異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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143 賦活

「ふ~ん、じゃあそちらのミーラスカはこの前の不在期間に契約して、こちらの子は最近商館の紹介で所有したってことなの?」

「はい。

 ミラは共に迷宮に、リカは家事をして家を守っていてくれます」

 

 

 ミーラスカがきれいな動作で頭を垂れ、リカヴィオラはというとフェルスの横に立たされて手を握られている。

 

 

「それにしても遠目にはミツキにそっくりね!

 近くでよく見れば違いは分かるのだけれど、身長も……あら、ミツキが大きくなったと思ったら()()ね」

 

 

 視線を落とし、自分の履くオストリッチパンプスに焦点が向けられた。

 対してリカヴィオラは高さのない靴を履いているので、身長差にも気づいたらしい。

 

 

「ふふ、なぁに?

 ミツキもこの子のお姉様になりたかったのかしら?」

「ま、まぁそんなところです」

 

 

 目撃情報を誤魔化すため、なんて言えるわけがない。

 お気に入りで使っているオストリッチのバッグもあるんだとか、お姉様情報に追撃されながらも、なんとかやり過ごす。

 躱せているかは分からないが。

 

 

「そういえばドワーフの……ええと、シャオクかしら。

 あの子はいないようだけれど」

「シャオは……別の用事で出てもらっています」

 

 

 鍛冶師ギルドに所属した旨を伝えるか悩んだが、向こうで聞いている諸注意と齟齬があったら困るからな。

 どの道領主家の情報網にはすぐバレそうな気はするが、聞かれていないならこちらから詳しく伝える必要はないだろう。

 

 奴隷の名前もちゃんと名前を覚えてくれているんだな。

 だからこそ、排他主義のノルテクィでの扱いに心を痛めたに違いない。

 

 というかそろそろリカヴィオラの手を離しませんか?

 

 

「リカヴィオラ。

 あなた、家事に務めているそうだけれど、(わたくし)の……シームラウ家で何日か学んでみるのはどうかしら?」

「はひっ!?」

 

 

 こらこら、勝手に勧誘するなお姉様。

 

 

「ねぇ、お屋敷で学べばもっとミツキにしてあげられることが増えるわよ?

 時間があればお料理も、お洋服も……」

「フェルス様、ミツキ殿もその方も困ってらっしゃいますので……」

 

 

 騎士の人がなんとか止めようとしてくれている。

 伯爵にウチへの来訪に釘を刺されたから、そういう手でくるのか。

 

 リカヴィオラにとっては魅力的だよなぁ。

 商館で学んだことと違って、実際の伯爵家、それも領主の居城となれば普通は体験できないことだらけになる。

 

 

「た、大変ありがたき御提案でございますが、此方(こなた)と致しましては御主人様にお仕えしたく存じます故……」

 

 

 ちゃんと断れる、うちの子は偉いぞ。

 

 

「あら、そう。

 なかなか厳しいわね!」

 

 

 そう言いながらフェルスはやっと手を解き、リカヴィオラを撫でてから解放した。

 そしてそのまま今度はミーラスカへと近寄る。

 

 

「カルムから聞いているけど、あなたは牛人族だったわね」

「はい、仰る通りでございます」

 

 

「ドレス映えしそうな見事なスタイルよねぇ。

 どうかしら、一度(わたくし)の衣装部屋に───」

 

「フェルス様!

 伯爵様にお伝えしますよ」

「ぅんん……!

 機会があればね、そう、機会があれば歓迎するわ!

 それならば問題ないでしょう?」

 

 

 騎士さんの大きなため息が聞こえる。

 今日も今日とて平常運転の暴走令嬢様の手綱の扱いは難しそうだ。

 

 

「そうね!

 今度また一緒にお食事できるのだし、今日はこのくらいにしておきましょう。

 ね、ミツキ!」

「は、はい、フェルス様ありがとうございました」

 

「フェルス様……?」

「…………フェルスお姉様!」

 

「ふふ、よろしい!」

 

 

 フェルスが満足そうな笑みを浮かべたところで、隅に控えていた冒険者が騎士に合図する。

 それを見た料理人も席を立ち、フェルスの後ろへと回る。

 

 

「お時間ですので、ここまでとなります。

 ミツキ殿、お連れの方々、本日はありがとうございました。

 ミトラグ殿には先程お伝えしてあります」

 

 

 側仕えの女騎士が会食を締め、こちらも礼をすると冒険者から部屋を退出していった。

 

 料理人も退室し、あとはフェルスと騎士だけというところで、伯爵令嬢様が立ち止まる。

 

 

「……ミツキ、ちょっと」

「───ッ!」

 

 

 小さく手招きされ、アコルトもと言われたので2人で近づくと、フェルスにガバっと抱きしめられた。

 ふわっとよい香りがして、柔らかい感触が頬に当たる。

 

 

「迷宮通いは(わたくし)には止められないのだけれど、無理しちゃダメよ。

 アコルトも、ミツキのことを頼むわね」

「……心得ております」

 

 

 いつも快活で衝動的に見えるが、相手を思う気持ちも強いのがフェルス……お姉様なのだ。

 自分を心配してくれる人がここにもいてくれたことに感謝する。

 

 …………なんかすごく髪を触られていない?

 

 

「魔物と戦っている割には髪も肌も綺麗よね……。

 どんなケアを───」

「フェルス様!」

 

 

 すぐ意識が逸れる令嬢様を騎士が引き剥がし、手を取って退室を促した。

 普通、剝がされる側は逆だと思うんだが……。

 

 

「もう……またね、ミツキ!

 それにアコルトにミーラスカに、リカヴィオラ!

 次はシャオクも一緒に全員で来るのよ!」

「ミツキ殿、ありがとうございました!」

 

 

 騎士も負けじと声を張り上げて強制終了させ、嵐のような会食が幕を閉じた。

 見送りについては大人数では目立ちすぎるので、ミトラグたち宿の者以外控えるように言われていたので、自分たちは本当にこれで終わりだ。

 

 

 一気に疲れが押し寄せてくる。

 しばらく部屋で休んでいると、ミトラグが入ってきた。

 

 

「ミツキさん、フェルス様は帰られたよ。

 料理を召し上がっていた時より機嫌が良さそうだったけど、説明も上手くいったのかな?」

「ええ、まあ……。

 今度は自分が招かれて作ってみせることになりましたが」

 

「ええっ!?

 ご招待なんてすごいね、……あっ、前にも呼ばれたんだったね」

「手順や分量の説明なので、これ以上宿にご迷惑をかけることはないはずです!」

 

「ああ、そういうつもりじゃないよ。

 今日だってミツキさんの料理以外にも、フェルス様には従業員や宿自体についても称賛して頂けたしね。

 シェフの方が普段のうちの料理を食べたことがあったみたいで、そっちもだいぶ褒めてもらえたのも嬉しかったよ」

 

 

 それを聞いて安心する。

 墓穴を掘っただけなら自業自得だが、眠る人魚亭自体も正当に評価してもらえたのならありがたい。

 

 

 今回を無事乗り切ったことやシャオクの鍛冶師のお祝いについて、また相談する旨を話しつつ食堂へと戻る。

 従業員たちからも感謝を述べられ、今度は新しい料理でも考案して、こちらを(もてな)せるように頑張るのだと意気込みを伝えられた。

 

 自分たちのジョブレベル上げに余裕が出てきたら、パーティーだけ組んで何人か料理人取得まで持っていくのもアリかもしれないな。

 知り合いが料理上手だらけになるのはプラスでしかないのだし。

 

 

 だいぶ時間を持っていかれたが、そろそろシャオクは戻っているだろうか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 宿を出てみると、パーティーメンバーの縁取りは家の方にあった。

 鍛冶師ギルドからの帰りには、一応宿に寄ることもできたはずだが直接帰ったのだろうか。

 

 流石に従業員たちに見送られながらでは、商店街の方でも絨毯を使うのは厳しそうなので徒歩での帰宅だ。

 

 

 

 

「ただいま~」

「……おかえりなさーいっ!」

 

 

 玄関から入ると、気が抜けていたようなシャオクの言葉が返ってくる。

 テーブルの上にいくつかの冊子を広げて読むことに集中していたようだ。

 

 話を聞いてみると、宿の近くまでは来たが外で掃除していた従業員に「今、入るとややこしいことになる」と言われたので家に戻ってきたそうだ。

 間違いなく面倒なことになっていたので、よく分かっている。

 

 

「ギルドの説明は特に問題なかった?」

「はい。

 ノルマ等もありませんが、借金をしても基本的には自己救済となりますし、複数のギルド所属禁止は探索者ギルドと一緒でした。

 転職による罰則という書き方の規則ではなかったので、ミツキ様のするジョブ変更も問題ないと思います」

 

 

 あとは転属元に関してもギルドが管理する帳票にはフウルバリと書かれていることを確認させてもらえたので、事情を知らない他のギルド員が参照しても問題がないそうだ。

 

 アイテムボックスの中身を出してもらって、試しに探索者にジョブを変更してみる。

 こちらも騎士のジョブを付けて、シャオクのインテリジェンスカードを表示させてみたが、鑑定結果と同じくいつものジョブチェンジと変わりなかったので一安心だ。

 

 鍛冶師に変更し直して、アイテムを仕舞ってもらう。

 

 

 先程まで読んでいたのは、シームの鍛冶師ギルドの製造手帳らしい。

 どうやらギルドごとに書かれている内容に違いがあるらしく、片方にしか載っていない製造レシピもあるようなので、こちらでも購入したみたいだ。

 

 その土地や時期ごとに需要は変わるものだろうから、そうした内容にも頷ける。

 南方の方では、あの柳葉刀もきっと手帳に載っているんだろう。

 

 皮装備は結構製造してもらったが、それ以降は全然試していない。

 レシピが分かったとて、鉄や鋼鉄なんかをギルドで買い漁って作るのでは結構な出費になりそうだ。

 

 

 ドロップアイテムとしてはロートルトロールのボス、ロールトロールが鉄を落とすらしい。

 鋼鉄も稀に獲得できるそうなので、安くあげたいならなるべく低階層のボス周回だろう。

 ただその場合は自分のレベルキャップに引っかかって、結構なジョブ経験値が無駄になりそうでもある。

 

 まだ隻眼を目指せるレベルでもないし、差し迫ってもいないので後回しでいいか。

 シャオクに聞いても、装備の製造自体にはそこまで積極的ではない。

 

 育ての祖父がカード融合がメインだったこともあるが、スキルスロットの付与がランダムなのはミサンガで嫌というほど分かっているからだろうか。

 大量の素材を使って分の悪い賭けに挑むのは、堅実なシャオクじゃ気が進まないだろう。

 

 当然自分だって売り場に出ている良品を買う方がいいと思っているので、製造歴を埋めたいか、余程供給のない希少装備以外ではガチャみたいな作業はさせたくない。

 今回は製造レシピという手段を確保と、所属を明らかにして鍛冶師ジョブを公表可能にすることが目的だったので、どちらもクリアできているので問題ない。

 

 

 今後手帳を読み進めてもらい、有用そうな装備があったら教えてくれるようお願いして、次に今日の宿での一幕を説明した。

 

 ミトラグの宿が褒められたことにはシャオクも喜んで、またシームラウ家に招待されることには衝撃を受けていた。

 前回は自分だけだったが、次は奴隷含めて全員と言われてしまったからな。

 

 料理長っぽい人も一緒だったから大丈夫だと思うが、今更ながら結構大変な案件ではないか……?

 

 

 

 

「あっ、そういえばこちらが裏口の扉に挟んでありました!」

 

 

 そう言ってシャオクが差し出したのは、簡単な手紙状のメモだ。

 以前にも同様の形式で、カルムの伝言があったのが思い浮かぶ。

 

 アコルトにも確認してもらうと、やはり思った通りモンスターカードの落札の進捗の連絡だった。

 自分が今日フェルスに会ったのはイレギュラーであったし、前回の依頼から5日ほど経っているのでタイミングとしてもおかしくはない。

 

 内容については依頼分の半数ほどが入手できたことと、前々回からお願いしているスライムと鯉のカードの入手の遅れについてであった。

 そちらのカードはもともと出品が少ない傾向だとは聞いていたし、今のメンバー分にはアコルトの魔法耐性以外は付与済みなので、とりあえずはいいだろう。

 

 もちろん手に入るに越したことはないが、出てこないのではどうしようもない。

 やはり、依頼先の仲買人を増やすのが手っ取り早いんだろうか。

 

 モンスターカードについてが明日にでもルテドーナの商人ギルドに行くとして、南方の探索も広げていった方がいいかなぁ。

 ワープで移動可能になった土地へ、皆を連れていくことから始めるか。

 まぁそちらは追々だ。

 

 

 

 夕食の支度を進め、パンケーキも作る。

 作り方自体は簡単なので、1枚ずつ交代で焼かせてみたが結構うまくいった。

 

 ジョブによる器用の補正は皆にも影響していると思うが、やはりメインジョブ料理人は迷宮食材のブーストのような、何かしらの効果が出ているように思える。

 混ぜたことによる空気の含み方や焼き加減など、手順が少なくても細部で上手くいくような見極めがなされているような気がする。

 

 というわけで自分が作った分は、本日の主役たるシャオクの皿へと盛り付けられた。

 昼は宿での食事だったので、夕食はいつもどおりでいいと大した希望も出さなかった分、食べてもらおう。

 また後日ヤトロクたちと祝いの席を設けることだしな。

 

 バターも蜂蜜もたっぷりとかかったパンケーキはいつ食べても美味しい。

 今回はソース作りは面倒だったので、果物はワインと砂糖でコンポートにして添える形だ。

 

 自分はホイップクリームに思いを馳せながら、今後は小さなお祝いごとに作ってもいいなと考えつつ、皆の笑顔を眺めた。

 

 

 だいぶ満足してくれたようなので、次は片付けと入浴か。

 ジョブを魔法使い主体の給湯モードへとボーナスポイントを変更し、今日も今日とてボイラー係に身を投じる。

 

 時間差で入浴を開始し、それぞれ髪や体を洗う。

 湯に浸かりながら石鹸をそろそろ再作成しなくてはいけないのを思い出した。

 オリーブオイルやらも集めておかないとな。

 レベル上げではなく、食材も含めての収集日を作った方がよさそうだ。

 

 リカヴィオラに改めて石鹸を見てもらいながら、そこに混ざっている乾燥果皮を確認してもらい、空き時間に雑貨屋でポプリを買ってきてもらうようにお願いする。

 すると、帝都の雑貨屋に香り付けのオイルがあったらしいとの声が上がる。

 

 ポプリの中からわざわざ果皮だけを選ばずとも、香料として作られたものなら匂いも混ざりにくいし石鹸作りにもよさそうだ。

 瓶詰めで若干高いらしいが、必要経費だろう。

 

 

 明日の予定を話しつつ、十分に温まったので片付けてお風呂を上がって寝室へと移動した。

 

 お姉様に会うと体力を持っていかれる気がする。

 代わりにあちらは元気になって帰っていくので、ドレイン的な魔性の力でもあるのではないだろうか。

 

 失礼なことを考えているうちに意識はベッドに溶けていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌朝、パンを齧りながら行動予定を整理する。

 

 今日はレベル上げではなく、食材やその他のアイテムの補充をメインにしよう。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv38

魔法使いLv38/英雄Lv37/探索者Lv38/森林保護官Lv37/遊び人Lv32/賞金稼ぎLv17

 キャラクター再設定  1 鑑定           1

 ワープ        1 詠唱省略         3

 6thジョブ     31 獲得経験値20倍    63

 結晶化促進8倍    3 MP回復速度10倍   31

 パーティー項目解放  1 パーティライゼーション  1

                      (残0/136pt)

 

 

 レベルアップはほとんど見込めない下層へ向かうのだし、レベルの低いジョブをセットしたい。

 だが、英雄も森林保護官も外せば火力が激減するし、知力上昇と連続魔法の遊び人はさらに外せない。

 となると育成枠は1枠しかない。

 

 自身のレベルアップは諦めて、アコルトたちの方に加算されるべきとして獲得経験値だけ残してMP回復速度を上げておいた。

 昼まではこれでオリーブオイルやコボルトソルト、ペッパー等を回収していこうか。

 

 

 諸々の準備を終えた後、リカヴィオラに留守をお願いして、シームの迷宮5階層へとワープした。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv38
魔法使いLv38/英雄Lv37/探索者Lv38/森林保護官Lv37/遊び人Lv32/賞金稼ぎLv17
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師1 細工師26 薬草採取士30 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人8 盗賊30)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv29

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv27

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv24

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv23


---
次回は9/4更新の予定です。

※投稿予定日を間違えていましたので変更しました。 9/3→9/4


25/9/1 12:25
活動報告 011 更新
地味~な内容なのであしからず。

25/9/1 18:00
活動報告 011 一部内容変更いたしました。
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