異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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119 競売

 早めに就寝できたからか、適度な緊張があったからか、いつもより早めに目が覚める。

 それでも3人はすでに起床していて、階下に降りているようだ。

 

 のそのそと、置いてあった服を着る。

 アコルトが用意してくれたであろうこのゆるゆるの衣装は、出かける前にまたドレスに着替える合図みたいなものだろう。

 

 オークションだし、着飾ってお金を持っていそうだと思われたほうが牽制になる。

 なるべく競り合わずして勝ちたいな。

 

 

 階段を降りて挨拶をした頃、ミーラスカがバスケットを抱えて玄関から入ってきた。

 朝食用の買い物をしてきてくれたようだ。

 

 若奥様的な装いで腰も低いので、シャオクによると買い物先でもよくおまけしてもらっているらしい。

 ご近所付き合いも任せておけばいいだろう。

 

 簡単に作った朝食を取りながら今日の予定について話す。

 

 

「これからアコルトとオークションに行ってくるけど、シャオたちはどうしようか?」

「ミツキ様がよければ、帝都の図書館で魔物のことを調べつつ、迷宮についてミラさんに教えようかとおもいますが……」

 

 

 それなら帝都の散策よりは安全が保証されそうだ。

 資金を持った者しか中に入れないのだし、騎士団も近いし。

 

 ミーラスカも頷いているので問題もなさそうだ。

 

 

「うん、入館料とかは気にしなくていいよ。

 じゃあ悪いけど、迎えに行くまで図書館で過ごしてもらっていいかな?

 食事代も渡しておくから、近場でお昼も食べちゃって」

「承知致しました」

 

「無理に1日中本に向かってないで、休みって考えてていいからね。

 アコはちょっと付き合ってもらうことになるけど……」

「はい、お供いたします」

 

 

 食べ終わって食器を片付け、シャオクに硬貨を渡しておく。

 金貨を5枚ほどと、銀貨は20枚くらいあれば不足はないだろう。

 

 寝室へ戻ると、アコルトがドレスを準備して待っていた。

 ニッコニコである。

 

 自身はメイド服にすでに着替えて待ち構えているとは。

 確かにドレスの少女2人組では怪しさがあるが、片方が侍女姿ならそれっぽく見えるか。

 

 テキパキと着付けとヘアセットを終えて、メイクも施してくれた。

 会食の時より自信あり気なので、うまくいったらしい。 

 

 

 シャオクたちの準備も整ったようなので、先に彼女らを帝都の冒険者ギルドへと送る。

 昨日は平民街の各店舗への案内があったから遠回りになったが、本来冒険者ギルドから橋を渡ればすぐに商人ギルドの通りだ。

 一応メモ用の道具も持ったみたいなので、こちらは大丈夫だろう。

 

 続いてルテドーナの冒険者ギルドにワープゲートを繋ぐ。

 先にアコルトに通ってもらい、迎えてもらうように黒塗りの扉を通り抜けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ゲートを抜けてすぐにその場から避ける。

 自分の開いたゲートのすぐ横に別のゲートが開いてきたからだ。

 

 冒険者ギルド内も外の広場も、とにかく人でごった返している。

 商人ギルド方面に動く流れができているので、これが皆オークション目的に集まった人々なんだろうか。

 

 アコルトの背を追うようについて行き、なんとか受付近くまで辿り着いた。

 長蛇の列になっている一般参加者たちを横目に、登録者用の受付へと進む。

 

 カルムの助言通りに一般との合流なんてやめておいて正解だ。

 そもそも朝からこの人数じゃ、会場に入れるかすら怪しい。

 

 受付の防具商人と旅亭にカルムからの招待を告げ、インテリジェンスカードの照会を受ける。

 アコルトの方も確認を終えるとすぐに通してもらえた。

 登録者とその奴隷ならば関係性も明らかだし、カルムの身分もあってのことだろうか。

 

 

 聞いていた通り、競売会場の方ではなく控室となっている大部屋の方へと足を運ぶ。

 簡易的な間仕切りで区切られた数人ごとのスペースに、机と椅子が置かれており、向かい側には奴隷商人が座っている感じだ。

 なんか就活の合同説明会を思い出して頭が痛くなりそうだ。

 

 奴隷商人の後ろには、それぞれ奴隷と思わしき人が立っている。

 大抵は1人ずつだが、たまに2人いるスペースもあった。

 

 誰かを探すような素振りを見せつつ、通り抜け様にちらっと鑑定を投げていく。

 

 獣戦士、竜騎士、村人……。

 

 年齢は40代ほどの、割と高レベルの如何にも戦闘奴隷といった体つきの男性や、30代で竜騎士になりたての男。

 村人は綺麗どころっぽい女性なので妾奴隷だろうか。

 

 いまいちピンとこない。

 ある程度のジョブはこちらで操作出来ることを考えれば、年齢は自分たちと近い方がいい。

 1人だけ離れているとお互い気を使ってしまうだろう。

 

 ミーラスカは丁寧な性分なだけで、慣れてからは結構ジャンキーな食べ物を好んでいることも分かってきたし、意外と気さくである。

 今度イモをスライスして揚げてみようかな。

 それにそぼろ風の肉とチーズをかけたやつとかすごく好きそう。

 

 おっと、意識が逸れていた。

 

 

「アコ、気になった人とかいた?」

「……いえ。

 実力のありそうな方は皆、壮年の男性ばかりでしたので私達とでは生活も合わせにくいと思いました」

 

 

 そうなんだよな。

 

 奴隷を身請けすることは即ち共同生活の始まりだ。

 主従契約があるから変なことは起きないだろうが、四六時中一緒にいれば面倒なことばかりだろう。

 

 一応1階の部屋を男部屋にすることもできるが……。

 自分がその立場だったらなかなかに居心地が悪いと思う。

 悲しみのおじさんを作り出してはいけない。

 

 一通り回ってみたところで、結局目を引かれる奴隷はいなかった。

 価格の参考にするにも、魔法使い自体もいなかったし、自分にとっては空振りだ。

 

 地道に商館を巡ってみて探すほかないか。

 

 

 

 

「ミツキ殿!

 よかった、いらっしゃいましたね」

 

 

 次は調度品でも見て回ろうかとアコルトと話していたところで声がかかる。

 後で落ち合うつもりでいたカルムがこちらを探してくれていたようだ。

 

 

「本日はよろしくお願いします、カルム殿」

「ええ、こちらこそお願いいたします。

 …………場所を変えましょう」

 

 

 少し目つきの鋭くなったカルムに付き従い、臨時の商談室へと入る。

 緊急の問題でも発生したのだろうか。

 

 

「お急ぎのようでしたが、どうかされましたか?」

「ミツキ殿、朗報といいますか何といいますか……、こちらをご覧ください。

 最終出品受付が終わりましたので、本日の出品目録となります。

 確認したところ、ダマスカス鋼の大盾の出品が2件になっておりました」

 

 

 え。

 めったに出ないとか言ってたのに?

 アコルトに直ぐ様手渡してザッと見てもらうと、細い指が2箇所を指し示した。

 

 

「おそらく、いえ間違いなく、告知の()()()()でしょう。

 資金繰りのためか、持て余していたか、いい機会とばかりに売りに出したと考えられます」

「落札する側としては気をつけたほうがいいことはありますか?」

 

「このような場合、1点目の方は様子見や他の商品との兼ね合いで、そこそこの値で止まることが多くあります。

 そして2点目の出品の際に、是が非でも落札しなくてはと競り合う傾向が見受けられます。

 それを見越して少し高めの額を挙げて、『まだもう1点が残っているから』と思わせることで勝ち逃げをする形ですね」

「1つ目の出品を狙う方が、2つ目よりは安く上がりそうだということですか……」

 

「あくまでその傾向がある、といった程度ですね。

 1点しか出品がない場合よりはそれぞれの価格は吊り上がりにくいでしょうが、実際に同じ考えの者が狙っている際には……ということです」

 

 

 1点目の段階で必要な装備としてさっさと手に入れてしまおうという者もいるだろう。

 むしろ、大盾の出品告知を待っていたなら本命しか用がないはずだ。

 

 自分としては、スキルスロット次第なんだよな。

 5スロット……まであるかは分からないが、とにかくカード融合の余地が多ければ多いほど、高くなったって狙いにいかなければならない。

 

 ダマスカス鋼製の装備なら4スロットまで店売りの装備で見かけたはずだ。

 もちろんスロットなしも多数存在していたのだから、こればかりは鑑定しないと分からない。

 

 2点ともスロットなしなら見送り……いや、防具としては大盾は必要だから泣く泣く2点目の方を落札することになるか。

 それが高騰したら地獄だが。

 

 1点目が3スロット以上ならもう迷わずそれだけ狙いにいったほうがいい。

 2点目の盾のスロットがそれ未満の確率になるのが高いし。

 

 

「情報をありがとうございます。

 実際に出品されている物や、価格を見て入札してみます」

「ええ、かしこまりました。

 他に確認したいことはございますか?

 特にないようでしたら、競売開始前に会場の席をご案内いたしますが」

 

「えっと、それなら───」

 

 

 

 気になっていた聖銀装備の相場や落札の際の細かい注意点などを聞き出した。

 モンスターカードの落札については、カルムに任せることにする。

 セットになっていたり、銀貨単位での細かな駆け引きは難しそうだしな。

 

 席も近いそうなので、追加で落札を希望する場合は合図を出す形で合意を取った。

 合図といっても、低価格の内に自分が1回入札するというだけのことだ。

 それを見て必要と判断して落札に動いてくれる手筈となる。

 

 

 その後はカルムが認証受けたのに続いて会場に入ってみた。

 備え付けの座席は以前と同じであるが、通路や後方に臨時の席が設けられている。

 

 移動がしづらいのではと思ったが、登録仲買人とその関係者には別の出入り口を開放するようで、そのあたりは不便をさせないようにしているらしい。

 自分とアコルトの席は、端の目立たないような場所にカルムが設定してくれたようなので、隣席以外は気にしなくていいだろう。

 別の客側はアコルトが座ってくれるようだし。

 

 

「入札は以前来られた際と同様で問題ありませんが参加者が増えておりますので、入札額の声が重なった場合は競売人の判断次第となることにお気をつけください。

 高額になってきますとなかなか声が重なることはありませんが、同じ金額でも先に宣言した方が有効となりますので」

 

 

 許容額までの判断は即決で、ということだろう。

 余裕があるときは、相手の入札に続いてすぐ宣言して資金の潤沢さのアピールも効果的らしい。

 あまり続けると、一瞬遅れた時に優位と見られて一気に吊り上げられることもあるみたいだが。

 

 出品順の抽選も終わったようで、カルムが渡してくれたメモの記載もその順になっているそうだ。

 調度品その他、迷宮関連のアイテムや装備、奴隷の順番のようなので、早めに会場を後にできるかもしれないな。

 

 

「それに致しましてもシャオク殿と来られると考えておりましたが、アコルト殿とご一緒なのですね。

 大盾を落札された際は、一旦私がお預かりいたしましょうか?」

 

 

 げ、この面子じゃアイテムボックスを使えないんだった。

 

 

「も、持って帰ることを忘れていました……。

 申し訳ありませんが、お願いします……」

「かしこまりました。

 その際は明日またこのルテドーナの商人ギルドにお越しください」

 

「ありがとうございます!

 シャオを連れて受け取りに来ます!」

 

 

 カルムに礼をして一旦別れることにし、とりあえず会場の席に座ってアコルトと休む。

 今日はパンプスのお陰で身長差も軽減されているが、座ってしまえばやはり差は出る。

 

 前の席が体格の良い男性だったらどうしよう。

 あ、隣は通路と壁だから、ちょっと乗り出せば見えるか。

 これもカルムの配慮かな?

 

 商談室への移動中も当然のようにパンプスを褒められたし、目聡い男よな。

 自分が褒められると、僅かに得意げな表情になるアコルトが可愛かったからまあいいや。

 

 

 

 そのまま続けてアコルトに出品目録を小さく読み上げてもらっていると、少しずつ人が増えてきた。

 開始時間が近づいてきたのだろう。

 

 周囲の人々は大半が武器防具商人だった。

 まぁ基本は仲買人だよな。

 自分のような鑑定スキルを持っているわけでもなく、プロに任せるのが普通だ。

 

 自分のようにわざわざ本人が落札に……なんて考えていたら、口元だけ開いた兜を身に着けた男性が少し離れた席に座った。

 身バレ対策だが怪しすぎるだろ……。

 

 鑑定を通すとしっかり名字持ちの聖騎士だ。

 フルネームからはそれを思わせるような街の名前は浮かばなかったが、絶対どこかの面倒なお偉いさんだろこんなの、関わりたくない。

 

 

 

 しばらくするとほとんど席も埋まり、後ろの一般席もギュウギュウになったところで、ステージ上に1人の男性が出てきた。

 

 

ウォスラト ドワーフ ♂ 53歳 目利きLv9

 

 

 ───ザノフ以来のあの謎のジョブだ!

 

 鉱山を抱えるこの鍛冶師の街ルテドーナでも、商人を極めた(?)ドワーフがいるとは……。

 いや、だからこそいるのか。

 鍛冶師になれなくとも、その装備を売る仕事として携わりたい者もいるはずだ。

 

 ピシッとした服装で綺麗な礼をした後、ステージ下手側に設置されていた司会席へとついた。

 

 

「さて、皆々様!

 お集まりいただき、誠にありがとうございます。

 これより夏の上月、最終日恒例の大オークションを開催いたします!」

 

 

 ワッと上がる歓声と拍手が起こり、タイミングを見計らってウォスラトが木槌を鳴らす。

 

 

「ありがとうございます!

 司会は私、ウォスラトが担当させていただきます。

 さぁさぁ、皆様お待ちかねでしょう!

 本日公開されておりますリストに沿って順に進んで参りますので、お見逃しの無きよう奮ってご参加くださいませ。

 では本日の最初の品はこちら───」

 

 

 調度品というか骨董品のような机と椅子のセットが台に載せられて運ばれてくる。

 説明を聞くに希少な木材が使用されていて、名うての職人の品だとか。

 高級そうな見た目ではあるが、自分たちが使うなら日用品は機能に満足すれば十分だろう。

 

 続いての品は大ぶりの宝石だったり、3品目は細工の細かい貴金属だったりした。

 このあたりは入札の予定はないので、オークションの進行を学ぶ時間にしよう。

 

 以前参加した際と流れに大きな違いはないが、司会がどんな商品でも盛り上げているのと、参加人数が格段に違うので入札額の上がり方も早い。

 祭りというか、空気に当てられている感じだ。

 自分も飲まれないように気をつけなくては。

 

 たまにどうしても聞き取れない言語の声があがっている事に気づいた。

 競り合っている時に声の主に注目してみたが、どうやら竜人族らしい。

 

 えーっと、何語だったか。

 ともかく、ドワーフであるウォスラトは別種族の言葉でも当然のように聞き取って競売を進めている。

 いつぞやの監査官のように、主要言語は全部できるタイプか。

 

 そのくらいができないと、この人数のオークションを回せないのだろう。

 言語が違えば、言った言わないの問題が必ず出る。

 ましてや金銭の関わる早いもの勝ちなのだから、主催側が分かりませんでしたではクレームの嵐だ。

 

 

 感心しながらその後も眺めていると、木槌の音が響いた。

 品目の種別が変わるので小休止を置く、と聞こえてくる。

 

 ここまでの商品が目的だった者が退場し、少しばかりの入れ替わりが進んでいる。

 前方列のカルムが振り向いたのでこちらと目が合い、小さく頷いた。

 ここからが本番だ。

 

 膝の上でキュッと拳を握ったアコルトに手を重ね、微笑み合ってリストを再確認してみた。

 

 

 少しずつ喧騒も収まり、下がっていたウォスラトが司会台に戻る。

 会場を見渡して礼をした後、木槌を下ろした。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10



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次回は6/12更新の予定です。

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