ルテドーナの迷宮から、シームの商店街の絨毯へとワープした。
武器や大盾なんかは収納しているので、比較的近距離な街間の移動は楽なくらいである。
自宅ではなくこちらに移動したのは、木工店に寄ってから帰宅するためだ。
頭装備や手装備も、外せるものは外してから店に入る。
リカヴィオラは店内に見当たらず、店員に聞いてみるとすでに加工を終えたものを持って帰ったらしい。
蓋なしの木枠ならすぐに取り掛かれると言われて、出来上がるまで待っていたそうだ。
ベッドやテーブルの出来からも職人の腕の良さは分かっていたが、その場で作ってくれたようなのでありがたい。
今度は何か雑貨を新調しに来ようと考えつつ、店員に礼をして店を出る。
再び設置された絨毯まで歩いて、周囲を確認してから自宅へとゲートを開いた。
「ただいま~」
「お帰りなさいませ、御主人様!」
笑顔で迎えてくれたリカヴィオラは、出かけていた時の服装からメイド服に着替えていた。
受け取って参りましたと、テーブルに並べられた木枠を指し示してからスープ作りに戻っていく。
前回の石鹸作りに使用した木枠もしっかりと閉じ直してあって、どれにも留め具が付けられていることに気づいた。
「溶かした蝋を入れて、固まったら取り出すのだとお伝え致しましたらば、割らずに済むように仕掛けを作って下さいました!」
1つを近くまで持っていき聞いてみると、料理をしながら声を張り上げて答えてくれる。
なるほど、留めれば底付きの筒状になり、外せばパカッと開いて中身も取り出しやすい。
石鹸作りと言ってしまえば驚かれそうだが、溶かし固めるだけの蝋燭の型なら職人も想像しやすいだろう。
小さくなったり、溶けて形が崩れてしまったものを集め固めるとかはありそうだしな。
それでも手直しの入っていない木枠もあったが、それは前回自分がデュランダルを差し入れた角度が悪かったせいで、閉じた際の隙間ができてしまったもののようだ。
直すよりは新たに作るほうが簡単なので、廃棄と判断されたのをリカヴィオラが一応持って帰ってきてくれたのだろう。
これは炭と一緒の燃料行きかな。
さてさてまずは食事だ。
魚介と肉とが選べるというのは、精神衛生上とてもよい。
片方でも問題ないのだが、何だって選択肢は多いほうがいい。
今日は石鹸作りもするので簡単にしてしまおうということで、炒め物に肉をスープに蛤をそれぞれ使って、味を整えてから盛り付けた。
香辛料以外の迷宮産の野菜は存在しないのだろうか。
あればもっと美味しくなるが、それはそれでエンゲル係数が倍以上に跳ね上がりそうな気もする。
リカヴィオラから職人の作業の様子などを聞いたりして夕食を楽しんだ。
食べ終わればお風呂の準備だが、その前に石鹸をなんとかしよう。
前回の作業を見ていたアコルトとともに、材料を揃えて皆で確認する。
シャオクはあの時、畑を耕してもらっていたんだっけ。
作業用の鍋に蜜蝋を溶かして木枠の内側をコーティングし、余分なロウは鍋に戻す。
これまでにシャオクにお願いしていたミサンガで、スロットのついてないものを鑑定で選びだして蝋燭の芯も作っておいた。
石鹸作りの方は、オリーブオイルからカメリアオイルに替わっても手順は同様に進んでいく。
分量は前回から多くしたが、だいたいの比率も同じように進めれば問題はなさそうだった。
興味深そうに見つめる皆の前で、香料のオイルを瓶の半量ほど入れてみたが、十分に香りがついているように思える。
そもそもが少量で十分な効果が出せるように作られているものなのだから、これでも入れすぎなのかもしれない。
……後先考えずに何本も買わなくてよかった。
型に流し込んで空気を抜き、残った香料にはしっかりと栓をして取っておこう。
香りが飛んでしまわないことを祈りつつ、もう一つの方の石鹸作りを、今度はリカヴィオラたちにもやってもらう。
基本的には混ぜる量とタイミングの問題なので、そのあたりが自分よりもきっちりしている皆には問題がなかった。
こちらも型に入れてトントンと底を机に当てて気泡を抜く。
シェルパウダーを溶かすくだりから代わる代わるやってもらったので、皆のジョブにも錬金術師が増えていた。
最後に撚り糸を芯にして、余ったロウで蝋燭も作り、工作を終えて片付ける。
前回の工程を知らない者は、粘度はあってもまだ液状の石鹸が固まるのか不思議そうに見つめていたが、ロウだって溶かして固めるのだから同じようなものだろう。
水と油に酪やらシェルパウダーといった、わけのわからない混ぜものがどうなるかは、普通は知らないか。
さらに今回はカメリアオイルを使っているので、ひとかたまりで銀貨10枚以上はするのだし。
納屋の方にそっと移動させてもらっている間に、自分はお風呂のお湯を溜め始めた。
ロウを詰まらせないように多量のお湯で流しながら道具や体を洗う。
今の石鹸はオリーブオイル製なので、やはり先程作っていたものと比べると匂いが気になる。
比べなければずっといい香りに感じていたが、気づいてしまうともうだめだ。
明らかに違いすぎて、アヒージョにでもなった気分だ。
使えそうだったら、身体洗いの方だけでも明日から新石鹸に切り替えていこうかな。
余っていた香料を1適ほど垂らしてから部屋の明かり用の蝋燭に火を付けると、寝室にフローラルな香りが広がる。
今日はリカヴィオラも呼んで、香りに包まれながら一緒に寝ることにした。
***
一緒に寝る人が増えたとて、朝起きれば案の定自分しかいない。
物音に気づかなすぎて、野営とかをする環境だったら初日に人生が終わっていそうだ。
用意された服に着替え、階段を降りると朝食の準備はほぼ終わっていた。
いつもより若干遅かったらしい。
挨拶をして食事を取り始めながら、予定を考える。
昼までの迷宮が混んでくる前に、カルメリガの16階層のボス周回をしておきたい。
他のパーティーは戦いやすくて売却額の高いレアドロップもあるブラックダイヤツナが狙いなのだろうが、こちらは食材の確保のためなのだ。
赤身だけでも数を確保したいところである。
午後からはルテドーナの迷宮の19階層かな。
シャオクの調べた通りならフライトラップがメインの魔物のはずなので、結構減ってきたMP回復薬の補充階層として確立させたい。
あとは明日が夏の中月15日ということで、一応は迷宮探索の休息日のつもりだ。
皆の希望は聞いてみるが、前回増やしたワープ先の町々を巡るのだっていいだろう。
もしかしたらリカヴィオラのいたことのある町や村に繋がるかもしれないし。
やりたいことがそれぞれあるようなら、自分と希望者で鏡の購入先を探しにいくという手もある。
帝都なら何かしらの情報もつかめるはずだ。
まだまだやるべきことはたくさんあるな。
食事を終えて身支度をし、リカヴィオラに留守をお願いして迷宮へと向かうか。
家の周りの雑草も減ってきているので、家事を終えて手持ち無沙汰なら商店街で好きに過ごしてもらってもいい。
昨日のお使いで預けたお金は半分も使わなかったと返してきたが、そのままお小遣いにしてもらった。
また昼には戻ると伝えて、ワープゲートを設置した。
***
カルメリガの16階層の小部屋に出てくる。
待機部屋に一番近い、ダンジョンウォークで出てこられる場所であるが、アコルトの耳には魔物の音しか捕まらないようだった。
やはり早い時間の方が空いている。
遊び人のスキルには土魔法を設定して、6thジョブには料理人をセットしておいた。
1属性で全ての魔物の弱点を取れるのは、戦闘中に考える必要も手数も減るので、ストレスだって減ってくれる。
その上、大半が白身に変わり、確率はあるものの蛤も手に入るので嬉しいことこの上ない。
コウモリの羽とシェルパウダーはまぁ……収支に影響するから許そう。
ボス部屋に入ればブラックダイヤツナとお供が現れるも、2ターン目でどの種類でもお供はアイテムに変わっていた。
流石に連戦していれば、自分にだってマグロの軌道を想定した動きができるようになって、ミーラスカが振り返る手間も減らせてきている。
休憩を挟みつつ体感で2時間を超えたあたりから、徐々に他のパーティーを見かけるようになった。
ボス部屋に入室して扉が閉まる前に他人の存在を確認できた時は、戦闘後にそのまま休憩してそれなりの戦闘時間に見せかけてから小部屋へと移動する。
また待機部屋に戻ってくると、案の定まだ戦闘中で扉が閉まっているので終わるのを待ちつつ、自分たちの番になれば速攻で倒す。
待機部屋の端からアコルトの頭だけをワープでのぞかせ、誰もいないことを確認してから即座に移動して、またボス部屋に突入する。
1パーティーずつならそうやって合間を縫って連戦できたのだが、時間が経つにつれて2パーティー、3パーティーと増えてきたらもう無理だ。
慣れている連中でも十数分、それが何パーティーにもなれば待つだけで1時間近くとなり、流石に時間が勿体ない。
途中から道中の狩りに変更しつつ、昼食の時間まで戦いを続けた。
今回はクラザの冒険者ギルドで売却してからシームへと戻る。
アイテムボックスの中身を見てニヤニヤしていたら、アコルトに服の袖を引っ張られてしまった。
トロは合計で4つ、尾頭付きは8つ程がボックスに収まっている。
そろそろミトラグたちに、祝いの日の相談をしてもよさそうだ。
従業員も含めて尾頭付きはマーブリームからだから1人半身ずつでいいとして、さすがにトロはボスのレアドロップなので半分の半分くらいがギリギリだろうか。
将来的に自分たちが家で食べるときは1人1つ以上使うつもりだが、購入ではなく迷宮での取得だとしてもミトラグたちは恐縮してしまいそうな気がする。
奮発したといっても、買値だと1つで数泊分の尾頭付きとトロとが人数分はよろしくない。
それに調理は向こうにしてもらおうかと思ってるしな。
普段の宿の料理を材料を代えて作ってもらうだけで、十分美味しくなるはずだ。
それまでこちらも食べずに楽しみを取っておこう。
リカヴィオラのアイテムボックスに白身と赤身と蛤を詰め込んで、昼食を取る。
カメリアオイルが若干余っていたので、せっかくだから揚げ焼きのフライを作った。
パン粉も細かくしたのがよかったのか、油の切れもよく色合いもいい。
一口大のそぎ切りにしてみたが、もっと厚めに切って多少生でもよかったかもしれない。
でもそうすると、自分以外は嫌悪感が出るかもしれないか。
ドロップアイテムはアイテムボックスに入る以上、寄生虫とかアイテム以外の不要なものが付着していないと思うんだよな。
別の機会に考えよう。
いつものオリーブオイルでの調理より、食感も軽くなり、旨味も増えている……ような気がする。
高級品を使ったというプラシーボ効果であるという気持ちも拭えないが、皆もいつも以上に美味しいと言っているので、やはり希少なものは美味いということでいいだろう。
果物も切ってつまみつつ軽く休憩した後は、いよいよルテドーナの19階層だ。
料理人から博徒にジョブを付け替える。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv39
魔法使いLv39/英雄Lv37/探索者Lv39/森林保護官Lv38/遊び人Lv34/博徒Lv16
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
6thジョブ 31 獲得経験値20倍 63
必要経験値1/10 31 結晶化促進2倍 1
MP回復速度2倍 3 パーティー項目解放 1
パーティライゼーション 1
(残0/137pt)
スキル設定も火魔法を選び、準備ができたとして入口小部屋を思い浮かべた。
***
昨日の最後に出てきた部屋に、もう一度足を踏み入れたことになる。
フライトラップ Lv19
フライトラップ Lv19
グラスビー Lv19
フライトラップ Lv19
すぐにアコルトが魔物の音を聞きつけたので向かってみると、3体のフライトラップの上を1体のグラスビーが飛んでいた。
ファイヤーストームを念じると、草も虫も炎に包まれる。
先ほどまでよりさらに羽音を激しく鳴らした蜂が身を震わせながら飛び始めると、うるさいとばかりに奥にいたフライトラップが口を広げて飲み込んだ。
え…………。
咥え込まれたグラスビーは一層激しく羽を震わせながら逃れようとするも、檻のように閉じられた葉の内側からは出られない。
呆気にとられながらも、近づいてくる植物たちが目に入り、2度目の火魔法を放った。
階層の強化分があっても弱点属性で、さらに『対植物強化』のおかげか、フライトラップが煙に変わる。
すると捕らえられていたグラスビーが残ってボトリと床に落ちた。
見れば羽が粘液のようなもので濡れて広げられないらしい。
動けないのをいいことにブリーズウォールを中心に放ち、遊び人の分のファイヤーストームも発動する。
壁の形状でその内側に乱れ巻く風を受けて、炎のエフェクトもブレるように取り巻いているが、相乗効果的な物はあるんだろうか。
これまでの感じから、単純にそれぞれの魔法分のダメージが入るだけに思える。
ブリーズウォールで乱雑に床に打ち付けられていたグラスビーが、エフェクトの終了とともに突如煙に変わった。
「あれ?」
討伐に必要な手数にはまだ足りていないはずだ。
だとすると本当に風と火に……いや、待て。
それよりは、フライトラップの同士討ちのダメージが大きかったという方が納得できる。
実際のハエトリグサも虫を捕らえた後に消化液を出すようだし、あれが防御低下とかそういう効果なんてのもありそうだ。
今回はイレギュラーだったが、魔物がアクティブスキル以外に何かしらのパッシブスキルを持っているという可能性に気づけたのは、いい機会だった。
それこそ、各種の属性耐性だって防具のスキルと同じかもしれないし、弱点だってもしかしたら『火属性弱化』というスキルなのかもしれない。
グラスビーは『毒付与』のパッシブスキルとは別に、確定毒のアクティブスキルを持っている、なんて感じなら如何にもそれっぽい。
そう考えると、深層へ向かえば向かうほど魔物も耐性もスキルもオンパレードで、抵抗するにはこちらも装備を揃えて対策、というのはものすごくゲーム的だ。
本来は少しずつ装備を充実させて実力を身につけ、それぞれに1つないし2つずつのスキルをつけて必死に進んでいくんだろう。
こちらは1つの装備に3つも4つもスキルを付けて、ぬくぬくと低階層でレベルを上げているので申し訳なくもあるが、仲間を含めた我が身が大事なので慎重すぎたっていいだろう。
このところはそれをレベルキャップさんが許してくれないので、階層を進めているわけだが。
そんなことを考えつつも索敵を続けてもらったが、いずれも何度も戦ったことのある魔物たちなので戦闘はスムーズだ。
手数が必要になる羽音のうるさいグラスビーを避けながらも歩みを進めていると、今回は割とすんなりと待機部屋へとたどり着いた。
道中で遠志も回収できているので、MPの管理も上手くいっている。
今後の陳皮の収集場所としての様子見に、ボスの耐久の確認と行こうか。
タクトを握り直して、開いた扉の向こうへと歩き出した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv39
魔法使いLv39/英雄Lv38/探索者Lv39/森林保護官Lv38/遊び人Lv34/博徒23
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師1 細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人22 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv30
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv28
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv26
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv24
製造物
・ミサンガ(○) 4
(スロット付与 4/20 ハズレは蝋燭材料に流用)
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次回は9/22更新の予定です。
前回のあとがきに追記致しましたが、活動報告 012で感想返しを投稿しています。
お時間とご興味があれば御覧ください。