異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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148 沈黙

 ボスであるアニマルトラップと、お供にはグラスビーが現れた。

 

 

アニマルトラップ Lv19

グラスビー Lv19

 

 

 挟み込む頭が2つも付いているのだから、また蜂を食べてくれないかな、なんて思いながらファイヤーストームを撃つ。

 先行していたグラスビーが、炎のエフェクトに包まれてブンブンと羽音を唸らせる。

 

 ボスはというと弱点属性の攻撃を受けていようと、体の下に魔法陣を出現させてスキルを発動しにきている。

 アコルトはグラスビーに対処していたので、シャオクが前に出て、槍をボス植物へと突き出した。

 

 陣が立ち消え、これで安心───

 

 

「ッ!

 すみませ───」

 

 

 声に振り向くとアコルトが足を(もつ)れさせ、その場にへたり込んだ。

 あれ、どうした?

 

 シャオクがすぐに駆け寄ってアイテムボックスの呪文を唱え始めたことで、毒を受けたのだと気付く。

 

 ええっと、パーティライゼーション、アコルト……違う。

 今は強壮丸がセットされているから、アイテムボックス、毒消し丸は……あった!

 パーティライゼーション、毒消し丸のボックス指定、対象は……アコルト!

 

 

「ミツキ様は攻撃を!」

 

 

 自分がパニくってもたついている間に、シャオクが薬を飲ませ、ミーラスカは大盾でグラスビーを止めながら全体手当てを詠唱し終えていた。

 こちらは詠唱省略のボーナススキルを付けているのになんてザマだ。

 今更ながらオーバーホエルミングを念じたが、パーティライゼーション前にすでに薬はアコルトの細い喉を越えていたように思える。

 

 シャオクの指示のままにファイヤーストームを発動し、グラスビーを火に包む。

 近づいてきた蜂をシャオクが槍で打ち払うと、石化して床にゴトリと落ちる音が聞こえた。

 運が良かった、これで敵はボスだけとなる。

 

 

 これまでも何度か被弾することはあっても、味方がまともに毒を受けたのは初めてだ。

 状態異常の耐性をいくら上げたとて、無効になったわけではないので、確率が0%にはならない。

 ハイクラスの耐毒の効果ならそれはできるかもしれないが、現状通常攻撃の方の確率毒でも食らうなら、『耐性強化』のスキルも視野にいれるべきか。

 

 ……考えは後だ、まずは戦闘に集中する。

 

 

 そういえばアニマルトラップの方が音沙汰ない。

 スキルを撃ってはこないのか?

 距離も開いたままでほとんど動かず、まるでこちらの心配をして攻撃をやめてくれていたかのような間である。

 

 ファイヤーストームを連発しながら周りをみると、アコルトの顔色に血の気が戻ってきているようだった。

 動けるようになったアコルトが後ろへ下がり、シャオクが戦線に復帰してミーラスカと共にボスへと向き直った。

 

 近づいたことでアニマルトラップも思い出したかのように急に動き出し、(もた)げた頭を開いて噛みつくように振り回してくる。

 大盾が弾いて、その勢いでボスの位置が下がり、距離がまた開いたことで魔法陣が現れ始めた。

 今度はスキルを使ってくるらしい。

 

 シャオクが突きを入れる前に5ターン目の火魔法が植物を包み、そのまま煙へと変える。

 石化により魔法弱化したグラスビーは1ターン前に蜜蝋になっていた。

 

 

 

 トテトテとアコルトがアイテムを拾いに行き、戻ってきてこちらへと手渡してくれる。

 

 

「もう大丈夫なの?」

「はい。

 お薬と手当てを頂きましたので、動きにも問題はなさそうです」

 

 

 すぐに対処できなかったことを詫びると、こちらが慌ててアイテムボックスをごちゃごちゃやっている様は見て取れたので、承知しておりますと返ってきた。

 毒に苦しんでいる間にも、自分なんかよりよっぽど周りが見えている。

 

 状態異常の回復薬が色々と分かれているのは面倒なので、万能丸だったかを常備して、ポケットとかに用意してた方がいいのかなぁ。

 何にせよ、パーティー戦闘や治療に慣れているシャオクとミーラスカがいてくれて助かった。

 

 長年で僧侶だったのに、緊急時でも淀みなく巫女のスキルを発動できたのは努力の賜物だろう。

 家事をしながらも、たまに小声で詠唱の練習をしているところを見たこともある。

 

 念の為いくつか滋養丸をパーティライゼーションでアコルトに使っておき、ミーラスカにも強壮丸を使用しておいた。

 

 

「少し気になったことがあります」

 

 

 シャオクが言ってきたのは、ボスが途中で攻撃をしなくなったことだ。

 こちらに大きな隙もあった時だったので助かったが、戦闘中で魔物が行動しなくなるのはおかしい。

 

 その前の行動は、スキルを発動させようとして出てきた魔法陣を、シャオクが槍で突いて詠唱中断させたところだったな。

 直後にアコルトの異変に気づいてシャオクが移動し、アニマルトラップとの距離が空いたのにスキルを再発動せずに留まっていた。

 麻痺も石化もした様子はなかったし、ただ待機しているような状態でだ。

 

 基本的に本能で襲ってくる、ましてや植物の魔物がこちらの様子見とか、考え込むなんてことは異様だろう。

 

 

 もしかしたら、『詠唱中断』も『()()()()()()()()()()()、何らかのさらなる妨害が働いたのではないか?

 

 『詠唱遅延』効果を相手に()()()()という考え方なら、その線はある。

 遅延、中断ときたら、その上位に値する効果は何だ。

 

 

 …………封印?

 

 動き出した後にはまたスキルを使おうと魔法陣が現れたので、それも違うか。

 

 いや。

 ()()()()()()()、という考え方ならあり得なくはないか?

 

 スキルの発動を中断され、相手との距離からスキルを再び使おうとしたところで選択するも、封じられているので不発。

 それを何度かしているうちに、シャオクが戦闘に戻ったことで、接近しての近接攻撃も選択しやすくなって再行動。

 ゲームっぽさで考えるとそんな可能性も見えてくる。

 

 もっと動物的だったり、知能の高そうな魔物だったり、同じ状況でもさらに時間が続けば、位置関係が同じでも違う攻撃をしてきたのかもしれない。

 あのタイミングでシャオクが戻るまでの短時間だったので、たまたま封印された行動を選択され続けた、と考えるのが妥当だろうか。

 

 ハイクラススキルが仮にスキルの封印だったとして、『付与強化』はそれに及ばずとも近い効果を発揮するという感じなんだろうか。

 ハイクラスの付与が面倒だったとて、1枠でスキル永続封印は強すぎるから時限制な気はするな。

 それでも今の構成よりも、効果時間は長かったりしそうだが。

 

 まぁ1例だけであんまり仮定で考えすぎても仕方ない。

 時間があるときに低層で検証しておくべき内容だろう。

 

 スキルを中断させるだけでも十分強いが、鞭の新調の必要性もだいぶ濃厚になってきたな。

 でも4スロット、可能なら5スロットで、今までとアコルトの使用感がそんなに変わらない上級武器ってあるんだろうか。

 

 あってもオークションかなぁ。

 需要の狭いものだから、そもそもそういう場にすら出てこないんじゃないかと思う。

 

 帝都方面やそれ以外の伝手も考えなきゃいけないんだろうか。

 鞭を豊富に揃えてる地域なんてあるのか?

 

 考えることは尽きないが、今周知すべきは耐性防具をしていても状態異常にはなる、ということだ。

 それぞれに持たせた回復薬の確認をし、夕食の時間までこのアニマルトラップ部屋の周回を続けることにした。

 

 

 

 基礎的なHPの関係で、ボスが沈むまでにはどの魔物がお供でも先に倒せる。

 状態異常を受ける可能性があると認識し、毒消し丸と抗麻痺丸を空いた手に握るようにしてからは、ロートルトロールとグラスビーへの対処も杞憂が減った。

 

 そもそも攻撃を直接受けることが少ないので、結局あれ以来状態異常にはかかったことはないが、使用の際は手に握った毒と麻痺の2種類の治療薬を両方ともパーティライゼーションで指定すればいい。

 効果がなくとも使用できるのは確認済みだ。

 自分の場合は絶対焦ってどちらか迷うから、初めから両方使うと決めておけば問題ない。

 これも万能薬なら1本化できるのだが、準備してこなかったので仕方ない。

 

 

 手足は動かしつつも、合間合間でミーラスカから話を聞く。

 もともと巡回医療で薬については知識を入れていたようだし、魔物についてもシャオクとともに学んだようなので、彼女もだいぶ詳しくなっていた。

 

 23階層以降に出てくるハーフハーブから手に入る麻黄からできるのが万能丸。

 そのボスのハートハーブから入手する緑豆を使うのが万金丹。

 そのハートハーブが道中に出てくる56階層以降のボスであるハードハーブが落とすのが威霊仙で、そこからできるのがエリクシールとなる。

 

 万能薬はというと、オークションでもみた牛黄からできるわけだが、あれはパインシュラブのドロップアイテムだ。

 パインシュラブはラフシュラブのボスで、迷宮に出てくるのは45階層以降からだという。

 

 万能の薬はその等級によってHPとMPの回復量と、怪我や病気、状態異常の治療確率が変わるらしい。

 原典にも若干記載があったと思うが、効果のほどは明確には書かれていなかったはずである。

 

 それでも自分のパーティライゼーションならアイテムボックスを指定して連続使用ができるので、多少の治療失敗は許容できる。

 失敗してもHPの回復ができるなら延命には繋がるしな。

 

 

 シュラブの連中のドロップアイテムは謎だ。

 木の板、抗麻痺丸の素の削り掛けときて、その次が万能薬の原料になるのはよくわからない。

 この世界の創造主がいるのなら、食虫植物や薬草たちに薬を設定しきれなくなって、潅木の枠まで使っちゃったという感じなのかな。

 

 石化を治療する柔化丸の原料はトータルタートルがドロップするそうだし、いよいよ植物ですらない。

 ボスを交えてではあるが、入手可能な階層は順当になっているから無難といえば無難だが。

 

 

 

 十幾周かのボス戦を終えて、今日は早めに引き上げることにする。

 アコルトはHP的には回復しているが苦しんだことは事実なので、休みの明日にまで疲れを残したくはないし、邪魔なドロップアイテムも売っておきたいしな。

 

 夕食には余裕があるくらいで、平らげたボス部屋である程度装備を外し、ワープゲートを開いて冒険者ギルドを経由してから帰宅した。

 

 

 

 

 

 黒塗りの扉から出てくると、家の中は静かだった。

 

 

「リカ~?」

 

 

 返事は返ってこない。

 一瞬よくない想像もしたが、普段出かける際のような戸締まりがされていたので、これは外出中ってことなんだろうか。

 

 

「ちょうど帰ってこられたみたいですね」

 

 

 耳を扉の方に向けたアコルトがそのまま玄関を開けると、ドアに手をかけようとしていたリカヴィオラが立っていた。

 

 

「わわっ!

 皆様、おかえりなさいませ!

 ……あれ、此方(こなた)はお待たせしてしまいましたでしょうか?」

「ううん、ちょっとだけ早く帰ってきただけだよ。

 リカもおかえり」

 

「只今戻りましてにございます!

 御夕食の準備をして参りますね!」

 

 

 朝の買い物以外で彼女を迎えることは珍しい。

 そんなに急がなくていいと伝えて、皆で手伝うことにした。

 

 

 調理に続いて食事も進めつつ、今日の出来事などを話す。

 リカヴィオラが出かけていたのは、パン屋に行って作り方を教わっていたらしい。

 試作品をいくつか持たせてもらったようなので、この時間でも焼きたてで美味しい。

 

 なんでも連日それなりの量を買っていくので、大分可愛がってもらっているようだ。

 シームに住み始めてひと月ほどになるが、どんどん人数が増えるし、そもそも5人の量じゃないしな。

 5人住みだけど。

 

 リカヴィオラは翌日に買わない場合は予め伝えに行ったり、おまけをもらったりと交流も順調だという。

 うちの子たちは腰が低いし真面目だから、そんなお得意様なら歓迎されているのだろう。

 

 ……まぁ主人の方は滅多に顔を出さないし、面倒臭がりだし、彼女たちのほうが評価が高そうなのでこのまま任せておいていいだろう。

 

 

 それにしても焼き立てパンか。

 家で焼けたらいいんだろうが、たまに作るならまだしも、毎日の手間を考えたら買ってくるほうが断然楽だ。

 

 あ、でもピザ窯とかはあれば料理のレパートリーは増えそうだよな。

 前にも思いついた気がしたがさっぱり放置していたわけで、ニカドー親方にお願いしたら作ってくれるかなぁ。

 鍛冶場の耐火セメントだって扱っていたんだし、要望とお金を出せばやってくれそうな気はする。

 

 それに、部屋の増設もどうしよう。

 

 リカヴィオラのいる1階の寝室はもうひとつベッドがあるものの、殆ど2階に入り切らなかった衣装部屋状態だし、家の裏に続く勝手口もほぼ使っていない。

 水路が詰まってないかを確認するくらいだが、井戸からの組み上げとは比べ物にならない水量でお湯も流しているのでそうそう物が留まるということはない。

 

 どちらかというと水路の耐久のほうが心配だが、引き渡しのときに一通り見せてもらった時には頑丈そうだったし、桶の水を流すことも想定した造りなので大丈夫だと思う。

 

 今のところは不便もないので外出の予定がなくなった時にでも家のことは考えよう。

 

 

 

 夕食を終えて洗い物をする時に、そういえばと石鹸のことを思い出した。

 

 湯船の給湯作業を中断し、納屋に向かう。

 だいたい等量になるように型に入れたが、中でも量の少な目のものを選んで、空気に接していた面を触ってみる。

 

 表面は固まっているようで指についてきたりはしないが、押し込もうと力を入れると沈みそうなくらいの緩さだ。

 オリーブオイルよりカメリアオイルの方が固まりにくかったりするのだろうか。

 どうにも今日は風呂場では使えなさそうなので、留め具を外すことなく元の場所に戻す。

 

 家に戻りアコルトたちにもう1日の我慢だと伝えて、今日はいつも通りの入浴で済ませることにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日は迷宮潜りはお休みだと伝えてあるので、ゆったりとした朝だ。

 まぁ自分はいつもゆっくりしているんだけど。

 

 昨日の夕食の際にも予定について話したが、今朝も食べながら確認すると、皆が新たな町へ行ってみたいとのことなので、ワープで行けるようになった場所へと全員で向かうことにしている。

 

 

 一応インナーや足元くらいには装備を身に着けるものの、シャオクやミーラスカは鎧などは付けずにカジュアルな服を着ている。

 自分とアコルトについてはミスリルメッシュスカートや竜革の手袋を外すが、他はほとんど装備している。

 軽装備のいいところというか、普段着に組み込めるのがそもそもの利点だったりするからな。

 

 シャオクやミーラスカはパーティーでのジョブ効果さえあれば、素の力でも他種族相手で一捻りできそうなフィジカルをしているが、そうではないリカヴィオラにも上位の軽装備を揃えたほうがいいのかなぁ。

 竜革のカチューシャやブーツで十分に強いとは思うのだが、なんだか心配になる。

 

 皆で囲んで守ってやればよいかと言ったら、お嬢様を守るのが普通ですと返されてしまった。

 オーバーホエルミングも魔法もあるが、一番注意が抜けているのは自分としか思えないので大人しく従うことにする。

 これじゃあどっちが主人なんだよ。

 

 

 戸締まりを確認して、まずはアルヴナから距離的に近いワユヌという町へと飛んだ。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv39
魔法使いLv39/英雄Lv38/探索者Lv39/巫女Lv31/遊び人Lv35/僧侶Lv30
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師30 薬草採取士30 森林保護官39 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人22 博徒26 盗賊30)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv30

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv28

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv26

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv24



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次回は9/25更新の予定です。

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