見た感じの造りがカルメリガのものと似ているし、ここが奴隷商館で間違いなさそうだ。
こちらのほうが建物自体もやや大きい気もする。
アインツ 狼人族 ♂ 35歳 獣戦士Lv38
門の脇にいた狼人族の男に紹介状を渡しつつ声を掛ける。
用心棒、というか門番になるのだろう。
「カルメリガの商館から紹介状を預かってきたミツキと申します。
お取次ぎお願いできますか」
「……確かに、こちら宛のようです。
お預かりしますのでここでお待ちを」
そう言って門番が館の入口に走ると、扉についていたノッカーを鳴らす。
扉についた小窓が開いて、中の者に紹介状を確認させているようだ。
間を置いて扉が開き、中にいた男もこちらに向かってくる。
ネジェロ 狼人族 ♂ 26歳 商人Lv31
まだ奴隷商人ではないケモ耳男性のようだ。
もうジョブチェンジできるのにな、と思ったがボーナス魔法の鑑定を持たない人はいちいちギルドに申請して調べないといけないのだろう。
館の中に通してもらいながら、挨拶を交わす。
「ようこそお越しくださいました、ネジェロと申します。
ゴレード様からのご紹介ということで、戦闘奴隷をお探しと伺いましたが」
「ミツキと申します。
迷宮に共に潜れる女性を探しております」
「かしこまりました。
どうぞこちらへ」
玄関を抜けその背中についていくと、応接室のような部屋に案内された。
申し訳なさそうな表情で、腰が低そうに商人が話し始める。
「本日は奴隷をご覧にはいただけますが、契約のできる当主が不在でございまして。
お眼鏡に適う者がおりましてもご契約は後日となる旨をご了承いただきたく…」
いないものはしょうがない。
どのみちもう夕方だし、候補はいたとしてもあのヒロイン級でなければ即決はできまい。
この人が奴隷商人になってしまえばいいのに。
「構いません。
今、見ることができる者だけお願いできますか?」
「ありがとうございます。
すぐに準備いたしますのでおかけになってお待ち下さい」
メイドの格好をした猫人族の女性がお辞儀をして入ってくると、ソーサーとカップをセットしてハーブティーを注ぎ始めた。
高級宿のものには劣るが、今の宿屋のものより香り高いし美味しい。
堪能していると用意ができたとネジェロから声がかかる。
しっかり飲み干すと、立ち上がって商人に続いて部屋を出た。
鍵のついた扉を抜け、階段を上がる。
管理構造はどこの商館でも同じなのだろうか。
廊下を抜け少し開けた部屋に通されると、5名ほどの女性が整列していた。
リタバサ 狼人族 ♀ 24歳 獣戦士Lv4
ニエン 猫人族 ♀ 21歳 探索者Lv3
ミウレステ 狼人族 ♀ 23歳 戦士Lv5
ユッタ 狼人族 ♀ 19歳 探索者Lv2
ジュリーナ 猫人族 ♀ 20歳 村人Lv6
ケモ耳パラダイスである。
違う、自分は仲間を求めに来たのだ。
「こちらは迷宮経験ある者、もしくは探索に同意した者たちでございます。
ブラヒム語を学んでおりますので、ご質問があればどうぞ」
なるほど、村人がいるのはそういうことか。
商館にきて日が浅いか、迷宮未経験でも売れていく為に同意したのだろう。
積極性は評価するが、申し訳ないがこちらが欲しいのは迷宮の常識を理解し、索敵できる人材だ。
「匂いや何かで魔物を察知できる者はいますか?
見たことある魔物だけでも構いません」
困惑した表情が並ぶだけで、反応はない。
さすがにハードルが高すぎるか。
「質問を変えます。
魔物の攻撃を避けたり、受け流すのが得意な者はいますか?」
……やはり厳しいか。
それができる者はもっとレベルが高くなり、低層階で燻らないのだろう。
「……次の部屋にも待たせてありますので、移動されますか?」
「お願いします」
男性奴隷も視野にいれるべきだろうか。
精神的な付き合いは男のほうが楽だが、この身体を変な目で見られたり、宿の部屋の取り方だったり面倒なんだよな。
本音としては一番奴隷は女性がいいというのもあるが。
次の女性部屋でも同様に質問したが名乗り出る者はおらず、応接室に帰ってきた。
「ご期待に添えず申し訳ありません」
「いえ、こちらの考え方が甘かったようです」
「ご提案なのですが、身の回りの世話をさせる女奴隷と戦闘を任せる男奴隷をそれぞれご契約なさるのはいかがでしょう?」
それが無難だよな。
複数の役割をこなせる一人を探すより、役割に特化した人材を複数採用したほうが効率的ではある。
持ち帰って考え直すか。
「明日、館主が戻って参りますので、昼過ぎには本日お見せできなかった奴隷もご覧いただけると思います」
屋敷の大きさの割に人数が少なかったのは、奴隷の商談でけっこうな人数を連れて行ったかららしい。
売れていった奴隷もいるだろうが、新規に奴隷となった者や他の商館から取り扱いを移る者もいるので、顔ぶれは大きく変わるだろうという話だ。
「突然の訪問にご対応ありがとうございました。
明日また伺います」
「本日はご希望に添えず申し訳ありませんでした。
明日館主から改めてご挨拶させていただきます。
今後ともよろしくお願いします」
ネジェロは何度も頭を下げて見送ってくれた。
責任者不在の時に紹介状を持ってくる、要求の高い顧客の相手なんて嫌だよな。
この世界でも客商売はしたくないと改めて思った。
***
クラザの街から、カルメリガの踊る三毛猫亭へワープする。
MPが減った感じはしたが、すぐ薬が必要なほどではなかったので自然回復に任せることにする。
そこまで遠い街ではないのだろう。
日が落ちてきていたので、宿での食事を取ることにした。
鍵を受け取って食堂に向かい、カウンターで夕食を頼む。
相変わらず文字が読めないので板に書かれた一つを指差して頼むと、出てきたのは昨日と同じ肉料理だった。
他のものも食べてみたかったが、読めないものはしょうがない。
エールと料理を堪能しながら、明日のことを考える。
今の宿は明日の朝食までで区切りだ。
延長してもいいが、クラザの街にも迷宮はあるようだし、向こうで宿を取り直すのもいいかもしれない。
午前中はまだカルメリガの迷宮に入ってレベル上げや魔法を試し、午後にはクラザで奴隷を見せてもらうつもりなので、その際に宿を紹介してもらえばいいだろう。
男奴隷でも戦闘を任せられそうならメンバー候補にしようか。
それはそれとしてかわいい一番奴隷がほしい。
あとは、カルメリガでもクラザでも、ドワーフ奴隷の求人をお願いしたほうがいいだろうか。
この際戦闘要員でなくてもいいので、鍛冶師は必須だ。
早いうちに見つけてジョブさえ取得させてしまえばいいので、今後はドワーフなら家事用や妾用奴隷も見せてもらったほうがいいだろう。
妥協し始めると、あれもこれもとどんどん人材が欲しくなる。
パーティーメンバーは最大6人なので、慎重に選ばなくてはならない。
逆に、在宅メンバーはいくら居てもいいのではないか?
そうすると今度は家の大きさや間取りがこまるか。
考えがまとまらない。
明日、見せてもらった人材でこれはと思った者を中心に構成を考えることにしよう。
料理を食べ終えてエールを飲み終わると、フロントで湯をお願いしてから部屋に戻る。
装備を外して棚に置いていると、すぐに従業員が湯桶を持ってきてくれた。
これで体を拭いて済ませるのも3日目となり、慣れてはきたが湯に浸かりたい。
深めの金ダライでも買ってしまおうか悩むが、自前の拠点もないのに置き場がない。
人も欲しい家も欲しい。
何よりこの世界の常識が欲しい。
無い物ねだりに大きくため息をついて、大人しく服を洗った。
……洗剤もほしいな。
明日の着替えを出しておき、ベッドに裸で潜る。
掛け布団から頭だけ出して早めの就寝にした。
***
目が覚めると、まだ薄暗かった。
早寝したおかげですっきりと起きられた。
用意しておいた服に着替えて食堂に向かうが、まだ閉まっていた。
流石に早すぎたらしい。
大人しく部屋に戻り寝直そうかと思ったが、動いたせいで完全に目が冴えてしまったので迷宮に向かうことにする。
装備を身に着け、ボーナスポイントを調整した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv13
探索者Lv13/英雄Lv9/戦士Lv7/魔法使いLv1
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
4rdジョブ 7 武器・五 31
獲得経験値10倍 31 必要経験値1/10 31
MP回復速度2倍 3 敏捷 2
(残0/111pt)
リュックの底の魔結晶の色は、少し前に10体分の赤から100体分の魔力の紫になったばかりだ。
半端なボーナスポイントで結晶化促進を付けたところで、すぐ1000体分の青になることはないだろう。
フラガラッハにはないMP吸収を、ボーナスポイントの回復速度2倍で補うことにした。
カルメリガの迷宮2階層小部屋へとワープする。
コボルトとコラーゲンコーラルを屠りつつ、ドロップアイテムを拾い通路を進む。
ボス前の待機部屋までその流れは変わらず、少し休憩した後、折り返してまた別の通路へと向かった。
行き止まりの通路の奥のコボルトを倒し、ジャックナイフを拾う為に屈む。
立ち上がる際に壁に手をつくと、そのまま壁がスライドした。
体重をかけていたので重心が持っていかれる。
違う、床もスライドしているのだ。
つんのめって転倒し、顔を上げると周囲の景色は真っ青だった。
そしてそこから無数の目玉がギョロギョロと蠢いた。
ひしめくコボルトの大群が自分を見つめている。
魔物の部屋だ。
迂闊に動けない状況で、近くの一匹が足にナイフを突き立ててきた。
「痛ッ」
反射的にフラガラッハで薙ぐと、刃先の触れたコボルトが煙に変わる。
HP吸収の効果で痛みが引いた。
その束の間、青の大群が一斉に襲いかかってきた。
コボルトたちの短いナイフで足に腕に切り傷ができ、血が滲み出す。
いくら竜革装備の防御力があるとは言え、剣を振るう手を止めたら死だ。
半狂乱でフラガラッハを振り回す。
一つ一つの痛みはチクッとする程度だが、たまに紙で指を切ったような鋭いものもある。
コボルトの叫び声なのか自分の唸り声なのかわからない。
近づいてくる音が一旦止むと、剣が届く距離のコボルトは消え去り、切り傷は塞がっていた。
一歩踏み込んで更に奥のコボルトを斬り捨てる。
止まるな、立て直せ。
必死に切り分けながら進むと、部屋中に広がっていた青色が当初より大幅に減っている。
部屋の一角は駆逐し終わったようだ。
このまま着実に減らしていけば問題ない。
自分の汗なのか宙に舞ったコボルトソルトなのか分からないが、口の中がしょっぱい。
背後を取られないようにして、近づいてきたコボルトに向かってフラガラッハを振るう。
コボルトに当たる手前で、ガキッと音を立てて刃が止まった。
コラーゲンコーラルがコボルトよりも接近していたのだ。
よく動く青色ばかりに目を取られて見逃していた。
もたげた岩頭が迫ってくる。
「マズ
い、と言う前にその塊が腹に打ち付けられた。
オーバーホエルミングを念じるも、発動が遅すぎた為まともに被弾した。
頭に食らわなかっただけマシか。
「ぐっ…」
衝撃はすごいが、ダメージ自体は装備で軽減されているらしく、なんとか踏ん張って持ちこたえる。
下がりきった岩頭に剣を振り抜いて即座に切り返し、岩の頭が煙になった。
やはり三発当てる必要があるのは負担が大きすぎる。
見渡して確認すると、コボルトはまだ数がいるものの、コラーゲンコーラルは片手に余る程度だ。
オーバーホエルミングの効果中にコラーゲンコーラルを優先して攻撃する。
近距離で囲まれないように、その場に留まらず被弾しないように心がける。
オーバーホエルミングが解けても、どちらも基本的には動作が鈍いので、立ち止まらなければほとんど攻撃を受けない。
受けたとしても剣が当たればHP吸収ですぐに回復できる。
大丈夫、大丈夫だ。
1体1体を適切に処理していけば、精神的余裕も生まれていく。
コラーゲンコーラルを倒し終え、残りは部屋の半分を切ったコボルト共だ。
剣が当たりさえすれば消える。
無理はせず、突っ込まない。
最後の2体のコボルトを振り抜いたフラガラッハで煙に変えると、ついに部屋の中が静かになった。
やりきった。
何度も鑑定で魔物が表示されないのを確認すると床に寝転んだ。
「死ぬかと思った……」
装備自体は大丈夫だが、その下の服もコボルトのナイフの切り跡がひどいし、散らばったコボルトソルトやコーラルゼラチンは踏み潰されている。
ジャックナイフは比較的無事なものがあるが、コラーゲンコーラルに乗られたり、打ち据えられて壊れているものもある。
アイテムボックスを開いて片っ端から投げ込んでみるが、大半の破損しているものは収納されずにそのまま床に落ちた。
完品じゃないとアイテムと認識されないようだ。
コボルトソルトに埋もれた中から何かが飛び出ているのを見つけて拾い上げる。
よくわからない絵だか記号だかが書かれた薄い板のようなそれを鑑定すると、コボルトのモンスターカードと表示された。
異物だらけの砂場のような惨状でも、この一枚だけで大きくプラスだ。
体中のソルトを払って、宿の部屋にワープした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv20
探索者Lv20/英雄Lv14/戦士Lv16/魔法使いLv12
(村人5 剣士5 僧侶7 商人1)
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次回は7/4更新の予定です。
24/07/22
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