異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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172 帰属

「呼び方は……まぁ人前では気をつけてもらうとして、今の身分は未所属奴隷ですか?」

「はい。

 商館で登録手続きしていただければ、晴れて姫の所有となれるのであります!」

 

 

 セナクロワがここで偽る意味も理由もないから言う通りなんだろうけど、ボーナススキルの鑑定では身分が表示されないんだよな……。

 シャオクの時のように奴隷商人に頼むという手もあるが、詮索を避けるため、これ以上怪しまれる要素を公開しないためにも、その手続きも内密にしたい。

 

 テーブルを挟んで向かい側に座ってもらい、まっすぐに見つめて問いかける。

 

 

「セナクロワさん、いや……セナ。

 前にも伝えましたけど、うちにいてもらうには秘密にしてもらうことが多くて、口外できない内容を沢山抱えてもらうことになります」

 

「心得ているであります!」

 

 

 ミーラスカの時もそうだったが、高身長と騎士団仕込みの姿勢の良いセナクロワに対して口調がおかしくなる。

 年齢と身長差、関係性のギャップには、意識的に発して慣れていかないとな。

 

 

「今みたいに身内以外がいない家の中なら、色々反応しても大丈夫だし、答えられる質問は答えるからね」

「どういうことでありますか…………?」

 

 

 長年の身分を捨ててまで仕えるために来たのだから、今更反故にはしないだろうとして、パラレルジョブに奴隷商人をセットする。

 セナクロワの左手をとって、その手の甲に向けて自分の片手を掲げ、インテリジェンスカード操作を念じた。

 

 

「───カードがっ!

 これは……一体……?」

「登録してから説明するね」

 

 

 思わず小声で聞いてきたセナクロワを制して、飛び出してきた彼女のインテリジェンスカードを確認する。

 

 

セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 戦士 初年度奴隷

 所有者未登録

 

 

 うん、聞いた通りの状況だ。

 シャオクの時は脱税奴隷となっていたが、単純な身分変更だとこうなるんだろう。

 

 自分のインテリジェンスカードも出現させて、主人登録を選択し、スズシロ・ミツキの名を刻み込むイメージを続ける。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使い 自由民

 所有奴隷 アコルト(死後解放)

      シャオク(死後解放)

      ミーラスカ(死後解放)

      リカヴィオラ(死後解放)

      セナクロワ

 

 

 自分のカードに並ぶ所有奴隷の名に、セナクロワの名前が加わったことで、正常に登録処理されたことを確認できた。

 あちらのカードにも、所有者としてミツキの名が記されている。

 

 遺言は……また別の機会に説明して設定しよう。

 皆と同じように死後解放にするか、もしかしたら自分からリカヴィオラへ死後相続なんてのも希望されるかもしれない。

 

 一先ず無事に完了したことに安堵しているが、今度は色々と説明をしなくてはいけないんだよな。

 

 

「今見せたインテリジェンスカードにあったように自分は魔法使いなんだけど、同時に他のジョブのスキルも使うことができます。

 奴隷商人のインテリジェンスカード操作で、カードを出して、セナの主人登録をしてみせたようにね」

「…………!」

 

「一度に併用できるジョブの数には限りがあるけど、付け替えることできます。

 使えるジョブは、自分がギルド神殿で転職できるジョブ───転職するための条件を満たしているジョブだけね」

 

 

 口をあんぐりと開けて、過供給の情報をうまく飲み込めないように目を見開いたセナクロワと、毎度の謎能力説明に頭を抱えているアコルト。

 これだけじゃないんですよねと苦笑いするシャオクと、それに微笑むミーラスカに、何故か得意気なリカヴィオラ。

 馴染めば便利くらいに思えてくるはずだから、慣れてもらうしかない。

 

 

「その……よろしいでありますか?」

「うん、まだ他にも色々あるんだけど、気になったら聞いてもらっていいから」

 

「まず、スキルの詠唱が……」

 

 

 最初から説明が下手すぎた。

 突然効果だけ巻き起こる事態に、ついていけるわけがない。

 騎士のジョブだった当事者であるからこそ、カード操作の度に詠唱が必要なことはその身を以て知っているはずだ。

 

 アコルトがいきなり頭を抱えたのはこれが理由か!

 

 しばらく皆から説明してもらって自分が確認するという奇妙な説明方法が続いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「なるほど……。

 ミツキ様は同時に複数のジョブに就くことが可能でありまして、パーティーメンバーも1つだけならジョブを変更できるでありますか。

 さらに遮蔽セメントの制限を受けないフィールドウォークとダンジョンウォークを合わせたようなスキルを使用でき、火の付いた岩の雨を降らせるような恐ろしい攻撃魔法も使える上に、それらは詠唱の必要はなく、念じるだけでよいと」

 

 

 一度に聞くと、全部が全部おかしいことを言ってるな。

 いや、1つずつ聞いても全部おかしいんだけど。

 

 事柄への理解は一旦置いておいて、事項をまとめてから確認するというのが身についているらしい。

 そのへんは騎士団の頃の対応からくるものなのかな。

 

 無詠唱でのアイテムボックス操作もワープも一通り見せたが、カード操作の時ほど驚いていないというか、何やら納得した意味合いの方が強そうである。

 現地調査もそうだが、自ら見たモノを信じるようにしているんだろうか。

 

 

「お嬢様、そろそろご昼食が……」

「あ、ごめん忘れてた」

 

 

 そうだ、もともと昼休憩のために戻ってきたんだった。

 それも鐘の時間を過ぎてからだったので、ちゃっちゃと作ろうか。

 

 

 リカヴィオラが鍋にお湯を沸かしてくれていたので、刻んだ野菜と蛤に白身を入れて火を通し、魚醤と酒を加えた。

 ひと煮立ちさせている間に、ブツ切りにした赤身に小麦粉をまぶして、フライパンでバター焼きだ。

 肉より火が通りやすいのでいいだろう。

 迷宮産だし、多少生でもいけるはずだし。

 

 出来上がった料理からテーブルへ運び、パンとスープも配り終えて、皆席に着く。

 セナクロワが加入したことで、6人掛けの席はすべて埋まった。

 ちょっと感動である。

 

 ついでにパーティーにも加入してもらったので、こちらも上限人数となった。

 

 

「じゃあ冷めないうちに食べよう!」

「本当に皆様ご一緒に、姫と同じ食事を頂けるのでありますか……」

 

 

 いくら仲が良さげだろうと、払い下げるでもなく主人と奴隷が同じテーブルで同等の待遇で食事をするのは珍しいか。

 妾奴隷や一番奴隷だけということはありそうだが、全員一緒にというのは例は少なそうだ。

 

 なんなら主人も料理を手伝っていたし、アコルトの皿の料理の方が多いし、うちではこんなもんです。

 

 

「……!

 大変美味しく戴いているであります!

 先ほどリカヴィオラ様がアイテムボックスから取り出されていたということはまさか……?」

「あー、うん。

 うちはほぼ毎食、迷宮食材だよ。

 保存も楽だし、集めるのも楽だし」

 

 

 一部リカヴィオラの趣味で干し肉なんかも作ったりしているが、メインとなる肉や魚はアイテムボックスの中だ。

 野菜も魔物から落ちてくれればいいのに。

 

 

「セナクロワさん、スズシロ家ではこれが日常なんです」

「そ、そうでありますか」

 

 

 一つ一つ驚いていたら疲れちゃいますよ、としみじみ続けたシャオクの言葉に、皆うんうんと頷いている。

 おいしくてたくさん食べられるならなんだっていい、みたいな感じだ。

 

 そういえばセナクロワは猫人族だからなのか、魚を一口頬張る度に笑みが零れている。

 確認すると、肉も好きだが魚の方がわずかながら好ましいくらいだそうだ。

 ドロップ品の魚介類にだけは目がないとか、そういうことはないらしい。

 

 

 

 片付けを済ませながら、生活に関する事項の説明もしていく。

 午後からの迷宮行きは取り止め、必要な雑貨類の購入に充てよう。

 

 だがその前に。

 

 

 前回再会を誓ってセナクロワと別れた際に、頼んでおいたことがいくつかある。

 

 ひとつは競売の行われている都市名。

 こちらのソロンブルク帝国領側と、一応アウダニア王国側の地名も覚えてきてもらった。

 

 他には、米……オーレズの産地についてもだ。

 なるべく実の粒の大きいもので、サイズも揃った質のよいものを買える土地にアクセスできるとありがたい。

 

 そのどちらについても騎士団からの情報にあったらしく、シームまでの移動の途中に直接寄ってこられたそうだ。

 今後の生活や税金については、こちらが工面すると伝えてあったので、所持金をほぼ使い切っての確認だったらしい。

 ……教えた住所を間違って覚えてなくてよかったな。

 

 自分たちがその土地へ向かう際は、どの道各街の冒険者だよりになるので、実際の確認は後日だ。

 

 

 そして本題になる、リカヴィオラの父親というか養父らしい冒険者ことダンシオン氏についての情報も調べてきてくれたようだ。

 

 

「リカヴィオラ様の父君であるダンシオン殿についてでありますが、……やはりアウダニア国軍に所属されていた方でありました」

「───!」

 

 

 リカヴィオラの表情は、予想が当たっていたという納得の色と、実父ではなかったことへの動揺の色が半々という感じだ。

 彼女の表情を窺いながら、セナクロワが続ける。

 

 

「冒険者のジョブで、編成部隊の一員であったものの、怪我の影響で退役されたのであります。

 リカヴィオラ様の母君と在籍時の任務で接触可能だったことも踏まえて、条件に合致する者の名は、ヤトバリテ。

 それがダンシオン殿の真の名かと思われるのであります」

「ヤトバリテ……、父上……」

 

「退役後の足取りは分かりませんが、破損した刀の拝領記録と退役の時期が重なっておりましたので、おそらく間違いないかと」

 

 

 手がかりも少ないのに、よくもまぁ調べたもんだ。

 あ、そもそも王家の血を引く子女について長年調べていたのだから、関係者についての資料には目星がついていたのかもしれない。

 特殊な装飾のついた刀もあったしな。

 

 それでも記録には人となりまでは載っていなかったはずだ。

 普段の様子まで残っているような重要人物に、王家からの避難の依頼なんてできるわけないし。

 でも、本名が知れただけでもリカヴィオラにとってはよかったのかな。

 

 いつか彼女が父親の故郷を訪れたいと願った時に、力になれるようにしよう。

 そういう意味でも、彼女のジョブを冒険者にしてあげたい。

 

 

 

 

 話も落ち着いてきたので、今度はこれからの生活のための買い物だ。

 

 セナクロワの為の日用品と、ついでに自分たちの物も新調したっていい。

 となると雑貨類をこっちが受け持っている間に、アコルトとともに服屋に行ってもらった方がいいか。

 暫定で部屋も一緒になるリカヴィオラも同行させれば、アイテムボックスに硬貨を預けられる。

 

 結局は3割引を利かせるために自分が合流してからの会計になるとは思うが、資金を持たずに商品を見て回る焦燥感など必要ない。

 アコルトがいれば新たなモデルの服選びは長くなりそうだしな。

 

 3人をルテドーナの商店街へと送り、自分たちはコップやらタオルなんかを買いに行こう。

 寝具は前回リカヴィオラの隣のベッドの分も揃えておいたので、干してから家を出た。

 

 

 さすがに5人目の仲間ともなれば、必要なものを買い揃えるのには手間取らない。

 自分たちの新調分も済ませて一度家に戻り、服屋の方へと移動する。

 

 どこにいるかな、と店の奥に足を進める。

 すると、服をあてがってポーズを取ってみせているセナクロワと、手を握って称賛するリカヴィオラに、次はこちらですと新たな候補を手渡すアコルトがいた。

 あっ、耳がこっちを向いたから、アコルトはこちらに気付いているな。

 

 なんだ、意外とノリノリじゃないか元女騎士。

 猫人族由来なのかスラッとしなやかな足回りはパンツルックも似合いそうだし、男装なんかも様になりそうだ。

 試着はできないが、高さを揃えて当てただけでも十分に想像できるし、リカヴィオラも物語の騎士を想像してかどこかうっとりした様子にも見える。

 

 

「いかがでしょう、お嬢様」

「はっ、ひっ姫……ミツキ様!」

 

 

 抑えられてないぞ。

 

 

「似合ってるね、買う候補はそれで全部?」

「セナさんにはこちらの4着と、あとは店員の方に下着類と、皆さんの分を1着ずつ預けております」

 

「多っ、いや収納はあるからいいか……。

 わかった、会計しよう」

「よろしいのでありますか!?

 ……いえ、ありがとうございます!」

 

 

 食事もあんなだし、奴隷を5人も抱えて自由にさせているし、それ以上の言葉は飲み込んだんだろう。

 服選びの最中にも何度も確認したそうで、一番奴隷にも、守るつもりだった元王女候補にも、おまけに主人にも言われてしまっては遠慮のしようがない。

 ナルザさんのところのドレスと、ガゴレ工房の装飾品はまた後日になりそうだ。

 

 その前にお風呂もあるしな。

 説明だけはしたが、お湯に浸かる良さと石鹸の使い心地は体験してみないとわかるまい。 

 

 

 店員に声を掛けて、しっかり割引を利かせて自宅へと帰還した。

 

 

 

 装備についても考えなくては、と思ったところで約束を思い出した。

 

 

「そうだ、シャオ。

 えーっと、これでお願い」

「わかりました」

 

「セナ、こっちにきてミサンガを出して」

「はい、であります!」

 

 

 シャオクは毎度のことのように芋虫のモンスターカードを受け取り、セナクロワは装備していたミサンガを外して差し出してきた。

 それを掴み上げることなく、シャオクがカードとともに手を掲げて詠唱を始める。

 

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、モンスターカード融合!」

「ええええ」

 

 

 短い発光の後、シャオクの手にあったモンスターカードは消えて、セナクロワの手の中のミサンガだけが残った。

 

 

身代わりのミサンガ(身代わり)

 

 

 よし、問題なくできているな。

 

 

「じゃあそれ、身代わりのミサンガだから普段から付けておいて。

 何かの拍子に切れた時は予備があるから、すぐ言ってね」

「あ、ありがとうございます。

 今のが鍛冶師のスキルでありますか、てっきり交換されるものとばかり……」

 

「う、まぁ今後も見ることになるだろうから、慣れていってね」

 

 

 あまりにも雑すぎる返答に、アコルトだけでなくシャオクのジト目もこちらを見ていた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv46
魔法使いLv46/英雄Lv43/探索者Lv46/森林保護官Lv45/遊び人Lv43/巫女Lv34
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv34

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv33

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv31

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 戦士Lv31
  ミサンガ(○) → 身代わりのミサンガ(身代わり)


所持モンスターカード
・竜        1
・大木       1
・魚        2
・潅木       1
・蟻        1
・ウサギ      1
・蝙蝠       1
・コボルト     2
・芋虫     1→0



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次回は1/26更新の予定です。


ギリギリ更新ですみません。

本文執筆も間に合っておらず、本話サブタイトルは確認の時間なく既存の話と被ってしまったので、更新後に変更しました。
でも話に微妙にあっていないと思うので、後日変更すると思います。


1/20 追記
サブタイトル変更しました。

1/25 追記
多忙により時間が確保できず、執筆が間に合わないため、更新日を延期します。
今週中にはできるかと思いますが、目途が立ち次第ご連絡したいと思います。


1/31 追記
本日12:00更新予定です。
遅くなり申し訳ありません。
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