お、ジョブの話に進展があるのか。
「シームラウ家の家系にね、長年森林保護官を務めた方がいらっしゃった記録があったのよ。
もう亡くなられている方なんだけれどね」
「もしかしてその方のジョブが……?」
「晩年に転職したのが
ただ、そのスキルがあまり公にはしたくないのもあって、その……ミツキにあまり口外してほしくなくて、取引が決まったら認めるとお母様が仰ったの」
取引が決まったらというか、自分が領主様の中のある程度の信用に足りたから許可が下りたということだろう。
単に、泳がせておいても大したことはないと思われたのかもしれないが。
シームでの居住を約束させて様子を見られるから、というのもあるだろう。
「ジュサ、イシ……ですか?」
「そう。
ジュ、サ、イ、シ、という名前のジョブだそうよ」
こっそりオーバーホエルミングを使いながら、フェルスの潤いのある口元に注目する。
やはり、口の形と聞こえてくる音が違う。
つまり、これは
自動翻訳されているので、音としてはジュサイシで合っているはずである。
ジュサイ士、ジュサイ師、……なんだろう。
森林保護官の上位なら樹木の
なるべく体を動かさないように努めて、加速の効果時間が終わるのを待った。
「情報を伏せる件についてはお守りします。
他者に話さないとお約束いたしましょう」
「可能であれば、パーティーメンバーについてもお願いしたいですね。
幸い、ミツキ殿の周りにはエルフ族はいらっしゃらないようですし、伏せていても不都合になることはないかと思われますので」
確かにカルムの言う通り、種族固有ジョブならエルフ以外には関係ないし、現在うちの子の中にはエルフはいない。
まぁ戦闘向きではないだろうし、今後エルフを仲間にしてさらにジュサイシになってもらう、なんてことはないはずだ。
ないよね?
ギルド神殿に関わることなく黙っていてもパーティージョブ設定で変更できるのだし、自分にとってはほとんど意味のない約束になるけどな。
「そちらも問題ありません」
「ああ、よかった。
でも、調べてもジョブについての情報はそこまで多く出てこなかったのよね。
出てきた情報がちょっと困るものだったのだけれど」
詳しく聞いてみると、なにやら植物を元気にするスキルがあったらしい。
それだけなら如何にも森林保護官の先のジョブという感じではあるが、フェルスが言うには逆に弱らせることもできたとあったそうだ。
そして、その人物に関しての記述を総合すると、そのスキルを
フェルスが母親であるレオニー伯爵に相談したところ、領主として情報は引き継がれているそうで、既知であったようである。
呪いの類のスキルと考えられ、領主家が代を重ねる毎に少しずつその人物の記述を分散させて、単一の蔵書では分かりにくいようにしているらしい。
万が一、どこかしらから加害者が出てしまっては、血脈のはっきりしているシームラウ家が真っ先に浮かび上がるだろうしな。
呪いの
音は違うが、衰弱させることからは
「ジョブについては他に何かありそうですか?」
「うーん、お母様にも確認しているけど仕事についてはあんまり詳しくは書かれていないのよねぇ。
むしろ、そのジョブになれる条件があるのならシームラウ家としても把握しておきたいはずだし、そこについては協力的になってくださると思うのだけれど」
ジョブレベルの確認ができないから、この世界の住人が転職条件を把握するのは難しい。
鍛冶師ギルドが明確な足切りを設定できているのは、アイテムボックスの容量で確認できる探索者だったからに過ぎない。
続けて、その人物についても聞いてみた。
「分かったのはジュサイシになれたのは相当な高齢だったことと、その方は若い頃から迷宮に頻繁に入る猛者だったらしいということね」
少なくとも森林保護官Lv50を達成しているだろうから、そのあたりについては聞かずとも伺い知れる情報だ。
植物型魔物に強いだけで攻撃スキルのない森林保護官のまま、迷宮に潜り続けるのはちょっとおかしいと思うが。
単純に森林保護官のジョブレベルを上げただけでなれるなら、もっと多くの人がなれているはずだ。
それこそ対人デバフなんて欲しがる人はいるに違いないし。
「なにかその方の人となりが分かるようなエピソードとか……」
「ジョブよりもその方に興味を持ったのかしら?
先ほども伝えたけど、相当戦いが好きだった方のようよ。
始めは両親に文官の仕事に就かされたそうだけど剣の鍛錬をしていたとか、仕事を抜け出して迷宮に潜るパーティーについて行ったとかそんな記述ばっかり」
転職前に別のジョブに就いていたのか?
そちらも気になるし、戦闘経験の方での条件も関係ありそうだ。
「それでも実力はあったそうだから役職にもついたようだけど、また同じようなことをして、ついに森林保護官のジョブに変えさせられたと書かれていたの」
「文官の仕事って何のジョブでしたか?」
「ええと……僧侶か神官か、回復職のジョブとあったわね。
そこからスキルもなくなったから迷宮にはもう行かないと思われたのでしょうけど、それでも時間を作っては戦っていたそうなの。
なんだかすごい方よね」
それはもう
そんなジョブがあるかは知らないが。
だがジョブの効果で考えれば物理戦闘には無補正の回復職から、植物に対しては強くなる森林保護官となり、レベルが上がっていけば植物型魔物に対してだけは火力が上がっていくことになる。
そうやって剣でも戦いやすい魔物を選び、更に修練を積んでもっと戦いやすくなる。
だからといってステータスの補正も戦闘向きではないのにそんな高レベルまで前衛を務めていたのなら、よほど卓越した技量の持ち主だったに違いない。
前職の経歴も気になるな。
一見関係がなさそうではあるが……。
「───こんなところかしらね。
ごめんなさいね、ミツキ。
結局名前くらいしかジョブについては分からなかったわね」
「いえ、ここまで調べていただきありがとうございます。
フェルス様の……」
「お姉様、の?」
いたずらっぽい表情で手を伸ばしてきたフェルスの人差し指が、こちらの鼻をつつく。
「お、お姉様のおかげです!」
「ふふ、よろしい!」
鼻から頬に指先をずらし、こちらの顔をぐっと押し込んでからニコッと微笑んだ。
この伯爵令嬢、あざとかわいい。
紛れもない貴族の令嬢なのに、こんな公務外のことにも親身になって熱心に調べてくれた。
おそらく彼女がレオニー伯爵に進言してくれなければ、普通は機密として一蹴されるのが落ちだっただろう。
それについては領主側としても、共有情報としてこちらへの枷に利用したとも考えられるが。
「それでは先ほどの取り決め通り、ご足労をおかけしますが明日も商人ギルドへ足を運ぶようお願いします」
タイミングを見てカルムが立ち上がり、そろそろ締めだと切り出した。
「カルムばかりずるいわ!
なろうかしら、仲買人」
「お止めください」
絶対向いてないから無理だと思う前に、カルムが流石に止めた。
一応会食自体は終わったため、カルムの呼んだ侍女に連れられて渋々フェルスが退室した。
途中で料理のヒントを思い出したのか、今度は料理人になるとか言い出しそうではあったが。
そっちは才能があるかもしれないとは思いながらも、口に出す前に連れて行かれてしまった。
「さて、明日の契約時に400万ナールをお支払いしますが、硬貨の内訳はいかがいたしましょうか?」
「白金貨を2枚と、残りは金貨だとありがたいです」
「かしこまりました。
お預けしているものはその際にお受け取りいたします。
ご依頼いただいていたモンスターカードの費用も、その場で精算する形がよろしいですか?」
「お願いします」
たしか11枚ほど依頼したはずなので5500ナールだろう。
多少は銀貨に崩れたほうが日常生活には都合がいい。
手持ちのカードと合わせて、5人目までの分の身代わりと毒麻痺耐性が付与できる組み合わせにしていたと思う。
「ありがとうございます。
本日の交渉も成立すると考えておりましたので、今日この後のオークションで残りを揃えられるように、前もって集めてまいりました」
ほーらね。
1日平均2枚ずつのペースなら揃えてきそうだと思ったよ。
実際依頼分を終わらせてくれた方が、装備も揃えやすいからありがたいことにはありがたい。
優秀だからいいだけどさ、こちらの資金がないときにも仕事が早いから支払いが怖いよ。
でもまぁ今後は大丈夫か。
……そうだ。
「資金も確保できそうなので、大オークションで告知されている目玉商品の情報も集めていただけますか?」
「私が目録からミツキ殿向けに選び抜いた方がよろしいでしょうか?
それとも現時点での目録のメモをお出しいたしましょうか」
あ、リストになっているならアコルトに読み上げてもらったほうが早いかもしれない。
「目録をいただけると助かります」
「かしこまりました。
大オークションは当日までに追加される場合も大いにありますし、都合によっては取り消される場合もございますので、あくまで現時点の物とお考えください」
カルムが数枚のメモを取り出し、それを揃えて渡してくる。
書かれている文字はまだ読めないが、日付とともにラインが引かれたり、文字が追加されていたりする。
「殴り書きで申し訳ありませんが、その日告知されたものを追記したり、取り消されたものに線を引いてあります。
後日、気になった品名を挙げていただければおおよその相場をご案内できるかと思います」
「ありがとうございます」
貰ってしまって大丈夫なのか確認するが、別途管理している書類があるので、メモの方は構わないそうだ。
用意周到な感じがますますザノフに近づいてきている感じがするが、カルムはまだ分かりやすく対応してくれるからいい。
その後は部屋を出て、最初にきた小部屋へと向かう。
そういえばずっと室内にいた扉番も、カルムの態度から察するにシームラウ家の重臣のようだ。
ジョブの会話内容が聞こえる距離に立っていたし、だいたいこの部屋には領主とその娘と婚約者がいたわけだ。
領主自身が聖騎士とはいえ、その警護を1人で任されるだけの実力者だったのだろう。
鑑定くらいしておけばよかった。
小部屋にたどり着くと、すでにあの冒険者の使用人は待機していた。
会食の間ずっと待たされていたとか……ないよね?
「おおよその時間は計算しておりましたので、彼らにも休憩を与えておりますよ」
「そっ、それならよかったです」
心を読むな、カルム!
心配そうなお顔がフェルス様に似ておいででしたので、と続けられたので悪い気はしなかった。
あのお姉様も同じ状況なら似たようなことを考えそうだしな。
「御姉妹だからでしょうかね?」
無駄に爽やかに笑って言ってくるが、男のそういう冗談はいらない。
行きの際にアコルトたちを送ったように、シームの商店街を送り先にしてもらう。
カルムとは挨拶をして先ほど別れたが、冒険者の方は一応自宅前までついてきてくれるそうだ。
ま、マズい。
渡しちゃってるから鍵持ってないんだよな、自分。
みんな出かけたままだったらアウトだ。
冷や汗をかきながら、ここまででいいと何度も伝えたが、さすがにドレス姿の客人を1人歩かせるわけにはいかないと頑なに同行が続いた。
向こうも命令を受けているのだから、万が一を考えたら当然の対応ではあるのだが、こっちには都合が悪い。
自宅に入れない家主が、送迎の領主の使用人と家の前で待機はちょっと気まずすぎる。
そんな事を考えているうちに玄関まで来てしまった。
誰か帰宅していてくれと願いを込めて扉に手をかけると、
「おかえりなさいませ、お嬢様。
シャイルヴェ様、ご同行いただきありがとうございました」
「アコ~~!
ただいま!」
思わず抱きしめてしまった。
慌てて離れるも、頭上の耳はピコピコしている。
「それでは、こちらで失礼致します」
シャイルヴェはホッとした様子で綺麗な角度で礼をして呪文を唱え、パーティーから自分を脱退させてくれた。
踵を返して帰っていく冒険者を見送る。
そのままアコルトに手を引かれて家の中へと入った。
***
「戻ったのはアコだけ?」
「はい、お2人は夕食前には戻ると思います」
「そっか、でもアコがいて助かったよ~。
家の鍵は持ってなかったから、さっきの人と待ちぼうけするところだったし」
「私たちと別にお送りいただけるとの話の時点でそうなると思いましたので、私が残ることにいたしました」
「…………ごめん」
流石の黒うさメイド様は把握済みだったようだ。
帰り際に昼食用の屋台飯を持ち帰り、洗濯も済ませて休憩していたらしい。
ドレスを脱ぎ、髪も解いてもらってラフな服装に着替える。
風呂場で水受けにお湯を作り、顔を洗って化粧を落とした。
大変だな、女性って。
エルフだからかなのか、若い肉体だからなのか、それともエディットボディだからなのかケアの少ない環境でも肌が傷んでいる様子がない。
深く考えるとちょっと怖くもあるが、困るような状況ではないのであまり思いを巡らせないことにした。
どちらかというと身長をだね……、18歳ならもうちょっと伸びてもらってもよくないですか?
お風呂にも入ってしまおうかと思ったが、夜までにはまた汗もかきそうで入り直しは面倒だ。
大人しくベッドに寝転んでいようかな。
アコルトが淹れてくれたハーブティーを飲みつつ、貰ってきた競売の目録メモを取り出した。
とりあえずゆっくり読み上げてもらおう。
これまでの買い物で見かけたもの以外の装備品や、その他の項目について確認してもらった。
どうやらカルムの所感も書かれているらしい。
もともとこちらへの情報提供用のメモ書きだったらしいな。
装備については、やはり何といってもダマスカス鋼の大盾だ。
今日までの短期間でも数度の告知が出ているので、今回の出品は間違いないだろうとの記載もある。
それでもスキルスロットは自分の鑑定でなければ確認できないので、落札を狙うかどうかは当日まで決められない。
何点かのスキル装備も載っているようだが、コボルトが使われていない未強化スキルだったり、使われたものであっても単一スキルでは素材装備を厳選した方が確実に有用なのでなかなか候補に入れにくい。
結局白銀製の装備の名前を見ても、現地で鑑定をしなければ判断できないので厳しいか。
聖銀の名も幾つか数えられたが、同じ理由で全然絞れないぞ。
アクセサリ装備なんて尚更、名称だけでは分からない事だらけだ。
作中でもアクセサリも防御の補正があるような記述もされていたと思う。
そりゃ糸で作るミサンガよりも、金属のブレスレットとかの方がほんの一部でも守れそうな気がするけどさぁ。
そのあたりの知識を得たいな。
シームラウ家が開放しているという蔵書を閲覧させてもらうのもアリか。
前は権力者に目をつけられては困るなんて考えてもいたが、領主自身と言葉を交わして調査済みなんて言われてしまったので、もはや気にする必要はない。
あとは鍛冶師ギルドの方かな。
鍛冶スキルで作成可能な装備品については、シャオクの知り合いの鍛冶師に学ぶことができるかもしれない。
使える伝手は使っていこう。
目録メモには装備ではない装飾品や、調度品の類やらも書かれているそうだ。
そちらは完全に趣味用だろう。
最後のメモには奴隷の項目もあったらしい。
身を乗り出して見せてもらうと、竜人族の文字の隣に数字が振られていた。
1を訂正して2になっているそうなので、人数だろうか。
物ではなく人なので、人種くらいしかまとめていないのだろう。
カルムも、入札予定もないのに1人1人の性別や年齢を網羅することはしなかったようだ。
まぁ追加も取り消しもジョブ変更なんかもいくらでもあるだろうし、前もってやりすぎても無駄だしな。
それに、気になったものがあれば聞いてくれと言っていたので後で確かめればいい。
となると、当日までにオークションについて準備すべきことは……当日までほとんどない。
資金の用意くらいか?
明日は取引を完了させ、その後はシャオクのギルドの鞍替えかな。
探索者ギルドの脱退に、アルヴナの鍛冶師ギルドへの所属とシームへの転属。
そんなに簡単にできるものなのか、先にアルヴナで手続きの内容を確認したほうがいいか。
脱退だけ先にしてしまって転属までのラグが出ると、面倒そうなノルマが発生してしまいそうだし。
ノウハウのある担当者に手順を聞いてからが不都合も出にくいだろう。
その後はシャオクたちが帰ってくるまでアコルトに付き合って、マネキンのように様々な髪型の練習台になっていた。
商館にいた頃に見た妾奴隷たちのヘアセットを色々試したかったそうだ。
……途中で自分は寝ちゃってたけど。
気づけば2人も帰ってきていて、夕食やお風呂、就寝前に今後の予定を共有するのだった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 僧侶Lv7
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