異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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164 魔剣

「それでよかったんですか?」

「うん、用途的にはこれでいいんだよね」

 

 

 ルテドーナの金物屋で、熱に強い金属でできた、先が薄く広がったチリトリみたいなものを購入した。

 シャオクが不思議そうに見つめるこれ自体は、炉の中のゴミをかき出す際に火かき棒とともに使うモノらしいが、形状からして窯焼きのピザで取り回しに使うパーラーだったかなんだかのアレ代わりに使えそうなので買うことに決めたのだ。

 

 最初は店員に色々聞いてみたのだがうまく伝わらず、食材を扱うと言った当てつけに持ってこられたような気もするが、鉄板や金型などの器具も一緒に何点も選んだことで、あちらの機嫌も良くなったのでセーフだ。

 まぁ、カルク持ちの商人だったので割引させてもらったわけだが。

 

 一つ一つは自分でも扱える重さだが、金属製品がいくつも重なれば結構な重量になる。

 現代的な様々な形の軽量合金の型が量販店で買えるわけではないのだ。

 シャオクとミーラスカにお願いして受け取ってもらって、ワープで自宅との往復をしつつ、使うんだか使わないんだかわからないモノまで買ってしまう。

 せっかく家も広くなるんだし、多少の無駄は気にせず道具は揃えておこう。

 

 途中、家事も一段落したらしいリカヴィオラも連れて、服も数着ずつほど買いに出る。

 着回しや高頻度ローテーションの影響で、ほつれも出てきている服は買い替えとかなんだろうか。

 

 少し前は古着を着ていたくらいだし、気にしなくてもいいんだろうが、改めて見ると生地の問題なのか傷むところは傷んでいる。

 現代の服とは耐久性にも違いがあるというか、そこは素直に改良とか技術の進歩の恩恵を受けていたのだと自覚した。

 

 手拭いや、タオル扱いの織物など、消耗品の予備も揃えておく。

 燃料の炭の在庫など、生活に必要なものはたくさんある。

 

 一度契約すればスイッチ1つで済むような生活から離れて暫く経つが、買っておかないと足りなくなりそうで、あれもこれもと無駄に揃えてしまいがちになってしまった。

 水だけは念じれば出せるとかいう、超次元的な状況ではあるが。

 火も風も、日常生活には使いにくい出力なので外の掃除くらいにしか使えないし、土なんて今のところは砂が作られるだけだしな。

 

 

 昼にはまだ早いくらいの時間になったので、そろそろニカドーの家へと向かうことにするか。

 全員で行く必要もなさそうなので、自分とアコルト、それにシャオクと一緒にお礼に行くことにした。

 

 ミーラスカたちには昼食の準備をしておいてもらおう。

 石窯に関しては試運転でいきなり調理というのは難しそうなので、しばらくは火入れと自然冷却の勝手を掴みつつ、取り出し口の掃除程度に留めようか。

 

 

 

 

「こんにちは~!」

 

 

 ノックからの声がけ程度ではどうせ反応が鈍いので、声を張り上げつつ扉を開くというヤトロク式での挨拶だ。

 すぐにドタドタと足音が聞こえ、ニカドー親方が出てきてくれた。

 

 

「おうっ、来たな!

 工事の方はしっかり終わらせたが、気になる所はあったか?」

「いえ、綺麗に仕上げて頂きましたし、大満足です!」

 

 

 皆の称賛に親方が誇らしげに腕を組み、その後は石窯の手入れに始まり、竈や水回りのことなどを改めて教えてもらう。

 浴室……作業部屋については、染料どころかホコリもないくらいにうまく使えていると褒められたが、毎日お湯で流しているからだとは言えるはずもない。

 

 預けていた家の鍵を返却してもらい、また何かあればお願いすると何度も礼をしてからお暇させてもらった。

 

 

 

 帰宅してからは調理を手伝って、皆で昼食をとりながら確認する。

 

 増築に関わる用事はこれで済んだ。

 箪笥やらの収納家具は明日届けてもらう手筈になっているし、それにはリカヴィオラが居れば配置場所の心配もないだろう。

 シャオクの祝賀会の食材はすでに預けてあるし、料理の手伝いだって当日でいい。

 

 …………あとは迷宮か?

 

 他にすることがないのかと言われればいくらでもあるんだろうが、遠出もできないし、南方への用事はセナクロワが到着してからの方が手に余ることが減るだろう。

 なにより、レベルアップが楽しいのだ。

 

 ジョブごとのレベルという形で、自分には目にみえて成果が分かるし、目標も立てやすい。

 そして魔道士ジョブの取得という、かねてからの目的にもあと少しというところまで来ているのだ。

 面白くないわけがない。

 

 魔物自体に(おぞ)ましさはあるものの、あれらはそういうものとして、倒すべき相手として認識できている。

 実際に自分の攻撃で、魔法で屠れるとわかり、その異世界生活を続けてきているので、新たな常識から日常へと切り替わり、慣れてしまっているのだ。 

 この順応の早さが、ゲームが身近にあった日本人らしさと言えるかもしれない。

 

 そんなわけで昼食を終え、買ってきた道具を一通り仕舞い込んだ後は、リカヴィオラに留守を任せて迷宮に向かうことにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 シームの22階層で、一先ず剣士のジョブレベルをLv30にすることを目標とする。

 遊び人のスキルに風魔法を設定し、いつものように索敵を開始してもらった。

 

 ブリーズストームのエフェクトが、ハットバットを周囲の空気ごと掻き乱し、ビッチバタフライの鱗粉を散らす。

 階層のメインの魔物で、大半を占めるグラスビーも風で翻弄してやり込め続けていると、程なくして剣士のレベルが上がっていた。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv45

魔法使いLv45/英雄Lv42/探索者Lv45/森林保護官Lv44/遊び人Lv42/剣士Lv30

 

 

 魔物の出ない小部屋へと移動し、変更可能ジョブを確認してみるも、……ないか。

 剣士のレベルを条件とした派生ジョブは現れなかった。

 

 あるいは、戦士と派生先が共有されているのではなかろうか?

 そもそものジョブ条件だって、村人の前提レベルは共通しており、武器による攻撃で魔物を倒して得られる戦士と、その武器が剣であることを条件とした剣士なのだ。

 

 戦士Lv30でも剣士Lv30でも、その他の条件が整えば、賞金稼ぎも暗殺者も取得できてもおかしくはない。

 賞金稼ぎのジョブは、戦士ギルドではなく個別のギルドで運営されているわけだしな。

 原作も、それに従った自分も、先に戦士を育ててしまったが故に、剣士がキーとなる派生ジョブが生えてくるところが確認できなかっただけの可能性もある。

 

 騎士に関しては槍という武器条件があるので、戦士派生のみと言われても納得はできる。

 それならやはり剣士には、剣に関係した派生があるべきだろう。

 

 そちらは帰ってから検討することにして、今日のところは剣士を錬金術師に付け替えて22階層での狩りを続けることにした。

 

 

 

 戦利品である蜜蝋がアイテムボックスの列を一つ、また一つと埋めてきた頃、時間も良さそうなので切り上げることにした。

 ワープを使って直接自宅へと帰還すると、人目を(はばか)る必要がないことの気楽さにありがたみを感じる。

 やっぱり楽に慣れたら戻れないよ。

 

 

 夕食までまだ時間もあるので、付与スキルについて考えるか。

 

 モンスターカードは結構貯まってきているが、耐性関係や状態異常に詠唱中断あたりは、セナクロワが合流して装備を決めてからの使用となる。

 ミサンガにつける芋虫のカードも、1つは彼女の前で融合するつもりだしな。

 

 そうすると今カード融合ができそうなのは、予備用のミサンガに芋虫の『身代わり』、アコルトの靴に蝙蝠の『回避2倍』、ミーラスカの大盾に壷式食虫植物の『HP吸収』あたりか。

 あとは、…………蝶の『風属性攻撃』。

 

 存在するかも分からない魔剣士ジョブのために、これまたその条件になっているかも分からない属性攻撃スキルを剣に付けるのである。

 蝶のモンスターカード自体はドロップ品だから元手はかかってないとはいえ、将来的に耐性に付けたいカードを消費しての、意味があるかもわからない実験だ。

 

 資金には困っていないし、カード自体はカルムに依頼すればいいだけなんだが、問題は出来上がった後の装備である。

 

 現在もそうであるが、将来的にもうちのパーティーは、前衛を遅延や拘束スキルで装備を固め、自分の魔法の火力で殲滅するスタイルに変わりはないと思う。

 パラレルジョブの利点を活かした戦い方だからな。

 

 そうすると武器に詠唱の必要な属性攻撃スキルなんて入れる枠はないし、前衛が魔物を倒す必要もない。

 仮にジョブの取得に利用できたとしても、それ以降は役に立たない代物でしかないのだ。

 

 したがって、色々と不審に思われている要素をこれ以上増やすわけにはいかないので、作ったとしても所有すら隠しておきたいくらいである。

 ましてや相場を聞いたり事前の売却相談もできない。

 そのあたりについては、別地方で新たに仲買人の縁ができれば、そちらに流せるかもしれないが。

 

 

 というわけで、無駄に高額にはできないのでコボルトのモンスターカードによるスキル強化は使わず、素材となる武器もありふれたもの……、武器屋やオークションで見た一般的なスキル武器にしないといけない。

 

 風属性の弱点がでてくるのは低階層のコボルトを除くと、先ほどまで自分たちが戦っていた飛行する虫や蝙蝠たちになる。

 魔物のランクやドロップ品から考えれば、鉄製の武器だろう。

 鋼鉄製では高くなりすぎてしまうよな。

 でもスキル武器を買う層は鉄製では満足しないか。

 

 うーん……、いや?

 何も作成物としての相場額で売らなくてもいいのだ。

 材料費が返ってくるなら希望額はそれなりに安くなっても問題はない。

 

 だったら即買いしてくれるためにも、素材の質は高い方がいい。

 迷宮で敗北したパーティーの遺失物をゲットして、持て余すので捌きたいということにするのなら、鋼鉄の剣あたりにでもしておけばよさそうか。

 

 

 

 シャオクに予備のミサンガと、アコルトのタクティカルブーツ、大盾を指定して、順にモンスターカードのセットを渡しておく。

 

 

「これにこれ、こっちにはこのセットでお願い。

 大丈夫だと思うけど、途中で強壮丸も飲んでね」

「わかりました!」

 

 

 各装備にスキル1種ずつなら、3つ程度なら何とも思わなくなってきたな、いい傾向だ。

 カード融合をやってもらっている間に、自分はルテドーナにでも剣を買いに行こう。

 

 流石に一人ではダメだと言われそうなので、アコルトを連れ立ってだ。

 あちらの商店街に飛んで、スロットの空いている1本を購入してくるだけだ。

 

 

 さっそく帝都へとワープし、武器防具の複合店へと向かう。

 

 今後は料理で鉄板なんかの熱いものに触れる機会も増えるだろうと、鋼鉄の剣の抱き合わせに皮のミトンを買うことにした。

 まだ在庫のある皮からシャオクが製造スキルで作り出せるのだが、ボーナスポイントの割引の為なので、安価なこちらがちょうど良かったのだ。

 

 

 商店街の絨毯に開き直したワープゲートですぐに戻ってくると、カード融合の完成品が並んでいた。

 

 

身代わりのミサンガ(身代わり)

浮草のタクティカルブーツ(回避2倍 ○ ○)

回復のダマスカスタワーシールド(HP吸収 ○)

 

 

 スキルはバッチリ付与されているが、大盾はまた謎翻訳による改名を受けているな。

 まぁ、わざわざ正式名称(?)で呼んでる必要もないので、これからも大盾と呼ばせてもらうけど。

 

 

「ありがとう、シャオ。

 最後にこれもお願い!」

「はい、えっと……これは1枚だけのモンスターカードでいいんですね?」

 

「うん、試しで作るだけだからさ」

 

 

 身代わり以外は毎回コボルトとセットで融合を繰り返してきたので、逆に不安がっている様子に、もうシャオクは通常の感覚には戻れないのだろうなと悟る。

 ずっと一緒にいてもらうつもりだから責任はとるけど、そういえば結婚とかそういうのも将来は考えなきゃいけないのかなぁ。

 うちの子らを嫁になんて出したくないんだが、そもそも奴隷なので解放しない限りは自分が相手を探してきてあげないとだめなのか?

 

 あー、ミーラスカも……、それならセナクロワも年齢とか考えると尚更か。

 願望とかを漠然とでもヒアリングしておかないと……。

 

 そうだ、こういうことこそ、フェルスお姉様に相談すればいいんじゃないのか?

 貴族だし奴隷の侍女なりはいるはずだろうし、異種族融和を掲げている伯爵家ならそれぞれの種族に対する扱いなんかも心得があるに違いない。

 

 次回お姉様との会合の際にはそういった話題も……。

 待て、……大事(おおごと)にされないよな?

 商館で奴隷商に確認するほうが穏便だろうか。

 

 思考がどんどん逸れていくうちに詠唱が完了し、シャオクの手元が光る。

 

 

風切りの鋼鉄剣(疾風剣 ○)

 

 

 武器の見た目は購入時と同じだが、風属性攻撃と聞いたスキルは、『疾風剣』としてスロットに収まっている。

 作中の『火炎剣』スキルと同様に、『○属性攻撃』というのが総称で、細かい部分は武器種によって変わってくるんだろうか。

 槍に剣と名のつくスキルが付いていたら変な感じがするしな。

 

 シャオクに礼を述べ、融合したての剣を握る。

 これでいいのかはまだわからないが、とりあえず()()っぽいものは用意できた。

 

 (おもむろ)に詠唱省略を解除し、『疾風剣』と思い浮かべると、眼の前に呪文の羅列が浮かんでくる。

 ……試したい。

 

 そう思って準備をしだしたタイミングで、夕方の鐘が鳴った。

 くそう。

 あ、庭で試すくらいならいいか?

 

 

 主人がそわそわしている様子に皆も気になったようで、玄関を出てぞろぞろと開けた一角へ集まった。

 詠唱省略をつければサッと発動できそうなのだが、注目される羞恥心より、呪文を唱えて発動させる厨二心もとい好奇心の方が勝った。

 

 

「呼びかけたるは我が翼、仰ぎ迎える剣の義気、飄散(ひょうさん)、疾風剣!」

 

 

 ただの片手剣だった周りに見た目のブレが生じ、ブリーズウォールの小型版のようにヒュンヒュンと音を立てている。

 剣自体には重さや挙動の変化なく、不可視の風のカバーに覆われたという感じだ。

 

 腕を振り抜けば、剣が直接当たっていないにもかかわらず、剣を取り巻く風の刃で軌道上の草が刈り取られた。

 か、かっこいい~!

 アコルトを始め、皆の眼差しがキラキラしている気がする。

 無論、自分もだ。

 

 持続時間はそんなに長くはない。

 力を乗せた攻撃なら、頑張っても斬って返しての2振りくらいしか当たらないんじゃないだろうか。

 

 実際の戦闘ではここぞというタイミングで詠唱を完了させ、踏み込んで当てにいかなければならないと思うと、結構シビアな感じがする。

 それでおいてMPも消費するのだから、威力次第ではあるがスキル武器の扱いは大変そうだ。

 自分は振り始めにスキルを念じればいいので、そういう面でもボーナスポイント様々である。

 

 ジョブ一覧を確認したが、スキルの使用だけでは何のジョブも追加されてはいなかった。

 やはり魔物を倒さないとだめだろうか。

 

 皆にも剣を手渡し、代わる代わるスキルを使ってもらったが、各々が魔法使いになったようにスキル効果を発生させられて喜んでいる。

 アコルトについてはそのまま剣を持たせては危険すぎるので、刃先を地面に突き立てた状態で使うことにしてみたものの、土や小石を巻き込んで弾き飛ばしてくるという危険装置に成り果てたので使用厳禁とした。

 

 しょんぼりとはしていたものの、発動できたこと自体には嬉しそうだったので、何か別の形で用意できたらいいな。

 

 

 ウォーターウォールで手を洗い、皆で夕食の準備へと取り掛かった。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv45
魔法使いLv45/英雄Lv42/探索者Lv45/森林保護官Lv44/遊び人Lv42/錬金術師Lv24
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 巫女31 商人30  細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)


アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv34
  タクティカルブーツ(○ ○ ○) → 浮草のタクティカルブーツ(回避2倍 ○ ○)

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv32

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv31
  ダマスカスの大盾(○ ○) → 回復のダマスカスタワーシールド(HP吸収 ○)

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29



予備
鋼鉄の剣(○ ○) → 風切りの鋼鉄剣(疾風剣 ○)
ミサンガ(○) → 身代わりのミサンガ(身代わり)
※ミサンガ(○) 残2


所持モンスターカード
・鯉        2
・竜        1
・大木       1
・魚        2
・潅木       1
・蟻        1
・ウサギ      1
・コボルト   6→4
・蝙蝠     2→1
・芋虫     2→1
・壷式食虫植物 1→0
・蝶      1→0

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次回は12/1更新の予定です。


暫定ですが、月曜予定です。
延期する場合はこちらに追記致します。


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