「それではこれより、第2部を開始致します!」
司会のウォスラトの声に、拍手が起こる。
やがてパラパラと静まってきたところで木槌が響き、装備とアイテムの部が始まった。
まず出品されたのは
鑑定してみると
紹介によると状態異常を回復し、その際にいくらか傷も癒える万能薬になるそうだ。
持っておくのはありだよな……。
今の獲得ジョブでは状態異常を治療するスキルを持っていない。
そちらはパーティライゼーションで症状に合った治療薬を指定するしかないのが現状だ。
あれ、でも状態異常を治すだけの万能
ってことはそこまで深層に向かわなくてもいいし、それなりの金額を出せばギルドでも揃えられるでのは?
HPの方は連発も出来る全体手当てがあるし……。
カッ、カッ!
考えている間に木槌の音で落札が決まっていた。
あんまりボーっとしてちゃいけないな。
今回は不要だったのでいいが、目当てのものがきたら呆けてなどいられない。
何品かの商品を見送った後、次の品です、とアコルトから声がかかる。
台座が運ばれてきた後、ドワーフの係員がアイテムボックス操作の呪文を唱えた。
ダマスカスの大盾(○ ○)
ずいっと取り出した大盾を台座にセットし、倒れそうにないことを確認して係員が脇に控える。
2スロットか……。
スキルスロットの付与確率と最大値が分からないが、揃える装備としては妥協ギリギリのラインか?
ううん、迷う。
司会が焚きつけるのと、高額予想というのもあって、皆参加料回収のためにポンポンと入札が入っていく。
『28万ナール』
『29万!』
アコルトにも伝えてはいたので、途中で入札の声を上げて、すぐに別の誰かが上乗せした。
その後も少しずつ価格は上がっていていき、30万ナールも超えてきた。
『33万ナール!』
次第にカルムから聞いた相場にも近づいてきているな。
会場全体に配置されている係員の1人が、アコルトの側に来て入札証明を渡している。
『35万……!』
『36万!』
残りの大盾がスロットなしの事を考えたら……、いくか。
『……37万ナール』
「40万ナール!」
先に相場と言われていた大台に乗せてみた。
これで落札できれば御の字だが、どう出るか。
「40万ナール、40万ナール、他にいらっしゃいますか?」
少し間が空いたので競売人が確認を取る。
『40……、41万!』
反対奥側あたりから聞こえるので、声の主は分からないがまだ競り合う気のようだ。
たぶんさっきまですぐに上乗せしている者と同じ人物だろう。
このままこの価格帯の最小上げ幅の1万ナールずつ上乗せして付き合ってやってもいいが、ずるずると続くのは面倒だ。
「44万ナール!」
会場が小さくざわめく。
これまでの商品の中でもわりと高額な部類だからな。
「44万ナール、44万ナール!
これ以上のご入札はございますか?」
『…………クッ、45万!』
「47万ナール!」
すぐさまこちらが吊り上げると、司会の確認の声で静まった会場で、口惜しそうな舌打ちが聞こえた気がした。
他に声があがらないのを確認したかのように、木槌が振るわれる。
「ではダマスカスの大盾は47万ナールでのご落札となります!」
ふぅ、なんとかなった。
多分向こうの予算が45万とかだったんだろう。
少々高くなってしまったものの、確保できたことでだいぶ気が楽になった。
係員が近づいてきて、横につく。
「ご落札おめでとうございます。
このまま競売を続けられますか?」
「はい、このまま残ります」
「かしこまりました、お帰りの際はあちらの落札者出口に向かわれてこちらをご提示ください」
係員が渡してきたのはアコルトが持っているのと同じ入札証明と、もう一枚は違う質の良い紙だ。
出品番号と落札価格の数字が記載され、その上から印が押されている。
定位置に下がっていく係員を見送っている間に、ステージ上の大盾はすでに回収されていた。
「お嬢様、おめでとうございます」
「うん、ありがとう。
あとは気になったものを狙おうかな」
その後も次々と商品が落札されては切り替わっていく。
中でも注目したのはこれらの装備だ。
浮草の竜革のブーツ(回避2倍 ○)
祭殿の聖槍(知力上昇)
激情のウォーハンマー(攻撃力2倍 ○ ○)
それぞれ結構な価格まで吊り上がったが、どれもスルーすることにした。
ブーツは人気スキルが付いていて空きスロットもあるが、これに関してはモンスターカードさえ揃えば同じものが作れる。
聖槍は強化スキルじゃないのが勿体ないし、手に入れてもうちのメンバーじゃ持て余す。
シャオクに槍を持たせるなら、詠唱中断が必須になるしな。
ウォーハンマーというのは鋼鉄製の大型の槌だ。
付与スキルも空きスロットも優秀であるが、聖槍と同じで使えるメンバーがシャオクしかない。
新たな前衛が見つかった時に、手に入れておけばよかったと後悔するかもしれないが、そこはしょうがない。
昨日までリストを見て考えていたように、名称だけ見ると『おっ!』と思うところもあったが、実物を見てみてやはり現状にそぐわない物だと気づくこともある。
「続きましては……聖槍と並びまして本日の目玉商品の1つとなります!
贈答用にも実用にも長ける、聖銀製の魔法使い用の武器、聖銀のタクトです!」
リストで気になっていた装備だ。
事前の質問でカルムに確認してあるが、形状は名前の通りの指揮棒だ。
シャフトと涙型のグリップの芯が聖銀で出来ており、他の聖銀装備と同じく魔法効果を高めるとされている。
展示台で運ばれてきたそれは、如何にも高級そうな銀の輝きを携え、商品紹介で持ち上げるプレゼンターもかなり軽そうに振るって見せている。
さて、ドキドキの鑑定だ。
絹の手袋
違う、そっちじゃない!
タクトを握っている女性の正装もいいとは思うが!
聖銀のタクト(○ ○ ○ ○)
う、うわぁ……!
流石にこれは競り落とす以外の選択肢がないだろう。
スキルの付け方を間違わなければ、一生物になるんじゃないか?
開始値の10万ナールが宣言された瞬間に、いくつもの入札宣言が飛び交う。
他の商品と違って途中で小柄な女性に交代して紹介させたのは不思議であったが、貴族の子女の成人祝いとかそういう場面にも相応しい品でもあるからか。
この場で競争相手を増やさないでほしい。
「17万ナール!」
ジャブの意味も込めて入札の手を挙げてみたが、すぐに次の価格へと吊り上がった。
落札意志があるとカルムにちゃんと伝わったようで、途中からあちらが入札を代わってくれる。
『22万───』
『23万ナール』
そのままじわじわと価格が上がり続ける中、カルムがそっとこちらに目配せをしてきた。
聞いていた相場に差し掛かってきたので、このまま狙いに行くのかという確認だろう。
こちらとしては是が非でも落札しなければならない品だ。
『……29万!』
「31万ナール!」
2万ナール上げて、自ら入札する。
カルムも頷いたので、ここからは自分の判断で競ることを分かってくれたようだ。
どこまで上がっても落札は自己責任、というのは注意事項の際に何度も付け加えてくれたので重々承知だ。
その後も入札が繰り返されていき、すでに相場と言われた30万前半は超えた。
『───35万!』
「37万ナール!」
希少な聖銀素材を使ってはいる人気商品だが、あくまで素材の補助効果で魔法の威力が増幅されるだけなのだ。
このままでの単純な火力なら、今持っている鋼鉄製の神籬のスチールワンドの方が高いだろう。
迷宮での実用性と、聖銀製という箔の天秤で悩む他の参加者と違って、自分はこれを全力で狙いに行くのだ。
結局43万ナールで落札することが出来た。
振り返ったカルムの目は、『無茶をしましたね』とちょっと呆れが入ったような風にも見える。
スロット数を選ばずに、時間を掛けて探せばもっと安く上がるものだってことは分かってるよ。
今回は競り合った相手も悪かったな。
あっちだって相場を大幅に超えているのは分かっているのに、ムキになっていただろう。
……人のことは言えないが。
それにしても2品で90万ナール近くか……。
一応ボーナスポイントの割引を利かせられるようにするが、カルムもモンスターカードを何点か落札してくれているので、結構な散財だ。
必要経費、必要経費だと小さく復唱する。
その後は出品される装備品を眺めるだけに留めていたが、ふと気づく。
そういえばもう一つの大盾は?
「終盤となりまして、次はなんと本日2つ目のダマスカス鋼製の大盾となります!
大盾が同日に複数出品される機会はなかなかございませんので、ぜひお見逃しされることのないようにお願いします!」
ちょうど司会が次の商品を発表する。
もう手に入れているという安心感と、やはりスキルスロット数が気になる気持ちが交錯する。
1品目と同じ様にドワーフの係員が大盾を取り出して設置する。
鑑定してみよう。
ダマスカスの大盾(○ ○ ○ ○)
おおぉ、おい!!
狙うべきはこっちだったのか……、うぐぐ。
しかし落札結果は変わらない。
両方落とすか……?
開始値が宣言され、1つ目の時と同じように入札が続いていく。
考えろ。
盾に付けたいスキルは、まずはHP吸収にMP吸収だ。
防具ではあるが、盾には武器用スキルの一部が付与可能ということで、その2つもカード融合することができる。
戦線継続のために、ぶつかってきた敵から回復できるのは有用だ。
他に付けたいスキルは物理ダメージ軽減に属性ダメージ軽減。
このあたりは最終的に皆の装備にも付けたいから、鎧等の別部位でもいいだろう。
むしろ、盾を離してしまっても軽減が続く方がいいか。
全体魔法なんて、直接作用するのだし盾では受けられないからな。
状態異常耐性も別部位でいいし、単一属性の耐性も別部位でいい。
あれ、じゃあ確保した2スロットで足りてる……?
い、いいよね?
これスルーしてもいいんだよ、ね?
先ほどと違って自分が参戦していないので、大盾の入札額の上がり方は遅い。
仮に2つ目を落札したとして、使わない方を捌くのが大変か?
この値段の動きを見ると、そのままでカルムに競売での売却依頼を出しても確実に損だし、かといってスキルを付与しての売却は怪しすぎる。
スキル付きで売却するってことは、もう一方もスキル付与が成功したと言ったも同然だ。
というか1つ目で付与が成功したのに、高額商品である大盾の2つ目にもカード融合するなんて正気の沙汰じゃない。
だめだ。
今でさえシームラウ家やカルムに握られている情報がギリギリの状況なのに、これ以上怪しまれずに捌けるプランが浮かばない。
ほぼ相場通りの41万ナールで落札されていく4スロットの大盾を見送りながら、小さくため息を吐いた。
くそう。
***
アイテムと装備品の部が終わり、再び休憩の時間に移る。
残りは奴隷の部だが、仲間候補は見かけなかったしもう出てしまっていいだろう。
カルムが近づいてきて、そっと口を開く。
「この後も参加されていかれますか?」
「いえ、朝見回った時にはこれだといった者はいなかったので、もう出てしまおうかと思います」
「一部の奴隷については、ああいった公開の場にわざわざ出てこない者もおりますが……。
……リストでいうと、こちらや、こちらですね」
初耳、みたいな表情をしたせいか、カルムが察して目録の項目を何箇所か指差した。
魔法使いの50代エルフ男性や、村人の20代人間女性、鍛冶師の30代ドワーフ男性とある。
確かに冷やかしの時には見かけなかったし、アコルトにリストを読み上げてもらった際にもスルーした面々だ。
「かなりの高額が予想されたり、奴隷商人が引き渡しの場のみしか関わらない際には、表に出さないことがあります」
それでも、教えてもらった奴隷には惹かれるところもなさそうだ。
年齢の離れすぎた魔法使いも、なにか
「退場で問題ありません」
「かしこまりました。
では、大盾の手続きの際には私の名前を出して、預けるようにお伝え下さい。
ミツキ殿は私の招待枠になっておりますから、確認もスムーズに行われるでしょう」
「ありがとうございます」
「では明日、落札したモンスターカードについてもご一緒にお渡しさせていただきます」
あちらです、と落札者用の通路を示してくれたので礼をして別れることにした。
会場を出て指定の通路を通り、出品番号で分けられた部屋への前に移動する。
内側から扉が開かれ、『次の方』と招かれたので中に入った。
アコルトには通路で待っていてもらう。
「落札控えをご提示ください」
担当の防具商人に従い、大盾の際に受け取った紙を差し出した。
「入札証明もあるようでしたら、ご一緒に精算致しますが」
「あっ、ではこちらも!」
ペラい方の紙も渡して、担当者の確認を待つ。
「35番、ダマスカスの大盾、47万ナールでのご落札。
間違いありませんか?」
「間違いありません」
「では、……少しお下がりください。
よっと!」
担当者がアイテムボックス操作の呪文を唱えると、机の上にドカッと大盾が出現した。
うん、2スロットのダマスカスの大盾だ。
どうにか取り違えて4スロットの方になったりしませんかね?
「こちらで問題ないようでしたら、お支払いに移っていただきます。
落札額の47万ナールから参加料の1000ナールをお引き致しまして46万9000ナールのところ、当ギルドのご利用に感謝致しまして特別に32万8300ナールとさせていただきましょう」
「ありがとうございます」
いやー申し訳ないな。
アコルトから預かったリュックを広げ、トレイに代金を乗せていく。
そのまま大盾を回収しようとして手を止めた。
「大盾の引き取りについてなんですが、こちらのギルドに所属しておられるカルム・クラストン様にお預けお願いできますか?
私はスズシロ・ミツキと申しまして、カルム様の招待で参加しております」
「少々お待ちください」
そのまま受けるところだった、あぶない。
タクトの方は小さいからそのまま引き取って大丈夫だろう。
今度は武器鑑定をし直してもらって、割引を利かせないといけないが。
部屋の奥から、旅亭のジョブの男が呼ばれて出てきた。
インテリジェンスカードの確認で、招待名簿と確認して問題がないと分かると、担当者の顔も朗らかになる。
「大変お待たせいたしました。
確認が取れましたので、お支払いは完了済みとして、商品は当ギルド所属のカルムに預けさせていただきます。
またのご利用をお待ちしております」
「よろしくお願いします」
部屋を出て扉を閉め、アコルトに合流する。
「問題なかったよ。
じゃあもう1個の商品の手続きもかな」
「はい、あちらの廊下の先に商品の番号の部屋がございました」
チラッとしか落札証明を見ていないのに、探しておいてくれたらしい。
有能メイドで助かる。
続いて入った部屋で、今度は武器商人に落札証明を提出する。
ついでに、鑑定証明をお願いしたので担当者が一旦下がっていった。
高額商品だし証明を求められることはままあるのだろう。
モンスターカードのときのように、本当に鑑定するのか何度も確認されることはなかった。
ギルド神殿での鑑定を終えて戻ってきた担当者がアイテムボックスを操作する。
取り出されてトレイの上に置かれた指揮棒を、ボーナススキルの鑑定の対象にした。
聖銀のタクト(○ ○ ○ ○)
うーん、素晴らしい。
今後の自分の相棒となる杖だ。
隣に置かれた鑑定用紙には記載されていないスキルスロットが、輝いて見える気がしてくる。
「こちらの鑑定書通りに、聖銀のタクトでございます。
落札額43万ナールと、鑑定料の100ナールを合計致しまして43万100ナールですが、この度の落札を祝しまして特別に30万1070ナールとさせて頂きます」
本当に助かるねぇ!
浮いた分でみんなの装備も揃えられるかな?
商人ギルドを出て、冒険者ギルドへと歩みを進める。
帝都にシャオクたちを迎えに行く前に、目を引くこの格好から着替えてしまいたい。
そういえば今は何時くらいだろう。
結構長い時間オークションに滞在はしたと思うが、日の高さからみると今は14時とか15時くらいかな?
「ねぇアコ、今何時くらいかな?」
その言葉に先に反応したのは、クールな装いのメイド様のお腹の音だった。
ああ、お昼を食べてなかったな。
いくらなんでも主人を置いてご飯を食べに行くなんて侍女にあるまじき行為はできないし、お腹が空きましたとも言える状況じゃなかったよね。
顔を赤く染めて俯いてしまった黒うさぎさんの手を引いて、近場にあった小洒落た感じのお店で遅めの昼食を取ることにした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10
落札品
・聖銀のタクト(○ ○ ○ ○)
・ダマスカスの大盾(○ ○)
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次回は6/16更新の予定です。
会話文で「」と『』で分けましたが、『』は特定個人ではない人の通常の発言がややこしいので分けた、程度にお考えください。
この回だけの表現方法になるかもしれませんので、特に重要な意味は持ちません。
文中の『』は従来通りの、特定発言で使用しております。
紛らわしいですが、雰囲気でお読みいたけるとありがたいです。
割引に関しては、
競売運営⇔ミツキ の取引で計算が入れば適応。
競売運営⇔カルム↔ミツキ 等のカード代理落札のような状態では計算が終わっていて適応外としています。