異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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161 薫香

 迷宮探索を早めに切り上げたのもあって、家についた頃に鐘の音が聞こえてきた。

 家の裏に回ってみると、先程の音で今日の作業を終えたらしい大工たちが片付けをしていた。

 屋根に上って作業している者も居たので、ギョっとしているとニカドーが寄ってくる。

 

 

「おうっ、今日は早いんだな」

「はい。

 工事の方は問題なさそうですかね?」

 

「まぁな。

 明日は足場を崩したり、掃除と片付けが主だからよ、こいつらは夕方には引き上げると思うが……明日は領主様んとこだったか」

「そうです。

 なので、昼過ぎからは何時までかかるかわからないので、待たずに帰っちゃって大丈夫です!」

 

「んー、そうだな。

 依頼人がいねぇのは申し訳ねぇが、人数も人数だからな。

 仕上げた後は夕方にはまとめて酒場に行っちまってるだろうから、明後日にでもうちに寄ってくれ」

 

 

 1部屋と石窯だけではあるが特急で頼んだ作業だし、完成祝いというか打ち上げがあるのも当然か。

 無理を言って急いでもらったこともあるし、そもそも仕事後まで拘束する権利はない。

 それに部屋の使い方に、改めての諸注意などはないだろうしな。

 

 石窯の方の手入れ方法を聞くために、連れ立って家の中に移動する。

 

 

「この大きさは初めてだが、使い方はパン屋とほとんど一緒だろ。

 掃除は完全に冷めてからやる、定期的に灰や屑を掃き出す、水をかけねぇ、だな。

 今みてぇにしばらく使わねぇで十分に乾燥出来るならいいけどよ、何度も言うが水気が残ったまま火を使ったら割れちまうからな」

 

 

 ブラシで掻き出すような手の動作をしてみせたので、雑貨屋で柄の短いものを探すことにしよう。

 竈の方は明日の朝からなら火をおこしても、石窯にはもう影響がなさそうなので大丈夫とのお墨付きを得た。

 

 帰っていく大工たちを見送り、洗濯物の取り込みや明日から使うケトルやカップを洗ったりするなどの家事を終えて、お風呂のお湯作りに移る。

 

 

 ぼーっとウォーターウォールとファイヤーウォールを繰り返しながら、剣士ジョブの派生について考えた。

 

 剣士関連のジョブといって思いつくものを挙げれば、ファンタジーモノでありがちな剣聖とかだろうか。

 剣豪なんかもその系統っぽいが、どちらも順当な剣の達人的な印象だから、こちらはLv50の正道ルートに思える。

 

 あとは長剣や細剣みたいな武器による細分化だが、これはあんまりなさそうか。

 なにしろ長さのほとんど同じ剣ですら、現代の各国の刀剣の名称でバラバラだし、主だった分類も様々だ。

 デュランダルのような両手剣だって、ドワーフは片手で振り回せるから片手剣ということにもできなくはない。

 

 槍にだって槍術士のような分類はなかったし、利用者が多そうなのにジョブ名はでてこなかったしな。

 騎士のジョブがそれに当たるのかもしれないが、騎士団だって剣や弓を使う者もいたはずだ。

 槍使いとしての派生というよりは、防御型で盾を構えつつ攻撃するスタイルが騎士の基本スタイルだから、で系統化しているだけのように思える。

 

 店売りの殆どの武器種を試しているシャオクが取得できていない時点で、基礎ジョブの中には村人のレベルと武器種だけで生えてくる未知のジョブはない気がする。

 一通りの武器を揃えて自分が魔物を倒してみる方が早そうだが、これは保留か。

 

 

 あとは何だ?

 …………暗黒剣士、いや耳馴染みがあるのは、暗黒騎士か。

 何が暗黒なのか分からないが、仮にそんなジョブがあるとしてもそれは騎士のジョブを育てなくては無理そうだ。

 

 他には……、他…………魔剣士!

 なんだか青い病を患ったような候補ばかり浮かんでくる。

 魔剣士は魔剣を使う剣士、という感じだけども、魔剣とは?

 魔法の剣、つまりスキルの付いた剣、ということでいいのかな。

 

 デュランダルの詠唱中断やHP吸収も魔法といえば魔法っぽいが、この場合は属性攻撃の付いた剣だろうか。

 ちょうど今日ドロップした蝶のカードで『風属性攻撃』のスキルが付けられるが、作るにしてもまずは剣士をLv30にしてからかな。

 

 あとは戦士とは一見結びつかない暗殺者のように、特殊な条件のジョブくらいか。

 これに関してはもう、思いつく限りの項目をひたすら試すしかないだろう。

 剣士ギルドに登録すれば情報を得られるかもしれないが、どこの街でも見たことのないジョブの条件など簡単に開示されないはずだ。

 

 

 湯船からお湯が溢れ出たことで時間を掛けすぎていたことに気付き、慌てて皆を呼んで入浴する。

 明日はフェルスお姉様に会うのだし、せっかくだからと香りの違う石鹸を使ってみる。

 泡立ち方はこれまで使っていた方と変わらないものの、確かに彼女の香水に近い芳香が身を包んだ。

 

 明日の約束は昼過ぎからだし、なんなら出かける前にまたお風呂に入ってからでもいいな。

 ……いや大工たちがいるからよくないよと、わしゃわしゃと髪を洗われつつ脳内でツッコミを入れる。

 

 浴室には(かんぬき)を付けてもらっているので出入りは防げるが、屋根に乗っての作業もしているし、窓からだって覗けるかもしれない。

 裸体という意味でも、お風呂として利用していること自体についても色々とマズイ。

 

 明日は出発前に匂いの強い料理は食べないことにしようと心に決めつつ、念入りに体を洗った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ここ最近はアコルトに揺すられて起きている。

 今日はリカヴィオラは手伝いに行かないので出発の声がけはなかったものの、ミーラスカと一緒に朝食のパンと食材を買いに出たそうだ。

 自分も体を起こして、工事用の水の補充をしなくては。

 

 ドレスには出かける前に着替えるつもりなので、今朝はラフなワンピースを身につけた。

 

 竈が使えるようになったので久々にハーブティーを淹れてもらい、肉と野菜を炒めて、買ってきてくれたパンとともに食べる。

 ここ何日も魔法で出した水か、出先で買ってきた飲み物ばかりだったので、朝から温かい飲み物を飲めることが嬉しい。

 

 

 仕事に出てきたニカドーたちに挨拶をして、洗濯物を洗い、畑への水やりと掃除をする。

 汗をかきたくはないので、今日は迷宮には向かわない。

 

 リカヴィオラを含めたメンバー全員で商店街へと歩く。

 途中、パン屋の女将さんにお礼をしたり、ミトラグの宿へと足を運び、探索者ジョブの従業員に食材を預けたりと、諸々の用事を済ませていった。

 

 木工家具の店では、箪笥や棚などの、追加で必要になった収納家具を注文する。

 どれも店に置いていた商品でよさそうだったので、2日後には届けてくれるそうだ。

 

 そうこうしているうちに、徒歩移動も多かったためか昼の鐘の時間が近くなる。

 招待へ向けての準備もあるので、早めに軽めの昼食を取ろう。

 

 リカヴィオラを預かってもらった礼をしたばかりで、また同じ店に食べに戻るというのも変な感じに思えてしまったので、今回は違う店で適当に済ませた。

 計画性とは何なのかと、自分に呆れてきそうだ。

 

 

 その後は自宅へと戻り、出かける準備だ。

 

 それぞれドレスに着替え、身支度を整える。

 自分はアコルトにそこら中を直してもらったり、薄めの化粧を施してもらったりとお願いしまくりだ。

 他のメンバーは、妾奴隷の教育も受けていたリカヴィオラがメインに調整している。

 

 正午にあたる時間を告げる鐘が鳴ったのを合図に、やっと支度が終わる。

 ここもそこもと延々と調整地獄になるところだったので助かった。

 

 

 予定では、眠る人魚亭前の絨毯での待ち合わせになっている。

 ドレスを汚さないように慎重に歩いて向かえば、ちょうどよい時間になりそうだ。

 

 

「おおう、そうしていると本当にご貴族様みてぇだな。

 あ、いや、普段もそうなんだけどよ」

「違いますからね?」

 

 

 出掛けに大工たちに声を掛けると、物珍しそうに集まってきたので、ニカドーが散らそうとしている。

 うちのメンバーはリカヴィオラ以外種族が違うし、大工たちもドワーフや人間が多めだが作業人数のために駆り出されたエルフの者も混じっていたりするので、あちらこちらに視線が飛んでいる。

 ドレス姿の女性なんて街中じゃ見ないからなぁ。

 

 家の仕上げの方をしっかりやってもらうようにお願いして、よく分からない歓声を背に宿へと向かうことにした。

 

 

 

 

 予定よりは早めに着いたかと思ったが、絨毯の前には先客がいた。

 

 

シャイルヴェ エルフ ♂ 44歳 冒険者Lv17

 

 

 以前も送ってくれた、カルムの使用人だ。

 パリッとしたフォーマルな服装をしているものの、目立ちにくいように思える佇まいは、そういう技術なんだろうか。

 

 こちらが近付く前にきれいなお辞儀をして、爽やかな笑みを浮かべている。

 

 

「お越しくださりありがとうございます、ミツキ様。

 本日はよろしくお願いいたします。

 エンブレムはお持ちでしょうか?」

「はい、こちらに。

 メンバーはこれで全員で、パーティーはリカヴィオラ、……彼女がまとめています」

 

 

 手渡した刺繍のワッペンを簡単に確認され、礼を言われて返却される。

 バッチリ持ってきているぞ。

 出かける前にアコルトがポーチに入れてくれたからな。

 

 

「ありがとうございます。

 お手数をお掛けしますが、ご案内する関係で、パーティーにつきましては私が今一度編成させて頂く規則となっておりまして……」

「あっ、じゃあリカ、解散お願い」

 

「畏まりました!」

 

 

 防犯上、パーティーの権限をあちらが握るのは当然か。

 リカヴィオラが呪文を唱えてパーティー解放と脳裏にメッセージが現れた後、シャイルヴェが全員を勧誘し、フィールドウォークを詠唱し始める。

 

 絨毯の前に黒塗りの扉が現れ、そのまま先導するシャイルヴェに続いてぞろぞろとゲートを抜けていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 出てきたのは前回と同じ、重厚な作りの小部屋に備え付けられた、豪華な絨毯だ。

 自分は二度目だが、初めての皆はキョロキョロとしているところに、ノックの音が響いて扉が開いた。

 

 以前も付いてくれた侍女たちを含む、5人ほどの女性が入室した。

 今回の世話係らしい。

 

 ついてくるように促されて着いた先は、これまた前回と同様に化粧部屋だ。

 今回は一応軽食がメインとなるが、簡単にだがメイクや衣裳の手直しを受ける。

 

 そうだ、と思い出してポーチから小箱を取り出す。

 フェルスへのプレゼントにと考えていたガラス製のブローチだが、貴族相手にその場でいきなり渡すのは失礼、というか安全確認とかで受け取ってもらえないかもしれないし、先にチェックを受けておいた方がいいだろう。

 

 結果がどうであれ、帰りまでには手元に返却してくれる旨を聞いて、侍女に預けることにした。

 自分用の方も、それが分かるまでは身に着けないでおいたがいいだろう。

 目聡いお姉様はそういうところに気付きそうだし、自分ばかりというのも気が引けるし。

 アコルトも同様の理由で、自身の分は外していたようだった。

 

 

 少しの間化粧部屋で待っているとノック音が聞こえ、世話係が応対したかと思うとシャイルヴェが入室する。

 

 

「お待たせいたしました。

 これよりご案内致します」

 

 

 その声に皆立ち上がり、エスコートを受けて城の中を進んでいく。

 誘導される順路は、どうやらこの前招かれた部屋への道とは違うらしい。

 あの部屋は少人数用であったし、人数の多い今回であればそれも当然か。

 

 やがて応接室の一つらしい扉の前で止まると、シャイルヴェがノックと報告を述べ、内側から扉が開かれた。

 左右から騎士が開けてくれたようだ。

 

 形式ばった方がいいのかとアコルトの方をチラ見しつつ、同じように頭を下げながらの動作をしたところで、ツカツカとヒールで駆け寄る音が聞こえるとすぐに両手を取られてぐっと引っ張られるように体を起こされた。

 

「お招き与り───」

「いらっしゃい、ミツキ!

 アコルトにシャオク、ミーラスカに、リカヴィオラね!

 みんな、今日もかわいいわね!」

 

「あ、ありがとうございます……!

 フェルス様……、お姉様も本日のご衣裳もよくお似合いで……」

「ふふっ、ありがとう!

 あなたたちのドレスの彩りもお化粧も、あら……この香り……」

 

 

 そうだった、えーっと。

 

 

「帝都の方で芳香付きのオイルが売っておりましたので、お姉様が好まれている香りかと思い、使ってみました」

「そうなの?」

 

 

 フェルスが左手を絡めたまま後ろに引いて、もう片方の手でこちらの方を引き寄せて、どれどれと言わんばかりに目を閉じてこちらの首筋に鼻先を近づける。

 顔が近い近い近い……!

 あの石鹸よりもフェルスはずっといい香りがして、ふわっと包まれた香気は、確かに同系統を思わせる花のものに思えた。

 

 

「そうね、(わたくし)の使う香水によく似ていて、こちらの香りも好きだわ。

 ……以前も思ったのだけれどミツキって、いえ、あなたの従者たちも、身綺麗にしているわよね。

 髪もこんなに艶やかだし、羨ましいわ!」

 

 

 フェルスの細い指で後ろ髪を梳かれ、うなじに手を回されて鼓動が落ち着かない。

 しどろもどろになってお礼を述べていると、聞きなれた声が耳に届いた。

 

 

「フェルス様。

 ミツキ殿も困っておいでですので、そのあたりで」

 

 

 婚約者に甘い婿殿こと、カルムである。

 止めるタイミングはいくらでもあっただろうに、一通りフェルスが自分をいじり倒すの見てから声をかけただろ。

 恨めしそうに見たのが伝わったのか、なんのことやらみたいな表情でとぼけてきたように見えるぞ、こいつめ。

 

 

「シェフたちも待たせておりますので、そろそろ移動されてはいかがでしょうか」

「うぅん……あまり時間もないのだし、そうしましょう。

 今日は公式のものではないのだから、あなたたちも楽にしていいのよ!」

 

 

 振る舞いでなく、言葉遣いについても気にしなくてもいいとは言ってくれたが、粗相のないようにと思えば大して崩すこともできないだろう。

 そもそも皆は立場的に、直接聞かれたこと以外は話さないだろうしな。

 それでもフェルス側から声掛けしてくれただけでもありがたい。

 

 なぜか腕を組まれたまま、厨房のある方へと廊下を移動する。

 話題に答える度に顔を近づけてきたり、体を押し付けられているのは何なんだろう。

 ただただ楽しそうなフェルスを見ていると、忠告するのも野暮に思えたので、されるがままにしていた。

 

 

 今日の予定としては、これからパンケーキのレシピをシェフたちに教えてから、実際に作ったものをお茶と共に頂く形だ。

 すでに別のお茶請けは用意してあるようなので、出来上がりは気にしなくてもいいらしい。

 シェフたちは原形を知識として取り込みたいだけで、研鑽は向こうだけでやってくれるようだからな。

 

 ティーパーティーの間に話すのは、迷宮のことや日々の生活のことになるだろうか。

 シャオクの鍛冶師の報告は……前にも考えたが、わざわざしなくてもいいだろう。

 聞かれれば隠さず言うが、パーティーの戦力のことなど大っぴらにするものでもない。

 あちらとしてもその気ならギルドに問い合わせられるだろうし、それこそインテリジェンスカードのチェックをすればいいだけだし。

 

 案内が終わり、飲食店とは比べ物にならない設備が整った厨房へと通される。

 

 こちらに挨拶したのは、前回眠る人魚亭に来ていたシェフの他にも、同じ調理服を着た者が数名だ。

 そしてもう一人、ローブを纏った人物が気だるそうに座っている。

 もしかして、魔法で氷を都合してくれる魔道士か?

 

 表情に出さないように、端から一人ずつ鑑定を使っていくことにした。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv45
魔法使いLv45/英雄Lv42/探索者Lv45/森林保護官Lv44/遊び人Lv42/巫女Lv31
(村人5 農夫1 戦士30 剣士Lv29 僧侶30 商人30 錬金術師22 細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv34

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv32

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv31

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29



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次回は11/13更新の予定です。

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