異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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185 凝膠

 いつも通り家の中で一番遅い起床をし、伸びをしつつ用意してもらっていた服にのそのそと着替える。

 

 昨日はリフレッシュの意味合いもあったので、本日からはまた迷宮へと挑みたい。

 セナクロワに確認したが、変な疲れは残っていないらしい。

 むしろ、凝り固まった体を動かしたくてたまらないようだ。

 

 今後は魔道士の取得、それによる手数の増加や新たな戦術の開拓という目標もあるが、資金繰りの方が気になってきた。

 戦闘メンバーやその装備の拡充、日用品や家具などの大きな支出はこれでだいたい終えられた。

 ダブルスキル装備の大取引で手にした400万ナールの現金は、なんだかんだで今や白金貨1枚と10万ナール弱まで目減りしてしまっている。

 

 取引前にそれらを含めて必要な分が300万ナールと考えていたので、ほぼ想定通りに進んでいるものの、40日程度でそれだけ使ったと考えたらとんでもない浪費家である。

 幸い税金のことは数年先まで考えなくていいし、食材のメインとなるものは迷宮ドロップ品で確保できるようになったので、ここからは本格的に貯金のターンにしていかねばなるまい。

 

 

 

 シームの迷宮26階層の魔物は、グミスライムだという。

 原作通りに火と水と風属性が弱点ということで、階層が変わっても大半の魔物の弱点を魔法で突けるようになるのはありがたい。

 水属性魔法を使えば、グミスライムにもモロクタウルスにも有利を取れるので、極稀に混ざるシザーリザード以外は淡々と処理できそうだ。

 

 

「攻撃の感触としては、泥濘(ぬかる)んだ土を相手にすると考えるといいでありますな。

 深く斬り込んだり突き刺したりすると武器が抜けなくなるため、我々の装備では()()()ことだけを意識するであります」

 

 

 出発前のブリーフィングで、戦闘経験者であるセナクロワから対処法を教わる。

 

 

「ミーラスカ殿の大盾なら大丈夫でしょうが、シャオク殿の盾でしたら取り込まれることもあるので、基本的には避けるのが正解であります」

 

 

 動き自体は速くないそうだが、飛びかかってくることもあるそうだ。

 軟体を活かして鎧の隙間から……という話は恐ろしい。

 口元を塞がれ続けたら終わりだしな。

 

 ただ、魔法使いがいるなら話は別らしい。

 弱点というのもあって、魔法が当たれば怯みはしないが動きを鈍らせることもでき、そこに攻撃を加えればとりついたものを吐き出すように剥がれてくれるとセナクロワは言った。

 全体魔法なら敵に直接作用するので、メンバーに接触していても使用でき、救い出せる。

 それを聞いたなら結構安心だ。

 

 普通の魔法使いなら、道中の戦闘程度で消費の多い全体魔法を何度も使用していられないのでそれでも大変なのだが、ジョブ効果による増大したMP補正と無詠唱で攻撃できる自分なら、スライムは敵ではなさそうだ。

 自身のエイムが信用できないので1体でも全体魔法を使ってるしな。

 

 というわけで前衛組は、グミスライムにスキルの魔法を使わせない程度に詠唱中断武器で小突いてやる程度で、回避に専念すればいいとなった。

 どうせ突進のあるモロクタウルスが近寄ってくるので、そちらの対処に追われることになるだろう。

 

 事前情報を頭に入れて、いよいよ迷宮へと移動することにした。

 

 

 

 現地に来てみて分かったことがある。

 

 グミスライムはその粘性のある体で這うように徘徊するので、音による索敵が難しい。

 跳ねるのは攻撃対象の前くらいで、普段はそんなに移動することもないのだろう。

 

 といっても通路の曲がり角に気をつけるくらいなので、気付いた時には接触していた、なんてことはないのだけれど。

 

 

グミスライム Lv26

グミスライム Lv26

グミスライム Lv26

 

 

 通路の奥に、青い水饅頭のような塊が音もなく蠢いている。

 遠目に見る分にはいいが、敵と認識されると襲いかかってくるというのは魔物でしかない。

 

 2連のウォーターストームを発動し、続いてそれぞれに状態異常耐性ダウンを念じていった。

 初動の対応には慣れたものだ。

 最近はどの魔物に対しても基本的にこの流れから入る。

 

 普段はセナクロワやミーラスカが前に出て、攻撃を止めたり逸らしたりするのだが、スライム戦で活躍できるのはアコルトである。

 威力は要らず、詠唱中断のために当てさえすればいいその竜革の鞭を、距離を取ったまま使えるというのは相性が良すぎた。

 

 一方的な間合いで当てるというよりむしろ触れる程度で、すぐに手首を使って器用に鞭の先を引き戻し、時折現れる魔法陣を消滅させている。

 もちろんシャオクの槍も有用だが、重なるように近づいてくるグミスライムたちの、さらに奥にいる個体を狙えるというのは、曲線的なリーチを持つ鞭の利点である。

 

 戦闘技術という点においては、セナクロワが随一だ。

 殺気を感知するような彼女自身の第六感的な特性と、ダマスカスソルレットに付与された『回避2倍』のスキルの効果もあって、スライムたちの攻撃を余裕を持って躱している。

 

 武器を絡め取られないように、ロングソードでグミスライムを削ぐように攻撃を当てていく様も見事だ。

 奴らに物理攻撃に対する耐性があっても、自分が魔法による殲滅火力を担うことで『武器による攻撃で倒す』ということが目的から外せるため、それは障害にならない。

 

 

 4ターン目の魔法を発動する間には、半数以上は状態異常となっている。

 石化すれば魔法弱化で必要な手数は減るし、もともと飛びかかりくらいしか動作の速くない魔物なので、麻痺すれば無防備な時間が一気に増える。

 

 群れの魔物がグミスライムだけとなるとミーラスカはなかなか活躍し難いが、戦況をしっかり見て学ぶタイミングだと割り切っている。

 みんなの動き方や何が必要かを確認できるし、別の群れのモロクタウルスが突進してくるなんて可能性も0じゃないので、周囲の警戒だって大事だ。

 

 そうこうしている内に石化しなかったスライムも、7ターン目のウォーターストームでアイテムに変貌する。

 

 グミスライムからの戦利品はスライムスターチ。

 これまではギルドで購入するだけだったが、今後は片栗粉もどきの入手も自力で可能になった。

 

 固形のそれを削ることで粉として利用できるわけだが、1つあたりの売却額が80ナールと、牛のバラの75ナールより高いのは何でだろう。

 ハサミは65ナールだし、食材そのものは買取額の調整が入っているんだろうか。

 それとも一般的なパーティーでは戦いにくいからなのか、そのあたりはよくわからないが、大量にありすぎても困るものを高値で買い取ってくれる分には都合がいい。

 

 

 

 昼休憩まで、ところどころで小休止を挟みつつ26階層の探索を進めた。

 

 25階層では弱点属性が魔物によって違っていたため群れの討伐スピードが落ちていたが、こちらでは出現の9割を占めるスライムとタウルスの組み合わせを使用魔法を切り替えることなく屠れるため、単純なダメージ量でも、思考リソースの余裕さからいっても楽に仕留められている。

 

 極稀に混ざっているシザーリザードは、ハサミが床を擦ったり、カシャカシャと開閉する音が特徴的で、アコルトが聞き分けて避けることができている。

 メインの魔物であるグミスライムの音がほとんどしない分、そちらが聞き取りやすくなっているという意外な利点もあった。

 

 

 物理主体のパーティーでは分が悪い階層ということで、これまでならある程度はあった、別パーティーの声や物音がするからルートを変更するということも著しく減っている。

 つまり引き返すことが減って、戦闘回数が増えたということになる。

 

 自分たちにとって戦いやすくて、他人がいない。

 しかもメインのドロップ品は売却向けで、多少なりとも食材も入手できるというのはかなりありがたい。

 

 昼の一時帰宅から途中の小部屋へとワープで戻り、午後からも狩りを継続する。

 階層を進むことで次第に迷宮自体が広くなってきているが、早めに待機部屋を探し当てたのもその恩恵になるだろうか。

 

 目的地を先に見つけたことで闇雲に進む必要はなくなり、リザードは避けるもののそれ以外は手当たり次第に魔物を殲滅する流れにできたのは、心的負担の軽減に繋がった。

 

 

 

 そろそろ夕食も近くいい時間だし、ボスを突破してから帰ることにしよう。

 

 待機部屋へと進路を取り、道中の魔物たちを蹴散らしながらたどり着く。

 知識として名称と特徴程度しか知らないボスについて、セナクロワから教えてもらう。

 

 

「ボスはゼリースライムでありますな。

 グミスライムよりふた回りは大きい巨体を巧みに動かし、相手を体の中に沈めるために取り込もうとしてくるのであります。

 薄く広がれば大盾も飲み込むほどでありますし、当然、物理攻撃は効きにくいので、魔法での攻撃が求められるのであります」

 

 

 グミスライムもそうだったが、ボスも痛覚がないようで、刺されても切り裂かれても怯まないそうだ。

 その体積がでかいとなると、それだけでも脅威である。

 

 耐久も上がっているとなると、どうやって戦うのか。

 

 

「弱点属性である魔法や属性スキルの武器で攻撃した直後は、一定時間でありますがその箇所の伸縮や飲み込みが止まるのであります。

 スライムに捕まっても、そうした攻撃であちらの動きを鈍らせ、斬り払って難を逃れることができるのであります」

 

 

 なるほど。

 属性攻撃で一時的にその弾性とか物理耐性を緩め、攻撃を通すことができるのかな。

 

 実はグミスライムについても同様だったのだが、慣れるまでの対応としては回避一択だったため、セナクロワの説明もそれ以上はしなかっただけらしい。

 半端に攻撃できると知識を入れるよりも、まずは距離を取りつつ動きを覚える方が優先だしな。

 タイミングを窺って下手を打つより、少しの間避け続ければ自分が殲滅させているので、説明は不要と判断したのだろう。

 

 

「ってことは、全体魔法を絶え間なく撃ち続けるようにすれば、ボスに攻撃が通る時間が長い?」

「…………通常では考えられない戦術でありますが、姫のスキルの使い方であれば可能でありますな」

 

 

 初級魔法の全体魔法のクールタイムは、体感11秒。

 これまでの戦闘ではその時間ごとに連続で放っていたが、被弾後に時限制の弱体化があるのなら、クールタイムの間を縫うように発動していけばいいのだ。

 極論、5.5秒ごとにウォーターストームを念じて魔法使いと遊び人のそれぞれの魔法を発動していけば、ゼリースライムの伸縮や取り込みをしてくる時間を限りなく抑えられる。

 

 その間は武器が絡め取られることを気にする必要も大幅に減り、たとえ掴まれても容易に離脱できるというわけだ。

 正攻法で挑んでいるパーティーからしたら、とんでもない横暴戦術である。

 

 

「ちなみに魔法とかスキル武器のないパーティーはどうしてるの?」

「その場合は階層を飛ばして進むであります」

 

 

 当たり前だった。

 リスポーンできるゲームと違って、命懸けの戦闘に縛りプレイで挑む異常者はいない。

 

 魔法使いも、属性武器も、『防御緩和』の武器すら準備できないのなら、わざわざそんな魔物を相手にする必要がないのである。

 それまで順々に階層を上がっていたとしても、数千ナールの階層案内料で死地を避けられるなら飛ばしたほうがいいに決まっている。

 

 道中の魔物を見ればボスの種類も分かるので、ちゃんと攻略する用意のある者たちだけが、待機部屋を抜けてボスへと挑むのだ。

 騎士団とか、攻略目的の者たちはきっと装備をしっかり揃えているに違いない。

 

 

 さて、確認も終えたしボスへと挑もうか。

 

 

 

 

グミスライム Lv26

グミスライム Lv26

ゼリースライム Lv26

 

 

 手前に現れたのは今日山程倒してきた水饅頭。

 奥にいるのはその2倍強……いや幅も奥行きも高さも倍以上となれば、体積は10倍近い大サイズのゼリースライムだ。

 これなら大盾すら取り込めるほど広がるというのも分かるし、その質量を包み込むのなら、体格の良い竜人族だって飲み込まれてその身に沈められそうだ。

 

 驚いてばかりもいられない。

 ウォーターストームを1度だけ念じ、次いで状態異常耐性ダウンをかけていく。

 

 その間に5秒カウントしつつ、2発目のウォーターストームを発動させた。

 あとはひたすら念じておけば、クールタイムごとに順々に効果が発揮されるだろう。

 

 距離が離れていたことで最初は魔法狙いだったらしく、水饅頭の下に皿を敷くように魔法陣が展開された。

 それもすぐアコルトの鞭によって霧散し、魔法の被弾によって液状化の鈍った体へと、シャオクの槍とセナクロワの長剣による攻撃が飛んだ。

 

 直後に念じ続けていたウォーターストームが発動して、スライムたちを水泡が包む。

 水の塊が水のエフェクトに包まれているようだが、これで弱点を突けるというのだから不思議だ。

 エフェクトが消えても、たしかに何秒かは刃が通っているように見える。

 

 ふと思ったが、物理耐性がダメージを軽減することと、弱点魔法によって肉質が変化することは別問題な気がする。

 前者はスキルの仕様で、後者はスライムという種族の特性なだけで、攻撃が通っても発生するダメージは軽減されたままなんじゃないだろうか。

 どちらにしても痛覚のなさそうなスライムは怯みもしないし、斬り飛ばされた体の一部も本体に触れると一体化して戻ってしまうしな。

 

 考えながらも全体水魔法をジョブそれぞれのクールタイムごとに発動し、他の皆はスキル武器を命中させる回数稼ぎに注力する。

 ゼリースライムたちの動き自体は止まらないが、体の一部を触手のように変形させて伸ばしてくる動作は、砂の詰まった風船のように広がりが遅れて、脅威となるはずだった本来の動きができていないようだ。

 

 これならば回避も容易い。

 加えて、狙える攻撃回数も増えたため麻痺も多く入っているように思える。

 

 2体のグミスライムが煙へと変わり、程なくしてボスのゼリースライムも消滅した。

 

 

スライムスターチ

スライムスターチ

スライムリーフ

 

 

 スターチがグミスライムのドロップアイテムだから、このスライムリーフというのがゼリースライムのアイテムだろう。

 リーフと付いているが葉っぱではなく、透明なプラスチックの薄い板のようだ。

 

 ……板ゼラチンでは?

 ゼラチンリーフとも言うし、落とし主が()()()スライムだし。

 

 鼈甲とかニカワとか、あっ、コーラルゼラチンもあったな。

 まぁ混ざり物があったり精製度の違いはあるが、成分的には全部コラーゲンだしゼラチンだろう。

 接着剤や加工品に食用と用途は違うものの、動物性の似たようなものが多すぎません?

 

 とりあえずセナクロワに確認してみたが、水でふやけたり、お湯に溶けることは知っていたものの冷やし固めるというのは聞かないという話だった。

 スライムリーフ自体は迷宮産なのでアイテムボックスに入れていれば病原菌などの心配はなさそうだが、それに加える水の方が危ないか。

 井戸水なんかは汲んでから日持ちしないし、飲料としてはなるべく煮沸するのが望ましい。

 ゼラチンは高い温度では変質してしまって固まりにくくなるので、一度煮沸してからある程度温度を落としてから溶かし、さらに冷やすなんて使い方は発見しにくいだろう。

 

 自分たちのように魔法で精製した水なら温めながら溶かしてしまえるので、そういった利用が可能なのは必然的に貴族になる。

 そもそも23階層からのボスドロップアイテムを軽々しく使えるのは資金がないとだしな。

 

 たぶん、フェルスお姉様のところの料理人たちに聞けば、この世界での使い方もちゃんと聞けると思う。

 ゼリーなんかの食用に使えるのなら、魔道士の氷魔法に期待できるものが一つ増えたというところか。

 

 

 ボス部屋の出口扉を潜り抜け、27階層の入口小部屋へと出てきたところで、本日の探索を終了した。

 大量のスライムスターチは明日の昼にでも売却しよう。

 

 今日の夕食は何にしようかと考えながら、自宅へのワープゲートを設置した。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv48
魔法使いLv48/英雄Lv44/探索者Lv48/森林保護官Lv47/遊び人Lv46/巫女Lv40/博徒Lv34
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30  商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv37

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv36

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv34

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv32

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv28



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次回は5/11更新の暫定予定です。


ボスであるゼリースライムのドロップアイテムは、追従様考案のオブラートからスライムリーフへと変更しました。
活かしやすい用途的にもですが、スライム○○○という名称の方がより"異世界迷宮っぽさ"を出せるのではと考えました。

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