強壮剤の原料である陳皮がアニマルトラップから入手できる、シームの迷宮15階層では、自分がセットしたジョブはレベルキャップのせいで上昇が見込めないだろう。
というわけで、自分だけに作用する必要経験値上昇をはずし、全員に関係のある獲得経験値20倍だけにして、半端な残りは知力へと振った。
この階層のいいところは、他に出現するロートルトロールもラブシュラブもすべて火属性が弱点というところだ。
さらにボスのアニマルトラップ含め植物系の魔物には、森林保護官の『対植物強化』も刺さる。
そのため、現在のレベルで各種ジョブ効果に加えて知力ステータスを振ってやれば、必中のファイヤーストームの2連発を2ターン分撃つだけで、ボスさえも煙へと変わるのだ。
戦闘よりも、ボス部屋と待機部屋を周回する時間の方が手間でしかない。
迷宮内のパーティーメンバー全員が部屋に入らなければ、扉が閉まって戦闘が開始することはないし、ぞろぞろと移動したところで開幕の魔法発動と、魔物が近寄ってくる前にクールタイムが消化されてトドメの魔法発動するまで、他のメンバーは特にすることもない。
そこでいつかのように、メンバー調整をすることにした。
セナクロワと、ここにはいないリカヴィオラだけをパーティーに残し、アコルトたち3人を離脱させる。
待機部屋の隅に邪魔にならないようにミーラスカの大盾を立てて、ボスの討伐後はそちらの陰にワープすることにしたのだ。
別パーティーが近づいてもアコルトが察知してくれるし、15階層程度でダマスカス鋼装備の、それも大盾を見れば、まともな探索者なら関わっていい相手じゃないことは遠目にも分かるはずだ。
ボス部屋への侵入、ボスとお供の出現、討伐、大盾の裏へのワープ。
この1セットで1回1分を余裕で切る。
なんなら戦闘開始から討伐より、出現までとドロップアイテム回収のほうが時間がかかっている気がする。
そんなほぼ素通りみたいなボス周回でも、セナクロワにとっては相当な経験値が入ってくる。
数十秒でLv15のボスとお供の魔物20体分ずつの経験値が取得できるのだ。
アコルトたちは暇そうで申し訳ないが、薬の補充はどこかのタイミングで必ず必要になるので、装備の手入れをしていてもらおうかな。
そのうち毎回のドロップアイテム回収をやめ、何回かにまとめてすることにした。
全滅パーティーのアイテムが次のパーティーの時に残っているのだから、討伐後のドロップアイテムを拾わずに再侵入したところ、そのまま落ちていることがわかったのだ。
全体魔法は直接相手に作用するので、遠志や陳皮が巻き込まれて燃えることもない。
ロートルトロールの
1時間近くも周回を続けていれば、比較的人が少ない階層とはいえ他のパーティーがやってくることもある。
その場合はアイテム回収後に先を譲り、アコルトたちを加入させて、待機部屋から周囲の通路をぐるっと回って道中の魔物の群れを倒していく。
また待機部屋へと戻ってきた頃には、そのパーティーも突破したのだろう、ボス部屋への扉は開いていて、また先程までと同じようにボス周回を再開した。
アイテムボックスに陳皮を新たに2列埋めきったところで、最後に全員をパーティーに勧誘しなおし、ボス部屋へと突入して討伐を終える。
これだけ薬の原料があればいいだろうと、この階層での稼ぎは終わりとした。
セナクロワの剣士のレベルもすでに2桁になっているので、最低限としては上げられたはずだ。
ボス部屋を抜ける前に、ドロップアイテムを回収しながら相談だ。
この後は、昼前に到達した25階層の様子見である。
レベルを上げ直したセナクロワも、体の動きは問題ないと言っている。
「では改めて、モロクタウルスについて説明するであります。
牛の頭をしていて、白色の身体に黒の斑点模様がある、肉弾戦を得意とする人型の魔物であります。
頭の角を突き出しての突進に注意でありますな」
「弱点属性は水で、火耐性だっけ?」
「そうであります。
階層としましては水属性に耐性のあるタルタートルも出現するでありますが、その頻度の問題と、すでに皆殿も対処に慣れたと思うでありますから、残っても問題ないでしょう」
モロクタウルスが階層のメインの魔物なので、遊び人のスキルにセットするのは初級水魔法。
次点で出現率の多いシザーリザードの数が多ければ魔法使いのスキルの方で土魔法も撃っていくが、接近戦を強いられるタウルスの方から倒していくのがセオリーだろう。
うちは詠唱中断武器が揃っているので、余程後方に隠れられない限りは、タートルやリザードの魔法陣を見てからの対応で間に合う。
「注意点としては、モロクタウルスの直線上に味方と並ばないことでありますな。
突進を避けたことで、後ろの味方の被弾を招いてはなりません。
魔物と味方の位置をしっかり把握することが大切であります」
おそらく最後尾になるだろう自分が立っていても大丈夫そうなのは、複数体を防げそうなミーラスカの大盾の後ろか、迷宮の地形自体の物陰くらいか。
避けるのに毎回オーバーホエルミングを使っていたら世話がない。
セナクロワもシャオクも止めるのは1体ずつが限度だろうし、アコルトは回避しかないだろう。
作中ではすぐに麻痺や石化していたイメージだが、耐久力の代わりに状態異常に弱いとかあるのかな。
まぁ、何にしたってモロクタウルスの割合が多い群れには要注意に変わりない。
そう考えると、やっぱり魔道士の雷魔法を早く取得したいな。
耐性考えなくてすむ魔法攻撃と、同時に麻痺も狙えるという手札はすぐにでも欲しい。
ボス部屋に転がっていたアイテムの回収も終わり、注意事項の確認も終わったので、ボーナスポイントを調整してから16階層へと移動した。
皆が階層入口小部屋へと抜け出たのを確認して、すぐ横の壁にダンジョンウォークを発動する。
セナクロワを除いて、皆の最高到達階層である25階層へと出てきた。
ミノの時もそうだが、フィジカルが強くてこちらに迫ってくる魔物……それも実物を想像しにくい魔物がいるということで緊張感がある。
深呼吸をして息を整え、その間に索敵をしてもらったので、通路へと踏み出した。
初見はなるべく種類も数も少ない群れを、ということでアコルトが案内してくれた先には、模様だけでいえば見覚えのあるそれが徘徊していた。
モロクタウルス Lv25
モロクタウルス Lv25
モロクタウルス Lv25
頭だけは牛。
それもホルスタイン的な白黒の柄。
現代の牛乳のパッケージにいそうなその首から下には、肥大化した筋肉質な体がついて、2本足で立っている。
模様が全身に及んでいるのは、牛柄のテクスチャを1枚で済まされたというか、全身タイツを履かされたというか、
これを牛人と表す他ないが、それでは牛人
牛人族の方は大柄で角がついていること以外はほぼ人間なので、それも適切かどうかと聞かれたら分からない。
でも、ミーラスカは美人だしかわいいので正義なのだ。
故にモロクタウルス、貴様らは葬る。
戦闘開始を告げるウォーターストームの水泡が二重にモロクタウルスたちを包み、ダメージでこちらに気付いた魔物たちが通路を走って向かってくる。
シュール過ぎる光景だが、魔物は魔物だ。
右側にセナクロワが、左側にシャオクが、中央にミーラスカが位置取って牛人たちをそれぞれ引きつけにかかる。
アコルトは群れが散るように牽制を入れつつ、ターゲットを取らないように調整している。
タウルスたちとの接触をする前に2ターン目の水魔法が敵を包んだ。
衝突の直前に発動できたおかげか、最後に失速して盾に角をぶつけ、鈍い音を立てただけとなった。
盾や剣に弾かれた魔物たちの中には、転倒しているものもいる。
その隙を見逃さない剣が、槍が、鞭がモロクタウルスたちを攻撃し、起き上がる途中で麻痺による硬直も入った。
もちろん3体すべてが拘束されたわけではない。
1体は一連の攻勢に怯まず腕を振り回してきたが、しっかりと見定めて躱したセナクロワに足を斬りこまれて
転倒から起き上がってきた別のタウルスが、体重をかけるように前傾姿勢で、角を突き出してシャオクに踏み込んでくる。
近距離での突進だ。
それでも慌てずにダマスカススピアを突き出し、微妙に進路を変えさせてから鋼鉄の盾で受ける。
「───え!?」
戦闘中に珍しくシャオクが驚いたような声をあげる。
「……アコルト殿ッ!」
「はいっ!」
別のモロクタウルスの猛攻を捌きながら、セナクロワが指示を出す。
アコルトは返事をして、シャオクと対峙しているタウルスの注意を引くように攻撃を加えた。
自分は嫌な予感がして全体手当てを2度ほど使い、ウォーターストームの発動も怠らないように気をつける。
すいません、とシャオクが盾を持つ手を握り直して、アコルトと入れ替わった。
もしかして、相手のモロクタウルスのクリティカルでも発動したんだろうか。
魔物の保有スキルまでは看破できない鑑定がもどかしい。
直撃ではなく逸らすような角度で合わせたはずなのに、想定以上の衝撃を受けたようだ。
事前にセナクロワから強い攻撃があると聞いていたものの、発生頻度は分からないので、気に留めておくくらいの話だったはずだ。
一度接触した相手の力量を大きく間違えるなんて、シャオクらしからぬミスである。
初回の接触が失速気味だったことも、次の力加減を見誤った原因の一つかもしれない。
それでも盾を取り落としたりはしなかったのは偉い。
その後はアコルトが加勢したシャオクの相手のモロクタウルスが石化し、セナクロワの担当分もちょくちょく麻痺が入って行動不能、状態異常付与のないミーラスカが受け持ったタウルスだけ最後まで健在だったが、度重なる水魔法の連発を受けて煙になった。
ちょっとイレギュラーはあったものの、無事討伐である。
攻撃がクリティカルだったのか、ドロップする
受けたのがアコルトだったらやばかったかもしれない。
一旦入口小部屋に戻って、相談するか。
「シャオ、腕とかは大丈夫?」
「問題ないです!
思ったより衝撃があっただけで、意識しておけば連続で受けても対処できそうです。
……がんばっても2体までですが」
怪我をしてからじゃ遅いんだが、1体なら立て直しもなんとかなる程度で収まるらしい。
対応に無理させるつもりはない。
「麻痺はタルタートルより掛かりやすい印象でした。
お嬢様の最後の魔法の直前に、最後の魔物も石化していたようです」
「すると、4体以上いる時は最初から状態異常耐性ダウンを入れて拘束を狙ったほうがいいね」
4体以上と言わずに、経験値効率を落としてでも博徒を入れたジョブ構成で回るべきだろう。
なるべく1対1以下の状況に持ち込んだほうが安全だ。
「わたくしは受け持つ数が増えるようでしたら、呪文を唱えるのは難しいかもしれません……」
「いやそれはこっちで受け持つからいいよ。
余裕がある時だけで十分助かるからね」
場合によっては、大盾で3体の攻撃を止めてもらうこともあるかもしれない。
そんな時に回復まで要求するのは酷だし、攻撃魔法のクールタイム中は自分が回復担当をするのが当然の配役だ。
ミーラスカが防いでくれているから、自分が動けるのだし。
「セナはどう?」
「予め私が密に説明をしておくべきでありました、申し訳ありません」
いや、セナクロワはちゃんと注意してくれていたのだ。
彼女以外が初見だから見誤っていただけで、シャオクも反省せず同じ失敗をすることはない。
そこはちゃんと訂正しておく。
「……いやはや、それにしましても、この階層でも24階層と同じ手数でありますか」
モロクタウルスの討伐にかかったのは6ターンだ。
一度に2回発動で倍、弱点属性でさらに倍、魔法使いと遊び人のレベル差は4……お、魔法使いのレベルが上っている。
探索者の方はまだLv46のままだから、戦闘経験値以外の魔法使用回数の方との合算でついに追い抜いたらしい。
とにかく、魔法の1発目と2発目の差はそこまで大きくないはずだから、等倍の攻撃ならかなりの回数が必要な階層になってきたな。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv47
魔法使いLv47/英雄Lv43/探索者Lv46/森林保護官Lv45/遊び人Lv43/巫女Lv36/博徒Lv30
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
7thジョブ 63 獲得経験値10倍 31
必要経験値1/10 31 MP回復速度3倍 7
パーティー項目解放 1 パーティライゼーション 1
知力 5
(残0/145pt)
博徒を入れると、というか7thジョブを取得すると一気にボーナスポイントが苦しくなる。
遊び人がもう1スキルをセットできるなら、そこに状態異常耐性ダウンを設定するだけでよくなるが、今でも破格の能力を持つジョブなだけに、それは高望みしすぎか。
強壮丸や強壮剤は補充できたので、MP回復速度を落として運用しよう。
遊び人の先のジョブがあるなら……、その取得条件はなんだろう。
ジョブの取得数を増やしていけばいいのか、さらに別の条件が加わっているのか。
村人のジョブレベル以外の前提条件のない基本的なジョブはほとんど取っただろう。
そうすると派生ジョブや中位ジョブ取得のために、それらのジョブをLv30やLv50まで上げる必要があるか。
細工師の金属加工や、魔剣士の特定武器使用などの特殊条件も見つけていかなければならないが、まずは火力のための魔道士の取得、そしてより高い知力補正のジョブを目指すほうが先だ。
そして何より、そう。
バラ
迷宮産牛肉である。
流石にいきなりレアドロップらしい三角バラは落とさなかったが、程よい赤身と脂ののったいい肉だ。
これは牛丼を食べろとの思し召しかもしれない。
ロースはボスの方のドロップなので、可能ならそちらの周回をしたいな。
博徒を入れた構成での戦闘は、一気に安定感を増した。
アコルトの狩人ジョブの『状態異常確率アップ小』、シャオクとセナクロワの武器に付与された『付与増強』のそれぞれのスキルのお陰で、疑似的な暗殺者3人体制というのは強すぎる。
1回の戦闘で群れの魔物は消滅までに最低1回は麻痺か石化になるし、博徒自体も知力小上昇の補正があるので、モロクタウルスだけの群れなら、6ターン目の2発目のウォーターストームが不要となった。
早い段階で石化すれば、魔法耐性の弱化によりさらに手数が減る。
水魔法が等倍のシザーリザードへの対処の方法も学んだし、状態異常による拘束でまともに戦闘させないという戦術は、安全性を一気に向上させた。
それでもこの階層を回り始めた時間が遅かったので、待機部屋は見つかるに至らず、この日の狩りを終えることとなった。
食卓に肉の種類が増える。
なんと甘美な響きだろう。
豚肉が増えたときも皆絶賛していたが、今回は牛である。
バラ肉のため脂身が多いが、不要分が多いなら牛脂としてオリーブオイルの代わりに使ってもいい。
アイテムボックスから移す際にリカヴィオラから、箱の数が増えたと報告をしてきた。
確認してみると探索者がLv30に届いており、料理人ジョブが増えていた。
武器や防具の売買をしていなかったから、それぞれの商人ジョブが生えていないんだろうか。
料理人ジョブのアイテムボックスは30個が30列ではあるが、切り替えのためには中身を取り出さなくてはならない。
自分の方はその全てを預かれるほどの容量がないので、出来たとしても後日だな。
それに冒険者になることが目標の1つであるから、無理に変更する必要はないだろう。
牛バラ肉の塊を厚みのあるステーキサイズにカットする。
過剰な脂身を切り落とし、筋に細かくナイフを入れて、削り出したコボルトソルトとペッパーを両面に振りかけた。
フライパンを火にかけ、熱くなってきたら先程の脂身を入れ、皮を剥いてスライスしたシュムを投入した。
シュムというのはニンニクっぽい香味野菜である。
名前の印象が薄すぎて、最近やっと覚えてきたくらいだ。
それからメインの肉を焼いていく。
なんだかこういうステーキは、火を入れた後に休ませるだとか予熱でだとか、色々と凝った仕上げ方があったと思うが、普段の食事は雑に焼いて雑に食べるのが美味いのだ。
別に王侯貴族に出すわけでもないしな。
表面はカリカリに、中はミディアムレアくらいに焼き上げることにした。
内部に完全に火が通りきるまでせずとも食べられる、迷宮素材だけの特権だ。
スープの具に野菜を多めにしたので、付け合せは残った油でさっと炒めた軽めのものだけでいいだろう。
ワインと魚醤に刻んだタマネギもどきを加えて煮詰めた、普段から肉に使っているソースを添えて出来上がりである。
牛肉、それも迷宮食材ということで皆の頬もいつも以上に綻んだ。
ちなみに牛のバラのギルドでの買取価格は75ナールだそうだ。
豚バラが35ナールなので、実に2倍以上である。
相手する魔物たちのランクが上がったことで、食生活も1ランクアップだ。
ボスも周回できるほどの強さなら、ロースだけでなく酪も手に入るので、加熱必須な牛乳からもおさらばできる。
飲む人は普通に飲んでいるんだが、どうにも衛生面で考えてしまうので、使いたい際はドロップアイテムである酪をギルドで購入していたのだ。
氷魔法はまだなので冷やせないが、今後はお風呂上がりに飲むのもいけそうか。
夏季のうちに魔道士を取得して、氷魔法を試したいなぁ。
汗だくで給湯器の職務をこなしつつ、魔法の新たな使い方を模索する。
雷魔法は流石に活かせそうにないよなぁと、凝りを解すように自分の肩を揉んでみた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv47
魔法使いLv47/英雄Lv43/探索者Lv46/森林保護官Lv45/遊び人Lv43/巫女Lv36/魔剣士Lv7
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒31 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv35
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv34
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv32
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv30
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv16
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次回は4/6更新の暫定予定です。
仕事は落ち着きましたが、ストックがないので少し猶予を頂きたいです。