異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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138 蜂蜜

 迷宮からの帰宅前にギルドでアイテムの売却をする。

 ビッチバタフライのドロップ品は膠灰(こうかい)という表記だった。

 

 見た目はポロポロ崩れやすい石だか砂だかの塊のようだが、(にかわ)に灰と書くのだから動物性の接着剤、みたいな認識でいいんだろうか。

 コウなんて読み方は知らなかったが、文字がそれなのだから似たようなものだろう。

 そういえば納屋を建てる時に似た色のものが水に溶けていたようだが、これだったのかな。

 

 虫由来の物なのか、ただドロップ品として当てはめられているだけなのかも分からない。

 字面的に死骸の成分みたいな気がして、使いもしないのに持っていたくないのですべて売り払った。

 

 結局ピッグホッグの階層には出向けていないので、勢いで豚バラ肉を購入してしまった。

 いや、今後これを自分たちで獲得できるようにする目標のためだ。

 自分もそうだが、うちの子たちだって実際に食した方が意欲が湧くだろう。

 

 ついでに酪あたりも買って、アイテムボックスに入れておこう。

 ドロップできる階層に足を運べていないので、ギルドに来た時に買わないと確保できないからな。

 

 チーズやバターは地上の家畜産のものでも構わないが、なんとなく生乳は迷宮産のものでないと怖く感じる。

 当日絞られたものをすぐ使い切ればいいんだろうけども、やっぱりなんとなくだ。

 

 

 

 自宅へと帰ってきて、昼食の準備をする。

 

 竈の火はリカヴィオラがすでに飲み物を淹れるために熾してくれていたので、机の方で野菜を切ってもらう。

 形はニンジンやタマネギに似ているが色が微妙に違うやつらと、よく使うニンニクもどきやショウガもどきの芽らしい少し柔らかい部分を細切りにして長さを揃えさせる。

 

 食事の支度だって、褐色エルフメイドは手際よくこなしている。

 包丁の使い方が上手い。

 

 肉用のまな板に豚バラ肉の塊を取り出し、若干厚めで一口大に切り分けていく。

 炒め物なら薄切りの方が食べやすいが、やっぱり肉は噛み応えがあった方が嬉しいしな。

 単純に現代の肉屋で売っているような薄切りにするのは面倒というのもある。

 

 塩コショウを軽く振ってバラ肉から炒め、油が出て焼き色が軽くついたくらいで一旦皿にあげる。

 油と野菜を絡めるように火にかけて、しんなりしてきたので少量のワインを加えてアルコールを飛ばし、肉を戻して魚醤で味を調えた。

 

 うーん、いい香りだ。

 温めたパンを割って挟むと、生地が汁を吸ってこれがまたいい。

 

 やはり迷宮産の肉は好評で、種類も違うとなると食いつきが違う。

 足りなくなるだろうと思って多めに買ってきておいてよかった。

 これは自給自足できるように階層選びをしないといけなさそうだな。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 食器洗いと休憩を終えて、午後からも迷宮へと繰り出した。

 

 ルテドーナの17階層での狩りは、問題なさそうに思える。

 風魔法で虫たちの飛行を掻き乱し、たまに出るケトルマーメイドには追加の土魔法で片が付く。

 

 警告音ともいえるグラスビーの羽音のおかげで、接近されるまで気付かないということはないしな。

 蜜蝋は石鹸や蝋燭作り用にいくつか残しておくにしても、膠灰やまれに落ちる銅は売却用にしかならない。

 

 遊び人と盗賊がそれぞれ上がったところで、獲得経験値上昇を一段階落としてその分MP回復速度へとボーナスポイントを調整した。

 さすがに強壮丸や強壮剤が減っていく間隔が気になってきたからだ。

 

 小部屋に戻って、パラレルジョブを考える。

 

 盗賊がLv30になったが、特に派生ジョブは表示されていない。

 博徒のジョブを得るには賞金稼ぎのジョブレベルを上げた上で、生死不問を成功させるんだったか。

 賞金稼ぎのレベルは17で、まだ道のりは長い。

 

 というわけで知力に補正のある細工師を6thジョブにセットしよう。

 

 

 

 一応は攻略に進捗を出すという話ではあったので、周囲の群れを探すように案内をしてもらってはいても、階層を回っていれば待機部屋へと行き当たることになる。

 一般のパーティーにとっては状態異常を付与してくる魔物が固まった階層は敬遠されるものなのか、ボスを待っている者もおらず扉も開いていた。

 

 人に会いたいわけではないが、迷宮で他人を見ることもほとんどないな。

 アコルトの索敵の時点で避けられているし、魔法使いを連れていないなら戦いにくい階層なので当然か。

 

 グラスビーの階層のボスは、キラービーだ。

 気を付けるべきは、配下と同様に確定で毒にしてくるというスキルだろう。

 

 先にボス部屋内部の様子もアコルトに確認してもらいつつ、落し物もないことを確かめながら準備を終えた。

 

 

 進むとしよう。

 先行したアコルト、次いで盾を構えながらボス部屋へと侵入したシャオクとミーラスカの背を追いかけて、最後尾に自分が続く。

 

 入り切ったタイミングで扉が静かに閉まり、煙が現れて部屋の奥へと集まりだす。

 

 

グラスビー Lv17

キラービー Lv17

 

 

 やがて明確に形を取ったところに鑑定を投げてみれば、ウインドウに表示された文字はボスとそのお供の名を示していた。

 

 並んでみればいかにも親玉というか、キラービーはグラスビーよりも一回り大きく、黒と黄色の体には赤黒く何本かのラインが足されたような雰囲気で威圧感がある。

 危険の度合いが増したような配色に警戒しつつ、ブリーズストームの2連発から戦闘を開始した。

 

 大きくなってもやることは変わらず、敵もいくらか機敏に動けたのだとしても全体魔法からは逃れられないので、戦法は一緒だ。

 ミーラスカの大盾で相手の突進や遠距離攻撃を防ぎ、魔法で体勢を崩したところに鞭や槍で牽制や状態異常狙いの攻撃を加える。

 

 2ターン目の魔法でお供のグラスビーがアイテムに変わり、麻痺による妨害も交えつつ5巡目のブリーズストームでボスも倒すことができた。

 後に残ったのは、オイル類のように被膜に包まれた球状のアイテムだ。

 

 

蜂蜜

 

 

 か、甘味……!

 そうだ。

 忘れていたが蜂から得られるアイテムなら、こちらのほうがポピュラーだろう。

 

 持ち家を手に入れてから外食も減り、酒場になどめっきりと行かなくなったので、割り物を入れた蜂蜜酒を飲んだのなんて随分と前になる気がする。

 コボルトスクロースはあるので甘い物は度々摂取してきたが、自然由来な感じの甘味はしばらくぶりだろう。

 迷宮産の食材が自然由来と言えるかは知らないが。

 

 簡単に作れそうなパンケーキあたりにすぐ使えそう、となればいくつか欲しい。

 皆に確認して、ボス部屋の出口から18階層へと抜けた後、またすぐ17階層の小部屋へとワープしてボス部屋の周回することにした。

 

 

 明日は中月10日ということで、迷宮は休みのつもりである。

 さらに翌日はシャオクのギルド転属手続きが完了予定ということで、無事に終えればヤトロクやミトラグへの報告に移るなど忙しくなりそうだしな。

 

 おいしそうな材料は手元に置いておきたい。

 そんなわけで夕食までの間、延々と蜂蜜を増やす作業へと取り組んだ。

 

 

 

 

 

 帰宅して食事を進めつつ、明日の行動を確認する。

 

 

「明日は迷宮は休みにするつもりだけど、みんなやりたいことはある?」

 

 

 自分は南方の行ける場所を増やすために街移動を繰り返すつもりだ。

 米探しというアバウトな目標もあるが、自分やリカヴィオラの肌の色に近い人々も探せたらいいな。

 

 彼女が父親と点々と移動していた時は、交渉事も含めて連れていかれるままだったそうで、地名も明確には分からないらしい。

 ルーツを知るためにも、とりあえずは自分が手当たり次第に街や村を回って行ける場所を増やし、後から皆を連れて散策という形になるだろう。

 ということで、個別行動になると先に話した。

 

 口火を切ったのはシャオクだ。

 

 

「ボクはアルヴナの転属手続きがちゃんと進んでいるか確認しておきたいです」

「それは明後日にアルヴナで確認してからシームの鍛冶ギルドに向かうから、明日はいいよ」

 

 

 ギルド側が切った期限が中月11日以降という話だったのだから、期限日になってから確認した方がいいだろう。

 前日に行って「明日までには」なんて返ってきたって困る。

 

 

「それでは帝都でしょうか。

 今後迷宮の階層を上げていくのでしたら、魔物についてより調べておいた方がよいかと思われます」

「わたくしは手に持てる装備を探すことでございましょうか。

 前回はなかなか見つかりませんでしたので」

 

 

 アコルトもミーラスカも、これからのことを考えてくれている。

 もっと好きなことをしてもらってもいいんだけどな。

 

 そう伝えても、他にはこれといって希望は出てこなかった。

 

 自分が街移動で一人行動するとなると、パーティーを解散しなくてはいけなくなる。

 だったらリカヴィオラに組み直してもらって、皆を帝都に送った後に自分だけアルヴナ辺りから南下していけばいいだろう。

 

 帝都にいる皆にパーティーの縁取りがあれば、逸れたりすることもないはずだ。

 日中は武器屋でも雑貨屋でも、食事もとりつつ好きに過ごしてもらって、自分が合流するときに図書館に居てもらえれば帰りも楽になる。

 

 食事だって帝都なら色々あるだろうし、皆も息抜きになるだろうか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 たまには早く起きて支度をしてみようと思ったが、目を覚ました頃にはみんながすでに動き出していた。

 それぞれがベッドから起き出すと、布団の厚みはあるもののスプリングが付いているわけでもないので、それなりに振動がある。

 ……こんなに揺れているのに自分は毎日平気な顔をして寝続けているのだろうか。

 

 あ、安心しきっているということにしよう。

 ほら、現代にいた頃に震度1とか2程度なら慣れきってしまっているので、気付きはしても慌てることはないのと同じだ……よね?

 

 ぼーっといつまでも推察してるのではなくて、自分も起き出して準備を手伝おう。

 

 

 一緒に着替えと洗顔なんかを終え、朝食の準備に取り掛かる。

 買い物の方は足手まといになりそうな気がしたので、大人しくミーラスカとリカヴィオラに任せ、調理の方に入ろう。

 竈の火はアコルトが見ていてくれるので、飲み物用と別に一つ余計に鍋に湯を沸かしておいてもらう。

 

 さっと湯がいた葉野菜と香味野菜の水気を取って刻み、今回はある程度薄切りにした豚バラに小麦粉を振った上にのせて、くるくると巻いていく。

 シャオクとアコルトにも手伝ってもらって一通り巻き終わると、薄く油を引いたフライパンで巻き終わりから焼いていった。

 

 手本で何本か見せた後は任せ、自分は別作業に取り掛かる。

 

 ボウルに昨日の残りの卵を割り、バターと蜂蜜を加えてよく溶いて、酪も少しずつ混ぜていく。

 小麦粉にコボルトフラワー、少量のシェルパウダーを削って加え、粉っぽさがなくなるまでしっかりと混ぜた。

 

 本当はホイッパーで泡立てたらいいのだが、器具がないのでダマにならない方を優先だ。

 小さいカップに移し、野菜を湯がいた湯に蒸籠をセットして蒸し始める。

 

 そうしている間にミーラスカたちが帰宅したので、肉巻きのフライパンにワインと蜂蜜を入れて煮立たせる。

 塩コショウで味を整えた後、肉を転がしてたれを絡めて出来上がりだ。

 魚醤では生臭さが出るかと思ったので、今回は甘酸っぱい味付けでいいだろう。

 

 焼きたてのパンに甘いたれが合って美味しい。

 皆もモリモリと食べているので、甘味が迷宮に依存しがちなこの世界ではやっぱり好評なようだ。

 

 途中で加減を見て火から外しておいた蒸籠を開け、蒸し布を取る。

 ふわっと蜂蜜の香りが鼻腔をくすぐり、ふっくらとカップに膨らんだ蒸しパンをみんなに配った。

 

 

「混ぜて蒸しただけだけど、食べてみて。

 美味しかったらまたつくるから」

「……美味しいです、お嬢様!」

 

 

 早いよ!

 自分も頬張ってみるが、安っぽい作りの割に口当たりはいい。

 迷宮素材の酪と蜂蜜のおかげだろうか。

 

 重曹は入れすぎると苦みが出るらしいのでシェルパウダーも控えめにしたが、それでも十分膨らんでいるし変な味もしない。

 分量は目分量だったが、ちょうどいい塩梅だったのだろう。

 しいて言えば───

 

 

「味は大変美味しゅうございますが、香りに少し癖が……」

「青臭いよね、ごめん。

 野菜を湯がいたお湯じゃなくて、新しく沸かせばよかった」

 

 

 鼻のいいミーラスカは気になったようだ。

 自分でも口に含んだ瞬間だけ違和感を覚えたが。

 

 何事も手抜きはいけないということだ。

 どうせ洗い物でお湯は使うのだし、横着しなければよかった。

 

 それ以外はみんな気に入ったらしい。

 卵の消費が危なそうな時でも、おやつが欲しい時でもまたつくってもいいな。

 

 

 

 片付けと洗濯も皆で行い、出かける準備をする。

 それぞれ涼しげだったり、動きやすそうな服装をしているが、1人行動予定の自分は装備を義務付けられた。

 

 といってもメッシュトップはインナーだし、オフホワイトのメッシュスカートの上には、いつもの黒っぽいコーディネートではなく淡い色でまとめている。

 サークレットも、フィンガーバングルもおしゃれ装備の範疇だしな。

 足元を綺麗にまとめるオストリッチパンプスも見目重視のものだし。

 

 タクトはアイテムボックスに収納し、腰にはボーナス武器・四のアローケンを下げている。

 パッと見でそのまんま魔法使いと見られて、フィジカルで狙われぬようにとの印象付けだ。

 

 実際は動きも素人なのでかえって危ないかもしれないが、盗賊を倒しに行くわけでもないので、誰かに近寄られる前にワープで逃げればよい。

 今回は特に、行き先を増やすだけで1つの場所に留まったりはしないしな。

 

 

 パーティーを解散し、探索者であるリカヴィオラに組み直してもらう。

 呪文を人数分唱えなくてはならないのは大変そうだと思っていたが、なんと近距離の一定範囲内なら詠唱後の対象者の指定でまとめて選択できるらしい。

 

 自分は思い浮かべるだけで発動できていたので、順に見つめながら発動していたから露呈していなかっただけなのだ。

 そりゃそうだよな、突入部隊で出発前と到着後で人数分のスキル詠唱をしていたのでは、移動前後の組み直しだけで喉が枯れてしまう。

 

 シャオクがリカヴィオラに、本来は探索者ギルドで習うのだと教えていたが、さりげなくこちらも見ていたような気がする。

 詠唱省略があったせいで、初期に指摘する機会がないままタイミングを逃してしまったからだろうか。

 自意識過剰か?

 

 リカヴィオラもどこかのタイミングで探索者ギルドの講習だけでも受けさせた方がいいのだろうか。

 そしてその内容を自分にも教えてくれないか。

  

 

 

 何はともあれ、今日は予定通りに進むといいな。

 人数分の食事代、図書館の入館料と預託金の他に、お小遣いとしてそれぞれの分の銀貨をまとめて、リカヴィオラとシャオクのアイテムボックスに預けた。

 

 家の壁に向かってワープを念じ、帝都の冒険者ギルドへと繋げる。

 4人を見送ってゲートを閉じた後、リカヴィオラからのパーティー脱退処理らしきアナウンスを脳内に受けた。

 どうやらしっかり頼んだ通りに進めてくれたらしい。

 

 

 次は自分の番だと気を引き締めて、アルヴナの冒険者ギルドを思い浮かべた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv38
魔法使いLv38/英雄Lv37/探索者Lv38/森林保護官Lv37/遊び人Lv32/細工師Lv26
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師1 薬草採取士30 賞金稼ぎ17 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人1 盗賊30)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv29

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv27

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv24

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv23


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次回は8/18更新の予定です。


何時にも増して確認時間がなかったので、今回は校正が酷いかもしれません。
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