異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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175 厳選

 シームへと一時帰宅する際は、あのサシュレマという冒険者に鉢合わせしないように、ラエチッタから少し北側のメレデーの街を中継地として使った。

 南方へと送ったはずの顧客が、移動前の場所に現れてはおかしな話になってしまう。

 色んな場所へ行き過ぎて名前と土地がよく分からなくなってきていたものの、候補地としてセナクロワが特徴を述べてくれたおかげでなんとか思い出すことができた。

 

 

 

 

 自宅の内壁へとゲートを繋げて、南方から帰ってきた。

 出てきたところにちょうど居たアコルトが、見慣れない荷物に首を傾げる。

 

 

「おかえりなさいませ、……そちらは?」

「ただいまー。

 セナ、ちょっと下ろしてみて」

 

 

 返事をしたセナクロワが重量感のある袋をそっと下ろし、袋の口を開いてみると、他の皆も何だ何だと集まってきた。

 ジャラッと籾を一掴みして、そのうちのひと粒を摘み上げ、残りは袋へと戻す。

 

 

「オーレズっていう穀物だよ。

 これを食べたくて仕方なかったんだよね」

「食べっ……、姫は召し上がるつもりだったのでありますか!?

 てっきりこれから何か家畜を飼うものだと……」

 

 

 飼料として認知されているものを食べる目的だと初めから伝えると、捜索意欲も減るだろうと思ったので言わないでおいたのだ。

 

 普段から高級品の迷宮食材を食べているはずなのに、急に動物の餌箱の中身を食べるために探したいなんて言われたら、いくら常識の薄い主人だろうとついに壊れたのかと疑いたくなるに違いないからな。

 よほど貧しい人々は食べることもあるらしいが、喜んで食べているわけでもなかろう。

 オーレズに馴染みのないアコルトたちが、それの扱いを知っているはずのセナクロワの反応を見てちょっと引いている。

 

 

「大丈夫、美味しく食べるための調理法があるから!」

「……お嬢様がそう仰るのでしたら」

 

 

 実際に炊いて食べてもらうのが一番だが、今から籾殻を取り除いて、浸水して、炊飯してというのは時間がない。

 知識通りに手順を進められるかという問題もあるし、そもそもこのオーレズに合った水量や火にかける時間も、色々試してみないと難しいはずだ。

 唯一その程度のわかる自分が、付きっきりで検証しないと食べられるものも食べられない。

 

 

「すぐにはできないから明日かな。

 傷みやすいって話だから、とりあえずは湿気の少ない所に置いておきたいんだけど……」

「それなら納屋がいいと思います!」

 

 

 シャオクの言う通り、直射日光も雨風も避けられる納屋が一先ずの保管場所としては無難だろうか。

 使用後に洗った農具や、石鹸と蝋燭作りの際にも、置いておけば乾燥していたので湿気が籠もることも無さそうだ。

 棚の上の段なら地を這う虫なんかにも対処できるだろう。

 

 取り出したオーレズを袋に戻して口を縛り、納屋へと仕舞いに行く。

 身長の高いミーラスカとセナクロワが羨ましいな。

 

 ちょうど置けそうな場所も確保できたので、あとは今日帰ってきてからと明日かな。

 せっかく帝都に行くのだから、今日はそちらで食べるつもりだし。

 

 簡単に荷物を整理した後、アコルトたちをパーティーに勧誘して、戸締りをしてからワープゲートを開いた。

 

 

 

 

 帝都の商業地区へと移動し、飲食店を探す。

 昼の鐘が鳴る前から結構な人の入りがあった店ならば期待もできそうだと、適当に店を決め、通された席でおすすめの料理を選ぶ。

 

 セナクロワが、我が家の中だけではない奴隷の振る舞いに未だに困惑気味だったが、考えるだけ無駄ですとシャオクに言われて、悩むのはやめたようだ。

 思えばリカヴィオラはこのあたりについては考えるよりも現状を楽しんでいるようだし、ミーラスカは美味しく食べられればいいと、流されるままに従っている様子である。

 アコルトとシャオクの2人は、最初期に自分に散々振り回されているので理解というか諦めというかそんな境地かもしれない。

 

 迷宮では人を避けているし、都市では比較的治安のいい場所にしか訪れていないので、他人が奴隷を扱う様をしっかり見たことはほとんどないな。

 まともに奴隷らしい労働に勤しんでいるのを見たのは、サラトタでの診療団の者たちくらいか。

 

 でも鑑定では隷属状況を確認できないだけで、そこかしこで働いている住人たちが実は奴隷だったという可能性も大いにある。

 各町の奴隷商館にあれだけの人数が居て、それが頻繁に入れ替わるのなら、かなりの数が溶け込んでいるはずだ。

 ……他人の扱いがどうであれ、うちでの待遇が変わるわけでもないから気にする必要はなく、それこそ考えるだけ無駄か。

 シャオクが言っていたのはそういうことだろう。

 

 

 食事としては、量も味も無難な店だった。

 まあまあ美味しいとは思うが、回転率重視の所だったようで、提供は早いが味はそれなりといったところだ。

 ペッパーやソルトは迷宮産のようだが、肝心の食材は地上産だろう。

 時間帯や注文を変えればもう少し違った感想になるかもしれないが、お腹は膨れたので満足ではある。

 

 店を出た後は武器屋と防具屋を見て回り、その後は自分とセナクロワはまた街移動の旅へ、アコルトたちは買い物へとそれぞれ向かう。

 おおよその集合場所と時間を取り決めておいたので、いくつかの場所を経由して、再びレウネダの町へと移動した。

 

 

 

 レウネダの冒険者ギルドからは、街移動を小さく刻んでワープの到達地点を増やしていく。

 

 途中、少し大きめの街などでは装備品の店を冷かしたりを挟みつつ、最終的に行き着いたのはエスラルグ侯爵領の領都であるエスラルグだ。

 ムタユの村からエスラルグ領ではあったが、かなり南北に伸びた形なのか、領地の端から端まで移動していたらしい。

 もう1つか2つの町を経由するとアウダニア王国に入るそうだ。

 

 領都エスラルグは、帝国最南の大都市ということで、ルテドーナのように各種ギルドや競売会場も備わっている。

 そう、ここがセナクロワにお願いしていたもう一つの目的地だ。

 

 米に似た作物であるオーレズの購入先と、ザノフの影響の薄そうな遠方のオークションのある街。

 この2つが求めていた場所である。

 

 アウダニア王国に入ってしまえば選定はもっと楽だったに違いないが、亡くなられてから数年経っているとはいえ、王女様に似ていることでの面倒事は避けるに越したことはない。

 ただの杞憂に過ぎないかもしれないが、セナクロワのように未だに追い続けている者が他にもいたら問題だ。

 ましてや国内だし、王女様は人気があったそうだしな。

 

 そんなわけでギリギリ帝国内に留まりつつ、目的を果たせそうな場所に辿り着いたわけだ。

 しかし今日は中月の末日ということで、商人ギルド併設の競売会場周囲は混雑しているようなので、訪問はまた今度だな。

 

 集荷場のレウネダに、競売場のエスラルグ。

 覚えておくべきはこの2カ所くらいなので、物覚えの悪い自分にとって今回の遠征は優しいものとなった。

 

 

 

 

「ではこの街でも装備を確認した後は、見繕っていた物を帰りがけに買い集めていくでありますな」

 

 

 休憩を終え、さて帰ろうかという矢先にセナクロワが口を開いた。

 

 覚えるべきが少なくて楽だと図に乗っていた奴がいたみたいだが、道中に装備の冷やかしをしてきたことすら忘れていたらしいな。

 はい、自分です。

 また移動先のヒントを貰いつつ、頭を捻る羽目になるのは間違いない。

 

 

 

 エスラルグ領は他国と接しているだけあって、街中で見かける騎士団の装備が、これまで訪れた都市よりも1ランク上のような気がする。

 それに伴ってなのか、一般人が購入できる武具の品揃えも、鍛冶の街であるルテドーナより豊富に思えた。

 

 大きめの武器防具複合店に、ミスリル防具の全身装備が一揃い、展示品としてカウンターの奥に置いてあったことが特に印象深い。

 ああやって飾っておくことで、迷宮攻略を目指す者たちに、『いつかは……』と夢を与えているのだろうか。

 空きスロットがなかったり、微妙だったのでそれ自体には手は出さなかったが。

 

 

「すいませ~ん!

 白銀製の装備ってそこに飾ってあるモノだけですか?」

「はいはい、こちらは展示品限り……おおっと!

 おいちょっとカウンター代わってくれるか!

 …………お待たせいたしました、どうぞこちらへお越しください」

 

 

 一瞬断られたのかと思ったが、どうやら売り物を見せてもらえるらしい。

 人間の武器商人についていくと、店の奥の扉の前に着いたところで、エマーロ族の別の店員が現れた。

 

 エマーロ族の旅亭は、騎士に頼らずインテリジェンスカード操作のできるジョブとして引っ張りだこだな。

 同じカードチェックをするにも、中位職の前提条件を満たして奴隷商人のジョブに就いてまで遊ばせることもないだろうし、各街の宿の数なんて簡単に増やせるものでもない。

 身分の照会が必要そうな職種との縁さえできれば、家業の宿を継がない者でも食いっぱぐれない種族というのは強い。

 それさえできない者は、どこに行ったって無理だろうしな。

 

 

「いやぁ買う気もないのに見せてくれっていう者も多いもので、すみませんね。

 カードのチェックを受けていただいて、アイテムボックス持ちのジョブの方にはここでお待ち頂く形になりますが、よろしいですよね?」

「ええ、もちろん」

 

 

 自分が身につけているサークレットやフィンガーバングルを白銀製と見抜いて、購入希望と判断したようだ。

 セナクロワが装備しているのもダマスカス一式だし、冷やかしの客ではないと扱ってくれたんだろう。

 ……これまでの店では、散々期待だけさせて出ていったことになっていることに気付いて、戻るのが少し億劫になってきたぞ。

 

 魔法使いと戦士であることの確認が取れ、回収不可能な持ち出しの心配がないと分かると、在庫が並べられている部屋へと通された。

 それぞれの部位で2つ3つずつまとめられている白銀装備と、それより少し数が多いダマスカス鋼の装備が目に入る。

 

 これだけ置かれていると期待値も高いが……、やはりスロットの付与数はランダムなんだろう。

 推測している通り、素材の希少さで平均的なスロット数は多くなっているものの、やはり半数がスロットなしである。

 残りはほとんどが1スロットばかりで、たまに2スロットのモノが見つかるくらいだ。

 こんな確率では製造ガチャなんてやってられないな。

 

 つい「微妙だ」なんて口走りそうになったが、揉み手でこちらに目を光らせている武器商人がいたことを思い出して口を(つぐ)んだ。

 セナクロワは目を煌めかせて食い入るように装備を見つめているが、もしかしたらいつか装備してみたかったのかもしれない。

 これより上位の装備って聖銀製とかだろうし、見かけることすら難しそうだしな。

 

 しばらく鑑定を使ってめぼしい白銀装備がないことを悟った後、ダマスカス鋼の装備の区画へと移動する。

 セナクロワが店員に、商品に触れてもいいかと確認していることを横目に、新たな鑑定地獄へと歩みを進めることにした。

 あちらでは奴隷だろうと丁重に扱ってくれているのは、やはり自分が名字持ちで魔法使いジョブという、インテリジェンスカード越しの威光のおかげなんだろうか。

 

 こちらが説明をするまでは、相手が勝手に何かを察して取り計らってくれるのは便利だが、小心者の自分にとっては未だに慣れない感覚である。

 

 

 さすがにダマスカス鋼製装備は白銀製よりも数が多いだけあって、3スロット4スロットの装備も見つかった。

 そういうモノに限って、同じ装備部位だったりするんだよな。

 

 これまで移動した都市の装備と合わせて、一応全身防具が整えられそうかな。

 武器の方はどうするか、とセナクロワの方に振り返る。

 

 

「お待たせ……、それは?」

 

 

 セナクロワが持ち手を変えたり、取り回しの確認をしている武器に鑑定を飛ばす。

 

 

白銀の長剣(○ ○ ○ ○ ○)

 

 

 なに、それ。

 

 

「せっかくの機会でありましたので白銀製の長剣はないかとお尋ねしたところ、奥の方に眠っていたこちらを探し出して頂けたのであります!

 (おそらくは売れ残っていたものなので、ミツキ様のお眼鏡に適うかは分からないでありますが……)」

「(……武器としてはどう?)」

 

「(刃(こぼ)れもなく、埃を被っている程度なので、手入れをすれば問題ないかと)」

 

 

 長剣は、通常の刃渡りの剣と比べて鍛冶素材も多いはずだし、その分値段が上がるはずだ。

 装備者に合わせてフィットすれば使い回せる防具と違って、武器はどうしても種類によって本人の適性がある分、需要は限られてくる。

 たまたまなのか、この店に訪れる客との相性が悪かった期間が長かったために、取り下げられていたんだろう。

 

 

「(セナが使いやすいなら、買おう、それ)」

「よ、よろしいのでありますか!?」

 

 

 ひそひそ話から突然あがった声に、店員がハッとしてニコニコしながら近寄ってくる。

 

 

「おやおや、お気に召された商品がございましたか?

 おお、お目が高い!」

 

 

 なんともわざとらしい発言ではあるものの、売れ残りだろうと商品には変わりない。

 この機に売りつけようという魂胆だろうが、どうせ複数商品を買うつもりだし、3割引もされるので言わせておくか。

 ……と思っていたのだが。

 

 

 

 

「───それでは、こちらのダマスカスの胸当てと合わせていくらになるでありますか?」

「くっ……、に、27万ナールではいかがでしょうか」

 

「ミツキ様、どうなされるでありますか?」

 

 

 白銀の長剣が20万ナール、ダマスカスの胸当てが9万ナールだったところを、整備が甘いとかなんとか言ってセナクロワが値切った。

 白銀の剣が18万ナール程度だったと思うから元の価格は妥当だったはずだが、相手方も倉庫の肥やしを売り切ってしまいたいらしく、苦い顔をしながら提示してくれている。

 

 ダマスカスの胸当てという名の胴防具は、胸部分だけでなく腰回りまである装備だ。

 翻訳の都合でこうなっていると思うが、おそらくスキルを付与するとブレストプレートとかになるとみた。

 数々のゲームを触りだけやっていたおかげで、装備品の名前はなんとなく当たりがつく。

 

 

「ではそちらでお願いします」

 

 

 購入の意思表示にホッとした様子の店員が、口を開く。

 

 

「この度は当店秘蔵の品をお求めいただき、その見事なご慧眼に感服いたしましたので、特別に18万9000ナールとさせていただきます!」

 

 

 わお、剣を買ったら無料で鎧が付いてきた。

 安堵の表情のままこのセリフを言っているのだから、世界のシステムに干渉するボーナスポイントって怖いね。

 

 セナクロワの表情が固まったままなので、受け取った装備を持たせてそのまますぐに店を出た。

 

 

 

「随分と気前がよかったね~」

「は、はぁ……、私の値段交渉後にさらに下がったであります……?」

 

 

 その交渉で、割引によって下げ幅自体が減っても金貨1枚以上は下がっているのだから、十分すぎる貢献である。

 

 

「セナの交渉があったからだよ。

 じゃあ一旦、装備は預かって……、次の購入候補はどこだったっけ?」

「そ、そうでありますか!

 次は───」

 

 

 セナクロワの装備を買い集めながら、経由地を逆順で回りつつ、シームを目指した。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv46
魔法使いLv46/英雄Lv43/探索者Lv46/僧侶Lv30/遊び人Lv43/巫女Lv34/魔剣士Lv7
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官45 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒30 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv34

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv33

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv31

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv29

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 戦士Lv31



購入品
・白銀の長剣(○ ○ ○ ○ ○)
・ダマスカスの胸当て(○ ○ ○ ○)


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次回は3/2更新の暫定予定です。


毎回の更新遅延申し訳有りません。
未だに休みがまともに取れません。
セナクロワの装備は揃った段階で一新します。
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