異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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019 世話

「次は魔法を撃ってみたいから、最初は離れててね」

「かしこまりました。

 近くにいるようですのですぐご案内します」

 

 

 通路を奥に進むと、程なくしてコラーゲンコーラルを見つけた。

 ワンドを握りながら、詠唱省略が詠唱短縮になっていることを確認する。

 

 

「ファイヤーボール!」

 

 

 頭上に現れた火球がまっすぐにコラーゲンコーラルへと飛んで行き、着弾した。

 ブスブスとコラーゲンコーラルを焦がしたが、まだ倒せてはいない。

 Lv12の魔法使いであっても、1撃とはいかないらしい。

 

 続けて何度か唱えてみても、魔法の種類を変えてみても、なかなか発動しない。

 再発動可能までのクールタイムというやつだろう。

 

 衝撃で少し吹っ飛んだコラーゲンコーラルが起き上がり、さっきまで居た焦げ跡のついた場所あたりまで飛び跳ねながら戻ってきた。

 

 

「ウォーターボール」

 

 

 今度は発動したようだ。

 水球の着弾でコラーゲンコーラルが転がった。

 弱点属性はなかったはずなのでダメージは同等だろうが、質量的にはウォーターボールの方が威力があるのかもしれない。

 

 少し間をおいて再度発動したファイヤーボールで、岩の魔物は煙へと変わった。

 コラーゲンコーラルLv1相手に魔法使いLv12では3発必要ということだろう。

 英雄Lv14の知力補正もあるので、本来はもっと威力が低いものだとは思うが。

 

 

「お嬢様、素晴らしいです!」

 

 

 脇に避けて観戦していたアコルトが、キラキラした目で近寄ってくる。

 狩人の件もそうだし、もしかしたら冒険譚とか英雄譚とか好きなのかもしれない。

 いや、そもそもが自分の戦っているところを初めて見せた気がする。

 

 非常識でおかしなスキルを使う小金持ちエルフ少女から、色々おかしいところはあるけどそれなりの実力者くらいには見直してくれたのだろうか。

 アコルト、頑張るからついてきてね……。

 

 

「ありがとう。

 今見てもらったように、一定の時間を空けないと次の魔法が発動しないみたいなんだ。

 同じ魔法でも違う魔法でも、連続ではダメらしい」

「魔法が発動した直後なら、お嬢様の前を横切ってもお邪魔ではないということでしょうか」

 

「うん、単体魔法ではそんな感じに思ってもらって大丈夫。

 あと何種類か見せるから、とりあえずはまた魔物を見つけて案内してほしい」

「かしこまりました」

 

 

 すぐさまアコルトが移動を開始する。

 今度は来た道を引き返して、小部屋を横切ると反対側の通路へ向かう。

 その先ではやっぱりコラーゲンコーラルが跳ねている。

 

 相当な索敵精度じゃないか?

 

 次はサンドボールとブリーズボールを使って倒したが、やはり風魔法は見にくかった。

 土魔法を先に使ったので、風に巻き上げられた砂が踊る様子が見えただけマシだったが、不可視に近い風の刃では味方を巻き込みそうで弱点以外では使いたくはないなと思った。

 

 単体魔法を見せたので、敵の出ない小部屋に戻り、壁魔法を見せることにする。

 高くまで立ち上るファイヤーウォールに驚いたようだが、飲料に使えるウォーターウォールや、物理的な壁として出せるサンドウォールには興味深そうだった。

 ブリーズウォールは危ないので、敵の足元から直接出す以外はやめたほうが良さそうだ。

 

 残りは全体魔法なので、レベル上げをするであろう明日にいくらでも見られると思うはずだとして、今日のところはここまでとした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 壁にワープゲートを開き、宿の部屋へと戻って来る。

 窓の外は日が沈んだばかりのようだ。

 

 ジャケットと履き物以外の装備品を外し、アコルトの分も預かってアイテムボックスへと仕舞った。

 階段を降りてフロントへ向かう。

 

 部屋番号を伝えると、夕食の食券代わりなのか割符を2枚持たされる。

 食堂でこれを渡せば夕食の注文ができるらしい。

 

 食堂と聞いていた隣の建物に入ってみると、半分から向こうは喧騒な酒場になっていた。

 いや、7割くらいが酒場だ。

 騒がしいあちら側に酒場の正面入口があり、宿側からも入れるようになっている、というのが正しいのだろう。

 

 静かに飲みたい人は宿側の隅の方にまばらに座っているようだ。

 アコルトに確認すると、耳がいいとは言っても周りが騒がしかろうが聞こうとしなければ気にならないので、どこでもいいそうだ。

 

 カウンターで店員に割符を見せると、料理を選ぶように言われる。

 アコルトにメニューを読んでもらうと、今日はラム肉の炙り焼きかヤギ肉の煮込みらしい。

 パンと飲み物もつくそうなので、それぞれ一つずつもらうことにした。

 なかなかアコルトは希望を言わないので、飲み物はエールにするか。

 

 店員に飲みやすい酒を聞いたら、慣れてないならミードのミルク割を勧められた。

 蜂蜜酒に牛乳なら甘くて大丈夫だろう。

 念の為持ってきた水筒の水もあるし、色々と好みを聞きながら食べることにしよう。

 頼みおわったので、人の少ない隅のテーブルに向かう。

 

 2人掛けの席なので、座るように言ったらアコルトも素直に椅子に座ってくれた。

 このまま先に座って席を取っていてくれるくらいにならないかな。

 

 ぼーっとしながら酒場を眺めている内に、店員が料理と飲み物を持って近づいてくる。

 持ってきたそのまま、ラム肉の炙り焼きのほうが自分の前に置かれた。

 追加は別料金で頼んでくれと言って、帰り際に割符を回収していった。

 

 どちらを飲もうかなと思ったが、そういえばウサギって牛乳をあげちゃダメじゃなかったっけ。

 兎人族は大丈夫なのかと焦りながら聞くと、ミルクはよく飲んでいたらしい。

 

 

「それじゃあ食べようか」

「ご一緒にいただくのですよ、ね?」

「そうそう、家族も一緒に食べるでしょ」

 

 

 待て、アコルトは家族の下を離れて奴隷になったんだった。

 地雷を踏み抜いたんじゃないのか。

 すまん、今度聞くからとりあえず今は食べよう!

 

 

「いただきます!」

「いただき、ます?」

 

「料理が食べられることに感謝、作ってくれたことに感謝ってことで……」

「いえ、ご貴族の作法でも神様に感謝の述べることがありますので、どちらかというとその手の動きの方が……」

 

 

 いただくという意味自体は通じているらしく、手を合わせる動作が気になったようだ。

 確かに合掌の由来的には、この世界の風土では通じないのかもしれない。

 

 

「これはその、自分のいた所での習わしというか、癖みたいなものなんだ。

 そこまで深い意味はないので、合わせる必要もないよ」

「では次回から試してみます」

 

 

 同じように食事しろと言ったのだから、合わせようとしてくれているのだろう。

 そういう気遣いには感謝するべきだ。

 こちらを窺いながらおずおずと料理に口をつけている。

 

 

「そういえば、苦手なものとかある?」

 

 

 アコルトは手を止めて姿勢を正し、向き直って急いで飲み込んでいる。

 しまった。

 

 

「ごめん、食べながら返事をして大丈夫。

 雑談だし、行儀も気にしないから」

「かしこまりました。

 苦手なものですと、しいて言えば虫でしょうか」

 

 

 おお、なんか女の子っぽい。

 でも、蛾だか蝶だかの魔物も居たはずだよな。

 その前に4階層がグリーンキャタピラーだったはずだ。

 

 

「なるべく早く倒すようにするけど、迷宮では相手取ってもらうこともある。

 厳しいかな?」

「あ、いえ、食事の話です。

 見たり触れたりするのは問題ありません。

 祖父に修行の際に食べさせられました」

 

 

 ソウデスカ。

 貴重なタンパク源らしいが、そんなのは関係なく御免被りたい。

 

 

「自分も虫は食べたくないから、食卓には上らないので安心してほしい。

 じゃあ好きなものは?」

「甘いもの、でしょうか……?

 奴隷になる前からでも甘味を食べる機会が少なかったので、お嬢様には感謝しきれません」

 

 

 手に持った飲み物を示しながらアコルトが答える。

 普通の料理にはコボルトスクロースはあまり使わないのだろうか。

 

 ジャムとかを作るにも大量に必要だし、保存容器の殺菌や冷蔵がしにくい環境では日持ちもしないし、嗜好品にしてはお金や手間がかかりすぎるのかもしれない。

 この場での感謝として言ったのかもしれないが、いっぱい食べさせてあげたい。

 

 その後は他愛のない会話を交えつつ、話題は道具の話になる。

 狩人の手伝いをしていたので、装備の手入れを任せてほしいということだ。

 竜革装備もホコリを取ってオリーブオイルやカメリアオイルをなじませると、長持ちするらしい。

 

 半端な現代知識では、革によっては専用のクリームでないとかえって生地を傷めるように思えたが、基本的に迷宮素材の装備は迷宮産のアイテムと相性がいいと言われているそうだ。

 料理以外にも使えるとなると、大量に買うよりは迷宮で集めたほうがいいだろう。

 

 ナイーブオリーブが出現するのは7階層と聞いた気がする。

 3体出現するギリギリの階層なので、2人でも魔法使いのレベルを上げていけば対応できるはずだ。

 明日は雑貨屋で購入し、足りなくなったら迷宮で揃えられるようにするか。

 

 

 自分に付き合わせて飲み物をおかわりしつつ食事を終え、食堂を出る。

 割ってあって度数が低いのかアコルトも別段酔ったりすることもなく、しっかりした足取りで部屋に戻る。

 

 途中でフロントでお湯をお願いしてから階段を上がったので、ベッドに腰掛けて休んでいると程なくして湯桶が届いた。

 

 そう、これから体を拭くのである。

 袖に手をかけたところで気恥ずかしくなってきたが、すでに湯を絞った手拭いを持ったアコルトがこちらを見ている。

 

 

「お嬢様、お拭きいたします」

「自分で……」

 

 

 ウサ耳が力なく倒れる。

 わかったよ、しゅんとしないでくれ。

 

 

「背中、背中をお願い。

 正面は、自分で、するから」

「かしこまりました!」

 

 

 そんなに世話がしたいのか。

 いや、お付きの奴隷にとっては仕事を取り上げられたようなものなのだろう。

 気にしなくてもいいのにな。

 

 自分で腕を拭き始めると、アコルトが背中を拭きだした。

 丁寧で優しく、手拭いの温かさが伝わってくる。

 どうやらある程度拭いたらまた絞り直してくれているようだ。

 

 のろのろと上半身を拭き終わる頃、すでにアコルトによって尻も足も指先までも拭かれ終わっていた。

 焦りつつも下腹部だけは死守して自分で拭き、なんとか終わらせる。

 

 

「次はアコだから」

「いえ、私は」

 

「アコだから」

「……はい」

 

 

 なんかもういやらしさとかではなく、この作業を終わらせようという気持ちが強い。

 自分には兄弟はいなかったけど、もしいたらこんな感じに世話をしていたのだろうか。

 

 

「お願いします、お嬢様」

 

 

 いつの間にか脱ぎ終わっていたアコルトがくるりと背中を向けた。

 自分より背が高いので、目線の正面はうなじのあたりだ。

 

 着替えのときにも見えたが、細い首の後ろには獣人らしく毛が生えている。

 だが、そこから下は尻尾以外は人間と変わりない肌色だ。

 

 うなじを手拭いで撫でるように拭き始め、肩口から背中へと流れていく。

 湯につけて絞り直しては、段々と下に降りていき、ついにしっぽにたどり着いた。

 尾骨のあたりにあるそれを掴んでみる。

 

 

「ひゃっ!」

「あ、ごめん。

 気になっちゃって……」

 

 

 毛で丸く見えていたが、芯は短く細かった。

 指で形状を確かめていたらアコルトがぷるぷるし始めたので、謝って拭く作業に戻る。

 臀部を拭いてあげていると、すでに自分で足も拭き終わっていたようだ。

 

 

「洗髪はどうしてた?」

「商館では5日おきに洗っておりました」

 

 

 5日か。

 現代人的にはちょっと間が空きすぎている。

 迷宮に入っているし、なるべく洗いたい。

 シャンプーも欲しい。

 

 

「これからも迷宮にも潜るし、なるべく毎日洗いたい。

 どんなに空いても3日、かなぁ」

 

 

 魔法はすでに取得しているし、あとは湯船付きの家があればいいのだ。

 そのための資金がまず必要だが。

 おかねもちになりたい。

 

 

「とりあえずアコの髪を洗ってみるから、その後自分も同じようにやってほしい」

「かしこまりました。

 お先にありがとうございます」

 

 

 作中であったように湯桶を椅子の上に乗せ、アコルトをベッドに寝かせた。

 桶よりもベッドの方がやや高いくらいなので、仰向けで大丈夫そうだ。

 

 首が湯桶の縁にかかるくらいまで、ベッドから頭を突き出してもらう。

 もう一つの桶から湯を足して、水位を調整して髪を浸した。

 じんわりとした温かさに、アコルトが目を瞑る。

 

 その頭を揉みほぐすように湯の中で髪を洗う。

 ウサ耳も完全に水没して水の流れに揺れているが、気持ちよさそうに落ち着いているので大丈夫なのだろう。

 しっぽの時の反省をして、耳は軽く撫でる程度にした。

 

 ひと通りすすいだので頭を水面から上げてもらい、乾いたタオルで頭を包んで上体を起こさせる。

 少し上気した顔のアコルトが艶っぽい。

 

 

「こんな感じで洗ってもらいたい。

 自分は髪が長いから大変だけど、お願いできる?」

「かしこまりました。

 お嬢様のようにできるよう努めます!」

 

 

 やる気いっぱいでスレンダーボディの胸を張っている。

 自分も先程のアコルトと同様にベッドから乗り出し、湯に頭をつけた。

 長い髪が水面に張り付き広がったが、一度沈ませると湯の中でまとまってくれた。

 

 両耳も水中にあってアコルトの声も聞こえにくい。

 見上げると、薄いとは言えど確かな膨らみが頭上にあった。

 まじまじと見つめるのは憚られて目を閉じる。

 

 …………うーん。

 それにしても控えめだったな。

 

 頭を湯が包む温かさと、アコルトの優しい手つきが気持ちいい。

 こちらに集中していれば変な考えも消えるだろう。

 しばらくは身を委ねよう。

 

 触れられている感覚がなくなったのでそっと目を開けると、ちょうどアコルトが手拭いを渡してくれるところだった。

 ベッドに体を起こしきる前に、髪の水気を落としてもらう。

 手拭いを受け取って頭頂部から前面を拭いている間に、もう一枚出してもらって後ろからも拭いてもらった。

 

 

「ありがとう。

 アコが洗うの上手で気持ちよかった」

「よかったです。

 お嬢様がお一人の時はどうなさっていたんですか?」

「どうって、……こう」

 

 

 湯桶の前に正座し、頭をつける動作をする。

 土下座だ。

 周りに手拭いを並べてやると、まるで儀式のようだ。

 

 アコルトがこらえきれずに笑った。

 聞いておいて何だそれは。

 たしかに情けない格好だけどさ。

 

 笑顔に免じて許してやろう。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv12
魔法使いLv12/英雄Lv14/探索者Lv20/僧侶Lv8
(村人5 戦士16 剣士5 商人1)


アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv3



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次回は7/21更新の予定です。

24/07/22
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