異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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「いかがされましたか?」

 

 

 商人ギルドの受付の女性が、にこやかな顔をして話しかけてきた。

 同時に、ギルド内のいたるところから視線が飛んでくる。

 

 

「その……、新品の服や一点物を買えるお店はどちらにありますか?」

 

 

 キナロ少年が言うには、一応ここはまだ貴族街ではなかったはずだ。

 川を渡ってすぐの場所にあるこの商人ギルドは、これまでのどの街と比べても広い。

 競売会場も併設しているのもあるが、単純に造りが大きいのだろう。

 

 品定めのような目つきが次々と刺さり、やがて気泡のように消えていく。

 場違いな声に目を見張ったが、取るに足らないと興味を失ったように思える。

 

 受付嬢は少しばかり視線を彷徨わせた後、まっすぐこちらを向いて口を開いた。

 

 

「ギルドを出て左側に折れた先が帝都のメインストリートにあたります。

 通り沿いに並ぶ店舗一帯でしたら、お求めの品に巡り会えるでしょう。」

 

 

 なんだ、意外と近かったのか。

 

 

「ご心配でしたら巡回の騎士様にお尋ねになるのもよろしいかと思います」

「ありがとうございます」

 

 

 なんだかよくわからない言い回しだが、あんまり奥まで入り込むなってことかな。

 心配ならってのは貴族じゃないなら、ってことだろうか。

 

 そのまま商人ギルドを出て、教えられた通りの方向に足を進める。

 

 

「結局こっちにあるっていう店で大丈夫なのかな?」

「先ほどの女性は私とシャオさんの装飾品、それにお嬢様の靴も確認されていたようなので問題ないでしょう」

 

 

 えー、そんな細かいところまで見てたかなぁ。

 ギルドにいた他の人たちは露骨に眺めていた感じだったが、受付の人にはそんなに見られた感じはなかったぞ。

 

 そういう対応ができるから受付に立てるのかもしれない。

 何にせよそれぞれが数百ナールの衣服に、金貨相当のパンプスや装飾品を身につけられる程度と思われたならちょうどいいか。

 

 

 大通りに抜け出て、建ち並ぶ店と行き交う人々を見て納得する。

 メインストリートと言っていたが、要は一番多い客層向けの場所なんだろう。

 下級の貴族か、貴族ではないがそれなりにお金を使える人たち向けだ。

 

 奥にあるという貴族街の方が、もっと高級品を取り扱っているんだろう。

 きっとそちらは金貨何十枚、何百枚の世界だったりするのかな。

 

 

 そういえば服屋にはしばらく行かないと考えていたはずなのに、どうして向かっているんだ。

 ……アコルトが少年の案内先候補に挙げていたからでは?

 場所を知っておくだけのつもりが、いつの間にか来店する気になっている。

 

 理由に思い当たった頃には、すでに店内へと足を踏み入れてしまっていた。

 

 どの道、季節向けに衣服は買い足さなくてはならないし、下着類だってあって困ることはないだろう。

 アコルトのスカート購入さえ阻止すればいい。

 

 薄手のブラウスや涼し気な装いの衣服を選び、アコルトをシャオクとミーラスカに押し付けているうちにズボンを選ぶ。

 タイトなパンツスタイルなら、パンプスにだって似合いそうじゃないか。

 

 こっそり店員に確認すると、オーダー品も扱っているそうだ。

 必要でしたらと採寸や、希望に沿った技術のある店の紹介もしてくれるらしい。

 

 時間はあるが、今お願いしたらアコルトの希望通りになるのは目に見えている。

 ちょっと時間を置いてからにしようかな。

 

 

「お嬢様、スカートはよろしいのですか?」

「うわぁ!

 アコ、ほら、装備がスカートになるから普段着はこっちのほうがいいかなと思ってさ」

 

 

 ヌッと背後に立たないで!

 そして当然のように服を両手に持って、肩のラインを合わせようとしてくる。

 

 

「しかし、お持ちのワンピースは少々生地が厚めですし、薄手のものもあった方がよろしいかと思われます」

「う~ん、そうだね、

 それなら、その右手に持っている方は買おう」

 

 

 ここで否定するのではない。

 あえて1つは認めることで、これ以上は不要という線引をさせるのだ。

 ふふ、これが交渉術だよアコルトくん。

 

 

「じゃあこれでお会計───」

「お嬢様はメッシュスカートの丈の長さが気になってらっしゃいませんでしたか?」

 

「え、そ、そうだね?」

「スカートの上から身につける、こちらのようなスカートもあります」

 

 

 続いて取り出してきたのは薄手の布で作られたスカートだ。

 モノトーンのチェック柄のようなシンプルなデザインや、紋様の描かれた藍色の生地のものもある。

 

 

「本来はデザインや色合いを変えるためのものですが、装備品より丈の長いものを選べば……」

「……膝より下まで丈が延びるし、体装備とも色みの調整がしやすそうだね」

 

 

 オーバースカートとか言うんだっけ。

 涼し気な細かい縫い目のチュールスカートなんかも、膝出しの生足の目隠しになる。

 単調なオフホワイトのミスリルメッシュスカートにいずれかのスカートを被せれば、黒色のオストリッチパンプスと雰囲気も合う。

 

 装備品じゃないから収縮はしないし、なにより迷宮での格好も少しは落ち着けるかもしれない。 

 アコルトの提案も悪くないじゃないか。

 

 

「ですが防具の上から身につける形になりますし、薄手の生地になりますので、お嬢様が気にされていたように引っ掛けてしまうと破れてしまいます。

 裾の長さを気になされているようでしたので、予備という形でも複数購入しておいた方がよさそうです」

 

 

 確かに。

 破れてもすぐに迷宮から家に帰れば格好自体はなんとかなるが、替えがないなら迷宮に戻ればそれ以降は膝出しで戦う羽目になる。

 汚れやすくもあるし、裾の長さ維持のためには何着かは買っておくべきだろう。

 

 

「それに単体では薄手のスカートですが、2種類を重ねればこれだけで普段のスカートとしても使うことができます」

 

 

 その使い方は別にいいけど、余らせてもそれ同士で使えるのは無駄がないな。

 ま、替えも考えて数枚くらいならいいか。

 迷宮で短いスカートで活動するよりは全然いい。

 

 

「わかった。

 今選んである分だけは買うことにするから、まとめておいて」

「かしこまりました」

 

「ありがとうございます。

 ではこちらとこちらと……、───こちらですね」

 

 

 すでに呼んでおいたらしい店員が、置いてあった衣類をごっそり持って行く。

 会計を済ませて店を出る頃には、パンパンになったリュックをシャオクとミーラスカが背負っていた。

 

 皆の衣服の上下や下着が3着ずつ、そして自分のワンピースが1着、薄手のスカートが6枚増えた。

 

 

 …………どうして?

 

 最終的にアコルトが選んだものに任せるのだと読まれていたからこそ、前もって選んでおいたのだろう。

 なんてことだ、所有物のスカート割合が増えてしまった。

 

 だがちゃんと3割引は利かせたし、どれも裾丈は長いから痛み分けだ……(?)

 

 否、完敗だろう。

 だから交渉なんて向いてないんだ。

 

 

 

 満足そうな黒うさぎ様の横顔を眺めつつ、同じ通り沿いにある防具屋へと入る。

 軽く見渡したところ、皮や銅などの下位ランク装備はかなり数が少ない。

 

 店員によると店自体は平民街の店と姉妹店らしく、仕入れや買取した後のものを振り分けているらしい。

 高額なものをこちらに増やし、客層を分けているのだろう。

 貴族に関しては仲買人やら出入りの商人が対応するだろうから、奥の貴族街にまでは出店する必要はない。

 

 他の店でも似たような手法を取っているということも聞いた。

 つまり自分が欲しい装備や道具についてはこのあたりの店を回れば十分となりそうだ。

 

 流石は帝都というだけあって、鋼鉄のみならずダマスカス鋼や白銀製の防具も多い。

 

 アルヴナやルテドーナの防具屋と合わせれば、ミーラスカのフル装備と残り3人の装備の一部変更ができそうな目処がたった。

 オークションが終われば速やかに装備を揃えて、迷宮の階層を上げていけるはずだ。

 

 後衛である自分は全身白銀もしくは聖銀で魔法火力上昇を狙えばいいのだと思うが、遊撃のアコルトは軽さに加えて防御力もほしい。

 銀は柔らかい金属というイメージがあるし、今日見かけたダマスカス鋼の鉢金とミスリルサークレットでは純粋な防御力はどちらが上なのだろう。

 

 結局足りないのは知識か。

 せっかく帝都に来たのなら図書館を探してみようか。

 

 

 

 先に昼食を、と近場の商人ギルド周りの飲食店に適当に入る。

 紹介された店は少々距離もあるし、期待値も高いので後日に回そう。

 

 昼の時間帯だというのにほとんど客が入っていない時点でなんとなく察していたが、値段に対して首を捻る味だった。

 そういえば看板と店員だけが新しい感じがして、中身は居抜き物件のような雰囲気である。

 

 現代の都会での店の入れ替わりが激しい例に漏れず、この世界でも同様なのだろう。

 そこそこではあるため、場所を選べば居着く客もいるかもしれないが、価格だけ帝都の商人ギルド周りの水準では淘汰される側だな。

 

 次に出来る店はおいしいといいなぁと思いつつ、店を後にする。

 

 近くの雑貨屋で新調する日用品をいくつか買った後、店員に図書館の場所を聞いた。

 

 

 メインストリートだと言われた通りから何本か内に折れた場所に、その図書館はあった。

 蔵書の量を思わせる2階建ての大きな建物で、騎士団の出張所からも近い。

 

 受付にいた男性を鑑定してみると、ジョブは旅亭であった。

 働き盛りのように見えたが、結構な年齢のエマーロ族だ。

 宿泊業は引退してこちらに勤めたり、なんてエピソードでもありそうだ。

 

 やはりカウンター業務の仕事では、自動計算のカルク持ちが強い。

 アイテムボックスのある派生商人のジョブは便利ではあるが、逆に横領の危険性もあるのかな?

 

 利用について尋ねると入館料が200ナールに、預託金が1万ナールだそうだ。

 とりあえず4人分、800ナールと金貨4枚の預託金を預ける。

 

 日付と判の押された紙を受け取り、中へと通される。

 紙は帰りの際に預託金の引き換えになるらしい。

 

 

「さてと……じゃあジョブについてと、魔物についてと、装備についてかな?」

 

 

 手分けして探してみることにしよう。

 武器や防具についてはシャオクに確認してもらうのが一番だし、魔物の種類や特徴については索敵を担当しているアコルトがいいか。

 消去法でジョブについてはミーラスカになるが、彼女の今後のビジョンを広げるためにも悪くない割り振りだと思う。

 

 そして自分は……と思ったが、文字の読めない存在は完全にお荷物であることに気づいた。

 

 

「アコ~…………」

「はい。

 ご一緒しましょう、お嬢様」

 

 

 手を引かれつつ、なんらかの基準で分類されているであろう本棚を行き来する。

 今後図書館へは誰かに行ってきてもらうだけにしよう……。

 

 司書だという女性に助言をもらったりしながら、資料を探してはアコルトに読み上げてもらう。

 それなりの年齢だったのにもキビキビと動いていたのは、元騎士だったかららしい。

 今は戦士のジョブに戻しているようだが、それでも体力に補正があるので、この世界でのジョブの経験は無駄にはならないんだな。

 

 

 自分の記憶にある、小説に出てきたほとんどの魔物は、描写された特徴と一致しているようだった。

 

 帝都周囲の迷宮は何度も討伐されているだけあって、結構深い階層まで魔物の名前くらいは判明しているみたいだ。

 33階層上の魔物がボスとして出てくるのだから、階層の魔物は分かっていても不思議ではないか。

 

 当面は22階層までの魔物の使ってくるスキルと弱点属性を押さえておけばいいだろう。

 道中とボスとで耐性が違う魔物がいることや、状態異常攻撃を持つ魔物を要注意として覚えておく。

 

 大体は繰り返し読んだ知識通りだし、アコルトも覚えがいいので夕方になる頃には一通り確認ができた。

 気になればまた図書館に来ればいいのだし。

 

 食材が残っているということなので、夕食は家でとることにし、2人の詳細は帰ってから聞くことにして図書館から引き上げる。

 特に問題もなく、4枚の金貨はそのまま返ってきた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ごちゃごちゃと肉と余っていた野菜を甘辛く炒め、ついでに卵も使い切る。

 もう少しは持つと皆には口を揃えて言われたが、冷蔵庫もない世界では食材はさっさと使い切るに限る。

 こんな世界で病気にかかっては、即命に関わるしな。

 作中で最上級の万能薬と記載のあったエリクシールなるアイテムを常備できるまでは安心できないだろう。

 

 そのアイテムも皇家の贈答用なんて代物だったし、かなりの高階層でなければ材料も手に入らないはずだ。

 えーっと、図書館で見たのはハーフハーブのボスのハートハーブが道中で出てくる際のボスだから……、56階層以降のボスだ。

 

 出現してから短い迷宮なら、そもそもその階層すらないという可能性すらある領域だ。

 更にその階層ではボスが2体に取り巻きが4体ともなるとあった。

 流石にそのレベルのボスアイテムがギルドで売っているわけがないし、まずギルドに売る者がいないだろう。

 それこそ競売にかけるべき代物だ。

 

 それを常備……は、最終的な目標だな。

 

 食事を進めながらシャオクとミーラスカの話も聞いてみる。

 

 装備の方を調べてくれたシャオクによると、白銀製がダマスカス鋼製には防御面で劣ることはほとんどないらしい。

 もちろんダマスカス鋼の大盾とミスリルブレスレットのように、装備部位も素材の使用量も格段に違う場合は逆転することもあるが、基本的に同系統の装備品なら上位互換になるという。

 

 ダマスカス鋼製は物理面で高耐久だが、白銀製はそこに魔法面での補正が加わった感じらしい。

 あくまでその資料での記載ではそうなっているが、入手できる魔物のランクがそもそも違うのだ。

 当然と言えば当然だろう。

 

 大量の素材を使うらしい鎧なんかは、白銀製はほとんど出回らないのでダマスカス鋼製のものにする。

 ジャケットや手装備等の素材の使用量が少なそうな装備は、可能であれば白銀製を目指して、使用者を見てダマスカス鋼製や竜革製で対応するのがよさそうかな。

 

 具体的にはシャオクの鉄の兜はミスリルサレットに、同じ鉄製のチェインメイルはダマスカスメイルにしたい。

 現在の鋼鉄の篭手には毒耐性がついているので後回しにして、モンスターカードとミスリルガントレットないしダマスカスの篭手が手に入れば更新する、といった方針だ。

 

 鍛冶のレシピが分かれば材料から防御性能を推察なんてこともできるかもしれないが、書かれていたのは名称だけだ。

 そちらはやはり鍛冶師ギルドの領分だろう。

 魔物の情報と合わせて、おおよその装備のランクがわかったくらいか。

 

 

 ミーラスカが見てくれていたジョブの方だが、特に新規の情報は得られなかった。

 博徒や料理人といった派生ジョブの匂わせ、みたいな書き方はされていたらしいが結局そのあたりは各ギルドの利権に関わるので公にできない部分もあるのだろう。

 鑑定のようにジョブ効果やスキル名まで特定する手段がないから、当事者の体感の情報を集めるしかないというのもまとめにくい点であるしな。

 

 まぁこちらはミーラスカにパーティー構成の意識を持ってもらう意味合いが強かったから十分だ。

 

 情報に関しては望み薄で挑んでもらったが、一部気になる記述もあったようだ。

 剣士について、修行中のある若者が()()()()()()()()()()()()()()ような記載があったという。

 

 長年修練を積んでという書き方ではなかったので、中位ジョブではなく派生ジョブの可能性がありそうだ。

 流石に条件までは書かれてはいなかったので、詳しくはわからない。

 

 特定の武器を使うとか、特定の魔物を倒すとかだろうか。

 前者は騎士のジョブ条件の槍のように考えられるし、後者は順に迷宮を進んでいけば大体がクリアできるから違うか。

 

 いや、でも英雄だって、()()()()()()()()()が条件になっているとも考えられる。

 それに対応するギルド神殿を利用しなければ一般人はジョブには就けないし、存在すら知らないだろう。

 

 結局、自分がレベルを上げて色々と試せる余裕が出てきてからの話かな。

 そういうことが書かれた本があった、と知れただけで今は十分だろう。

 

 

 シャオクはもともと調べ物が好きなようだったし、ミーラスカは要点を拾うのが上手いようだ。

 アコルトも商館にいたときはよく勉強していたと聞いたし、文字が読めなくて探し物すらできない自分は……。

 

 じ、自分は情報を集約して考察する担当だし?

 それにそう、ほら、鑑定での検証班だし!

 

 食事を終えて洗い物用のお湯を作り出し、そのまま湯船にもお湯を溜めていった。

 明日のオークションに張り切っていると思われたのか、皆もいつも以上に急いで片付けをして、仲良く一緒にお風呂に入る。

 

 お湯に蕩けた頃には感情も落ち着いたので、掃除も手伝って早めに寝ることにした。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10



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次回は6/9更新の予定です。

動きの少ない回が続きますが、飛ばすとおかしくなるので難しいです。
追従様が一区切りとなり、寂しくて何度も読み返してしまいます。
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