「お早いお帰りにございますね!」
シームの自宅に戻ってきて、掃除をしていたリカヴィオラに迎えられた。
大量のハサミや牛のバラ、それに三角バラとロースも預け、代わりにアイテムボックスに仕舞っておいてもらった不用品を受け取った。
せっかく遠くの都市にいくのだから、ごちゃごちゃとしたものを売り払ってこようというわけだ。
帝国最南方の大都市、エスラルグ。
隣国のアウダニア王国と接する、ソロンブルク帝国エスラルグ侯爵領の領都である。
王国側の騎士が私用で帝国領をうろつけるくらいだから、国同士が緊張状態とか、今のところはそういうことはないそうだ。
そもそもフィールドウォークを持つ冒険者を止める術が遮蔽セメントくらいしかなさそうなのに、戦争なんてやってられるわけがない。
作中の彼も、魔物が跋扈する世界で人同士が争っている場合ではないだろうと考えていた。
鏡の職人都市エテンネルのように人工都市を丸々作るくらいじゃなきゃ、出入り禁止区域なんてとても用意できないだろう。
それすらも、真横に絨毯を掛けて置かれたら攻め込むなんて容易だし。
この世界でいう国は、管理を任された境界区分、程度なのかもしれない。
だから領内の迷宮を制御できなければ、領主の首をすげ替えるなんてことも原作であったほどだし。
この世界の制度がそこまで一緒かまでは分からないが、自分が管理する側になるなんてことはないだろうし、気にする必要はないか。
経由地をワープで繋ぎ、エスラルグの冒険者ギルドまでやってきた。
同行メンバーはアコルトとセナクロワだ。
道中に詳しいセナクロワは当然の人選、アコルトは今回こそついていくと言ってきたのでこちらが折れた。
亀のカードが手に入ってすぐに競売の話になったので、シャオクは目を細めて何かを悟り、休憩をすることに。
ミーラスカはリカヴィオラの家事がまだ残ってるようなので、その手伝いを申し出た。
迷宮産牛肉の入手という目標の一つも達成できたし、全員で店巡りに出向いてもよさそうだ。
魔道士までもうちょっとだし、今は迷宮探索も進めたいというのもあるので、タイミングを見てまた希望を取るか。
基本的には薬の原料や食べ物以外を売却に回し、その食べ物も過剰な分については手放すことにした。
半日あれば数日食べ続けられる分を確保できる食材アイテムで、リカヴィオラのアイテムボックスを5列も6列も埋めるのはもったいないしな。
ボーナスポイント振ってしっかり3割増でアイテムを送り出すと、返ってきたトレイには金貨が3枚は載っていた。
以前より戦闘時間が長くなって、同じ時間で倒せる魔物の数は減ったが、売却単価が倍以上になっているので稼ぎとしては大きく増えている。
このところ出ていくお金ばかり多かったが、この分資金回収も問題なさそうだ。
冒険者ギルドから足を延ばし、商人ギルドへとやってきた。
そのまま併設されたオークション会場へ進んでみると、ルテドーナと同じように受付が用意されている。
近づいてみると、こちらに気付いた係員らしき商人のエルフ男性が話しかけてきた。
「……入場をご希望ですか?
あちらに貼り出してある目録のように、本日の競売はほぼ終了しておりますが」
示された壁の張り紙を見ると、ずらっと並んだ文字の大半に打ち消し線が引かれている。
どうやら落札を終えた商品に線が引いてあるようだ。
競売会場のルールが同じだとしたら、入札できないと入場料を払うことになるのを気にしてくれているんだろう。
「いえ、ちょっと近くまで来てみただけですので、……ありがとうございます」
「そうでございましたか、失礼いたしました」
黙って入れてしまえば1000ナールがギルドに入るのに律儀だなぁと思っていたが、国境に近い最後の大都市なので要人が訪れる機会も多く、問題に発展するのを避けるためにまともな施設では対応が丁寧らしいのだとセナクロワが教えてくれた。
商人ギルド併設の競売会場なんて、その最たる例だろう。
へぇ~、と感心していたところで、アコルトに袖口を小さく引っ張られる。
「(お嬢様、コボルトのカードがまだ出品予定のままになっております)」
「ほんとだ」
取り消し線が引かれた商品名の上の方に、手つかずのままの『モンスターカード:コボルト』の文字が見える。
うちの落札依頼では頻出ワードだから、数字や日付と共に、他の文字に先んじて勉強しているので、かろうじて自分にも読めた。
出品順は当日までランダムらしいから、線が引かれている箇所もバラバラな中に目立っている。
「いかがされましたか?」
小声にしたアコルトと違って、自分が普通の声で反応していれば、さすがに係員にも問われてしまった。
「この線が引かれていない商品は、本日これから競売にかけられるということでしょうか?」
「……一概には断言することは叶いませんが、
お客様がこれからご入場されたタイミングで、出品の取り下げや延期がございましても、ギルドといたしましては補償いたしかねます」
ま、そりゃどの商品だってそうだろう。
入場と同時に入札が締め切られたとかいくらでも……いくらでもあったら困るが、だったらもっと早く来て落札しておけという話である。
目録自体はきっと朝から貼り出されていたはずだし。
それよりも、今行けば落札できそうという事実のほうが重要だ。
「じゃあ入場します。
競売の方法は他の会場と一緒ですか?」
「ルールは統一されておりますので、別会場で参加されたことがあるようでしたら、相違ございません。
入場前に、隣の係員のカードチェックをお願いいたします」
ギリギリの参加だろうが、落札できなくても自己責任なのは変わらないし、競売なのだから当然である。
そのまま受付脇に移動して、旅亭ジョブの係員にインテリジェンスカードの確認を受けた。
左腕を掲げながら、後ろに振り返る。
「アコとセナはちょっと待ってて。
カードの競売が終わったらすぐ出てくるから」
「かしこまりました」
入場許可を受けて、通路を通り会場へ向かう。
会場に着くと、参加者は客席にまばらに座っていた。
放射状に客席が広がる構造は、使用の目的も同じなので共通の造りになっているらしい。
現在競売にかけられているのは、水耐性の付いた鋼鉄の鎧だったが、空きスロットは1つだった。
ダマスカス以上で揃えているうちパーティーには不要である。
鑑定でちらちらと参加者を確認しつつ、中段の端のほうの席に座る。
この時間帯から入場するのも珍しいからか、こちらもジロジロと見られるのは仕方ない。
さらに1商品を見送って、続いて運び込まれたのは、トレイに載せられたモンスターカードだ。
「さぁ残すところ、あと3品となりました!
お次はコボルトのモンスターカードの2枚セットでございます!」
司会が紹介したが、あれ、セットだったのか。
舞い上がって数字を見落としてたようだ。
こちらとしては嬉しい誤算なので、当然狙いに行く。
競売終盤の出品なので、平均落札額の6割、7割程度の値段からのはずだ。
コボルト2枚なら、1万1000ナール前後が最終金額だろうか。
モンスターカード:コボルト
モンスターカード:コボルト
表示されている名称も間違いない。
オークション側が、当然出品前にアイテム鑑定しているんだろうけど。
「開始価格は9000ナールとなっております!」
カンッと、競売人が木槌を叩いて開始を宣言するが……高くないか。
さっきの装備も計算していなかったが、もしかしてルテドーナより相場が高かったりする?
武器屋や防具屋の品揃えが他の街より良いように、全体的な需要につられて、スキル装備や素材のカードの価格も上がっているのかもしれない。
一般的な装備の販売価格は統一されていても、競売のように価格が変動するモノについてはその地域ごとに違っているとか。
『9000ナール』
『9100!』
競りが始まってしまった。
慌てて入札の声を上げるが、すぐに上乗せされてしまう。
係員が参加料免除の紙を渡しにきたので、受け取っている間にもさらに入札がかかる。
……収まってから吊り上げるか。
「1万3600!
1万3600ナール、他にいらっしゃいませんか!」
「1万4000ナール!」
競売人が締めにかかったので、キリよく価格を上げた。
すでにカード1枚あたり7000ナールで、ルテドーナなら銀貨10枚以上安く手に入る額だ。
それでも、今欲しいから手を出しちゃうんですけども。
あと、アコルトたちの前に手ぶらで戻るのがちょっと恥ずかしいし。
『……1万4200!』
えー、まだ上がるの。
もうすぐルテドーナじゃ3枚狙える値段になっちゃうよ。
「1万4400ナール」
『……くっ、1万4500!』
もう諦めてほしい。
反応的にもう予算ギリギリくらいなんだろうか。
「1万5000ナール!」
『…………ッ』
さすがに止んだ。
というか視線が痛い気がする。
「───では、他にいらっしゃらないということですので、1万5000ナールにてご落札!」
係員が近くにきて、案内されるがままに落札者用の通路へと移動する。
そういえば前に大盾を狙った際も、ムキになって入札合戦になっていたのを思い出す。
自分が競売に向いていないことが分かった、勉強代と思うことにしよう。
前回でも十分分かってたって?
大丈夫、アコルトだって何も言わないさ。
落札額、教えないから。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「お戻りになられましたか、ミツキ様」
「お待たせ、無事手に入れたよ~」
ポシェットの中にあるようにぽんぽんと叩いてみせるが、実際はアイテムボックスに入れてある。
メインジョブ魔法使いの、慣れた偽装動作だ。
「長引いておられましたが、競り合いになられたのですか?」
どうして鋭いかなぁ。
性格を見抜かれているからか。
「モンスターカードの前に、スキル装備とかが出てたからね~。
用事も済んだし帰ろっか」
嘘は言っていない。
実は受取時の再鑑定のくだりで、直接落札には3割引が適用できるのを思い出して、2枚分の鑑定料の計算に適用されて、支払い額は1万ナールちょっとになった。
結果、カルムが落札してくれるくらいの価格になったし、依頼料もかかってないのでむしろ安いくらいだ。
かかった金額だけ見ればセーフ。
落札価格が貼り出される前にずらかろう。
仲買人探しをしている暇はなかったので、別日にしておこうか。
待っている3人にお土産ということで、商店街でセナクロワが薦める果物を買った。
シーム方面では見ない、バナナのような形のフルーツらしい。
皮の色は薄緑でまだ熟れていないバナナのようだが、剥いた中身は食べ頃で、適度な甘さとシャクシャクとした食感はリンゴに近い。
だが色は茶色だ。
これで薄く輪切りにして乾燥させたら、銅貨をバリバリ食べているように見えそうだ、なんて言ったらセナクロワから既にあると返ってきた。
銅貨チップス、商人に人気そう。
帰りも数カ所の街を経由して、無事自宅へと帰ってくる。
休憩だなんて言っていたが、シャオクも家事を手伝っていたようだ。
なんだかんだ体を動かしていないと落ち着かないらしい。
夕食の用意も半分くらい進んでいる。
「シャオ、カード融合お願いできる?」
「はい、いくつですか?」
まぁ、回数によって強壮丸が必要かどうかってことだと思うが。
「2つかな。
ミラの防具なんだけど、どこにスキルを付けようかと思ってさ」
付けたいのは、亀の『痛恨軽減』をコボルトで強化したスキル。
そしてそれに魚の強化スキルである『耐性増強』が適用されるなら、一緒に運用したい。
胴装備は空きスロットがなし、頭のダマスカスの鉢金は3つ、手装備のガントレットにも『体力2倍』がついていて残り3つ。
足のダマスカスグリーブには『移動力増強』がついて、残り2つだ。
大盾には空きスロットが1つしかないので除外、武器に分類されるスパイクナックルには亀のスキルはつけられないので、これも除外。
『体力2倍』と『移動力増強』はニュアンス的に
ならば、鉢金かガントレットの2択。
まだスキルのない鉢金に付与することで、どっちかの二つ名も知りたくはあったが、魚の方はダブルスキル前提の融合順がバレるので、防具商人の鑑定すら受けられなくなるとシャオクから指摘が入った。
装備を検められる展開は……ないとは思うが貴族から監査が入った時くらいだろうか。
といっても、シームラウ伯爵家にも迷宮の探索具合や戦闘の様子についておめこぼしを貰っている状況だしな。
割と良好な関係を築けているのに、所有物の確認を確認させろとは今更言ってこないと思う。
よその貴族に目をつけられていることは……ないと思いたい。
だったら、既にスキル付きのガントレットのスロットを埋めたほうがいいか。
未強化で3スロットのダマスカスの鉢金は、白銀製に変更する余地もあるし。
シャオク、セナクロワを中心にした相談で、スキルの付与先をガントレットに決めた。
「今ぞ来ませる
スキルの光が収束し、付与されたスキルを確認する。
『痛恨軽減』の強化スキルは『痛恨
これは『耐性増強』の恩恵は受けられるのか……?
もしかしたら全く見当違いの要素ということも十分考えられる。
それでも、大きいダメージを受けることに対して、それを軽減や阻害させるということは、即ち耐性のことではないだろうか。
接触によって判定が行われるなら、その線は濃い。
仮に対象外だったとしても、『耐性増強』の恩恵を受けられそうなスキルを残りの1スロットに付与すればいい。
続けて魚とコボルトのモンスターカードを手渡して、追加のカード融合をお願いする。
「今ぞ来ませる
2回目はちょっとテンションが下がったようだが、薬が必要なほどMPが持っていかれたわけではないようだ。
手の内のスキルの発光が終わり、金属の色合いが鈍く光る。
不屈のダマスカスガントレット(体力2倍 痛恨阻害 耐性増強 ○)
これで心配だったタウルスたちの強撃にも対処できたらいいな。
強化した防具を身につけたミーラスカが、タウルス共から強撃を受けなくなるなら大成功なのだ。
……ランダム発生っぽい攻撃を
もっと深い階層で発覚するよりも、まだリカバーできるうちに判明できるならありがたい。
装備の強化も済んだので夕食の準備だ。
今日は夕方から人手があったので、早い時間から牛肉を煮込んでいたらしい。
自分の魔法で水は大量に使えるし、炭などの必需品には糸目を付けていないので、教えていた下茹でで牛バラの余分な脂も落とせている。
アクを流してひと口大に切ったあと、根菜類と煮込んでスープにしているそうだ。
普段から
コンソメっぽい匂いが香ってくるので、なんだか皆もつられて準備の手際がよくなった気がしてきたぞ。
ゴロゴロとした肉が大量に入っているので、これにパンと飲み物だけで十分過ぎるな。
サイズを小さくしたことでそのままでも柔らかく、味についてもそのままでもいけるが、それぞれに小皿を用意してペッパーや魚醤、ハーブを混ぜたオリーブオイルなど、つけダレ感覚で色々と楽しんでみるのもいい。
今回はしなかったが、石窯を使えばグリルのように焼いて脂を落とすのもできそうだ。
パンの温め直しにばかり使っているけど、そろそろまたピザを食べたそうな気配がする。
片付けも終え、入浴も済ませると後は寝るだけだ。
寝苦しかった暑さも、だんだんと落ち着いてきたので、秋季に向けては布団の買い足しが必要なのかな。
明日1日でスキルの様子見をして、以降はそろそろセナクロワの装飾品やドレスのためにカルメリガにも足を運んでみるか。
1階の寝室ではリカヴィオラとどんな話をしているのだろうと、ちょっと気になりもする。
たまには入れ替わりで、自分が下で寝てもいいよなぁ。
一番奴隷様はずっと隣りにきてくれそうだけど、それはそれで嬉しい。
戦闘メンバーがもう1人増えるなら、また増築なり配置換えをしないといけなさそうかな。
聞こえ始めた周りの寝息を子守唄に、自分も微睡みに身を委ねた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv47
魔法使いLv47/英雄Lv43/探索者Lv47/森林保護官Lv46/遊び人Lv44/巫女Lv37/魔剣士Lv7
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒32 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv35
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv34
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv32
不屈のダマスカスガントレット(体力2倍 ○ ○ ○) → 不屈のダマスカスガントレット(体力2倍 痛恨阻害 耐性増強 ○)
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv30
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv21
所持モンスターカード
・竜 1
・大木 1
・芋虫 2
・魚 3→2
・亀 1→0
・コボルト 0→2→0
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次回は4/20更新の暫定予定です。
1日の終わりに魔剣士ジョブが入っていることが多いのは、給湯作業のなごりです。
話の終了時点でセットしているジョブを記載しています。