123 附与
自宅へと戻ってきて、お風呂の準備をしている際に気付く。
明日は中月2日だ。
シャオクに探索者ギルドの脱退と、アルヴナの鍛冶師ギルドへの申込みをしてもらわないといけない。
時間がある今日のうちに、ある程度モンスターカード融合をしてもらおうか。
考えるべきはどのスキルをどの部位に、だ。
給湯を中断し、居間へと戻る。
強壮丸をバラバラと机の上に出し、その隣にモンスターカードを並べていく。
まずは聖銀のタクトに知力2倍だろう。
スロットも十分だし、これは確定だ。
シャオクに山羊とコボルトのカードを渡し、カード融合のスキルを発動してもらう。
神籬の聖指揮棒(知力2倍 ○ ○ ○)
自分の鑑定ウインドウにはややこしい翻訳名称で表示されているが、指揮棒ならタクトと同義だろう。
これを指して呼ぶときはタクトでも大丈夫なはずだ。
見た目は元と変わりないしな。
続いて、防具の方へと移行する。
例えば毒耐性と麻痺耐性をそれぞれの同じ装備箇所に付けておけば、新規メンバーが増えた際にもお下がりや使い回しが楽になる。
不在メンバーの装備を丸々貸し与えれば一通りのスキルが揃うわけだし。
そう考えると今のところ胴装備は全員4スロットなので、こちらに基本耐性を付けていくべきか。
カードが全員に付けられる毒と麻痺、あとは人数分揃ってはいないが物理と魔法耐性だな。
となればミーラスカ用のダマスカスメイルからか。
そういえば、と少し気になったことがある。
スキル装備に付く、枕詞というかそのスキルを表す二つ名だ。
物理ダメージの軽減は、『頑丈』だったっけ?
原作ではほんの少ししか出てこなかったから、他の呼び名にも興味はある。
どのスキルがどの順番でついても効果には代わりはないはずなので、試してみようか。
ダマスカスメイルを指定して、今度はスライムとコボルトのモンスターカードを手渡した。
詠唱の完了に呼応するようにシャオクの手元の装備が眩しく光り、それが収まると渡したカードは消えていた。
頑強のダマスカスメイル(物理耐性 ○ ○ ○)
なるほど、『物理耐性』で頑強か。
状態異常耐性と同じだとすれば、コボルトなしなら『物理防御』というスキルだったのだろうか。
強壮丸を飲んでもらい、続いて鯉、蟻と潅木のカードについても強化スキルで融合してもらった。
2回で1粒ずつ飲むようにしてもらっているので、体調は大丈夫そうだ。
それでも、精神面と別の意味でも気分が悪くなったら中止するとは伝えてある。
頑強のダマスカスメイル(物理耐性 魔法耐性 毒耐性 麻痺耐性)
壮観だな。
シャオクは明後日の方向を見て、4重スキルについては考えないようにしているようだが。
葛藤については対処のしようがない。
鯉のカードのもう1枚はどうしようか。
順当にいえば現状のもう一人の前衛であるシャオクの装備に付与すべきかと思ったが、皆揃って主人である自分を優先しろと言ってきた。
確かに自分が倒れれば総崩れ……にはなるような階層には足を運んでいないが、即時回復や撤退の足が止まるのはマズいか。
どうせカルムがそのうち追加のカードを手に入れてくれるだろうと考えて、思い切って付与してもらうことにする。
ミスティックミスリルメッシュトップ(魔法耐性 ○ ○ ○)
ものすごくMが多そうな名称になったが、
強化前の二つ名が作中で出てきた
もしかしたらハイクラススキルは、
こちらも同様に物理ダメージと毒と麻痺の耐性を融合してもらった。
付けたいスキルはまだまだあるが、コボルトのカードがあと6枚しかない。
アコルトとシャオクの装備に『毒耐性』と『麻痺耐性』を付けるとして、残り2枚。
付与したい残りカードのスキルは『HP吸収』に『体力2倍』、『物理耐性』に『移動力増強』……。
コボルトのカードは無限回収でもいいくらいだ。
全員で相談して、まずは被ダメージをできる限り下げようということになる。
シャオクの鎧に『物理耐性』を、ミーラスカの篭手に『体力2倍』を付けることにした。
頑強のダマスカスメイル(物理耐性 毒耐性 麻痺耐性 ○)
不屈のダマスカスガントレット(体力2倍 ○ ○ ○)
体力2倍で『不屈』は、いかにもな感じだ。
それにしても篭手がガントレットになったり、ガントレットが篭手になったりと名称の翻訳のブレは何なんだ。
東洋と西洋の区分けというわけでもなさそうだし、単純に二つ名と装備名称で連続で助詞が挟まらないようにしているだけか?
規則的なんだか適当なんだかよく分からない創造主様だな。
しめて15回のモンスターカード融合で完了とし、薬で回復したMPはまだしも心労が酷そうなシャオクを労う。
今日は一番風呂からゆっくり入っていいからね……。
湯上がりでふにゃふにゃになったシャオクを先にベッドに寝かせ、掃除も代わって一日を終えた。
***
翌朝にはシャオクも元気になっていたので、皆で起き出して朝食を食べる。
昨日買ったパンやら食材が余っていたので、今朝の買い出しは少なめにして、残り物を消費した。
野菜も固くなったパンも小さく切って、肉を足して卵でとじてしまえば何でも食べられる。
あとはオリーブオイルを垂らして、カリカリに焼いてしまってブルスケッタのようにするのもいい。
食感さえ変えてしまえば、迷宮食材のおかげで飽きがこない。
にんにくモドキを刻んで使おうかと思ったが、外出予定もあるのだしそれはまた今度の夕食にしよう。
シャオクが鍛冶師ジョブになっていることを改めて確認し、アルヴナでのギルド所属と転属申請の費用を渡す。
もしその場で納品ノルマも言われた時用に強壮丸も多めに渡し、アイテムボックスへと仕舞ってもらった。
身支度を済ませ、まずはシームの探索者ギルドへと赴く。
自分たちは外で待ちつつ、シャオクにはギルドの脱退手続きをしてきてもらう。
なんらかの確認をされたとて、すでに鍛冶師になっているので問題はないだろう。
リュックの中身を整理しつつしばらく待っていると、シャオクが戻ってきた。
「問題なく脱退できました!」
「よかった。
なにか聞かれたりした?」
「いえ、ギルド神殿で表示される現在のジョブでも鍛冶師と出ていたので、ギルド側の手続き漏れだろうとなりました」
ギルド神殿にそんな機能があるのか。
と思ったがアイテムの鑑定があるくらいだし、転職機能があるなら現ジョブの表示くらいあって当たり前か。
簡易的なインテリジェンスカード表示みたいなものらしい。
「じゃあアルヴナに行こう」
「お願いします!」
ワープゲートを開いて、今度はアルヴナの冒険者ギルドへと移動する。
ギルドの外壁に出てきたのでそのまま鍛冶師ギルドの方へと向かい、建物が近づいてきたあたりで足を止める。
「今日が申請と支払いだけになるかもしれないから、このあたりで待ってるね。
もし長くなりそうなら一旦出てきて教えてほしい」
「わかりました」
その場でシャオクを見送り、鍛冶師ギルドを視界に入れながら周囲を散策してみる。
パーティーチャットとかボイスチャットとかの機能をください。
距離の関係ないパーティーメンバー内で有効な合図みたいなものがあったらいいのに……と考えてみたが、それだと盗賊みたいな集団の連携が危険すぎるな。
なしだ、なし。
門番が立っている大きな建物を見つけ、造り的に奴隷商館だろうかと遠くから目を凝らした。
外から見たときの構造が似ている気がする。
近づきはせずに一度元の場所に戻ろうとしていると、アコルトからシャオクらしき足音と縁取りがこちらへ向かっていると報告を受けた。
進んでみるとやっぱりシャオクだったので、そのまま合流する。
「おかえり~。
申請は無事できた?」
「はい!
そっちは明日の試験時の説明も受けて大丈夫だったんですが……。
ノルマの武器や防具の製造の方を、可能ならこれからやってくれないかと言われました」
どうやら所属試験前ということで、依頼がかなり溜まっているらしい。
即戦力で仕事を振れる人材のようなので、ノルマ以上に熟してほしい装備製造があるようだ。
前回話を聞きに行った時に、回復薬を使ってでも仕事をするタイプだと覚えられてしまったのかもしれない。
今回の依頼はもちろん臨時の給金も出ると言われたそうだが。
「シャオはどうしたい?
ノルマ分も今日無理にしてやる必要はないけど」
「材料も全部用意してあるそうですし、昨日に比べたら
なんだ、えっと、ごめんなさい。
昨日のカード融合こそ日を分けてやるべきだった。
シャオクも無意識ではあったろうが、素材さえ揃えれば作れる武器防具製造と、一応は失敗もあるモンスターカード融合では、同じ回数を試行するのでも不安が桁違いなはずだ。
くれぐれも無理はしないこと、休憩を取りつつゆっくり行うことなどを言い付けて送り出す。
作業を切り上げたり、依頼分が終われば商店街の方で過ごしていてほしいと伝えた。
鍛冶師ギルドへと向かう頼もしい背中が見えなくなると、こちらも冒険者ギルドへと移動する。
***
出てきたのはルテドーナの冒険者ギルドだ。
時間もあるので、今日こそ奴隷商館へと来てみた。
こちらもクラザの商館のような立派な門があったので、門番にいつぞやの紹介状を渡し、中へと案内される。
建物の中央に階段のある、他とも似た造りだ。
「いらっしゃいませ、……ミツキ様。
ご紹介状によりますと、戦闘奴隷をお探しであるとか」
「はい。
前衛を任せられる者を、なるべく女性で」
紹介状を確認しつつ用件を聞いてきたのは、ドワーフの奴隷商人だ。
少々バツが悪そうな様子でこちらの要望を確認している。
「その……当館にお越しいただいたのは、ドワーフの奴隷を探しておいでだからでしょうか?」
「……いえ?
クラザやカルメリガ以外で大きい街と聞いていましたので、ルテドーナでの紹介をお願いしました。
特に種族のこだわりはありません」
「なるほどなるほど……。
こちらは土地柄ドワーフの者が多くございまして……」
あー、例の種族問題?
シャオクやニカドー親方、ガゴレ親方たちは真摯な対応だから忘れかけていたが、そういえばそんなこともあったな。
連れているのが兎人族に牛人族だから、ここでドワーフを探しに来たと思われたってことかな?
「ああ、そういうことでしたか。
直接言っていただいても構いませんよ」
「恐れ入ります。
妾や家事奴隷については躾が行き届いておりますが、入れ替わりの早い戦闘奴隷については十分に教育がされる前の者も多いのです」
それは仕方のない話ではあるし、そういう人物はうちには不要だ。
だからといってドワーフを省くと所属の戦闘奴隷は少なく、女性となるとほとんどいなくなるらしい。
一般的には戦闘や力仕事で求められることが多いドワーフをたくさん取り扱うという方が、他の街との差別化にもなるし強みにもなるので、ここルテドーナの商館の特色なんだろう。
一応、その数少ないドワーフ以外の戦闘奴隷と非戦闘奴隷を見せてもらったが、ピンと来る者はいなかった。
優秀な者は先日のオークションや、オークションでなくともすぐ身請け先が決まるので、タイミングもそうだが場所が悪かったようだ。
「ご期待に沿えず申し訳ありません。
せめて別の街の商館をご紹介させていただきますが……」
「いえ、こちらの勉強不足ですみません。
ご紹介は是非お願いしたいです」
「かしこまりました。
比較的近い都市ですと、帝都とアルヴナでしょうか。
そちらには足を運ばれたことはございますか?」
「街には訪れたことはありますが、どちらも商館には顔を出したことがありませんので、両方ともお願いします。
……その、アルヴナもドワーフの方が多いのではないのですか?」
「ああ、住人にはドワーフは多いのですが、あの街は商館がドワーフの奴隷を買い取って抱えることを禁止しているのですよ。
所有済み奴隷の手続きはできますが、あの街で商品として扱われるドワーフはおりません」
へぇぇ、そんな決まりもあるのか。
救済に釣られて辿り着いたドワーフが結局ダメで身売り、なんてことを防いでいるのかな。
アングラな方面ではその限りじゃないことは容易に想像できるが。
ともかく、表立っての購入予定なら別種族しかいないってことか。
懸念点が1つ外れてくれるので、自分にとっては喜ばしいことだ。
紹介状を書いてもらいながら確認してみると、どちらも回るなら帝都の方は後にした方がいいと言われる。
何といっても所属奴隷の人数が違うし、目的に合致する者を見つけられる確率が高いだろうという話だ。
先にアルヴナに行って、よほど気に入った者がいない限りは帝都で探すのが無難らしい。
それもそうだと思いつつ、紹介状を受け取って礼をし、見送られて商館を後にする。
一度、シャオクの様子見にも行くか。
***
再びアルヴナの冒険者ギルドへとワープする。
シャオクの位置を示しているパーティーメンバーの淡い縁取りは、鍛冶師ギルドの方向から動いていなさそうなので、まだ作業中だろうか。
足を動かして位置取りを変えてみてもシャオクの現在地は変わらないようだったので、ルテドーナに行く前に見つけた建物へと向かうことにした。
「少々お待ちください」
入口にいた竜人族の門番に確認するとやはり奴隷商館だったので、紹介状を渡して対応してもらう。
剣士ではあったが、Lv41となかなかの強さだ。
腕力補正がある分、竜騎士より力が強いんじゃないか?
そんなことを考えている内に扉が開き、中から男性が出てくる。
タストイ 人間 男 42歳 奴隷商人Lv35
「ようこそいらっしゃいました!
紹介状によると戦闘奴隷をお探し……!」
人のよさそうな顔で歓待の挨拶をしたかと思うと、こちらの顔を見つめて奴隷商人が固まる。
「どうされました?」
「い、いえ、中へご案内いたします!
こちらへお越しください!」
動揺した様子の奴隷商人に急かされ、応接室らしき部屋へと通される。
勧められたままにこちらがソファへと座っている間に給仕になにか伝えたようで、飲み物を淹れるとすぐに出ていき、部屋の中には自分たちとタストイだけになった。
アコルトとミーラスカは座らず、自分の後ろについている。
「……只今は私しかこの部屋にはおりませんし、信用に足る者を扉の外に立てております。
不躾なことをお聞きいたしますが……、本日のご用向きを今一度お伺いしてもよろしいでしょうか?」
神妙な面持ちで何を言っているんだ?
「あの……、仰っている意味がよく……」
「…………先日当館に所属した奴隷についての件、と言いましょうか」
まったく分からない。
「ええっと……。
紹介状に何か書かれていたり、その奴隷に何か取り決めがあったんでしょうか?
ルテドーナの商館には今朝訪れまして、紹介先の候補としてこちらと帝都を勧められて、その後こちらへと足を運んだだけなんですが……」
「…………?」
そんな顔されてもこっちが聞きたいんだが。
一拍置いて、明らかにやらかしたみたいな表情になったタストイが慌て始めた。
「た、大変失礼いたしました!
あまりにも仕入れとのタイミングが重なりましたために、偶然ではないだろうと手前勝手な思い込みでございました!
お求めの、戦闘奴隷をこれから準備させたいと思います!」
「は、はぁ……」
何なんだいったい。
迷宮パーティーとしては前衛を募集しているが、一応家事奴隷も見せてもらうか。
ミーラスカは装備を身に着けて一層やる気のようだし、結局留守を預ける人員は必要になりそうだし。
「あ、家事奴隷についても確認させていただきたいです!」
その言葉にピクリと奴隷商人が反応する。
「家事奴隷、でございますか?
その……、すぐにご覧いただける者が1名居りますが、先にお入れしてもよろしいですか?」
「構いませんよ?」
なんだろう、さっき勘違いしてたとかいう奴隷のことなのか?
タストイが席を立ち、外に声を掛けるとゆっくりと応接室の扉が開かれる。
礼をして入室したのは、
煌めく織物のような美しい髪の隙間からは、見覚えのある
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)
神籬のスチールワンド(知力2倍) → 神籬の聖指揮棒(知力2倍 ○ ○ ○)
ミスリルメッシュトップ(○ ○ ○ ○) → ミスティックミスリルメッシュトップ(魔法耐性 物理耐性 毒耐性 麻痺耐性)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24
ミスリルメッシュトップ(○ ○ ○ ○) → 耐痺のミスリルメッシュトップ(麻痺耐性 毒耐性 ○)
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21
ダマスカスメイル(○ ○ ○ ○) → 頑強のダマスカスメイル(物理耐性 毒耐性 麻痺耐性 ○)
防毒の鋼鉄篭手(毒耐性 ○ ○) → ダマスカスの篭手(○ ○ ○ ○)
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10
ダマスカスメイル(○ ○ ○ ○) → 頑強のダマスカスメイル(物理耐性 魔法耐性 毒耐性 麻痺耐性)
ダマスカスの篭手(○ ○ ○ ○) → 不屈のダマスカスガントレット(体力2倍 ○ ○ ○)
所持モンスターカード
・蟻 4→0
・山羊 1→0
・コボルト 15→0
・スライム 3→0
・鯉 2→0
・貝 1→0
・潅木 5→1
・壷式食虫植物 1
・竜 1
・牛 1
・大木 1
・鳥 1
---
次回は6/26更新の予定です。