異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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145 黒鮪

 遊び人のスキル設定を土魔法に変更して、アイテムボックスの強壮剤の個数を数えているうちに、魔物の音が聞き取れたとアコルトから報告が入る。

 

 カルメリガの迷宮16階層の魔物は、足付き魚ことマーブリームだ。

 足払いが有効そうなフォルムが目に入り次第、発動したサンドストームの2連発がその身を包む。

 

 纏わりつく砂を嫌がるようにヒレと尾を動かし、こちらに近づくよりも振り払うことを優先したようだが、それが奴らの運の尽きだ。

 いや、あの脚力では近づく前にどの道2ターン目の魔法を食らっていたか。

 3体の魚人たちは仲良く煙となって、その足があった場所にはアイテムが残された。

 

 ドロップ品である白身をアイテムボックスへ回収し、次の群れを探してもらう。

 次の魔物も白身(マーブリーム)(クラムシェル)か、それともハズレ(ハットバット)か。

 

 クラムシェルは体当たりが届く距離まで近づかれることは少なく、飛ばしてくる水球をミーラスカの大盾でやり過ごせばいいので、問題はハットバットの突進である。

 2ターン目の魔法を発動する前に、急旋回で大盾を回り込んでくることがあるが、そこをよく見ているのがシャオクだ。

 

 鋼鉄の盾を掲げつつ敵の進路を狭めたところに、ダマスカススピアを伸ばして叩き落としている。

 刺すのではなく当てに行くという感じであるが、ダマスカス鋼製の強度とシャオクの膂力で弾き飛ばされたり、掠るように芯を外されても麻痺や石化で飛べなくなって落下することもあった。

 

 今回カードを強化する前にも『麻痺添加』のスキルは付いていたわけだが、そこに『石化添加』と『付与増強』が加わったのはどうだろうか。

 今日の帰りくらいまでの発動具合の体感を、気にしておいてもらうように声をかけ、新たな群れへと足を進めた。

 

 

 

 夕方の鐘の時間近くまで狩り続ける。

 

 

「───やっぱり、確率あがったよね?」

「はい、おそらくは」

 

 

 戦闘回数を増やしたことでわかったのは、『付与増強』はやはり状態異常の付与確率も上げてくれているらしいということだ。

 シャオクの体感では、これまでの3割増し程度にはなっている気がするとのことである。

 鞭を使っているアコルトと比べれば試行回数は少ないのは当然だが、それでも自分が見ていたって「今のはシャオクが麻痺させた」と数えられる回数は多かった。

 

 

「それに、麻痺の時間も長くなっているように思われます」

 

 

 こちらはアコルトの意見だ。

 痺れて行動不能になった直後には2ターン目の魔法が発動できているので確認できる時間はあまりないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 

 狩人のジョブスキルの『状態異常確率小アップ』は、名の通り確率を上げるスキルのはずだ。

 対して、ダマスカススピアに付与されているのは『付与()()』のスキルである。

 

 確率だけでなく、効果時間についても強化されているという見解でいいんだろうか。

 ならばやはりこれは、狩人や暗殺者のスキルとは別枠の判定になりそうとも考えられる。

 

 ここまでくると、ジョブによって確率が強化されたアコルトに槍を使ってもらうことでさらに強力な効果を……といきたいところなんだが、肝心のアコルトさんは試しに持った槍の穂先を床に、壁に、足元にぶつけて唸っている。

 忘れていたよ、それ。

 

 運ぶだけならここまで酷くはないが、武器として振るうとまるで()()()()()()()()()()()()()()、そんな有り様だ。

 本人は真剣なはずなのだが、アコルトが味方を突き刺す前に槍をシャオクに戻させる。

 

 

 この世界がゲーム染みているというのなら、ドワーフや竜人族、それにミーラスカの牛人族が大盾を扱え、それ以外の種族が持ち上げられないのも、重さの問題だけでなくそういう面も考えなくてはならないのかもしれない。

 

 同じ兎人族でも、祖父や父は弓の他に剣を扱えていたそうだし、個人差もあるんだろうか。

 鞭の扱いはサラトタの家族にも相当褒められていたから、まるで代わりにそちらに素養が持っていかれたようにも思える。

 ボーナスポイントの割り振りのような、適性が特化型になってしまう者もいるってことなのかもしれない。

 

 ジョブスキルと装備スキルの効果に関しては、自分の暗殺者のレベルを上げてから再検証する形にしようか。

 重複の具合によっては、アコルトの将来のジョブについても考えを改める必要が出てくる。

 

 それでも、武器自体のスキルで付与率も強化できているなら、前衛を暗殺者に確定しなくてもよくなったのは朗報だ。

 

 

 もう一つ、狩り続けて分かったことがある。

 

 

尾頭付き

 

 

 終盤に取得アイテムに1つだけ混じっていた、白身のように可食部だけではない1匹丸ごとの魚だ。

 そう、『レア食材ドロップ率アップ』のスキルのある料理人ジョブの付け忘れである。

 

 編成を変えずに博徒のレベルは上がったものの、せっかくレベルキャップ階層に潜ってまで食材を集めていたんだから、セットしておくべきは料理人のジョブの方だった。

 こちらは数もないしドロップ頻度もどの程度か分からないので、ミトラグたちを交えた祝いの席まで取っておこうか。

 アイテムボックスに入れておけば、腐ったりしないのがドロップアイテムのいいところだ。

 

 絶品らしい味をしばらく味わえないことに落胆しながらも、迷宮での戦闘は終えて帰路についた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 自宅に戻ってきて夕食の手伝いをしつつ、食材をリカヴィオラに預けていく。

 白身に蛤……と渡し終えたところで、16階層のボス部屋に行っていないことに気付いた。

 

 マーブリームの階層のボスは、ブラックダイヤツナのはずだ。

 赤身を落とし、脂ののったトロもレアドロップとして獲得できるそうだが、すっかり頭から抜けていた。

 

 アイテム数の確保という点では道中の狩りの方が捗るが、ボス周回なら歩き回らずに済むし、戦闘のタイミングだって調整できて休憩もしやすい。

 代わりに他のパーティーとの遭遇率が一気に上がるので、今日のところは白身の数の確保がメインで、赤身は後回しだったと考えよう。

 

 

 大量に食材を確保できたということもあって、今日は白身を主役の料理にさせてもらう。

 ハーブとバターたっぷりのムニエルに、甘じょっぱい味付けに仕上げた煮魚が食卓に並んだ。

 リカヴィオラに工程を見せ、今後は作ってもらうという意味もあった。

 

 出来上がった料理を頬張った皆の表情が綻んでいく様子に満足しつつ、予定の整理だ。

 

 

 フェルスお姉様からのお誘いの連絡は、流石にまだ来ていない。

 シェフらの日程の調整もあるだろうし、部外者を居城に入れる態勢を準備するには、簡単には候補日も提示できないはずだ。

 

 明日は赤身とトロを狙いつつある程度16階層のボス周回、その後はピッグホッグを目指すべくルテドーナの迷宮の踏破階層を上げていくことにしよう。

 

 食事の後は石鹸作りをしようかと思ったが、香り付きのオイルの購入がまだだったので、それも明日だな。

 日中迷宮にいっている間に、リカヴィオラに石鹸用の木枠を木工品の店に頼みに行ってもらおうか。

 前回使った物が納屋にあるから、それも閉じ直してもらって、見本にすればいいだろう。

 

 明日の夕方までに回数を分けて、シャオクにミサンガを製造してもらうことにした。

 蝋燭にも使うので、スロットなしでも役に立つのだと伝えるとアイテムボックスの糸を数えて元気に返事をしてくれた。

 

 

 お風呂で汗を流し、ついでに木枠も洗って、風通しのいい場所に広げておく。

 

 料理もそうだが、工作にワクワクするのは、自分にまだ男性的感情が残っているからということにしておきたい。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日は手筈通り、昼前は赤身狩りを主体としていくことにする。

 忘れずに博徒を料理人に付け替えてから、装備を身に着けて身支度をした。

 

 リカヴィオラには昼前までに洗濯やらの家事をしてもらって、昼食後に買い物や木工店への依頼をお願いしよう。

 

 

 昨日の続きでカルメリガの16階層途中の小部屋にワープし、そこから魔物を倒しながらボス部屋を目指す。

 これまでのルート取りの関係で、待機部屋までの道程は大まかに把握していたので、進行はかなりスムーズだ。

 

 その甲斐あってまだ早い時間でたどり着いたボス前の待機には、誰もおらず扉も開いている。

 念の為アコルトに先行してもらったが、落とし物や戦闘の形跡は見当たらなかったようだ。

 

 確認も終えたので、ミーラスカを先頭にボス部屋へと侵入した。

 煙が地面から浮いて大きく集まり、そこから収縮して黒光りする鱗が見える。

 

 

ブラックダイヤツナ Lv16

マーブリーム Lv16

 

 

 イメージ通りの黒い姿の立派なマグロが空中に浮かんでいる。

 添え物のように隣に現れたマーブリームには足が生えているので、こちらはパチモノ感がすごい。

 

 蝙蝠や蛾のように羽ばたかずに、水中を泳ぐように浮いているのはファンタジー感が強いが、見た目が完全にマグロなのでCGのようにも思えてきた。

 

 サンドストームを2連続で念じると、2体の周りに砂が漂い、背に腹にヒレに絡みつく。

 振り払うかのように身を捩ったブラックダイヤツナが、勢いよく動き出す。

 

 

 初速から結構な速さで一直線に飛んできて、ミーラスカの大盾に突き刺さるように直撃した。

 金属にそれなりの質量がぶつかる鈍い音がして、ブラックダイヤツナは頭を脇にそらして円を描くように移動を再開する。

 

 衝撃自体はボスには影響がほとんどないようだ。

 もっと力を込めてこちらからもぶつけにいったら、目を回したりしないかな。

 

 とてもじゃないが、自分ならオーバーホエルミングなしに避けられそうもない。

 あれではアコルトの鞭も牽制を入れたところで止まりそうにないな。

 

 お供のマーブリームはエラに付いた砂を掻き出すのにご執心で、あちらはもう無視でいいだろう。

 どうせ次の魔法で終わるしな。

 

 全体魔法は発動が決まれば必中なのが心強い。

 ボスが旋回を終えてまたこちらを正面に見据え、真っ直ぐに向かってくる。

 

 こちらも即座にミーラスカが構えた盾の後ろに移動したところで、ブラックダイヤツナが急に直進を停止し、角度を変えてやや前に出ていたアコルトに向けて再度突進した。

 

 察知していたアコルトは腕を伸ばして鞭を振るい、床に突き立てられた大盾の根本に巻き付かせてぐっと身を寄せるように床を蹴る。

 1メートルを超える魚体がさっきまでアコルトがいた場所を通過していった。

 文中にあった通りにフェイントを使ってくるというのも、本当らしい。

 

 うちのアコさん、アクロバティック。

 距離があったとはいえ、兎人族の身軽さと軽量で揃えた装備のお陰でなんとかなっているが、作中ではさらに近距離で身体能力だけで避けきるのだからあれは別格で参考にはできないだろう。

 

 

 2ターン目の土魔法を発動すると、マーブリームが煙に変わった。

 ブラックダイヤツナは、砂などまるで気にしないとでもいうように空中を回遊している。

 

 またも突進して大盾に衝突したタイミングで左右から鞭と槍が伸び、鱗を叩き、身を突いたところで、ゴトリと音がしてブラックダイヤツナが落下した。

 石化だ。

 

 あっけないものであるが、ボスには状態異常は効きにくいらしいから、運が良かっただけだろう。

 これまでのボスにも、道中の魔物ほど効きやすかった覚えはないし。

 

 石化したことで魔法の威力が高まるので、サンドウォールを重ね掛けして継続ダメージを与えていく。

 動かなければ壁魔法は効果時間いっぱいまで累積するので、トータルでは1発が全体魔法よりダメージが見込めるのだ。

 

 デュランダルを出してMPを回復するという手もあるが、メインジョブの魔法使いによる身体補正と、そもそもの自分の腕力が低いのか物理攻撃力は伸びにくいようで沢山斬りつけなくてはいけないし、そもそもジョブを入れ替えるのはさらに面倒だ。

 

 薬草のカードの『回復増強』によって強壮剤のMP回復量が上がっているので、薬の消費量も前ほど気になるわけでもない。

 

 何度目かの砂の壁が崩れると、硬直したマグロが煙を経て瑞々しい赤色へと変わる。

 

 

赤身

 

 

 やはり白身と同じく可食部の切り身の塊だ。

 調理しやすいからいいけれども、肉の量といい、迷宮が業務用のスーパーに思えてくるな。

 

 アイテムボックスに収納しつつ、皆に戦闘の感触を聞いてみたが、問題なく周回はできそうだと返ってきた。

 お供は早々に倒れるし、1体だけになってしまえば動き回るブラックダイヤツナも対処はしやすい。

 

 懸念は自分の回避力くらいだが、オーバーホエルミングもあるし、そもそも装備品が充実しているのでこの階層で一発受けるくらいでは致命傷には至らない。

 麻痺・石化要員が2人になったことで、敵を拘束する可能性も上がっているしな。

 

 

 とりあえずはこれで1周目が完了だ。

 そのまま出口を抜けて17階層の入口に進み、ダンジョンウォークを発動して16階層の待機部屋最寄りの小部屋へ移動した。

 

 連続魔法4、5ターン分なら1分かかるかかからないか程度の戦闘時間だったので、当然まだ他のパーティーは来ていない。

 続けてボス部屋への進行を試みた。

 

 

 

 

 しばらくマグロ漁師と言わんばかりに周回を進めていたが、ある程度時間が進めば当然他のパーティーもやってくる。

 自分たちが帰ってくる前にボス部屋に入られてしまったら、待機部屋に戻ってきても扉は閉まっているわけだ。

 

 先にお供を倒し、突進を防いで挟撃というパターンを繰り返せば仕留めやすいボスなので、装備こそ整っていれば一般のパーティーでも時間は掛かるが狩りやすい部類だと思う。

 

 自分たちなら戻ってくる時間も含めて7,8周はできるかなぁというほどの待ち時間を休憩し、扉が開いたので中に進む。

 

 麻痺も石化もせずともすんなりと倒せたが、後ろに待っているパーティーもいたし、あんまりすぐ出てはまずいか。

 ついでだし方針でも話し合うかな。

 

 

「道中の戦闘に戻しつつ、たまに待機部屋を覗く感じにしようか。

 待機パーティーがいなければ、ボス部屋が閉じていても休憩も兼ねて並べばいいかな」

「人も増えてきましたし、ボスについては昼までにあと数戦程度でしょうか」

 

 

 赤身は結構収集できたが、まだトロは1つ落ちたくらいだ。

 尾頭付きも通算で3つ。

 

 お祝いをするには1人1匹あってもいいだろう。

 全部使わなくたっていいのだし、多く取れれば取れた分だけいい。

 料理人がもっとレベルが高くなれば、率も上がってくれるといいのだが。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アコルトの読み通り追加のボスは3戦、残りは道中の魔物の群れを狩っていたが、そろそろ昼前なので撤退だ。

 冒険者ギルドでコウモリの羽や余分なシェルパウダー、昨日の取得品を売却してから自宅へと戻った。

 

 食材をリカヴィオラに仕舞ってもらい、昼食には赤身を試してみる。

 

 数cmの角切りにして、オリーブオイルで炒めていく。

 焼き色が付いたら刻んだ香草と野菜を加え、火が通ったくらいで魚醤とワインを足して全体をよく絡めた。

 

 うーん、白ご飯の上にのせたい。

 が、そんなものはないのでパンに挟んで食べるのだ。 

 十分おいしいのだが、米を知っていると恋しくて堪らない。

 

 食材探しの南方遠征も進めなきゃなぁ。

 南方に米があると決まったわけではないんだけども。

 

 赤身はクセがなくて、カツやオイル漬けなど他にも楽しめそうだ。

 今後の楽しみはとっておきつつ、片付けをして支度をする。

 

 

 これからリカヴィオラも連れて、帝都に買い物に向かうのだ。

 雑貨屋で石鹸の香りづけのためのオイルを入手するつもりだったのだが、……全員で来るなら食事も帝都ですればよかったな。

 

 あれもこれもと予定を組むとすぐに抜け落ちるのは、直しようもない性分なのかもしれない。

 

 家の扉に鍵をかけ、帝都の冒険者ギルドに繋がるゲートを開いた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv38
魔法使いLv38/英雄Lv37/探索者Lv38/森林保護官Lv38/遊び人Lv33/料理人Lv14
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師1 細工師26 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 博徒16 盗賊30)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv29

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv27

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv25

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv23



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次回は9/15更新の予定です。


また都合が悪い場合は早めにこちらにて告知したいと思います。
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