異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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171 蜥蜴

 シームの迷宮24階層の魔物、シザーリザードは火耐性を持ち、火属性魔法を使ってくるそうだ。

 23階層以降なので全体攻撃も使用する。

 弱点は土属性ということで、幸いにもタルタートルと共通しており、この階層では土属性の連打でスムーズに進めそうだ。

 

 代わりに、低頻度で混ざってくるグラスビー用の風魔法に割く発動枠はないので、飛んできた分はミーラスカに防いでもらうしかない。

 乱せる気流のない毒針の射出に気をつけなくては。

 

 

シザーリザード Lv24

タルタートル Lv24

シザーリザード Lv24

 

 

 数が少なめの群れを聞き分けてもらって進んだ先に、動く様子のない見覚えのある樽のようなフォルムと、見たことのない生物が闊歩していた。

 

 体は間違いなく大きくなったトカゲなのだが、前足が棘のあるゴツい(はさみ)になっている。

 切る力も強そうだし、単純にそれで叩かれただけでも痛そうだ。

 肝心のトカゲの機動力は落ちていそうなものの、それ以上に攻撃力を得た、ということなんだろうか。

 

 魔法を放つ前に皆に小さく声を掛け、見定めた先に向かってサンドストームを連射した。

 小さな砂嵐が魔物の体を包み、少し留まってから霧散する。

 

 ダメージが生じたことによりこちらを完全に認識して、シザーリザードが移動を開始した。

 鋏で威嚇しながら近づいてくる様は、ザリガニを彷彿とさせる。

 目を引くトカゲたちの動きばかりを見ていると、タルタートルは動いているんだかいないんだか分からないが、放っておくと魔法が飛んでくるので放置してもいけない。

 

 接敵はシャオクが槍で牽制し、距離が広がったことで確保した動線を抜けてアコルトが亀へと向かった。

 クールタイム明けの追加魔法が魔物を襲い、構わず向かってくるシザーリザードの進路を、大盾が抜かせまいと遮断する。

 

 片方のトカゲの足元に赤い魔法陣が現れたが、シャオクが薙いだダマスカススピアによってそれはすぐに立ち消えた。

 トカゲたちに対して十分に間合いを取っているので、いきなり鋏の振り下ろしが被弾、なんてこともなく危ない時は盾でも防いでいる。

 槍が絡め取られないように振り方に気をつけているようだし、ミーラスカと連携して盾で鋏の猛攻を弾き逸らして、魔法の発動までの時間を稼いでくれている。

 

 その甲斐もあってか、単一属性だけの使用となっていることも起因してか、23階層の時よりも危機的な要素は少なく戦いを終えることができた。

 アコルトの前にいたタルタートルも煙に変わったのが見える。

 

 

ハサミ

 

 

 ミノのボスであるハチノスのドロップ品でも手に入った革と、シザーリザードたちの手……ではなくて、新たにアイテムとしてこの場に生み出されたような、小ぶりのバナナ程度に大きくしたようなものが落ちている。

 こちらはゴツゴツはしているが、棘だらけというわけでもなく、蟹というかロブスターというかある程度は中身が入っていそうなくらいの甲殻類のハサミ部分である。

 

 肉類はおろか魚介類も可食部だけだった迷宮アイテムが、どうしてこれは殻ごとなんだ。

 創造主は焼きガニが食べたかったんだろうか。

 それにしたって甲羅部分にしてくれればカニミソが食べられ……、その場合はトカゲ部分になってしまう想像をして、これでいいのだと部位についてはもう考えないことにした。

 

 同ランク帯では、量が必要な建材や加工品の素になる、ノンレムゴーレムの岩やロックバードの羽毛、万能丸の原料であるハーフハーブの麻黄といった、意図的に買取価格が下げられているアイテムに次いで、このハサミの買取価格が安いらしいのは殻のせいかもしれない。

 まぁ、大量に回収する自分たちにとっては、調理の際の手間が多いだけにすぎないし、気にするほどでもないか。

 どうせゴミは迷宮へポイだ。

 

 タルタートルの鼈甲を拾ってきてくれたアコルトと合流して、戦闘の所感を共有しつつ、その後も何度かシザーリザードを含んだ魔物の群れとの戦闘をこなす。

 

 

 

 23階層でタルタートルが多い群れと戦う場合は、動きが遅いので魔法スキルのキャンセルが間に合っていたが、現在の24階層でシザーリザードが多いとなかなかに大変だ。

 亀に比べて断然動作が速いというのもあるし、鋏が厄介という点が大きい。

 

 近寄り過ぎればもちろん危険だし、詠唱を止めるにも、鋏を広げているところを避けつつ鞭を打ち込んでもらうのも難しい。

 竜革製なので簡単には切れないとは思うが、どれくらいで切断されるか試すわけにもいかない。

 

 そもそもアコルト1人に突出してもらうのも本来はさせたくないのだが、それでも手が足りないとシャオクにも前に出てもらうしかなくなる。

 味方を分断されては困るので、どうしても厳しい場合は壁魔法を出して、その隙に下がってきてもらうしかないし、そうすると奥にいる敵のスキル発動は防げない。

 

 シザーリザードが4体や5体の時には、止められなかった全体火魔法を受けてしまう場面も出てきた。

 巫女のジョブをセットしているので即時回復が追いついているが、瞬時のダメージとはいえ隙もできてしまうし、だいたい何度も被弾したくない。

 

 

 やっぱり人数の問題だよなぁ。

 位置取りや通路の関係上、陣形が縦長になってしまった時は、捌ききれないのだ。

 

 4人、いや自分はほぼ固定砲台だし、3人でこの階層まで攻撃を防いでいたのは、相当健闘していた方だろう。

 今までは敵にスキルを何度も発動される前に火力で押し切れていたが、階層が進んで敵の耐久が上がっていけば、今後は1回の戦闘で相手のスキルを2回以上通してしまうことも出るかもしれない。

 

 セナクロワが合流するまでは、数や構成で魔物の群れを選り好みしていく他ないか。

 

 出現する魔物の数が限られているボス部屋も、ボスのマザーリザードは配下を生み出してくるらしいし。

 確かスキルとしてカウントされないので、詠唱中断も効かないとかだったと思う。

 数が少ないうちに速攻で石化できればいいのだが、それもまずはボス部屋を見つけてからだ。

 

 

 

 昼休憩も挟みつつ、群れの魔物の数を見極めながら探索を続ける。

 多数相手の戦闘は避けるといっても、割合的に半数はシザーリザードなのだから、ハサミがアイテムボックスに貯まっていく。

 

 足が一つもなくハサミばかりというのは違和感しかないが、殻を剥けば食べられる身が多いと考えれば悪くはないか。

 

 夕方まで迷宮に居続けたが待機部屋は見当たらず、階層の突破は次回の探索に任せることにして帰宅した。

 

 

 

 昼に一度帰った際に、リカヴィオラには夕食にハサミを食材にすると伝えてあるので、簡単なスープの他はパンを温めてもらうのと、お湯を沸かしてもらっていた。

 

 

「じゃあ手分けして準備をしよう」

 

 

 お湯にコボルトソルトを加えてそこにハサミを投入して1つは塩茹でにするのだ。

 

 ボーナスポイントを操作して、万能包丁(デュランダル)を出してシャオクに預ける。

 ハサミを半分に割ってもらい、いくつかはそのまま焼くように確保し、残りはみんなで細いスプーンを使って身をかき出していく。

 割っただけのものは火にかけた網の上に並べ、こちらも火が通るまで加熱だ。

 

 かき出した身は半分はスープに入れて再加熱、残りはほぐして刻んだ野菜と共に溶き卵に入れて味を整え、オリーブオイルを引いたフライパンで焼いていく。

 かに玉ならぬハサミ玉だ。

 茹でハサミの方を合わせ酢にしようかと思うので、こちらは普通の魚醤メインのあんかけにしておいた。

 

 黙々と作業をしている間に、香ばしい匂いが出来上がりを知らせてきたので火から離し、茹でハサミの方はザルにとり、水にさらしておく。

 氷水はないが、締めた方が触感がよくなるはずだ。

 

 小鍋に酢、魚醤に酒、コボルトスクロースを加えて煮溶かし、スープを少しだけ入れて伸ばして味を調整した。

 あんまり酸っぱいのは人気はなさそうだし、ちょっとでいいや。

 茹でハサミに切れ込みを入れ、デュランダルはここでお役御免ということでボーナスポイントへと戻してしまう。

 

 今日初めて見たアイテムのはずなのに、自然な動作で茹でハサミの節をパキリと折り、スーッとついて出てくる身を取り出してみせる。

 おおぉと小さく声が上がり、皆も真似て食べ始めた。

 

 自分は合わせ酢が美味いと感じたが、皆はやはり魚醤や塩のみの方が好みのようだ。

 チリソースなんかも作れないかなぁ。

 

 薬味代わりに辛みのあるハーブの粉末をかけたり、焼きハサミは水分が若干飛んで触感も変わってきて好評だ。

 ハサミ玉はパンと合わせて腹持ちもいいし、ハサミスープは蛤や白身とまた違った出汁がでて、こちらも美味しい。

 

 殻の下準備と片付けが面倒だが、調理前ならアイテムボックスに入れておける食材が増えたのは嬉しい限りだ。

 

 

 皆が片づけをしている間に、殻を入れた籠を持ってシームの23階層の入り口小部屋にワープし、部屋の隅で中身をひっくり返してすぐに戻る。

 戦いにくい魔物ばかりなのでもとより他のパーティーはほとんどいなかったし、入り口小部屋も迷宮内なので、非生物は吸収してくれるはずだ。

 残ったままだったら後から来た探索者たちに申し訳ないが、まぁ大丈夫だろう。

 

 

 他の難点といえば、手が生臭くなってしまったくらいだが、それは入浴の際に念入りに石鹸で洗うことで落とすことができた。

 一般家庭じゃ石鹸もないから香草とかを手で揉んだりするらしいが、そういう面でもお風呂に感謝である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌29日も、朝食を済ませた後は迷宮へと向かう。

 

 シザーリザードとタルタートルをアイテムに変え、稀に交じっているグラスビーにも対処しつつ探索を進めていると、昼休憩の前に待機部屋へとたどり着いた。

 分岐の引きが悪くて、たぶん昼の鐘の時間も過ぎてしまったことだろうということで、一旦自宅へと戻る。

 

 

「ただいま~」

「おかえ───」

 

「おかえりなさいませであります!」

「え」

 

 

 リカヴィオラの挨拶に被せるように聞こえたこの口調は……!

 

 

セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 戦士Lv31

 

 

 結んでいた青色の髪を下ろしてはいるが、見覚えのあるキリッとした顔は、セナクロワ本人だ。

 

 

「セナクロワさん……、早かったんですね?」

「はい、馳せ参じました!

 ()()とのお約束に遅れるわけにはいかないでありますからな!

 皆さまもぜひ、どうぞセナとお呼びください!」

 

 

 早くて今月末になりそうだとは言っていたので、てっきり明日以降だと思っていた。

 聞いてみれば、休職中だった騎士団の復帰もろもろの事務処理は滞りなく終わらせ、そちらの対応は後腐れなく進めてきたらしい。

 

 配置換え等はあったものの、何だかんだで従騎士時代から10年ほどは所属した機関をやけにすんなり辞められたのはすごいな。

 

 

「慰労金を身分変更の手続きに替えて頂くようお願いしたのであります」

 

 

 従事してきた内容に応じて、それなりの俸禄を用意しなければいけないので本来は承認に時間が掛かるところを、未所属奴隷への変更に替えてもらったそうだ。

 

 そんなの許されるのかと思ったが、そういえば騎士団の上司のジョブはたぶん聖騎士だろう。

 盗賊でなくても奴隷に堕とすことはできるし、元の身分も所属していた者なのではっきりしている。

 

 ……差額を握らせたのかな。

 おまけに仕えるために国外転居するので、セナクロワ側からの足取りも取られない。

 怪我や病気ではなく騎士団を去る時点で見限ったような扱いになりそうな気もするが、簡単に要求を飲んだ上司のことも含めて、セナクロワはもうアウダニア王国に未練はないんだろうな。

 

 なんか一気に重い事情を引き受けることになった気がするぞ。

 

 

「───あとは商館で主人登録の手続きをして頂ければ、私も晴れて()()の従者となれるのであります!」

「……えーっと姫って、亡き姫様のことじゃなくて自分のことを言ってる?」

 

「はい!

 お仕えする忠誠をと考えたのであります!」

「姫……様だとさぁ、ほら、自分は別に一般人だし、ねぇ?」

 

 

 同意してほしさに、うちの子たちに視線を投げかける。

 目が合ったアコルトが小さく頷き、口を開いた。

 

 

「ご貴族の方の前では、別の名でお呼びする方がよろしいかと思います」

「ボクも『ミツキ様』と呼んでますし、それくらいの方がいいかもしれないですね」

 

「主様は寛大ですので、わたくしたちの前でしたらお許しいただけるのではないでしょうか?」

此方(こなた)は『姫様』とお呼びするのは恰好良きことだと存じます!」

 

 

 ほら擁護して……ん?

 

 

「であれば、私は人前では『ミツキ様』と、普段は『姫様』で……」

「いやいやいやいや、ほら、姫様はさすがに語弊が───」

 

 

 

 押し問答の結果、セナクロワからは『姫』呼びされることになった。

 

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv46
魔法使いLv46/英雄Lv43/探索者Lv46/森林保護官Lv45/遊び人Lv43/巫女Lv34
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv34

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv33

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv31

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29



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次回は1/19更新の予定です。


今回ちょっと時間が取れなかったので、途中で内容を変更、追記するかもしれません。
その際はこちらに注記します。
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