異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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169 補充

「アザルボさ~ん」

「…………あれと混ぜて焼いてみれば、……はい?」

 

「氷冷室の金属の板って、どこで扱ってるかご存知ですか?」

「氷冷室?

 ああ、あの板は帝都の方から取り寄せていると聞いています。

 定期的な点検は私ども調理担当がいたしますが、手配をお願いするだけで実際の取引には関わっておりませんので、詳細まではちょっと……」

 

 

 普通に考えればそりゃそうか。

 シェフたちが発注できるのは、精々食材関連までだろう。

 

 

「帝都の商人ギルドで確認された方が早いかと思いますよ。

 専門の業者でしょうし、製法はともかく、買い手が増える分にはあちらも歓迎でしょう」

「確かに、そうですね……。

 確認してみます!」

 

「……ところで、それを使って何の料理をされるんですかねぇ?」

 

 

 

 

 目的の金板が手に入り、魔道士の当てがついたら1つ料理を教えると約束して、口封じすることにした。

 シームのどのシェフよりも先んじてとなれば、あちらも口を固くすることを誓ってくれた。

 

 自分たちで氷を出せて、アイスクリームでも作れればそれを教えて広めてもらおう。

 現時点の低温保存での氷の利用以外では、見つかるはずもない調理法だし、価値も高いだろう。

 一度火にかけてから、それを冷やし固めるなんて、食材自体の性質を理解していないと簡単には思いつかないはずだ。

 

 まぁ作り方を高額でどこかの貴族に売るとかすれば稼げるとか、そんな創作にありがちなムーブもできるのかもしれないが、今泳がせてもらっているシームラウ家以上に穏便な人たちに繋がることができるとは限らないし、これ以上目をつけられるのは勘弁してほしい。

 フェルスお姉様に教えたとして、家に来られる確率を上げる要因にしかならない気がするし。

 

 お抱えのシェフの1人が発見したことにして、普段は自分たちで作り、たまにお姉様との食事会でプロの料理を味わうことができれば万々歳じゃないかな。

 

 

 会は進み、美味しい料理と飲み物に満足した参加者が少しずつ帰っていく。

 帰り際に改めてシャオクを祝福してくれている。

 

 明日の朝の片付けを手伝ってくれるなら、と一言添えて土産に料理や食材を渡していたミトラグは強かだな。

 それなら長引いても翌日の宿の営業に支障はでなさそうだ。

 

 残っているのは酒で潰れた人たちと、陽気に樽を1つまた1つと空けているドワーフ連中だ。

 テオドナフは床に崩れているが、ヤトロクはエマーロ族なのにドワーフのニカドー親方たちと張り合って飲んでいる。

 アコルトとリカヴィオラはミーラスカに寄り添ってうつらうつらとしているし、そのミーラスカもいつもより目を細めて2人を撫でていた。

 

 自分はというとアルコールによる高揚はしていたが、現代の頃から飲む量をセーブしがちだったので、不覚になる程は酔っていない。

 かえって飲まされ続けていたシャオクの方が眠たそうにしている。

 

 ミトラグは少し前からアザルボの前の食材を従業員に仕舞わせる指示を出して、料理の供給を絞っているようだ。

 じゃないといつまでも作り続けていそうだからな。

 

 

「はいはい、そろそろお開きだよ。

 主役も限界そうだしね」

「……そうだな」

 

「……ぁ、はい!

 起きてます!」

 

 

 それは寝てた人が言うやつだ。

 

 

「皆さん、今日はシャオのためにありがとうございました!」

「おう、これからもよろしく頼むぜ!」

 

 

 ニカドーを筆頭に、口々に称賛や労いの言葉をシャオクと自分にかけてくれた。

 残っていた料理もそれぞれ持たせ、潰れた人が客室に運ばれていく。

 宿の食堂での飲み会だと便利だな。

 

 明日の朝に片付けに来ることをミトラグに伝えたが、料理や食材の持ち帰りをした者たちで十分だと遠慮された。

 お言葉に甘えて明日はゆっくりしようか。

 

 アザルボは食材の範囲で好きに調理を試せたようで、満足気に片付けをしている。

 そこでも手際がいいのは、好奇心だけの料理好きではなく、やはりプロなんだと思えるよな。

 約束のレシピに限らず、また料理について意見を交わしたいとのことだったので、機会があればと濁しておいた。

 

 

 すぐにでも寝息を立てそうなシャオクをミーラスカに背負ってもらい、アコルトとリカヴィオラを立たせて自分が手を引くことになった。

 両手に花というか、おねむな子たちの引率である。

 帰ってからこの状態でお風呂に入るのは厳しそうだから、朝風呂にするかなぁ。

 

 すぐにでもワープを使いたいが、飲酒で注意力も落ちてアコルトの耳にも頼れない今は、さすがに無理だろう。

 誰に見られているか分からないので、大人しく夜道を歩いて帰宅する。

 

 

 

 距離自体はそんなに遠すぎないのだが、遅くなった歩みのせいでやっと帰ってこれた。

 リカヴィオラも含め、皆2階へと上げてしまって寝ることにする。

 装備状態の靴を外すのに一苦労で、着替えさせるのは面倒だ。

 

 桶にウォーターボールを出しておき、ミーラスカに手拭いも用意してもらった。

 これならアコルトたちが先に起きた時に、簡単な身支度くらいはできるだろう。

 下の階の水甕も補充してあるしな。

 

 なんだかんだで昼前から手伝っていたので結構疲れた。

 ミーラスカに祝賀会からの帰宅のことや、宿の片付けの手伝いが不要であること、起きてから入浴することなどを簡単にメモしてもらって、机に置いておいた。

 彼女らが読めば、朝から詳しく説明せずともゆっくりしていられるだろう。

 

 安心すると一気に眠気がやってきた。

 蝋燭の明かりを消して、3人を寝かせているベッドにミーラスカと2人で潜り込む。

 

 アコルトの規則正しい寝息を隣に、瞼を閉じるとすぐに意識は溶けていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 目を覚ますと、いつも通りにベッドには自分だけだった。

 窓から覗く朝日を見るに、普段よりは高く昇っているくらいなので、いくらか遅めの時間まで寝ていたんだろう。

 

 ぐっと伸びをしてからベッドを出て、机の上のパピルスのメモが無くなっているのに気付いた。

 ちゃんと読んでくれたらしいな。

 でもミーラスカも起きているのだから、そちらから詳しく聞いているか。

 

 階段を降り、軽く声がけしてから顔を洗い、口を濯いでダイニングへと戻る。

 手拭いで顔を拭きながらテーブルを見てみると、既にパンやサラダは用意してあった。

 自分が降りてきたことで肉や卵を焼き始めたようである。

 

 

「おはよ~」

「おはようございます、お嬢様。

 昨夜はありがとうございました」

 

 

 うんうん、謝罪ではなく感謝が返ってくる方がありがたい。

 シャオクからもリカヴィオラからも述べられ、自分が来るまでの間にミーラスカにも同様に謝意を告げていたようだ。

 これにて祝賀会については一段落、かな?

 

 

「その、お嬢様……」

「ん、どうしたの?」

 

「朝食の後は、お風呂のご用意をお願いしたいのですが……」

 

 

 ふ、やはりな。

 魔法が使えるようになってから、どうしても無理な時以外はほぼ毎日入っていたのだ。

 もうお湯に浸からないほうが違和感を覚えるようになってきたんだろう。

 

 衛生面とかそういう問題と別に、お湯で汗を流さないとどうにも物足りなくなっちゃったに違いない。

 皆も同じようなので、食べ終えた後は自分は浴室へと向かった。

 

 MP補正のジョブに付け替え、水と火の壁を立てるのを繰り返して、水受けからバシャバシャと湯船にお湯を満たしていく。

 しばらくして半量を超えたくらいで皆を呼ぶと、既に着替えやバスタオルの用意はしてあったようだ。

 うち以外では皆もう暮らせなさそう。

 

 今更だが、誰も翌日にお酒が残っている感じはないようだ。

 許容量を超えて飲んだわけでもないし、誰より飲んだシャオクだってケロッと普段通りの顔色だ。

 ドワーフってやっぱりすごいんだな。

 

 まだ高くなる気温と相まってのぼせないように気をつけつつ、髪と体を洗って湯船に移動する。

 一応全員で入ることも出来るがギチギチなので、MPも増えてきたことだし風呂桶自体を大きいものに替えるのもアリな気がしてきた。

 セナクロワまで合流したら、絶対全員一緒は無理だ。

 いや、順番に入ればいいだけなんだけど。

 

 

 お風呂を上がって着替えた後は、新たにお湯を作って布団も洗う。

 何日かに1回はしているものの、枚数や大きさ的にこうやって人数を揃えて取り掛からないと大変なのだ。

 流したばかりなのに汗をかきそうだが、それはまた夜に入浴すればいい。

 水も熱源も元は自分のMPだし、薬で補給できるので、手間だけの問題だ。

 

 

 一通り洗って干すのも終えたころには、もうお昼前だ。

 肉も魚も昨日たくさん食べたのであんまりなぁ。

 朝も用意してもらった半分は一番奴隷様に捧げたし。

 

 皆に何が食べたいかを聞いてみると、返ってきたのはピザという答えだった。

 異世界の住人たち、胃が丈夫すぎる。

 それともうちの子たちの食い意地が……?

 

 まぁいい、ピザなら余っている食材を乗せられるし、自分は数切れだけ貰えばいいだけだし。

 今回は皆が作っているのを監督しつつ、彼女らだけでも問題なく作れるのを確認できた。

 チーズもオリーブオイルも補充しなきゃだな。

 

 

 

 昼食後の休憩も終えて、午後からは大量放出したドロップアイテムの補充に向かおうか。

 オリーブオイルを落とすナイーブオリーブは、今や連続魔法をする必要もないほどに楽に狩れるのだが、既知の迷宮はどこも副産物が微妙なんだよな。

 それぞれの1階層下はコラーゲンコーラルだったり、ニードルウッドだったり。

 

 あ、カルメリガならニートアントか。

 セナクロワの暗殺者ジョブ取得のために、毒針を集めておくのがいいかもしれない。

 

 低階層を回るのなら、正直アコルトだけでもいい気がする。

 どうせドロップ品は自分のアイテムボックスに一旦収めるのだし、2人で……いやミーラスカも居てもらった方がいいか。

 小柄な女性2人では舐められるしな。

 

 シャオクは手が空くのならと、改めての報告も兼ねて祖父の墓掃除をしたいと言ってきた。

 当然了承し、そちらを皆で優先しようかと伝えたが、1人で十分だと告げられる。

 シームに来た当初に、鍛冶師のジョブに就けた報告はしているので、知り合いたちに祝ってもらったことをゆっくり話したいのだとか。

 邪魔をしないほうがいいだろう。

 

 リカヴィオラの方は、チーズの他、細々した食材や雑貨を買いに出たいと言う。

 あんまり重そうなものは今度一緒に行くことにして、2人に鍵を預けてカルメリガの迷宮へ向かう準備をした。

 

 

 

 

 カルメリガの迷宮で、ナイーブオリーブが出るのは7階層だ。

 探索者ジョブはアイテムボックスとパーティー編成のために外せないとして、魔法使いに英雄、白銀と聖銀装備で火力は十分すぎる。

 

 連続魔法すら不要なので、森林保護官以降のパラレルジョブはレベルアップの見込める未育成のジョブに付け替えようか。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv46

魔法使いLv46/英雄Lv42/探索者Lv46/暗殺者Lv1/魔剣士Lv1/騎士Lv1

 キャラクター再設定    1 鑑定          1

 ワープ          1 詠唱省略        3

 6thジョブ       31 獲得経験値10倍   31

 必要経験値1/10   31 結晶化促進8倍     7

 MP回復速度10倍   31 パーティー項目解放   1

 パーティライゼーション  1 精神          5

                       (残0/144pt)

 

 

 パーティースキルと鑑定を削れば結晶化促進を16倍まで持っていけるが、保険みたいなものなので、取得しないことでの不安の方がよくないとして採用している。

 パラレルジョブについては、MPと知力に補正のある派生ジョブを3つ付けてみた。

 

 騎士は補正が奴隷商人と一緒だったので迷ったが、ほぼ確実に聖騎士に繋がることが分かっているので、取得ジョブ数を増やすためにもこちらのほうが良さそうである。

 

 アコルトとミーラスカについては、どちらもこの階層ではレベルキャップに引っかかっていそうなので、探索者ジョブに設定してある。

 ドロップ品を手元でそのまま収納できるし、いつかのように硬貨やアイテムを預かってもらうこともあるのを見越してだ。

 

 

 ナイーブオリーブにも、2階層下のスパイスパイダーにも弱点属性も耐性もないので、ニートアントが混ざっていた時用にウォーターストームを使っていく。

 

 聞き分けてもらって近づいて、視認できたら水魔法。

 癖で2度念じてしまうが、魔物を包む水のエフェクトは1度きりしか発動しない。

 

 それでもすぐに煙に変わり、オリーブオイルの玉と毒針が残される。

 小休止以外ではほぼ歩きっぱなしで、魔法とアイテム拾いのリレーだ。

 1戦闘に1発だけならMPの回復も追いついているのか、薬が必要なほど気分が落ち込むこともない。

 

 他愛もなさすぎるが、食材補充はこれくらい楽じゃないと億劫になるよな。

 

 

 アイテムボックスのオイルの列が順に埋まっていき、毒針も1列分貯まったところで思い出す。

 

 自分が毒付与の挑戦をした時は、まとめて投げつけていたのもあったが、50個近く消費したよな……。

 セナクロワの暗殺者ジョブ取得条件のためのチャレンジになるが、彼女の運はどうだろうか。

 今は博徒のスキルもあるので、よほど不運でなければ余ることになるだろうし、万が一足りなくてもすぐに取りに来れるとして、2列目以降は売却でよさそうか。

 

 

 マッピングでもしていれば、この階層を網羅できたんじゃないかというほどに歩き回った気がする。

 7階層程度では階層自体の広さもそこそこのため、何度も同じ小部屋と通路を行き来していると思う。

 

 毒持ちの魔物が出現の半数近くを占める上に、取得品も安かったり、滅多に落とさなかったりなので他のパーティーも少ない。

 おかげで帰宅を考える頃には十分すぎるほどにオリーブオイルの回収ができた。

 

 夕方の鐘が鳴る前に、カルメリガのギルドで不要なドロップ品を売却してしまう。

 シームの迷宮探索の際の分も合わせたので、それなりの額になったのでラッキーだ。

 いつの間にか青魔結晶が緑色に変わっていたから、それも一緒にだ。

 

 ついでに酪やスライムスターチも買っておこうかな。

 アイテムボックスが空いたので、つい無駄遣いしたくなる。

 黒色の魔結晶もか。

 なんだかんだで今は1つしか残っていないしな。

 

 もともと過剰すぎるまでの在庫だった食材たちは、まだ補充は大丈夫そうだ。

 帝都で金属の板を売る商人を探すよりも、魔道士に近付くため明日はまだシームの迷宮の階層踏破を進めていった方がいいかな。

 冷蔵庫を手に入れるのはもう少し先になりそうである。

 

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv46
魔法使いLv46/英雄Lv42/探索者Lv46/暗殺者Lv7/魔剣士Lv7/騎士Lv7
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 巫女31 商人30 錬金術師27 細工師30 薬草採取士30 森林保護官44 遊び人42 賞金稼ぎ19 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 探索者Lv11

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv32

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 探索者Lv12

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29



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次回は1/5更新の予定です。


本年もご愛読ありがとうございました。
皆様も良いお年をお過ごしください。

私の次の休日はいつだろう……。
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