異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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 シームの迷宮5階層のメインの魔物は、ナイーブオリーブである。

 

 そのドロップアイテムであるオリーブオイル集めが目的なのではあるが、流石にこの階層では他の魔物も等倍の全体魔法ですら1撃であった。

 ジョブレベルもそうだが、白銀・聖銀製の火力マシマシ装備でこんな下層にやってくる方がおかしいだろう。

 

 見つけ次第ファイヤーストームをお見舞いして煙に変え、アイテムを拾っている間にアコルトに索敵をしてもらう。

 次の群れに遭遇する頃にはクールタイムも終えているので、遊び人に設定した魔法が余っている状況だ。

 

 かといって料理人の『レア食材ドロップ率アップ』を付けたところで対象はいないし、被弾もしないのでメッキやらも意味がない。

 魔法の使用量的に、速度上昇したMPの自然回復の方が早そうだ。

 

 副産物はブランチとコーラルゼラチンであるが、他の迷宮も似たようなものだったり、毒針等のさらに安いアイテムなのでわざわざ移る必要はないだろう。

 鍛冶素材に残して置ける分、こちらがいいまである。

 

 

 1戦のスピードが早すぎるので、他のパーティーと接触しないようにルート取りをしてもらう方が大変であった。

 兎人族の索敵範囲の差があるので、一般的なパーティーの戦闘中の魔物をこちらが横取りすることはないが、自分たちが通った後は再びリポップするまで魔物がいないので、向かってこられることもある。

 

 その場合はアコルトが上手に撒いてくれていた。

 あえて近場の群れを迂回して逃れたりと、森での狩りで獣を誘導するのに似ているらしい。

 

 おそらく戦闘メンバーの3人もレベルキャップに引っかかっているだろうと考えて、途中でジョブを探索者へと変更した。

 アイテムの回収も楽になるし、大盾も仕舞ってもらって移動もスムーズになる。

 

 単調な作業ではあるが、獲得した分だけ次回の収集までの期間が延びるので、昼に近づく頃まで頑張ることにした。

 

 鐘の時間までもう少しというくらいで、1階層へとダンジョンウォークで移動し、今度はグリーンキャタピラーを屠っていく。

 将来的にまた作ることになる身代わりのミサンガのためにも、石鹸作りのついでの蝋燭作成の材料のためにも糸が必要だ。

 

 シャオクのアイテムボックスに2列分ほど回収したところで、昼食前の迷宮を終えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「それでは、お送りした伝令代を含めまして5万3700ナールの合計となります」

 

 

 ルテドーナの冒険者ギルドにワープして不要なドロップアイテムを売却してから、商人ギルドへとやってきた。

 カルムを呼び出して、落札してもらったモンスターカードの代金を払う。

 伝令の手紙を送った後も出品のチェックを続けてくれていたようなので、追加で鯉のカードを落札できたようだ。

 

 残る依頼分はスライムに鯉に潅木のカードが1枚ずつと、コボルトのカードが2枚。

 今回だって9枚も取引してくれたわけだから、単純に頼み過ぎである。

 

 一先ずこれでアコルトの防具にも魔法防御が付けられる分は手に入れたので、残りは次のメンバーが増えるまでに揃えばいい。

 そっちこそ、いつになることやら。

 

 薬草のカードは薬の回復量の検証に自分の装備に使うとして、問題は魚のモンスターカードだ。

 『付与強化』と『耐性強化』というダブルスキル前提の特殊なカードの運用は、効果の度合いに検証が必要になる。

 そのせいで鯉のカードの『魔法防御』が、シャオクの防具に付けられずにいるからなぁ。

 

 とりあえずはシャオクの槍に魚のカードを融合して、付与に関する効果の具合を見ていくか。

 この場で考えすぎてもよくないので、先に取引は終えよう。

 

 

「残りのカードはすべて揃ってからのご連絡でお願いできますか?」

「かしこまりました。

 スライムや鯉のカードにはやはりお時間を頂くことになると思いますので、ご変更があれば申し付けください。

 ……話は変わりますが」

 

 

 ハーブティーを一口飲んで、取引用のいつもの澄まし顔から柔和な笑顔に変わる。

 

 

「昨日はフェルス様とお会いされたそうで、大変喜ばれていたとお聞きしました」

 

 

 情報が早い。

 

 

「今後のご予定もお約束されたそうで、私の下になにやらミツキ殿の手料理を頂いたのだとの手紙も回って参りました」

 

 

 違うなこれ。

 カルムが情報を集めたんじゃなくて、フェルスが自慢しただけな気がする。

 

 取引依頼の関係でほぼ定期的に会っているカルムと違って、久しぶりに会ったお姉様がその出来事を事細かに手紙に(したた)めたのだろう。

 それでもカルムは嫌味な感じではなく嬉しそうな様子で語っているのだから、仲は良好なようで結構なことである。

 ただそのフェルスの反応の逐一を、内容の当人に聞かせるのはどうなんだ。

 

 惚気も程々にしてくれと思いながらのらりくらりと返答していると、昼の鐘が聞こえたので退散することにした。

 

 

 

 

 シームの自宅に戻り、リカヴィオラにオリーブオイルを渡していく。

 開いてもらったアイテムボックスに、こちらもアイテムボックスからポロポロと預け入れるわけだが、最終的に探索者Lv23である彼女のボックスに、既存分と合わせて9列以上にオイル玉が入ったことになった。

 

 1食の調理で数個程度の消費なのでしばらくは持つと思うが、揚げ物や石鹸作りでどれくらい消えるだろうか。

 ドレッシングとかを作れば、消費はもっと増えるか。

 自分がしていない料理の材料には無頓着すぎるので、減ってきたら伝えてもらおう。

 

 若干遅くなった関係でリカヴィオラがある程度昼食作りを進めていてくれたので、それを仕上げて食事をとった。

 メインになる迷宮産の魚も肉も回収できていないので、それは午後からだな。

 

 

 食器の片付けをお願いして、その間にシャオクにモンスターカード融合をお願いする。

 

 

連綿のフィンガーバングル(持続増強 回復増強 ○)

強縮のダマスカススピア(麻痺添加 石化添加 詠唱中断 付与増強)

 

 

 自分の手装備に薬草のカードの『回復増強』を、シャオクの槍には思い切って3つのスキルを追加した。

 

 すべてにコボルトも追加で使用したので、4枚も消費してしまった。

 効果のほどはまだ分からないが、コボルトのカードは何枚あっても足りない。

 

 またもや4種スキルの装備を作ってしまったわけだが、そろそろ慣れて……こないか。

 素数を数える代わりに、製造手帳を流し見て気を紛らわしているシャオクの頭を撫でて労った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 昼食後は同じ編成のまま、今度はクラザの迷宮へと向かう。

 

 2階層のボスがスパイススパイダー、3階層がコボルトでそのボスがコボルトケンプファー。

 超低階層で胡椒に塩に砂糖が手に入るという素晴らしい迷宮だ。

 

 普通のパーティーにとっては毒持ちであったり、いずれもドロップ品が安かったりと不人気ではあるが、自分にとっては蒸発するように瞬時に狩れるのでストックを集めやすくて嬉しい。

 34階層以上になるまでは、お供は増えようともボスは1体出現なので、弱ければ弱いほど狩りやすい。

 単調過ぎて飽きるというのもあるが。

 

 

 そのうち、よくない癖というか遊びが入ってきて、セットしている賞金稼ぎのジョブの、生死不問のスキルを試してみたりなんかもした。

 一撃で相手を倒すことがあるというスキルらしいが、作中では賞金稼ぎのジョブがLv30を超えてもなかなか成功せず、さらにレベルを上げた上で数十回試してやっと成功したとあった。

 

 確かに頭の中で生死不問とひたすら念じていると、MPが消費されていく感覚はあったので、発動自体はしているということは分かる。

 

 きっと、ジョブレベルがそのまま成功率のパーセントになるなんて緩い設定ではなかろう。

 相手のレベルとの比較や、なんやかんやの計算があって、そのくらいのレベルでやっと実用足りうるくらいなのだ。

 

 

 …………と、思っていたのだが。

 2階層のボス周回の道中で遭遇した、ニードルウッド相手に成功してしまった。

 

 ファイヤーストームの炎のエフェクトが出るより早く、隣にいた同じ群れのスパイスパイダーを残して、低木が一足先に煙になったのである。

 すぐに蜘蛛の方も火に包まれてから同じく煙へと変わったのだが、タイミングのズレ方は明らかであった。

 

 前にいたアコルトが振り返り、隣にいたシャオクがこちらを見つめ、後ろのミーラスカからも視線を感じる。

 まーた黙って何かやっていたな、とでも言うような眼差しに冷汗が伝う。

 

 や、やだなぁ皆、そんなに熱心に見つめちゃって……。

 

 

 

 白状した。

 

 賞金稼ぎというジョブの、低確率で敵を一撃で倒す、『生死不問』というスキルをこっそり使っていたのだと。

 

 以前図書館で、ジョブについて調べていたミーラスカも、確かにそれらしい記述を見かけたと口にする。

 一般の賞金稼ぎジョブの者は詠唱があるのでここまで連発できず、自身のジョブレベルも分からないので、相当な鍛錬を積んでから極々低確率で下級の魔物を倒すのが精いっぱいだろう。

 

 戦士のジョブ効果からHPも体力も補正がなくなってラッシュの攻撃スキルも使えなくなり、器用と僅かばかりのMPと腕力への補正と生死不問のスキルというのは、()()()()からすると弱体化にも思える。

 それでも、見えないからこそ()のような扱いがあるんだろう。

 

 戦士の鍛錬を積んで、盗賊を倒して賞金を得た者だけがなれる、インテリジェンスカードにも記載される賞金稼ぎという名のジョブ。

 確かに名前はカッコいい。

 

 まぁ自分には関係ない。

 なぜなら───

 

 

博徒

 効果 知力小上昇 器用小上昇

 スキル 状態異常耐性ダウン クリティカル発生 

 

 

 目的のジョブを手に入れたからだ。

 

 賞金稼ぎはまだLv19だったので、取得要件は盗賊Lv30と生死不問の成功だったらしい。

 スキルは強いが、ジョブ2つ分のLv30には見合わなそうなジョブ効果の補正だものな。

 小上昇2つは戦士の派生の暗殺者と同じであるし。

 

 同じステータスで同じ補正量の細工師というイレギュラーなジョブもあるが、あちらは今一つわからない。

 村人Lv5と金属加工では緩すぎる気もするし、錬金術師取得後が条件とかの可能性もある。

 鏡の職人なら、銀メッキみたいなことをしたり、この世界ならではの何か処理をして、取得だけは済ませていそうな気もする。

 

 いつの間にか取得していたジョブについては後から考えてもその条件を特定するのは難しいし、そもそも自分以外にパラレルジョブを設定できる者がいないので把握の必要性もほぼない。

 よほど沢山の仲間を抱えて、誰かを遊び人のジョブに就けたいなら細かく精査するべきだろうが、パラレルジョブ持ちで必要経験値減少があった自分でも取得にこれだけ時間がかかったのだ。

 

 様々なジョブを使い分けたいなら、自分が都度変更してやれば事足りる。

 遊び人自身が行えるスキル設定だって、1時間程度のクールタイムがあるわけだしな。

 

 

 あまり否定方面のことばかり考えていても身にならない。 

 6thジョブを賞金稼ぎから博徒に付け替え、調味料の回収を進めた。

 

 

 

 

 コボルトソルトやペッパーに関しては料理1回でドロップアイテム1つ分使い切るような使用量ではないため、1列分も集められば十分すぎるくらいだ。

 ペッパーに至っては10粒単位で手に入るしな。

 

 となれば、早々に切り上げて食材の回収へと赴くべきである。

 

 とは言いつつも、未だにピッグホッグの階層には出向けていない。

 聞く限り弱点属性が共通しているのは、まだ踏み入れてない階層ばかりになるからだ。

 

 

 魔物の出ない小部屋に移動し、それぞれが集めてくれたアイテムを回収する。

 ついでにジョブも探索者軍団からいつもの戦闘仕様に戻し、ボーナスポイントも経験値仕様に設定した。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv38

魔法使いLv38/英雄Lv37/探索者Lv38/森林保護官Lv37/遊び人Lv32/博徒Lv7

 キャラクター再設定   1 鑑定          1

 ワープ         1 詠唱省略        3

 6thジョブ      31 獲得経験値20倍   63

 必要経験値1/10  31 MP回復速度2倍    3

 パーティー項目解放   1 パーティライゼーション 1

                      (残0/136pt)

 

 

 15階層でレベルキャップはLv37だったので、これから向かう16階層ではおそらくLv38までは上がるだろう。

 魔法使いと探索者の分の経験値は勿体ないが、1属性で全ての魔物の弱点を突きつつ、他4ジョブのレベルが上げられて食材も確保できるなら軍配が上がる。

 

 それにレベルキャップといっても、次のレベルギリギリまでは経験値が入るようなので今後のためにもなる。

 流石にオーバーフローみたいなストックのされ方はしないだろうが、完全に無駄にはならなそうに思えた。

 

 

 

 ワープでカルメリガの16階層の入口小部屋へと移動する。

 装備を整えたタイミングで大盾を出したままゲートをくぐったので、減ったMPの回復に強壮丸を1粒飲んだところで気付いた。

 

 念の為に用意したもう1粒を飲まずとも、いつもよりも戻った感覚が大きい。

 お風呂の給湯の時に再度検証はするが、これが強壮剤なら相対的に回復量も増えるんじゃないだろうか。

 

 毎日汗だくのあの作業は、MP管理の塩梅を押さえるのに実は役立っていたのだ。

 

 

 回復薬の使用数も抑えられるなら階層を上っていくのにも貢献しそうだとニヤけたところをアコルトに見られてしまったが、微かに頷かれて目を逸らされた。

 怪しい主人でごめんなさい。

 

 無駄に溜まった何かを発散すべく、いや、食料を確保すべく索敵を開始してもらった。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv38
魔法使いLv38/英雄Lv37/探索者Lv38/森林保護官Lv37/遊び人Lv32/博徒Lv7
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師1 細工師26 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人8 盗賊30)
  連綿のフィンガーバングル(持続増強 ○ ○) → 連綿のフィンガーバングル(持続増強 回復増強 ○)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv29(探索者Lv10)

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv27(探索者Lv12)
  強縮のダマスカススピア(麻痺添加 ○ ○ ○) → 強縮のダマスカススピア(麻痺添加 石化添加 詠唱中断 付与増強)

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv24(探索者Lv11)

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv23


所持モンスターカード
・壷式食虫植物    1
・鯉       1→2
・竜         1
・大木        1
・コボルト  2→5→1
・ウサギ   0→1→0
・珊瑚    0→1→0
・薬草    0→1→0
・魚     0→2→1

---
次回は9/8更新の予定です。


25/09/08 01:40追記
執筆内容の調整に時間がかかっておりまして、投稿予定時刻に間に合いません。
申し訳ありませんが、1回分更新を遅らせて頂きたく思います。

9/11更新の予定とさせて頂いて、その後は都合が付けば順次対応とさせていただきます。
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