帝都の冒険者ギルドから、香り付きのオイルを置いていたという雑貨屋へと向かう。
アロマだかフレグランスだかエッセンシャルだか分からないが、そういうものがあるらしい。
店員に確認して案内されるがままにその背に続くと、色付きの小瓶が並んだコーナーに通された。
説明を聞いてみると、パームバウムが落とすパームオイルを素にして、果物や花の匂いを付けたものなのだという。
いくつか購入するつもりだと伝えると、パピルスの切れ端にオイルを垂らしたものを数ナールで提供してくれた。
さすがに無料の試供はできないよな。
香ってみると、うちの石鹸よりもフレーバーが強く、とてもいい匂いだ。
それも当然、石鹸はオリーブオイルで作成したのでオイルそのものに独特の香りがあって、その上に混ぜ込んだ果皮の香りがのっている状態だ。
酪も混ぜているのでオリーブオイル特有の匂いは抑えられているが、主原料にしているのでどうしたって香りは残る。
素材にするオイル自体をパームオイルに、いやその上位はカメリアオイルだったか、ともかくモノ自体を高品質にすればその分良くなるだろう。
カメリアオイルは字面がそのままなら椿油のことであるし、それだけで髪や肌にはよさそうだしな。
さらに迷宮産なので、手入れの効能はお墨付きだ。
入手するとなると34階層以降のボスになるので、ギルドで買うしかない。
普段遣いのものだし、高額にしすぎるのも躊躇するが、普段遣いだからこそ高品質で作ったほうが身体のためにもなるとの葛藤が出てくる。
そんな話を商品の前でこそこそとしていたのだが、先程案内をしてくれた店員が寄ってきた。
「カメリアオイル製をお探しなのでしょうか?」
「いえ、そういう話ではなく……え。
あるんですか?」
「高額商品ですので表には出しておりませんが、取り扱いはございますので少量ですがご用意できます」
なるほど、そういうことか。
先程のパームオイル製でも十分だが、原料を同じカメリアオイルで揃えたほうが親和性もいいはずだ。
流石帝都、何でも置いている。
買っちゃうか、思い切って。
とりあえずどれか1瓶は買うと伝えると、先程のように何種類かの試供品を用意してくれた。
パピルスの切れ端に番号が書かれている。
数字は読めるし、書けるようにもなったので、これは分かりやすい。
やはりこちらのカメリアオイルの方が洗練されているというか、少量でもやわらかに広がる香りが心地よい。
ラベンダーのような落ち着いた香りや、果実のような甘い香りに、皆関心を寄せている。
「1つはこれにしようかな」
花っぽいというか清涼感があるというか、記憶の中のゼラニウムより爽やかな感じの香りだ。
普段遣いならこのくらいの主張しすぎないくらいの穏やかさがある方がいいと思う。
皆にも聞いてみたが、苦手な様子もなく、主人が気に入ったならそれが一番だとの考えらしい。
「あとは……こちらはいかがでしょうか?」
珍しくミーラスカが主張してきた3番の数字がついたパピルスを受け取って嗅いでみる。
「あ、これも好きかも!
こっちも買っておこうかな」
苺に似た甘さもあるような、でもクドすぎない香りなので、戦闘以外のお出掛けの前の日なんかは、この香りで髪を洗うのも気分がよくなれる気がする。
「おそらくフェルス様が付けていらっしゃる香水に似た香りかと思います」
「…………」
いや、確かに近寄られたときはいい匂いしたけどさ!
鼻のいいミーラスカが言うんだから、かなり近い香りなんだろう。
けどなんか負けた気がする。
勝ち負けなんて存在しないはずなんだけども。
結果としてどちらも購入することにしたが、握ったら頭が出るくらいサイズの瓶に入って1瓶3000ナールを超えていた。
カメリアオイル自体が高いというのもあるだろうが、一般人の買わない加工品なんてそんなものなんだろう。
店員のジョブが商人なのをいいことに割引を利かせてもらうのは忘れない。
一緒に香り石なる、素焼きの陶器みたいな手触りの加工された石の塊も薦められた。
アロマストーン的な用途らしい。
本来は寝室に置いたりすればいいのかもしれないが、洗い物全てが同じ香りになるのだから、我が家には不要だろう。
こういう雑貨屋では、居れば居るだけ物珍しさであれこれと手を出してしまうから、目的のものを購入したら退散するに限る。
冒険者ギルドに戻ってきて、販売カウンターで材料を揃える。
蜜蝋やシェルパウダーは持っているので、酪とカメリアオイルを購入した。
オリーブオイルと同じ様な1玉で、520ナールなんて買値は手を出したくなくなるが、しょうがない。
前回の作成分の石鹸もかなり持ったので、次の作成時には自分たちで迷宮から回収できるようにしたいな。
必要そうな分を買ったら結構な額になったが、必要経費だと念じることにして頭から追いやった。
そのままギルドから自宅へとワープし、今度は型の木枠持ったリカヴィオラを商店街に送り出す。
帰りは徒歩になってしまうが、木工店に依頼した後は自由に過ごしてもらっていいとお願いした。
迷宮終わりに自分たちが店に寄ってから家に戻ればいいしな。
依頼料や買い食いをしていいと、銀貨もいくらか渡しておいた。
***
装備を整えてからカルメリガの16階層で魚の補充を再開しようと思ったが、ワープで出てきた小部屋には他のパーティーが居て、移動した先のボスの待機部屋にも2パーティーほどが待っていた。
人気すぎだろ、ブラックダイヤツナ。
道中の魔物狩りをするにも人が多いので、予定を前倒ししてルテドーナの迷宮を上る方を先にしようか。
普通は昼で街に戻ったりはせずに迷宮内や周囲で休憩するだろうし、他のパーティーが休んでいる間に戦闘をするだろう。
赤身とトロは別の日の午前中に改めてということで、来たばかりだがまた移動することにした。
ルテドーナの迷宮での到達階層は18階層だ。
17階層のボスであるキラービーを倒して、抜け出てきた入口小部屋までである。
「下の階層のグラスビーとビッチバタフライの他に、この階層ではロートルトロールが出てきます。
ロートルトロールの弱点は火属性ですが、風属性に耐性を持っているので、飛んでいる2種類との違いに注意が必要です」
シャオクの忠告を受け、戦法を考える。
遭遇した群れにロートルトロールが多ければファイヤーストームを放つことになるが、グラスビーには等倍、ビッチバタフライは火耐性なので半減してしまう。
虫なんだから一緒に焼かれてしまえばいいのに、魔物となるとそういった
グラスビーらが多ければブリーズストームになるが、今度はトロールに効きにくいわけだ。
2階層ごとに弱点が揃っていて、一見進行が楽そうなルテドーナの迷宮も、耐性を考えればそこまで簡単じゃないのは面倒だな。
かといって他の迷宮のようにバラバラだとそれはそれで大変だ。
こうなると、遊び人のスキル設定のクールタイムが厄介だ。
いっそのこと等倍の水や土属性で攻めていくというのもありかと考えたが、出現の半数はトロールだし、バタフライは2階層下の魔物なので1割程度の出現率にそこまでリソースを割く必要はないだろう。
基本的に連続の火魔法でロートルトロールを屠り、残った魔物には風魔法と火魔法で撃ち続ければ、追加の数ターンで倒せるはずだ。
「早々にこの階層を抜けてしまえば、次の19階層でフライトラップが出てきてビッチバタフライがいなくなるので、火属性が半減されることもなくなりますね」
……ソウデスネ。
失念していたが、この階層で狩り続ける必要はないのだ。
シャオクの言う通りここを突破した次の階層こそが、MP回復薬も補充できて戦闘も楽になるので目的とすべき狩場になる。
それまではアコルトにトロール多めの群れを案内してもらいつつ、待機部屋を探すこととしよう。
以前に戦ったことのある魔物なだけに、動作に注意していれば問題はない。
肉弾戦を交えてくるロートルトロールは3ターン目で煙へと変わるし、残りの虫たちはここまで状態異常耐性を揃えてきたおかげで脅威度は小さい。
盾の後ろから必中魔法を使えることの心強さよ。
最初に連続の火魔法、次いで風魔法と火魔法、さらに風魔法と火魔法の順で放てばトロールは処せる。
追加で風魔法と火魔法を念じればグラスビーも煙へと変わった。
面倒なのがやはりビッチバタフライで、そこにさらにブリーズストームとファイヤーストームを加えてもギリギリ倒せないこともあった。
トータルで見れば最大6ターンであって、それでも2分と時間はかかっていないのだが、戦闘時間が倍近くになるのは心的負担も大きい。
耐性持ちは厄介すぎる。
毒や麻痺にするスキルに耐性を持っているこちらについて、魔物側も同じことを思っているのかもしれないな。
結局バタフライの混じった群れを避ける、という手を取ることにした。
アコルトの索敵でおおよその敵構成は分かるので、第一段階ではその時点で避け、視認できる距離で鑑定ウインドウにその名を確認出来たら迂回する。
ビッチバタフライが混ざった群れ自体は少ないものの、これまでの見つけたら殲滅するスタイルと比べれば、どうしたって討伐ペースは鈍ってしまう。
必要な手数が増えているので攻撃を防ぐ機会は増えているが、状態異常の付与率が上がったことでシャオクも意識的に槍を突き出すようになったので、魔物との距離も取れるし麻痺させることも増えた。
あちらも麻痺をさせてくるロートルトロールといえど防具で対策してあるし、さすがに徒手空拳では大盾や槍相手には分が悪いといったようで、攻めあぐねている内に魔法で削り切ることができている。
したがって、何割かの時間は余計にかかっているが、それによって追い込まれるという場面にはならなかった。
そんな調子で、錫や蜜蝋、避けているので数は少ないが膠灰のドロップアイテムを回収しつつ巡っていると、そろそろ撤退する時間かという頃には待機部屋を引き当てることができた。
麻痺に毒の状態異常のオンパレードで、カルメリガの魚階層と違ってこちらは不人気のためにボス部屋の扉は開いている。
「ここを突破して、今日は引き揚げよっか。
えーっと、ボスは……」
「ロールトロールですね。
雷魔法を使ってくるほか、転がるように体を使って攻撃してくるそうです」
そうそう、たしか名前の通りに回転してくる猿人とあったはずだ。
こちらが魔道士になるよりも先に雷魔法を使われるのは癪だが、出てくる魔物はお供と合わせて2体だし、アコルトとシャオクの詠唱中断の武器で対処可能だろう。
道中の群れの最大5体から比べれば、耐久力はあるものの、向き合う敵の数は少ないので厳しくはないと思う。
例によって先にアコルトのみでボス部屋内を確認してもらい、異常もないようなので順番に内部へと足を踏み入れた。
噴出した煙が収束し、2体の人型へと変貌する。
ロールトロール Lv18
ロートルトロール Lv18
字面がもう紛らわしい。
順当に確率の高いロートルトロールがお供として出てきてくれたおかげで、火魔法だけで済むので助かるが。
どちらも灰色の毛むくじゃらではあるが、ボスの方が背が低く見える。
だがそれは背筋が曲がっているからであって、ちゃんと伸ばせばそちらの方が高いのかもしれない。
出会い頭にすでにファイヤーストームの2連発は放っていて、
距離があったからか足元に魔法陣が現れロールトロールが詠唱を始めたところに、アコルトが近づいて鞭を入れる。
スパンッと痛そうな音がして、光り出していた陣を霧散させた。
やはりリーチの長さと攻撃速度のある鞭は、詠唱中断と相性がいい。
2ターン目の火魔法が魔物たちを包み、お返しとばかりに振り下ろされたロートルトロールの腕を、シャオクが鋼鉄の盾で弾いて捌いた。
ボスはというと助走をつけた走りから、発達した腕を振るい、体を丸めて
アコルトは接近される前に退避し、うまく進路誘導されたロールトロールの遠心力ものった両腕に、ミーラスカの大盾が迎え撃つ。
連続で盾にぶつかったことで速度が削がれ、回転も治まってきたタイミングで跳ねるように移動したボスが、仕切り直しとばかりに体勢を整えた。
しっかり戦えている。
初見ながらも、それぞれの持ち場の分というか、対応を切り分けて捌けているのがすごい。
狙い過ぎず無理をしないで踏み込み過ぎないからこそ、上手くいっているように思われる。
そんな間にも3ターン目のファイヤーストームが発動し、お供の猿人を煙へと変えた。
これで全員がボスに注視できる。
ここまでくれば、あとは大盾で行動を制限しつつ鞭や槍を入れて麻痺を絡め、自分の魔法のクールタイムを稼ぐのも容易になった。
鋼鉄
ロールトロールも煙にした後、残ったアイテムに鑑定を飛ばすと、半透明の表示にはそのように文字が浮かんだ。
「あれ、落とすのって鋼鉄だったっけ?」
「ロールトロールは通常は鉄をドロップし、稀に鋼鉄を残すと書かれていました」
ズシリと重さのある拳大の金属の塊をアイテムボックスに仕舞いながら、シャオクの返答に耳を傾ける。
どうやらレアドロップを引いたらしい。
だからといって、鋼鉄1つだけではどの鍛冶材料にも足りないそうだ。
シャオクの普通サイズの鋼鉄の盾にだって、単純な対比でも2桁は確実に要りそうだしな。
これまで見た皮装備の鍛冶でも、材料の量と出来上がりの大きさはある程度は比例していたしな。
それでも鎧に実際に使われていそうな分には材料は足りなそうに見えたりしたので、丸々製造に利用するというよりは、あくまでスキル発動に必要な、
どの道使うときには数が必要になるので、将来のためにも今はアイテムボックスの肥やしにしておこう。
腐ったりするものでもないため、ボックスが足りなそうになれば納屋にでも置いておけそうだ。
無事18階層のボスを突破できたので、奥に現れた出口のゲートを抜ける。
19階層の入り口小部屋に出てきたことを確認し、本日の狩りを終了した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv39
魔法使いLv39/英雄Lv37/探索者Lv39/森林保護官Lv38/遊び人Lv34/細工師Lv30
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師1 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人14 博徒16 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv30
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv28
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv25
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv24
---
次回は9/18更新の予定です。
9/16 12:00
活動報告 012 更新
頂いていた感想返しを活動報告に投稿致しました。