異世界迷宮と斉奏を   作:或香

173 / 186
第6章
173 機運


 生活の準備もとりあえずはできたか。

 あとは───。

 

 

「セナの装備って、来た時に装備してたそれで全部?」

「はい、こちらが個人の持ち物であります!」

 

 

 買い物の際に外し、居間の隅に置いていった装備を、今一度並べてもらう。

 

 

硬革の帽子      鉄の鎧(○)

鉄の小手(○)    硬革の靴

鉄の長剣(○)

 

 

「あれ?

 前に会った時は、鋼鉄の武器じゃなかったっけ」

「あちらは騎士団の貸与品であります。

 休職中といえど、有事の際には優先的に召集がかかりますので所持を許されておりましたが、退団時に返却したのであります」

 

 

 そういうことか。

 しかしそこまで許可されていたとなると、装備を貸し与えてでも籍を置かせたいほどにセナクロワに実力があったのか、単に人手不足なだけなのか。

 なんにせよ、信頼されていたんだろうな。

 ……辞めてよかったのか、ホント?

 

 

「武器は長剣が使いやすいのかな?」

「そうでありますな。

 騎士任務の際は槍や通常の片手剣も扱うことも多いので問題なく戦えるでありますが、戦士になった頃より戦い慣れているのはこの長さの剣であります」

 

 

 アイテムボックスから風切りの鋼鉄剣を出してみたが、長剣という名だけあってセナクロワの装備の方が20cmくらいは長い。

 戦闘で剣をガッツリ使うメンバーがいなかったから、武器屋でもショートソードとロングソードをほとんど区別して見ていなかったな……。

 シャオクはなんでもある程度使いこなすし、カトラスでも文句は出なかったし。

 

 長剣を構えてもらったが、長い手足との相性で思った以上にリーチは伸びそうだ。

 

 

「昼に見てもらったと思うけど、うちのパーティーはミラがあの重装備に大盾を持って前衛の盾持ちで、シャオが盾と槍で、2人で抑えてもらっている間に自分が魔法で攻撃する形なんだ。

 アコが状態異常の鞭を持っていて、遊撃をする感じ」

「すると私が加わる場合は前に出て攻撃をしつつ、各自の受け持つ魔物の数を減らすことと、鍛冶師のシャオク殿が下がってアイテムボックスを使用できる余裕を作ることが役割になるでありますか」

 

 

 うーん、さすが組織で動いていた者は理解が早いな。

 それにリカヴィオラが戦闘要員ではないことに安堵した様子でもある。

 

 ちなみにそれぞれの呼称は自分とリカヴィオラには様付けで、他は殿呼びで落ち着いたらしい。

 不意なタイミングで姫と呼ばれることも覚悟しなければならないが。

 

 もとより自分たちとアコルトたちで対応には差を出さないと約束済みだし、呼び名だけの違いに対してアコルトたちも特に気にしている様子もない。

 ミーラスカから皆へは様呼びだし、自分もあんまり気にしないことにしている。

 

 お嬢様にミツキ様、主様に御主人様、そして……姫。

 自動翻訳のせいなのか、正確に訳されてこれなのか知らないが、めちゃくちゃなのは今更だ。

 

 なんなら呼び捨てにしてくるフェルスお姉様が、一番自分の名前を呼ばれている感がある。

 

 

 

「長剣がいいとなると、ダマスカス鋼か白銀かな?」

「いえ、そんな高価なものを私めになど……」

 

「いやスキル的にね、それくらいじゃないとスロットが……あ」

 

 

 これも説明か。

 自分の能力じゃなくて装備全てに備わっている仕様だから、し忘れていた。

 

 

「えーっとまず、装備のスキルっていうのは───」

 

 

 

 

 これにも時間を要したので、装備の購入は明日だな。

 

 スキルスロットと仮称したものの存在や、それによるスキル付与の可否、独自の鑑定スキルによるスロットの確認。

 装備の素材の希少さに応じて、その最大値も増えているだろうという推測。

 それに付随したモンスターカード融合の成功率の実態へと話が進むと、流石のセナクロワも理解に苦しんだ。

 

 国宝にもそうそうないだろう4スキルの装備が、ここにいくつも揃っていると信じられるわけがない。

 

 自分の鑑定スキルでそう見えるだけで、他者にとっての証明手段がここにはないからなぁ。

 ギルド神殿での鑑定結果を見せられれば話は早いが、うちの装備のスキルが万が一漏れたらマズいので、そんな物は破棄するつもりだろうが鑑定すること自体却下だ。

 だいたい空のスロットはそれにすら記載されないし。

 

 戦闘におけるスキルの重要性を理解しているからこそ、これまでの常識にない新たな前提を元に考えるのは難しい。

 それでも夕食を食べながら質問に答えたりしていると、おおよその考えは伝わって、スキルの組み合わせにまで話は広がった。

 

 

 

「───であるなら、シャオク殿の槍のスキル構成が足止めとして理想でありますか」

「そうだね。

 必須の『詠唱中断』に、『付与増強』で強化された『麻痺添加』と『石化添加』。

 これをセナの武器にも揃えたいところなんだけど……」

 

「私が盾無しの戦闘スタイルであるため、『HP吸収』も入れたい、ということでありますな」

 

 

 セナクロワが使い慣れているロングソードは片手剣でもあるが、力を入れた振り下ろしや敵の攻撃を往なす際などは両手で持つ場合もあり、盾を持たない。

 もちろん防具を十分に固めていれば被ダメージは抑えられると思うが、巨体や消化液を使って攻撃してくる魔物もいるので、面の攻撃に対して盾がなければ被弾する場面は増えるはずだ。

 

 魔物の特性を理解していればある程度は対処可能だとセナクロワは言うが、それが何階層まで通用するか分からない。

 間違いなく、セナクロワの考える迷宮攻略のスピードと違うからな。

 そんな時、敵に当てることさえできれば回復できるという手段は、大いに活躍の場があるに違いない。

 

 

 そんなわけで最低4スロット、可能であれば5スロットの武器が欲しいわけだが、武器屋でまだ見かけることがあるダマスカス鋼の装備でもスロットはそんなに多くはない。

 店売りの半数以上はスロット無しだし、結構探して今の装備があるわけだし。

 

 南方のワープ先を増やしがてら探してみるか。

 

 

 

 説明が長引いた後は、お風呂の準備である。

 昼に食器洗いの説明をしてあるので、給湯作業を見たいと言ってきたセナクロワに披露する。

 

 

「おおおお!

 ファイヤーウォールとウォーターウォールが同時に!」

 

 

 流石に魔法は見たことあるらしいが、無詠唱で立ち上る炎と水流には驚いたようだ。

 敵に使われたら警護が難しいでありますな、との感想だが、要人警護をする側から見たら恐ろしすぎるよな。

 十数秒のクールタイムごとに前触れなく連発される魔法など、身代わりのミサンガがいくつあっても足りないだろう。

 

 無詠唱のスキル行使に、MP以外の制限のないワープ。

 ジョブではない文字通りの暗殺者にこれができたら、手の打ちようがないしな。

 自分と同じ境遇の者がいるかは分からないが、敵対してはいけないということは明らかである。

 

 

 湯船に半分も溜まる頃には熱気で汗だくになってきた。

 途中退室しなかったセナクロワも顔が上気している。

 猫人族の彼女にもうなじの辺りに生える、髪と同じ深い青色の短い毛には汗が滴り、頭の上の耳がくてんと倒れこんでいるので、戻ってもいいと伝えたが動こうとしない。

 

 主人が働いているのに、と悔しそうに零したが、この後のために好きでやっているのだから気にしないでほしい。

 もう日課なので考えることもなくなったが、この作業がすでに蒸し風呂に入っているようなものだよな。

 

 アコルトたちを呼んで着替えやタオルを貰ってくるようにと、半ば追い出すような形で浴室から送り出しつつ、自分は浴室に残り入浴に足る容量までお湯を作っていった。

 

 

 出てすぐの部屋にクローゼットが移動しているのもあって、すぐにみんなの準備も整い、いよいよ入浴である。

 道具の説明は皆に任せて、汗をさっさと流したい自分が一番風呂を頂く。

 

 髪から始めて、石鹸をファルフのたわしで泡立てて体を洗い、湯船に入って水面が顎につくくらいまで深々と浸かる。

 ロングヘアのセルフ洗髪にも慣れたものだ。

 洗ってもらうのは楽だが、皆丁寧にやってくれるので、自分でザーッと終わらせたくなる時がしばしばある。

 でも適当にやっているところをアコルトに見られると怒られるんだよな。

 

 

 ぞろぞろと入浴スペースに入ってきた皆を迎え、すのこの上を慎重に歩いてくるセナクロワを見つめる。

 

 腹筋がきれいに割れていて、しなやかに引き締まった身体つきだ。

 あんまりまじまじと見ていたからか慣れない視線に焦っていたセナクロワも、皆に体中を洗われて湯船に入る頃には表情も蕩けだしていた。

 

 初日だからではなく、毎日これなのだと伝えたら大層感謝していた。

 入浴の気持ちよさを知ってしまったら、これが当たり前の日常に慣れてしまったら、もう戻れまい。

 

 それにしても、この人数だとさすがに全員でお湯に浸かることはできなくなった。

 順番に入ればいいのだが、今日みたいに集まった時に待たせるのはなぁ。

 やっぱり大きい風呂桶、買うか?

 

 手間が増えるのは注水と排水時間くらいだし、MPも増えてきた今なら所要時間が多少増えてもいいだろうか。

 うーん、魔道士になってもう一段階魔法が使えるようになったらにしようかな。

 中級水魔法は水量も増えていたような描写もあったし。

 大桶も特注で、すぐに手に入るモノでもないし、魔道士まであと一歩くらいになったら木工職人に頼みに行くか。

 

 

 バスタオルで水気を取った後、新たな肌着を身に着ける際にもセナクロワは驚いていた。

 肌触りのよい生地はずっと触れていたくなるような感触というのも分かるが、普段キリッとしている彼女が新しい肌着に歓喜している様子は、なんだかちょっとかわいいな。

 

 初日だしどうせだったら皆で寝るか、と声を掛けてみる。

 当初捲し立てるセナクロワに気圧されていた印象も、半日過ごしてみればずっと柔らかい雰囲気であったことに気付いたのだ。

 

 たぶんあれはあれで緊張していたんだろう。

 そりゃそうか。

 亡き王女の生き写し(?)と、探していた血筋の者が目の前にいたんだから。

 

 自分に対してはまだ幻視が混ざっている気がしないでもないが、リカヴィオラに対しては口調は丁寧なままでも、今では親戚のお姉さんくらいの立ち位置に見える。

 先に合流していたことや、今日の買い物でだいぶ打ち解けたんだろう。

 そのまま仲良くやっていってほしい。

 

 

 2階のベッド脇まで移動し、どのポジションで寝ようかと悩んだところで、背の高い2人が一旦両端の壁側に移動する。

 どちらも体格を考えて気を遣っての行動だろう。

 

 お嬢様は中央に、とアコルトに促され、そのまま真ん中へと寝転ぶ。

 自分の隣にはアコルトが陣取り、どこでもいいらしいシャオクは、そのアコルトとミーラスカの間へともぞもぞと入り込んだ。

 タイミングを逃したリカヴィオラは、自分とセナクロワの間に収まる。

 

 両端に立っていた2人が最後にベッドの上に移って、川の字の隣に川の字が並ぶ。

 この人数がギリギリっぽいな。

 湯船と違ってこちらはもう広げられないから、やはり1階の寝室とで調整だな。

 

 

 6人の偶数で、自分がベッドの真ん中にいては片側が狭いだろうとリカヴィオラの方に少し寄ると、アコルトがこちらの腕を取って隙間を詰めてくる。

 いや、位置調整としての意図は合っているけども。

 

 それを見ていたリカヴィオラも、数瞬ののちに同じく腕を絡めて頭を寄せてきた。

 一番奴隷(お手本)を見てこうすべきと思ったんですか、あなた。

 ……まぁ悪い気はしないが。

 

 自分を捕獲した2人よりも身長が低いので、頭の位置の調整に難儀していたところ、セナクロワと目が合う。

 何も言わずに、目を細めて只々ゆっくりと頷いているのは何なんだ。

 これはこれでいい、みたいな顔をするな。

 

 振り払うわけにもいかず、諦めて瞼を閉じる。

 いつもより多い息遣いの音を聞いているうちに、いつしか自分も寝入っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌朝、夏の中月最終日である30日。

 夏季はまだ続くが、これから少しずつ暑い日も減っていくらしい。

 

 人数が増えようと自分が起きるのが一番遅いのは変わらないようである。

 

 朝から家事などいくらでもあるし、遮蔽セメントに覆われた自宅内では護衛の必要もないし、寝坊助は置いて階下に向かうのが正解だよな。

 前日に甕の水の補充をしていなければ叩き起こされたかもしれないが。

 

 本日は迷宮には向かわないと伝えてあるので、アコルトが普通の外出用の着替えを用意してくれている。

 のそのそとそちらに着替え、階段を降りた。

 

 

「おはよ~。

 リカは……買い出しかな?」

「おはようございます、お嬢様。

 はい、リカさんはセナさんを連れられてパンを買いに……、ちょうど戻ってこられましたね」

 

 

 耳を動かして足音を察知したらしく、アコルトが正面の扉へと顔を向ける。

 

 

「───帰還いたしましたであります!」

「只今戻りましてにございます!」

 

 

 玄関が勢いよく開いたかと思うと、セナクロワが扉を留めて、リカヴィオラがパンの入ったバスケットを抱えて入ってきた。

 てっきりセナクロワが荷物持ちをしそうなものだと考えていたが、どうやらリカヴィオラが譲らなかったらしい。

 商館でも妾奴隷の待遇を蹴ってまで家事をしていたようだし、意地というか拘りがあるんだろう。

 

 そんな彼女の様子をニコニコというかにやにやというか嬉しそうに見つめているセナクロワだが……。

 従順な分にはいいか、うん。

 昨日の夜もそうだったが、少なくとも害はないだろう。

 

 

 

 肉野菜炒めに焼き立てのパンを頬張りつつ、今日の予定を相談する。

 昨夜作っておいた水出しのハーブティーのカップを傾け、持っていかれた水分を補給した。

 

 

「昨日伝えたように、セナの装備を新調してないから迷宮はなしね。

 ルテドーナや帝都のお店を見てくるのもありだけど、先にワープで行けるところを増やしてこようかと思ってる」

「私が姫にお供をしつつ、案内するでありますか」

 

「そうだね。

 経由地の順番とか冒険者との行き先の交渉を任せたいんだ」

 

 

 実際にセナクロワは、隣国からかなり距離のあるこのシームまで移動してきている実績がある。

 立ち寄る街や村も無駄なく回りたいしな。

 自分じゃ地名のメモを取っても、取り逃した地点の挽回ルート構築なんてできそうもないし。

 

 アコルトもついて行きたそうではあるが、移動者の人数が多くなって冒険者に渋られても困るし、今回は遠慮してもらうか。

 残りメンバーは休暇にすると話すと、昼までは皆で家事をして、その後帝都に送るという形で落ち着いた。

 自分が一旦戻って送り届け、夕方に回収すればいい。

 方位的には逆方向なのでMPの消費も高まりそうだが、普段迷宮や用事に付き合ってもらっている分、羽を伸ばしてもらいたい。

 

 普段着で行こうとは考えたものの、足元を見られないためにある程度ちゃんとした格好のほうが良さそうか。

 

 自分はインナーの装備にカジュアルな上着を身につけ、ミスリルメッシュスカートには柄物のオーバースカートを重ねる。

 一応タクトのケースも腰につけているので、それなりの魔法使いには見えるだろう。

 

 髪型は簡単に結んでもらおうかと思ったが、ポニーテールのセナクロワとお揃いになるからかアコルトがツインのお団子ヘアにしてくれた。

 まとめたところから毛束が垂れて、アレンジに東洋風を感じられて結構いいな。

 鏡を何度も見ていたから気に入ったのはバレていそうだ。

 

 セナクロワはミーラスカの防具を借りて、ダマスカス一式に風切りの鋼鉄剣を下げてもらった。

 高さもあるので、しっかり護衛に見えるはずだ。

 

 移動先ではパーティーは解散される旨を皆に伝え、アイテムボックスから銀貨を小袋に小分けにして荷物に入れておく。

 ジョブはMP補正を伸ばしたほうがいいか。

 森林保護官を外して僧侶に付け替え、経験値関係も不要だから魔剣士も入れておこう。

 

 

 まずは到達地点のうちの南方の都市、ラエチッタへと向かうゲートを開いた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv46
魔法使いLv46/英雄Lv43/探索者Lv46/僧侶Lv30/遊び人Lv43/巫女Lv34/魔剣士Lv7
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官45 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv34

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv33

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv31

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 戦士Lv31



---
次回は2/9更新の暫定予定です。


今回更新が大幅に遅れて申し訳ありません。

年末から週6+αの仕事で、執筆時間が確保できず、次回予定も暫定でまだ書けていません。
正月休みの代わりは3月以降には取れると思うので、何ヶ月もこんな状況にはならないと思いますが、しばらくご心配をおかけするかもしれません。
高評価、お気に入り、ここすき、ありがとうございます。
励みになっております。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。