異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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127 委託

 家へと帰ってくると、アコルトが何かを持って寄ってきた。

 

 

「おかえりなさいませ。

 カルム様の使いの方からお手紙を預かっております」

「なんだろ、モンスターカードかな」

 

 

 さっき来たばかりということなので、ほぼ入れ違いだったのだろう。

 自分が受け取らずにそのままアコルトに読み上げさせていたのが不思議だったのか、リカヴィオラが首を傾げている。

 

 まだ文字が読めないことも伝えなきゃな……。

 完全な影武者にさせるつもりはないが、外では文字が読めないふりをしてもらうこともあるかもしれない。

 

 思考が逸れて代読を聞き逃してしまった。

 

 

「ごめん、アコ。

 もう一回お願い」

「はい、例のスチールワンドの件ですね。

 先方が是非取引がしたいとのことですので、早急に確認したいとあります。

 可能であれば明日以降、ルテドーナの商人ギルドにお越しくださいとのことです。

 依頼中のモンスターカードの方は、コボルトのカードを2枚落札したとの報告もございます」

 

 

 はー、釣れちゃったかぁ。

 他人との取引、面倒なんだよなぁ。

 

 昨日の今日で返事がきたようなので、この速達の料金も相手持ちでかなり意欲的な反応のようだ。

 ついでに依頼の途中経過も乗せてくれるあたり、カルムもちゃっかりしている。

 

 明日はシャオクをアルヴナに送らなきゃだし、その後ルテドーナに向かうか。

 

 杖をカルムに預けてしまって、勝手に値段交渉やら取引完了までやってもらおうかな。

 こちらの取り分は固定額を提示して、それ以上の分はカルムの取り分にしたっていい。

 まぁそのへんは相談だ。

 

 

 時間は早めだが夕食の準備に移る。

 今後はまた迷宮通いが増えるので、オイルも多めに使ったっていいだろう。

 

 残っていたスライムスターチも使って、野菜やラム肉をフリッターにしてみる。

 揚げたての料理には、前にも作った甘酢ダレだ。

 例に漏れず、リカヴィオラにも好評だった。

 

 そろそろマヨネーズも試すべきな気もするが、温暖過ぎて生卵を使うのが怖いんだよなぁ。

 日持ちもしないから毎回作らないといけないし、ホイッパーみたいな器具は家庭用がないのか見かけないし。

 フォークでひたすら攪拌するという手もあるが、それは追々考えるか。

 

 せっかく揚げ物をしたので、薄切りにしたイモの水分を手拭いで取ってから油で揚げたチップスは、やはりミーラスカの心を射止めた。

 今回は塩と少々のペッパーをまぶしただけだが、後々はチーズソースやミートソースなんかを作って罪の味に溺れさせてしまおうか。

 フォークやスプーンでは食べにくいので手掴みで食すように勧めたが、塩のついた指を咥えるミーラスカの姿の方が罪な気がしてきた。

 

 

 台所の片付けを任せて、自分は浴室へと向かう。

 今日も今日とて給湯器になる時間だ。

 

 経験値関係に振っていたボーナスポイントをMP回復速度へと振り切って、ひたすらにウォーターウォールとファイヤーウォールを撃っていく。

 

 リカヴィオラにお風呂の使い方を教えるのはどうしよう。

 最後の掃除も覚えてもらいたいし、順番は後のほうがいいかな?

 

 湯船にある程度お湯が溜まったところで、みんなに声を掛ける。

 最初の状態も確認したほうがいいし、片付けも……と話してみると、結局全員で入ってしまえばいいとなった。

 

 皆の用意ができるまで、多めに浴槽と水受けにお湯を作っておいた。

 初回だし、これで何度も湯で流しても大丈夫だ。

 

 

 それぞれが着替えとタオルを持って浴室へとやってくる。

 

 

「タオルはこちらに。

 石鹸の予備も棚の中にあります。

 もし無くなるようでしたら、納屋の方にもまだあります」

「あの泡々でございますね!

 先程から手指の香りもよく、滑々として参りましたが、全身をとなると如何様になるのでしょうか……」

 

 

 若干不安そうだが、経験がなければそうなるのも仕方ない。

 

 荷物をおいて誰もが服を脱ぎ始めたので、リカヴィオラもそれに倣ってちらちらと周りを見つつ服に手をかけている。

 男親だったから、行水とかも別行動だったりしたのかな?

 

 ミーラスカの大きく揺れた肢体を目にしてか、わぁ……と小さく漏れた声が聞こえた。

 分かるよ、すごいよね。

 

 自分も給湯作業の汗と熱気で張り付いた服を脱いだところで、こちらを見つめるリカヴィオラと目が合った。

 自身のそれと見比べてか、頑張りますと両拳をぎゅっと握っている。

 

 頑張ってどうにかなるものじゃないと思うんだが……。

 何の意図があるか分からないが、腕を絡めてきたアコルトの方はそのままにした。

 

 

 まずはやり方を見せるということで、桶に掬った湯を被る。

 

 

「───熱ッッ!」

 

 

 こうならないように先に温度を確かめようねと伝え、ウォーターボールで調整してから髪を湿らせた。

 み、見本として率先して悪い例を見せただけだ。

 

 続いて石鹸を泡立て、洗い方を説明していく。

 たぶん1人だけで入浴してもらうことはないと思うが、髪の長さも同じくらいなのは自分だけなので見せておくに越したことはない。

 

 自分やリカヴィオラの髪の長さなら他人に洗ってもらう方が早いので、お願いするようにと言い付けた。

 どうせ背中を洗うときにお願いしたりするしな。

 

 体の方も洗って、自分は先に湯船に入らせてもらう。

 初回ということで、リカヴィオラはみんなに念入りに洗ってもらおうか。

 

 されるがままになっている、自身とよく似た少女の様子を眺めながら、肩まで湯に浸かる。

 アコルトも張り切っているようだし、まかせておけばいいか。

 

 揉みこまれるようにして髪を洗われ、続いて全身泡まみれになりながらくすぐったそうなリカヴィオラの声が漏れる。

 先に洗い終えたらしいシャオクとミーラスカが湯船に入ってきて、縁から嵩の増した湯が少しだけ零れ出た。

 

 最初は何度も恐縮して礼を述べていたリカヴィオラもだんだんと気恥ずかしくなってきたようで、顔を赤く染めて涙目で終えるように懇願していたが、一番奴隷様のお許しは貰えなかったようだ。

 

 

「ご、ご無体な……」

「お嬢様とご一緒するのでしたら、しっかり洗いませんと」

 

「はい……」

 

 

 すっかりしょぼしょぼになったリカヴィオラも、お湯に浸かればその気持ちよさに徐々に気力を取り戻してきたようだ。

 掃除や着替えも終えて浴室を出る頃には、すっかり元気になっていた。

 

 基本的に毎日入れるのだと伝えると目を輝かせていたが、アコルトと目が合うと目が泳ぎ出す。

 今回みたいな手厚い洗体は、初回だっただけだから……。

 

 寝る部屋はどうするかと聞いてみたが、今日は1階の寝室がいいらしい。

 侍女らしく別室で控えるということだそうだが、念入りにお世話したから引かれてるじゃん、アコルトさん。

 心配してリカヴィオラにこっそり聞いてみたが、どうやら恥ずかしかったので顔を合わせづらいだけだったようだ。

 

 身請け当日だし、考えたいこともあるだろうということにして、本日も2階は4人での就寝だ。

 起きる時間などを確認し、リカヴィオラにも挨拶をして別れて階段を上がる。

 

 明日の朝は腕がしびれていそうだなぁ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 いつもの時間に目が覚める。

 皆、朝の準備のために階段を下りているんだろう。

 

 懸念していた腕は加減してもらっていたらしく、掴まれてはいたようだが不調はなかった。

 ベッドから起き出したところでアコルトが部屋に入ってきて着替えを手伝ってくれる。

 

 1階でシャオクに挨拶し、少しするとミーラスカとリカヴィオラが外から戻ってきた。

 バスケットを抱えて、パンや野菜の買い物をしてきてくれたようだ。

 

 自分に似た容姿の少女がうちにいることは、別に認識されていいのだ。

 冒険者になる頃にはむしろ存在が認識されていた方がカモフラージュになるしな。

 フィールドウォークで移動しているのは、同じ褐色白髪でも冒険者の方だ、と思われるのがいいわけだし。

 

 リカヴィオラが冒険者になれるまでの間は、アイテムボックスを使うための探索者メイドということにして、まだ架空の冒険者の伝手があるということにしておかなければならないが。

 

 

 朝食を済ませ、片づけと洗濯用にお湯を作る。

 家の各所の水も補充して戻ってくると、食器を洗い終わったシャオクたちが洗濯物を集めていた。

 

 分担を考えよう。

 シャオクはアルヴナの鍛冶師ギルドに、自分はルテドーナの商人ギルドに行く必要がある。

 アコルトにもついてきてもらうとして……、ミーラスカはとりあえずリカヴィオラについていてもらおうか。

 

 相談してみて、自分たちが戻るまで留守番をしてもらうことにした。

 シャオクの強壮丸を補充し、食事代も渡しておく。

 

 身支度を整えて、ポーチに神籬のスチールワンドを仕舞い、先にシャオクを送ることにした。

 

 

 自宅の内壁からアルヴナの冒険者ギルドへとゲートを繋げ、シャオクを送り出す。

 所属手続きの他に装備の製造依頼、モンスターカードのスキルについてもまとめてもらうので夕方に迎えに行くと伝えた。

 

 通り抜けたのを確認して、今度はルテドーナの冒険者ギルドに接続する。

 

 

「それじゃ、行ってくるね」

「はい、主様。

 お気をつけください」

 

 

 任されました、と迷宮を経験して自信もついたらしいミーラスカと、まだキョロキョロしているリカヴィオラに見送られ、ワープゲートに足を踏み入れた。

 

 

 

 アコルトと共に商人ギルドへと向かう。

 何だかんだで足を運んでばかりなので、そろそろギルドの受付に名前も覚えられそうな気がしてくる。

 

 ギルドに入ると、忙しなく足を動かしているカルムが目に入った。

 いつも飄々とした様子なので、こんなに忙しそうなカルムは珍しい。

 こちらに見せないだけで、普段から大変そうではあったしな。

 

 

「カルム殿!

 お手紙を見て参りました」

「……おお!

 (ミツキ殿、これほど早く来ていただけるとは……)、ありがとうございます。

 まずは商談室へ向かいましょうか」

 

 

 こちらに気付かないくらい焦った様子だったものの、流れるように受付から鍵を借りて商談室へ移動する。

 その際に少し離れた位置にいた男にチラリと視線を送っていたようだった。

 

 

 

 扉を閉めて、カルムが飲み物を淹れる。

 アコルトが代わろうとしたがやんわりと断られたようだ。

 

 

「失礼いたしました。

 こういった作業をする方が落ち着けるだけでして、他意はございませんので」

 

 

 アコルトの分も用意してくれたあたり、本当に自分でやりたかっただけらしい。

 優雅な所作でハーブティーを一口飲んで、ふうっと息を吐いた。

 

 

「お見苦しいところをお見せいたしまして申し訳ございません。

 まずはご足労いただきありがとうございます」

「いえ、その、商談の件がお急ぎのようでしたので」

 

「ええ、先方が一刻も早く取引をされたいと(しき)りに催促をしてこられましてね」

 

 

 忙しい最中にもひっきりなしに確認を入れてくるらしい。

 どうやら移動の際に視線を向けていた男が件の仲買人のようだ。

 途中で小声になったことにも納得した。

 

 面倒臭いのに絡まれているようだが、こちらまでその手が伸びてくるのは困る。

 カルムも顧客として守るために、自分の情報は止めてくれているようだ。

 

 

「神籬のスチールワンドですが、カルム殿にお預けするので交渉をしていただけないかと思いまして」

「直接でなく私が間に入ることになりますと、手数料を頂くことになりますが……」

 

 

 いや、もうそれはいい。

 元々材料費との差だけで相当なプラスになるわけだし、厄介な人物を防いでくれる方が有意義だ。

 

 ポーチから取り出した杖を、テーブルにそっと置いた。

 

 

「それについてはもちろんです。

 相場は30万ナールほどでしたか?」

「はい、オークションではそのあたりにはなるかと思われます」

 

「でしたら、……25万ナールでお預けしましょう。

 ()()()()()()については、手数料としてカルム殿が収めていただければと思います」

「……よろしいのですか?」

 

 

 前回の話では、相場以上でも相手は欲してきそうだと悪い顔をしていたはずだ。

 25万ナールで預ければ、30万ナールの売却でも2割弱の手数料がカルムに入る。

 それ以上ならさらにカルムの取り分は多くなる。

 

 

「はい、その代わりこちらに詮索や交渉が及ばないようにしていただきたいです」

「なるほど……、かしこまりました。

 近日中に話はまとまると思われますので、代金はその後にお渡しする形でもよろしいでしょうか?」

 

「それで構いませんので、よろしくお願いします」

 

 

 念のためとカルムが武器鑑定で確かめた後、アイテムボックスに大事そうに仕舞いこんだ。

 完了後の伝令についても、あちら持ちで送ってくれるそうだ。

 

 その後は落札済みのコボルトのモンスターカード2枚を受け取る。

 依頼分はまだまだあるので、すべて揃うのはまだかかるらしい。

 

 

 いつもなら見送ってもらうが、今日に限っては例の仲買人らしき男がいるので、カルムが先に出て話をつけている間に商人ギルドを抜け出ることになった。

 カルムが先行してしばらくした後、アコルトの索敵を頼りにそっとその後ろに続き、そのまま商人ギルドを後にする。

 

 感づかれないうちに急いで冒険者ギルドに向かい、すぐに自宅へとワープで移動した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 戻って来ると洗濯物は干し終わっており、ミーラスカたちは畑の手入れや水やりをしているところだった。

 

 

「ただいま、こっちの用事は終わったよ。

 家事の方はどう?」

「おかえりなさいませ、主様。

 最初はリカ様は戸惑っておられましたが、慣れてからはわたくしより手際もよく、不在の際にもお任せできそうでございます」

 

 

 へえ、結構頼もしいな。

 ミーラスカは本職が医療の対応であって、雑務はやらされていただけだからな。

 卒なく熟せるのと、楽しんで家事に取り組むのでははりきり方が違うのだろう。

 

 えへへと長い耳の先を赤くして照れるリカヴィオラも労い、この後の予定を相談する。

 

 昼食までも時間があるし、シャオクを迎えに行く夕方までだって特に用事はない。

 

 リカヴィオラ用のドレスや装飾品を注文しに行くという手もあるが、連日作業してもらっているところに追加発注では、ナルザさんたちに申し訳ないしな。

 受け取りに行ったときに再度注文する形がいいだろう。

 

 

 となれば、迷宮か。

 レベルは高くなればなるだけいい。

 

 幸い、戦闘時間も半分くらいになることも分かったし、シャオク抜きでも大丈夫だろう。

 アコルトとミーラスカの両名に相談しても、問題は無さそうだとなった。

 

 リカヴィオラについては今は仕事もないのでするとしたら掃除くらいだが、それも無理にする必要はない。

 休んでもらってもいいし、鍵も預けておいたので商店街くらいまでなら散策に出てもらってもいい。

 

 今朝の買い物の際にミーラスカに軽く店の紹介は受けたそうだが、自分だけで巡ってみるというのもいいだろう。

 ただし、出歩く際は装備を身につけるようにと言いつけた。

 竜革のカチューシャやブーツの他に、ミトンあたりも追加で装備してもいいかもしれない。

 

 一旦昼には戻ってきて食事を取る予定なので、これからすぐに出る場合はそれまでに帰ってくるようにと約束した。

 水筒は持たせているが、困ったときには買い物もできるようにお小遣いも渡しておく。

 

 無理はしないようにとの言葉に元気よく返事をしてくれたので、アコルトとミーラスカを連れて迷宮へと向かった。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv30
魔法使いLv30/英雄Lv26/探索者Lv31/僧侶Lv29/森林保護官Lv25/巫女Lv15
(村人5 農夫1 戦士20 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊1)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv24

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv21

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv10

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv1


所持モンスターカード
・潅木        1
・壷式食虫植物    1
・牛         1
・竜         1
・大木        1
・鳥         1
・コボルト    0→2



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次回は7/10更新の予定です。

ちょこちょこ散りばめていくと話が進みません……。
アレもコレも早く出したいのに、もっと動いてくださいミツキくん。
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