異世界迷宮と斉奏を   作:或香

187 / 207
187 探路

 夕食を終え、お風呂の準備のためにジョブを入れ替えていて気付いた。

 魔法使いがLv49になっている。

 

 こっちの通路はどうか、あっちの部屋の先はどうかと27階層を彷徨っていたおかげで、経験値も稼げていたらしい。

 森林保護官の『対植物強化』のおかげで殲滅までが早いので、博徒のジョブの付け替えが手間になり、終盤は獲得経験値にボーナスを振りっぱなしで戦っていたせいだろう。

 ついにここまで来たという感じだ。

 

 魔道士の取得条件がレベルや魔法の使用回数とかだったら問題なさそうだが、他にも条件があるようなら困るな。

 作中で特殊な描写はなかったし、彼と同じような暮らしをしているはずなので、魔法使いがLv50になったらそのまま得られることを願うか。

 

 戦闘に関してはレベル依存らしい魔法の火力がある程度の水準になるまで育てる必要はあるが、生活で使う分には威力は必要ない。

 この汗だくの給湯作業も短縮されるといいなぁ。

 

 皆のジョブはまだ中位職には遠いが、セナクロワの剣士はもうすぐLv30になりそうだし、派生職がでたらまたジョブを相談するか。

 一応魔剣士の条件もクリアしておいたほうがいいだろう。

 疾風剣とスラッシュを使って魔物を倒す、というのが大まかな条件だと思うが、正確に何をこなせばいいのかは不明だ。

 手探りで申し訳ないが、回復薬は大量にあることだし、MP欠乏の心配はしなくていいのが救いかな。

 

 

 入浴時の雑談で、それらの方針を伝えてみる。

 もちろん、レベルどうのこうのは通じないだろうから、暗殺者ジョブのように将来的な候補を増やすという目的としてである。

 まぁ何をお願いしたところで、主人がまた何か言い出したとかで、余程のおかしいことでない限りは従ってくれるんだけどさ。

 以前に自分が他のメンバーに属性スキル武器を使うところを見せているから、今回に関しては納得も早かった。

 

 

「この大桶だけど、全員が入れるようにもう一回り大きいサイズにしたほうがいいかな?」

「今の大きさでも不便はしておりませんし、大きくされますとお嬢様のお手間が増えるのではありませんか?」

 

 

 確かにそうなんだけど。

 魔法スキルを乱用した給湯方法なので他の者は手伝いができないこともあって、湯船に浸かるための待ち時間がちょっと減る、くらいの理由では皆要求してこないようだ。

 結局手段を確保してからの再提案になるだろう。

 

 

 他に何か希望はないかと聞いてみても、恵まれすぎていて思いつかないのだとか。

 期間が長ければ欲求も増してくるだろうと、気長に待ってみるしかなさそうだ。

 

 変わったことといえば、前にも聞いたが、この家に来てから肌艶が良くなったと口々に語っている。

 特にシャオクは顕著で、改めて見てみると出会った頃より年齢相応というか見た目通りというか、幼いくらいの柔肌に見える。

 アコルトと違って、うちの子になるまでの手入れの違い、にしたって回復度合いが段違いだ。

 

 皆に日々過剰なまでに回復スキルをかけているからか、迷宮食材を食べていることなのか、これまた迷宮素材を使った石鹸が効果をもたらしているのか知らないが、装備の手入れだけでなく人体にも良い影響を与えている可能性が高そうだ。

 

 まじまじと見つめたり、腕をとって撫でたりしていると、生唾を飲み込むように見つめ返されたので、なんだかいけないことをしていた気がして、急いで片付けて寝室へと戻った。

 そんな気はないんだけど、実際というか文字通り侍らせているわけで、端から見たらどう思われているんだろうか。

 いや、でも、フェルスお姉様も周囲を女性で固めてたし。

 

 悶々としそうな時は早寝に限る。

 明日もまた迷宮の予定だ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 1つ上の28階層の魔物は、ロックバードだと聞いた。

 弱点属性はなく、土耐性をもっているらしい。

 植物特効と火属性弱点のハーフハーブの27階層と比べると、一気に戦闘時間が延びることになる。

 弱点無しの面倒さはミノたち相手で身を以て知っているので、27階層でレベルを上げてから一気に突破したほうがいいだろう。

 

 朝食を終えてシャッキリとしてきた頭でそんな風に考え、皆に共有する。

 戦闘経験のあるセナクロワからしても、飛行しつつ魔法を撃ってくるというのはなかなか難敵らしい。

 原典でも同ランク帯では、ドラゴンに次いで強敵の部類だと述べられていたと思う。

 

 そういえば彼がロックバードを相手していた頃は、雷魔法を使いこなしていたな。

 魔物の出現階層は違うが、自分も魔道士のジョブを得て肖(あやか)りたい。

 

 

 

 雑事を済ませて装備を整える際に、風切りの鋼鉄剣をセナクロワに渡した。

 彼女の普段使いとなった長剣より少し短いそれは、昨日伝えた魔剣士のジョブ取得のために利用する。

 

 そのまま外に出て家の裏の雑木林へと向かい、何本か太めの枝を拾ってきて、開けた場所で地面に突き立てた。

 呪文を確認し、実戦前のテスト使用といこう。

 

 

 

 「───コホン。

 では、いくであります!

 呼びかけたるは我が翼、仰ぎ迎える剣の義気、飄散(ひょうさん)、疾風剣!」

 

 

 呪文を唱え始めたセナクロワの足元に魔法陣が出現し、詠唱完了と同時に鋼鉄の刀身を不可視の風が覆う。

 つられて巻き上げられた砂埃が、周囲を回転して散っていった。

 

 セナクロワは焦らず、疾風を宿した剣を構えて動きを確認する。

 効果時間の確認らしい。

 

 やがて風を切る音が収まったところで、小さく頷いたセナクロワがこちらに向き直る。

 

 

「なるほど。

 呪文を唱えつつ敵に近寄り、スキルを放つ余裕はあるでありますな」

 

 

 おおよその取得条件的に、それが本来想定された使い方のようだしな。

 判定や回数とか細かいところがイマイチわからないが、自分と似たような行動をすればたぶんいけるだろう。

 そうであってほしい。

 

 その後も何回かスキルと動きの確認をして、彼女自身も問題なさそうだと判断したところで迷宮へと移動する。

 その際には、出番が来るまで鋼鉄剣を預かり、ミスリルロングソードに持ち替えてもらった。

 

 

 

 やってきたのはシームの迷宮7階層、メインの魔物はミノの階層だ。

 前回自分が検証したのと同じ条件ということで、人気階層だがここを選ぶことにした。

 

 一つ上の8階層でコボルトケンプファーを相手にするということも考えたが、風属性は弱点でもあるし、色々と条件を揃えるのが面倒だからだ。

 前回のような過剰な敵の回復さえ控えれば、無理なく済ませられるはずである。

 

 途中の小部屋にダンジョンウォークで移動し、ボス部屋に向かって進むことにする。

 早い時間でも他のパーティーがいるが、圧倒的な殲滅速度で接触する前に進路を変更することで、スムーズに待機部屋へと辿り着いた。

 

 一旦、パラレルジョブの英雄を外しておく。

 腕力補正はセナクロワ自身の剣士と、シャオクの鍛冶師しかないから、このレベル差でも一撃ということはないだろう。

 

 先にいた2パーティーのボス戦の間にポイント調整や相談を終え、自分たちの番になったのでボス部屋へと足を踏み入れる。

 

 

 

ハチノス Lv7

 

 

 晴れた煙から顔を覗かせたのは、いかつい顔の牛だ。

 まずは博徒の状態異常耐性ダウンを発動し、ミーラスカの大盾で進路を塞いでもらう。

 

 隙間からペチペチとアコルトが鞭を打ち込み、シャオクとセナクロワも武器でツンツンと突付いた。

 自分はその間、セットしておいた僧侶の手当てをボスを指定して使用する。

 

 そのまま続けていると、ピシリと魔物が動かなくなったので陣形を解く。

 

 

「じゃあ、手筈通りにお願い」

「承知したであります」

 

 

 取り替えた剣の握りを確かめ、深呼吸したセナクロワが石化したハチノスを見据えた。

 距離を詰め、立ち位置を調整して、渡しておいた強壮丸を幾つか片手に忍ばせる。

 

 

「呼びかけたるは我が翼、仰ぎ迎える剣の義気、飄散、疾風剣!

 ───刀刃(かたなば)の、幾多(いくた)強者の勇み立ち、纏(まと)えこの一薙ぎに、スラッシュ!」

 

 

 続け様に詠唱したスキルで、風を纏った剣がハチノスを一閃する。

 スキルの終わりから流れるように切り返し、さらに切り上げて、最後に両手で柄を握って振り下ろす。

 それが当たった直後に風の音が収まったので、疾風剣のエフェクトが終わったらしい。

 

 同じ攻撃するのでも、腕に覚えがあればオーバーホエルミングを使わずにこの回数が効果時間に収まるのか。

 訓練や実戦を続けてきた者と、武器を持っただけの者の差を痛感する。

 時間の把握やタイミングというのは、技術なのだ。

 

 一連の動作中に持っていた丸薬を飲み込んだようで、次のセットに挑むと言いながらセナクロワが薬袋を取り出していた。

 

 

 硬化したハチノスを相手に2セット目に入る時には、半分武芸鑑賞のようになりつつも、パラレルジョブを腕力補正のあるジョブで埋めていく。

 英雄、剣士に賞金稼ぎ、魔剣士と農夫もつけて、ミーラスカのジョブも闘士にしてみたり。

 

 自分の時は腕力重視にしなかったことや、手当ての回数が多かったことも災いして長引いたが、今回はそれよりは少なそうな回数でケリがついた。

 

 煙が散って革が残されたが、セナクロワのジョブには魔剣士は増えていなかった。

 ……まだ剣士はLv29だったので。

 

 

 装備をし直してボーナスポイントを調整しつつ、セナクロワの息を整えてもらう。

 普通、こんなにスキルを乱発しながら戦うことはないからな。

 回復しながらといえど、いや回復しながらのせいもあって、メンタルの乱高下というのは訓練していても厳しいものだろう。

 

 自分はその頻度故もう慣れたというか、精神ステータスの補正も高いおかげか、MPを一気に使い果たすような真似をしなければ耐えられるようになってきた。

 僧侶のレベルが低いうちからそれを経験していたらしいミーラスカは、よく耐えていられたものだ。

 

 

 

 その後は27階層へと移動し、ハーフハーブを中心とした狩りへと移行する。

 どうにか待機部屋を見つけたいが、当てがない探索はなかなかに難しい。

 回れば回るだけ麻黄が貯まってきているので、MPが切れて継続不可能という事態には陥らないだけマシか。

 

 ハーフハーブは植物系の魔物の中でも危険度が低い気がする。

 

 遠距離攻撃もあるラブシュラブはもちろん、それなりの高さのあるニードルウッドは木なので幹や枝には堅さがあり、密集していると戦いづらかった。

 ナイーブオリーブも細枝ながら木に該当するんだろう、モンスターカードが油木であるし。

 薬草のカードが該当するハーフハーブはやはり草で、葉も鋭くないのでやはり今一つに感じる。

 

 地上に現れた時に他の魔物より比較的相手をしやすいんだろうか。

 作中では1階層や12階層、23階層といった、各ランクの初期階層の魔物が迷宮外に出てくることがあると述べられていた。

 シームの迷宮なら、近隣のルテドーナに及ばないが人の入りは悪くないだろうし、魔物が溜まり過ぎて溢れてくることもそうそうあるまい。

 迷宮を荒らしまわっているギルド未所属の魔法使いもいるしな。

 

 

 討伐自体は順調で、しかし順調だからこそ待機部屋にたどり着かないのは不安になってくる。

 昼休憩後は、最初の小部屋に戻って再スタートし、群れの有無にかかわらず片方へと向かってみたりなどしてみる。

 

 壁に手を当てて伝いながら進むという迷路の攻略法は、中央部に待機部屋があったりすると使えないし、不用意に魔物の部屋を引いたりするのが困る。

 焦っている時に限って窮地に陥りそうな予感がして、とりあえず通路の配置や目印となりそうなものや見覚えのあるなしで進むことにした。

 

 階層を上がるにつれて広くなっている迷宮の探索には、簡易でもマッピングが必要そうに思える。

 作中ではスイスイと進んでいるように見えたが、現地ならではの苦労は確実に存在しているのだ。

 一度待機部屋が見つかれば、その近隣のダンジョンウォークが可能な小部屋からのスタートができるので、そこまでのルートが不要になるというのもまたマップ作成が億劫になる要因ではある。

 

 迷宮周囲では12階層以降のそういったものを売っているのは見かけなかったなぁ。

 余裕のあるパーティーや騎士団が地図を作るにしても、大都市であるルテドーナの迷宮の方に入る人数が、つまり売る相手が多いという理由と、シームの1階層がグリーンキャタピラーで初心者向けでないからだろうか。

 2ランク目の魔物も、マーブリームにラブシュラブ、ロートルトロールという並びで、魔法に遠距離に肉弾戦と面倒な相手ばかりだしな。

 

 一応は迷宮攻略に向けて動いているはずなので、騎士団やシームラウ家に願い出れば、複製した道順の冊子なんかを売ってもらえるかもしれない。

 でもその場合は、自分たちの探索進捗や知られたくない部分が目につきそうで怖い。

 ルートも知らなかった階層を1日2日で突破しているなんてのは、どう考えたって説明つかないし、見せられるわけでもないし。

 

 ゲームだったら同じ狩場の仲間を作ったり、顔見知りを増やすことで相互扶助による戦闘の危険度の低下を狙えたりするが、知られていない分だけ好きに動ける現状を妨げる方が自分たちにはよろしくない。

 同じペースで進んでいける別パーティーなど存在しないはずだしな。

 

 

 夕食前まで探索を続けたが、結局今日も待機部屋を見つけるには至らなかった。

 

 だが進捗がなかった、というわけではない。

 一日中魔物を倒していれば、順当に経験値は得られているので少しばかりレベルもあがっている。

 それに、確認できていない通路の先もあと数本だろうという目星もついている。

 

 ボス部屋への到達は明日の楽しみにとっておこうということで、自宅へと戻ることにした。

 

 

 

 

 装備を外し、食事の準備を進め、皆揃っての夕食を食べ始める。

 煮魚と焼き魚を米と共に食べられることに感謝しながら、パーティージョブ設定にポイントを振って成果の確認だ。

 

 

セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv30

(村人6 農夫1 探索者1 戦士31 商人1 海女1 賞金稼ぎ1 騎士8 暗殺者1 屠竜士1 魔剣士1)

 

 

 セナクロワの剣士のレベルが30となり、無事に魔剣士のジョブが取得でき…………え!?

 屠殺の屠に竜で、トリュウシ、だろうか。

 なんだこのジョブは。

 

 

屠竜士

 効果  腕力小上昇 体力微上昇 器用微上昇

 スキル 対竜類強化 ガッシュ

 

 

 『対(・)竜(・)類(・)強(・)化(・)』とあるからには、ドラゴンへの特効ダメージや防御上昇なんだろうか。

 対人、対水生、対植物ときて、対竜類とは。

 魔物の種類からいえば、対虫なんかもありそうだ。

 

 それに、ラッシュやスラッシュと似たような響きのこちらは、攻撃スキルだろうか。

 

 

「屠竜士って名前のジョブを聞いたことはある?」

「トリュウシ……でありますか?」

 

 

 図書館に行ったことのあるメンバーは首を傾げ、セナクロワに視線が集まる。

 ジョブについて前に調べた時には話題に挙がらなかったので、出身の違い的にも、経歴的にもそちらに期待だ。

 

 

「セナが剣士に慣れてきたからか、候補にそういうジョブが出てきたんだ。

 名称的にはドラゴンをやっつけるみたいな意味合いなんだけど」

「ドライブドラゴンでありましたら、従騎士時代に訓練で倒していたでありますな。

 ボスのランドドラゴンの方は、騎士団長らのパーティーに加入させていただいて、ほとんど見物のように隅で対処を学んだことがあるであります」

 

 

 ジョブ自体には聞き覚えがないらしい。

 

 ドラゴンを屠るという条件だとしたら、従騎士時代、すなわち戦士のジョブの時には満たしていたはずだ。

 今ジョブが生えてきたということは、条件の一つは剣士Lv30の可能性が高い。

 剣士のレベルを満たしていても、竜種を倒したことのない自分のジョブ一覧には当然ながらその文字はない。

 いくつか条件があって、剣士をLv30まで上げることと、ドライブドラゴンの討伐がそれに含まれていそうだな。

 

 組織的に迷宮探索や訓練をする騎士団は、当然ながら戦士ジョブ派生が多く、ドラゴンを倒せる力量を持って剣士からやり直す者はなかなかいないか。

 剣士として経験を積んでいても、レベルが確認できないというのが相当ネックだな。

 戦士の騎士派生のように分かりやすい目標がないと、長年剣士のままならそのまま剣士を貫きそうだし。

 前線から引退するような頃には剣士ギルドでは再転職しないだろうし。

 

 

「御主人様、此方(こなた)は……その……」

 

 

 唇に手を当てて考え込んでいたリカヴィオラがおずおずと口を開いた。

 

 

「昔、父上が此方にお聞かせくださったのでございますが……」

 

 

 リカヴィオラの父とは、ダンシオンという名のエルフで彼女の育ての親だ。

 本名はヤトバリテという名前で、アウダニア国軍所属の冒険者だったそうなので、一般騎士であったセナクロワより情報は多く持っていてもおかしくない。

 

 

「様々なジョブの名を挙げて、『道はいくらでもある、自らのやりたいことを見つけなさい』とお話しして頂いたのでございます」

 

 

 その時は分からなかったが、こういった仕事を嗜む者もいるといくつかの仕事を例にした中に、トリュウシという響きがあったかもしれないと思い至ったようである。

 冒険者なら、多様なジョブの者をパーティーに加えることがあったはずで、それでなくとも様々な地域に赴いていただろうから、知っていてもおかしくはない。

 役職もそれなりに高かったようだし、知識として持っているのも頷ける。

 

 より南のアウダニア王国の中央部へと向かえば、もしかしたらありふれたジョブなのかもしれないしな。

 まぁ、今のところこの容姿のせいで予見できるトラブルをおしてでも、向かう理由もないので行く気はないが。

 

 

 

 食事を終えた後、入浴の前にスキルを試してみたいとセナクロワに声をかけた。

 

 ガッシュなるスキルと、スラッシュとの違いについてだ。

 屠竜士が剣士の派生であるのなら、こちらも剣(・)技(・)に(・)該(・)当(・)す(・)る(・)のではないか。

 

 そう、魔剣士ジョブの剣技指定だ。

 遊び人のように指定元ジョブとスキル設定ジョブのレベルの低い方を参照するなら、魔剣士Lv1によってスラッシュもガッシュも同じジョブ効果で放てるだろう。

 

 日も落ちてきているので早めに済ませるつもりだが、家の裏の雑木林へと向かい、太めの枯れ木を前にする。

 武器には、未だに売り損なっている妨害の鉄剣を持ってもらった。

 

 パーティージョブ設定で、セナクロワのジョブを魔剣士に設定する。

 

 

「行くであります。

 刀刃(かたなば)の、幾多(いくた)強者の勇み立ち、纏(まと)えこの一薙ぎに、スラッシュ!」

 

 

 既に使い慣れたスキルで一閃し、幹を大きく傷をつけた。

 見慣れた動きだが、威力はLv1相当なんだろう。

 魔剣士の腕力補正は微上昇で、小上昇の剣士のそれよりも落ちる。

 

 枯れ木といえど、太さのある木を切断というのは無理だった。

 

 

 続いてジョブを入れ替えて、また魔剣士に設定する。

 これで指定された剣技がリセットされただろう。

 ガッシュが剣技なら、思い浮かべれば呪文が見えてくるはずだ。

 

 スキル名を伝え、セナクロワの反応を待つ。

 

 

「……おお、浮かんできたであります!

 するどきてつの……、はた……ミテリスがわき立ち、かく……このひとさきに、ガッシュ!」

 

 

 …………不発。

 おそらく呪文の読みが違うんだろう。

 

 なんとなくそれっぽい意味を伝えてもらって、語句の読みを考えて返す。

 音の響きから漢字を当てはめ、自分が目星をつけた詠唱が、この自動翻訳を通して正しく伝わればそれが正解のはずだ。

 

 自分に見えない文字を意味と音とで当てるクイズは結構厳しいぞ。

 組織に属していて色々な詠唱呪文を聞いたことのあるセナクロワであっても、未知の文面の解読は難しい。

 

 

 

 小一時間格闘したところで、おそらくの読みが当てはまり、通じた語句の組み合わせが完成した。

 これが戦闘関連がからっきしで、変ななまりのあるリカヴィオラだったら無理だっただろう。

 

 

「……それでは続けて読み上げるであります。

 ───鋭鉄(するがね)の、破多(はた)兵(つわもの)の滾(たぎ)り立ち、隔(へだ)てこの一裂きに、ガッシュ!」

 

 

 上段から勢いよく振り下ろされた剣が、枯れ木の幹を大きく抉る。

 Lv1相当でこれなら、少しレベルを上げればかなりの威力になりそうだ。

 ただし、攻撃範囲はスラッシュより狭い。

 

 剣士の派生ジョブとして、的を絞って火力を上げたという感じか。

 狙える範囲が小さくなった分、スキルの所要時間も短くなっており、おそらくスキル後の硬直も短い。

 本来はこれに特効が乗るので、竜を屠るジョブ、ドラゴンスレイヤーの必殺の一撃という印象だな。

 

 スキルのMP消費も、ラッシュやスラッシュより若干多いように感じるらしい。

 ここぞで仕留めるための必殺技が得られたような高揚で、セナクロワも早口気味に興奮を隠しきれていない。

 

 今の威力がどうだったとか、戦闘に組み込むとこう動くとかその場で話すことに熱中していたら、しびれを切らしたアコルトたちから呼ばれてしまった。

 

 

 迷宮に行ったし、まだまだ暑い日が続いているからお風呂に入りたいよな。

 砕かれた木片を払い除け、給湯器になるために家の中へと戻った。

 

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv49
魔法使いLv49/英雄Lv45/探索者Lv49/森林保護官Lv48/遊び人Lv47/巫女Lv42
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒35 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv38

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv37

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv35

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv33

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 魔剣士Lv1



---
次回は5/25更新の暫定予定です。


追従様で名称だけが出てきていたジョブ、屠竜士を登場させました。
それと今更なんですが、拙作ではウインドウ表記で最初から統一しております。



05/19 追記
感想返信より、こちらにも載せておきます。

---
スキル呪文につきましては、原作で主人公がビーストアタックの詠唱文を言い当てた時のオマージュになります。
スキル保持者が呪文を読めずとも語句のニュアンスが分かる、という部分は原作由来です。

今回の場合では、セナクロワが読み取れる語句のニュアンスを伝えて、ミツキくんが思いつく限り音読みや訓読みや言い回しを片っ端から挙げ、自動翻訳を通して音が正常に通じれば、その部分は呪文が確定するという手法で行いました。
本人には文面が見えているわけですから、一字ずつにバラして当てはめていく形です。
---

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。