオイル感を流してくれるのでクドくない。

 

 漬け込んだマリネ液は勿体ないので、少し酢を足して寝る前から朝まで漬け込んでみようか。

 夜間ならそこまで暑すぎないので傷まないだろうし、朝食は切って野菜と炒めるだけで済む。

 

 ニンニクのような香りの強いものもあったが、さすがに明日に会合を控えているのでやめておいた。

 そうだ、そのうち餃子も作りたい。

 

 ラー油……、前に聞いた唐辛子っぽいレッドスパイスは迷宮素材らしいが、ギルドで買うと高そうだよなぁ。

 それにしても米、米はあるのか?

 

 明日の食事で出てきたりしないかなぁと思いを馳せつつ、念入りに体を洗って早めに寝ることにした。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10



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次回は5/15更新の予定です。

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