異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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 ついて来てもらってから説明するとした上で、鍛冶師ギルドの方向へ向かおうとして気付いた。

 シャオクの縁取りがそちらにはない。

 

 ぐるりと見回すと、商店街の方にそれを見つける。

 どうやら製造依頼は終えて移動したらしい。

 

 まだパーティーに入っていないリカヴィオラだけが不思議そうな顔をしているが、ここにいないパーティーメンバーだと伝えると理解していたようだった。

 パーティーシステム周りの説明は亡き父から教わったようで、おそらくだが父親は冒険者のジョブだったのではないかと思われる。

 

 それならば少々の時間だけでも人員輸送で資金も稼げるかと考えたが、それをする様子もなく娘に付きっきりのように聞いて取れたのは不思議だ。

 転々と移動し始める前にアイテムボックスに資産を貯めていたのだろうか。

 

 理解されていると今度は逆にパーティー勧誘の時点で騒がれそうなので、ワープ移動の直前にメンバーに加えることにしてシャオクとの合流を先にしよう。

 

 

 

 

「あ、ミツキ様!」

 

 

 露店で買ったらしい果物を食べていたシャオクに近づくと、あちらもメンバーの縁取りから察したようで手を振って寄ってきた。

 

 

「……え!

 ご姉妹がいたんですか!?」

 

 

 見慣れぬ侍女服を着た少女の顔を見て、シャオクが驚く。

 

 

「ううん、似てるだけで違うよ。

 家事ができる子を探しに商館に行ったらこの子がいてさ、アコたちと相談して来てもらうことにしたんだ」

「そうなんですか。

 ボクはシャオクといいます!

 よろしくお願いします……ええっと」

 

此方(こなた)はリカヴィオラと申します!

 皆様方のお役に立てますよう、精一杯努めさせて頂く所存です!」

「はい!

 その、ボクも皆さんと同じミツキ様の奴隷なんですが……」

 

 

 立ち話で色々と説明するのは問題だし、まずは家に戻ろうか。

 昼食も本当は外食で済ませたいが、その前に話しておかないといけないことだらけなので家で済ませよう。

 

 商店街の広場から少し外れ、フィールドウォークが使えそうな街路樹の近くへとやってきた。

 

 すぐに同意するように伝えてリカヴィオラにパーティー勧誘を送り、了承が返ってきてメンバーに追加されたタイミングで大木にワープゲートを展開する。

 誰が詠唱したのだろうと不思議がる少女をミーラスカに捕まえてもらい、そのまま全員で扉をくぐった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 たった今使ったスキルについては後回しにして、基本情報を伝えていく。

 ここがシームという街の我が家であることと、改めての自己紹介だ。

 

 アコルトが一番奴隷であると伝え……っていつの間にそのアコルトさんはメイド服に着替えているんですか。

 様になっているその姿に、リカヴィオラも尊敬の眼差しだ。

 

 二人の衣装をこうやって見比べてみると、明らかにアコルトのメイド服の方が質がいい。

 考えてもみれば、こちらはナルディロが自分にアピールするために着飾らせた物だから当然か。

 リカヴィオラの方は一般実務用だから、きっと価格もそれなりなんだろう。

 

 服や日用品は後で買うので、今は説明が先だな。

 

 それ以降の序列は特に考えていないとも伝える。

 主人で魔法使いである自分に、世話係で狩人のアコルト、戦闘指南と鍛冶師のシャオク、防衛予定兼巫女のミーラスカ。

 

 あれ、とリカヴィオラが首を捻る。

 

 

「先程パーティー勧誘をお送り頂きましたのと、こちらへのフィールドウォークを使用しておられたのは一体……?」

 

 

 会話のやりとりでは若干まっすぐ過ぎる感じもあったが、この子はちゃんと現状把握ができているようだ。

 その後はワープやパラレルジョブについてや、ジョブの変更についても順に説明した。

 

 1つ教える毎に素っ頓狂な声を上げていたが、項目ごとに毎回アコルトたちから補足が入れられていたので、内容については大丈夫だろう……。

 聞こえてくる言葉遣いがおかしいだけで、一生懸命に理解しようとしてくれているようだった。

 

 当面は家事仕事をお願いすることと、現状では探索者のジョブについてもらうことを伝える。

 前者は本人の希望通りであるし、後者は将来的に亡き父親と同じであろう冒険者のジョブに繋がるということで、嬉しさも一入(ひとしお)な様子だ。

 

 一旦はここまでということで昼食を取ることにする。

 

 自分たちにとってはいつもの肉野菜炒めだが、迷宮食材を使っての食事は珍しいかと思っていると、リカヴィオラはなんだか見慣れた様子だった。

 

 

「父上も同様に取り出しておられましたので」

 

 

 放浪生活ならアイテムボックスは有用だろうし、やはり冒険者か探索者だったのだろう。

 身軽になる上に相当な量を長期間保存できるしな。

 

 味の好みも聞いておこう。

 彼女の過去や仕事だけでなく、パーソナルな部分も共有してもらって、これからの生活を過ごしやすくしてもらいたい。

 

 

「大変美味しく頂いております!

 昔、父上がお作りになられた料理も、似たような味でございまして……」

「そう、よかった。

 魚醤を使った料理も食べたことがあったのかな?」

 

「いえ、魚の香りはなく、何やら作物から出来ているのだとお教えいただきましたが……、その土地は早くに離れましたので記憶も朧気でございまして、申し訳ございません」

 

 

 まさか醤油……!?

 いや、ピンポイントに穀物由来とは限らないが、それでも魚醤以外の野菜や果物を使った調味料の可能性が高い。

 

 南方か……。

 明確な場所も分からないが、少しずつそちらの方にも足を延ばしていくのもありかもしれない。

 

 現時点でワープで移動できる場所としての南方は、リュタルゴとフウルバリの方面になるわけだが……。

 も、もうちょっとレベルを上げてからの方がいいかな?

 

 少なくとも遊び人のジョブを得て、魔法の2連打ができるようになっておかないとちょっと怖いな。

 火力の面でもそうだが、壁魔法を途切れなく発動できたら、接近されにくいと思うし。

 盗賊連中に不用意に会いたくない。

 

 あ、そうだ。

 

 

「これ、見たことある?」

 

 

柳葉刀(○ ○)

 

 

 アイテムボックスの肥やしになっていたが、いつぞやの盗賊頭から拝借してしまったものだ。

 

 

「ふぅむ、こちらは……父上がお持ちだった剣の1つによく似ております。

 此方(こなた)は武具には詳しくありませんので、扱い方も詳しく分かりませんが……」

 

 

 こちらも南方の品なんだろうか。

 装備アイテムである以上、同じ種類のものが出回るはずであるが、判明しているレシピが一部地域でしか広まっていないとかそういうのもあるのかなぁ。

 

 地域限定アイテムとか作らなくていいよ!

 それぞれの都市の場所だって、国の広さだって分かんないのに。

 

 

 食事を終えて、片付けをしつつ追加の説明とリカヴィオラの質問に答える。

 水汲みが不要であったり、ファルフのたわしだったり、石鹸だったり。

 

 各部屋の案内もしたが、浴室については夜に使いながら説明するとした。

 寝室は……どうしよう。

 

 2階の寝室はシングルベッドが3つ並んだ大きさなので、現状の4人でもまだ多少の余裕はある。

 午後には買い物に出られるので、1階の部屋を使ってもらってもいい。

 リカヴィオラは侍女として控えるべきなのか決めかねているようだが、どっちにしろ今後のことを考えてこの機会に残りの寝具だけは買ってしまってもいいな。

 

 

「あと忘れないうちに、渡しておくね。

 うちでは皆に装備してもらってるから」

「こちらはなんでしょうか?」

 

「身代わりのミサンガっていって、強い攻撃を肩代わりしてくれるアクセサリ……ってことでいいんだよね?」

 

 

 作中の機能の記述は覚えているが、ちゃんと言語化すると難しい。

 実際に発動するところは当事者にならないと体感できない。

 

 

「はい。

 致命傷を防ぐ代わりに、一度効果を発揮すると千切れてダメになってしまうそうです。

 ボクもミツキ様に仕えてからしか本物を見たことがないですけど」

 

 

 まぁ迷宮でその場面を見たら次の一手で倒れるような緊急事態だし、それ以外なら暗殺とかの場面でしか見ることはないだろう。

 暗殺を間近で見れるような状況ってどんなんだよ。

 

 それでも貴族なら必須なんだろうな。

 ちゃんと装備一覧まで鑑定結果を確認したのは数度しかないが、フェルスもカルムも当然のように付けていたし。

 

 アコルトが、リカヴィオラの足首にミサンガを結んであげている。

 普段自分が世話をされている様子を客観的に見るとこんな感じなんだろうか。

 

 クールな感じだが尻尾がピクピクしてるぞ、うさぎさん。

 

 

「体を洗ったり着替えるときは外して構わないけど、身を守るためのものだからなるべく身につけていてほしいな」

「畏まりました……!

 ありがとう存じます」

 

 

 身につけたミサンガを感慨深そうに撫でるリカヴィオラの様子は、どこか懐かしんでいるようにも見えた。

 

 

「リカヴィ……あ、そうだ!

 呼ぶときはリカでいいかな?」

 

 

 説明ばかりで大事なことを忘れていた。

 

 

「はっ、お好きなように呼んで頂いて構いません!

 此方(こなた)はどのようにお声がけ致しましょうか?」

「うーん、なんでもいいよ。

 アコはお嬢様だし、シャオはミツキ様呼びだし、ミラは主様って言ってるし」

 

 

 考えてみればバラバラだ。

 現代にいた頃は、日常的に身内から様付けで呼ばれることなんてあるはずもなかったのに。

 思えば慣れたものだ。

 

 

「それでしたらその……御主人様と、お呼びしても……」

「じゃあそれで。

 言いづらかったら変えてもいいからね」

 

「いえ、商館にて従事する皆様がそのように呼んでおられることを羨ましく思っておりましたので……!」

 

 

 リカヴィオラは顔を隠すように手で覆い、はわはわと照れている。

 ここにきてオーソドックスな呼称だ。

 

 他の奴隷の家事仕事の姿が格好良かったと言っていたが、メイドそのものにも憧れたのか。

 衣装も含めて気に入っている様子なので、着替え用にも何着か買ってあげた方がよさそうだな。

 

 他に今後外出する際に必要であればと、自分やアコルトの装備だったものからお下がりとして勧めていく。

 竜革のカチューシャにブーツ、もしくは靴あたりかな。

 

 心配ならジャケットあたりも着れば、日常生活なら過剰すぎるくらいだろう。

 それだとお気に入りらしいメイド服が着られないので、選択肢からは外れてきそうだけど。

 

 この後の買い物で服屋についてはアコルトをつけておけばいいだろうから、布団や日用品類をシャオクとミーラスカと一緒に買いに行くか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ルテドーナの冒険者ギルドにゲートを繋ぎ、アコルトとリカヴィオラを先に通す。

 このワープを特殊なスキルと聞かされたからか、首を傾げながらアコルトに手を引かれて進んでいく姿を見送り、入りきったところで一呼吸置いてからスキル終了を念じる。

 次は自分たちの番だ。

 

 今度はシームの冒険者ギルドに出てきて、寝具店を目指して歩く。

 もうちょっと誤魔化しが利くくらいまでリカヴィオラが育ってくれれば、絨毯がある店舗には直接飛べたりするんだけどな。

 

 今冒険者として他人に紹介してしまうと、リカヴィオラ本人はフィールドウォークが使えないので、同行を求められた際に困る。

 それまでは目撃情報の撹乱くらいにしかならないが、順調に迷宮を進んでいけばそう遠い日ではないだろう。

 

 

 店内に入ると、前回対応してくれた初老の店主がいた。

 しっかり顔を覚えていてくれたようで、今回も同じものが欲しいと伝えると即座に案内してくれる。

 

 会計を済ませ、今日から必要になるので配達は断ることにした。

 シャオクとミーラスカに掛け布団と敷布団にシーツを1セットずつ、自分が追加のバスタオルと枕を抱えて店を出る。

 

 周囲に人がいないことを確認して店の裏に回り、すぐにゲートを開いて家に戻った。

 ミーラスカの嗅覚の精度は分からないが、少なくとも風上には人はいないはずだ。

 

 

 1階の寝室はほとんど荷物置きになっている。

 大半は服であるが、更新して外すことになった装備も置いてある。

 

 装備は1種類がアイテムボックスの1列を指定するので、それぞれが別の装備をしているうちのメンバーだと、部位の分だけ埋めてしまうのだ。

 今後も人員の分だけ荷物が増えるなら、もういっそ開き直って衣装部屋を増築してしまったほうがいいのでは……?

 

 それはまた今度考えることにして、アイテムボックスの面でもリカヴィオラには期待したい。

 迷宮食材や資金管理がメインになるとは思うが、空いたボックスには装備類も預けておけるだろうしな。

 

 こちらの買い物は決まったものを揃えてきただけなので、もうちょっと休憩してからアコルトたちを回収に行くか。

 

 

「そういえば、装備製造の仕事ってどうだった?」

 

 

 ノルマ以上の装備作成の手伝いを求められた割には早めに切り上げていた気がする。

 

 

「そうでした、今日はすぐに材料が出せるものだけやってきました。

 明日の試験後にも続きの製造をしてほしいと言われています。

 あとは謝礼についてですが、明日礼金を渡す他にも手続き以外でしてほしいことはないかとも……」

 

 

 シャオクの口ぶりだと、手際やら丁寧な対応がかなり好印象に受け取られたらしい。

 気に入られたとしても10日かそこらで転属してしまうのだから、手続きだけしっかりしてくれれば用はないんだが……。

 

 

「ちなみに教本の貸し出しは……?」

「それも確認しましたが、やっぱりアルヴナでは貸し出しは許可できないそうです。

 その場で見てメモに書きとるとかは以前話していたようにいいそうですが……。

 あ、それについてなんですけど」

 

「うん?」

「モンスターカード融合の付与スキルについて、()()()()()も教えられると言っていました」

 

「最新の?」

 

 

 どういう意味なのかと聞いてみると、一般的に言われている付与スキルの効果は、一部誤った認識で広まっているものもあるそうだ。

 攻撃力とか知力とか、効果が分かりやすく需要もあるスキルについては検証がされやすいが、使い勝手の悪いとされているスキルはわざわざ集めたり作成してまで再検証されることが少ないからだろう。

 アルヴナでは鍛冶師ギルド委託の仕事が多いので、ギルドに検証結果が集まりやすいんだとか。

 

 例えば、鳥のモンスターカードの『持続強化』。

 カルムは魔法使いの『壁魔法』にも延長効果が作用すると認識していたようだが、最新の研究結果ではその効果はないらしい。

 

 騎士の『防御』等の装備者自身や、パーティーメンバー自体に掛かるスキルには影響があって、体から離れたものには効果がない、というのが現在の解釈だそうだ。

 

 効果対象が減っただけではない。

 他にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということも発見されていると聞かされたようだ。

 

 つまり、『詠唱遅延』と『効果延長』が付与された武器で攻撃すれば、()()()()()()()()()()()()()()()()んだそうだ。

 詠唱遅延が作用するのは武器が敵に命中した時だし、そこで接触判定があって効果延長が発動する、というのなら筋は通る。

 

 それって結構すごくないか?と思ったが、ダブルスキル前提だし、状態異常なんかはもともと自然治癒しないので結局使いどころがなさそうな気もする。

 依然として大した効果ではないことに変わりはないので、判明したことで相場が大きく変わることもなく、一般の認識もすぐには改められていないのだとか。

 

 英雄のオーバードライブは自身に作用するスキルだと思うので期待は変わらないが、なんだかなぁ。

 

 いや、でも知れただけでも大きい。

 やはり知識は力だ。

 

 この世界では一度広まってしまえば訂正情報を出すのは難しい。

 容易にアクセスできるところに情報がなければ、それを改めて検証しようという考えにはなかなか至らない。

 各ジョブにもレベルがあるという概念だってそうだ。

 

 

「シャオ。

 悪いけど明日の手続きの後は、依頼をこなしつつモンスターカードの効果をまとめてきてもらえるかな?

 シームに転属してから調べてもらおうかと思ってたけど、アルヴナで情報収集した方がしっかりしたものになりそう」

「わかりました!」

 

「報酬はシャオの自由にしてもらっていいからね」

「え、あ、ありがとうございます!」

 

 

 もともとシャオクの仕事だからそのままお小遣いにしてもらうつもりであったが、予め言っておいた方がいいだろう。

 

 未判明のスキル関連を明らかにしておきたい。

 

 もっと早くすべきではあったが、資金面や調べるための伝手がようやく増えてきたので、ここで把握しておくのがよさそうだ。

 せっかく担当者に気に入られているし、鍛冶師ギルドならハイクラススキル以外は教えてもらえそうだしな。

 

 

 おっと、そろそろアコルトたちを迎えに行かなくてはならない。

 

 シャオクにはそのまま休憩を続けてもらい、ミーラスカを連れてルテドーナの服飾店へと向かうことにした。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv14
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 村人Lv4


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次回は7/3更新の予定です。

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