異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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168 祝賀

 以前に渡しておいた食材が、大きさを揃えて小分けにされたり、下味の調味液に漬け込まれたりと、スムーズに準備が進んでいく。

 料理人ジョブであるアザルボの手際はもちろん見事なものだが、元からいた従業員たちの動きも洗練されてきているように思えた。

 

 単に作業に慣れているだけでなく、道具の配置や動線が重ならないように工夫されていることが見て取れる。

 ミトラグが言うには、アザルボが来てから少しずつ提供までの時間が短くなったり、食材の無駄が減ってきているらしい。

 本当か嘘か、元帝都の料理人という肩書と実力のおかげで、提案も通りやすいのだろう。

 

 実際に主体的に動いているのは他の従業員たちの方で、アザルボは各所のヘルプと片付けに徹して動いているようだ。

 技術指導で地力を付けさせ、全体の底上げをしつつ全体の効率化を図っているように見える。

 味付けや料理の手順なんかには口を出していないところを見ると、この宿ならではというか、持ち味とも言える部分についてはそのまま伸ばそうという考えなんだろうか。

 

 新たな調理法を探りつつ、店の特徴は活かしたまま育成していると見れば、この宿にとってもプラスに働いているようだし、ここに自分が口を挟む必要はなさそうである。

 

 ……ないのだが。

 当の本人は、自分(ミツキ)が見かけない調理法を披露していたことを知っているので、やたらとこちらに質問してくる。

 

 どこで知ったとか、どの地方でとかの話題が禁句と分かっているのかそちらには触れてこず、「どうすると美味しくなりそうだ」とか「どんな食材と合いそうだ」とか、ニュアンスだけ引き出して答え探しは自分でやるつもりのように、メモばかり増やしていっている。

 ガイレマ副料理長(あの人)と同じ類の人だ、絶対。

 

 一応回答には気を配りつつ手伝いを続け、味見がてら試作品を昼食にしながら準備を進めていった。

 

 

 大半の作業を終えて休憩をしてると、ニカドー親方を先頭にドワーフがぞろぞろと来訪した。

 それぞれが樽を担いでいるようだが、どうやらミトラグに頼まれて酒屋に寄ってきてくれたらしい。

 

 ドワーフたちは顔見知りの大工の他、シャオクに縁のあった鍛冶師の者たちだ。

 おそらく育ての祖父のかつての弟子たちなんだろう。

 その配偶者なのか、シャオクに声をかけている女性も見受けられる。

 

 ドスンという荷下ろしの音と共にいくつもの樽が並び、何杯分だよと心配になるが、……そうか。

 ドワーフの種族固有ジョブであり、花形である鍛冶師だもんな。

 盛大に祝うために過剰なくらいでちょうどいいのかもしれない。

 

 とすると迷宮食材の高級な食事、というよりも大量にツマミがあった方が喜ばれるのかもしれないな。

 仕切ってくれているミトラグを部屋の端に呼んで、さらなるドロップアイテムの提供と、チーズとかそういう食品を増やしたほうがいいんじゃないかと相談してみる。

 

 確かに量が多いほうがいいものの、アイテムボックスに仕舞えない食品の過剰在庫を抱えるのは難しいと苦い表情で悩むミトラグを見て、自分が支払うと申し出た。

 ここに来てくれた皆が、うちのシャオクを祝ってくれるのだ。

 資金難でもないしたくさん用意して、余ったら宿で使える分以外は持ち帰りにして配ってしまえばいい。

 

 こちらがそれでいいのならとミトラグも賛成し、追加の買い出しの人員を調整しようとしたところに、満面の笑みのアザルボが近寄ってきた。

 

 

「食材を増やすということは、さらなる料理の種類も必要でしょうね?」

「ま、まぁ同じものばかりよりは、違うものが並んでいた方がありがたいですね……?」

 

「ならばぜひとも試してみたいものがいくつかありますので、調理に関してはお任せ下さい!」

「アザルボさんがそう言って下さると助かりますが、結構な時間になると思いますよ?」

 

 

 ミトラグが心配するのはドワーフがそれなりにいるからだろう。

 山ほど飲むと聞くし、長時間となれば料理の方も要求が増えるはずだ。

 

 

「材料さえ用意して頂けるなら、私はいつまででも……ふふ」

「ちょ、ちょっと相談してきますね」

 

 

 本当に何時まででも試しそうな勢いだ。

 ミトラグが従業員たちに作業の確認をするために離れたタイミングで、こっそりとアザルボに聞いてみる。

 

 

「(……お城の方はいいんですか?)」

「(え、ああ、業務としてはこちらが優先されるので問題ないでしょう。

 いやぁ、役得ですな!

 …………関係者に聞かれた際は私は仕事に勤しんでいたと、くれぐれも)」

 

 

 バッチリ役得って言ってるじゃないか……。

 まぁ、告げ口したところでいいことはなさそうなので、する気はないが。

 

 やはり自分の素性調査というよりも、調理法の情報収集の方の指示を受けているように思える。

 ミトラグらから得られるミツキの情報は、宿から拠点を移した今ではほとんどないだろうし、あの時点で問題なさそうと判断できたから、シームラウ家としても高額商品の取引を受けてくれたに違いない。

 

 

 その後はリカヴィオラたちに預けておいたオリーブオイルや肉類を追加で出して、アザルボの要求を聞きつつ買い出しも行った。

 途中、参加者だったらしい冒険者のテオドナフが干物の納品も兼ねてやってきたが、直ぐ様片道便の案内役をやらされていた。

 ミトラグから、彼はドワーフたちのテーブルに置いて悪い酒癖が出る前に早めに潰してもらうと耳打ちされたが、ちょっと可哀想にも思えてきた。

 

 

 追加の食材の下拵えもだいたい終わり、開始までに作り終えた後は、アザルボが追加調理してくれるということになった。

 1人で色々と試したいからのようだが、さすがに全てを任せるのは……と、宿の従業員が持ち回りで助手を務めてくれることで決定した。

 

 参加者も揃い、続々と料理が並べられていく中、それぞれの飲み物も注がれていく。

 

 自分とミーラスカはエールにしたが、アコルトは甘そうなカクテルだし、リカヴィオラはなにかのミルク割りだ。

 ミトラグが気を利かせてけっこう種類を用意してくれている。

 シャオクはニカドー親方らドワーフと同じたぶん強いお酒で、香りの時点で度数が高そうだと分かったくらいだ。

 リクエストした様子はないのにいつの間にか持たされていたな。

 

 

 まだかまだかという声を制したミトラグの音頭で、シャオクに注目が集まる。

 

 

「えっと、今日はボクのためにこんなに集まってもらって、ありがとうございます!」

 

 

 ワッと歓声が上がり、待ち切れない様子だった連中はジョッキ同士を打ち付け、それを合図に祝賀会が始まった。

 肉と魚の揚げ焼きはお酒との相性もよく、どんどん無くなっていく。

 

 皆その美味しさに最初は目を丸くして、それらが迷宮食材を使っていることを聞いてからはじっくりと味を確かめるように食べだして、材料がたくさんあることを聞くと今度は掻っ込むように皿を空にしていった。

 やっぱり美味しいんだよな、迷宮食材。

 濃い味付けにも負けない旨味が、酒の勢いを加速させているようだ。

 

 時折、シャオクのもとへやってきて努力を称賛する者や、祝いの品を渡す者、酒が入って鍛冶師のなんたるかを聞かせてくる先輩ドワーフなど、来客は様々だ。

 それらに律儀に対応するシャオクを微笑ましく見ながら、アコルトたちと談笑する。

 

 やはりギルドの所属異動のあたりについて聞いてくる者もいたが、ばっちりストーリーを仕込んでおいて正解だった。

 シームのギルド員が気になって調べられても、フウルバリからの転属書類は揃っているので疑いようもない。

 

 自分へはというと、ニカドーらに直接スキルを見せて魔法使いのジョブであると認知してもらえているし、この前の増改築や今日の料理の件も、いつぞやのドレスの目撃例もあって、深いところまで詮索はしてこないのはありがたい。

 

 たしかに魔法使いらしいが、庶民の店の料理をよく食べにくる、街の端に住んでいる浅黒いエルフ。

 貴族ではないっぽい、でもお金は持っていそうな振る舞いをしている、よくわからない者たち。

 それでも顔の広いヤトロクやミトラグ、ニカドーにパン屋の女将さんらのとの仲は良好らしいし、元住人のシャオクを雇っている。

 

 断片的な情報と、小柄な見てくれ、迷宮に入っているそうなんて情報が回りつつ、そこで得られたらしい食材を振舞ってくれるので気前もいいらしいとかなんとかと、好意的な評価をキャッチしたアコルトが、耳打ちしてきた。

 ウィスパーボイスがこそばゆい。

 

 参加者は酒を片手にこちらにも挨拶をして、入れ替わり立ち代わりいくつか質問して、また食事へ飲み物へと席を離れていく。

 まぁ無害アピールにはなったかな?

 害をなす気なんてこれっぽっちもないが。

 

 勘付いている者もいるとは思うが、この分ならもう少しして自分たちの信用が増してきた頃なら、奴隷身分も公表しても、あの家はそういう人たちだからと理解してもらえる気がする。

 楽観的すぎるか……?

 

 まぁ今更奴隷だからどうこう言ってくるような者はこの中には居まい。

 機微に聡いミトラグが人を選んでくれていると思うし。

 

 ヤトロクの方はというと、鍛冶師のドワーフたちとも面識があるようで、同じテーブルでテオドナフを巻き込んで飲み比べをしていた。

 エマーロと人間が、エルフに仕えるドワーフの祝いの席で他種族と卓を囲んでいる。

 同じ空間には兎人族も牛人族もいて……、確かにこれは異種族融和を掲げるレオニー伯にとっても望ましい状態だろうし、一つの家の中でもそれを実現している自分たちが好印象だったのも頷ける。

 そのような土地柄の場所に拠点を置けたのは運が良い。

 

 願わくは何処でもこうあってほしいが、目標に掲げているくらいだから根強く残る禍根の一つなんだろう。

 例のエルフ村とかな。

 

 

 オリーブオイルを多量に使った料理は人気で、特に細切りにした芋を揚げて、甘辛く炒めた肉を乗せたものが好評だ。

 家でもやったりするが、そこにチーズを掛けてやると予熱で溶けだして一層食欲をそそる。

 ミーラスカが好きなんだよな、これ。

 

 若干顔を火照らせ、いつもより陽気にジャンキーフードと酒をすすめる様子は、これはこれで色っぽい。

 清貧なシスターをこんなにしてしまった罪は重いかもしれない。

 

 厨房の方を覗いてみると、揚げ台のような油をきる器具まで置かれていた。

 アザルボが使いこなしているところを見ると、城の方での料理研究もけっこう進んでいることが窺える。

 

 助手に付いた従業員と共に、串に刺した揚げ物を小さな器で溶かしたチーズに付けて味見がてら食べながら作業をしていた。

 チーズフォンデュかぁ、いいな。

 

 

「おっ、ミツキさん、いかがです?

 こうやって火の通った食材をチーズに漬けて食べるのもいいと思いませんか?」

 

 

 溶けたチーズが緩すぎるのか、あまり食材に絡まないのがもったいない。

 

 

「それ、削ったスライムスターチと混ぜてからチーズを溶かすと、しっかり具材に付きますよ」

「……スライムスターチを?」

 

 

 揚げ物の衣に混ぜたりする話は前にしたが、こちらの思いつきの方には試さなかったようだ。

 片栗粉の代用なのでフォンデュ用チーズにも使えるはずだ。

 

 

「混ぜてから、というのは何か決まった手順があるようですね?」

「えっと、火を通さないととろみが出てこないのと、粉のまま後から入れるとすぐ固まってしまうからですね」

 

「すでに溶かしてしまっている分には難しいと」

「うーん、水溶き……は油分と分離しそうだから、白ワインに溶いてから混ぜて火にかけるのがよさそうですかね」

 

 

 なるほど、とアザルボが宴会用の調理をしながら、脇で言われた通りに試し始めた。

 火が入ると、沸々し始めたチーズを混ぜる感触にも違いが出てきたようだ。

 

 

「おお、これは粘りがでて食材にもよく絡みそうですね。

 しかし、スライムスターチが……。

 ふむ、これならコボルトスクロースを使わずにソースに粘性を……」

 

 

 ブツブツとメモを取りながら思考の世界に入ってしまった料理人から、離れることにする。

 あんなに横で没頭している風でも続々と調理を仕上げて、従業員に皿を持っていくように指示しているのがすごいな。

 任せておいても問題なさそうだ。

 

 

「おう、楽しませてもらってるぞ」

 

 

 席に戻ると、ニカドーが近くに寄ってきていた。

 増築部屋や石窯の使用感の他、気になることがないかをリカヴィオラらに聞いていたようだ。

 毎度アフターフォローも手厚いな。

 

 

「そうだ、ニカドーさん。

 氷冷室って分かります?」

「おいおい、大工に何聞いてんだ?

 知らねぇわけ……、何、今度はあれを作らせる気か?」

 

「いやいや、そんな大がかりなものじゃなくてですね……。

 もっと小型の、納屋の半分の半分くらいの大きさでいいので、家の中に作れないかなーって」

「小型のったってよ、小せぇの作ったってすぐに氷が溶けちまうだろ。

 大体氷だって、そんなに頻繁に用意できるような…………(伝手、あるのか?)」

 

 

 こいつ本気かよ、みたいな目つきで見られるのはしょうがない。

 小声になったニカドーにつられて、なぜかこちらも小さく返してしまう。

 

 

「(すぐじゃないですけど、そのうち魔道士の知り合いに頼めるかもしれないので、入れ物の方が作れないかと考えまして)」

 

 

 腕を組んで首を捻った後、ジョッキの中身を一気に飲み干した親方がジロリと向き直る。

 

 

「すぐじゃなくていいなら考えるが、構造は分かってるか?」

「氷冷室の方は見たことがあるんですが、金属の板が敷き詰められていたような……」

 

「そうそう、それだ。

 あれが氷を溶けにくくしてんだとよ。

 氷冷室ってのは内側をあの板で敷き詰めて、冷気を閉じ込めてるわけだ。

 おんなじ理屈なら、厚手の棚の内側にでもあの板を貼って氷を入れりゃあ、ミツキさんが言ってるもんができるだろうな」

「じゃあ……!」

 

「まぁ、待て!

 できるったって俺は棚の方しか作れる当てはねぇし、氷冷室を作る職人らはそんな小型のなんて作っちゃくれないだろ」

 

 

 そりゃそうか。

 魔道士自体が貴族でも希少なんだから、そもそも普通の大工と専用金板との繋がりはないし、小型化なんてされるほど技術が浸透していないだろう。

 かといって専門の職人に頼めたとして、一部屋丸々なんて無駄にデカい冷蔵庫は管理も大変だし、金額もすごそうだ。

 

 毎回氷を出してそれを使うようにしなきゃだめかぁ。

 食材の保管場所は欲しいんだけどなぁ。

 

 

「……作るとするならなぁ」

 

 

 よほど自分が切ない顔をしていたのか、そんな顔をするなとニカドーが何やら考えてくれている。

 

 

「まずは金属の板だな。

 それがねぇとどうしようもねぇから、ミツキさんはそれを手に入れてくれ。

 最初に1枚でもありゃぁ、それを元に棚の大きさやら、金板が何枚いるのか考えられるだろ」

 

 

 保温用の金板さえ手に入れば、最悪穴を掘って敷き詰めれば氷室(ひむろ)みたいな感じにはなるか。

 問題は金板の入手先だが、素直にフェルスやカルムを頼ってしまうと、冒険者のようにまた架空の魔道士を立てなければいけなくなってしまいそうだ。

 どうにか直接業者と繋がりを持てないかな。

 扱っているのが商人だったら、間に人が入らなければ割引も狙えるし。

 

 …………あ。

 喜々として調理に取り組んでいるアザルボが目に入った。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv46
魔法使いLv46/英雄Lv42/探索者Lv46/森林保護官Lv44/遊び人Lv42/錬金術師Lv27
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 巫女31 商人30 細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士1 暗殺者1 魔剣士1 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv34

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv32

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv31

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29



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次回は12/29更新の予定です。


登場人物が増えると、描写ばかりで話が進まない……。
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