異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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158 微風

 商店街の絨毯から出てくる前に外せる装備は外しておいたので、飲食店にも向かいやすい。

 

 朝に食事を受け取った店へと歩みを進めると、たいていの店が混み合うのは鐘が鳴ってからのはずなのに、すでに結構な客が入っているように見えた。

 流石に満席というわけではなさそうなので、店員に言われるがままに案内されたテーブルにつく。

 隅の方で半個室のようになってる席で、盛り上がっているテーブルから距離を空けてくれたのは配慮だろうか。

 

 

「いらっしゃいませ、ようこそお越し下さりありがとう存じ……、御主人様!

 皆々様、おかえりなさいませ!」

「あ。

 リカ、ただいま~!

 お手伝い、順調そうだね」

 

 

 入れ替わりで注文を取りに来たらしいリカヴィオラは、まとめた髪に三角巾に似た布を被り、前掛けもつけていた。

 店員というよりどちらかというと調理実習のような出で立ちだが、元気な彼女に似合っていて、学生のように思えて可愛らしい。

 

 可能ならばリカヴィオラも一緒に夕食をとりたいが、頼まれた仕事は何時までなんだろう。

 店主にそれも確認してもらうことにして、注文をお願いした。

 厨房に伝えに戻っていく最中にも、通りがけにあちこちから飲み物のおかわりや追加注文を受けている様子に、これは時間がかかりそうかなと悟る。

 

 

 少しすると、他の従業員と共に料理を持ったリカヴィオラが現れた。

 手拭いなどの店員の装いを外しているのは、もう終わりだからなんだろうか。

 

 

「忙しそうですけど、もう大丈夫なんですか?」

 

 

 料理を置いて一緒のテーブル席についたリカヴィオラを見てから、一緒に来た従業員に尋ねてみる。

 

 

「リカちゃんはもともと臨時でしたし、今は忙しいですけど材料も減ってきて閉店も早そうなので、店長も上がりで大丈夫って言ってましたよ。

 後で話に来るとも言ってました」

 

 

 テキパキと料理を並べて忙しそうにしていたが、「またお手伝いに来てほしい」と告げて鼻歌交じりで軽快に戻っていく店員の様子を見るに、店にとってもいい影響を与えたようでホッとした。

 

 了承も取れているようなので、迷宮の進捗と手伝いの様子を互いに話しながら食事をいただく。

 出店や今朝の食事でのタレ焼きの肉も美味かったが、店内食だとスープが特に美味しい。

 

 肉や野菜の旨味の濃い出汁が、大きめの具材と合わさって満足感のある食べ応えだ。

 うどんでも入っていたら、流行りそうな気がする。

 あ、箸がないからそれは難しいか。

 

 

 朝からパン屋に向かい、朝食を頂いた後に店番を終えたリカヴィオラは、女将さんのプラン通りに数件の配達後にこの店の手伝いに移ったそうだ。

 今更だが、一般販売の他に何軒かの飲食店にパンを卸しているほどの店であるため、代わりに貰えた惣菜が充実した食事だったらしい。

 自分たちばかり外食で申し訳ないと思ったが、リカヴィオラはそれ以上に色々な料理を食べられていそうだ。

 

 明日はパン屋の後、同じこの店での手伝いなのだと聞いた。

 明後日は違う店ということだが、パン屋の女将さんがそれぞれの店に話をつけてくれているそうなので、お任せしていいだろう。

 朝食用の料理は、明日の配達時に次の店に注文しておいてくれるらしいので、受取時に支払えばいいようだ。

 

 

 そこまで話したところで、衝立の向こうから声がかかる。

 顔をよく見れば朝に料理を渡してくれた男性で、昨日も対応してくれたこの人が店主らしい。

 

 引き受けてくれたことの礼をすると、あちらからもお礼をされた。

 急な面倒事になったと思っていたが、予想以上にリカヴィオラが役立っていたそうだ。

 物覚えもいいし、シームでは目を引く見た目も相まってホール仕事がしっかりこなせていたらしい。

 

 早めに飲みに来た常連が、少し変わった丁寧な受け答えと愛嬌の良さを気に入って、注文を増やしたり仲間を呼んだりしたので、今の盛況具合になったんだとか。

 おかげで通常営業分の食材が尽きかけて、店員も言っていたように早めに閉めることになりそうというのは本当のようだ。

 

 可能であれば明日は夕方以降も、なんて切り出されたが、それは家の改築が済んでから考えると返答する。

 店主のいないところでリカヴィオラの希望も聞かないとだ。

 自分としては1日の労働時間も気になるし、店の一番忙しくなる時間帯とはいえ家に皆が揃う夕方以降に働かせるのも気が引ける。

 

 給金の話も出たが、それは丸々彼女の取り分にするつもりなので、そこで話し合ってほしいとも言った。

 商館にいたのだからそれなりの相場は判断できるだろうし、そもそも全員に不定期にお小遣いを出してるしな。

 必要経費は別途にしているので、別に他所で働かなくても暮らしていけるのだ。

 

 それでも、初日で熱望されるほど好印象だったのなら、そこは素直に嬉しい。

 とりあえず今日の食事は代金不要と言われたので感謝を述べ、明日の朝食もお願いして店を後にした。

 ……すでに空になって下げられた皿が数枚あったことは、知っているんだろうか。

 

 

 全員で商店街から自宅に向かってのんびりと歩く。

 

 店を出る少し前くらいに夕方の鐘が鳴っていたので、大工たちも作業を終えているだろうか。

 井戸の横を通るくらいで、顔を見たことのある何人かの弟子とすれ違った。

 

 

 

 

 家の裏に顔を出すと、ニカドーと数名の大工が図面とにらめっこをしていた。

 

 

「おっ、戻ってきたな」

「お待たせしてすみません」

 

「いやぁ、いいぜ。

 初日だから勝手に待ってただけだからな」

 

 

 そうは言っても、進捗やら方針やらは家主に伝えることくらい頭の片隅に置いておけばよかった。

 明日以降は書き置きして引き上げてもらっても構わないと伝えておく。

 

 

「そうだ、これだ。

 本当にシームラウ家の使いからって手紙を持ってきて、焦っちまったぞ」

 

 

 道具入れとは別の、図面を入れるカバンからニカドーが封書を取り出して渡してきた。

 受け取ってそのまま流れるようにアコルトに手渡すと、簡単に確認して「招待状ですね」と呟いた。

 

 

「……領主様んとこに招待されてんのか?」

「え、ええと、はい。

 フェルス様とカルム様にご縁がありまして……」

 

「あれか、前にドレスで歩いてたってのがそれか!」

 

 

 そりゃ見られてないわけがないとは思ったが、小さい噂になっていたらしい。

 

 自由民で女所帯で、街の端っこに住んでいる魔法使いなどという怪しい要素しかないから、それがドレスで彷徨きだしたというのに受け入れられているのは、知り合った人々がそれをいい方向に捉えてくれているおかげだろう。

 出会いに感謝である。

 

 

「あの令嬢様に目をつけられたなら納得だな。

 今はだいぶ落ち着いたから、付き合いもいいだろうよ」

「え、あれで……」

 

「お嬢様、お言葉が」

「ま、昔を知らなきゃ今でもお転婆には見えるか」

 

 

 招待状を指差して、少し声を潜めたニカドーが続ける。

 

 

「小さい頃は()()()回りくどい事なんてしねぇで、ご意見を直接言いに来るお嬢様だったからな。

 街中の方じゃ、好きな料理のある店に直接出向いて、自分の小遣いで注文してたんだぜ。

 店の方も慣れちまって、料理を一頻(ひとしき)り絶賛した後に寝ちまったところで、控えてた護衛の騎士様がおぶって帰るのがいつもの流れだったんだぞ」

「なんともまぁ……」

 

 

 想像に(かた)くない情景が思い浮かぶ。

 

 

「領主様も詫びに来てたりもしたようだが、娘には甘くてな。

 それでも10歳も過ぎたくらいからは、流石に手順を守らせるようにしたらしいぜ。

 だから年寄連中はあのお転婆姫が、って……おっと!

 話が逸れ過ぎたな、悪い悪い」

 

 

 勘違いでカルムとの間柄を疑った時は自身を恥じていたようだから、フェルスもそんな過去を自分には隠したかったりするんだろうか。

 成人しても公務に縛られておらず、あの時レオニー伯爵が釘を刺さなかったら、確実に家に押しかけられていたに違いない。

 

 そんなお姉様の話題は置いておいて、目下は家の進捗についてである。

 

 

 増築予定の場所は掘り起こされ、廊下から繋がるように基礎のセメントが流し込まれている。

 型枠に使われている木は、朝に運び込まれていたものだろう。

 

 これが硬化し、その上に建てられるようになるまでの間に柱や梁になるパーツを(こしら)えていくんだとか。

 一部屋分といえど短時間すぎるのは異世界ならではというか、順調という話なので仕組みのわからないものは本職に任せておけばいい。

 

 家の中に入って土間に向かうと、竈の横に煉瓦で組まれた棚のような構造物があった。

 炭を入れたり、焼き場の幅を確認させてもらったので、明日から完成形まで持っていくらしい。

 Lサイズのピザくらいなら余裕で入りそうだし、包み焼きなんかもこちらの石窯の方が均等に熱が伝わりそうなので、出来上がりが楽しみだな。

 

 今朝から追加で貯水容器を用意したとのことなのでその場所も確認し、今日の作業は終了となった。

 鍵については前に複製してもらった分を預けてあり、仮に朝に会えずとも工事を進めてくれるそうなので、施錠をして早くに出かけても問題ないらしい。

 

 明日以降の作業もお願いしてニカドーたちを見送り、洗濯物を取り込んだ。

 途中帰宅しないと干し時間が長くなるので、風通しのいい室内干しでもいいかもしれないな。

 

 

 

 大工たちは帰ってしまったので、浴室へと移動して無詠唱で魔法を連発し、ジャバジャバと給湯していく。

 早めの外食だったが、掃除なんかもしていたら結局普段通りの時間帯だ。

 

 ニカドーたちはわりと綺麗に使ってくれているが、どうしたって出入りの人数が増えれば土足の家では汚れてしまう。

 板張りで土足厳禁にして素足かスリッパのような簡単な履物で過ごすということもできるっちゃできるが、改装と普段の手入れが面倒そうで現状は打ちっぱなしのままだ。

 

 ベッド周りだけはラグマット代わりに厚手の布を敷いて靴を脱がせてはいるが、それ以上広げるのは掃除や管理が大変になるのが目に見えている。

 冬場になったら毛足の長い絨毯でも敷こうかなぁ。

 

 

 お風呂の湯が溜まったので皆を呼び、服を脱いで順番に体を流していく。

 付けたのを忘れていた浴室の鏡に吃驚しつつ、迷宮での疲れをお湯に溶かした。

 

 

 寝室に集まり、カルムからの手紙の中身を確認する。

 アコルトに読んでもらったが、シームラウ家への招待日は5日後の中月23日で確定となり、この招待状と以前渡されたエンブレムの入った刺繍を持参するようにと書かれていた。

 

 服装もドレスで構わないということで、料理についてはシェフたちには言葉で説明する程度でいいんだろう。

 基本的にはアフタヌーンティー的な、お茶会のような扱いにお呼ばれしたというニュアンスに思える。

 

 あとは話題くらいが不安要素だが、ルテドーナで20階層を突破できたし、弱点属性が揃っているというシームの22階層に進んでみようか。

 そうすれば暫くはシームの迷宮に潜っているとの弁明もし易い。

 

 明確にレベルキャップに引っかかったように感じたのは、15階層でのLv37の時だ。

 今は最大ジョブレベルが40であるが、22階層に上がるのなら、もうしばらくは大丈夫そうに思える。

 23階層からはランクが変わって魔物のラインナップも変わるので、それまでにできるだけレベルを上げておきたい。

 

 その頃にはセナクロワが加入して、戦闘面も変わってくるだろうか。

 彼女にもドレスを揃えるなら何色だろう。

 

 自分が青、アコルトが黒。

 シャオクが緑で、ミーラスカが紫に、リカヴィオラの赤。

 

 系統的には黄色あたりが並んだ時に良さそうだが、彼女の髪は青色で長身なので色合いの調整が難しそうだ。

 そのあたりはナルザさんに頼ればいいか。

 あの人はデザイナーだし、色彩についても見識があるはずだ。

 

 

 あまり考え込んでいると皆の睡眠時間を削ってしまいそうなので、このあたりで就寝といこう。

 一番早かったリカヴィオラが眠たそうなので、今日は2階で全員で寝ることにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 起床してからの行動は、殆ど昨日と同じだ。

 リカヴィオラを送り出して、食事を取りに行き、洗濯や他の家事を行う。

 

 さっそく自分は忘れていたが、アコルトに言われて先に工事現場の樽などに水の補充をしておいた。

 昨日の迷宮で遠志の回収もできていたので、パーティライゼーションで強壮丸を使いながら一気に済ませる。

 

 ひと仕事終えて朝食をとっていると、今日もニカドーたちが資材を載せた馬車を引いてやってきた。

 工期も短いが金額が金額だけに、早くからの対応でありがたい。

 

 急いで食べ終えて、補充済みの水の容器を確認してもらう。

 分量も問題ないことを確認し、石窯の上部を半球状に仕上げることや、排気口の方向の調整を聞いて、残りの作業をお願いする。

 今日には窯の形状を整えて、耐火セメントを塗っていくらしい。

 

 素人にできることはないので、今日も迷宮探索を進めよう。

 

 

 

 昨日考えた通り、本日はシームの22階層を試してみたい。

 

 迷宮前に着くと、アコルトのジョブを探索者へと変更してパーティーから離脱させた。

 自分が階層案内をしてもらうにはパーティーを解散しなくてはならないし、そうするとリカヴィオラが外れたままになってしまう。

 階層を上げて、せっかく経験値が多くなるというのにそれはもったいないので、代わりに行ってきてもらおう。

 探索者たちが並ぶ迷宮脇でめぼしいレベルの者を鑑定で探し、アコルトに銀貨を渡してお願いする。

 

 

 しばらく待っていると、アコルトが戻ってくる。

 無事に案内を受けられたのでこちらのパーティーへと勧誘し、目的の階層へと移動してからジョブも狩人へと戻した。

 

 22階層で2200ナール。

 いくら他パーティーと比べて討伐量が多いといっても、流石にこれ以上は階層を選んで案内を探すよりも、自力で上っていくべきか。

 そのためにもここでレベルアップに注力していこう。

 

 

 シームの22階層の魔物はグラスビー。

 あとはビッチバタフライとハットバットである。

 

 毒と麻痺の状態異常を有するものの、すべてが飛行する魔物であり、風属性で優位が取れる。

 ドロップ品が食材でないのと、ビジュアル的にも迫られたくない連中ではあるが、次のランク帯の魔物に備える階層としてはありがたい組み合わせだ。

 

 遊び人のスキルに初級風魔法をセットし、早速アコルトに索敵してもらう。

 

 

 

 

グラスビー Lv22

グラスビー Lv22

ハットバット Lv22

グラスビー Lv22

ビッチバタフライ Lv22

 

 

 見つかったのはこの階層での初戦闘で最大数の群れ、というのは気になるところだが、戦ったことのある魔物だし、どうせ全体魔法で攻撃するのだからとそのまま狙うことにした。

 ブリーズストームを続けて念じたことで、羽音を響かせていた蜂が空中でふらつき、入り乱れる風で他の魔物とぶつかる。

 

 初撃は油断というか、意識外から体を揺らされるからか奇襲のように面白いように攻撃が入る。

 それでもそよ風(ブリーズ)でしかないので、落下とまではいかないのはこれまでの戦闘で分かっていた。

 

 単体魔法や壁魔法なら、その形状を保つのに若干気流が強いので、二重に発動すれば撃墜に至ったかもしれないが、今度は命中させること自体が大変だ。

 魔道士の魔法になったり、三重の発動ならあるいは、というところだが、それはまだまだ先のことである。

 

 

 手数自体は8発分の4ターンで、どの魔物も煙へと変わっている。

 状態異常には気をつけつつ、鞭と槍で牽制し、接近は大盾で防いでもらっている間に魔法で仕留めるというパターンを確立できる頃には、昼食の時間帯になっていた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv40
魔法使いLv40/英雄Lv38/探索者Lv40/森林保護官Lv40/遊び人Lv36/博徒Lv28
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師1 細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 盗賊30)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv31

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv29

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv27

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv25



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次回は11/3更新の予定です。

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