異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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117 帝都

 自宅へと戻ってきて軽く休憩を挟んだ後、洗濯をしたり屋内の掃除をした。

 当然のように自分は戦力外だったので、大人しく各所に水を補充して回る。

 こ、これは自分にしか出来ない仕事だから……!

 

 一通り終えてからケトルに湯を沸かしていると、作業を終えたミーラスカが飲み物を淹れてくれる。

 皆も揃ったので、休みながら相談だ。

 ついでにミーラスカのジョブを巫女に戻しておいた。

 

 装備についてはオークション後に揃えるものとして、問題は今後増やしていくだろう仲間、奴隷についてである。

 気に入れば誰でも迎えるというわけにはいかない。

 最終的なパーティー構成を視野に入れつつ、足りないところを補強していくのがいいだろう。

 

 ミーラスカを戦闘メンバーに入れる場合には、大盾を持って前衛をしてもらう予定だ。

 大盾が落札できなかったり、やはり戦闘が無理だった場合は再検討となるが、ここではあくまで想定の話になる。

 今のところは本人もやる気ではあるようだしな。

 

 とにかく、敵の攻撃を止める者がいて、それとは別に攻撃を捌ける者が前衛に必要だ。

 防戦ばかりでなく、接敵して適宜詠唱中断や状態異常を打ち込める腕もほしい。

 ここが次に狙いたい人材かな。

 

 できれば戦士としての素養があって、暗殺者のジョブに転向できると尚のことありがたい。

 

 遊撃には中距離攻撃できる鞭を持ったアコルトと、同じく中列から敵を狙える槍あたりを持たせたシャオクを置こうか。

 リーチの長い2人には、飛行する魔物や後列の魔物に手を出しつつ、戦況を見て指示や援護をしてもらう予定だ。

 

 シャオクは鍛冶師のアイテムボックスを使えるので、アイテムの受け渡しや武器の切り替えなんかも考えてしまうと、さすがに負担が大きすぎるかな?

 

 そして後列は、魔法火力として自分が担当する。

 最後尾から味方全体を見つつ、パーティライゼーションや回復スキルで治療も受け持つ形だ。

 

 これで5人。

 基本的な役割は埋めたが、残り1人はどうするかな。

 

 前衛をもう一人置いて魔物を押さえ込む人員を増やすのもありだし、中衛を増やして前衛とのスイッチ要員を足してもいい。

 引き入れるのは難しいが、後衛の魔法担当を増やすという選択肢もある。

 

 魔道士まで育成が進めば、パラレルジョブを持つ自分のように連発はできなくとも相当な火力になるだろう。

 その頃には、同じパーティーには英雄と魔法使い、魔道士に、知力上昇のジョブ効果をつけた遊び人が在籍していることになるのだから。

 

 だが、貴族の子女を迎えられる機会なんてまずありえない。

 いくら伯爵家と仲良くなったところで、自由民に身柄を預けるなんて事態になることはないだろう。

 

 となればオークションで狙うしかないが、それも難しいよなぁ。

 『魔法使いの奴隷』として出てくるなら、白金貨以上になるだろうし、女性ならさらに高額になるだろうし。

 まぁ、その頃まで女性メンバーに拘っているかは分からないが。

 

 そんな感じの相談を進め、目下の募集メンバーとしては前衛を任せられる奴隷を探すということで話がついた。

 もちろん、うちの皆を尊重できる人物であることが最低条件であるが。

 

 

 その後はカード融合を行う。

 

 といっても、状態異常耐性については皆の装備部位と換装できるようにしたいので、ミスリルメッシュスカートへの融合はまだだ。

 付与後に装備の更新があって、別のメンバーに回した際に同じ耐性が複数箇所に入っていても効果はないからな。

 

 オークションや防具屋で揃えた後にどの箇所に付与するかを考えてからの方がいい。

 そうなってしまうと、結局融合できるのは芋虫のモンスターカードだけだった。

 

 スロット付きのミサンガを取り出し、シャオクにカード融合してもらう。

 

 

身代わりのミサンガ(身代わり)

 

 

 これで新規メンバーが増えた際にも渡せるものができた。

 それまでは予備になるわけだが、折を見てカルムにまたカードを頼もう。

 

 自分が装備していた竜革のブーツは一旦ミーラスカに身に着けてもらうことにした。

 かなりの身長差でも、体型に合わせて伸縮してくれる装備アイテムは本当に便利だ。

 

 普段は皮の靴やサンダルで皆過ごしているので、外出の際に履いてもらうくらいかな。

 迷宮に潜る際は別の装備になると思うけど。

 

 

 

 さて、夕食にはまだまだ時間があるしどうしようか。

 

 鏡のエテンネルはかなり遠いと脅されたし、帰ってくるのは一瞬だとしても向かっていくのも難しそうな時間になりそうだ。

 となると行ってみるか……?

 帝都へ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 直轄地だというノポモからは直接飛ぶことはできず、ルテドーナからいくつかの街や村を経由して少しずつ北上する形となった。

 フィールドウォークやワープは移動距離に応じてMPを持っていくので遠さは分かるものの、具体的な地図を持っているわけではないのでいまいち位置関係を掴みにくい。

 直線距離ではもしかしたら近いのかもしれないが、移動魔法の利便性の前では馬車移動なんてやっていられない。

 

 

 

 最後に出てきた冒険者ギルドの建物の大きさがすでに、カルメリガやルテドーナ、フウルバリのそれぞれの公爵領のそれと比べても格段に立派だった。

 街移動の冒険者に代金を支払い、パーティーを離脱させてもらう。

 

 時間帯も夕方になってしまったのもあるが、どこを見渡しても、人、人、人である。

 これでは屋内設置の絨毯から出てきていたら、すぐに他人にぶつかってしまいそうな混雑具合だ。

 販売や買取担当と思しきそれぞれのカウンターの数も多いが、そこに並ぶ列はもっと多い。

 

 時間も時間だし、探索は明日みんなと一緒でいいだろう。

 来訪者も多いだろうし、ルテドーナあたりで商館の紹介状を貰っておかないと、まともに取り合ってくれない可能性もありそうだ。

 

 わざと人混みに紛れるようにしてワープゲートを開き、シームの自宅へ戻ることにした。

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

 

 アコルトの声を皮切りに、皆に迎えられる。

 帝都からのワープの消費MPは、シームフウルバリ間よりは少なそうだ。

 やはり各自治体が点在しているだけで、距離自体は思ったより遠くはないのだろう。

 

 

「無事、帝都の冒険者ギルドまで行けたよ。

 今後の買い物は、帝都の店を回るのもありだね」

「これから一番暑い時期となりますので、何着か買い足すのもよさそうです」

 

 

 う、うん、ソウダネ。

 

 資金も増えたので買い物には付き合うとは言ったが、スカートだらけになりそうで怖い。

 いや、たしかにズボンよりは涼しいんだけどさ。

 

 服装のことはその時に考えるとして、夕食をとりながら明日の予定を決めようか。

 明後日のオークションより前に、ルテドーナの商館を確認しておきたくはある。

 

 

「明日はルテドーナの商館で仲間候補がいるか見てこようかと思うんだけど、全員で行って大丈夫かな?」

「お嬢様は紹介状をお持ちなので対応していただけると思いますが、何人も奴隷を引き連れてというのはあまり印象がよろしくないかと思われます。

 それに明日は商館側もオークションのご準備でお忙しいと考えられます」

 

「あー……。

 そっか、そうだよね」

 

 

 普段ならいざ知らず、一大イベントの準備中に(わきま)えない客に来られるのは面倒だよな。

 それに高額の取引を予定しているならまだしも、ひやかしになる可能性も高いので明日訪問すると今後の対応も変わりそうだ。

 

 前日の時点で帝都や他の地域の商館も、移動準備で同様だろう。

 うーん、色々とタイミングが遅かったか。

 

 狙いたい迷宮経験者の奴隷は出品の目玉になり得るだろうし、一般客より高値がつく可能性のあるオークションを優先させるだろう。

 売れ残ったら結局商館に戻るのだし。

 

 だとしたら、明日は帝都の街探索だけでいいか。

 カルメリガでミーラスカ用の服飾をオーダーしてくるのもありだが、ナルザさんも立て込んでいたりすると悪いしな。

 

 明日も迷宮へは行かず帝都で過ごそうと話をまとめ、食事を終えた。

 

 お風呂ではなんだかアコルトに念入りに洗われる。

 帝都に行くから張り切っているのか……?

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌29日は朝から帝都に向かうことにした。

 身支度を整え、朝食もあちらで食べようということだ。

 

 アコルトにツーサイドアップを結われている間に、ミーラスカに服を着せられていく。

 

 ぬかった。

 動けないのをいいことに、まんまとスカートを履かせられている。

 よく見ればアコルトもシャオクもミーラスカも、皆もスカートだ。

 お揃いにされては自分だけ嫌とも言えない。

 

 失意にのまれながらも、アコルトの楽しそうな表情をみていると溜飲も下がった。

 この顔に弱いんだから仕方がない。

 

 準備が整ったのでパーティーを結成し、家の扉に鍵をかける。

 鍵に関してはすでにシャオクが、ヤトロクの許可を得て増やしてもらっている最中らしい。

 あ、家賃も完済しなくちゃだ。

 

 

 

 

 MP回復速度にボーナスポイントを振ってあるのを確認し、帝都の冒険者ギルドの外壁から出てくる。

 2人目が出てきたタイミングでパーティライゼーションで強壮丸を使用したので、移動は問題なく終えられた。

 

 自分は昨日足を運んだだけだし、皆も帝都へは来たことがないため、お上りさんのようにキョロキョロとしてしまう。

 ギルド員に聞いてくればよかったが、人混みの中で列に並ぶのも……と辟易しかけたところで子どもが近づいてくるのが見えた。

 

 

「お姉さんたち!

 案内はいりますか?」

 

 

 ミーラスカに話しかけた様子のその男の子は、くたびれた服を着ていたが普通の古着と思えば一般的な市民だろうか。

 

 

キナロ エマーロ族 ♂ 10歳 村人Lv2

 

 

 鑑定してみると村人だったので、スリの類ではなく小銭稼ぎの道案内といったところかな。

 10歳と表示されたから分別はつく年齢だろう。

 

 アコルトに目配せして対応してもらう。

 

 

「はい。

 商人ギルドに防具屋、服飾店が分かると助かりますが、おいくらでしょうか?」

「1か所5ナールだけど、宿はもう決まってる……、決まってますか?」

 

 

 ああ、エマーロ族だったし道案内兼、宿の客引きか。

 おそらくブラヒム語で話しかけてきたのも、家業の関係で教わったりしているのだろうな。

 

 目的も分かったので自分が前に出る。

 

 

「悪いけど、夕方には帝都から帰っちゃうんだ。

 服屋は一から注文できるような店がいいんだけど、そういう場所もわかる?」

「そっか……、泊まりはなし、ね。

 そういう高そうな店は貴族街のほうになるから、店の前までは案内できないけど……」

 

「それで十分だよ。

 あと食事がおいしい店を知っていれば、今すぐ案内してほしい」

 

 

 まず見つけるべきは朝食だ。

 でないとうちの子達のお腹の合唱が始まってしまう。

 

 

「えっと、その、お姉さんたちが食べるような店はわからない、です」

 

 

 オーダーメイドの服屋なんて言った直後なので、そういう反応になるのも当然か。

 彼が知っていておいしければどこでもいいと伝えると、期待はしてほしくなさそうに先導してくれた。

 

 

 冒険者ギルドのあった大通りをはずれ、案内されたのはシームにもあるような普通の飲食店だ。

 下町の食堂、といった感じが近いか。

 

 今回は移動をメインにしたいので、持って食べられる料理を聞いたらここに連れてこられた。

 店主に確認すると、パンに具材を挟んでいるものらしい。

 まあそんなもんだよな。

 

 ちゃんとした食事は昼食の際にでも取ればいいと、とりあえず5人前注文した。

 とりあえずなのに1人前多いのはいつものことである。

 

 しばらく待って運ばれてきたのは、黄色いサンドイッチだった。

 程よく焼色がついて、卵の香りが強い。

 

 食べてみると濃厚な卵の味がして、肉の塩加減と葉野菜の食感がおいしい。

 溶き卵にパンを浸してからフライパンで両面焼いた感じだな。

 

 少しカリカリになった薄めのベーコンのような肉を、新鮮なサニーレタスに見える野菜が包み、それを厚みのあるタマゴパンで挟んでいる。

 シンプルな食材だが結構な満足感がある。

 目の詰まったパンで、見た目以上に食べごたえがある感じだ。

 

 自分とミーラスカはこれで十分そうだが、アコルトとシャオクにはもう1つずつかな?

 ついでにキナロ少年も食べるかと聞いたが、唾を飲んでから名残惜しそうに断ってきた。

 

 案内料と別の報酬だと伝えると、激しく頷いてきたので追加で注文した。

 庶民だろうと美味いものは美味い。

 だいたい自分が貧乏舌だものな、一定以上のラインなら全部おいしいし。

 

 食事で気を許してくれたのか、次の案内がてら色々と話してくれるようになった。

 

 

 帝都でも他の領都のように街の中央あたりに冒険者ギルドが配置されているそうだ。

 その前は広場になっており、近くには街を分断するように川が流れている。

 カルメリガの街に似た感じの造り、というか帝都を基にあちらが造られた感じだろうか。

 

 今行ってきた飲食店やキナロの家である宿があるのが平民街、というか一般市民の住む区画で、川向こうに設けられた通りの先が貴族街になるらしい。

 広すぎてわからないが皇帝の城もそちら側の奥の方に違いない。

 

 主要なギルドはその境目周辺に置かれているようだが、商人ギルドは川のこちらと向こうの2箇所に設置されているそうだ。

 管轄というか扱っているものの違いにあるんだろうな。

 

 このあたりは比較的治安の良い地区らしい。

 周囲の迷宮は早々に帝国騎士団が討伐するというなら、迷宮目当ての者たちは討伐期間中以外は寄り付く必要がないしな。

 

 一般人相手の宿屋なのだから、客の目的は買い物や観光だろう。

 荒っぽい連中も少なく、比較的余裕のある層が対象ならそうなるのも頷ける。

 

 討伐後何年か経つとまた現れるそうだが、帝都周辺が出現しやすい一帯になっているのだろうか。

 急に50層以上の迷宮が現れるなんて竹林かなにかか、この世界は。

 

 興味本位で聞いてみたが、貴族街の対極の方面にはスラムのような場所もあるらしい。

 盗賊討伐などもする気もないので足を運ぶことはないけどな。

 

 

 平民街の商人ギルドの前まで来た後、今度は商店街へと移動する。

 少年には案内ごとに5ナールずつを計算しているが、渡すのは最後にまとめてでいいよな?

 特に気にした様子はなく、各所の説明も付け加えてくれる。 

 

 防具屋や雑貨屋も教えてもらい、最後に川向こうの商人ギルドの近くまで案内してもらった。

 高級服飾店はそちらで聞けばいいだろう。

 上位の装備も置いている店もあるかもしれないし。

 

 

「案内ありがとう。

 それじゃ、これ代金」

「えっ、銀貨!?」

 

 

 紹介も含めて7箇所分の代金の銅貨をジャラジャラとするのが面倒だったので、銀貨を1枚渡す。

 キナロ少年は恐縮していたが、おいしい料理の店の情報は紛れもなく価値がある。

 他に教えてもらった店舗も、最初のサンドイッチと同程度の料理なら十分期待できる。

 

 連れ回した上に宿客は掴めなかった分の礼金、ということにして納得させることにした。

 

 

「今度うちに泊まってくれたらおまけするから!

 さ、させていただきますから!」

 

 

 元気に手を振って別れたが、すまん少年、たぶん泊まることはない。

 たぶん家のベッドのほうが寝心地が良いから……。

 川向こうなら泊まるかもしれないけどなぁ。

 

 また見かけた時に別の店の情報でも聞くか。

 

 うーんエマーロ族か。

 見た目はほぼ人間であったが、作中では定住を嫌い、種族固有ジョブの旅亭となって転勤をする種族とあった。

 

 眠りが浅く左右半分ずつ寝ることができる、なんてことも書かれていた。

 設定だけ見るに、うちの仲間に迎えるには難しい種族だな。

 

 ワープによる移動は多いかもしれないが基本的に自宅へ戻るし、迷宮でも一時中断で帰宅できるので、半球睡眠でずっと警戒にあたってもらう必要もない。

 カルクを使えるのは便利だが、それなら武器商人などの方がアイテムボックスもあるし、インテリジェンスカードの表示だけでは特に使い道もない。

 

 オークション会場の受付にいたように、本人確認には便利だが日常生活では特に利点もないし、迷宮でもアドバンテージもない。

 森林保護官の方がまだ有用か。

 人間の色魔もまぁ……一応攻撃スキルもあるし、MPも上がるからいい方かな?

 パラレルジョブあっての話ではあるが。

 

 後学のために旅亭のジョブ効果を見てみたくはあるが、どんなによくても活かせないだろうな、うん。

 

 大人しく正面に進み、商人ギルドの中へと入った。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10



作成分余り
・身代わりのミサンガ(予備)


所持モンスターカード
・蟻         4
・潅木        5
・コボルト     11
・壷式食虫植物    1
・牛         1
・芋虫      1→0
・山羊        1



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次回は6/5更新の予定です。

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