必要なのは鞭と、魔法の威力を上げるらしいワンドだろうか。
それに特化していると言われる聖銀素材の防具や武器は、今の資金では厳しいと思う。
知力強化のスキル武器を手に入れられるようになったら考えるべきだ。
とりあえず鞭がアコルトに扱えそうかの確認をするのが先だろう。
売り場には、数は少ないが何本かの鞭が置かれていた。
購入前に試用できるか聞いてみると、アコルトが持っている竜革装備の山を見るなり快諾してくれた。
まずは皮の鞭で試してみて、よさそうなら店の奥から金属製や竜革製も探してきてくれるということになった。
購入前の防具を一旦預かってもらい、見習いだという店員が店裏の開けた場所に案内してくれた。
作業場の隅にあたるらしい。
使っていいという廃材を地面に突き立て、アコルトにはそれに向かって鞭を振るってもらう。
ビュンッと風を切る音がして、鞭の先が廃材を叩く。
鞭の武術は知らないが、初めから命中させるのは筋が良いんじゃないか?
右から左からと振り方を変えても、悉く廃材をピシッと叩く。
えっ、アコルトさん経験者ですか?
「なるほど。
先端がすこし軽いですが、釣りと似ていますね」
聞いてみると、祖父に付き合って釣りもやっていたらしい。
投げ方と着地点の予想が似ているそうだ。
もしかしたら狩人のパッシブスキルの『命中小アップ』も影響しているかもしれない。
鞭の場合は先端のテール部分を当てるだけでなく、しなるボディ部分を使うのだと見習い店員が教えてくれた。
先輩の受け売りらしい。
それを聞いたアコルトは、何度も調整して打ち込みを続ける。
繰り返す内に、廃材のギリギリ手前の地面を叩いてみたり、手首の返しで廃材に巻き付けて倒したりと、動かない的相手だが実戦でも使えそうな使い方になったんじゃないかと思う。
なんだかいけない才能を引き出してしまったような気がする。
試しに鞭ではなくフラガラッハを持たせてみたが、フラフラと振るって足の上に落としそうになったので二度と攻撃用の剣に触らせないと誓った。
さっきの鞭使いのアコさんはどこに行ってしまったのか。
廃材を片付け、見習い店員に礼を言って店内に戻る。
「おっ、どうでした?
使っていただけそうですか?」
「良さそうなので、他の鞭も見せてもらえますか?」
「そう思って何本か見つけておきましたよ!」
店員が引っ張り出してきたのは、チェーンのような細い金属の輪が連なったものが1本と、竜革らしき鞭が2本だった。
鑑定するとチェーンウィップと竜革の鞭と表示される。
アコルトに持ってもらったが、金属製は重くてクセがあるようで、皮製とは使い勝手が違うみたいだ。
竜革製は皮製とほぼ同一の形状で、先ほどと同じように運用できそうである。
片方の竜革の鞭にはスキルスロットがなく、チェーンウィップには2つ、もう一つの竜革の鞭には3つの空きがあった。
もうこれで決定だろう。
鞭はなかなか買い手がいないらしく、値引きしてくれるそうだ。
精算前に値引きするとさらにそこから3割引かれるので申し訳なくなるが、してくれるものはありがたく受けよう。
ワンドも選び、防具と合わせて会計をしてもらう。
流石に竜革製一揃いは高い。
これで所持金は10万ナールを切ってしまった。
それでもお金を惜しんでケチって死ぬよりマシだ。
23階層以降のドラゴンボス素材なのだから、同等の階層くらいまで使えるだろう。
しばらくはレベルを上げて魔法での殲滅力を上げつつ、資金を稼ぎたい。
アコルトの戦闘の様子見も必要だ。
武器屋を出ると、その足で冒険者ギルドへ向かう。
買うべきものは、強壮丸と黒魔結晶だ。
魔法主体になるので、デュランダルを持たないならばMP回復薬を多用することになる。
強壮丸の材料である遠志をドロップするフライトラップが出現するのは12階層ということなので、安定してそこを狩れるまでは買い続けなければならない。
黒魔結晶はすでに1つは買って紫魔結晶にはなっているが、さすがに100体分から10000体分の魔力はすぐに貯まることはないだろう。
結晶化促進を適宜使用しつつ色が変わったら取り替えて、緑魔結晶あたりを増やしていこう。
10個貯まればそれが税金分となる。
たしか魔結晶同士をくっつけると、ひと塊になって蓄積魔力も合計されるんだったっけ。
それもやってみたい。
所持しているものと合わせて、探索者Lv20のアイテムボックスの3列分になるように強壮丸を購入する。
手当も取得しているし、滋養丸は1列分あればいいだろう。
黒魔結晶はひとまず10個ほど購入して、それもアイテムボックスへと仕舞い込んだ。
買い物はこのくらいでいいだろう。
荷物を置くためにも、一旦宿に戻ろうか。
アコルトに詠唱のフリをしてもらいつつ、冒険者ギルドから宿へとワープした。
***
リュックの中身を詰め替えて、買ってきた着替えをクローゼットに仕舞う。
迷宮では小さい方のリュックをアコルトに、元々のリュックを自分が担げばいいだろうか。
自分より前で牽制してもらう彼女の機動力を下げたくはない。
これから探索者のレベルも上がっていくし、アイテムボックスに入らないのは水筒や弁当、溢れたドロップアイテムくらいしかないから、後衛で固定砲台化する自分が管理しておけばいいだろう。
ウエストポーチみたいな小物入れとか、良さそうなものを見つけたら相談しよう。
「その服は動きにくいと思うし、買ってきた服に着替えて。
自分は外に出てるから、終わったら呼んでね」
「かしこまりました。
お嬢様がご不快でなければ、居てくださって構いませんが」
そうだった。
自分が今は女性だということを忘れていた。
いいんですか、見て。
「アコに不快なところなんてないよ!
……気にするかと思ったけど、じゃあ居させてもらうね」
「は、はい。
ありがとうございます?」
変な主張をしてしまったせいでアコルトが首を傾げたが、やがていそいそと着替え始めた。
メイド服を脱ぐところを生で見るのはなかなかに貴重である。
獣人は毛深いのかと思ったらそうでもないようだ。
うなじから少し下まで短い毛がうっすら生えている程度で、見えている部分はほとんど人間のように肌色でツルツルだ。
肌着や下着まで脱ぐ必要がないのでその下まではわからないが、後ろを向いた時にちょこんとした黒い尻尾が見えた。
自分が履く際に疑問に思っていたが、この世界で一般的に売られているかぼちゃパンツのような下着は、背面に穴があり、それが尻尾用の穴らしい。
尾の長い種族用はまた別の形状なのかもしれないが、大半の種族共用なのだろう。
結局は紐で括るから尾のない種族にも問題ないし、尾がある種族には固定点が増えてズレにくくなるのかもしれない。
そう言えば古着も背面に穴の空いていたズボンがあったが、ファッションではなくて、アレも同様の理由なのか。
女性の着替えを前にしているというのに、種族とか服の構造にばかり思考が向かっている。
意識はしていたと思ったのに、本能的には男性的感情が枯れていっているのかもしれない。
馬鹿なことを言っていないで、今のうちにボーナスポイントを調整する。
今はお試しの1階層にしか行かない予定だから、武器は外していいだろう。
自分だけ400倍効率にしても今回は数を倒すわけじゃないし、アコルトにも効果がある獲得経験値上昇と、消費を気にしてMP回復にした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv12
魔法使いLv12/英雄Lv14/探索者Lv20/僧侶Lv7
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
4thジョブ 7 獲得経験値20倍 63
必要経験値1/2 3 MP回復速度10倍 31
(残0/110pt)
「お待たせいたしました」
自分の中の何かと戦っている内に、アコルトが着替えを終えた。
竜革装備も身につけ、腰にはまとめられた鞭をセットしている。
窓を覗くと、陽が傾いてきていた。
「今日はちょっとだけ迷宮に入ってみようか。
お試しだけしてすぐに出るつもりだから、動きづらいとか気づいたことがあったら言ってほしい」
「かしこまりました」
「このまま迷宮の1階層の入口に飛ぶから、ついてきて。
出たところの小部屋は魔物が現れないから落ち着いてね」
「はい」
***
壁に向かってワープゲートを開く。
黒塗りとなった壁の一角に足を進める。
抜け出た先は、見覚えのある石造りの小部屋だ。
後ろからアコルトがゲートを抜けたタイミングでMPがそれなり減った感覚がする。
しまった、ここはカルメリガの迷宮だ。
クラザの迷宮はまだ踏み入れていないので、別の街の、さらに離れた迷宮まで2人分飛んだということになる。
強壮丸を1粒取り出すが、そこで思いつく。
パーティライゼーションを使ってみよう。
ボーナスポイントを振って、パーティライゼーションを念じる。
何かを選ぶように求められたので、手元の強壮丸を指定した。
するとさらに選ぶように求められる。
どうやら対象者を指定するように思える。
試しにアコルトを選ぶと、手の中の強壮丸が消える。
「アコ、今なんか変わった感覚あった?」
「今ですか?
いえ、特に何も変化ありません」
そりゃそうか。
効果があったとしても、減っていないMPを回復したところで無駄に消費されただけだろう。
もう1粒強壮丸を取り出して、今度は自分を指定する。
すると消えたと同時にMPが戻った感覚を受けた。
指定したアイテムを、指定したパーティーメンバーに使用できるということだろうか。
目視での指定が必要なので視認できる距離に限られるが、対象者に直接触れる必要もなく、経口摂取でなくとも効果を発揮できるのはかなり有用じゃないか?
「お嬢様?
いかがされましたか?」
しまった。
使い道の考察は帰ってからにしよう。
「ごめん、なんでもない。
この迷宮の1階層は、コラーゲンコーラルという岩みたいな魔物が1体ずつで出てくる。
鞭の練習と思って当ててみたり、引っ掛けてみたり、色々試してほしい」
「かしこまりました」
「そのあと、魔法を使っていくからね。
今日はスキル名を言うようにするけど、慣れてきたら言わなくなるのでそのつもりでね」
「承知いたしました」
アコルトの装備が強いとはいえ狩人Lv1なので、自分が先行する。
入口の小部屋から通路を進み、角を曲がった。
次の小部屋につながり、そこから延びる通路の先にも魔物は居ないようだ。
「うーん。
誰かパーティーが通った後なのか、全然魔物が居ないな」
「音がする方にご案内したほうがよろしいですか?」
そうか、アコルトには聞き取れるのか。
自分たちの足音しか聞こえないと思ったが、さすが兎人族。
「それじゃ案内をお願い。
コラーゲンコーラルは跳ねて移動するから、石がぶつかるような音だ。
もし剣とか人の足音とか、ほかのパーティーが戦っているような音なら避けてほしい」
「かしこまりました。
それではご案内します」
アコルトが迷いなく引き返し、小部屋から別の通路へと進んだ。
直線の通路の奥がまだ見えないが、立ち止まる。
「次の角を曲がった先に、魔物がいます」
「わかった、慎重に行こう」
少しずつ歩みを進めると、折れた道の先からコラーゲンコーラルが飛び出してきた。
商館では可能ならとは思っていたが、これだけの距離で聞き取れるなら索敵を任せて大丈夫かもしれない。
「行きます」
アコルトが駆け出し、竜革の鞭が届くギリギリの距離で腕をふる。
走った勢いと腕の振り抜きで、ピシィッと痛そうな音とともにコラーゲンコーラルを打った。
コラーゲンコーラルは怯まず跳ねて近づこうとする。
着地のタイミングでアコルトが踏み込んで腕を振るい、その足に鞭を巻き付かせる。
そのまま引き倒すと、岩の頭が床に激突した。
人で言ったら転ばされて顎を強打した感じで痛そうだ。
さらにコラーゲンコーラルが起き上がるまでの間に鞭を入れていく。
その後もアコルトは左右に移動しつつ間合いを取り、危なげなく一定の距離を保っていた。
剣や弓をうまく使えないだけで、この子の祖父はしっかり狩人の技術を学ばせていたのだろう。
しばらく鞭が打ち込まれ続け、岩の代わりに床を叩く音がしたと思うとコラーゲンコーラルが煙に変わった。
1階層の敵にオーバースペックの武器だとは思うが、アコルトは一人で魔物を仕留められたのだ。
その証拠に、アコルトのジョブ設定には戦士のジョブが増えている。
「がんばったね、えらいぞ」
「ありがとうございます」
ドロップアイテムを拾って戻ってきたアコルトの頭を撫でようと思って手を伸ばしたが、こちらの方が背が低いのだった。
差し出した手にコーラルゼラチンを渡してくる。
まぁ、いいか。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv12
魔法使いLv12/英雄Lv14/探索者Lv20/僧侶Lv7
(村人5 戦士16 剣士5 商人1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv1
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次回は7/18更新の予定です。
24/07/22
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