魔物たちが
扉を出たらメテオクラッシュ、扉を出たらメテオクラッシュとイメージトレーニングを行う。
今回は詠唱省略ではなく詠唱短縮までしか取得していないので、念じただけでは発動しない。
アコルトたちにすぐ戻ると伝えて、意を決して扉1枚分黒くなった我が家の壁へと突入した。
ワープゲートから出てすぐ、ほんの数歩先にいたロートルトロールと目が合った、気がした。
たぶん、自分も相手もギョッとしていたと思う。
「メテオクラッシュ!」
それだけ叫んで、握っていた強壮剤を思考が歪む前に飲み込みつつ、開いたままのゲートにすぐに引き返す。
瞬時に背後が赤くなり、逆光に伸びた自分の影だけが目に入ったが、炸裂音を聞く前に自宅へと抜け出てきた。
時間にして5秒もいなかったと思う。
なんだかピンポンダッシュでもした気分だ。
安アパートだったのでされたことしかないが、する側はこんな気持ちだったのだろうか。
いや、いたずらで相手を殲滅する隕石を落とせるような子どもは現実にいないので、例えが悪かった。
こちらの顔を見た途端安堵した表情になる皆に迎えられ、アレを撃ってきたと伝えると労いの言葉をかけられた。
メテオクラッシュのエフェクトを知らないリカヴィオラだけは、主人が忘れ物でもしたのかと思う帰宅の速さに首を傾げていたが。
少しおいて、もう一度向かうことにする。
鑑定もジョブ設定もつけていないので現時点でのレベルの上昇も確認できていない。
おそらくメインジョブのレベルも上がっていてポイントを割り振れば可能なのだろうが、もう1発撃てば殲滅は確実だろうからそれを終えてからにしよう。
ちょっと楽しみではあるし。
もう一度同じ手順でゲートを設置し、突入を試みる。
今度は出てきていきなり鉢合わせ、ということにはならなかった。
火のついた岩が砕け散り、焼け焦げたようにも見えるがこれはあくまで敵を対象としたエフェクトだ。
懸念していた討ち漏らしのロートルトロールはおらず、どうやら一撃討伐に火力が足りていたらしい。
メテオクラッシュの威力がそれだけ高いということだろう。
部屋の奥に動く植物の緑が見えたので、容赦なくメテオクラッシュを唱える。
岩が灼熱を散らしつつ6つほど頭上に現れ、それが最短距離を翔けるように飛んでいって炸裂した。
これだけでも明確にMPが減った感覚を受けたので強壮剤を呷り、鑑定を取得した。
動くモノはもうない。
鑑定にもドロップ品の名前が浮かぶだけで、魔物の名前は表示されなかった。
おそらく先程の魔物は、1回目の攻撃の後に新たにスポーンした群れだったんだろう。
それにしてもこの部屋は広い。
ボス部屋なんかよりも断然面積があって、足元に転がるアイテムがここにいた魔物の数を物語っている。
皆を連れてきてドロップ品の回収かな。
自宅へと戻って皆に殲滅完了と伝え、これから回収作業をしようと相談する。
「
戦闘ではなく収集作業なら、ということでリカヴィオラも協力を申し出てくれた。
アイテムボックス持ちなら回収も捗るだろう。
あの広さならまた魔物が現れても離れてもらえば巻き込むこともないし、なんだったらメテオクラッシュを放てば一撃で終わるし味方に影響もない。
初見だと驚愕はするだろうが。
リザルトは後で確認するとして、シャオク以外を一旦探索者へと変更し、リカヴィオラにも装備に着替えてもらってから迷宮へと移動した。
***
「あーっ!
そうでした、シームの15階層……」
手分けしての回収作業中に、終始考え込んでいる表情だったシャオクが声を上げた。
「どうしたの?」
「待機部屋と反対に向かう通路の途中に魔物の部屋があると、探索者の最初の講習で言われていたのを思い出しました……。
かなり昔に何パーティーも姿を消したことで、討伐隊が組まれたことがあったらしいです」
シャオクが探索者になったのはシームだし、最寄りの迷宮の常識として必ず最初に紹介されていたらしい。
15階層ならルーキーの探索者が入ることはないし、実際に足を運ぶパーティーは情報収集してから挑むはずだしな。
自分たちのようにいくつも領地を跨いで、魔物の種類だけでその時々で選んだ迷宮通いは普通しない。
シャオクがしばらくシームを離れていて、未踏の階層で、待機部屋からの逆ルートという不運が重なったことで今回の事態になったようだ。
ちゃんと周知がされていたからこそ、大部屋でこのドロップアイテムの量の魔物がいても全滅したパーティーの装備や宝箱が残っていなかったのかな。
まぁまともなパーティーならそんな情報がある階層は丸々飛ばしてしまうか、今日すれ違ったパーティーのようにボス部屋までまっすぐ向かうかするだろう。
無事に討伐も出来たし、経験値も十分に稼げただろうから今回はオーケーだ。
もしかしたら一定期間経てば、また同じように稼ぎ場所として使えるかもしれないしな。
それにしてもドロップ品の売却はどうしようか。
今回は一撃でほとんどの魔物を片付けたので、潰されたりダメになっているアイテムはなく、一面に広がったドロップ品はほぼほぼ回収できた。
昼はルテドーナで売ったばかりだし、シームで身バレは面倒すぎる。
消去法でフウルバリあたりにしておくか。
冒険者ギルドだけなら問題はなかろう。
というわけで全員でフウルバリへと移動した。
長期間遠征の各パーティーの拾得物を売って山分けというストーリーを用意して、それぞれ別パーティーのアイテムボックス持ちが集まって大量買取窓口へ来たということにした。
あまりないがあり得るかもという筋書きにギルド員が訝しげであったが、木の板だけで60枚以上あるとその一部を取り出し始めたら、急いで案内してくれた。
案内された部屋には、前に商人ギルドで見たギルド神殿が乗った、底の見えない大きな引き出しのようなものが鎮座していた。
どうやらその中に入れて処理をすると、精算してくれるらしい。
初めは皆おっかなびっくり中に入れていたが、残りの量を考えて途中から投げ入れるように取り出していく。
アイテムボックスの容量もあって自分が最後までかかっていたが、おかげで途中で3割増にボーナスポイントを振ることを思い出すことができた。
錫の塊でするお手玉は手首を痛めそうだ。
監視していたはずのギルド員が半分船を漕ぎ始めた頃に声を掛けると、引き出し横のボタンを押すと計算が始まるのだと教わった。
側面に備え付けられたシンプルなボタンが確かにあるのを確認し、押し込んでみると引き出しが自動で閉まり始める。
やがて精算されて出てきた硬貨を、ギルド員が検めてトレイに載せて渡してきたので受け取る。
おそらくはちゃんと割増になっている……はずだ。
金貨も少なくとも3枚は見えるし、銀貨は7,80枚近くあるように見える。
恭しく受け取って揃って部屋を後にし、ギルド内の絨毯から家へとワープした。
さて、遅くなったがリザルトの確認だ。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv36
魔法使いLv36/英雄Lv31/探索者Lv37/戦士Lv29/森林保護官Lv32/巫女Lv30/盗賊Lv24
惜しい……!
戦士は目標レベルの一歩手前、巫女はLv30の大台に乗った。
盗賊は一気に上がったが、元が初期値だったためにここまでか。
英雄のレベルは、並ばれていた森林保護官に抜かれてしまった。
やはり経験値テーブルがかなり渋いと思われる。
巫女には案の定派生ジョブは生えておらず、かといってMPと知力の両方に補正があるのは英雄と魔法使いを除いては現状これしかないので外せない。
回復はあって困ることはないので外す予定もないが。
アコルトたちは2つ3つレベルが上っていた感じだ。
リカヴィオラは階層の数字以下のレベルだったのもあって、Lv17まで上昇している。
自分と比べて必要経験値減少の補正はないので、短時間の戦闘にしては十分に上がった方だろう。
もっと上の階層の魔物の部屋だったら、一気に駆け上がったかもしれない。
時間としてはまだ夕食には早い。
戦士だけでも今日中にLv30にしておきたい気持ちが強い。
魔物の部屋に向かう前は巫女も戦士も同じレベルだったはずなので、もしかしたらすぐに上がってくれるかもしれない。
魔法戦闘仕様にボーナスポイント構成を戻し、戦いながら調整する。
全体のレベルが上ったことでジョブ効果も強化され、知力に振っていたポイントが余るようになるかもしれないからだ。
上昇分のポイントでMP回復速度を5倍から10倍にできたので、強壮丸の使用頻度が半減できる。
もうすぐ遊び人を取得して連続発動するようになったらMP消費は加速するだろうが、単発での使用ならかなり節約できそうだ。
もう少しボーナスポイントに余裕があれば、経験値効率をもう一段階か、常時7thジョブでの活動ができるようにはなる。
狩り場を変えたばかりだが、レベル上げのためにもっと上の階層も視野に入れる必要がありそうだ。
もしかしたら探索者のレベルはこの階層では頭打ちになっているかもしれないし。
討伐までの魔法の確定数が同じになるように試行錯誤していたら、戦士より先に英雄のレベルが上がった。
それにより知力に振らずともよくなったので、調整を終えて狩りにさらに集中できるだろう。
夕方の鐘が鳴る頃だと声がかかる。
いっその事と思い、MP回復速度をなくして獲得経験値を20倍に設定し、実質200倍効率で眼の前の群れを狩ると、ちょうど戦士のレベルが上がった。
意地だ。
……初めからそうしろというのは、無しにしていただきたい。
アコルトたちに不審がられながら、さっきまで苦い顔をしていた自分が急にホクホク顔で帰宅したかというと、その理由は
賞金稼ぎ
効果 器用小上昇 MP微上昇 腕力微上昇
スキル 生死不問
騎士
効果 体力小上昇 知力微上昇 精神微上昇
スキル 防御 任命 インテリジェンスカード操作
暗殺者
効果 知力小上昇 精神小上昇
スキル 状態異常確率アップ 状態異常耐性アップ
遊び人
効果 空き
スキル 効果設定 スキル設定 空き
戦士がレベル要件を満たしたことで派生ジョブが3種追加され、そのことでおそらく取得ジョブ数という条件をクリアして念願の遊び人のジョブも取得できた。
彼と同じ、村人からカウントして23ジョブ目だ。
いやー、長かった。
まだ遊び人Lv1なのでいきなり手数が半分にはならないとは思うが、これは理想のジョブ編成が組めるようになるための大きな一歩である。
ボーナスポイントを操作してパラレルジョブ数やジョブ設定を変更する。
遊び人をセットしてから効果設定と念じると、確かに作中で描写されていたように取得済みジョブがずらずらと脳裏に浮かんできた。
選ぶのは英雄の『MP中上昇』。
一度設定すると、述べられていた通りクールタイムが発生して、すぐには再選択できなくなっていた。
同様にスキル設定では魔法使いの『初級水魔法』を選択する。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv36
魔法使いLv36/英雄Lv32/探索者Lv37/僧侶Lv30/巫女Lv30/遊び人Lv1/賞金稼ぎLv1
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
7thジョブ 63 MP回復速度20倍 63
パーティー項目解放 1 パーティライゼーション 1
(残0/134pt)
MP中上昇2つ、小上昇1つに微上昇3つ。
回復速度も最大の20倍まで取得した上で、パーティライゼーションでケアもできる。
魔法の与ダメージは魔法使いに遠く及ばないだろうが、浴室に火力はいらない。
レベルの上がり続ける魔法使いの経験に鑑みても、発生する水量はスキル毎に同量のはずだ。
じゃなきゃ、毎日汗だくになってお湯を作り続けている時間が一向に縮まらないのはおかしい。
水水、火水、火水……の順番で唱えていけば、これまで単発で発動していたのと割合が同じになるので温度も大丈夫だろう。
ここに理想の給湯器が完成した。
頼む、このジョブとポイント編成のプリセット登録をさせてくれ。
調子に乗って夕食前にお風呂を準備してしまったため、食べ終えてから追い焚きすることになったが全然苦しくない。
まだ連続魔法の嬉しさが勝っている。
夕食後に入浴も終えると、今日はリカヴィオラも2階へ来てもらい、寝る前に新たなジョブを得られた説明を行なった。
取得済みのジョブのスキルを設定できることや、自分は詠唱を省略できるので共鳴によるキャンセル等を無視してほぼ同時の連続発動ができることをだ。
目下の影響としては、今日のように給湯時間が短くなったり、甕の生活用水の補充が早くなるくらいである。
もう少し経験を積めれば新ジョブ分の威力も上がって、討伐までの必要数も減らせるはずなので乞うご期待というところだ。
***
起床する。
なんだか有耶無耶になっていたが、今日は夏の中月5日なので一応休暇日ということにしている。
念願の遊び人も取得できたし、無理に迷宮に向かう必要も予定もない。
自分がベッドから抜け出たあたりで、アコルトが階段を上がってきた。
となればもちろん、着替えさせられたのはお出かけ用の服だ。
ウエストを紐で絞るタイプのカジュアルなワンピースで、何度か着ているやつだな。
揃って階段を降りて顔を洗ったりして、食卓へと移動する。
皆もそれぞれ緩い格好だが、リカヴィオラはいつものメイド服だ。
「家事はこちらの格好で務めますと、気合が入ります故!」
そ、そっか。
コスチュームに身を包むことでテンションが上がるってことか。
それでも、最低限の洗濯等が終われば買ってもらった私服に着替えるつもりらしい。
簡単な食事を終え、食器の片付けを皆で終わらせる。
たまにはリカヴィオラに早めにあがってもらおう。
今日は掃除や草むしりは不要だとしておいた。
ぜひ他の趣味も見つけて欲しい。
自分の予定はどうしようか。
昼には眠る人魚亭で紹介と食事をするとして、それ以外の時間についてだ。
帝都の商館も見ておくか?
シャオクの槍だって、探しておきたいというのもある。
どちらもその場で購入せずとも、確認だけでもいいだろう。
じゃあとりあえず自分は帝都かな。
「皆は出かけたい所はある?
家でのんびりしててもいいよ」
カルメリガに明日向かうことは昨夜に伝えてあるので、あちら方面以外の話だ。
帝都に向かうなら武器屋を見て回りたいと言うシャオク。
ミーラスカも少し我が出てきたのか教会を見てきたいと口に出してくれたし、アコルトはなんかもうすでに自分の横にピッタリとくっついているので、どこでもお供するんだろうな。
リカヴィオラはというと、仕事を取り上げられた上に先輩方が気ままに希望を出す姿にまだ戸惑っている感じだ。
「欲しい装飾品の参考に、お店を見回るのはどうでしょうか?」
見かねたシャオクが助け舟を出す。
明日にはミーラスカの分の受け取りついでにガゴレ親方にリカヴィオラの分を注文をするつもりなので、何が欲しいかも考えてもらうのもいいな。
「宜しいのでしたら是非お願いしたく存じます」
リカヴィオラについてはシャオクが引率してくれることになった。
他の街の傾向を考えれば、装飾品店と武器屋は比較的近いことが多かったので帝都も同様だろうとの判断である。
もしかしたら護身用とかの武器でも、リカヴィオラが身につけられそうなものを見つけてくれるかもしれないな。
日用品や小物なら構わないが、高額の買い物だけは後で予算を出すからその時にと購入を控えるように言い付けておいた。
相談をしつつ洗濯も終えると、リカヴィオラが着替えに向かう。
「御待たせ致しました!」
こちらは出発用の身支度を整えて待っていると、声がして寝室の扉が開く。
先ほどまで簡素なメイド服を着ていた褐色の少女は、かなりラフな服装でのお出ましとなった。
ラインの入ったカットソーに、ショートパンツ。
街で見る探索パーティでも比較的軽装な連中のような、かなりスポーティーな印象が強い。
戦闘はそこまでと言っても、体を動かすのが好きだからだろうか。
スカートではないとはいえ、脚の露出は大差ない。
替わりたいかと言われれば首を横に振りたくなる装いだ。
自分との衣裳の差を出す意味もあるだろうが、いささか健康的すぎないか。
普段がこれなら、自分に似た服を着せた際に、見知った者でも遠目なら見間違うだろう。
そういった計算もアコルト先生が判断なされたのかもしれないな。
まぁ自分が着るのではなく、見る分にはいいか。
戸締りをしてからワープゲートを広げ、帝都の冒険者ギルドへと移動することにした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv36
魔法使いLv36/英雄Lv32/探索者Lv37/森林保護官Lv32/巫女Lv30/遊び人Lv1
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 賞金稼ぎ1 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊24)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv27
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv25
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv20
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv17
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次回は7/24更新の予定です。
やっと遊び人回収です。
設定した取得条件はミツキくんの理解とは微妙に違いますが、再検証の機会はほぼないので触れられることはおそらくないでしょう。
……もしかしたらあるかもしれませんが。
ジョブやスキルだけなくだいたいの物事において、仕様として設定した内容と、作中で判明した内容と、主人公の推測した内容を分けておりますので、拙い文章ながらも説得力を多少は持たせられているかなと思います。