料理を抱えた一同でぞろぞろと歩き、ブティックの裏口へと着いた。
いつもは誰かしらが交代の休憩でいたと思ったのだが、人もおらずドアにも鍵がかかっている。
「こんにちは~!
どなたかいらっしゃいませんか~?」
迷惑かもと思いつつも、流石に料理を抱えてブティックの表から入るのは憚られて、そのまま裏口のドアをノックしてみた。
すると足音が聞こえたらしく、どなたか向かってこられるようですとアコルトから報告があがる。
鍵の外される音がして、勢いよくドアが開かれた。
「あれ、ミツキさんお久しぶりです、ご注文ですか?
おっと、その料理は一体?」
「え……、さ、差し入れです!
お昼での急な訪問でしたので、よかったら……?」
さっきの従業員とは別の、これまた以前顔合わせした1人ではあったのだが、今回のことを本当に知らないみたいな様子だな。
「ちょうど作業部屋の方は一段落して片付けてはいるものの、本来匂いの強いものは厳禁なんですが……。
せっかくご厚意で頂いたものですし……どうしましょうか、
後ろに振り向いた従業員の奥から、見覚えのある男性が姿を見せる。
「…………いただきましょうか。
お久しぶりですね、ミツキ殿」
ザノフと直接会うのはいつぶりだろうか。
単純に居所が掴めないほどザノフが多忙ということもあったが、その鋭い見識の前にこちらのボロがでないか心配で避けていたのもある。
「ご無沙汰しております、ザノフ殿。
色々と目をかけていただいて感謝しております」
「いえいえ、こちらこそお世話になっております。
時に、カルムの対応はいかがでしょうか?
あれから何か気になったことでもあるようでしたら───」
彼に紹介してもらったカルムにも、もはや恩と言っていいほど助けられている。
あちらにも相当な利があっての取引だが、うちの資金作りに大きく貢献してくれたことに間違いはない。
取引の内容までは伝えないが、頼りにさせてもらっていると伝えた。
そういえばと、装飾品の支払いとかをザノフにまわして以来な事も思い出して、これ以上どう言葉を交わすか悩み始めたタイミングで声が響く。
「あーらミツキさん、ご依頼かしら?
差し入れまで頂いたそうで、ありがたいわね!
ほら、兄さんは忙しいんでしょ?
私のお客様なんだから、私が対応するわ!」
ナルザが捲し立てて、ザノフを追い出すように店内への扉の方へと押しのけた。
「今回はミツキ殿に免じてだが───」
「はいはい、分かってる!
食べ物は作業部屋に持ち込まないって話、でしょ!
ほら、商品や素材は全部片付いているし、問題ないわよ!」
「……ミツキ殿!
慌ただしくて申し訳ないが、このあたりで失礼させていただきますよ」
「あっ、はい!
ありがとうございました!」
「こちらでの用事がお済みの後、宿の方にお越し頂けると助かります。
お忙しい場合は、この店の者にでも言付けいただければと」
「わかりました」
何か聞かれるのかなぁ。
従業員たちの前で伝えたくらいだから、自分にとって不都合なことではないとは思うが、この男の考えは読めない。
兄妹喧嘩とまではいかないが、口うるさい話し合いを終えた後、ザノフが出ていった。
やり手の商人とは思えない身内とのやり取りだが、従業員を含め自分もこれを見せても問題ない相手と認識されているんだろう。
下手に突付けばホコリが出そうなのは自分の方だしな。
そのままガチャリと扉に鍵をかけ、従業員に裏口の戸締りも確認させたナルザさんがニヤッと笑って口を開く。
「…………よし!
ミツキさんごめんね~、兄さんがうるさくて!
ちょ~っと部屋で食事を繰り返したくらいで、すーぐ文句言うのよ!
衣装に匂いや汚れをつけたことなんてないのに!」
まぁ彼女もプロだから商品に関する危険性は排除した上でやっているんだろうが、どちらかというと差し入れに偽装したりとかそっちのことだと思うぞ……。
まずは食事を、ということで従業員たちも集まって料理を受け取り、美味しそうに頬張っている。
肉串については、自分たちも摘んでいいくらい多めに買ってきたようだが、それでもお釣りが出るくらいの代金を預かっていたようで、アコルトが返却しているのが見えた。
食べながら話を聞くということで、セナクロワを中心に、ドレスや装飾品についてナルザさんに相談させてもらった。
作法もへったくれもないが、貴族ではないんだしなんでもいいか。
デザインは採寸をしてからになるが、ドレスの色合いは髪色と印象の近い、深い青色がいいのではないかという話になった。
自分のドレスは瞳の色と同じ青色だが、セナクロワのほうがより濃い色になる。
ここまで皆違う色合いや体型に合わせたデザインにしながら、全体としては統一感のある衣装としてまとまっているのは、ナルザを始めとした作業員たちの腕の良さだろう。
もっと料金を上げて生地の質も高めれば、さらにできることが増えるとは何度も聞いたが、そこまでのものを求めているわけではないしな。
フェルスお姉様との食事会に合わせて着るくらいで十分なのだし。
忘れていたが、作成中だった自分のもう一着のドレスもゆっくりだが進んでいるらしく、従業員たちが食事を終えた後は自分も確認の採寸をされることになった。
……サイズに変動はないらしい。
髪は伸びるのだから代謝は働いているのだし、それならば身長だけはどうにか頼みたい。
本日の予定としては、セナクロワの装飾品とドレスの依頼だけで終わりの予定だ。
先程のザノフの用事も早めに済ませておくために、高級宿へと向かうことにするか。
メインのセナクロワは当然作業部屋からまだ動けないし、衣装の手入れや扱い方について学びたいらしいアコルトとリカヴィオラも残ることになり、なんだかんだファッションも気になっていそうなシャオクもこちらにいる方がよさそうだ。
そうすると1人は自分の護衛として帯同したほうがいいと、ミーラスカがついてくれることになった。
身長も力もあるし、冷静だし適任かな?
盗賊であろうと人に対して武器は振れないかもしれないと申し訳なさそうだが、迷宮に向かう時の癖で流れるようにスパイクナックルを付け始めたので笑ってしまった。
不思議そうにこちらを見つめてきたが、柔和な笑顔で棘付きの拳をしていたら、誰も襲ってこないよ。
ドレスの方はあちらにまかせて、高級宿へと歩みを進めた。
自分が来るかも、くらいの話は伝わっているらしく、近づいてみればドアマンっぽい男性に挨拶をされて中へと通される。
幾度も世話になった旅亭ジョブのフロントにインテリジェンスカードの確認をされて、奥の部屋へと案内された。
この世界初日の商談で使った部屋だな。
「ご足労頂きありがとうございます、ミツキ殿」
「いえ、……お話とは一体何でしょうか?」
「はは、警戒なさらずとも、世間話程度の内容でございます」
そう言って手荷物からパピルスのようなものを取り出した。
その表面には、小さな白い花が押し花となって貼り付いている。
薄くロウで貼り付けられているような感じか。
「こちらは?」
「ある島から来たという商人が持っていたため、買い取らせてもらったものです。
サビアという花だそうで、その島ではありふれた植物らしく、ガゴレ工房でミツキ殿が作らせていた装飾品のモチーフによく似ておりましたので、ご存知であればお聞きしたいと思いました」
初期の作成料の支払いがザノフにいっていたので、工房で確認したのだろうか。
渡された押し花と、自分の左手の中指にはまったリングに付いた花のモチーフとを見比べる。
ミーラスカも、自身の首から下げた同じモチーフをそっと手に取って見つめているようだ。
親方にイメージを伝える時に白い花と伝えていたが、この花も4枚の白い花弁で、形状も
それに、思い浮かべる花の咲き方というか、密集具合も違う。
でもなんか見たことあるような気がするんだよな、現代の方で。
「島というのは?」
「シューシャトという島国ですな。
この花のように帝国には無い、何か珍しいものでも取引できればと考えたのですが、あちらの商人が船で魚の加工品を売りに来る程度で、あまり外の者が島に訪れることを歓迎していないようなのです。
帝国と直接的な敵対はしておりませんが、防衛意識が高いと言いますか……」
まぁ島国で、外からの来訪者に警戒するのは仕方のないことだろう。
魚の加工品を売りに来るといっても、船で着いた先ならそこも帝国の港街か漁村か何かで、魚料理なんてありふれているんじゃないか?
それでもわざわざ来てるってことは、売れるほど美味いということなんだろうか。
よくわからない花なんかより、そっちの方が気になるぞ。
「ふむ、ご存知ではないご様子ですね」
「すみません、このモチーフの花はそれよりひと回りは大きいもので……」
「ミツキ殿の故郷を探す一助になればと思いましたが、あてが違ったようでしたか」
地元からよくわからない帝国という土地に飛ばされたという話を、一応覚えてくれているみたいだ。
探したって出てくるわけがないんだけども。
「他に分かっていることはありますか?」
「そうですな……。
ブノーはご存知ですな、シームから海側へと向かった村の」
「はい」
「その南方にケトアラという別の町がありまして、そこに先の商人が不定期に訪れているとのことです。
ケトアラはシームほどの規模はありませんが、近くに迷宮があるのである程度は栄えた都市ですな」
ケトアラはワープ先として各地を転々と移動した中の1つにあったと思う。
フィールドウォークがこれだけ一般的な移動手段となっている中で、方位的な地理把握もされているのは、手広く商圏があるからなのだろう。
「現状は、その商人からの情報しかなさそうなんでしょうか」
「ええ、シューシャトへの航路には岩礁が多く、大きな船では向かえないのだそうです。
それに強い海流があるそうで、シューシャト製の船でないと越えられないのだとか。
その船頭と取引をして島まで乗せてもらえたとしても、歓迎はされないと聞いております」
流石のザノフも件の島国まで直接行ったりはしていないらしい。
片道の手段すら確保できていないと、そりゃ交渉どころじゃないか。
何らかの手引きで運よく島に行けた者の話によると、一応の世話はしてもらえたが、当然フィールドウォークの使えるような場所には案内されないし、決まった船でしか行き来できないということで好き勝手買い物することもできなかったそうだ。
結局翌日には送り返される、島の中も大して確認もできない虚しい観光になったらしい。
そうなるだろうと、取引をした商人も船頭も予め説明した上での話のようなので、島民側には非はなさそうだが。
だったらケトアラで商人に会って、その美味いという加工品が手に入ったらラッキーくらいの場所かなぁ。
島の方も、一度行ければ自分のワープでなら自由に移動できそうだが、気を使うことが多くて面倒くさそうである。
エルフ村のノルテクィしかり、厄介な土地はどこにでもあるんだな。
ザノフも、もし自分の存在がダメ元でも運よく新たな商売の伝手になったら、くらいの確認だったのだろう。
少なくともそこまで残念にしているような感じではない。
その後はドレスや装飾品のこと、シームでの生活や困っていることがあれば、とか簡単な現状報告くらいの範囲に留まった。
セナクロワが同席していたら南方のことまで根掘り葉掘り聞かれそうだが、幸いナルザさんの方にいるので、この場では大丈夫だ。
あちらはあちらでトークで情報を引き出されそうな心配もあるが。
「そろそろお連れの方々をお待たせしていそうですね」
「そんな時間ですか?」
忠告されるほど長居をしたつもりはなかったが、飲み物のおかわりをもらったのでそれなりの時間話していたか。
採寸などは本来さほど時間はかからないので、生地を当てたりしてイメージを膨らませたり、単に気晴らしの時間だろうとザノフが声をひそめる。
それも含めて仕事なのではと思ったが、どうやらデザインの決定稿を仕上げる際はいつも作業場に一人篭もって行うようなので、貴族の客を迎えた時はもっと短時間で解放されるそうだ。
客が居る分注意しづらいのを利用しているナルザさんが小賢しいのか、ザノフが身内に厳しすぎるのかわからないが、確かに採寸だけならとうに終わっているはずである。
お互いを知り尽くしてる兄妹ならではの、子供じみた争いに巻き込まれている気がするが、御暇させてもらうことにしようか。
また何かあればと気遣うザノフに礼をして、高級宿を後にした。
ブティックの裏口に戻ると、今回は休憩中の従業員がいたので、先刻ぶりの顔パスで中へと通される。
足音で気付いていただろうアコルトは声をかけるよりも早くこちらを向き、その視線を追ってリカヴィオラとシャオクは従業員たちとともに自分とミーラスカに気付いて迎えてくれた。
「ただいま、作業はどんな感じ?」
「おかえりなさいませ、お嬢様。
セナさんの採寸は完了しておりまして、現在はデザインを考案中とナルザ様が……」
示した先では、セナクロワが緊張の面持ちで様々な色の布を体に合わせられていた。
自分が出ていく前にドレスの色と生地は決まってたはずじゃ……。
戦闘なんかよりだいぶ疲れていそうなセナクロワが、息も絶え絶えにこちらに気付いてくれた。
「……あら、ミツキさん。
兄さんの用事はもう終わったの?」
「はい。
そろそろこちらも終わっているだろうと言われて来てみたんですが」
「そーぉ?
こっちも
(……ミツキさんをよこしたってことは早く終われって警告よね)」
最後のほうが聞き取れなかったが、どうやらおしまいらしい。
解放されたセナクロワが試着用のドレスを破きまいと、身を固くしながら着替えに向かった。
「───それじゃ、出来上がりには8日ほどもらえるかしら?
他の仕事が立て込んでて、ちょっと忙しいのよね」
昼前だって昼食の買い出しを頼まれたくらいだから、実際忙しいに違いない。
それで自分たちを利用して食べたいものを……というのは、まぁ彼女らのモチベーションに関わるのなら、その手助けになる程度は構わないか。
セナクロワにとっては昨日のお風呂と今日の採寸で色々と大変だったかもしれないが、ドレスや装飾品製作の一過程ということで納得してもらおう。
明日から8日間となれば、夏の下月13日か。
急いではいないし、15日あたりに受け取りということにしようかな。
「下月15日の昼過ぎくらいでもいいですか?」
「ん~、ミツキさんが問題ないなら
同じってことは、
結局今日は一悶着あったが、こちら持ちの差し入れはできていないし。
「わかりました。
今日と同じお店の差し入れでもお持ちしますね」
「ふふ、ミツキさんは話がわかって助かるわ~!
あっ、そうそう。
親方さんの方に、選んだリボンと納期のことも話しておくわね」
「ありがとうございます!」
差し入れ予定はどうやら他の従業員たちにも好評のようだ。
納期を遅らせたのもよかったらしい。
時間に余裕があれば、ガゴレ工房のタルデクくんも浮かばれるだろう。
彼は散ったわけではないが。
ドレスとリボンの支払いを済ませ、ブティックを後にする。
ナルザさんの着せ替え人形になってへにょへにょになっていたセナクロワも、着てきた服に戻って大通りに出る頃には立ち直ったようだ。
長身麗人でありながら、貴族でもないので多少好きに扱ってもいいと思われたのか、従業員たちもデッサン人形を相手するように群がっていたしな。
あとは受け取りだけと伝えると、大きく息を吐いて安堵していた。
一応こちらの商店街も回って良スロットの装備を探してみたが、簡単に見つかるモノでもないので結果はお察しだ。
デザート用に果物を幾つか買ったくらいで、本日のお出かけは終わりにしよう。
シームの自宅へと帰ってきて、夕食の用意の時間まで休憩だ。
ザノフから聞いたシューシャトなる島国の話をしてみたが、誰も聞いたことはないようだ。
あの男が自分に手掛かりがないか聞いてきたくらいだから、島の商人がケトアラに来たというのもここ最近のことなんだろう。
食材も気になるが、迷宮通いと南方都市の観光の方が優先かな。
売り物が魚介類なら日持ちもしないだろうし、不定期に現れる商人相手に決め打ちで動くのはなかなか厳しい。
電話でもあったらすぐにワープで向かうのだが、そんな便利な世の中ではない。
やっぱりボイスチャットみたいなの必要だよ、創造主様?
お問い合わせフォームはどちらですか。
自由で不自由なこの世界のシステムについてひとり思案しながら、夕食は魚料理にしようかなぁなんて皆に提案した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv48
魔法使いLv48/英雄Lv44/探索者Lv47/剣士Lv30/遊び人Lv45/細工師Lv30/賞金稼ぎLv19
(村人5 農夫1 戦士30 僧侶30 巫女39 商人30 錬金術師29 薬草採取士30 森林保護官46 村長1 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒33 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv36
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv35
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv33
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv31
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv26
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次回は5/4更新の暫定予定です。