部屋に戻って窓の外を見ると、薄暗かった夜は完全に明けて結構日が昇ってしまっている。
湯桶は下げられていたが、椅子にかけていた洗濯物はそのままだった。
チェックアウトの時間とかは大丈夫なのかとフロントへ向かうと、旅亭に見つかった。
「お、居たのか!
鍵を持っていなくなっちまったかと思ったぞ」
「すみません、野暮用でちょっと抜け出してしまって」
「失くさずに戻ってきたならいいけどよ。
朝食の時間は終わっちまったが、あんた食べてないなら弁当の余りなら20ナール追加で出してやるぞ」
時間潰しのつもりが魔物の部屋に巻き込まれましたなんて言えるわけがない。
食事は助かるけどしたたかだな。
済まないこちらも三割引きにさせてもらう。
「ありがとうございます、お願いします。
あとお湯ももらえますか?」
「よく見たら粉っぽいなあんた。
いいぜ、合わせて28ナールだ。
部屋で待っててくれ」
服のほつれは古着と判断されたのか言われなかったが、塩まみれは気づかれたようだ。
程なくしてパンと肉を包んだパピルスと湯桶が届いた。
顔を洗って身体の汚れを拭き取り、固く絞った手ぬぐいで髪もよく拭った。
ズタズタの服は買い直すことにして、別の服を着ることにする。
装備をつけ直し、落ち着いたところでジョブを確認した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv20
探索者Lv20/英雄Lv14/戦士Lv16/魔法使いLv12
魔法使いの上がり方を見ると、あの一部屋で相当量の魔物を倒していたらしい。
デュランダルを使っていたら経験値効率の関係でここまで伸びなかっただろう。
代わりにあそこまで危険にはならなかったとも思うが。
旅亭にお礼を言ってチェックアウトし、裏手の井戸に向かう。
周囲に誰も居ないことを確認してウォーターウォールを発動し、水筒を濯いで水を詰めた。
弁当を頬張りながら古着屋へ向かうと、途中で鐘の音が聞こえる。
これが昼の合図だろうか。
店員が例の目利きでも世話焼きおばさんでもないことを確認して、そそくさと上下一着ずつを購入した。
買った古着をリュックに詰め込むと、店の裏手から冒険者ギルドにワープする。
モンスターカード以外のドロップ品を売却したが、ちゃんとアイテムボックスに入れられたのはそこまで量もなかったので、大した金額にはならなかった。
その場でジョブを付け替えようと思ったが、考え直して今度は草原の大木にワープした。
ここなら誰にも見られない。
アイテムボックスに入れていた硬貨を巾着袋に一旦全て出し、何も入れていない状態にする。
これで探索者の付け替えができるようになった。
魔法使いを1stジョブにし、ボーナスポイントを振り直した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv12
魔法使いLv12/英雄Lv14/探索者Lv20/戦士Lv16
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
4thジョブ 7 武器・五 31
獲得経験値10倍 31 必要経験値1/10 31
MP回復速度2倍 3 知力 1
(残0/110pt)
これから自分は魔法使いミツキとして生きていくことにする。
今はフラガラッハを腰から下げているが、いずれは知力に補正のある武器を装備し、MP回復速度にボーナスポイントを回したほうがいいのだろうか。
まずはレイピアをワンドに替えたほうがいいのかな。
探索者のアイテムボックスには1列20個のアイテムが入るので、普段使わない金貨と銀貨を8割ほど収納する。
銅貨はボックスに入らないので、残りの硬貨は巾着袋で管理だ。
滋養丸と強壮丸もアイテムボックスにしまった。
この前行水した川辺まで歩いてくると、リュックから切り跡の残る古着を取り出して石の上に置いた。
せっかくだから魔法の試し打ちをまたやってみる。
少し離れて古着を見つめ、ファイヤーボールと念じると頭の上に小ぶりのスイカくらいの火球が出現する。
まっすぐに飛んでいき、そのまま炸裂した。
なかなかの威力だ。
火の粉が消えるのを確認すると、次はブリーズボールと念じる。
風の魔法はほとんど見えない状態で飛んでいき、残っていた古着の生地を風の刃が切り裂く。
風に弄ばれた古着の断片を一箇所に集め、今度はファイヤーウォールを発動した。
端切れを焼くのに無駄に2mくらいの高さまで燃えているが、目的は果たせたのでいいだろう。
最後に焼け跡にウォーターボールを放って完全に鎮火させ、これで処分と検証を終わりにする。
結構魔法を使ったが、まだ何度か撃てるくらいにはMPが残っていそうだ。
全体魔法は単体魔法よりもMPを使うらしいので、消費が違ってくるとは思うが。
商館のネジェロは昼過ぎには対応ができると言っていたし、そろそろ向かうとする。
大木に向かってワープを念じ、クラザの冒険者ギルドへ飛んだ。
***
冒険者ギルドを出て、奴隷商館へと向かう。
館主がいるということだし、見栄のためにポイントを調整してフラガラッハをデュランダルに替える。
昨日の話では、昼までには商談につれていくような人材が戻ってきているとのことだ。
入口に立っている門番が、昨日と同じ狼人族の男だったので声を掛ける。
「昨日、紹介状を持ってお世話になったミツキです」
「ああ、存じ上げております。
お通りください」
昨日の今日だから顔を覚えられていたようでスムーズな対応だ。
扉まで進むと、男がやっていた見様見真似でノッカーを打ち付ける。
間を置いて小窓が開くと、ネジェロが顔を覗かせる。
「昨日ご案内いただいたミツキです」
「これはこれはミツキ様、お待ちしておりました。
すぐにお開けいたします」
大分食い気味に来られたが、歓迎されているならいいか。
今のところはたいした良客ではないと思うが、紹介状に何が書かれていたのだろう。
「当主も戻っておりますので、ご案内いたします」
促されるまま後ろをついていくと、昨日と同じ応接室へと案内された。
ネジェロが扉をノックし、声を張る。
「お客様をお連れしました」
「ご苦労、今開ける」
扉の奥から低い声が聞こえた。
あれが当主だろうか。
ネジェロが廊下の脇に避けると、部屋の扉が内側から開かれる。
ドアハンドルを握っていたのは黒髪のメイドだった。
目が合い、凛とした顔でお辞儀をしてきたのでつられて会釈する。
その頭の上には耳があった。
正面奥には恰幅の良い狼人族の男が立っている。
「ようこそお越しくださいました。
当主のナルディロと申します。
先日はご挨拶できず申し訳ありません」
ナルディロ 狼人族 ♂ 52歳 奴隷商人Lv61
非戦闘職はレベルが上がりやすいとしても、非常に高い。
柔和な笑顔に見えるが、相当なやり手なんだろう。
「ミツキと申します。
カルメリガの商館からご紹介いただいて伺いました」
「ええ、存じております。
共に迷宮に入る奴隷を探しておられるとか。
まずはお掛けください」
ソファに座ると、先程のメイドがハーブティーを注いでくれた。
よく見ると、これまで出会ったことのない細長い耳がピンと立った獣人だ。
ツヤのある肩上までの黒髪に黒目がちな瞳でクール系な顔立ちなのにあどけない。
ナルディロが目配せすると、メイドがお辞儀をして退室した。
応接室には3人だけとなった。
「さて、ご契約されたい奴隷に希望される要件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ヒアリングか。
確かに向こうも条件に見合った人材を紹介しやすくなるよな。
「そうですね……。
まずは共に迷宮に潜る際に、前衛を任せられる者。
魔物を相手取り、攻撃を躱したり捌くのが得意な者が欲しいです」
「魔物を倒す……というわけではなく、抑えるだけでよろしいのですか?」
「えっと、倒すのは自分がしますので。
魔法使いなのです」
ナルディロが部屋の隅で待機していたネジェロに視線を送るが、必死に首を振っている。
すまん。
何も言ってないし、メインジョブにしたのはさっきなんだ。
「すみません、紹介状を頂いた後に適性があることがわかったのです。
確認していただいても構いません」
「な、なるほど。
それはおめでとうございます」
左腕を掲げようとするが、ナルディロが制して確認は不要だと言った。
契約する際にインテリジェンスカードは操作するし、偽る意味がないからだろう。
「話を戻しましょう。
まずは、とおっしゃっていましたが他にもご希望が?」
「山奥に住んでいたものでかなり常識に疎いので、身の回りの世話や代読、サインの代筆を頼める者も欲しいのです。
こちらは女性で」
「なるほど、そちらの条件でしたら当館ではブラヒム語を学ばせておりますので、ご覧になって気に入られた者と契約されるとよいでしょう」
それと、とナルディロが話を続ける。
「サインはブラヒム語でなくても大抵の契約書はドリード語でも問題ないのですよ」
「ドリード語?」
「発音が違ったでしょうか?
エルフ族の言語です」
あー、初期設定のアレ、エルフ語だったのか。
今後エルフにエルフ語で話しかけれられても、会話できるので不審に思われにくいのはありがたい。
「え、えーっと、ドリード語も会話は問題ないのですが、読み書きができないのです……」
「そ、そうでございましたか……」
絶句されたが、貴族ではないってことはこれで分かってくれただろう。
ニホン語とかいうひらがなとカタカナと漢字って3種類の文字がごちゃ混ぜの言語は書けるぞ!
「この辺りのことは内密に……」
「かしこまりました。
ここだけの話ということで」
ナルディロが立ち上がり、ネジェロを近くに呼んで耳打ちする。
ネジェロがこちらに頭を下げて部屋を出ていった。
「さて、戦闘奴隷を準備させているうちに、先にお付きの奴隷をご覧いただきましょう」
紹介状のおかげか、こちらでも当主自ら案内してくれるらしい。
昨日は2階だったが、今日は3階に向かう階段を登る。
やはり妾用奴隷のフロアなのだろうか。
広めの部屋に通されると、先行していたネジェロが奴隷を整列させていた。
ほとんどが狼人族と猫人族で、たまにエマーロ族、エルフも一人だけいた。
クラザは獣人が多いとは思っていたが、この商館は人間を扱っていないようだ。
当主や従業員からして、そういうコンセプトの商館なのだろう。
妾用奴隷は確かに今まで見かけた者よりかわいかったり、綺麗だったり、グラマラスだったりした。
それでも最初に見た黒髪メイドと比べると霞んでしまう。
当主のお付きが一番いいなんて、商売として失敗じゃないか?
ちなみに迷宮に入れるか質問したら、全員が全員にすごい顔をされてしまった。
次の部屋でも獣人を中心に紹介されたが、ピンとくる者はいなかった。
自分の反応があまり良くないと思ったのか、準備ができたとしてそのまま戦闘奴隷の部屋へ案内される。
階段を降り、前回も通された部屋に足を運ぶと、すでに奴隷が整列していた。
ロスパル 狼人族 ♂ 27歳 獣戦士Lv14
イムリック 狼人族 ♂ 29歳 探索者Lv16
レート 猫人族 ♂ 21歳 探索者Lv9
アーベル 狼人族 ♂ 23歳 戦士Lv10
ニーヴェラ 猫人族 ♀ 24歳 戦士Lv12
ビルギッタ 狼人族 ♀ 22歳 獣戦士Lv11
リビ 狼人族 ♀ 21歳 剣士Lv15
昨日より明らかにレベルが高い。
ネジェロがそれぞれの年齢とジョブをいうが、こちらはレベルも見えるのだ。
今まで見た奴隷と比べても皆体格がよく、強そうだ。
女性でも背が高く、中性的でかっこいい。
レベル高かった2、3人に質問したが、迷宮では匂いでの判別は難しいらしい。
近くの1匹ならまだしも、複数種類だと混ざってしまうそうだ。
考えてみたら出現する魔物だけでなく自分たちや他のパーティーのものなど、混ざってしまう要素はいくらでもある。
一通り見せてもらったが、戦闘要員一人を選ぶのは難しい。
顔で選ぶわけにもいかないし。
その場ではそれ以上質問もできずにナルディロと応接室に戻る。
ソファで悩んでいると、黒髪メイドが新しく容器をセットして飲み物を注いでくれた。
お辞儀をして下がり、そのまま部屋の隅に控える。
「いかがでしたか?
それぞれそれなりの実力を持った者たちだったと思いますが」
「いやぁ皆さん、熟練の方でなかなか悩ましくて……」
「綺麗どころの方はお気に召しませんでしたか?」
返答に困り、ハーブティーが注がれたカップを見つめてしまう。
「ふむ。
それでしたらあちらの娘では?」
ナルディロが下がっていたメイドを呼び寄せた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使い Lv12
魔法使いLv12/英雄Lv14/探索者Lv20/戦士Lv16
(村人5 剣士5 僧侶7 商人1)
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24/07/22
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