シームの迷宮での狩りだが、毎回売却もシームでやっていたらドロップアイテムの量を怪しまれそうなので、今回はアルヴナの冒険者ギルドに飛んだ。
昨日丸1日と今日の昼前までの分で、階層案内の料金を差し引いても数千ナールのプラスになるのは、やはり3割増ボーナス様のおかげである。
ついでに食事もアルヴナで済ませ、休憩を終えたら再びシームの迷宮へと戻る。
全ての魔物が飛んでいるため、魔法使いを除けばリーチの長い槍持ちの多いパーティーくらいしかまともに対処しにくいからか、この階層も敬遠されがちなんだろうか。
自分たちは必中で高火力の全体魔法を連発しているので、人が少ないのはむしろありがたい。
撃墜まではできないものの、空中の魔物の足止めにはなる風魔法というのが、この階層と実に相性が良い。
ハットバットは消音効果のあるような静かな飛行だが、軽量の身体はその影響を受けやすく突進の軌道が逸れやすいし、ビッチバタフライの鱗粉も散ってくれるので、懸念される麻痺状態には陥らなそうだ。
残りのグラスビーによる毒針の射出が怖いが、皆距離を取っての回避や盾による防御を優先しているので、あのアコルトの被弾以来毒を受けることはなかった。
食材と回復薬の原料が手に入らないことに目を瞑れば、戦いやすくて経験値もいい、旨味のある狩り場だ。
博徒がLv29に上がったところで、魔物の出ない小部屋に移動して休憩する。
一先ずの目標としてのLv30まで上げた後は、どのジョブを上げていこうか。
遊び人の上のジョブがあったとして、設定できる数がもっと増えるとかなら、有用を超えてパラレルジョブ持ちには必須となる気がする。
その取得条件を考えるなら、遊び人のジョブレベルと、さらなるジョブ獲得数あたりが妥当だろう。
切り替えるなら火力減退を考慮して知力補正の付いたジョブだが、ジョブ取得を主体とするなら、派生職が生えてきそうな基礎的なジョブを選ぶべきだろうか。
つまり、雷魔法の使える魔道士を見据えて暗殺者を使えるレベルまで先に育成しておくか、農夫や剣士あたりの条件の緩かったジョブを育成して、Lv30での新規ジョブを狙っていくかになる。
前者は現状では知力補正以外に殆ど効果がないし、後者では腕力方面の補正ばかりでそもそも自分が農業や近接戦闘をしていないから、レベル以外の条件で引っかかりそうだ。
他となると……知力補正もある錬金術師か。
これこそレベル以外の派生条件が難しそうだ。
化学反応以上の条件って何があるんだろう。
あとは武器に防具、奴隷商人たちや騎士にも知力補正があるが、名称的に聖騎士くらいしか派生が考えられないし、それもLv50が必要な気がする。
だいたい武器商人の上のジョブって、…………あ!
ザノフのジョブだった、
あれがそうかもしれない。
名称的には装備の鑑定回数あたりも副条件になっていそうだが、それは詠唱省略で連発して稼げるから問題ないだろう。
アイテムボックス操作と同じで、MP消費もなさそうだしな。
結局今すぐには変更はできないので、候補を考えながら狩りを続ける他ない。
どのジョブにしたって最初は知力補正の違いで手数が増えそうだが、ある程度まで上がれば4ターンに戻れるだろう。
まずは博徒を上げてからだ。
***
同じ魔法だけを念じればよく、それで全ての魔物の弱点が取れるというのはやはり快適だ。
力任せに進行してくる敵もいないので前衛の負担も軽く、探索速度も上がって、会敵頻度もそれに比例する。
気がつけば蜜蝋がアイテムボックスの中で何列にもなっていて、実質200倍の入手経験値によってジョブレベルも順調に伸びている。
待機部屋もすんなりと発見でき、ボスであるキラービーはルテドーナの迷宮で経験済みであったため、そのまま挑むことにした。
キラービー Lv22
ハットバット Lv22
黄色と黒に赤筋の入った警告色の蜂が現れる。
ブリーズストームを念じ、晴れきる前の煙を散らしながら魔物たちの体をブレさせた。
隣に出てきた蝙蝠は、ボスにぶつかりそうになって、居心地悪そうに迂回しながらこっちへと向かってこようとしている。
状態異常耐性ダウンをかけたことで、槍と鞭が何度か触れてハットバットが痺れて落下、その後にキラービーも毒攻撃らしき魔法陣が浮かび上がらせたが、動きを止めたことで被弾して麻痺の餌食だ。
ボス挑戦には博徒が必須になりそうだな?
風魔法で攻撃し、魔物たちが空中での体勢の維持に注力しているところに状態異常付与の付いた武器が伸びてくる。
ダメージを与える攻撃としてではなく、クールタイムが明けるまでの牽制で十分だし、一度地に落ちた後は移動するために再び飛び上がる必要があるので、狙われたままでは動きづらい。
拘束に長けた戦闘は、ゲームでも現実でも強いな。
作中の彼のように、博徒のスキルを発動してからジョブ変更、というのは理にかなっていたのか。
出現位置や魔物の数が確定しているボス周回中ならできるかもしれないが、通常の探索ではイレギュラーで手間取りそうで、自分はできないな。
初見の階層では博徒を固定させてもいいくらいだ。
お供もボスも倒し、コウモリの羽と蜂蜜を回収して23階層に進んだ後は、ダンジョンウォークで22階層へと戻り、道中の索敵を再開した。
半日も戦っていれば徐々に行動は最適化されていく。
もう何日か通えば、接敵しても焦らず処理できるだろう。
昨日と同じく、そろそろ夕方の鐘が鳴りそうだとシャオクたちから伝えられると、いい時間だとしてすぐ先にいた群れを屠ってから帰路についた。
商店街の絨毯に出てきて、リカヴィオラの手伝っている飲食店へと向かう。
今日の繁盛具合はそこそこだが、注文はあちこちから聞こえてきている。
昨日案内してくれた店員が通りがけにこちらに気付いて、また隅のテーブル席へと通してくれた。
注文を聞きに来たのは別の店員だったが、料理を運んできたのはリカヴィオラで、今日もそのまま上がりにしてもらったようである。
厨房の方でも手伝ってみたそうで、何品かの下拵えをやらせてもらったらしい。
彼女の前に置かれた料理だけ盛り付けが少しばかり違ったように見えたが、自分の分の料理も作らせてもらえたそうだ。
家での料理も主体的にやっていたので、焼き加減も遜色なく、店主の料理と並べなければ腕の違いも分からないかもしれない。
頑張っている様子を褒めつつ、明日の出向先の店も聞いてみると、今の店から数軒隣の、これまた以前に屋台を出していた店だった。
やっぱり商売を手広くやっている所の方が、繋がりも多いのだろう。
配達の際に話も通しておいたらしく、明日明後日の朝食もそちらに取りに行けばいいそうだ。
洗濯や掃除といった家事の方を代わってもらっていることに申し訳なさそうにしていたが、いつも1人でやってもらっていたわけなので、そこは気にしなくていいと告げた。
明日から2日間はその別の店の手伝いになるが、最終日の5日目はまたこの店に決まっているんだとか。
どうも店主の熱望のようだが、勤め先が増えすぎるよりはいいか。
料理も美味いし。
食べ終える頃には夕方の鐘が鳴り、会計を済ませてから店主に声を掛けて店を出る。
自宅に戻ると、片付けをしているニカドー親方たちがまだ残っていた。
明日には壁を建てて遮蔽セメントを塗り込み、屋根の方も進めていくんだとか。
浴室脇の廊下の先にはめ込むドアらしきものも、室内に立て掛けてあった。
朝夕しか確認できていないが、見る度に形が出来上がっていくプラモデルのようにワクワクする。
問題なく進んでいるそうなので、このままお任せしよう。
洗濯物の取り込みや掃除をしている間に大工たちは引き上げたので、自分はお湯作りへと移行する。
帰り際にミトラグからの伝言で、祝賀会は中月26日でどうかという話があったそうだ。
ニカドーもシャオクの育ての祖父と面識があるので参加してくれるからだろう。
その頃ならシームラウ家の約束とも、セナクロワの到着とも被らないのでちょうど良さげである。
豚バラ肉も大量にアイテムボックスに回収済みなので、明日は返事とともに提供する食材の量も相談してこようか。
***
翌日の朝もリカヴィオラの見送りから始まり、給水と洗濯、身支度を終えて大工たちを迎える。
本日の朝食は、こちらも以前に露店で食べた肉団子だ。
細かくした軟骨も練り込んであるつくねを茹でてから、野菜と炒めた感じだな。
芋を芯にして食べごたえがあり、塩辛くてパンにも合う味付けではあるが、たぶん甘酢あんにした方が絶対美味しい。
今日店に寄った際に進言してみるか。
なんならコボルトスクロースとスライムスターチくらいは渡してきたっていい。
今回はトレイではなく袋詰めで受け取れたので、食べ終わった後はゴミをまとめてから迷宮に向かうことにした。
シームの22階層ではブリーズストームだけの単調な狩りなので、発見から魔法攻撃、群れの魔物の数が多ければ状態異常ダウンも入れて、あとはクールタイムごとに全体魔法を続けるだけだ。
シャオクも突きではなく、槍を横に振るうように牽制に留め、アコルトの鞭と共に敵の移動を制限する方針に落ち着いた。
突出してくるのは比較的スピードの速いグラスビーであるが、それもミーラスカの大盾の前には毒針も通らず、ダマスカス鋼の壁に体を打ち付けるだけとなっている。
役割が確立され、安定している戦闘は気が楽だ。
小一時間ほどドロップアイテムを増やしていると、博徒のレベルが30に到達した。
1つの節目ではあるが、ジョブ一覧に並ぶ名前に増えた様子はない。
派生職のその先は、やはりLv50の大台に乗らないとダメそうかな。
しかし、あの目利きというジョブ、武器商人と防具商人をLv50に上げて……というのは
商談や商品管理をして忙しい身であるなら、非戦闘職といえどLv50を2回というのは彼らの年齢でも厳しいだろう。
レベルキャップも考えれば、深層で戦うパーティーに加入だけさせてもらって、地上で経験値を貰うようなことをしなければ難しい。
目利きのジョブに就いていた、ザノフやルテドーナにいた競売人のドワーフは、いずれも名前の鑑定では名字がなかった。
有力貴族でもないのに、前述の手法が取れるとは考えにくい。
複数ジョブのレベルを参照する代わりに条件となるレベルが緩和されている、というのがゲームらしい条件に思えるし、現実的なラインだと考えられる。
探索者Lv30とその派生の商人2種類のLv30と考えれば妥当だろうか。
いやそれだと逆に、もう少し若くてもジョブ取得ができたり、取得者が多そうだな。
他に条件もあるのかもしれない。
うーむ、推論に推論を重ねる考察よりは、自身の現状でどのジョブを上げるかをとりあえず決めることが先か。
派生商人2種よりは、ということで錬金術師を6thジョブにセットした。
最初の何組かの群れについては手数が増えてしまったものの、22階層で200倍効率、それに非戦闘職にあたるのか、錬金術師のレベルはぐんぐん伸びていった。
昼休憩まではしっかり5ターン分はかかっていたものの、アイテムボックスの列数を気にする頃には5巡目の2発目は撃たずに終えられるようになっていた。
ドロップ品の売却はシームの冒険者ギルドで行い、昼食も済ませて午後の狩りを再開する。
そこから夕方まで休憩を挟みつつ、予定の時間まで狩り続けると、森林保護官以外のレベルが上がった。
英雄のレベルは今でこそ遊び人には追いつかれていないが、このペースならLv50になる前に抜かれるのは間違いないだろう。
帰り際には、再び4ターンの魔法攻撃での討伐に戻ってこれたので一安心だ。
全く育てていなかった錬金術師のジョブレベルの急上昇を含めた、パラレルジョブ全体のレベルが上ったことと、ミーラスカの巫女のレベルアップの影響だろう。
明日以降の戦闘も順調に進められそうなことに一安心しつつ、シームの商店街へとワープゲートを繋げた。
夕食に向かう前に、眠る人魚亭へと足を延ばす。
時間が遅いほど宿は忙しくなるだろうし、ミトラグへの返事も早い方がいいはずなので、先に済ませよう。
「あれ、いらっしゃい。
家の工事のほうに伝言を頼んだんだけど、それを聞いて、かな?」
顔を見て早々、察しのいいミトラグが来訪の目的に気付いてくれたようだ。
「そうですね。
26日でこちらも問題ありませんということと、持ち込む食材についてです」
「おー、よかった!
量も多そうだし、アイテムボックスで預かれるにしても数日前の方がよさそうだよね」
「それもあるんですが……、魚介類に加えて豚バラ肉もご用意できるようになりました」
「……迷宮食材の?」
「はい!」
「…………聞いてた分の尾頭付きやトロでも相当なのに、本当に大丈夫なの?」
「ボスの豚ロースやヒレは集められていないんですが、バラ肉ならいくつでも」
「そ、そっか、ありがとう。
仕入れの方も調整するから、預けに来た時に詳しく相談するね」
そういえばシームの迷宮では、マーブリームやブラックダイヤツナは12階層だから比較的入手しやすい部類だったか。
ピッグホッグはもっと上の階層になるが、別の街の迷宮で入手しやすい階層があったのだと、シャオクあたりに誤魔化してもらえばいいかな。
自分だとすぐボロを出しそうだし、アイテムボックス持ちと公言できるシャオクとリカヴィオラに運搬してもらう時に任せるか、うん。
話を終えた後は、飲食店の方に移動する。
今日のリカヴィオラの勤務先は違う店だが、朝に料理を取りに来たので流石に間違わない。
こちらの店ではエプロンを身に着けたリカヴィオラが給仕をしていたが、自宅でのメイド服に見慣れているので、新鮮味がないと言ったら怒られるか。
質素な装いということで、これもこれで可愛いんだけども。
昨日までと同じように、自分たちの注文した料理を運んでくるところまでで、今日の手伝いは終了らしい。
柔らかく味の染みた煮込み料理を頬張りつつ、今日あったことや祝賀会のことなどを話題にしながら、今後の予定についても話し合う。
3日働いてみて、飲食店での仕事も楽しいと口にした一方、やはり家事の方が気になるようだ。
偶には客をもてなしたり、何人分もの調理をするのも楽しいといえども、主人に仕えての身内の世話や、炊事に洗濯に掃除をしつつ、自分のペースで家を任される方が性に合っているのだとも聞いたりもした。
継続的にではなく、ある程度間を置いたり、タイミングが合えば手伝いに出てもいいという感じかな。
客商売なのでそんな気まぐれにピンポイントでの雇用は無理だと思うが、何日ごとなど事前に決めておけばそういう機会があってもいいんだろう。
今回の手伝いで、彼女自身の技術や認識の幅が広がったようなので、いい経験にはなっているみたいでよかった。
食事を終えて、こちらの店主にも確認をいくつかした後、自宅へと向かう。
途中でニカドーたちとすれ違い、作業の進捗を少しばかり聞いてから別れた。
家に戻ってきて裏手に回ってみると、一目で分かる。
壁が建てられており、しっかりと部屋としての区画が出来上がっていた。
屋根部分についてはまだ簡素な枠組みのままであるものの、遮蔽セメントの塗られた壁は立派に境界を区切っている。
押した程度じゃ崩れたりはしないだろうが、不都合があってはまずいので触ったりはしないものの、真新しい壁面は新築を感じさせて手触りを確かめたくもなるが、我慢だ。
玄関に回り屋内から廊下へ進むと、こちらもまた真新しい木製の扉が取り付けられていて、先ほどの部屋の内側へと繋がっている。
突貫にしては流石の仕上がりに感嘆しつつ、壁と扉ができたことであと数日で本当に仕上がるのだと実感も湧いてきた。
増築と一軒建てるのでは大きく違うとは思うが、異世界の大工ってすごい。
明日からの作業の進捗にも期待しつつ、残っている家事と日課をこなしていった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv41
魔法使いLv41/英雄Lv39/探索者Lv41/森林保護官Lv40/遊び人Lv37/錬金術師Lv18
(村人5 農夫1 戦士30 剣士9 僧侶30 巫女31 商人30 細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv32
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv30
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv28
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv26
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次回は11/6更新の予定です。
目新しい内容もなく順調に進んでいる内容を描写するというのは、必要な工程といえども面倒でまとめるのが難しいです。
特に拙作はミツキくんの思考主体で動かしているので、文脈上読者がすでに分かっているであろう内容を、ミツキくんが今考えて行動しているものとして描写しないと、物語としては省略しすぎて、テキスト速報のようになってしまいます。
行動記録ではなく、ストーリーを紡いでいるので、諄い文章ながらもお付き合いいただけたらと思います。
それはそれとして全然関係ないですが、急にシステムメッセージみたいなログが出てくる作品は結構好きです。
『条件を満たし、〇〇を取得しました。』みたいなやつ、拙作では使える場面がありませんが。