異世界迷宮と斉奏を   作:或香

12 / 186
012 決心

 迷宮に戻り、午後からは剣士を少しレベル上げすることにした。

 こちらはHPに補正があるので、MP全解放の不足分としてHPを削られた際に生き残る為に必要だ。

 

 相変わらず2階層での狩りを続けつつ、時折コボルトが1体のみで現れた際には、周囲を確認してレイピアを使ってのダメージの検証を行うことにする。

 

 攻撃力上昇のスキルのついたボーナスアクセサリ・二である決意の指輪を装備して、レイピアでコボルトを攻撃すると、倒せるのは4回目の攻撃をした時である。

 この時ジョブとしての補正は、英雄の腕力中上昇と剣士の腕力小上昇の2つだ。

 

 つまり、この編成で3回攻撃した時点でコボルトの残りHPは1/4以下の状態となる。

 ボーナスポイントで腕力を調整すれば更にギリギリを狙うこともできるだろうが、弱いとされるコボルトのそれ以下のHPはもう誤差の範囲だろう。

 

 魔物自体の違いはあれどレベルは同じなので、原典より高いMP補正になるジョブ編成で、原典以下のHPの魔物をMP全解放で倒すことはできるはずだ。

 作中の彼と自分のジョブ以外の補正が違ったらもうお手上げになるが。

 

 

 剣士がLv5になったので、3rdジョブを僧侶に変更し、経験値効率を落としてデュランダルに持ち替える。

 これで何度か戦ったら、MPも回復するだろう。

 次のグループを倒したら……いや、もう一つ僧侶のレベルを上げておこうかな?

 

 デュランダルならコラーゲンコーラルLv2も一撃だったので、討伐速度は上がった。

 代わりに経験値効率が100倍から25倍になっているため、レベルの上昇は遅いだろう。

 

 と思っていたが前回あと少しで上がるところまで稼いでいたのか、追加の2グループ目を倒したところで僧侶のレベルが上った。

 

 行くか。

 待て、レベルアップ分のMPをデュランダルで回復しなくてはいけないはずだ。

 もう数グループ倒してからにしよう。

 

 なかなか踏ん切りがつかない。

 先程の考えたプランなら十中八九問題なくコボルトを倒せるだろう。

 瀕死のLv2のコボルトと、パラレルジョブで盛りに盛ったHPとMPだ。

 

 それでも怖い。

 しかし今後も迷宮を進んでいく上で、いくらパラレルジョブがあっても近接戦闘のみでは厳しい。

 魔法使いになるしかないのだ。

 

 

 ひたすらにタイミングを躊躇ながらコボルトソルトを増やしていると、ついに英雄のレベルまで上がった。

 いい加減にしろと言われているみたいだ。

 

 すぐ近くにいた別のグループの魔物たちを屠ると、決心する。

 よし、行こう。

 

 近くの魔物の出ない小部屋に戻り、ボーナスポイントを調整する。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv13

探索者Lv13/英雄Lv9/僧侶Lv7/戦士Lv7/剣士Lv5/村人Lv5

 キャラクター再設定    1 鑑定         1

 ワープ          1 詠唱省略       3

 MP全解放        1 6thジョブ     31

 アクセサリ・二      3 HP回復速度2倍   3

 MP回復速度20倍   63 体力         4

                     (残0/111pt)

 

 

 獲得済みのHP、MP、体力に補正のあるジョブをすべてつけた。

 リュックのポケットから滋養丸と強走丸を3粒ずつ取り出して、それぞれ1粒飲む。

 これまでデュランダルで戦闘していたので、さすがに今ので全快になっただろう。

 

 頬を叩いて気合を入れて、目星をつけていたすぐ袋小路になる通路を進む。

 角を曲がり、通路の奥を見渡すとお誂え向きにコボルトが1体だけ見つかった。

 

 残りの丸薬を口に含み、奥歯で軽く噛んで留めておく。

 なるべく小部屋の方に引き付けるように間合いを取りつつ、攻撃を入れながら下がっていく。

 

 振り返って鑑定を使い、小部屋までの間に何もいないことを確認してコボルトに向き直る。

 レイピアを構えて3度目の突きを入れると、コボルトが膝をついた。

 

 自分の鼓動がうるさい。

 

 コボルトがよたよたと立ち上がり、叫びながら向かってきている。

 それを見ていることしかできず、呼吸が浅くなる。

 

 ここまで安全マージンを取ったのだから、HPまで不足して死、ということはないはずだ。

 

 それでも、だけど。

 

 ───ええい、いくぞ!

 迫りくるコボルトを見据え、MP全解放と念じた。

 

 その瞬間、バシュウっと音を立てて煙が爆ぜる。

 

 やった。

 終わってみればあっけない幕切れに安堵して気が緩んだ瞬間、一気に喪失感に襲われる。

 

 こんな卑劣な作戦だったら出来て当然だろう。

 卑怯なやり方で優位に立とうとする自分が恨めしい。

 

 煙が消え、コボルトソルトが残る。

 自分なんかに拾う権利などないのだ。

 

 だめだ、思考がネガディブに向かう。

 

 吐き出しそうになる気持ちを抑え、無理矢理に上を向いて丸薬を飲み込んだ。

 ふうっと息をはき、目を瞑って何度か深呼吸すると落ち着いてくる。

 

 相殺される消費コストがHPにまで伸びなかったのだろう。

 気分は落ち込んだが、薬を飲む前でも身体は衰弱せず壮健のままだった。

 

 MPの消費についても、ワープの初回使用時の方がキツかったと思う。

 やはり僧侶のレベルを上げたことと、コボルトを弱らせたのが功を奏したようだ。

 

 小部屋に戻り、周囲に何もいないことを確認してジョブ設定を開く。

 

 

魔法使い

 効果 知力小上昇 MP微上昇

 スキル 初級火魔法 初級水魔法 初級風魔法 初級土魔法

 

 

 あった。

 ついに手に入れた。

 

 さっそく村人と入れ替えて6thジョブに設定する。

 逸る気持ちを抑えられずウォーターウォールと念じると、見据えた場所から水の壁が立ち上がる。

 高さは自分の1.5倍くらい、幅は広げた両手よりすこし大きいくらいに水が留まっている。

 

 この世界に来て広大な草原や街並みを見たときは巨大テーマパークに来たような感覚であったが、自分が魔法を使えるようになると異世界に来たという実感がすごい。

 

 ワープやアイテムボックスは、どちらかというとARのような感覚だった。

 いや、これも似たようなものか?

 混乱してきた。

 

 手袋を外して右手を水の壁に突っ込んでみると、弱いがダメージを受けているような刺激を受ける。

 その場に留めておくと継続ダメージを受け続けるのだろう。

 まだ魔法使いLv1だから大した威力ではないが、成長したら勢いが変わったりするのだろうか。

 

 両手で皿を作り水を掬い出したところで、ウォーターウォールの効力が切れたらしく壁が潰れて消えた。

 持続時間は十数秒といったところだろうか。

 

 少量を口に含んでみると、当然だが水だ。

 おそらく魔力から作り出された水であって、ミネラルとかを含んでいない純水なんだろう。

 苦みがないので、料理にも使いやすそうだ。

 

 流石に迷宮の中で出した水なので、飲み込まず口を濯ぐだけにした。

 次からは事前に水筒に入れてから迷宮に赴こう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 MPの回復はしているが心労自体は取れていないので、一旦宿に戻ることにした。

 魔法使いとMP回復速度20倍のおかげか、ワープの消費もほとんど気にならない。

 

 午前中に宿の掃除は終わっていたらしく、泊まっている部屋にすんなりと戻ることができた。

 装備を外し、ベッドに寝転がって考える。

 

 

 行動目標としては、英雄の取得、魔法使いの取得という大きな課題を突破できた。

 あとは仲間というか奴隷で周りを固めることと、居住地の確定と、収入の見通し確保である。

 今後はレベルを上げつつ新規ジョブを取得していくのが主体になるだろう。

 

 そういえば作中の彼は探索者として色々なところに顔を出した為、他人が近くにいる際に魔法を見られないように配慮していた。

 ならば自分は、魔法使いとして生きていけばいいのではないか。

 

 これまでインテリジェンスカードのチェックを受けた時は村人と探索者だが、深い付き合いに至った人はまだいない。

 ギルドにも入っていないし、この街以外に根差せば魔法使いのミツキとして暮らしていけると思う。

 

 懸念はあの目利きだが、確認したら適性があったので魔法使いのジョブに就いたと言えば、筋は通るはずだ。

 生まれを更に疑われそうだが調べたところで出てこないし、そこまで気にしなくても大丈夫だろう。

 

 そもそもが自分はこの世界に降って湧いた存在なのだから。

 

 基本的には、魔法使い、英雄、探索者、戦士を上げつつ派生ジョブを取得していくことになるだろう。

 

 そこで気付いたが、今の自分はエルフだ。

 種族固有ジョブと思われる森林保護官ってどうやって取得するんだ?

 

 名前からしておそらく植物に関するなにかをするのだろうが、草木の世話とかだろうか。

 作中に出てきた、パーティーに入ったエルフはほぼ取得していたはずだ。

 

 だいたいが貴族だったので、教育がちゃんとされていれば普通に取得できるジョブなのだろう。

 幼少期に花の世話をしたとか。

 

 植木鉢でも買ってみるか?

 色々試す必要がある。

 

 そう考えると、人間族でなくて本当によかった。

 女性でも色魔の取得条件が一緒だったとしたら、元の人格が男の自分には辛すぎる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 夕方、装備を身につけ直して宿を出ると、冒険者ギルドへと向かう。

 商館の紹介状をもらった、クラザという街への移動をするためだ。

 ついでにドロップアイテムも売り払う。

 

 売却したカウンターのギルド員に街移動の冒険者の場所を聞くと、ギルド前で確認してくれと言われてしまった。

 

 冒険者ギルド前の開けた場所で、立ち止まっている人に鑑定をかけて回る。

 ここに居るからと言って、全員が全員冒険者ではなかった。

 そりゃそうだ。

 

 手を上げて叫んでいる人の中で、クラザと発している女性の冒険者を見つけた。

 

 

「クラザ行きですか?」

「ええ、銀貨3枚です。

 同行されるならすぐ出発できます」

 

 

 よく見ると後ろに男女が3人ほど待っていたので尋ねてみると、どうやら4人以上で出発するとのことで歓迎された。

 巾着袋から銀貨を3枚取り出して渡す。

 

 

「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」

 

 

 女冒険者が呪文を唱えると脳裏にパーティー加入承諾のメッセージが浮かんだ。

 肯定すると確認メッセージは消え、パーティーメンバーがぼんやりと縁取りされたように見える気がする。

 これで加入できたらしい。

 

 それでは、と女がギルドの壁に向き直りフィールドウォークの呪文を唱えた。

 壁が黒く染まると、女冒険者に続いてぞろぞろと入っていった。

 

 壁を抜けた先は明るく開けた場所だった。

 振り返るとカルメリガの冒険者ギルトをひと回り小さくしたような建物の壁のようだ。

 無骨な建物で装飾も少ない。

 

 

「こちらがクラザの街です。

 今出てきた後方が冒険者ギルドです」

 

 

 女性がパーティー編成の呪文を再び唱えると、パーティー解放と頭の中に浮かんできた。

 これで解散されたということだろう。

 また別の移動の募集をするのだろうか、冒険者は足早にギルドへ入っていった。

 

 自分も冒険者ギルドへ入り、空いているカウンターに向かうと男性のギルド員が対応してくれた。

 

 

「すみません、この近くに迷宮はありますか?」

「……ああ、外部から来られた方ですね。

 ギルドを出て左手の方向に進むとありますよ。

 数年前に現れたので道沿いに新しい店がたくさんできていてわかりやすいと思います」

 

 

 どこも商売人は一緒で商魂逞しいらしい。

 もう一つ、とリュックから紹介状を取り出して、表の宛名と思われる文字を見せた。

 

 

「あと、こちらの奴隷商館の場所は分かりますか?」

「ええと……ああ、この商館でしたらすぐわかりますよ。

 ギルドを出て右手がこの街本来の商業区でして、進んだ先で最初に目に入る3階建ての建物です」

 

 

 この街でも奴隷商館は結構大きめな建物らしい。

 登録している奴隷を収容しないといけないからそれはそうか。

 

 礼を言って、ギルドを出て商業区の方へ向かう。

 

 冒険者ギルドに近い側から武器屋や防具屋が並んでおり、一区画向こう側に門に囲まれた3階建ての建物が見えた。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv13
探索者Lv13/英雄Lv9/僧侶Lv7/戦士Lv7/剣士Lv5/魔法使いLv1
(村人5 商人1)



---
次回は7/2更新の予定です。

24/07/1
句読点ミス修正

24/07/22
レイアウト変更
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。